32 会社設立
「それでは、現時点をもって悪党と我が自由都市群は通商同盟並びに安全保障条約締結を宣言する。それで異論はないか?」
自由都市の代表は難しい顔をしながら書面をにらむ、それは内容に不備がないかを調べているのではなく、敵の根城にのこのことやってきてしまった自分に腹が立っているからだ。今回はうまい話があるとマティネスの豪商が言っていたものだから来てみれば、あろうことか隣の領土を持つ時の大悪党【悪党】の占領している伯爵領ではないか、こんな所にきたことがグリーフラント王国に知られれば我が自由都市のみならず都市群そのものが侵攻対象になる危険性がある。冷汗を流し、サインする前に文句を言おうとアマーリアをにらんだ。
「ははは、私は貴方に相当都合のいい同盟を結んだつもりなんだが、ここに書かれている内容には諸君らの近くに住むモンスターの被害を軽減することも書かれているし、経済協力も行おうという働きもウーダンカーク名物【マスケット銃】1000丁の無償提供も行うような内容だ」
「…確かに、あんたの言う通り内容自体は平等で素晴らしいものだし実行も可能だろう、だがね、我々は領邦としての地位もある。君の領土は統治者のいない無法地帯じゃないか、そこと同盟をしてもし我々がグリーフラント王国との緊張を高めた場合、どういう結果を招くかわかっているのかね?」
わからない人に説明しておこう、領邦とは国家の領土ではない強い権限を持つ私有地と考えると妥当である。ただし
「それは私と協力しなくても同じことでしょう?まさかいまだにモンスターによる交易ルートの被害がただのモンスターによる暴走だと思っているのですか?あれは明らかにガーディナルによって指揮されたあなたの都市の経済能力を衰退させる策です、グリーフラント貴族のね、私は知っていますよ、被害損益は毎年莫大に増えていますよね?傭兵で鎮圧すらできない事態とか」
しれっといえないことを簡単にいのけてしまうアマーリアに代表は余計に腹が立つ。間違いなく彼女は代表の足元を見ながら話を進め、もし守れないのなら王国に何らかの手段で我々が接触したことをリークするもよし、軍事侵攻して占領するもよしと考えているに違いないだろう。だがどうだ?どうせ滅ぼされるのを待つか、大陸最強の王国を敵に回すか、どっちがいいんだ?
「どっちもよくねえええええ!くそお、何でこんなめんどくさいことになったんだ」
「しょうがない、だってあなたも私も小国なのだから」
「あんたの場合国家として成立してないだろ、ただの無法地帯だろう!」
「領土、主権、国民、そろっているじゃないか、この時点で主権国家体制だ、ごもっとも国家の独立やらなんやらはあほみたいな時間の議論を巻き起こるので割愛させていただく、それとも何か?国家承認を受けなくてはならないとかいうのか?こんなに国際政治が未発達なこの世界でそれを言うのか?無理だろ、実現的ではないだろう」
「く~、言いたい放題言いやがって、こちとらどっちに転んでも最悪な状態なんだぞ?グリーフラントに併合かそれとも独立か、あんたはどうしろっていうんだ」
「だから言っているだろう、我々と協力すれば少なくとも存続はできると。それとも領邦の維持をあきらめて国土の一部になるか?好きなように選んでほしい、無論、国土になったら我々は軍事侵攻・・・」
「わかったわかった!あんたの言う通りにするよ!ったく、とんでもないことになっちまった。おかげでこの動乱は収拾がつかなくなる一方だってことわかっているんだろうな?」
「むしろそれが望みだからな、お互い同盟強化で頑張ろう。幸いにも我々には空の交易ルートがある。それを駆使して他国との通商が出来れば希望はある」
その言葉を聞いた代表はまた大きなため息をついた。それは何かこの女は夢物語か何かを見ているのではないだろうかと呆れたからだ。
「どこの世界に大国の敵に貿易をしようとするやつがいるんだ?どう考えたって敵に回りたくないんだから無理だろう?」
「どうかな?我々には凄まじい武器があるからな」
「武器?なんだそれは?」
「まぁそれはおいおい話す、ごもっともそこにサインすればだが」
アマーリアの手が書面を指さした。代表は考える。この女が言う通り数年前から都市機能の衰退を目的としたグリーフラント貴族によるモンスターの工作が行われていたことは知っていた。無論対処もしたが間に合わなかった。対処しようにも何もかもが差が大きすぎたからだ。もしこれにサインしたらそれは止まる。都市間の交易は再び活気が戻る。モンスターは味方になる。だが、グリーフラントは敵になる。敵になる?もともと敵ではなかったか?考えが単純化しすぎているな。ここは安全面の条件を増やそう。
「アマーリア殿、それならばこういうのはどうだ?安全保障条約の項目にグリーフラント【以外】の自由都市群侵攻があろうとも協力して防備することも書いてほしい、それがいいのであれば要件を飲もうじゃないかごもっとも共倒れをしたくないのであれば・・・」
「かまわんよ?」
「・・・そう、本当に共倒れ覚悟で当たるつもりなんだな」
呆気ない駆け引きに拍子抜けした代表は何事もなかったようにサインをした。アマーリアはそれを見届けるとすぐに秘書に預け。握手を促した。
「へ、よもや【悪党】と仲を深めることになろうとはな」
「まぁいいじゃないか、貴方はこれで領邦から独立した立派な独立国家だ、お互い協力していこうじゃないか、私がグリーフラントの中央政権を獲得しても独立を守ることを約束しよう」
「夢物語を・・・それよりも、モンスターの鎮圧は頼んだぞ?」
「わかっている、私が山に行けば一発で納まるさ」
「今日は疲れた、さっそく帰らせていただこう」
アマーリアの言葉を聞いた代表は静かに部屋を出て行った。それと入れ替わるように新しい人間が入ってきた。それは今までにない古臭くない服装をした男で、全身を軍服で覆って軍靴を履いたヴィンセントであった。
「よ、アマーリア。それとなく情報を集めてきたぜ」
「どういったものかな?」
「やはり王国は俺たちとの戦争の準備に手間取っている、それもかなりの混乱だ。俺たちが納めるモンスターは現在400万、それに対抗する軍をかき集めるのにかなり時間と金が要るらしい」
「やはりそうか、軍団として使えるのは大多数の妖精や小人では無理だから400万ではないが個体によっては数万の兵に匹敵するものもいるからね、年月をかけてじっくりと攻め立てるつもりだろう」
「それでだ、しばらく我々は内政に従事してどうにか民衆を落ち着かせることはできないだろうか?軍部は編成や国境の防備に忙しくてとても戦いなんて無理だ」
「了解した、軍の装備や編成は晴馬やローレに、モンスター軍と人軍の関係調整はマンフリートに言ってくれ」
「了解だ」
ヴィンセントが出て行った後、アマーリアはふっと考える、果たしてグリーフラントはどれ程待ってくれるのだろうか?脅威の高さから無理をしてガーディナルをたたき起こし、巨万の資産を使ってまで我々と戦うのだろうか?それとも少ない兵で頻繁に軍事衝突を起こすのだろうか?今ではなにをかんがえても無駄な気がする。
「秘書官」
秘書である新参者、カトリナ・ヴィレムスはその言葉に反応し、アマーリアに笑顔を向けた。長身の眼帯をしている彼女の様相はどこか堅苦しいものがあった。
「なんでしょうアマーリア様?」
「内政の要である流民の雇用対策の件はどうなってるかな?」
「指示通り国家運営組織【ウーダンカーク奉仕団】を設立中です。国が行う土木作業や建設に対し流民や難民を雇用することで失業者の盗賊や犯罪に走ることを抑制します」
「よし、大型雇用でどうにか失業率を下げなければな、ほかにも畑の開発や土地開発や道の整備、軍事拠点の設営などやることはやまずみだ」
書類の山に目を通しながらアマーリアは頷く、ここ最近の流民の数はさらに大きくなっておりとてもじゃないが犯罪抑制が難しくなっている分野があることをアマーリアは知っていたのだ。
「他にも国営傭兵ギルドの設営も行っております、正直これはあまり賛成ではありませんが主要産業も外交もいまだ発展していないわが国では難しいことでしょうね」
「輸出品目に人がいるとは奴隷商人みたいな気分だよ、だけど、グリーフラントと国境を挟んでいる連中は絶対に傭兵をほしがっている、問題は傭兵に何を持たせるかだけどね現時点では【マスケット銃】を持たせるつもりだが」
「そうですね、銃の持つ傭兵団は確かに珍しいかもしれませんが・・・銃って確か」
「言うな、そこを解決するためにハルマが躍起になっている、ハルマには会社を与えてやった。そこからの税収入でウーダンカークも国も潤うような巨大会社に成長させてくれるはずだ」
晴馬に対する希望のまなざしは大きい。頼むぞハルマ!私たちを救い出してくれ!
晴馬はとある場所にいた。ウーダンカークの川の近くの会社とは名ばかりの大きな倉庫の窓から街に流れ着く人々の顔を見ながら考えにふける。誰もが行き場のない連中ばかりで、民族も出身も違うような奴らが吹き溜まりのように集まっているような気がしてならない。そんな連中の中に台に乗って誘導する悪党の姿があった。彼は大声で流民をを誘導し、その声の限りを尽くしているようだった。
「ようこそ正統グリーフラントへ!諸君らはまず住む家を国から支給され、仕事も支給される!【ウーダンカーク奉仕団】に入れば賃金も出るぞ!軍役も人手が足りん!我が組織軍はそこそこの給金をかけるつもりだ!若くて健康な男どもなら大歓迎だ!さぁ入った入った!今国を守れるかどうかは諸君にかかっているんだからな!」
「空き家を無償提供、国の大型雇用、やるのがこんなところからなんていったい民主化はいつになることやら」
革命軍として政権を獲得すれば終わりならばいいのだが、このように大きな土地を持つようになると話が違う、これでグリーフラントに攻め込めば革命ではなく戦争だ。民の賛同も得られなくなる。それを踏まえてさてはてどうやってこの局面を済ませようか?寝っ転がりながら晴馬はゆっくっりと考えた。我々にできる事は民主化の導火線であればいい、ならば、時代を一歩前に送ればいいということだろうか?
「一歩か、時代で考えるならば文明度から考えて今は中世と仮定しても、次は近世、主権国家が誕生するきっかけとなるウェストファリア条約のある時代だ、日本は遅れて明治になってようやく主権国家になったけど・・・でも、近世は絶対王政の時代だ、今よりも国家体制は悪くなり、余計な犠牲が出る可能性もある」
晴馬は頭を抱え、一人ため息をついた。
「「何やら難しいことを考えているようですねハルマ」」
「ユッタ、僕は自分が何も学んでいない事が悔しいよ、こんなことなら学校でもっと聞いておけばよかった。テストで満点取る授業では、どうにも何かできる気がしない」
「「私は晴馬が何かできるとは考えたことがありませんから何も言えませんが、大きくとらえずに小さいことから始めてはいかがでしょう?例えばお姉さまぼ家庭教師の時間を増やすとか」」
何気に酷いことを言うなユッタは。
「それで民主化が、できるかなぁ」
そのまま床に寝っ転がり、ため息と不安を感じながら寝息を立てた。このままでは鈴谷さんとの約束である元の世界に帰る方法を探す旅も難しくなる。まずはこの地域をどうするか、それから考える必要がありそうだ。ただ悪党の支配地域にしてそのまま利用するか、試験的にここだけ次の世界にしてやるのもいいが、それは僕ではなくアマーリア自身がやってもらわなくては困る。僕の考えとこの世界の価値観には差があるから、この世界の住人のタイミングでやることで混乱を少なくできるはずだからだ。
「あ、いたいた、探しましたよー、ハルマ社長ですよね?」
寝っ転がる晴馬の頭上から見下ろす女が語り掛ける。眼鏡をかけた女でアマーリアの秘書と同じ制服を着ている。晴馬は彼女の垂れ乳の美曲線を最高のアングルで堪能しながらあることを思い出した。そういえばアマーリアが僕をサポートする秘書官を派遣するとか何とか言っていたっけ、でも確かあの書類が正しい内容とすると彼女は、ああ、面倒くさい。
晴馬は立ち上がるとズボンを土払いし、彼女に目を向ける。彼女はにこっとした笑顔で晴馬を見つめていた。
「アマーリアから話は聞いたよ、君がカロリーネ・ゲスリングだね?この会社の秘書は君がやるのかな?」
「はい!アマーリア様の思想に感銘しまして悪党、あ、すいません正統グリーフラントに志願しました!」
「なるほど、君のことは書類で見させてもらったよ、驚いたね、君は王宮官僚の文官だったんだって?」
「ええ、でももう縁は切りました!まったく今は関係ないです」
「縁が切れた、ねぇ」
ふうん、と晴馬は言ったのち、彼女にとある一枚の紙を見せた。それを見せた途端、カロリーネの顔が曇っていき、少し冷や汗をかいていた。
「これね君の手配書並びに罪状が書いてある紙だけど、すごいよ君、国庫の資金横領で死罪だってさ、どういうことか、説明してくれる?」
「ッチ!」
カロリーネは先ほどと態度を変え、天使のような笑顔は取り去り床に唾を吐いた、そのままウンチングスタイル、別称不良座りをして胸の間からパイプとタバコの葉の缶取り出して仕込み始めた。
「は~、ヤニ切れ、火もってナイスカ?」
「態度変わりすぎだろ、というか君逃げたよね?死罪になる前にこっちに逃げこんで来たんでしょ?」
「だったらなんですか?逃げちゃ悪いですか?大方ここ言流れ着く奴なんてそういった連中の塊でしょ?じゃあ私一人紛れこんだっていいじゃないですか」
なんだこいつ、名前通りゲスい奴だな。全然最初の雰囲気と違って嫌な人にしか見えないんだけど、すごいめんどくさいんだけど、ひょっとしてアマーリア、それを見越して先物買いしてあんないい人を秘書官にしたのか?くそ、思ったよりも計算高い奴だなアマーリアは、ああめんどくさい人が来ちゃったよまったくこういうのって風俗で言うあれ出来ないの?システムであるあの・・・。
「チェンジで、次来るのは年上巨乳甘やかし系美女秘書官をアマーリアにお願いしとくね」
「それ私フルコンじゃないですか、私との相性最高ですよ」
「まじで言ってんの?」
晴馬はぴくぴくと眉を動かして言葉に表せられない憤りを感じていた。こいつ、そろそろ上下関係というやつを教えてやろうか?
「さてと、冗談はここまでいしましょうか、まず何をやるのか決めていらっしゃるんですか?これでも官僚でしたからいろいろと優秀なんでなんでも頼んでください」
「え、嫌別に何も決めてないけど、ああ、そう言えばアマーリアからお願いされていたものがったはず」
晴馬はそういってアマーリからの手紙を広げ、内容を読み始める。
「自分の考えなしですか・・・本当にアマーリア一味の幹部なんですか?」
「え、僕幹部なの?」
「おまけに自覚なしとか・・・こりゃあいいカモになるな」
「聞こえているから、お願いの内容はっと」
カロリーネは呆れた顔をしながらも後半聞き捨てならない言葉を口にした。というか僕はどうしてここまで部下に舐められるのであろうか?ベルダも僕をからかって遊んでいたしカロリーネは思いっきり僕のポスト狙ってそうだし。自覚がない何かがあるような気がする。
それはともかく手紙を読もう。
晴馬へ、君には多くのことを期待しているが、まずはその能力でしばらくの間多くの者の助けとなってくほしい。まずはウーダンカークが誇る【マスケット銃】の性能並びに量産化をしてほしい、これは同盟締結した自由都市群が多くの銃を必要としており、ヴィンセントも戦いに備え備蓄するため長期保存を目的とした銃の大量発注をしている。私は私でヴィンセントに管理を任せようと思っている傭兵ギルドの武器獲得のためにも必要だ。銃は、兵士の訓練期間が少なく、誰でも取り扱いができる非常に優秀な武器だ。その武器を発展させるために尽力することが私からお願いだ、君の働きに期待する。
「アマーリアからは以上だが、『お願い』は各方面から嫌というほど集まっている、それを解決せねばなるまい、とにかく、このお願いのマスケット銃が我が【ウーダンカーク製作所】の手掛ける商品となることだろう、まずは人員集めかな?」
「それならばとりあえず職人の町へ行きますか、今は混乱と法改正で相当儲かりそうですしね、私についてきてくださいカモさん」
「わかったよゲス子」
「やめろ」
カロリーネに連れられていかれてついた職人エリヤはウーダンカークに残る有数の活気のあるエリアであった。アマーリアの話ではギルド解散により豪商や職人が逃げ出したと聞いていたが、店の人声も道の往来も他とは大違いだ。なぜだろうか?こういう時はゲス子に聞いてみるべきだろうか?こういう時に頼れないなら秘書として必要はない、採用するつもりは今のところないが、ここは判断基準として話だけでも聞いてみるか。
「カロリーネ、なぜここはこんなに往来の多い場所なんだ?ギルドは解散したんじゃ?」
隣を歩くカロリーネは晴馬に顔を向け、ふうんと笑うとにやにやした口調で答えた。
「教えてほしいですくぅあー?それなら私に[盆が信頼できるのはカロリーネしかいない、僕の秘書官になってくれ!]って言ってください!」
「ハイ-1!君今採用試験で低評価だよー?このままだと君のポストはフェリシーが代行するからねー?」
「はぁ!?あんなひょろひょろよりもグラマナスボディの私の方が断然抱き心地良いですよ?!」
「何の話をしているんださっさと質問に答えろ!」
「はいはい、それは逃げ『られた』奴らはごく限られた奴らだからですよ?ギルドはですねぇ、街の権益を牛耳っている連中がほかの連中に利益を与えないために作ったんです。それは領主、ここではクラナッハ伯ですかね?貴族に保障されることにより長く権益を稼いできたんです、それが今回の騒乱で貴族がいなくなり、行政機関はすべてアマーリア一味が牛耳ったことで保証が解除されて逃げ出したんです、権益が出なくてはではしょうがないですからね、有り余る資産と共にとんずらってことですよ」
なるほど、つまり日本で言うところの座みたいなものがギルドに当たるってことか、いかにも封建主義というかなんというか、保障がなくなっていなくなったのは当たり前の範囲ってことか。
「待てよ?じゃあギルドがなくなったことにより新規の連中が出てくる可能性も?」
「あるでしょうね、最近は自由都市群との同盟を結んだことにより向こうがこの空き店に群がる可能性は大です、ただし!それは統治機能が完全に領土を納めなおかつ国家が存続するかどうかを向こうが見極めた後ですからしばらくは信用を積む必要性がありますがね、ほかにも営利性がどれほど確保出来るかも重要なポイントです」
「先は難しいなぁ、まずは、営利性を極めるところから始めるか」
僕はマスケット銃の職人の店に上がり込む、それは今は亡きギルドによって機能していた職人衆であった物をギルドメンバー以外が使い始めたのだ。
「ようこそハルマさん!私はウーダンカークに残る銃職人を統率しているイーヴォと申します。話はアマーリア様から聞いておりますのでどうぞ中へ」
職人風の男が意外にも僕を歓迎した。てっきり石を投げられると思ったのに意外な反応だ、果たして街のものには我々はどう見えるのだろうか?
「最近の景気はどうだ職人君?」
晴馬は尋ねると、職人は笑って返事をした。
「まぁあまり良いとは言えませんね、でも都市国家群との同盟と軍部からの要請で細々とやっている感じですね、ギルドがあったときは、稼ぎのおこぼれにもあやかれなかったから今の方がいいです」
「そうか、僕としては職人の君にもっと楽にさせてやりたいところだけど、まだむずかしいんだよね」
「そんな、我々はアマーリア様によってギルドなどによる独占禁止法によってすごく助かっています、できるだけ続いてくれれば我々は満足です。それよりも我々の製作した銃を見ますか?よければ試し撃ちもできますよ?」
「おお、頼もうか」
「こちらになります、使う時は皮手袋をお使いくださいやけどの危険性があります」
晴馬はマスケット銃を手に取ってみた。想像以上に重い代物ではあったが、高揚感が出る代物だ。ただ、撃ってみないことにはどうしようもない。さっそく試い撃ちの仮説射撃場へと行き、その性能を試すべく発射可能になるまでやってもらった。長い銃身、手油がしみ込んで深い色を出す銃床
「あとは引き金を引くだけです、この銃は火縄銃と言って、引き金を引くことで火縄が火ぶたを切った火皿の火薬に引火、内部へ二次爆発を起こして弾を発射する仕組みです、これがウーダンカークの特産品とでも言いましょうか、ここ含めグリーフラントは銃の作れる職人のおる街はそうありません」
「なるほど、だから逃げ出しても当てがあるというわけか、なぜここがそんなに銃の産地になったんだ?」
「ガンパウダーの材料などの数多くの材料がここで手に入るからです、モンスターの山を切り拓いて作っており、初めはモンスターとの対立が激しかったのですが、アマーリア様が来てから鎮圧、生産量も上がっています」
「汗と魂の傑作というわけだ、さっそく撃たせてもらおう」
「「あのぉ、晴馬、できれば私も感情の同化か何かで・・・一回だけでも」」
「こんな時にあんな疲れたくはない、一人で撃たせてもらおう」
「「意地悪!」」
晴馬は銃の照星を的となる一般兵の鎧に合わせ、じっくりと狙いを定める。そして、引き金を引いた。
「ズドン!」
銃床があるため比較的反動は少ないが、威力は相当なものだった。的にしていた鎧は砕け散り、破片がそこら中に飛び散った。どうやら装甲の厚い部分にあたった弾は砕け散って算段としてあちこちを打ち抜いたのであろう素晴らしい威力だ。
「う~、しかしこのじ~ンとくる振動は耐えがたいものがあるな」
「ははは、しかしこれは短距離の威力だけならどこにも負けませんが長距離における命中精度や飛距離は長弓に劣るところもございまして」
「それだけじゃなくて熱いぞ、僕は皮手袋しているからいいけど兵士やけどするわ」
火縄銃以前に銃に障ったことすらない晴馬は非常に銃に関心を寄せていた。彼は多少の興奮を持っていたことは間違いないがそれでも冷静にその武器の特性を読み取ろうとする。果たしてこれがどれほどの価値を見出すのか、何がすごくて何が欠点なのか。今は其れよりも何を求められているのか。まずはそこを見つけ出さなければならない。
「まぁそうだな、次に君たちの働きぶりを見せてもらおうか」
「はい、こちらになります」
そう言われて晴馬は職場を見せられて驚いた。銃は一人の職人が作っているわけではなくそれぞれの部品専門の職人達が作っていたのだ。銃床を作る職人、平べったい鉄熱してを一から円筒状の銃身になるまでたたき上げる職人、火薬の発火装置を作る職人等がそれぞれ分業することによって数多くの部品が出来ている者を一からくみ上げ。文字通り世界で一つのマスケット銃が出来ている。
「これはひとつの銃をくみ上げるのに一ヶ月、連携の旨い職人なら3週間で作りますが、知っての通り銃は需要が大きく生産が追い付かないんです。職人街で作り上げる月の銃は70丁、年間は1000いかないくらいといったところでしょうか?」
「値段はいかほどで?」
「そうですねぇ、簡単に言えば一丁農家のひと月の収入といった感じですね」
「高いぞ!そんな金を出せるほどこの国に余裕あるのか?」
「どんな国でもそんなもんですよ、だから鉄砲隊はほかの部隊よりも少数なんじゃないですか」
そうだったのか、鉄砲って数が少ないだけじゃなく買うこと自体も一苦労なんだなぁ。勉強になることばかりだ。
「くわぁー、まだ話し終わりそうにないですかー?」
カロリーネはあくびをして事のいきさつを退屈そうに眺めていた。まったく、この情報は貴重なんだからちゃんと記録を取れよ。
「実は僕はこの銃の大量生産を実現させること、それと大技術向上のために来たんだ。そのためには街全体の銃職人の力が必要だ。協力してくれないか?報酬としてはその技術伝搬を約束しよう」
「ええ!そ、そんなことできるんですか!?」
晴馬は工房の中を見回し、キーポイントとなる物を探しながら目を閉じて考えた。まだ実感がわかないけど僕は会社の社長だ、まずは人員がどうしてもいる。この人たちがほしい。そして何よりこの生産方式よりも生産量を上げる方法はある!
「間違いなくできる。これで銃の値段も落ちて大量受注にも対応できるようになるぞ、ただその時に条件が「条件があるのです!」」
僕とイーヴォの話している最中にカロリーネが首を突っ込んできた。僕たちは驚き何事かとカロリーネに注目が行く。
「あなた方は町全体でも百人程度の職人衆、ぜひそっくり我が社に入ってほしいのです!」
「会社?私の立てたこの工房はどうするんですか?」
「支部として活用します、まずは技術伝搬のために我が本社に来てください!」
「しかし・・・そんな急に、なぁ?」
職人たちは困ったような顔を見せる。いくらなんでも早すぎる話についていけていないような雰囲気だ。僕もそれは同じ、何もここは協議か何かをはさんだほうが・・・。
「ほしくないんですか?今までにないまったく新しい技術を?もちろん、無理にとは言いませんが、第一考えてくださいよ、ギルドが崩壊して残った銃の弱小職人たちにどれほどの武器がさばけます?私、失敬ながら台帳を読ませていただきましたがギルド解散でこの工房事体の受注は増えましたが町全体では下がっています、これでは少ない食い扶持を仲間の工房同士で食い合っている中で入ってくるであろう職人や商人にすぐにつぶされますよ?これは一種の生存戦略なんですよわかります?」
「な、なるほど」
「我々が一つの会社になることでギルドではありませんが新規に入る連中よりも国内シェアを上げなおかつ独占禁止法をぎりぎり避ける経営をすればギルドの時以上の生産量を確保するのも難しくないです!」
「お、おおお!」
よくわからないがカロリーネが職人たちを誑かしてよからぬことをしているように見える。
「あと余り大きな声では言えないんですが・・・うち、悪党が後ろ盾しているんで財政余裕あります」
「やるぞ!おいお前ら職人連中を集めろ!すぐにひとつの会社になって今よりも多く稼ぐぞ!」
「「「おおお!」」」
ああ、もう滅茶苦茶だよ。
「カロリーネ、君は何で一体そんな急にやる気を出したんだ?」
「わたし、儲け話に目がないんです」




