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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
36/63

34 苦境

「何度言えばいいんですか!そうやって振るのではなくもっと体の重心をくねるように振るのです!」


「ひええ」


僕は夢の中で今日もユッタの剣を学んでいる。最近ユッタが夢いでることが多くなってきた気がするのはおそらく気のせいではない。いままでなら週に二回ほどであったが今はほぼ毎日彼女との交流を繰り広げている。主に彼女とは外の世界の話や剣舞の披露などを通して


「では、これから実戦を想定した戦闘方法を・・・」


「ちょっと待った!一回休憩を入れよう夢とは言えさすがに疲れた。僕は休ませてもらうよ」


晴馬はそういうとその場に寝っ転がり降参の意思表示をした。ユッタはまだやり足りないといった表情だが相手がそうであれば仕方ないと近くに腰を下した。


「ハルマは根性なしですね、私の身体を貸して動いているんですからもっといろいろでいるはずですよ?」


「はは、足りないのは精神面ってことか、まったく、僕は成長のない男だ、これじゃあまた君に屑呼ばわりされる羽目になるな」


「そうですよ、でも、私が育ててあげるから安心してください」


育てるか、そういえばユッタとは随分長い付き合いになるな、初めは二人で一人の身体なんて考えられないと思っていたのに、今じゃ当たり前になっているんだものな。ユッタは僕になれたのだろうか?彼女は僕に体を支配されているが僕が体を使う時に批判をしたりはしない。もちろん、彼女が男の生理現象や排せつに一定の理解があるのも理由の一つだが、彼女は僕の行って来た過ちに対してとても強い反発を持っている。そんな奴に支配されているんだ。不満ばかりなのかもしれないな。


「ユッタ、僕は君の身体を使っていろんな過ちや罪を犯した。多分僕のやったことは君のやったことにもなるんだろう。僕が転生したことに後悔はない?」


「おお、晴馬はそこまで気配りできるようになったんですか、待っててください、いま『言いたいことノート』を取り出すので」


「なんだそれ」


ユッタは懐から何やらノートを取り出した。そこには『言いたいことノート』と書かれている。ノートに書けるほど僕に不満があるのか、まぁ当然だろうな。


「えっと、まず私の意見を尊重しない。私に意地悪をする。非道なことをするのに根性がないからうだうだしてイライラする・・・」


「ええ、そんなにあるの?」


「こんなのまだ一部だけですよ?待ってください、今全部を言いますから」


彼女の剣技の特訓を中断した付けは意外に高くついた。僕は彼女の有り余るうっぷんを吐き出され、そのたびに僕の心はえぐられる。なんだよ、後悔しているなら早く言えばいいじゃないか。その後もしばらく彼女のノートに書かれた僕への不満を演説され僕の心がへし折れてしまいそうになるギリギリにようやく終わることとなった。


「ふう、まぁこんなものですかね?」


「おお、もうおなかいっぱいだ、自分で自分が嫌になることばかりじゃないか」


「それが貴方の本性です、でも、ここからが重要ですよ」


「まだあるのか・・・」


「いいから聞いてください、嫌なことばかりですけど、最近は後悔はありません」


ユッタはそういって笑顔をこちらに向けた。僕はそれが信じられず。少し不満げな顔になる。


「うそをつかないでくれ、僕だって自分がどんな人間かを知っている、君だって知っているはずだ、僕はゲラルドを、それだけじゃない、最近だってカンビオンを巻き込んだ・・・」


「そう、あの時ほど後悔をしたことはありませんでした。何であなたのようなゲスの極みに私の身体を貸してしまったんだろうと何度も思ったほどです、しかも私って自分で何もできない貴方の気分次第ではないように扱われるような存在ではないですか。もしあなたが私に話しかけないでいたら誰もいない独りぼっちの世界でい続けるのだろうかと怖くなったこともあります」


「やっぱり、その通りさ、僕はその気になれば君を黙らせ好き勝手能力を使うことが出来る。パートリックみたいに烈火のパラディンで君の身体能力なら町一つ、領土一つ支配することなんて造作もないことさ」


「でもしなかった、貴方は正義を貫き通せない非道の屑だけど、勝つためなら手段を択ばない奴だけど、それでもしなかった。私は一度考えることにしたんですよ。第三者の立場に一度自身を置きそれで今までの行為を冷静になってみてみたんです。もちろんあなたが行うすべてが許せるわけではありません。でも、同情だってできるようになったんですよ」


「同情?僕にか?」


晴馬は不思議そうにユッタに尋ねる、ユッタは頷き、遠い彼方を見るような目で僕のこの世界に来た今までを空簡にスクリーン状にして映し出した。


「貴方は不運から始まりました。この世界にアウタースレーブとして連れてこられ、理不尽と尊厳の迫害に身をさらして体も失った。そんなあなたが私の身体を使って再生しても、この世界に嫌気の刺したあなたがセカンドライフを生きようと決心するのはとても難しいことです」


そう言って映し出されるのは僕がこの世界にきて奴隷市場に並びルッツの実験で体を焼失するまでの記憶だ。どれもまだ体で思い出せる程の苦しみの記憶だった。まだ吐き気を催すこともあるくらいだ。


「貴方はこの世界に人間に復讐がしたかった。そのために騎士団の基地に潜り込み放火を試みるも失敗、ゲラルドの決闘を受けて死ぬことになった。私とあったのはそのころですよね?」


「ああ、確かにそれぐらいの時だった。僕は本当はそこで死ぬはずだったけど君が決闘前夜の僕の夢に現れて・・・」


「ええ、貴方を知るために夢の中にちょっとお邪魔したんです、まだ何も知らなかった私には、貴方の感情をくみ取る力はなかった。でも、お姉さまとの約束があるから死んでもらっては困る。だからゲラルドに降参してもらって事なきを得よう。戦いの土壇場で生きる渇望があることを知っているからそれまで黙っておこうと、今思えば渇望した感情がどれほど恐ろしいものか認識が甘かったですけどね」


「・・・」


そして。僕はゲラルドを斬った、本来であれば致命傷になるほどの傷であった。


「私はその時自分の無力さと、貴方がやったとはいえ私の身体で仲間を斬ったことへの罪悪感で押しつぶされそうになった。だからお姉さまと会えると知ったときは心から喜びましたね、この男へのうっぷんと無能さを教えてさっさと斬り捨ててもらおうと思ったんです、ただ、さすがお姉さま、中立的な分析をして、私に『第三者になれ』と言って来たんです」


「だから、君は一度考えを改めた?・・・それでマティネスのころにはあんな不自然に平穏を保てたのか」


「内心ははらわたが煮えくり返る気分でしたけど、それでもローレのこととか、お姉さまのこととか今後のこととか考えて、いったん私情とは別にある考えが浮かんだんです、貴方を正そうと、そのために一度自分が冷静になろうって、そうしたら、まずはあなたを嘘でも許そうと思ったんです」


「許すって僕をか?」


「いいえ、貴方の罪をです、貴方は許せないことは多々あります、私とあなたはおそらく正反対のところにあるのでしょうね。でも、貴方の罪はその心の制御の弱さ、それは私が冷静にサポートして今後はなくそうと思ったんです、そうしたらカンビオンの時は初めは失望したけど、最後には配慮をするようになっているではありませんか、非情の中に人間性を保てるようになった貴方を見たときはやってやったと思いましたよ、そうしていくうちに私に気配りが回るようになった、カンビオンの時から成長してますね」


「あ、あれは当然のことをしただけだろう?僕だって本当に彼女たちに命を懸けさせるつもりなんて・・・」


いや、どうだろうか?もし僕がまだゲラルドと決闘をした直前の時であれば果たしてそこまで考えられたのか?感情に身を任せ、人を巻き込むことに疑問を抱かなかったあの時にそんなこと考えられるだろうか?まず無理だろう。僕にそんなことが出来るはずがない。ということは、それはユッタと話していく中で自身を整理することで生まれた余裕がそうやって表に出たと考えられないだろうか?


「変わったんですよ貴方は、本当に少しだけの成長で遅いと思うこともありますが、今後も続ければ結果オーライってところでしょうか?」


「君は、そこまで考えて、でもそこまで僕になぜ?」


「なぜか?それは私ができることがそれぐらいしかないから、だってあなたの心の中でしか私は生きてはいけませんから」


「あう・・・」


「何もあなたをいじめているわけではありません。これは私の選んだこと、そしてあなたが生きることを選んだことで継続した事ですから。今後も頼みますよ相棒」


「相棒なんて、僕は君の嫌がるようなことを平気でやるような奴なんだぞ?それを相棒なんて言えるのか?」


するとユッタは失笑した。こめかみを押して僕に手を差し出す。


「強制的に運命共同体である以上、付き合いは相棒と言わざる負えないでしょう」


「お互い望まない相棒なんて聞いたことがない」


「なら、お互い望まれるように頑張っていきましょう、もうすぐ夢が覚める、次はまた今夜に」






「ハルマ社長起きてください!大変です重大事件です!」


何やら部屋の外から大声が聞こえる。カロリーネはまだ朝だというのに非常に活発だ。僕は今会社の社長室に寝泊まりしている。こんな早朝に来いなんて誰にも言ってない。何事かと思いドアを開けてみると、カロリーネは手に髪を握って息をきっていた。


「なんだよ、僕はまだ眠いんだけど」


「そんなのこれを見れば吹き飛びますよ!いいから早く見て!」


カロリーネが手に握りしめていたのは手紙であった。僕はそれを受け取りさてはて何が書いてあるのかと読み漁ってみる。差出人はアルノーからだ。アマーリアが悪党を知れ渡らせるために結局認めた自由都市国家群による銃の転売のため、アルノーは販売用の銃の輸送をしているのだ。そこでアルノーはとんでもないものを見たと記されている。


「銃の値段が、下がり始めている?」


それは僕たちが影響しているわけではない。新技術により銃の大量生産が可能になりつつあるということだ。どうやらどこかの国が銃身を鋳造(金属を溶かして型に鋳込む方法)により製造することを思いつき、技術的に可能になったという。晴馬が金属を切削をして銃身を作るのに対し、鋳造は同じ型さえあればいくらでも作れる、つまり、晴馬よりも銃身の生産性のある銃を作ることが出来るということだ。


「やばいですよ社長、アマーリア様はこれを主力商品に通商同盟を他国にしようと躍起なんです、もし我々の生産能力が追い抜かれるようなことがあったら・・・」


「というか鋳造の金属程度の強度で銃身っていいのか、やばいぞカロリーネ、これは主力商品から外すようにアマーリアに行ってくれ」


晴馬はこの少ない情報からすぐにマスケット銃の特徴を理解して焦りを見せるが、カロリーネはそれが何なのか理解できず不思議そうに伺う。


「ふえ?何意味の分からないことを言ってるんですか?」


「わからんか?マスケット銃は僕たちの考えているよりも簡単な構造だ。僕たちが保有するほどの精密さもいらず、それに上乗せして生産性も上がってきている。それにより僕たちがマスケットを作っても自国生産に乗り出している国では買ってもらえなくなる可能性がある。しかも僕たちが何か新しい銃を作っても構造の簡単さから簡単に模倣が出来てしまうんだ。まぁ、僕たちの互換性部品についてはおそらくはないと思うけど」


「それって、儲けにならないってことですか!?そんな、じゃあせっかく作ったこの会社は!?」


「それは問題ない、ただ軍に売るだけで儲かるから、それより恐ろしいのは対外輸出商品として魅力的ではない可能性があるということだ、ゴムの会社も恐らく今は誰も買わないだろうし、他国輸出を目的にした新しい事業を立てるぞカロリーネ!マスケット銃でどんぐらい儲けた?」


カロリーネは飛んで台帳を取りに行く、すぐにその場でページを読み漁り、出来るだけ早く答えようと必死だ。


「まぁ新しい事業を外部からの投資なしで作れるくらいには・・・」


「ぼろもうけじゃないか、ならさっそく事業を・・・」


「ちょっと待ってくださいよ、いくらなんだってそんなに急に儲かるような事業思いつけるわけないじゃないですか、しかも他国がほしがるものって何ですか?!」


確かに、この世界の国がほしがっている物ってなんだ?僕が規格を設け、計測機器を使ってまで作ったものが必要にならないはずがないと思っていたのに現実はこのざまだ。僕の銃は仮にその場で何丁か分解してそれぞれの部品でくみ上げても動くのに、それを欲しがらないなんてどうかしている。嫌、そこまでそれを必要としているほどの銃の要求がないだけか、この世界の人にとって銃が高価で修理不可能であるのが当たり前、しかもギルドがある以上国内の商品よりも他国の商品を取り入れるのにも抵抗がありそうだ。そこまでしてほしい物を作れというのか?難しいことを言う。


「そうだな、とりあえず散歩しようか」


「はぁ?!」


カロリーネの大声が響き渡り、出勤してきた社員がびっくりして二階をのぞき込むほどだった。彼女はこんがらがった頭を掻きむしってもう一ぢ聞き返した。


「私、新しい事業の話をしていたつもりなんですけ散歩しようって言いました?」


「言った、いいかいカロリーネ、儲かる商品は人がほしいと思うものであり今までにない利便性や性能を兼ね備えているものだ。つまり今存在する物を改良し作ったり不満に思っていることを街の人から聞いてそこから儲けを考えればいいということにもなる」


僕の持論に納得したのか、さっきとは一変して容認する姿勢にカロリーネは変わり、晴馬の案に頷いた。


「それは一理ありますね、でも、それは市民がほしがるもので国がほしがるものになるんですか?」


「国がほしがるものは市民が消費している物がほとんどだ、食料とか服とか蝋燭とか、そこから新商品を考え出す」


晴馬は部屋に戻り着替えを済ませるとカロリーネを連れて会社の外に出ようと階段を下りた。


「あ、おはようございます晴馬社長」


メイド服を着たフェリシーがにこりと笑ってお辞儀をする。彼女は社員全員にお茶を出していたのだ。それを見て僕はあることを思い出した。


「フェリシー、君は宴の時に自分だけはまともに見定めることが出来るといったよね?」


「え、ええ確かに言いました」


「ついて来てくれ君の力が必要だ」


「は、はい」


僕は彼女たちを連れて会社の外に出る。さてはてどこから探そうか、ウーダンカーク内で困ったことがあるならばそこから見つけるのも悪くない、だが、ある程度改善されたとはいえ寂れて治安の悪いこの街に不満を持たない奴なんていないよな。とりあえず、僕は何かできないかと散歩する。道行く人は結構増え、ただその改装は貧民が圧倒的に多かった。道に乞食がわき、汚れた服を着て目が座っているような人たちだ。ただ、其れなのにもかかわらずその人たちの会話は明るいようにも思える。


「ああ、社長さん」


道行く老人が僕に声をかけた。僕が知っている顔ではないが向うは知っているらしい、僕は工場を立てたこともありそこそこ有名な人物なのかもしれない。


「なんだ爺さん、僕はあなたを雇う気はないぞ」


「いいえ、わしはすでに奉仕団で働いておりますから、それよりも聞きました?悪党が職業選択の限定的自由を認めたのですよ!」


「限定的?すべてではなくてですか?」


「まぁ、正統グリーフラントの高級幹部は政治結社という性質上指導者のアマーリア様や軍元帥のヴィンセントなどといった人たちは変わることはないそうです。でも、それも期限付きで彼らは世襲することはないと銘打っておりますからあと100年もしないで職業選択の自由は保障されます。しかもそれは憲法によって保障される約束もあるそうです!」


「はぁ、ついにこの国は立憲君主制を採用する動きが出ているのか」


我々は専制君主制だ。平たく言えば法よりも王の権威が強い働きを持つ君主制である。これに比べ立憲君主制は法が王よりも強い権威を持ち不可侵であるとなっている。恐らくそこまで高度にはなっていないが。それでもなかなか近いところまで来ているのではないだろうか?


「これで小作農はこの世からいなくなり、我々平民が議会に参入しなおかつ貴族と同等、素晴らしいとは思いませんか!」


「そうですねぇ、考えてみれば軍の幹部や公務員は貴族ですもんね、それが悪党が貴族を追放したことにより平民のみの国が出来てしまった。つまり平民を採用しなければ国が機能しなくなったのでしょうねぇ」


「ええ、今や大卒の聖職者が軍人に、商人が公務員に、農民が商人にと何でもできますからね。こんな国なら悪党でも大歓迎ですよ!」


はぁん、でもそんなこと急にやって大丈夫かねぇ、果たして教養格差による影響がどこまで出るかがわからないとどうしようもないんだけどねぇ。まぁ、そこはアマーリアがいろいろと考えてくれるんでしょう。僕は其れよりも今日の発展にいそしむとしますか、そこまで大きなことではないけどそれでも重要な国の機能の一つが技術ですからね。


「ところで爺さん、最近何か困ったことはありますか?これがない、あれがほしい、こんなのがあったらなぁとか」


「へ?物はいつも不足気味じゃないですか、自由都市国家群との貿易でものが入ってきてだいぶましにはなりますたけどね、でもしいていうなれば服が高いですね、ここは古着屋がないからなかなか買えなくって」


「服、そんなに高いのか?」


「はい、ハルマ様服は原料となる布自体が希少で高価なため一般市民は古着を着ることが一般的です、衣服の原料としては毛皮や羊の毛、麻、絹などがあります。特に絹は高価な代物で貿易の目玉としても大変な注目を浴びています」


フェリシーが補足を入れるように僕に説明した。なるほど、では絹の生産が出来れば国内外ともに需要のある商品として作ることが出来そうだ。でも絹ってどうやって作るんだ?確か蚕が創る糸を使ってやるんだっけ?蚕って中国が原産だよな?どこにいるんだ?


「フェリシー、ここら辺あたりに蚕はいるの?」


「いえ?おそらくここいらに蚕はいません、もっと南寄りの方にいるのではないでしょうか?」


「そうか、爺さんありがとうな、また話そう」


晴馬は肩を落とした。製糸業や絹の生産ならばあの水車を使えば大量生産でき需要に応じられるだけの能力があることを知っていたからだ。イギリスの産業革命がそうだったからである。


「ああ、ほかに何か欲しいものはないものか」


「社長、それなら私いいこと思いつきました。商人ギルドの跡地におそらくここの輸出品目と輸入品目が書かれているはずです」


「おお、それだ、さっそく見に行こう」


商業エリアはギルド解散と同盟の影響で活気づいていた。理由は商業がアルノーによる大きなテコ入れを行われたことやウーダンカーク奉仕団による道の整備によって陸の貿易ルートが整備され馬車の移動がしやすくなったこと、銃製造に大量生産が可能になり商業都市・工業都市としての性能が上がったことで広く発展したようだ。道行く人は往来が激しく職人は仕事を、商人は接客をと忙しく暮らしている。


「これでございます社長」


「ありがとう」


ギルドのあった屋敷は今は商館としての機能が高い。まだ貿易をしていない他国の商人がこっそりと入ってきてここの品定めを始めている。僕としては悪党の幹部として見過ごすわけにはいかないのではあるが、今は国もドコモ金が必要なので無視することにした。商人が持ってきた資料に目を通し、さっそく輸出に対する。


「ここがまだグリーフラント王国の領地であった頃は空船による貿易が盛んだったようだ。空港は陸の淵に置く必要がなく都市部に直接的に物資を運ぶことが出来た、と書いてある。ウーダンカークにも空港があるのか?」


「ありますよ?ただアマーリアの軍勢を見た途端、商船や空賊の連中が逃げ出して今は空き地みたいなものですけど」


「ふうん、では輸出品目は・・・ん!?」


晴馬はとあるページを見て驚いた。それはもう点であり、逆転の発想であるからだ。その品目はおそらく国家の課税の対象であり、それを持ち替えた商人の利益は原価の数百倍ほどの利益を生むことになるだろう。


「なんですか社長?・・・おお!」


「どうしましたお二人方・・・ん?何か変なことろがあるのですか?」


フェリシーはわからなかったがほかの二人にはとても興味深いものが入っていた。それは・・・ここら一体が『香辛料』の生産地であることが分かったのだ。


「香辛料って、確かめっちゃ売れたよな?」


晴馬は興奮気味にカロリーネの方へ向く。


「めっちゃ売れましたよ、香辛料は食事の色どりとして使われていると思われがちですがそれはごく一部でお香や薬用など多種多様に取り扱われており、値段の割には体積を取らない商品のため船に詰め込める量は総額にして・・・ぐふふ」


「へえ、でもカロリーネさん、何で今はそれが見当たらないんでしょうか?」


僕とカロリーネは顔を見合わせる。確かにその通りだ。そんな商品があるのならここの商人がそれを貿易に使うはずだ。なのに何で道行く馬車に積まれていないのだろう。その真相を知るために僕は商人に聞いてみることにした。会議所の商人はそれを聞いた途端大きなため息をして事情を話してくれた。


「確かにここがアマーリア様が支配する前は香辛料の貿易が活発だった。ただ、謀反モンスター軍で攻めてくる時にギルドの支配層の連中が皆畑事燃やしやがったんだ。誰かにとられるのが嫌だったんだろうなぁ、そんなこんなでここにはもう香辛料はないって、あんたがたにもここのマーズ王国の商人にも教えてやってんのさ」


「きゃ!ハルマ様!カロリーネさん!しっかりして起きてー!」


二人はうなだれるように倒れ込んだ。フェリシーは其れに驚き人を呼んでいる。次に僕が目覚めたのは社長室でカロリーネと川の字になって寝ていた。カロリーネはまだうなされていたが、フェリシーが介抱してくれたようで水で濡れたタオルをデコにつけてくれた。彼女は僕が目覚めるとすぐにこちらにかを寄せ、息をしているかを確認する。


「よかったぁ、ちゃんと生きてたぁ。心配しましたよ二人とも倒れ込んで、私じゃあ二人は運べないから下水工事をしていた奉仕団の方に手伝ってもらったんです」


「ああ、そうだったんだ。にしても香辛料もダメって、とほほ、とんでもないことになってきたなぁ」


「何を言っているんですか!ほかにも売れるものはたくさんありますよ!」


フェリシーは晴馬を勇気づけようと励ました。だが、晴馬はほかに何を売れるのか考えられなくなっていた。というか原料を売ること自体に抵抗を感じるようになったようで、やはり自社品を世界に届けたいという野心に近い物が沸き起こった。そももそここにはもう売れるもは残ってない。こうなれば自分で売れるものを作るしかないんだ。


「そうだよ、売れて、作れて他国がまねできないものを作ればいいんだろ?ならば精密部品だろ?今まで高かったものを安く作ることが出来れば誰だって買うだろう?なんだろうか?今まで機械を作るうえで苦労した部品を探せば何かきっとあるはずだ・・・」


部屋を舐めるようにして何かないかと探し始める。もはや考え方が短絡化してなんでもいいような気がしてきたのだ。


「ん?」


そして気づいた。運命的ともいえるとあるものに。


「これは・・・」


それは至る家具に取り付けられていた。ドア、クローゼット、風車や構造物全般の至る処にだ。


「製造方法から逆算すればあるいは・・・」


とにかく情報不足だ。まずはこの世界の「それ」についてよく理解しておこう。



晴馬は人に聞いてほしいものを作るよりも自分がほしいものを優先することにした。きっとそうすればほかの同じような境遇の職人が買い付けるに決まっていると判断したからだ。思考を重ね部屋にこもって紙にいくつか候補を書いてゆく、そして熟考の限りを尽くしカロリーネがようやく目を覚ました翌朝にやっと思いついた。


「ねじだ!ねじがあほみたいに高くて苦労した思い出があるぞ!」


「ふああ、おはようございますって、きゃ!」


晴馬は起きたばかりのカロリーネの肩を掴み、血走った目で見つめる。


「え?社長、まさか男だからってそんなに、あん!確かに私はグラマナスボディだけど積極的には弱いというか・・・」


「許可をくれ!」


「へ?へえええ!どっちですか下、上!?どっちもまだちょっと・・・」


「発明の許可をくれ!」


「あ、ああそっちか、何を作るんです?ちょっと肩痛いんで離してください」


「いいか?!僕はねじを大量生産するぞ!」


「はぁ?!そんなの売れるわけ「売れる!」」


晴馬はそういってインクと紙を用意してすぐに書き出した。


「いいかい?ここの世界のねじはとても高価だ!なぜなら作るのが非常に困難で手作業だからだ、まずは熱い鉄を打って頭部のある釘にする、そうしたら次に弓のこぎりで溝を掘り、旋盤のようなものに取り付けてクランクを回して手作業で刃物を動かしてねじ山を作るんだ。しかしこれも手作業がゆえにねじ山が浅くて不均等だ。しかも時間がかかるから高価でバラ単位で売っているぐらいねじは高いんだよ!」


挿絵(By みてみん)


「そうですね、社長が機械を作る時使うねじは全部均等だから気づかなったですよ、ってことは!」


「そう、あれは機械で作っている自社製品なんだ。甲冑職人や鉄砲職人がねじは自作していると聞いて作ることにしたんだ。高くて品質の悪いねじはいらないからね、すでに準備はできているんだよ、僕たちには旋盤があるからね」


晴馬とカロリーネはすぐに工場に向かった。そこにはハルマの作った機械が今日も稼働している。その中をかき分け、ついに晴馬は例の物を発見する。


「見てくれカロリーネ、まずはこの水車が動力源の旋盤にねじとなる金属片を取り付ける。そうしたら旋盤を回転させてやすり掛けでねじの頭を作る。できたら回転を止め、次に回転のこぎりの刃に取り変えたフライス盤で頭部に溝を掘る。そして再び旋盤に戻し、親ねじに取り付けられた刃物台でこのねじ切りバイトを使えば一定の間隔でねじ山を作り、なおかつ深いねじ山のねじが出来上がる。大量生産はできるし、ねじ自身は需要が増すばかりだ。ドアの蝶番、銃の発火装置の取り付け、甲冑、家具、船、家、こういった木工用のねじにはねじの先端を鋭くする必要がある、そして先端までねじ山をもうけないと保持力が落ちる、ここは研究するしかないな」


晴馬は自信を持た主力商品を目の前にしてようやく安堵した。ほどなくしてハルマの読みは当たった、安価となったねじは晴馬の考案する機械によりさらに安くなり、需要に十分対応できるほどの生産量を上げることとなった。しかも各国の職人がそれを求め大量発注をしたい動きも見られたのだ。アマーリアの政治手腕によりそれがどう動くかは知らないが、少なくとも外交の材料としては十二分に機能することが出来たのであろう。しかし、なぜ硝石の鉱山があるのにもかかわらずそれを輸出しようとは思わないのだろうか?



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