40 悪魔の証明
「僕はあの男にスゴイ不満があるぞ」
晴馬は会社に戻ってからとてもご立腹であった。会議の結果は平行線で終わる始末だし何より司教領からの国家承認の条件には自らの会社が手掛ける武器の製造を中止しろとの提案があったからだ、しかしそれを除けば非常に低い壁であるのは納得のいく限りであるし国として認められるのはこれが最後のチャンスであることも晴馬には理解できることであった。
「仕方ないじゃないですか、議会の方は銃の製造規制に関してはむしろ良好的であったし国教にすることに関しては抵抗すら感じられなかったですよ?」
カロリーネの冷静な判断がさく裂するも晴馬には納得のいく話ではない。ムッとした顔で社長の机に座りどうしてやろうかと考えている。
「そもそも黒色火薬が悪魔の作ったものって連中は言っているけど利用しているのは人間じゃないか、悪魔だって使ってくださいとは言っていないぞ」
「そんなことを特使に言ったらマジ切れされて交渉の余地がありませんから絶対に言わないでくださいよ、連中の頭は硬いですからね~」
カロリーネはそういいながらフェリシーの淹れてくれた紅茶をすすって休憩をする。しかしこの社長室でそんな暢気な雰囲気を出しているのは事態がまったくわからないフェリシーと彼女ぐらいで、焦りを隠せないローレや技師のベルイーはカタカタと貧乏ゆすりを続けていた。
「そもそも国教になるっていうのがどれほど危険なことか議会の連中は全く理解していないのよ、それで迫害を受けた学者や技術者がどれほどいると思っているの?フェリシー!もう一杯」
「そうでなくてもマスケット生産を禁止されたんじゃ僕のきた意味がないじゃないか・・・」
「はいローレ様、ベルイー様は紅茶はいりませんか?」
「あ、結構です」
フェリシーは甲斐甲斐しく皆に紅茶や菓子をふるまっている、現在最も消費している晴馬はこれで6杯目、もはやフェリシーの動かす手がしびれ始めている。
「ハイハルマ様、新しく淹れました」
「ング、お代わり」
「あわわ、ペースを遅くするために熱いのを淹れたのに・・・」
「ともかく、このままでは私たちにとっては危機的なことに変わりはないわ、すぐに対策を打ちましょう」
「そうだな、カロリーネは良い対策あるか?」
カロリーネは渋い顔をした。ただそれは無いといいたいのではなく果たしてしていいのかというような顔であった。
「そうですねぇ、こういうのは直接聞いた方がいいのではないでしょうか?例えばその悪魔の作ったものである証明を向こうに聞いて、無いと言われれば無視して生産とか」
「それよ!そうすれば教会の径協力が弱まり国教としての疑問が出るわ!」
ローレはその案にすごい食いつきを見せた。しかし案を出したカロリーネは余り乗り気ではない。
「いやぁ、それをはたしてしていいものなのかと、これが何か余計な外交問題になったら」
「それではいくらたっても問題解決はないわ!多少の過失ぐらいはむしろ甘んじて受け入れるべきよ!」
「それのせいでうちは会社の経営にかかわる問題が・・・」
「カロリーネ、僕は決めたぞ、こうなったら奴らに悪魔の作ったものであるという証明をしてもらおうじゃないか。会社のマスケットというマスケットを持ってきてくれ、すぐに準備するぞ!」
「えぇ、それよりもアマーリア様から新しく作って貰いたいものの依頼が来ていますからそれの始末から・・・」
「何を言っているんだ会社の主力商品がなくなろうとしているんだぞ!そんなことは後回しだ!」
「上の指示をそんなことって言いますねぇ」
晴馬は会社に保存してあるマスケットと弾、火薬、をいくつか持って外に出る。カロリーネは何とか言いながら胸騒ぎがした。特使の言う悪魔のつくったものである理由がもし本当にあるにであればわが会社始まって以来の未曽有の危機に陥るのではないかと思い。社長の後をついていこうとしたのだ。そこにローレがお祭り騒ぎに乗じる野次馬のように、命中力に自信があるマスケット技師は自分のマスケットをもって皆が皆思い思いに例の男が止まる宿へと足をはこんでいったのだ。
「また、私はお留守番ですか?」
フェリシーはそれを眺め、最近全く話さない晴馬に少し不満を感じながら一行に遅れてついていいった。
「生臭ボウズとはよく言ったものだなぁ、これならいくら儲かるかわかったものではない」
エルロスはいやらしい下卑た笑いを宿で大いに発揮する、中央の目の届かないこの地域ではどのようなビジネスチャンスも非合法な物まで幅広く展開できることを彼はしっていたのだ。その想像する巨額な金が動くその市場をどう操作するかがこのエルロスの想像する最もたる目的であった。
「すでに近隣のグリーフラント貴族・領主・領邦とのパイプはできておりやずぜ、この調子なら買い手に事欠くことはまずないかと」
エルロスが話すこの男はまず言って聖職者とは対照的な男であることは変わりない。みすぼらしい服装に向こう傷のある顔、毛皮をまとったこの男は盗賊の頭領であった。
「それでどれほどの人員を扱えるんで?」
頭領はエルロスに尋ねた。エルロスは立ち上がって宿の地下へと頭領を案内する。薄暗い部屋に充ち溢れんばかりのそれを見た頭領は思わずよだれが滴った。
「初動でこんなにですかい!?全くあんたには叶わねぇなぁ!」
「しかしこれを扱えるのは私がここいらの大司教になったらの話であってだな・・・」
「ひひひ、そんなこと言ってもうあと一押しであることに間違いはないでしょう?俺は馬鹿だからよくわかりやせんが連中、旦那の提案に悪党どもは眉唾ものだとか聞いてますぜ?」
「まぁな、ただ、ここには我が教会の教えから逃げてきた学者を統べる女や悪魔の賜物であるマスケットを販売する男が悪党の幹部を仕切っている、そいつらを黙らせないことには大司教の道は遠い、そこに関しては頼んだぞ?」
「ええ、任せてくダサいよ、悪党が仕切っているとはいえこの町の治安はいまだ低迷、犯罪の絶えなさは指おりですぜ?治安局のぬるい監視をすり抜けてすぐにでも暗殺して見せやす」
頭領とエルロスは密談で繰り広げられる夢物語に大いに沸いたが、それに水を差すように一人の聖職者が急いで二人の元に現れた。
「大変です特使!何やら外で例の男と女が宿の前で特使の面前を要求しています!」
「チ、こちらが盛り上がれば向こうで盛り上がる、すぐに行くと伝えろ、いいか頭領、奴隷商人の配備と密造酒を限りなく秘匿し、露営させるな、法整備が間になっていないとはいえ、赤霧の教会は奴隷貿易を異教徒の異端行為であるとしている。ばれれば私の命も赤霧の教会のメンツも丸つぶれだからな」
「わかってますぜ、幸運を」
エルロスは宿から出て晴馬に対峙する。晴馬には用があったら来るといいといったのは自分だが、まさか軍を連れてくるなんて想像できなかった。40近い何とも珍妙な緑を基調としたポッケの多い軍服を身にまとう連中を見たときに自分を殺せば戦争になると言ってやりたかったがどうやら様子が違う、治安局に武器集合罪で検挙されそうになっているところを許可証を提示しているだけのようで軍は全く関係なさそうだ。
「それじゃあ気を付けてくださいよハルマさん、自分たちはたとえ官僚であろうとも逮捕する義務がありますから」
「ああ、すまないな」
「なかなかの賑わいじゃないか、いったい何を催すつもりだね?」
エルロスは皮肉交じりな言い分で晴馬に近づいて行った。晴馬はそれを見るや何も言わず容赦なくマスケットを空に発砲した。
「おう!」
従者がびっくりしたようで転んでしまった。
「街での発砲許可は出していない!」
治安局の男もサーベルを抜く勢いだ。しかしカロリーネがそれを阻止すべく勢いよく書類を男の顔にこすりつけ、否応を言わせず許可させた。晴馬は出鼻をくじいたが話の主導権を無理やり自分の方へ持っていき、悪党の野蛮さと普通の連中ではないことをアピールするとエルロスに笑って見せた。
「教えてくれないか?この便利な道具のどこに悪魔の作ったものが備わっているのか」
「貴様・・・いいだろう、私も実はそういうんじゃないかと思い、あるものを用意した。マスケットを撃っても人に当たらない場所に行き、悪魔の産物たる理由を見せてあげよう」
エルロスは原っぱに悪党たちを集めた。そこには用意したと思われる的があり、晴馬たちのマスケットを見てにやりと笑った。
「まず言って悪魔の武器は教会の実験によって証明されたことを忘れてもらっては困る。これは科学的根拠に基づいて行われているのだ」
「科学的って言葉を嫌ってる連中が言うとなんだか信用できないわね」
ローレはつぶやく。ハルマは科学の国家で生まれた者としてどれほどのものか興味があった。
「神は悪魔などを許すことはない、ゆえに教会が神のご加護を受けている間は悪魔に屈しないということだ、銃は悪魔が殺したい人間に標準を向けることで命中率を上げる」
「説明が不足している、これから何をしようっていうんだ?」
「あの的に貴様らが用意したマスケット銃を撃ってみろ、初めは標準の鉛球を、そしてそのあとに加護を受けた銀の弾を撃つ、加護を受けていない鉛球は的に当たるが、加護を受けた銀の弾は絶対に当たらないだろう」
「なるほど、どういうことだろう?ともかく命中力を競うのであれば施条銃に勝てるものはない、ベルイー、さっそく準備してくれ」
「わかりました技師ハルマ」
ハルマはエルロスの言う科学に酷く失望を感じたが、その説明するときの自信の表れに注目した。ともかく見てみないことにはどうしようもない、まずは見てみるとするか。ハルマは公平を期すためにフェリシーに銃を持たせて実験をしようとしたが、フェリシーはこの歳まで銃など持ったことすらないようで、ひどく恐怖し、的など狙えるような状態ではなかった。
「ひいい!怖い怖い!」
「えぇ、人に狙うわけじゃないんだ、もっと肩の力を抜いて・・・」
「ひええ!ハルマ様近づかないで!あ」
晴馬は聴力を失ったかと思った。状況を判断しようにも何も聞こえなかったからだ。つまり、耳元でフェリシーは発砲したのだ。
「あ、ああ」
「「落ち着いてハルマ、リラックスリラックス」」
ユッタの言葉が心に響く、大丈夫、僕は生きている、幸い五体も失っていないようだ。
「「そうそう、ここは戦場じゃありません、静かに、冷静になって」」
「オッケーユッタ、助かった」
「晴馬様!」
フェリシーはマスケットを捨てて転んだ晴馬の元へ向かう。は落ち着いた晴馬は我に返るのも早かった。
「大丈夫だフェリシー、それよりも・・・あっぶねえなおい!」
遅い反応に見えるが、むしろ早い方であろう。
「社長、血が出てますよ」
肩を触った晴馬に驚いたフェリシーは驚き、銃をぶん回して晴馬の頬を擦れるように弾を発射した。晴馬の後ろに誰もいなかったから良かったもののこれでは的を狙うのはとてもできそうにない。腰を抜かした晴馬をカロリーネがやれやれと立たせると、手前のハンカチで晴馬の流血を抑えた。どうでもいいがこれを圧迫止血法という。
「ありがとうカロリーネ」
「べ、別に感謝されるようなことでは・・・」
「本当にごめんなさいハルマ様、でも本当に怖くて・・・」
余りの悪戦苦闘ぶりに晴馬は思わず目を瞑った。これでは何もできないし始められないではないか。それはエルロスも同じで思わずため息を出していた。
「これでは話にならないなハルマ、公平に影響が出るが仕方ない。私の従者を使って行おうとしようじゃないか」
選手交代により従者が鉛球を爆音とともに放った。それは誰もが想像する通りに的に命中し、普通と言わざるを得ない結果であった。晴馬は弾道学という物に振れたことはないが流体力学と高空力学に一定の知識があったため。予想通りと言わざるを得ないと評価した。
「これは普通の結果、しかし、この加護を受けた弾は違うぞ」
エルロスは自信ありげに行ってみる。晴馬はその言葉に興味はないが、この結果がどうも気になって仕方がなかった、晴馬は工業高校の機械科卒業生である。多くの機械科の人間はわかると思うがこの学科は工作機械である旋盤やボール盤、鋳造鍛造、をはじめとする基本的な金属加工の方法を学び、材料力学という部品などにかかる応力や現象を座学で学び、内燃機関などのエンジン(原動機)の基礎を学ぶ、最後には金属の特性をあほみたいに学ぶ学科だ。つまり一定の金属特性を晴馬は理解していたのである。
「なんだか胡散臭いですねぇ、魔法で細工しているんじゃないですか?」
カロリーネはそういいなっがら興味のない証である欠伸を披露した。
「いいや、多分当たらない理由は銀という金属にあるんじゃないか?」
「どういうことです?」
カロリーネは流し目で晴馬に質問するが、晴馬は鈍い反応であった。
「これを説明するには・・・少なくとも破壊試験機が必要だ、あれがあれば、数字で金属の特性を教えることが出来るのに・・・」
説明すると一万字を軽く消化するので割愛、ハルマ残念だったな、それは19世紀に発明されることになる。文明が15世紀前後の異世界では不可能だ。
「まず言っておくハルマ、この奇蹟を体験した場合、お前は自身の罪深さを知ることになるが・・・それでもなお、武器を生産することをやめないか?冷静になって考えてみろ、それが宗教を抜いたとしてもどれほど人々を苦しめるか」
「苦しめる?銃が人を苦しめるっていうのか?」
「ああ、武器を使うのは人間かもしれんが、武器は、殺しにしか使えないからな」
すると晴馬は思いっきり笑い始めた。腹を抱えて笑った晴馬はさぞおかしく見えたのだろう。カロリーネ含め皆が何に笑っているのかわからなかった。
「ははは、は~、いいジョークだエルロス、僕が作るものは確かに殺しの道具だが、それがある日突然人を殺し始めたと?僕をあの市場で苦しめていた連中は誰一人武器なんて持っていなかった、」
「何の話をしているんだ?」
「いいか?人間の邪悪さに比べれば、武器なんてかわいいものよ、本当の武器は、人間の執念深き殺しへの執着にあるんだからな!それを既存の武器に擦り付けようとしている時点で考えが浅いんだよ!」
「ぐぬう、話を逸らすな!鉄砲を見るんだ」
言われた通り晴馬はマスケットの先を見た。従者は鋭い視線で照星をにらみ、引き金に指を添えた。そして、放った。黒色火薬特有の盛大な硝煙は弾の行方をくらませたが、的を見れば一目瞭然。弾は当たりはしなかった。鉛球の当たった穴以外、的には確認できない。
「うそでしょ・・・そんな」
ローレは信じられないというような言いぶりで口を覆った。
「僕の銃が外れるわけがない・・・もう一回撃ってみろ!」
ベルイーはプライドを傷つけられたようなものだった。威信をかけて持ってきた命中精度を誇る施条銃がこのような結果を出すはずがないと気が気ではなかった。
「いいだろう、ごもっとも何度もやっても同じだが」
エルロスがそういって見せると従者はもう一度撃った、しかし当たらない、結局ベルイーがくじけるまで銃は放ち続け、ベルイー本人がしても結果が変わることはなかった。
「馬鹿な・・・バカな」
「はははは!」
ベルイーの腕は震えた。それは銃を長く打ったからではなく、自身の敗北を認められなかったからだ。力が抜けてうなだれたベルイーの姿を見たエルロスは盛大に笑った。彼は赤霧の教会のシンボルである瓶を彩ったネックレスを握り祈った。
「神よ、今日も我らに正義を与えていただいたこと、まことに感謝します」
「驚いたわね、あの銀の弾には魔法を感じられない、これが神の奇蹟だというの?」
ローレは分析に入ったがまったく信じられないといった感じであった。
「まずいですよ社長、これって・・・証明したってことですよね?!」
カロリーネは大いに焦った。晴馬の肩を揺らすが、晴馬自身はただその実験の光景を見つめるだけで反応がない。
「ねぇ、これってやばくないですか?銃、作っていいんですか?」
誰もが不安がる中、フェリシーだけが理解できなかった。いいや、説明を聞いているから理解はしているのだがあほの子だったのかもしれない。
「スゴイ!神の奇跡ってあるんですね!」
「・・・」
「ハルマ様?何でそんなに残念な人を見るような顔で私を・・・は!別に私馬鹿じゃないですよ?これでもそれ相応の教育受けてますよ?」
「・・・」
「もー!私だけ馬鹿にしてー!ハルマ様は私のお話相手で十分なんです!いつから生意気になったんですか!」
不敵に笑うエルロスの声が聞こえる。晴馬はエルロスに顔を向け、その様子を見ていた。
「どうだ晴馬?いかに呪われているかわかったか?これでもなお銃を作るのであればお前を異端者として裁判にかけることになるが・・・どうする?」
にやりと笑うエルロスに対し晴馬は冷静だった。言葉が出ないかとエルロスを余裕にした要であるが。晴馬は鼻で笑った。
「な!」
エルロスは不意を突かれた、この正統性あふれる持論を披露してやったのに、晴馬の自信をそぐことはなかったのである。むしろ晴馬の自信は一層頑丈なものになった印象さえあった。
「どうしたのハルマ?」
ローレも不思議がる、負け惜しみだとでもいうのだろうか?
「僕がそれを神の思し召しと言ったら、まず誰もが疑わないだろうね、しかしながら僕は違うよ、それのトリックは簡単だ。」
「トリック?どういうことハルマ?」
「社長、それってどういうことですか?」
不たちの言葉を背に向けて晴馬はうなだれるベルイーから銃を拾い上げる。そして銃口を覗いてつぶやいた。
「エルロス、お前はおそらくこれをそう多くの回数行ったことは無いだろう?例えば貴族の前でとか、一流の銃の鍛冶職人のまでしかやってないな?」
「それがどうしたというんだ?」
「やっぱりか、恐らくお前は誰かから入れ知恵をされて行ったのだろう、昔から金や銀といった貴金属は宗教の彫刻や装飾に使われることはあるからな、それ故に神秘的な力があるといわれる、しかし根本的な金属の知識がない、それ故にそんなことを言うんだ」
「説明が足りないぞハルマ、何が言いたいんだ?」
エルロスがそう言うと、晴馬はにやりと笑った。
「銀だ、銀は鉛より硬い金属であり、鉛を弾に利用する銃にとっては硬いものだ。それが命中精度を落としたんだよ、恐らくお前の証明は祝福を受けた弾は当たらない証明ではなく、銀は鉛より硬い金属であることを証明しただけだ」
「なんだと?!」
「まずライフリングのある銃であるというのも問題だ、鉛のようにやわらかい金属であればライクリングに食い込んで命中精度を高めるが、比較的固い銀では不可能だ。貴族や鍛冶屋は当たらないのであれば命中精度の高い銃を用意すればいいと思うだろう、僕もそうだった、それがこう言った結果を招いたんだ、もし僕のライフリングのないマスケットであれば間違いなく当たる、それも加護を受けなかった銀でもね、試してみるかい?」
「ぐうう!それでは証明にならないではないか!射程距離が同じでない以上近いほど当たる可能性が増すというものではないのか!?」
「弾道が安定しない分それは難しいだろうね、とはいえ言いたいこともわかる、そこで簡単な銀と鉛の疲労破壊での実験でもしようか?早く壊れた方がやわらかい金属、壊れなかったら固い金属だ、わかりやすいだろ?どう考える?」
「ぐう、今日は日がたっている、明日でどうだ?」
「いいよ、今日は引き揚げるとするか、明日の実験は危険性がないし民衆を集めてやるとしようや、加護を受けた鉛と加護を受けなかった鉛、加護を受けた銀とそうでない銀。どちらが早く壊れるかねぇ?一つじゃ信憑に欠けるから何個か実験しよう。きっと民衆はその結果に驚くだろうなぁ」
「ッチ!いいだろう、明日が楽しみだ」
「そうだ、これで奇跡が起こらなかった場合、悪魔の産物である証明は達成できなかったことになるだろうから、マスケット生産は問題なく続けるけど異端扱いされないよね?特使が証明できなかったことは本国まで響き渡らせるから」
「あああ!好きにするがいい!神の奇跡を信じれぬような者にはどういわれても痛くもかゆくもない、今日は気分が悪い、先に帰らせてもらう」
エルロスはそういって宿へと戻って言った。晴馬は勝ち誇ったように笑い、自身も帰ろうと準備をする。そしてベルイーに近づき、思いっきり肩を叩いてやった。
「うっ!」
「ベルイー、これは金属による性質が問題で逢って君の銃が問題じゃない、もっと自分の銃に自信を持ってほしい」
「技師ハルマ・・・」
「さぁ帰ろう!明日はここの地域での教会の影響力を下げるいい機会だ、フェリシー!レストランのシェフを会社に読んでほしい、勝ち戦の祝い酒と行こうじゃないか!」
「待ってくださいよ社長!それって経費ですか?自費ですか?」
カロリーネは心配そうに晴馬を見つめる。横領のおかげでまったく金銭にかかわることを禁じられた彼女は勘定が出来ず不安になっているようであった。
「心配するなカロリーネ、僕のポケットマネーから出そう!さぞ豪華なものにしてやるぞ!」
「私も参加するわハルマ、ぜひ明日行う実験て言うものに興味があるの」
「ローレ、まじめそうに言っているけど口からよだれが出てるよ、素直に来たいならそういえばいいのに」
「なっ!違うわよ!明日の実験で科学的根拠を提示できれば研究所の功績にもなるし、それでえーと、とにかく!あんたが明日証明してくれないとうちも危ないんだからね!」
「はいはい」
晴馬はその痴態を笑ってマスケットを片付けると、一人会社に歩き始めた。それに皆がつい行き、今日の悪魔の実験は終了となる。勿論結果から見れば特使の主張を正当化するような内容であった、しかし、晴馬の発言はローレの研究機関によってか科学的証明をより有用性を帯びて明日の実験で提示するという言葉もいただいた。これであれば明日中にマスケットは生産再開に持っていけるだろう。
晴馬たちが祝勝を祝う宴をしている中、とある人物も酒にどん欲なまでの執着を見せていた。その男はエルロス、彼はアマーリアが用意した一級のワインを飲みながらも不味いような顔で怯えていた。ワインは当時は酔えるような一番搾りの物を一級品としており、当然それ相応に値が張るうえに完全無農薬の葡萄を絞っているのだからまず不味いはずがない。まるで昼の時とは違うその様相に相席する盗賊の頭領もさすがに困惑していた。
「くそ、なんだあの勝利に満ちた顔は・・・おそらく細工なしに何かする気に違いない」
「まぁまぁ、旦那が負けるなんてことはないでしょう?だって神学部卒業の大卒の頭を持ち合わせておりますし」
「うるさい!お前はあの場にいないからそのようなことが言えるのだ!このままでは明日には奇蹟の力もどこまで有効であるかわかったものではない」
「それなら本国からセージなり修道騎士団なり連れてくればいいのでは?」
「それじゃあ向うだって対抗できる!悪党には騎士団もセージの研究機関も存在するんだぞ?!連中に勝つには赤霧の教会の証明が有効だったんだ」
エルロスはそういってグラスのワインをすべて飲み干す、その時であった。例の宿の地下室からコソっと音がした。それは普段であればどうでもいいようなことではあるが、神経質になっていたエルロスには轟音に匹敵するような音であった。青筋を立てて立ち上がったエルロスは近くにあった暖炉のひっかき棒を持つと地下室に向かう。
「どうしたんです旦那?」
「ネズミがぐずぐずと音を立ておって・・・うるさいんだぁ!」
勢いよく地下室の扉があくと、すぐさまかけてあった松明をエルロスは振り回した。その熱と火の粉に地下室では悲鳴が沸き起こる。誰もが松明を操るエルロスと盗賊におびえて地下室の入り口とは対称となる部屋の隅にあつまった。その際には鎖が引きずられる音がこだましてエルロスの怒りを余計にたきつける始末だ。
「うるさいぞきさまらぁ!この私がいいというまで動くんじゃない!」
「ひいい!すいませんすいません!」
鎖に繋がれた女が泣きながら謝罪する。それを見たエルロスは急に殴りつけた。
「旦那!それじゃあ商品の値段が下がります」
「うるさい!どうせ80近くは存在するのだ・・・たかがカンビオンの一匹、どうということはない!」
地下室に共鳴するカンビオンとエルロスの怒りの声、そして暴行の音、カンビオン達は皆が皆怯えて逃げたいのにもかかわらず、鎖が邪魔で逃げることもできず、ただひたすら耐えしのいでいた。
「くそ・・・私が明日奇蹟を証明できなかったらこいつらを売り飛ばすことすら難しいではないか、それどころかそれが本国に私の失敗が聞こえれば私の出世街道、さらには命すら保証はない、大司教など夢のまた夢ではないか!国のパシリからようやく解放されるチャンスであるのに、こんなところで終わってたまるか!」
「旦那・・・」
「それではせっかくの私の奴隷帝国が台無しだ!くそ!これでもか!?これでも泣き止まぬか雑魚共が!」
松明を一心不乱にカンビオン達にこすりつける、泣き叫ぶ声がこだまして頭領は外に漏れることを心配した。治安局は腐敗には強い、もみ消しはまず不可能であろう、だがここでエルロスを止めようとすれば焼け石に水、おのずとやるべきことは絞られて行った。
「ご安心ください旦那、それならば明日が来る前に連中を暗殺しちまえばいいんですよ」
「なに?」
その言葉にエルロスは関心を見せ無かった。それではまるで口封じではないかと思ったのだろう。しかしながらこのままでは自信の計画が台無しにされてしまう。それを考えればむしろ頃合いか。
「そうだな、その通りだ、連中を殺すのは今しかない。どれくらいの数を集めることが出来る?」
「100も集まれば十分ではないですか?情報では連中はひとつの建物にあつまって宴会騒ぎだそうですから都合がいい、大人数ですぐにパパッとやっちまって逃げることが出来れば治安局の連中に見つかることもない」
「そんなにあつめられるのか?ふ、ふははは!奴らの泣き叫ぶ光景が目に浮かぶわ!いいだろう行ってこい!私はその間この者たちで遊んでいる、吉報を待っているぞ!」
その言葉い頭領はため息をついた。この男には品質管理という言葉を知っているのだろうかと失望したのだ。エルロスよりも金への執着があった頭領は勘定をするのに頭を抱える。
「いいですか旦那、このご時世子供を埋めて顔がそこそこの上玉とくればいい値段が付きます、わざわざ値段を下げることもありますまい」
「お前は何を言っているのだ、そもそもこいつらはもとをただせば生きることすら憎まれるべき存在、石の赤子の時に壊すのが定石のところをわざわざ生ませてやったのだぞ?それだけでも十分ではないか」
「それでも商品です、商品は品質が命の存在、せっかくのお披露目で流血した顔ではしょうがないでしょう、アウタースレーブを扱うようにもっと丁寧に扱ってください」
「ううむ、わかった、そこまで言われては仕方ない」
エルロスは渋々同意した。その言葉を聞いて安堵した頭領は笛を吹いて剣を装備し宿の出入り口に向かう。
「それでは行ってきやす、いい知らせを送れるように全力で当たります」
「うむ、期待しているぞ」
エルロルは頭領が仲間を連れて出て行った事を確認すると再び従者を連れて地下室に合って来た。
「ふふふ、頭領に言われては仕方ない、お前たちは私が出ていったらこいつらが逃げ出さないように見張っておきなさい」
そういったエルロスは一人一人カンビオンの顔をつかんで確認を始めた。カンビオンは誰もが顔を強張らせ怯えているが、その涙は誰にも届かなかった。
「赤い獣目、すっと通った鼻、若く張った胸、これが禁断というのであればまるでお前たちはバラだな」
「来ないで・・・来ないで」
「特使様、このカンビオンは傾城並みの美貌を兼ね備えております」
「嫌・・・嫌・・」
エルロスはにやりと笑うとその女の顎を掴み、じろじろと吟味する、やがて髪をなで初め頬を舐める。
「このカンビオンは味がいい、今日はお前だ、連れていけ」
「ああ、お助けください」
従者に連れられエルロスの部屋へと連れていかれたのち、大きな悲鳴とエルロスの笑い声が宿を包んだ
「いやああああ!」
「はははは!はははは!」




