33 工場完成
「社長ぉ・・・休んでいいですかぁ?」
ぐったりとした体でカロリーネは机に倒れ込む、彼女はここ数週間これでもかという数の書類をかたずけているのにまだ仕事が終わらないことに恐怖を覚えていた。晴馬は晴馬で朝から晩までずっと何かを作っている。先日ねじ職人から貰ったっという【ねじ切り旋盤】を改造してほかのものを作ったり、特注で作らせたりしているらしい、技術漏洩を防ぐため部品ごと別の工房に頼んだりしているため。非常に事務処理が厄介だ。工具もあほみたいに買って何がしたいのやら。
「だめ、むしろもっと働いてよ、君は事務全般と資金運用は任せているでしょ?土木工事やウーダンカーク奉仕団への建設要請はどうなったの?」
「既にやりました、ほかにも建設職人にもあなたの言う【工場】とかいうものを作らせています。しかし何であんなに細かい【水車】の設計図を描いたんですか?おかげで水車職人にめっちゃ怒られましたよぉ」
「あれが一番効率がいいからさ、水車はね、多くの条件がそろえばそろうほど効率のいいものだからね、それよりもそろそろ人を雇ってよ、やることが多すぎて人手が足らないんだ」
「雇ってますよ40人、でもそれでも間に合わないんですよぉ、下の階に行ってみます?みんな過労死寸前みたいな顔をしてますよ」
「まだ無職の流民がいるだろう?そいつらを徹底的に雇い入れろ、彼らには工員になってもらうんだから」
「未熟な職人以下の連中にそんなことできるわけないじゃないですか」
愚痴ををこぼしているうちに新たな書類がしたから巻き上がりカロリーネを余計に苦しめた。社長室のドアが開き、フェリシーのお茶が入る。カロリーネは目に涙を浮かべながら茶を取ってすすり、ほっと一息を入れる。フェリシーに礼を言うとフェリシーもニコッと笑い、休憩時間のような憩いが出来た。
「ああ~、おいしいよ。ありがとうフェリシー」
「ありがとうございますカロリーネさん、仕事はどうですか?」
「最悪だよフェリシー、この人大量生産できるとか言っておきながら数週間何の結果も出さないであそこでずっと作業しているんだよ?どう思う?」
「ははは、ハルマ社長は変わってますから、きっと慣れますよ」
二人はおしゃべりをしながら例の社長を見た。いくつもの設計図をかきながらなおかつ製作をしている彼はどこか不気味で、作っている装置の部品が組みあがったりするとたまにこぼす笑顔が気持ち悪かった。どうやら作っている機械が完成間近らしくここ最近は寝ないで作っていることもある、いったいそこまでして何をやろうとしているのか、二人にはただ見守ることしかできなかった。
「よっし出来たー!」
晴馬の大声が響き渡る、疲れた目をこすりながらカロリーネは眼鏡をかけなおし、その完成したものをまじまじと見る。
「やっとできたんですね!おめでとうございます!」
フェリシーは別にその機械に興味がないが晴馬の功績をたたえてとりあえず拍手をした。
「なんですか・・・これ?」
カロリーネは完成したといわれるいくつもの歯車と一つの刃物と台を装備した機械を見て質問した。
「変速装置も逆回転もしない木製横フライス盤だ、工業高校に合った物を見よう見まねで基礎的機構を旋盤から改造した。しかし、時間がかかったぁ、後は入力軸(要は原動機からの伝導をつなぐ回転体〕に原動機からの力をベルト伝導させればいい」
「はぁ、それでこれが何を意味するのですか?」
「これが大量生産方式を発展させる材料となる、後はあれが来れば・・・」
「は、ハルマ様ー!大変お待たせしました!」
ドアを勢いよく開けて小太りの商人が入ってきた。彼はミューシュタットの大商人であるアルノー・ライナーという男である。覚えている人はああいたねそんな奴と思っていただければそれでいい。晴馬は木箱を開けようとバールをもってきて、こじ開けようといじいじとしている。
「うん、本物だ。先日の自由都市群の人への話をつけてくれてありがとね、おかげで経済協力できて国力増進だよ、カロリーネ、支払いの料金を」
「はーい、了解です」
そう言ってカロリーネが金庫から出してきた袋を見てアルノーは驚愕と共に満面の笑みを持った。手に取ればわかる重み、そして輝かしい光沢、商人としてやり切った後の報酬は至高の喜びなのである。いい年をこいてぴょんぴょんと跳ねながら金貨袋を受け取り、書類を提示する。
「それでは受領書にサインをお願いします!嫌ぁしかし見つけるのに苦労しましたぞ!あなたの言う特徴の木はそうはありませんでしたから」
「僕もここが温帯気候でなければどこにあるかなんてわからんかったよ、熱帯雨林がそこら辺にあるし、朝は湿気高いし、冬でも雪は降らないらしいし、もしかしてと思ってね、お礼に君にはこの国の陸運王になってもらわないといけないなぁ、興味ある?あるならウーダンカークに引っ越してよ」
「ええ!ハルマ様のいる場所で流通を牛耳ればもう敵なしですよぜひやらせてください!今は儲かんなくたって直ぐにもうかりますからね、あの装置のように」
「了解だ、すぐにアマーリアに打診してあげるよ」
二人の怪しい笑顔と握手を見たカロリーネにはハルマとアルノーの会話がブラックマーケットのようにしか見えなかった。というかあのアルノーという男は王宮で噂された彼のみ高い課税を取らせようかと言われた男爵ではないか、爵位返上をしたらしいが仮にも元グリーフラント貴族であるにもかかわらずこんなところにいていいものなのか?
アルノーが帰った後、カロリーネは晴馬の机においてある開いた木箱の中身に興味を持ち、少し覗いてみることにした。中には毛のない動物の皮の絨毯のような細長い長方形の黄色いものが入っており、独特の臭いを発していた。
「うえ、なんですかこれ?感触も気持ち悪いし臭いし、こんなもののためにあんな大金使ったとか馬鹿じゃないですか?」
「馬鹿となんだゲス子、これは天然ゴムと言って生産量に限りがあるからスゴイ高価なんだぞ?アルノーが金持だから特別に作ってもらったんだ、わが社の業績が黒字になったらゴムの製造会社立てるからその時の準備もしといてね」
「その前に初期投資で破産寸前ですよ~、いい加減今日には工場稼働できるんですよね?」
「うん、多分できると思う、じゃあ行くか、フェリシー、悪いけど完成式の支度を」
「ご安心くださいハルマ社長、既に用意が出来ています後は行けばすぐにでも始められますよ?」
フェリシーは司会進行の計画書を一方に持ち、もう一方には食べ物を運ぶためのウェイターのトレイを持ち合わせて用意は万全だ。
「では行こうか!わが社初の工場へ!」
工場は川の近くに建てられているいたってシンプルな正方形の工場であった。しかしそれは平成生まれの晴馬にとってはであってほかの者にとってはあまりの巨大さに要塞が立ったのかと噂されたほどだった。資材置き場や業種ごとの工作室が軒を連ね、工場の完成式には多くの建設参加者や職人が参加した。この工場建設は相当な数の土木工事や建設が行われておりウーダンカーク奉仕団の労力だけでは足りなかったためアマーリアに頼んでモンスターにまで協力させて作った力作である。晴馬は工場の前に置かれたスピーチ用の台に上り、皆々様の注目を集めながらカチコチのスピーチを披露する。
「皆様お待たせしました!これよりウーダンカーク製作所社長のハルマが皆様へのスピーチがございます、ぜひお聞きください!」
フェリシーの音頭により晴馬は口を開けるも、どもってうまくしゃべれなかった。
「あ、あー、本日はお日柄もよくまことに晴れやかな空でー」
「ありゃりゃ、相当緊張しているよ」
客席からカロリーネは社長の登壇を見守って食事をしていた。自分としては司会進行でもやるのかと思ったが既にフェリシーが執り行っていた。おかげでのんびりと社長をバカにできるネタを見つけつつ、いまだ終わりを見せない書類を片付けるつもりだちくショー!これじゃ会社の外も中も変わんないじゃないか!
「わが社はとある人物から資金提供を受けて設立に踏み切り、ついにここまで来れました。すべてはそのお方と皆さんの働きによって実現した事で非常に感謝しております、そこでせっかくなので僕からこの工場の特徴を申したいと思います、ズバリ【銃の大量生産】を目的とした工場です」
「いよー待ってました!」
「教えてくれその方法!」
職人たちから声が上がる。彼らは工房ごと会社に入社して来た職人たちで、正直あの後賛同を得られなかった職人たちもいたため全員を雇用することはできなかった。ただハルマ自身は「幹部候補がほしいだけ」だったらしく、彼らだけでも十分に生産性は上げられるそうだ。
「マスケット銃は非常に高価で生産性がないように思われます、しかしながらそれにはいくつかの欠点があるからだと僕は発見しました。それは手作りだからです。あるマスケット工房をみたとき、銃身職人が作った銃身を何個か比べてみました。職人は同じ部品をいくつも作っているはずなのに銃身はそれぞれ長さや円筒の径が統一性がなく、ほかの職人たちが作っている部品も同じでした。結果、それらがはめ合いで作られることで世界で一つだけの銃が出来てしまったのです」
あたりにどよめきが出る。いったい何を言い始めているのかと不思議がったのだ。
「な、俺たちの仕事を馬鹿にしているのかー!」
職人の一人の男がキレて晴馬に叫んだ、だが晴馬はスピーチをやめない。
「手作りは精度が異常に低く作業性も悪い。それがマスケットにどのような影響を与えたのかご説明しましょう、銃は使い捨てになりました。それは世界に一つの銃は壊れたら修理できないからです。仮に職人が戦場の鉄砲隊と共に従軍したとしましょう、恐らく火薬の発火機構に何か詰まって動かないのような比較的軽微な故障であれば職人の手で直るかもしれません、しかしもし発火装置の固定ねじが飛び、発火装置が壊れてしまっては仮に工房に持ち帰っても直すことはできません、なぜならそれの代用品は存在しないのですから」
晴馬はそういうとフェリシーが持ってきた銃口に赤いインクを塗ったマスケットの銃身を持ってきた、それぞれを横に並べて見せるとインクは凸凹の線のようになりその統一性のなさは一目瞭然であった。それだけではない、発火装置の火が銃内部の火薬に二次引火を起こすための入り口穴の位置も手作業であるがためそれぞれ違うとこにあった。つまり、穴の位置に合わせて発火装置もそれぞれ個別に作る必要があるわけだ。銃身がバラバラなら装置もバラバラ、これが晴馬の言う【世界で一つだけの銃】たるゆえんなのだ。
「そこで私はこれを使って解決することにしました」
晴馬が手に持っているのは定規で逢った。ただ、何の変哲もない定規だ。
「そ、それで何ができるってんでい!こちとら売り上げかけて何もかもまとめて手を貸したんだ!下手なこと言っているとぶっ飛ばすぞこらぁ!」
職人が酒瓶を晴馬のスピーチ台へと投げるも晴馬は動じず、スピーチをつづける。
「つまりは【互換性】ですよ、どのような部品も統一して似たようなものを作ればいいのです。どこかの部品を壊れてもそれに似た交換可能な部品を作れれば銃は捨てられません。作るのにはめ合いをしなくてもいいから手間もかかりません。手間がかからない上作った部品をくみ上げれば銃になる、それは大量生産を可能にします!そしてそれが出来る能力がこの工場にはある!この工場は世界初の【互換性部品】製品工場になるでしょう!」
晴馬はそういって背後の工場に指を差した。観客にとって今晴馬が刺した工場は初めに見た工場とは全く違う物に見えていたことは間違いない。その壮大さに皆が驚いた。活気的だとか、革新だとか、そんな言葉では言い表せないまったく新しい発想をここで皆が聞いたのだ。出来るなら学びたい、やれるならほかの分野にも応用が利くと、商人が職人が誰もが心に抱いた。だが、その言葉を晴馬が言った途端多くの悪党が向上を取り囲み何人たりとも入れないよう警備体制が敷かれるようになった。呆気に取られて誰もが入ることはなかったが、入ろうものなら殺されていただろう。
「残念ながらこの工場は入れる人を制限します、それはその製作過程をほかのものに見せるわけにはいかないからです。企業機密と考えていただいていい、では技術伝搬を希望する職人や社員諸君、この工場で見たことは守秘義務を課します。職人はわが会社の傘下に入る契約書と誓約書にサインしたものから入ってきてください、後の方は引き続き祝宴をお楽しみください」
晴馬はまず初めに工場に入った。それにつられるように一人、また一人と職人が黙って入っていく。カロリーネはすぐさま立ち上がり、書類が風で飛ぶのも目にくれず晴馬の元へと急いでいった。その顔には焦りの顔が出ており、誰もを払いのけて工場の中に入って行った。
「ここにあるのは切削機械、機械を使ってものを削ることを目的としたものです。これであなた方の仕事の時間をいくらか軽減します。ここには横フライスと僕のお手製の丸棒削り器があります。これは旋盤を改造した自信作です。」
晴馬に誘導されついてきた職人達はその機械を見ておどろいた、フライス盤は木製であったが旋盤には一部金属でできているところもあったからだ。金属で機械を作るのはその作り方から相当な困難を巻き起こすのであまり利用されることはなかった。だが、この男は不細工ながらも金属で機械を作って見せたのだ。そのあくなき執念は只者ではないことは誰もが感じることだった。
「これらは機械ゆえ同じような物を作ることが出来ます、フライス盤は縦に回転する円形カッターに物を押し付けることで切ることが出来る優れものです。固定台はありませので両手を使って品物をおさえ付ける必要はありますがそのため自由な曲線や直線に切ることが出来ます銃床のような複雑な形でも厚板から原型ほどの形に仕上げることが出来ます」
これは職人に大きな衝撃を与えた。銃床は大きな角材のような素材を刃物で一から削らなければならない大変重労働な品物だからだ。しかし、晴馬は実際に角材に銃床のシルエットを書き、実際にやって見せた、するとどうだろう。刃は決まって縦にしか回転せず、押し付けても直線的にしか切れないはずなのに見事に物の数分で作り上げてしまった。
「これならば今までより大幅に製作時間を削減できる」
一人の職人が震えた声で言った。
「しかも熟練の技は必要ない」
晴馬が笑っていった・。
「このほかの機械、丸棒削り盤は今だ初期段階ですから問題がありますがそれでも今まで以上の精度を期待できます、改良点としては本来はバイト(刃物)は手にもって回転している金属にこすりつけて切削するのですがこれは違います、手に持つのではなく台に固定するのです」
晴馬はねじ切り旋盤を改造して作った旋盤を見せた。それは以下のとおりである。
(角材になっている方を回転体内部に突っ込みます)
「この旋盤はバイト(要は金属を切る刃物)を刃物台で固定することにより驚くほどの精度を出します、このねじが刃物台の送り(ねじの切っている間を移動すること)をサポートし、一定の間隔で作られたねじ山は刃物台を・・・」
「わかった大将、それで?これはどういったものが創れるんだい?」
先ほどから意味の分からないことばかり言う晴馬に対しさっさと性能を教えろとのお達しが職人から来た。
「あなた方が平べったい板をカンカン叩いて円筒状の銃身にしていたものを、これならば丸棒(丸い棒状の金属や木)をもってきて外を削り円形にして、中をドリルで削れば早く銃身を作れます」
「ドリル?ってなんだ?」
「キリの一種です、これも切削工具として使われ、ねじ旋盤を改造して作れるようにしました。回転している物に押し込めば勝手に穴ができる代物です、これも刃物台のようなものにドリルを固定すれば任意のところに穴が開きますよ?」
「つまり、銃身の作る時間が減ると」
「圧倒的に減りますね、これらの機械は水車で動いているんですよ」
「水車?粉を引いたりするあれか?」
「いいや、もっと特殊なものです、あれを見て下さい」
晴馬はそういって窓の外に映る水路を見せた。そこには水中に横になって沈んで可動している木製水車がそこにはあった。
「あれはフルネイロン水車といって一部鋳造錆びない特殊金属を使っています、力としては50仏馬力27キロワット、あれの中心でぐるぐる回っている棒が出力軸といって車輪を用いて回転運動の向きを変えゴムによるベルト伝導で機械に動力を与えています、水源と水量を確保するために巨大な土木工事をしましたよ」
余りにも壮大すぎる工場見学に職人たちの脳のキャパシティーはほとんどなかった。だから彼らはほしい情報だけを手に入れることにした。
「はぁ、それでここの工場の物すべて動かせるのか?」
「まぁいくつか作れば問題なく」
「すげぇ!これだけでも相当な発展ぶりだ!」
「そりゃあ300年は発展しますからね」
「まったく新しい工房だ、ここにある機械はいったいどうやって作ったんだ?部品はどこの職人から購入している?ここまで精緻なねじや部品は見るのは初めてだ」
「部品?満足のいくものを作れる職人がいないから僕が手製で作り、それを組み上げた機械で部品を作る。初めは木製の機械を作り、それを少しずつ金属に変えていく。それの繰り返しですよここの部品は」
晴馬は鼻で笑いながらそのために捨てられた失敗作の数々を捨ててある部屋に連れて行った。その数は100は優に越した部品がちらばっており晴馬が自作した工具やねじ切りのタップやダイスの姿もあった。
「なんという執念だ」
「でもこれだけでは済まさない、僕はもっとすごいものを作ってやりますよ!僕はほかにも装置を作ったんです!よければ見てください
晴馬はそういって高らかに笑いながらあたりを自慢するように両手を広げた。彼は自分を賛美していた。ここまで作るのには必要な物が多すぎたがないものばかりであったため。初めは自作し、それを組み合わせて工作機械を作り、作った機械で部品を作るというまさに時代の進歩を地で行った技術者であると胸高らかに晴馬は感じた。そもそも、中世当時の機械には一方方向に回転しない機械などざらにあったにもかかわらず、精度を乱す恐れのある事項なため一方方向に一定速度で動く機械を発明しただけでもあほみたいな快挙である。そんなものを晴馬が創れる理由は教科書だけでなく、とある人物の信仰者であったのが影響する。
「ありがとうヘンリー・モーズリー(1771年– 1831年)!貴方の教えは確かに受け取りましたよ!」
声高らかに喜びを表現している晴馬に対し、どこからともなく声が聞こえてきた。それはとんでもない勢いで猛ダッシュしてくるカロリーネであった。
「うおおおお!社長書類が来ましたよおおお!」
「は?」
カロリーネの渾身の書類アタックを食らった晴馬はその場に倒れ込み、うなりながら気絶した。
「はぁはぁ、あ!ごめんなさーい!社長ってば過労で倒れちゃったてへぺろ☆彡今回のお話はこれで終わりですので皆さんどうかおかえりください!」
それには職人も困り顔だ。これからが面白くなってくるところだというのにわざわざ潰しにかかるとはわからないやつだと皆が思った。それ故に職人の顔は曇り、動揺しているように見える。
「え、しかしまだ説明はあるように見えるが・・・」
「ですから!今日は切り上げなだけで明日になればまた行いますから!」
「う、う~ん何をするんだカロリーネ」
「っと間違ってエルボー!」
カロリーネ渾身の一撃が晴馬に床と頭のタップダンスを披露させる。
「エルボに間違いなんかないでしょう?!」
職人の一人が突っ込んだ。
晴馬はその場で痙攣して気絶した。カロリーネはそのまま社長を肩に背負うと、くるっと呆気に取られている職人達に向きなおした。彼らはないが起きているのかわからない恐怖にかられ引きつった顔で立ちつくしてるいた。
「ではまた明日お会いしましょう!さらばだー!」
かくして疾風の如く走っていったカロリーネの背中をを見る事しかできない職人たちは間もなくそれぞれ解散した。
「起きて下さいハルマ社長!起きて!」
カロリーネ往復ビンタによる鈍痛で目覚めた晴馬は自分がいる場所が工場ではなく会社の社長室のソファーあることを不思議に思った。だが、断片的な記憶が編集されるにつれその原因となる事象を理解するに至った。ノックされたドアが開きフェリシーが水袋を持ってくると、晴馬の寝ているソファに腰かけてたんこぶの出来た頭にそっとつけてくれた。
「冷たいですかハルマ社長?」
「あ~、気持ちいよフェリシー、目の前の謀反人には解雇通知を出して今日から君が秘書官だ」
「何ふざけたこと言っているんですか社長、それよりもあの工場の性能を何で教えてくれなかったんですか!私この会社のナンバー2ですよ?!」
両手をぶんぶん振りながらカロリーネは怒った顔でほほを膨らませて抗議を表明している。
「だって君職人と僕が銃の話している時だってあくびしていたし技術系の話は興味ないのかなーと」
「それは儲け話じゃなかったから!今回の内容見て驚きましたよ!なんですか天才ですか!互換性はどうやって確固たるものにするつもりなんですか?」
「ああ、部品ごと規格を設けることで「しゃべるな!」」
ええ、話せといったのはそっちだろう。余りにも大きな怒号でフェイリシーが怖がって僕に抱き着いてしまったではないか、見よ彼女の涙目を、今にも泣きだしそうだぞ完璧に不意を食らった感じではないか。
「ハルマ社長、なんだかカロリーネさんがとても怖いんですが・・・」
「問題ないよフェリシー、これが彼女の本性だ」
「誰の本性だ誰の!いいですか社長!貴方は金輪際人に技術伝搬をする場合は私の許可を得なければなりません!いいですね!」
「えー」
「エーじゃない!」
「ひっ!」
カロリーネは事の重大さがまるで分っていない晴馬に腹を立て応接用の机を勢いよく叩いた。フェリシーはついに泣く寸前まで追い詰められ晴馬に強く抱き着いてきた。
「私はあなたの秘書官であり正統グリーフラントの秘書課の党員です!貴方が上司であろうともなかろうとも監視義務がある!貴方は技術伝搬の恐ろししさとそれが我が正統グリーフラントに与える影響を理解できていない以上制限をかけるほかないでしょう!」
晴馬はその言葉に不満を感じて目を細め、前のめりになって彼女の顔を見上げる。
「監視義務があるのと人のやり方に口を挟むには違う、そこまで不満があるならアマーリアに報告しろ、だいたい君はそんな監視の網に引っ掛かってここに来た犯罪者だろ、そんな奴に言われたって守る筋合いなんかないね」
「ムカー!こちとら善意で言ってやってんのに、いいですか社長!もしあなたが誰もが想像しない新型の銃を販売したら世界はどうなると思いますか?会社の商品を披露しながら行ったらどうなりますか?」
なんだその質問は、これはあれか?以前ユッタが僕を冷静にするために行った質問と同じものか?つまりはどんな答えを出しても意味がなくただ視野を広げることが目的のリラックス運動みたいなものである。何でこのタイミングでそれを行うかわからないが僕が平静ではないとでも思ったのだろう。どう考えたって彼女の方がご乱心だというのに、仕方ない、下手にこたえてもしょうがないしここは史実にあったことを参考にして考えよう。新型というんだから機関銃とかだろうか?するとガトリングあたりが適当か?ガトリング販売初期の状態は・・・。
「多分あまりにも画期的過ぎてその武器運用した戦術が確立されずに売れない」
「そうです!しかし社長は【求められたものを作る】能力がある。それはさぞ便利で社長がどんどん発展させることでしょう。今回の大量生産を目的とした加工機械導入が例です。貴方はこの世界にはない知識がある。それを活用することは必ずしも世界にいい影響を与えるとは限らないんですよ!」
「なんだかローレみたいなことを言うな、それはつまりどういう意味だ?」
「軍事で例えれば貴方に対抗した国が技術競争をかけるかもしれません政治なら高度化するかもしれません、技術は間違いなくとめどない進化を遂げるでしょう、それも歪に醜悪な花を咲かせることだってあるでしょうねぇ」
「あ・・・」
晴馬はしまったといった顔をしている。それはカロリーネが警戒している事項が晴馬がアマーリアに政治アドバイスをかけないのと同じ理由であったからだ。つまりは急速発展に伴う混乱だ。これは社会をひっくるめて大混乱を引き起こす可能性があるもので【災害】と呼んでも間違いないだろう。産業革命は社会システムを急変し第二次世界大戦はあっという間に世界を二つに分けた。どちらも軍拡や技術進歩の速さがどの時代よりも急速であった時代である。それに人類が追い付けなければ決まって暴力に利用とする本能があるのだ。現にこの二つの時代で生まれた発明のほとんどは軍事利用された。
「作ってしまったものはしょうがない、幸いにもこの街の職人は秘密主義です。でもいいですか、これ以上は、これ以上は気を付けて慎重に執り行うんですよ?」
念を押すようにカロリーネは小指をハルマに指す。指切りがこの世界にあるのも驚きだがそんな口約束以下のことを使ってでもカロリーネが繋ぎたい世界の最低限の秩序を晴馬は感じた。そして晴馬も彼女の小指に自らの小指を結んだ。
「いいですか?作っても漏らさない、約束できますか?」
「ああ、約束するよ」
その言葉を聞いたカロリーネはひとまず安堵した顔になり額の汗を拭いた。
「よし、それなら次のフェイズです。工場が雇った職人さん以外にも人員が必要ですが、あの機械操作は今回雇い入れる新人か職人かどちらに操作させますか?」
「新人だ、職人は引き続き発火装置の一部部品や鍛冶での部品を作ってもらう必要がある。短期間で結果を出すぞ、機械操作は素人でもできるしマスケット銃はそこまで精度を求めない、教育を行えばより良い工員がマスケットの質を高めてくれるだろう」
「了解しました。さっそく会社の部下たちに生産した銃の輸送業者や商人を手配させます」
「たのんだ、いよいよ儲かるときがきたぞ」
「軍と傭兵団のマスケット銃の配備はどれほど進んでいる?」
砦の執務室にてアマーリアは隣の机に座るカトリナに質問した。注文台帳を持っているカトリナはちらりとチェックを確認し瞬時に返事をした。
「80パーセントは確保できました。これで強襲を受けても其れなりには戦うことが出来るはずです、またこの会社の製品を自由貿易都市に輸出する体制もできておりますので国益も期待できるかと」
「よし、傭兵団の人員も確保できたし、後は依頼主が来ればいいのだが」
ハルマの作った工場は私の『お願い』を果たすには十分すぎる効果を生んでくれた。彼は我々からの収益を元手にさらにほかの事業として機械製作会社とゴム製造会社を設立し職人たちに売りさばいているらしい。おそらくは軍需会社としての発展の下準備ではないかとハルマの秘書官は報告していた。やれやれ、作ってくれるのはうれしいがここまで発展させるとは、やはりアウタースレーブの考えは我々を遥かに凌駕しているな。
「既に自由都市群へのマスケット1000丁は行商人を通じて輸送済みですから配備はさらに早く終わることでしょう」
「ああ、マスケットは解決したから彼にはほかの方面の奴らの手助けもしてもらおう、解決した旨を後で晴馬に伝えてくれ」
「了解しました・・・どうやら客人が来られたようですのでそのお迎えに行ってまいります」
それを聞いたアマーリはちらっと窓から門にいる連中を視認した。
「おお、さすがは探音のパラディン、外の連中の足音まで聞こえるとはな」
その言葉は耳障りだったらしく、カトリナは眉を寄せる。
「パラディンは昔の話です・・・今は誰でもないアマーリア様の部下ですよ」
アマーリアのいる砦に来たのは同盟を組んだ例の自由都市群、いや、今は有都市国家群の代表がやってきた。何事かと思いアマーリアは部屋に招き入れることにした。
「どうした代表?血相変えて飛んできて、まさかもうグリーフラントの大軍が現れたのかい?」
「い、嫌そうじゃないくて、お前、裏切ったのか?」
「どういう意味だい?」
「なんであんなにマスケットを持っている?こんな短期間であんなに生産できるわけないだろう!グリーフラントからの密約か何かで貰って来たのか?」
「いいや?すべて我が国内で作られたものだよ、銃床の焼き印を見てくれればわかるあれにはシリアルナンバーと生産地が記載されているからな、ハルマが提案した国家規格導入で特定しやすくしたのさ」
「しり、なんだそれは?ともかくそんな巨大な鉄砲鍛冶の町があるのか?職人はどれくらいだ?」
「最近流民を雇い入れていたみたいだから200程かな?」
「ちょっと多いぐらいじゃないか!おまけにマスケット本体の値段も豊作の麦みたいに安くなっているしどういうシステムで作ればそうなるんだ!」
「国家機密だ」
なんだうるさいオヤジだなぁ、いちいちリアクションが大きくて執務に集中できないよ。ここはドラグーンの首長を呼び出して頭の髪の毛でも焦がして帰ってもらおうかな?
「すみませんが代表殿、ほかに用がないなのならお引き取りいただけませんか?我々はいたずらにこうやって会談すること事体、グリーフラント王国の緊張を高める危険性がありますので短時間で済ませるのが得策かと」
アマーリアの秘書官であるカトリナが告げる。彼女の眼は片目がつぶれているためひとつしかないのだが、それ故に人に向けられる威圧感と雄々しさは群を抜いて優秀だ。代表も戯言を言っていることを気づき、静かに腰を下ろした。どうやら彼が言いたいことはこれだけではないらしい。
「なぁ、その話が本当なら、もっと銃を注文できるか?実はグリーフラント以外にも自由都市国家群を狙う連中はいるんだ、そのためにどうしても銃がいる」
「つまり今度は購入するというわけかい?まさか僕たちの武器を買って一般に出回っているマスケットと同じ値段で売るとか言わないよね?そうしたら差額で儲かるもんね?」
アマーリアは敏感に感じ取ったハイエナの存在をすぐに見破る。
「ぐ・・・」
「まあね、自由都市国家群は昔から多くの商人旅団の交易ルートのど真ん中にいるからいつでも売れるよね、でもそうやって儲けるのはいただけない、こっちにだって商人はいるんだ彼らに卸して各地に販売するさ、でもまぁ防衛力を懸念することは重要だよ、商業主義の君たちは傭兵に依存するところがあって常備軍がいないからね。そうだ、なら我々の鉄砲傭兵団を雇いなよ、それなら銃をもって防衛も可能になるし自由都市群からうちの領土までの警護もできるよ?」
まるで誘導尋問のような流れにならがえず、しかも思惑が筒抜けによりメンツが丸つぶれの代表は、仕方なくそれに応じることにした。
旋盤の図がわかりにくい方は実際の旋盤と比べてみてください。
今回の挿絵はあくまで当時のねじ切り旋盤を工業高校生が改造したらこうなるという予想図であって現代と比べてはゴミみたいな精度しか出せません。
例:基準ねじが動かない&バイトの移動範囲がX方向しか動かないのでY方向は手動でバイトをいじる。
例:当時の金属加工が未熟なため主人公どおり、まずは手で作る→部品をくみ上げて機械に→機械でまた部品を作る以下繰り返しといった感じですので以上に時間がかかりおそらく数十年はかかる恐れがあるにもかかわらず精度はゴミ。
例:どう考えたって描写の足りてねぇ親ねじの刃物台ブレーキ機構(思いっきり気力が失せて書いていない模様)
丸棒の固定がはりの性質上不十分なため固定が難しい。
など多数あります。これを仮に近代的な旋盤であるモーズレーの旋盤程にするには技術的に無理と考えました。あとでいろいろ改造してそういった旋盤にします。




