42 後始末
倉庫前は凄惨な光景が広がっている、ユッタの行った戦いにより死亡した盗賊たちの躯がそこら中に転がっているのだ。顔が潰され、心臓をえぐられ、恐怖心を顔に出したまま死んでいる、その中には頭領の姿も見受けられた。
「大丈夫ですか?服はこれで合っていますよね?」
「はい、ありがとうございます社長」
カロリーネは服を着てどうにか事なきを得たといったような様相である、彼女の傷は浅かった。どうやら古傷が残ることはありそうにないし蹴られたときについた泥も吹けば落ちそうだ。
「よく頑張ってくれました、つらい思いをさせてしまいましたね」
「そんな、事は」
「泣いてもいいですよ?私は見ませんから」
ユッタは彼女になおも優しくしていた。カロリーネは晴馬に抱き着いて背繰り上げてしまっている。でも、それは安全を確保できた証拠だ、この危機的状況をお互いに協力し解決した証拠である、その功績として少しだけあっても安寧を受けるのは当然御権利といえよう。彼女が落ち着くのには時間はかからなずすぐに平静を取り戻して状況判断に移った。
「このままではローレさんたちが危ない、すぐに救助に行きましょう!」
「そうですね、あれだけ銃声がとどろいたのに治安局が来ないとすれば援軍は望めなさそうです」
そういってすぐさまグングニールを取ったユッタは倉庫を再び施錠し、地面を蹴り上げて屋根にとびのった。
「私は連中を黙らせに行きます、貴方は治安局に通報しに行ってください」
「はい、あ、あの貴方は社長ですか?ユッタさんですか?」
「ユッタです、晴馬の転生の器として生きていますがこうやって表面に現れることもあります。貴方とは一度お話がしてみたかったんです、この騒動が終わったらもう一度お話しをしましょう」
ユッタは屋根を駆け抜けて社長室の方へといった。呆然と見ながらも、どこか熱のこもるカロリーネの視線は晴馬を追い続けた。
「すぐに治安局に行かなきゃ!」
「くそ!バリゲートなんか作りやがって!」
屋根にたむろしている盗賊たちは社長室に入れずにいた。ローレが機転を利かして窓に障害物を設けたのだ。武器を持っている者は皆必死になって破壊しようとするがいつまでたっても開けることが出来ずにいた。
「さっきまで響いていた銃声はなんだろうな、仲間なのか、それとも連中が保管所にいたのか?」
一人の盗賊がつぶやいた。
「さぁな、それよりもなぜ銃声が途絶えたのかの方が俺には気になってしょうがないよっと!」
窓に強烈な一撃が加わる、ついに詰めていたバリゲートが壊れ始めていたのだ。
「よしもうちょっと!お前、社長室のドアに待機している連中に突入の合図をしろ」
「分かった」
ほかの窓より突入してドアの方へと男は歩く、既にドアの前のバリゲートが撤去されておりいつでも数十人が突入可能だ。
「いっていいぞ!もう窓の方も開けることが出来る!」
「よし、お前ら行くぞお!」
一人の盗賊が声を上げると走り込んでドアをタックルし、ついに男たちが入って行った。
「ふん!」
しかし、そこにはローレが椅子をもって待機しており男の顔にめがけて振り下げる。男がひるんだすきにベルイーが押しのけてドアを閉めた。
「このままじゃじり貧ね、早く団長が来ればいいのだけれど」
ローレは焦りを隠しきれなくなっていった。なおも叩かれるドアを必死に抑えながら考えをめぐらすもよい考えは浮かばない、すでに窓のバリゲートの耐久は限界を迎えているし抑えようにもドアを二人がかりで押さえるのがやっとでそこまで気が回らない。せめて何か武器があればこんな蛮族ぐらい一掃できるのに。
「ん?そういえば・・・ベルイー!あんたの方だけ一度ドアを開けなさい!」
「えー!それでは中に敵が入ってきますよ?!」
「そうしなくたっていずれは入るわよ!いいから開ける!」
ベルイーは恐る恐る指示に従いドアを開けるといの一番に剣先が飛び込んできた。
「ひー!」
「よし閉めて!早く!」
勢いよく閉めようにもむこうの力が勝って閉じることが出来ずにいる。向こうは力を強め剣をドアから手だけを振り回して抑えることを妨害した。ローレはそれを見逃さず、手首を手刀で叩き落す。
「痛ってえ!」
声の主が落とした武器をすかさず拾い上げローレは剣山のようになっている剣を皆振るい落とした、ベルイーが体力の底をつき、ドアが開放されても中に入る人はいない、ローレに立ち向かうべき武器がないからだ。ただその場で凍り付く男たちにローレは容赦なしない、自ら廊下に躍り出て一人また一人と追いやるように斬り捨てた。
「私は団長程の騎士道は持ち合わせていない、丸腰でも容赦はしないわよ!」
「ローレさん窓が!」
「なっ!」
ベルイーの指す窓はバリゲートが破壊され男たちがなだれ込んでいた。ローレは慢心していたので会える。視野を狭くしてしまったことで考えを単調にしドアに詰めかける男たちに有利になっても窓の外の連中のことまで考えが回らなかったのだ。すかさず窓の方に行こうにもそれではドアの方に詰めかける盗賊どもに背中を見せることになるしかといってこのままではベルイーを守り切れない。
「ベルイー!部屋の隅に移動して!こうなったら私一人で守り切って見せる!」
ローレはベルイーを連れて部屋の一角に移動する、だがそれでも戦況が変わるわけではなかった、関止めを失った窓やドアから多くの盗賊たちが群がってきており、武器を拾って数十人が部屋を占領した。ローレの額に汗が滴る。このまま守ることは不可能だ。しかしそれが無理では自身もベルイーも守ることが出来ない。
「万事休すってこと?」
「まだあきらめるのは早いですよローレ」
窓の外から声が聞こえた。盗賊達はしらない声に疑問を感じてようやくこの部屋の人数が少ないことに気が付いた。
「一人足らねぇ!男が一人足らねぇぞ!」
しかし今行ったところで後の祭り、一発の銃声と無刃槍の連撃におびただしい犠牲を出し、今度は連中が窓を譲る番になった。一人の男が窓から入り、硝煙のにおいを引き連れてあられた。
「待たせましたね、少しカロリーネで時間がかかってしまいまして」
「団長!」
「かまうことはねぇ!こんな狭いところで長身マスケットは扱えねぇから怖くねぇぞ!」
その言葉を聞いたユッタは大層驚いた顔をした。
「ほお、私が無刃槍を所持しているにもかかわらず余裕だと?言ってくれますねぇ」
「まずい、あれをやる気だ!ベルイー伏せて!」
慌ててローレは武器を捨てベルイーと共に床に伏せる、ベルイー本人は何が起きるのか全く分からなう状況だったが刹那強烈な光に襲われて視覚すら奪われてしまった。ローレの焦った早口が聞こえる。何が始まろうというのだろうか?
「よく見ててください晴馬、これが本来のグングニールの姿、無刃槍でない弓刃鎌です」
高々と掲げる光源の中には弓のようにしなった三日月刃を持った鎖鎌の姿があった。その光から想像できる高エネルギーは発熱を帯びておりチリチリと部屋の温度を上げていた。
「すぐに部屋から出ないと・・・こんな狭いところじゃ火事になる!」
ローレは匍匐前進でベルイーを連れて出て行った。彼女はこれから起こる光景を想像し身の危険を感じたのだ。それは盗賊も同じようで、我先にとドアやほかのバリゲートを設けてある窓に殺到し出られない状況である。
「早くしねぇか!このままじゃ皆殺しだ!」
「前が痞えているんだ押し倒せ!」
盗賊たちは皆焦りながら出ようとするが、鎌の風切り音を聞いた途端静かになった。
「戦おうともせずに逃げ出すなんて、これならあの男が頭領になった理由がわかります、最後まで戦ったのはあの男しかいませんでしたからね」
男たちは返事もしない、出来るはずがない、首から上がきれいさっぱりなくなっている。伏せていたローレ達とユッタ本人を除いて生きている者はこの部屋にはいなかった。ただ、死人は皆自身が死んだことすら気づかずに死んでいたのだろう、まるで生き生きとしているその表情には死への恐怖など存在しなかったし胴体は良血の一つも見られない、まるで斬られたことを気づいていない。
「この鎌は焼き斬る鎌、切断面はやけどで流血せずに焼けただれ、一滴の血を出さずにあなた方を殺します」
「団長!御託は良いから早くしまってくださいこのままじゃ部屋がサウナになる!」
ローレの声が響き、ユッタは無刃槍へとグングニールを元に戻した。部屋は猛暑のような暑さだったのが一変し、ベルイーはくしゃみをする。その衝撃によって首なしの死骸は一斉に倒れ始めた。
「ローレ、すぐに目の前で腰を抜かしている盗賊を捕らえなさい、彼にはいろいろ聞かせてもらいます、ううう」
「団長!」
「い、いや大丈夫だローレ、元の状態に戻っただけだ、しかし、結構長丁場はつらいなぁ」
晴馬は感情の同化を解除した、過去で最も長い時間行ったのかもしれない、しかしこれ以上は精神力の限界でできなかった。立ちくらみを感じる中晴馬はすぐさま腰を抜かしている盗賊を捕らえた。盗賊は怯えてちゃんと喋ることが出来るか不安であったが本人もしゃべらなければ、いや、しゃべったとしても生かしてもらえるかハタハタ不思議である。
「なんですって?!」
ローレはこの騒動の全容を知って驚愕した。裏にいるのがまさか特使であるとは思わなかったからだ。
「いくらなんでも極端な話だ、従わないならば殺す、奇跡を信じないものも殺すとはな」
「それもそのはずよ、ここでは教会の権威はないから異端裁判を開くことは難しい、それならば暗殺しようって考えよ、しかも教会の勢力拡大に失敗しただけではない『失敗』を特使もただでは済まないわ」
「ふうむ、しかしこれを聞いてどうしたものか、盗賊連中との関係をエルロスが認めるとは思えないしこのまま逃げ出すなら僕の怒りが収まらない」
「それは同感ね、やっとこの国の学問を拡大する口実が転がっているのに逃す手はないわ」
晴馬たちが話していると駆け込んでくる足音が聞こえてきた、ドアを開けてカロリーネが飛び込んでくる。
「お待たせしました皆さん!治安局が直ぐに来ますってなんじゃこりゃあ!そこらじゅう死体まみれ!」
カロリーネは首なし、首のみ死体を見て絶叫した。晴馬は耳を手で隠して防いだがその朗報は確実に耳に入った。
「治安局がやっと来たか、とりあえず話をしてエルロスを逮捕できるか聞いてみるか・・」
そういって晴馬は外に向かって走り出した。会社前にはカロリーネが通報してかけ参じた多くの治安局の人間の騎乗する馬の列が見受けられる。皆カロリーネからの盗賊の情報を聞いて重武装の鎧と武器を持って馬でやってきたようだ。
「悪党高級幹部の晴馬様ですね?今回の事件でお話があるのですが・・・」
一人の局員が晴馬に詰めかける。
「そうか、それなら都合がいい、君たちには事件の主犯格の元へとぜひ来てもらいたいんだ。理由は今すぐ話すよ」
晴馬が説明すると治安局の人間は青ざめた。内容が内容だけに一体どうすればいいのかわからなかったからだ。
「それでは逮捕しても外交問題、逮捕しなくても問題、どうすればいいんだ!思いっきり我々の活動範囲外じゃないか!」
「わかっている、それなら別の組織に連絡してもらいたい騎士団の方に連絡だ、マンフリートならGOを出すんじゃないか?」
「騎士団とは我々の母体組織のことか?しかしながら動いてくれるとは思えないんだが・・・恐らく議会に持ち出して解決するとか」
「騎士であるにもかかわらず悪事を見逃すのか?」
局員のその話のくどさは元いた地球の公務員ぐらいのめんどくささを兼ねていた。そんなところを似せてもらっても困る。すぐにどうにかしてもらわないと。
「ううむ、これは国家間の観点からしてとても重大なことでなぁ、どうするか一度上の人間に話を聞いてもらわないと、最大限できるのは拘束して国外に出さないようにするくらいだなぁ」
「ふざけるな!僕がその上の人間、国家生産顧問兼技術顧問兼兵器工廠総責任者兼馬車屋兼その他アマーリアにあほみたいに押し付けられた役職を持っている僕にたてつくきかぁ?」
「畑が違うじゃないか、組織の上に一度報告する、その後行動するから・・」
らちが明かない、そうか、そこまで上の人間がほしいなら呼んでやろうじゃないか、疲れてるし痛いのは嫌だが仕方あるまい。
「おい!何を!」
「ふん!」
晴馬は治安局の職員からサーベルを奪うと腕を切った、おびただしい血を口に含み、職員全員にかかるように毒霧を食らわせる。
「ぐわ!何をする!」
「「それはこっちの話です!」」
連中は目の前に突如現れる女に驚きを隠せなかった。治安局と名前を変えただけで以前として騎士団の騎士であった者たちにとっては懐かしすぎる顔だった。その女は確かに彼らにとっては上司で最高指揮官で間違いない、しかしながらすでに他界したと聞いているのになぜここにいるか理解できない、どういうことだ?何が起きているというんだ?
「「私はあなたたちに一度でも悪を見逃してよいと命令したことはありませんでしたが?」」
「ゆ、ユッタ団長?なぜあなたがここにいるのですか?!」
「「一部の者にしか伝えられていないのか・・・そんなことを聞いてどうするのですか?私の命令を背いたことに偽りはないでしょう?すぐさま会社の中にいるローレを呼びなさい、これより特使のいる宿へと向かいます」」
「し、しかし」
「「早くしなさい!いつまで待たせるつもりですか?!」」
「は、はい!お前たち騎士団の旗を持ってこい!出撃だ!」
治安局の騎士たちは騒然となった、こんなことを予想できる奴がどこにいようか?急きょ生き返ったユッタを見て夢でも見ているのかと思いつつもついて行った。しかし不思議なもので彼女を先頭に行軍する自身たちはさながら昔の騎士団に戻ったような気がした。おそらく幻覚か晴馬が見せている幻術の類であろうとも、ここまで本人そっくりであったらならあば間違えられても仕方ない。
「なんだか、数年前に戻ったようだ」
「ああ、ローレ副隊長がいて、ゲラルドがよく怒られて。そして強く勇ましい団長がいる、そんなころがあったなぁ」
皆が口々に懐かしむ、勇ましい戦績と場数を超えた戦歴が彷彿とよみがえってきた。局員たちはやがて騎士である自信を再び自覚するようになり、心に熱がこもるのを感じる。団長が槍を上げれば雄たけびが上がり互いの顔が締まるのがわかる。懐かしいというよりも生々しい、自分たちはあの時代に帰ってきた。そう思う一行の目の前には例の宿が視認できるところに来た。
「「皆見なさい!あれが我々の目標地点である宿で中には例の特使がいる!我々の任務は特使を拘束し此度の騒動の責任を取らせることにあります!失敗は許されない、中には民間人もいることを忘れてはなりません」」
「おう!」
皆が返答する、こすれる鎧の金属音が高揚を生み、戦場の日々をほうふつとさせる。
「ああ~!久しぶりのこの感じ!私たちの騎士団が戻ったって感じね!」
ローレは喜んでこの光景を拝んでいた。今更騎士団を守るとか、維持しようなんて考えはしないけどこの感じは本当にあの頃に戻った気がする、守られるように戦って。守るようについていく、そんな存在が返ってきたような感じがうれしくて楽しくてしょうがない。部下、今は部下ではないけど彼らがいなかったら一人うれし泣きにしていたに違いない。それほどこの光景を待ち焦がれていたのだ。
「「先頭は私が切ります。皆計画通り行動し民間人を守るのです!はぁっ!」」
馬の腹を蹴り、ユッタは我先にとかけてい行く、それについてゆく騎兵は皆鬼相の面持ちで挑んでゆく歴戦の勇士行ったところで、まずユッタが槍を宿の壁に突き刺すと梯子代わりにそれを伝って屋根に飛び移り、あらかじめ仕入れた情報でエルロスが滞在する部屋の窓まで行きこじ開ける中にはエルロスと女がベットに寝ていたが、それに気づくと首にかけた笛を吹き、従者を呼び寄せた。
「なんなのだ?!」
エルロスは自身が置かれた状況を理解できずにいた、ただ、目の前に晴馬がいるということは計画が失敗したことを意味する、まずい、しかし想定内だ。
「ここで終わってなるものか!私はエルロス、ここの大司教になる男だ!」
「「残念でしたね、その野望打ち砕いて見せます!」」
「曲者だ殺せ!」
従者は皆杖を携帯して応戦しようと構える。
「「パラディンとして戦うウォーリアセージですか、面倒な連中ですね」」
魔法を使える騎士がパラディン、研究者がセージだ、しかしながらこれは単純な分類で実際は多くの分類が設けられている。ウォーリアセージはその名の通り普段は従者や研究者として暮らし、有事の際は戦うセージを指す。特徴は火、水、木、土、などといった基本的な魔法を扱い戦いに不向きな能力を持っていない。それ故に強力で強靭だ。
「我が赤霧の教会に狼藉を働くなどは時差らずな男だ、名前は何という?」
従者は晴馬に名前を聞いた、しかし語らない、なぜなら今はユッタだから、ゲスに教えるななどないからだ。
「うおおお!」
ドアがけ破られる、おびただしい騎兵の唸り声が部屋にとどろき従者を組み伏せ部屋を完全に制圧した。杖がないと魔法が使えない彼らにとって武術は意外なもう点であり弱点だ、まだ戦いと呼べるものすら始まっていないにもかかわらず、彼らの抵抗はむなしく終わり拘束されてしまった。それから宿は一般人立ち入り禁止にされエルロスの部屋で尋問は行われることとなった。尋問官は晴馬とローレが行うこととなり、のちに合流したカロリーネが記録係に任命される。
「わかっているのか?私を殺せば戦争になるぞ!」
エルロスは拘束されながらも態度を変えようとはせず、又、自身の役職と国家間の駆け引きを持ち込もうとした。だが、それはこちらも同じことと言わんばかりに槍で床を叩く。
「それを言うなら僕は悪党幹部だぞ?あの会社は僕の権益で成り立っているが事実上の国家の兵器工廠だ、そこを攻撃し、挙句に幹部を殺したというならそれは戦争の大義名分を与えたようなものだ」
「だから知らんと言ってるだろう?そいつらがなぜ私の名前を知っているのかは知らないがそいつらとは関係はない」
「てめぇ!」
晴馬は強い怒りを感じエルロスの胸倉をつかんだがそれ以上が出来ない、やはりわかっていたとはいえ逃げるのは当然だ、それならばどうするか?こいつを気分転換に殺すのも悪くないがそれならこいつと同種の人間になっちまう、どうすればこいつの口を割らせることが出来るんだ!
「晴馬、私を忘れているんじゃない?」
ローレは得意そうに言った。それを聞いた晴馬ははっとする。
「そうか!以前お世話になったからね、ローレの能力はよく理解しているよ」
ローレはエルロスに近づき顔を覗き込む。
「一つ言わせてもらうわ、言質は聖職者で当ても逃れられない正統なものであることは疑いようがない、そうよね?」
「それがどうした?」
「貴方への尋問は記録して、真実をそのままはいてもらうわ、のちの自分を後悔するのね」
ローレの尋問が始まった、晴馬はその間ずっと顔を伏せている女に気が付いた。女はずっとベットに寝て枕に顔をうずめている。
「娼婦か?もういなくていいから帰りなさい」
しかしいつまでたっても顔をうずめたままでいた。そうすると今度は怪しい存在だ、一体なぜそのようなことをするのかひょっとするとエルロスの件で因果関係があるのかもしれない。
「どうした?場合によってはお前も逮捕するけど」
「・・・」
「それとも、何か人には見せたくないものがあるの?例えば獣目であるとか」
「!」
女が反応した、え?あてずっぽで言っただけなんだけどまじでそうなの?カンビオンなの?不味いな、赤霧の教会の信者が騎士団には多い、これはあまりいただけない内容だ。ひとまず晴馬はユッタと作戦会議をすることにした。
「「私から言って聞かせます、それよりもなぜここに彼女がいるかを究明するべきです、ここいらにリリスがいないのにカンビオンがいるのはおかしい話です、この男に連れてこられたのかも」」
「まだカンビオンと決まってわけじゃない、ほかの獣目の種族かも」
「・・・ッ」
「なぁ、僕はこれでもそれ相応に理解がある方だ、早く出るのであればことを荒立てることもない、どうだ?お互いメリットがあるだろう?」
「・・・仮にそうしたって、私たちはまた荒野をさまようだけ、今のように定住できる方がましよ」
「不法滞在はいただけないなぁ、それよりも君が棲めそうな理想郷を知っているんだ、そこに行かないか?」
晴馬はそういって彼女に説得を続けるとエルロスの叫びを聞いた、尋問の経過を見ようとみてみるとエルロスは泣いていた。カロリーネは今までに見せたことのない早さで執筆をしている聞き出した情報量は相当なものであることがうかがえる。どうやら何もかも洗いざらいはいたらしい、仕事が終わったとローレも満足げだ。
「ふう、事態は想像以上に悪質ね」
「どういうことだローレ、何が起きたっていうんだ?」
「何もかもが起きているというべきよ、私が案内するから騎士団ではなく治安局として部下たちを呼んできてちょうだい」
「カロリーネ、頼む」
カロリーネは尋問の記録をもって部屋を出る、そこには拘束された従者とエルロスが泣く声しか聞こえなかった。
「う、うううう」
「無様だねエルロス、マスケット製造を禁じるなんて国家承認の条件に入れなければこんなことにはならなかったのに」
「くそ、糞、私は、私はやっとの転機に恵まれここまで遠路はるばる来たっていうのに」
「何が遠路はるばるよ!あんたなんか教会なんて関係ない私利私欲を肥やすためだけに来たんじゃないの!」
ローレが怒りをあらわにしてエルロスを蹴り倒す、従者はそれに一言言おうと思ったが、状況からして命の保証はないと思い何もしなかった。
「どういうことだいローレ?」
「そのままの意味よハルマ、あんたにも治安局の連中と共に案内してあげるわ、此の男があの盗賊どもと何をしたかったのか」
ローレはそう言うとベットにうつ伏せで寝ている例の女に近づいた。
「この国はアマーリア様が指導する国家よ、ここではモンスターは地位が存在しないけど、人間にも階級はない。あんたが何者でも自由に暮らせるわ」
「そんなこと言って!私たちはいつも騙される!ユーヒリアに行ってもそう、赤霧の教会に行ってもどこでもみんなに奪われた!挙句に奴隷商人に連れてこられてまだそんなことが言えるの?!」
女は枕越しに訴えた。それを聞いたローレはたじろいだが考えさせられたのか言葉を失った。彼女がどういう存在かを知っているローレとおおよそ見当がついている晴馬にとってはその言葉の真意をよく理解できたのだ。
「わかるよその気持ち、でもそれでも信じてほしい、この町に流れる連中はみんなそんな奴らばかりだから、君を虐げるような人は現れない」
「それでも!私たちと人間では余りにも偏見の差が大きくてまともには生きていけいわ!」
「そうかな?アウタースレーブもまともにいきれている、君ならできるよ」
その言葉に反応した女は枕から顔を離して晴馬に顔を向ける、晴馬は笑っていた。そして自分を指さした。
「僕も順風満帆じゃなかった、ここまで来るのに多くの犠牲を作り、そして与えてきた。でも、今はこうして生きていけている、君にもできるよ」
「・・・本当?」
「うん、僕が出来たんだから」
彼女の獣目はかすかな希望に揺らいでいた、恐らくは人間に対する最後の期待を表現しているように見える、しかしそれにこたえる晴馬の目は彼女からそれることはなかった。
「なら私の仲間も助けて、それが出来たらあなたを信頼するわ」
「ん?仲間?」
「ハルマ、そこからは私が補足するわ、さぁ、治安局の連中と一緒に行くわよ」
ローレの言う真実を知るのは早かった、それはこの宿の地下室にあったのだ。入口には多くの酒樽が所せましと並んでいるがその一角がはたかも隠し扉のようになっており誰もが入れるような状態ではなかった。まるで何かを隠したいかのような構造に思わず晴馬は息をのむ。この時点で宿とエルロスたちはグルであったことがうかがえるしこの街の腐敗具合もよく分かった。治安局の連中も自身の捜査能力の低さに腹を立てたに違いない。
「アマーリアすら見抜けなかったなんて、いろいろと見直す必要があるね」
「そうでしょう?だけど驚くのはまだ早いわ、ここにあるのはみーんなこの国では非業である物よ、密造した酒、登録していない商人、重罪である人身売買のバイヤーとの関係」
「そしてこれか・・・」
晴馬は地下室の一角に広がる光景に自身の過去を映し出し強く手を握っていた。エルロスが行おうとしたことへの嫌悪感は有頂天に上り、すぐにでも殺してやりたかった。だってこの一室にはカンビオンが鎖でつながれて、一枚布のような服で薄暗い部屋に押し込められていたのだ。その数は80人ほどではあるがどうも帳簿のようなものからは既に小規模な商売が展開されていることがわかっている。
「気持ちはわかるわ、でもこらえて頂戴、少なくとも国益をそぐ時点で犯罪者として成立するから身柄拘束は間違いない、後は司教領との交渉に入るほかないわね」
「まったくなんて奴だ。エルロスは特使ではなく犯罪者として即刻処刑にするべきだ!」
「そうね、言質も取れたから大々的に発表すれば司教領も何も言わないでしょう、後は司教領がどう出るか、信じるか信じないか、少なくとも議会はこの情報を聞いて大揺れしているでしょうね」
「ああ、緊急会議が開かれていると聞いているよ」
エルロスや従者達は治安局とかした騎士団によって連行された。少なくとも裁判又は議会の動向が動くまで国外には出る事ができないであろう。しかしなんだこのやるせなさは、こんな終わり方でいいのか?エルロスを宿から見送った晴馬は一人眺めながら考えた。彼はこんな末路を望んではいなかった、もっと勧善懲悪な最期を飾ってやろうと思ったのに。
「僕としてはすぐにでもエルロスを殺してやりたい、なんだこの気分は?」
「「確かに、あまりいい気分にはなれませんね」」
ユッタもそれには同意らしい、しかし彼女は其れよりももっと恐ろしく考えていることがあった。
「「赤霧の教会はもみ消さないでしょうか?こんな大失態があるとわかれば全力で抹消するはずですけど」」
「知ったことか、少なくとも情報は隠せても特使の拘束が露営を起こす、いずれはまた司教領の人間がまた来ることになるだろうが、この事実を発表すればこの地域での教会への崇拝はおそらく激減するだろうから司教区を作る計画はおじゃんだな」
「「彼女らはどうします?」」
ユッタの言う彼女たちとはカンビオン達である、晴馬に言われて最後の希望を感じ、先ほどから晴馬を見つめている。
「結局この事件で赤霧の教会との確執が生まれている、奴らが二度と踏み入れないようにするためにも彼女たちの棲み処を作るのはそういった効果がある」
「「つまり?」」
「ここにウーダンカーク流赤霧の教会を建設するいい案があるんだ」




