35 ヴィンセントの依頼
クラナッハ伯は従者のアーニャに笑いながら言った。彼は今や領土を植われ爵位降格の危険性がある男でこれ以上の失敗は許されないところにあった。ゆえに彼はここにいる。馬にまたがり資産を使って騎兵や傭兵を編成し5000にも及ぶ兵を並べ、懐かしき辺境へと帰ってきたのだ。ここからは見えないがあのウーダンカークの香辛料のにおいが鼻に感じられるようだ。連中は奇襲で勝ったようなもの、5000も兵を集めればたとえ敵の総大将が全能のパラディンであろうとも打ち勝つことが出来る。そうクラナッハは考えていた。
「ワインをこの地方では葡萄が育ちにくいため作れない。香辛料の課税でいつも買っていた。あの館には、それがあったのに・・・」
「クラナッハ伯、我々はそのためにおります、たとえ敵がどのような強敵でも最後まであなたの元を離れることはありません」
「よく言ってくれたアーニャ、王国はすぐには動こうとはせん、私自ら領土を奪還すれば王国を出し抜くことが出来、それに加えてその実績をたたえ王も所領安堵をしてくれるであろう、皆の者!報酬は弾むぞ!ウーダンカークに初めに入ったやつは金貨10枚だ!」
クラナッハの軍勢は雄たけびを上げたのちに進軍を開始した。誰もが聞きしに勝る兵たち、多くの傷を体に刻み、容赦を忘れた最強の兵士たちだった。誰もが不敵に笑い、そして勝利を確信している。あとはどれほど稼げるかを計算しているほどである。
「いいかアーニャ、私の館には騎士団が襲い掛かった。つまり連中は騎士団を所有していることになる。だが今回はユッタの騎士団の連中も。なぜならこっちにはスズナ領の騎士団を派遣してもらったんだからな」
「スズナ、果敢勇猛さに関しては右に出る者はいないとまで言われる騎士団ですね」
アーニャの言葉にクラナッハはにやりと笑って確固たる自信を言い表した。一度後ろを振り返り、青い塗装をした鎧の騎兵たちに見とれて馬の操作を誤るほどである。彼らは皆普通のパラディンではない。皆が潜入・隠ぺいすることに長けた裏面のパラディンの能力のみが集まる精鋭部隊だ。
「連中が奇襲で襲うなら、こちらも奇襲で襲うまでだすぐにでも奴らをちまつりにあげてやる、うははっは!」
少々余剰をもうけ過ぎたかと思うほどの力にクラナッハは悪党と騎士団の末路を想像して笑いが止まらなかった。気分よくウーダンカークへ続く一本道を馬で更新する。心なしか我々の勝利を祝うように追い風が吹いているような気さえした。風は強く、まるで嵐の前兆のような・・・。
「ううむ、やけに風が強いな・・・」
「大将!」
傭兵がクラナッハを呼ぶ、その顔は蒼白で前方を見て恐怖するように指を刺した。
「なんだ?ここまで来て怖気づいたか?まったく情けない、お前らは戦うためにここに来たんだろ少しはしゃきっとしろ!」
「だからってこいつはどうなんだ!ええ?先を見ろ前を見るんだよ大将」
言われた通り前を見ると空に何やらゴマ粒程度のようなものが飛んでいた。先ほどまで追い風だと思っていた物は、どうやらあの飛行物体に吸い込まれるように吸い込まれているように流れていた。やがてゴマはどんどん大きくなってその実態をあらわにした。
「あの距離から見えるほど大きいなんて、あれはドラゴンだ!火竜のワイバーンだ!」
ついにその姿が彼らの目に見えるところまできた。以上に発達した翼、恐竜のような後ろ足、そして大きく割れたワニのような口、赤い鱗のような皮膚、誰もが想像するような巨大な飛竜が彼らの目の前に現れたのだ。あの勝利の風は今は威圧しか発しておらず、羽根の羽ばたく大きな音と、竜のグルルとが鳴る声がこだまして皆に緊張と恐怖を植え付けた。
「グアアアア!」
腹に響くような叫びが槍や耳を震わせ、傭兵たちはすくみ上った。もはや最初の意気揚々としていた雰囲気はなくなったかのようだ。
「ひい!」
アーニャはその場で手で頭を覆い、その竜の姿を直視できないのか縮こまってしまう。だが、クラナッハは其れとは対照的で、むしろ喜ぶほどであった。
「ふん!アマーリアの使いのモンスターか。だが甘い!それを見越してスズナの騎士団を派遣してもらったのだ。たかが火竜の一匹スズナの騎士団の敵ではない、おい!騎兵は前に出ろ!」
すると騎兵は即座に反応し、陣形を組んで竜の前に現れた、皆がランスを構える中、一人だけ毒矢を携帯した騎兵が弓を構える。つまり大部分のランスの騎兵は囮として注意をひかせ、そのすきに弓騎士がモンスターを倒すという算段だ。
「果敢勇猛であるスズナの騎士団長、お前は竜を倒したことがあるか?」
クラナッハが後方で指揮する団長に聞いてみると、それを聞いた団長は鼻で笑った。
「私としては、あれが竜などと呼べる代物なのかすら疑問ですよ。もっと歳を食った古龍ですら打ち倒すわが騎士団にとってあんな若い火竜は我らの進行を妨げる蚊のようなものです」
「よく言った!アーニャ、怖いのなら私のマントを貸してやる。これに籠って石のふりでもしていろ」
「ふいませええん」
「頃合いですな、弓兵、はな・・・ん?」
騎士団長は前の空からさらに2匹の火竜が来るのを見た。それはこの火竜が子供かと思うほど大きく、そして黒ずんだ泥を戦闘民族尾ようなペイントで体で覆っている種族だった。
「なんだ、この際一匹や二匹など変わらぬ、騎士団長ついでに討ちと・・・れ」
先ほど二匹だと書いてあっただろうが、それはその竜が二列で編隊飛行していたからそう見えただけである。やがて二列は砕け、20は優に超える竜が現れ始めた。しかもその中の一匹は強烈なでかさだ。超ド級と言っても過言ではない。他の竜の輪郭が見えていないのにも関わらずその竜だけはくっきりと見えて、口が開いているのがわかる。やがて口から何か赤い日のようなものが見えた。
「うお、おおおおお!」
「危ないクラナッハ伯!伏せてください!」
それは晴馬が見た日球など比べ物にならないほどの大きさで音を出しながらこちらに飛んできた。団長のとっさの判断でクラナッハは馬から降ろされて伏せ、上に団長が覆うようにして守った。しかし球は5000の兵を超えて明後日の方へと飛んで行った。山に着弾した途端えぐれるように土石流が零れ落ちる音があたりに響き渡り、その場所に巨大な火柱が立った。ごうごうという音と共にあたりを夕焼けのような色に染め上げるほどその破壊力は強力だ。
「ふう、よし騎士団長。偵察も済んだし帰るか、傭兵ども、引き上げだ!」
「そうですね、おい!皆の者!帰る用意をしろ!撤退だ!」
やれやれといたような様相で引き返すクラナッハ一団たちに、大きな弩級の火竜は大きく口を開け、もう一発打ち込もうと火を集め始めた。
「おいやべえぞ!あいつもう一発かます気だ逃げろ!」
「武器なんか捨てろ逃げる速さが遅くなるだけだ!」
「私にとってワインは至福と財産であるのだよ」
誰もが武器を捨て、足の速い騎士団の馬とクラナッハ伯が先頭に5000の軍勢は砕けるようにして散っていった、ただ一人アーニャを残して。
「伯爵様ー、まだですかー?」
「よーしよーしよくやったぞぉ」
アマーリアの住む砦は人だかりができていた。超ド級のワイバーンがそこでアマーリアに甘え、アマーリア自身もそれを当たり前のように撫でているからだ。呼び出された晴馬はそれを見て口を開けるばかりだった。首が痛くなるほど見上げないと見れない竜の全容にただただ声も出せず見るだけでなにもできない。
「敵がそんな近くまで来ていたのかぁ、君がいなかったら危なかったよぉ」
「くぅーん」
「あの巨竜をまるで猫のように・・・」
「「さすがはお姉さま!」」
これが全能のガーディナルと呼ばれる所以か、確かにこんなもの操って戦いを挑んだらどんな兵士も逃げ出すわな。通りで王国が攻めてこないはずだ。モンスターは多種多様、こんな奴らもいれば朝に蛍かと思えば妖精だったりとかするとやっぱり僕がいるこの世界は元の世界とは全然違う異世界だと感じられるなぁ、ゲームのハンターってこんな奴とよく戦えるよな。
「そういえばゲームのドラゴンってもっとスリムだけどこの竜は腹が出ててでっぷりとしているな」
「「晴馬、タダならぬ殺気を感じたので早くその言葉を撤回してくださいというか何噛みつかれているんですかワイバーンさんやめて食べないで咀嚼しないで」」
「おいおいハルマ、竜は長寿だから人の言葉がわかるんだぞ、あまりいじめてくれるな」
やがてワイバーンは飛び立ち、自らが棲む巣へと帰ってゆくと、そこには血まみれの晴馬とマントを全身に被った女が残っただけであった。
「私は石私は石私は石私は石・・・」
「こいつはなんだアマーリア」
「さぁ?ワイバーン曰くあまりおいしくなさそうだから持ってきたとか言っていたね、恐らく敵勢の残党だろうけどもう戦う気力もなさそうだから後で元の場所に返すようワイバーンに言っておく、さて、君に話があるから砦の中へ」
僕はアマーリアの執務室に入ってゆく、するとそこにはアマーリアの秘書官であるカトリナがすでに一律不動の姿勢で待っており、晴馬を監視するように見ていた。
「いいニュースと悪いニュースがある。一つは都市国家群を中継して他国に君のねじや農作物、マスケットを販売することが出来るようになり財源が増えたこと。もう一つは君の秘書官であるカロリーネが私腹を肥やす金勘定のし過ぎで熱を出してしまってようでね、おいたが過ぎるのと倒れたのを併用してしばらく謹慎処分とすることにしたんだ」
「あいつ何やってんだ」
「君の会社の金でカジノにちょくちょく通っていたらしい、まぁ彼女の貯金から横領分は払わせたから今回は其れだけにしてくれ。」
「まじで何やってんの?あいつに金は触らせないでおこ」
「でだ、秘書官がいないのは大変だろうからこのカトリナをしばらく君に貸してあげようと思ってね」
「え?!マジで?いいのかアマーリア」
「私はしばらく外に出ることもないし、これといった問題はないよ」
やったあああ!あの性格の悪いカロリーネはいらない!今日から僕がこの手でしっかりと教育してカトリナを年上甘やかし系秘書に仕上げてやるぞ!どっかのまがい物とは違うところを見せてやる!
「よろしくお願いしますカトリナ!」
「・・・はい、よろしく」
あまり関心がないようにカトリナはつぶやく。
なんだ?あまり接したことがないからわからないけどこの人ってくらい人なんだっけ?クールなイメージがあったんだけどなぁ。
「カトリナはあまり異性と話すのが得意ではいんだ。仕事も剣技も一流だからこき使ってくれていいよ」
「そ、そう、じゃあカトリナ、今日はヴィンセントに用があるから会いに行こうか」
〈今日もよろしく頼むよカトリナ〉
カトリナはそのフレーズにあることを思い出していた。花冠の騎士団にいたときのある出来事である。
「ッ・・・では、私は帯刀するサーベルを持ってきます」
晴馬はカトリナの顔を見た。彼女の片目が晴馬をじっとりとみるような目つきで見てきて少し不気味だった。なんだろうか、初めは威圧感のあるような視線だったのに、今回は分析されているような感じがする。ともかく悪気があってやっているわけではなさそうだし、ヴィンセントのいる軍総本部へと急ごうと晴馬が先に部屋を出る。きっと晴馬には読み取れ中たのであろう。彼女が晴馬に映していたとある人物の顔を。
軍総本部は街のはずれにある新しく建てた建物だ。そこには防御的な施設はない館のようなたたずまいの建造物である。厚いレンガと練兵所が併設していることから軍隊らしい詰め処感がするのはいた仕方ないといったところだ。門番のパスを取って軍本部の廊下の窓から見える兵が今日も今日とて訓練委明け暮れるのを眺めながら自身の作ったマスケットが運用されているのを誇らしく思った。
「そう言えばカトリナはここに来る前はどこにいたんだ?カロリーネのように官僚だったとか?」
「・・・いえ、私はパラディンで騎士団に所属をしてました、花冠の騎士団です」
「「ああ!女性のみで編成されたクロユリ領の優秀な騎士団ですよ、カトリナさんはあんなところにいたのかぁ、なんだか親近感がわきますね」」
お前はな、そうか、彼女はパラディンだったのか、仲間がいつ我々の敵になるかもわからないのに、この人なんで来たんだろう?カロリーネみたいに逃げてきたようにも見えないし、何か事情持ちかな?
「アマーリアの掲げる国家に感銘して入った?」
「・・・言わなきゃダメですか?」
「いや、そんなことはないけど」
うーん、なかなかの強敵だぞ。話が進まないのに足が進むからヴィンセントのいる司令室の前にまできてしまった。彼女と話すのは後半戦として取っておこう。まずはヴィンセントに挨拶だ。
「ようヴィンセント、軍は機能しそう?」
ヴィンセントの部屋に入ってみれば、そこには軍旗であるひびの入ったサーベルの影絵が飾られており、秘書官と一緒に地図とにらめっこしていた。秘書官はナゴと言って王国に迫害された少数民族の若い男だ。長い戦歴と大きな軍団を指揮していたところを買われ、今は元帥であるヴィンセントの右腕としてとして軍籍に置かれている。
「おお、ハルマか、待っていたぞ座ってくれ、ナゴ、軍議は中断だ。お前は国境付近の警備の計画を進めてくれ」
「了解しました閣下」
「今は近い将来市民を幹部にするために士官学校や軍大学校(参謀になる学校)を建てる計画でやまずみの問題ばかりでな、なかなか計画が進まん」
「おお、士官学校ってなんかかっこいいよね」
中世では当たり前であるが国の執り行う組織の構成員はほとんど貴族だ。下っ端はともかくとして幹部に平民がなることはあり得ない、だが貴族のいないこの国では取り入れるのはむしろ当然のことであった。貴族だって家柄や爵位で軍の階級が決まってしまうのだ。それを能力と試験でパスできるならだれもが切望するだろう。
「ああ、恐らく初めての取り組みだから失敗も考えられるけどな、今は兵にも下士官にも文字の教育を行っている。アマーリアの考える教育機関は入る人間が制限されそうだからな」
「まぁ教科書や学費の無償化は財政面的に厳しいからね、でもなんでそんなことを?」
「何でって。事務仕事から始まり多くの事項で文字は必要不可欠だからだよ、騎士でも読めないやつっているだろ?念密な作戦があるとき、文字が読めるか読めないかで理解度が全然違うんだよ、だから必ず読めるようにさせておかないとな」
「はあん、たしかに第二次大戦のアメリカ軍も同じことやってたし当然だね」
「アメリカ?ともかく俺は参謀ってやつに興味をひかれたんだ、軍師ってのはむかしからいたが、それでも独りよがりで個人の能力が全てを管理する非常に不安定な存在だ。それに俺たちの国はほかの国の軍とは違う、戦場の主役である騎兵や傭兵といったやつらは俺たちの軍隊ではほとんど少数派になっちまう、なぜかというと王国と張り合うには数が少なすぎる。そこで常備軍を増やして防戦だけでも優勢にしようと考えたんだ」
それはつまり傭兵を余計に借り入れるといった考えでいいのだろうか?
「どうやって?」
「国民軍だよ、傭兵集団はいらない、国民を兵士にすれば多くの人員が確保っできるって算段だ」
「ええ?それって徴兵?」
「俺もそう考えたんだけど志願制でも結構集まってきてはいるんだよなぁ、なんか貧民にとっては軍の暮らしの方が増しって事もあるし給料もそこそこ高いしなぁ」
そう言ってヴィンセントは一枚の紙をこちらに見せた。それは兵員を期間ごとい記録したグラフである。
「現時点で7万人?いくらなんでも多すぎる」
「でもいい誤算だ、俺たちが相手するあの国と張り合うんなら軍団で数十万は用意したいからなぁ、大量の兵士を養う財政も整えなければならないが少なくともいざって時に増員できることがこれで実証された、訓練期間の少ないマスケットであれば戦時の臨時募集で増員してもかなりの駒がそろえる」
ご満悦気にヴィンセントは語った。(これを常備軍に対し徴兵軍という、戦時中に急激に兵を募った第二次の日本もこれに値する)
「そうか、何も常に大量の兵隊を抱える必要はないのか」
「まぁ過去にない人員だから指揮系統は相当複雑化させないとだめだろうなぁ、少なくとも階級は増やして明確化する。少尉なら、大尉なら、大佐なら、大将ならって感じだな」
「百人隊長がいた時代が懐かしいね」
「百人隊長が死んだときに変わる奴がいなかったら混乱するだろう?階級があれば同等の階級の奴を代理に建てればいい、非常に効率的だ」
僕は彼の話をただ頷いて聞いていると、隣のカトリナが紙を差し出してきた。
「これは?」
「・・・今までの会話を要約して書いたものです。もし何か疑問があったときにあれば便利かと思いまして」
「お、おおお!隣であくびをしているカロリーネとはえらい違いだなぁ!気に入った、君うちの秘書官にならない?」
〈君と僕が同じ立場ならこんなに悩まなくていいのにね・・・〉
「・・・ッ、何で似てるのよ」
「「ん?何でそっぽを向いたのでしょうか?」」
彼女は唇をかんでそっぽを向いた、なんだろう?まったく彼女の意図がわからない。嬉しかったようには・・・見えないな。
「それでハルマに頼みたいことがある、まず言ってうちには空軍がいない、これは制空権を放棄するという戦略上で多大な不利を自らで作り出す危険がある。お前にはそれを回避するために騎士団と連携を取ってはくれないか?」
騎士団?それはユッタのいた騎士団のことだろうか?なぜ空軍と彼らがペアになるのかがいまいちわからない。それよりも個人的にはアマーリアのワイバーンの軍団を派遣した方が数倍ましだと思うんだが。あんな巨大な竜を飼いならしているのであればカンパレラで見たあの巨大な空飛ぶ船にも十分に対等な戦いができると思うんだが。その旨をヴィンセントに伝えると彼は「そうなんだが」と少し困り顔になった。
「問題は作戦指揮をするときに意思の疎通ができないことだ。お前も知っている通りモンスターと話せるのはガーディナルだけだ、となると人間だけの軍隊がひつようなんだ、今、魔法工学研究所と騎士団が連携して空軍設立やらほかの治安維持部隊の創設を急いでやっているんだ」
「へえ、騎士団は相当細分化されそうだね」
「多分アマーリアはこういうことをやるために騎士団を別居にしたのかもな、連中は必要とされている政府や軍隊にそれぞれ分かれてサポート役として役立っているよ」
「「私としてはかなり複雑な気分なんですが」」
「時代だよユッタ」
僕はヴィンセントからの依頼を受け今度は軍本部の隣にある騎士団の総本部に行くことになった。今の騎士団はかなりの数がばらけてしまい軍籍を獲得する手続きをするものや行政に回るものなど役割は様々。まずは騎士団の団長代理であるマンフリートに会いに行かなくてはなら泣いため、騎士団の指令室へと足を踏み入れた。
「おお晴馬か、何とも懐かしい顔じゃな、はっはっは」
「相変わらずだねマンフリート、ヴィンセントからここの軍関係についてのサポートを任されたんだけど」
「ああ、あの事か、ええっと書類はどこだったかのぉ・・・」
マンフリートはかなりの書類の山の中からそれを探し出す。アマーリアの執務室も相当な数の書類があったがここはその数倍はあってどこからが机でどこからが床なのかわからないほどであった。
「何でこんなことに?」
「組織が多様化にこたえるために多くの局を設けるとこになったからじゃ、ウーダンカークの治安維持のための治安局、空軍戦力確保のための空軍総司令部、国境警備隊、ヴィンセント殿からの要望に応えるために士官学校や騎兵学校の教官を派遣したりもしておる。それに加えて有事の際に騎士団が招集されても駆けつけられるように各組織の連携の模索、できることならそれぞれ独立させたいんじゃがめんどくさいのぉ」
「「ええぇ、分裂は私にとっては苦痛以外の何物でもないんですけど」」
「ユッタがそれは嫌だって」
マンフリートは笑う、確かにその通りじゃと言いながら書類を探しついに発見した。
「おおあったあった、我々正統グリーフラントの空軍の艦船はゼロだというとは知っておるかの?」
「うん、ついでに造船所もないんでしょ?」
「左様、それではどう考えたって艦隊の戦いはできぬ、そこで、我々は新たにアマーリア様の助力とローレの魔法工学研究所と連携して代理となる新たな戦力を設けることとなった。今最も有力なのはドラグーンの航空隊編成じゃが、それには今の鎧ではそれを行うにしても重すぎるし武器がのぉ、過去多くの竜騎士が多くの国で採用されてはいるんじゃが、結局見た目だけでこれといった成績がない。ハルマには使えるドラグーンの武器と鎧を作ってもらいたい」
「わかった、それでドラグーンの養成施設はあるの?」
「おお、騎兵学校がそれに値する。今最も力を入れている学校じゃ」
マンフリートに言われ、そのまま町はずれにある騎兵学校まで歩いた。僕はドラゴンは今朝見たワイバーンが初めてなのでどんなものなのかとてもわくわくしている。いったいどうすれば人がドラゴンを操れるようになるのだろうか?そこはどんな環境なのだろうか?いろいろ考えながら胸を躍らせて晴馬は歩く。
「楽しみだなぁ」
「「私も、ドラグーンを見るのは初めてです。いったいどんな感じで訓練をしているのでしょうね」」
「多分大空を自由に飛んで騎馬戦の要領で戦うに違いない。出来るなら僕も一度乗せてもらえないかなぁ」
〈君の馬は速いのかい?よかったら今度乗せてよ〉
嫌なのは百も承知なのに、晴馬がとある人物と似ていたため思い出してしまうカタリナは少しずつ目が潤み、晴馬の輪郭が歪んで別人を映し出そうとしていた。
「・・・ユッタ様と話しているんですか?」
カタリナは僕を見入るように顔を近づけた。ああそうか、そりゃあ以心伝心のイヤリングがないと聞こえないんだからはたから見ればひとりごとの大きい変人といったところだろう。僕はそうだと言わんばかりに頷くと、彼女は目をかっぴらいてその場に止まった。
「カタリナ?」
「・・・やはり、アマーリア様の言った通り貴方は転生した方なんですね」
「え、うんそうだよ?僕はアマーリアの身体で生きているんだ、それよりユッタ様って一体、ああそうか、騎士にとっては皆のあこがれだもんね」
「「いやぁ、それほどでも!」」
「・・・そう、成功したんですか、なら教えていただけませんか?どうやったら転生を成功させられるのか」
「へ?」
カタリナはとても悲しい顔になった。普通ならば和歌を聞くために寄り添うのが紳士というもなのだが、彼女の雰囲気は少し異常で、何かねじ曲がった歪んだ感情がうかがえる。こんな時にグングニールを置いてくるなんて全く何たる失態だろう。ボクシングの構えでしばらく身構えると、彼女はぼうっとした目で僕の内側を除くように見つめ、酷い恐怖を覚えた。
「ああ、そこにはきっとユッタ様が生きていらっしゃるのでしょう。文献によれば夢で逢うこともできると書いてありましたそれは事実ですか?いえ、事実でなくともそこに生きていることにはかわりないんでしょうね。私も転生したい。あの時の思いを伝えることが出来るならどんな犠牲もかまわない、あの人と一つになるなら」
「おいおい!どうしたカタリナ何一人ラジオ始めているんだ?」
「「やばいですよ晴馬、彼女相当深い闇を抱えていらっしゃるのかもしれませんよ」」
カモじゃなくて間違いなくだろ、ベルダか?彼女はベルダと同じ属性の人なのか?
「ハルマ殿、貴方は私に何でこの組織に入ったのかを伺ったことがありましたよね?」
プツンと話していた言葉が途切れ、虚空の目をしたカタリナがひとりでに話し始めた。彼女に意識があるのか少し疑問だったが晴馬はとりあえず返答することにした。
「あ、ああ」
「私、目的があるんです。アマーリア様の世界で平等愛を広げたいんです」
「はぁ?」
「私、むかしある人に恋をしました、でもその人の階級が私よりも高いくらいの人だったんです。私もあの人もお互いが愛を育むことすらできなくて、ただただお互い顔を向け合って満足をしていました。寝るときはかあの人の顔を思い出し、戦う時はその人ために死にたくないと思いながら戦いました、孤独にさいなまれる野戦でも、街の平穏を守るときでも、あの人の馬車を護衛するときも、片時も忘れたことはありません」
彼女は其れからも惚気話を披露したが、その内容はどこにでもいる生娘が行う恋愛話とは少し違った。ただただ毎日に苦しい思いを寄せ、そして相手に伝えることもできず、伝えれば自身の社会的信頼も最悪命さえ危ないという異質な環境での愛を語られた。晴馬にはそれが理解しがたい、思いを伝える勇気はなくても誰にでも恋愛は自由であったのが晴馬の世界だったからだ。
「あの人と私が一番距離を縮められたのは、恐ろしくも私とあの人の関係がばれたとき、強制的に隔離されようとするときにお互い離れないように手を握りしめ合ったときだけ、その後の私はあの人の母君に酷い折檻をされ、職も、目も、あの人さえ奪われてしまいました、もうあの領地では生きていけません」
カタリナは眼帯に手を添えて、思いっきって外した。彼女の顔からは想像できないほどに血管の先端が焼かれて充血し、爛れ化膿したその目には、視力はおろか、白目と黒目の判断すらできなかった。
「ハルマ殿、貴方は地球から来たのですよね?地球の恋はどんなものですか?こんなにも苦しいものなのですか?体さえ失うものなのですか?同じ種族でも、してはいけないものなのでしょうか?」
「え・・・いや、誰でも自由に」
「自由?なら何で私はそっちの世界であの人と恋が出来なかったのでしょうか?不平等です、あまりにも不平等です!」
怒号を発するカタリナに何を言えばわからず、ただ晴馬はそこに立つことしかできなかった。
「知ってます?あの人貴方にそっくりなんですよ、背が低くて、ニヤッと笑って、それでいて誰それと構わずに話す人だったんです。私にはそれがひどく妬ましくて仕方なかった。私とあの人が話せるのは満月の夜の湖だけなのに!」
「おちつけ・・・な?」
やばいよこの人かなり頭イッてる人だよ。何勝手に人に思い人の面影を映し出してんの?やめて!警察呼ぶよ?!
「「こんな時にふざけたこと考えているんですか?今日の夢は地獄絵図だな」」
「やめてくれよ」
「だから私、考えたんです、あの領土から去る前にある禁忌の魔法を使ってあの人と一緒になろうって」
思い出すようににやけるカタリナの言葉に晴馬は反応した、経験者である彼にはそんな都合のいいものではないことを知っているからだ
「そんなことで転生を?」
「ああ、もうそういわれるのは慣れています、あの人も同じことを言っていましたから、領主の身分であるあの人は口が裂けても一緒になろうなんて言えませんよね」
「(物理的に)一緒は誰でも抵抗するんじゃ」
「「領主?クロユリの?ああ!晴馬!この人やばい人です!かつてセージを脅して領主との転生をしようとした大罪人!カタリナ・エリーシャですよ!領主とは両想いではなくこの人の妄想で実際は片思いです!」」
「えええええええ!?」
それでは今までの苦しい話は何だったのか。割と本気で考えた身分の別れた愛というものが現実はただのヤンデレの妄想でしかなかったというわけだ。そりゃあ領主の母親もガチギレなんでだああああ!何で秘書課の連中はそんな変人ばかりなんじゃああああ!
「私は領土追放により流浪の旅に出たときにアマーリア様に合った。悪党は好きになれるか不安だけど、その理想には私の望む世界があったんです。その世界を叶え必ずあの人を迎えに行く!それが私のここにいる理由です!」
「むかえにいかないであげってえええ!そっとしておきなよおおお!」
「あの人は甘やかし系年上系秘書が好きだということも把握済み、ここで腕を磨いて必ずあの人の理想のお嫁さんになります」
「なんでそこが僕といっしょなんだよおおおおお!」
でも晴馬は思った。本当にこの世界では恋愛の自由は存在しないのだろうと、せめてアマーリアの国では採用してもらうよう打診しておこうかな
とある話をモデルにして実際に書いてみたらカタリナの話が弩を超すほど暗い話になってしまったので笑い話にしました。不満があった人ごめんなさい、もしそっちがいい人は連絡があれば修正します




