31 集結
僕は馬車に揺られてウーダンカークへと向かう、ただただ向かうその先にはアマーリア達が待つ一本道だ。僕はただ空を見ながらこれからのことを考えなぜ自分が退学という不名誉な目に合わなければならなかったのかいまだに納得できずにいた。
「はぁ~」
「「はぁ~」」
こういうことを考えるたびにやるせなさとうっぷんが巻き起こる。何度も出るため息に馬を操るローレが決まり文句のようにこう言い放つのだ。
「悪かったと思っているわ、でもこればっかりはしょうがなかったのよ」
「何がこればっかりだよ、どう考えたってもう少し時間をおいてもよかったろ」
「貴方はあの学院の生徒である前にアマーリア卿、じゃなかったアマーリア様の臣下でしょ?よかったじゃないこれで正々と行動ができるんだから」
何て言い草だ、僕はこれでも真面目に学生生活を送っていたんだぞ、こんなことになるならあの厳しい訓練をもっと怠けてやるとかいろいろやっておけばよかったことばかりだ。武装勢力を討ち取った褒美としていろいろ学校だって用意していたことを知っている。やっとここから足りなかった青春というやつを謳歌してやろうと息巻いていた時にこれだ。
「ハルマ様あまり動かないでください、耳かきの途中ですよ?」
「ああ、ごめんフェリシー、というかなんで君はいるの?僕の正体を知ってまでついてくる理由がわからないんだけど」
「ハルマ様、私はもっと貴方とお話がしたいんです!これは自分で決めた初めてのこと、だから私はここにいます!」
「余計わけがわからないよ」
今回一番の事件といえば彼女で間違いないだろう、学院前のところで僕とローレの話が彼女に聞こえてしまったのだ。正直由々しき事態だと思った僕はフェリシーに口封じをする、殺そうとさえ思ったが彼女は僕やローレの考えのはるか上に行くような意見を言ってきたのだ。
「私も連れて行って下さい!」
かくしてローレの進言もあり彼女はアマーリアの元へ連れていくことにした。そりゃぁ僕だって彼女を殺したくはなかったしそれから考えればまず言って不満はない、だがそれはあくまでその側面に関する考えだ。そもそもなぜローレは学院の生活を捨ててまで僕についていくことを決めたのかさえ良くわかっていない。彼女は何を考えているのだろうか?警戒していくほかあるまい。
「さてローレ、何で君の騎士団は新しい領主と決別して挙句の果てにはウーダンカークを納めるベルンハルト・アロイジウス・クラナッハ辺境伯の屋敷を襲って辺境伯領を奪うようなことをしたんだ?おかげで君の騎士団の推薦書は無効、さらには養子先とは絶縁とか言われたんだけど」
「「どうすればそうなるんですかぁ~」」
「だから!成り行きだったのよ、新しいい領主が騎士団の所領をかすめ取ろうとして騎士団がアマーリア様についていくことになったの!その手土産としてアマーリア様に領土を与えることにしたの!」
「それじゃあ騎士団というより盗賊じゃないか」
うとうとしながら着いた先はウーダンカーク、僕の生活の第一歩となるだろう。
「ここが、ウーダンカーク」
晴馬は初めて見るその街に感銘を受けた。国境沿いの街ではあると聞いたのだがその発展ぶりは目を見張るものがあった。交易の街であろう大きな市場、文化の混じった独特の雰囲気の見せる長い街道、様々な店、どれもが心躍るような内容だ、ただ、一つだけ欠点がある。ここまで発展しているにもかかわらず明らかに不足している者が目に見てわかる。
「人がいないじゃないか!」
「当たり前よ、謀反を起こした連中の場所にとどまろうとする人間なんかいないわ、いくら王国が住居移転を禁じているからだといってもこれはさすがにお咎めなしよ、おかげでギルドは解散したり大商人は逃げ出したり物資は不足気味で大変なんだから」
大通りにいるはずなのに人が乏しいことに疑問を抱かずにはいられなかった。まるで廃墟、崩壊したデトロイトのような有様ではないか、こんなさびれた街で王にケンカを売ろうなんてアマーリアはなかなかチャレンジャーだなぁ。
「ようア、いやハルマっていうんだよなぁ?、あれから元気にしてたか?ていうか、その別嬪さんは誰なんだよぉ?」
すごく聞き覚えのある声だった。声の主は男だ、それは僕と一戦交え腹を切り重傷を負った男だ。男はにやりと笑うが邪気を含んでいるような笑いではない再会を喜ぶ余裕すら見える。
晴馬は其れとは反対の表情を見せた、この男から学んだことは多いがそれでどれだけの迷惑と欠如を思い知ったかわからない負の遺産の象徴のよなものだからだ。後ろめたさもあり顔を伏せるとゲラルドは豪快に笑った。
「ハルマ様の従者です!」
自信満々で胸を張りながら言うフェリシーに対し、またもやゲラルドは豪快に笑う。
「がはは!いつからそんなに偉くなったんだよハルマ!俺もここでの従者がほしかったぜぇ!」
「違うから、極端に成り行きで連れてきたんだ、あとゲラルド、僕は君に・・・その」
どうも謝ろうとしているのだが言葉が出ない晴馬に対し、ゲラルドは思いっきり肩を叩いて笑って見せた。
「ははは!安心しな別に恨んでなんかいねぇよ、むしろ自身の慢心具合に腹が立ったぐらいだ。おめぇとはゆっくり話がしたいんだが、今はそれどころじゃないんだ、アマーリア卿がおめえを呼んでいる、すぐに向かってくれ」
「そう、か。わかった案内してよゲラルド、それからこれは何という事はないけど、君に会いたがっている人がいるんだ」
「ああ、ユッタ団長か?ローレ分隊長から聞いたぜ、それも後でいろいろ積もる話があるがまずは砦に急いでくれ」
そこまで急なのだろうか?僕は疑問を残しつつも一行と共に言われた通りに砦に向かった。都市のはずれを守るために作られたとされる砦には多くのゴロツキが警護に当たっておりいかにも悪党の棲み処といった感じである。ゲラルドに案内されて行った部屋の前で何やら奇声が響き渡るような声が聞こえた。
「ああああ!足らない!圧倒的にユッタ成分が足らないぞぉぉぉ!」
「また発作が始まったか・・・」
ゲラルドはそうつぶやき頭を押さえた。先ほどの奇声は間違いなくアマーリアのもので間違いなさそうだが何でそこまで荒れ狂っているのだろうか?
「まだ治ってなかったの?」
ローレもゲラルドと同じ声のトーンで悩むようなしぐさを取る、なんだろうか?ここにきてからアマーリアは気が狂ったとかそう言うことだろうか?ともかく中に入らない限りその惨状はわからないじゃないか、せっかくここまで来たんだ今更誰の人格が変わったところで驚きはしない、早く中に入れてくれ!いざって時はヴィンセントを呼べばいい話じゃないか!
「アマーリア様、ハルマ一行を連れてきました」
ゲラルドはドアをノックし中に入って行く、僕もついていくように入っていくがその惨状はすごいものだった。部屋のあたり一面に書類がまき散らされておりフェリシーに関してはメイド魂に火が付いたのか片づけたい衝動にかられひたすら手に汗握るような感情に駆られているようであった。その書類の山の主であろうとある女その声にぴくっと反応し、乱れた髪が逆立つように机に突っ伏していた顔を上げた。
「お、お~」
アマーリアは感心するように唸って目を輝かせながら僕を見つめる。なんだその反応は?どう返答すればいいんだ。
「や、やぁアマーリ「ユッタアアアアアア!」」
ミサイルのように飛んできたアマーリアに僕は倒され、そのまま身動きが取れずにいた。ただ、これが初めてではない僕は彼女が何を求めておるかを瞬時に理解し、すっと食事用のナイフで出血、アマーリアにユッタを合わせることで僕自身は彼女の柔らかな胸に挟まれる余韻を味わった。
「酷いじゃないかユッタアアア!お姉ちゃんにしばらく会わないでどこをほっつきあるいていたんだ!?心配させちゃダメだっていつもいっているでしょおお!」
お前がそう仕向けたんだろうが、晴馬は人知れず心の中でつぶやいた。
「「すいませんお姉さま、会いたい気持ちはあったのですがなかなか合うことが出来ずこのように先延ばしに」」
以外にもユッタは冷静であった。彼女の心はまるで主人の元へ帰ってきた犬のような感情なのにと驚く、もとより表に感情を出さない性格なのだろうか?
「このお方が全能のガーディナルのアマーリア伯爵・・ですか?」
ちまちまと床に散らばった書類をかたずけながら不思議そうにフェリシーはこの光景を眺めてた。まぁ普通に考えてあの学校の貴族を見続けているフェリシーにはこんな貴族がいるなんて考えもしないだろうからな。
「そうなんだよ、この人が例の謀反の張本人、アマーリア・シビレ・ブルクスラーだ、挨拶してよ挨拶を」
「あ、はい!お初にお目にかかりま・・・・」
「ふ~!久しぶりに家族水入らずに観光旅行とでもしゃれ込もうか?ん?おねーちゃんはそういうのもいいと思うだけどなぁ!」
駄目だこの人、まったく人の話を聞いていない。これで話が進まないじゃないか。誰ぞ、誰ぞおる、話を進行させるものを連れてまいれ。余はヴィンセントを所望じゃ。
「まーたそんなことをやっているのかアマーリア、いい加減慣れろといっただろう」
「おおその声はヴィンセント、久しく会ってないけど変わらず元気なようだね」
「お前も前回に学んでこっちに顔を向けないようになったか、まぁいいさ、それよりもこれからのことでアマーリアから話がある。きっとそれを聞いたらお前も大層驚くだろうな」
ヴンセントの話を聞いたアマーリアは咳払いをしたのち僕から離れ、まるで何事もなかったかのように席に着いた。正直そんな態度をとったところでもうここにいる者たちにはあんたのやっていることはすべて見られておるんだからどう取り繕ったって無駄だよと言ってやりたい気持ちもあったがそれを言って余計に話がややこしくなるのは嫌なのであえて無言でしますことにした。
「あ、あ~、久しぶりだな、お前の名前はハルマというそうじゃないか、名前を知ることが出来て私も話が進めやすい」
「そりゃよかった、できればフェリシーの自己紹介を済ませてもいいかな?」
「ん?フェリシー・・・誰なんだいそいつは?」
それを聞いたヴィンセントやローレたちはまた大きなため息をつき、仕方なしにといったような表情でフェリシーに指をさす、彼女は彼女で書類を集めるのに必死でそれどころではないといった感じではあるが指名されたことを気付き慌てながらもすっと立ち上がり本日二回目の挨拶をする。
「お初にお目にかかります、私はマティネス学院で使用人をさせていただいておりましたフェリシー・セラフィーヌと申します」
「お、おおあなたがフェリシーか、私はここの勢力のボスを務めている元貴族アマーリア・シビレ・ブルクスラーだ、アマーリアと呼んでくれるとうれしい、恐らく知ってはいると思うが先の謀反で爵位はく奪お家取り潰し領主免職となった、今ではフェリシーと同じ身分であると思うので心遣いは無用だ」
「話を聞く限りでは同等のお方だとは感じられないのですが・・・よろしくお願いします」
「彼女がそう言っているのだからそうなのだろう、で、アマーリア、僕たちはまず何から始めればいいんだ?」
「お、そうだったなハルマ、さっそく話を始めよう、幹部を全員この部屋に呼んでくれないか?」
ハルマの音頭でやっと進んだ話に皆が安堵し、しばらくして騎士団長代理のマンフリートや新しい仲間であろうもの達が集まってきた。できるだけ話が分かるようにとアマーリアは皆に書類を渡した。ごもっとも書類を渡されたところで文字を読めない者は何の意味もないのだが、ああ、そのためにこの書類は絵を基調としているのかもしれないな。
「さて、我々は当初の目標を達成しついに国境都市のウーダンカークを占拠するという偉業を成し遂げた、それだけではなく騎士団の働きによりついには辺境伯領の完全な制圧も成功しますますいい結果を残している、これで当初の第一目標は完遂と言って間違いない、だがそれと共に問題も残った、街は捨てられたように人間が去り、それに伴って多くの商人が消え、それ以外にも旧伯爵領現我が勢力の領土は無法地帯と化したことにより、数千年の間のグリーフラントの領土拡大で滅ぼされた国の迫害された民族や盗賊、さらには逃亡奴隷が逃げ込む温床地帯と化してしまった」
「当然の結果だな」
ヴィンセントが頷く。僕もうなずく。みんなが頷く。
「これにより今までウーダンカーク含め我々の領土で起こったことを書類に書いておいた、良ければ見てくれ。」
そう言われてみてみると書いてあるのは大きく分けて以下のとおりである。
・大きな豪商逃げ出し
・多くの商業・職人ギルド解散
・治安悪化
・数千年のグルーフラント王国の行った戦争で生まれた戦争難民や流民、逃亡奴隷の流入。さらには迫害民族の流入(これは平野統一戦争の時の民族)
どれも頭を抱えるような出来事ばかりである。
「我々は横暴なるグリーフラントに迫害され、そしてこの世界のシステムに苦しめられた者たちであると理解している。その仕返し、そのために我々は立ち上がった。今は小さい領土を持つ小国のようなものだが、最終目標はグリーフラントの首都カンパレラの王党を打ち倒し新しい政府ないしは国民議会を設立することが最終目標である」
アマーリアはふつふつと湧き上がる何かを感じながら演説をつづける。
「我々が行ったことを世間はあまりよくは思っていないようだ、結果として我々を王党が【悪党】と呼んだことにより多くのグリーフラントの民が我々を悪党と呼ぶようになった、だが皆が分担してあたれば、きっと解決できると信じている」
やはり、やり方がまずかったのだろうか?誰も今の平穏に満足しているのだ、そんな平和に水を差すようなことをすれば誰だってそう考えるにきまっている。望まれていないことをやって何の意味があるというのだ?
「我々は初めて民衆のみの話し合い、議会による政府の国を作る、まずはその事を周りに知らせる必要がある、そのためにもまずは身近なことから解決していこう」
「具体的にはなんでしょう?この老兵できることならば全て行う覚悟にございます」
マンフリートは忠誠を誓うようにアマーリアの話に耳を傾ける。
「まずは手に入れた領土を強くし、王国とは違う国を作る。そのために費やせる時間は限られている。現在王国がこの領地の奪還に本腰を入れていないのは複数の理由がある、それは書類に書いてあるので目を通しておいて」
それは以下の通りであった。
・アマーリア支配下付近のモンスターは多種多様でおよそ300種、それらとの交渉のためにガーディナルを派遣することは報酬の面から考えても政治的にも莫大な費用が掛かるため即応できない。
・山岳地帯の中の盆地に領土が存在するため侵攻しずらい。
・悪党の領土を占領するには幾万のモンスターと戦うことになり、対応するための軍団を作るのに時間がかかる。
・ウーダンカーク占拠の元凶が全能のガーディナルで有名なアマーリアだったから。すでに付近のモンスターは支配下だと仮定した。
「以前、似たような国をグリーフラント王国が侵攻した記録を見たことがある。その際に準備に投じた年月はおよそ3年、我々はこのわずかな年月のうちに備えなければならないということだ」
「3年、一日も無駄にはできないってことか・・・」
「甘いわねゲラルド、一瞬たりともよ?間に合わなかったらその場で滅亡決定なんだから」
「すでに準備は初めて入るが人手が不足している、今から役割をそれぞれに与えるのでよく聞いてくれると助かる」
アマーリアはそう言うとどこからともなく自作の権利書や任命書をもってきて、机の書類を払いのけてに任命書に判を押す。
「これより、我が国家【正統グリーフラント】の役職任命を執り行う、呼ばれた者は前に、ヴィンセント」
「おう」
アマーリアが判を押した任命書をヴィンセントに渡す。
「国家指導者であるアマーリア・シビレ・ブルクスラーが命じる。役職は国防軍元帥だ、今ある軍を再編成し数年以内に王国に張り合える軍に整えてほしい」
「あまり現実的とは言えないがそんなことを言っている場合じゃないな、すぐにかかろう」
ヴィンセントは任命書を受け取るとすぐに部屋を出た。
「ローレ」
「は、はい!」
「ローレにはパラディンからもう一度セージに戻り、新しく作った国営研究機関【魔法工学研究所】の所長に任命する、すべてがゼロからの始まりではあるが頑張ってほしい」
「お、おう、わかりました、何よこれすぐにでもはじめないと~!」
ローレが出たときに思いっきり開けたドアの音が部屋にこだまする。
「マンフリート並びに補佐を務めるゲラルド」
「「はっ!」」
「諸君らは私設軍隊として私を支えてほしい、仕事は騎士団を発展させ我が国の不足した兵力を補うこと並びに国内の治安維持だ、そして国防軍と私の指揮するモンスターとの中和が主な任務だ、できるかな?」
「命に代えてもやり抜いて見せますアマーリア様!」
マンフリートとゲラルドはそういうと敬礼をしたのち去っていった。その後も多くの者が任命の紙を持ち部屋を出てく、皆思い思いの顔で出て行くが誰もが自身に課せられた使命に強く覚悟を決めてこの部屋を出て行った。おそらくアマーリアによって前から集められた奴らだろうがそれでもこの無謀な任務をやりきろうとはアマーリアには人を見る能力がありそうだ。
「はわわわ」
最後に残ったのは僕と新参者のフェリシーだ。彼女は話が見えてこないというか自分がどういうところに来たのかをやっとわかったような顔をしてひどく怯えている。仕方ない、後でマティネスに返してやろう。
「さて、時間がかかってしまいすまないなハルマ、お前にも役職を設けてある」
「やっと僕の番か、待ちくたびれたよ」
僕は彼女の机に近づき任命書を少しのぞかせてもらった。が、できれば見ない方がよかった感も知れない、なぜなら僕だけ多くの役職を兼任するような内容が書かれていたからだ。びっしりと書かれた任命書に思わず顔が青くなったのを自覚した。
「ハルマには「言わなくていいから」」
晴馬は紙だけもらってすぐに部屋から出ようとした。しかしアマーリアは其れも見越して異常に長いステッキを使って晴馬を引き戻す。
「おかしいだろ!僕だけこんなにやるなんておかしいだろ!」
「すまない、ほかに適任がいなさそうだからそういうのは君を任命した。まぁ座ってくれ、フェリシー、君は使用人だってね、できればお茶を用意してくれないか?そこの棚だ」
「は、はい命に代えても!」
「そこまで重要じゃないから」
晴馬を引き戻したアマーリアは茶をすすり話を再開する。フェリシーはただ壁にでもなったかのように隅で佇み。緊張で動けそうにない。
「君に任せるのはざっと言ってこの国の主要産業を作り発展させることだ、何も儲かるものすべてを作れと言っているわけじゃない、君が望むとおりに動けばおのずと先進的なものが出来ると信じている、役職名は生産顧問とでも言っておこうか?それとも技術顧問?」
「両方ともここに書かれているよアマーリア、何度も言うが僕にできることは限られている、その中でやるのであれば一向にかまわないがそれ以上は望まないでくれ」
「それでいいんだよ、恐らく君の発想を超える物を要求することは私には無理だ。君は地球で学んだことだけをこの国に伝搬することを考えてくれ」
「はぁ、なんかアマーリアは僕を勘違いしている気がするんだけどなぁ」
僕もフェリシーに淹れてもらった茶をすすりながら自身のおかれた立場にめまいを覚えた。だが、それもアマーリアは見越していたようだ。そっとぼくの手を握り真摯な目で僕を見つめた。やめてくれよ心拍数がうなぎ上りだぞ。
「君は一人ですべて行うと思っているだろうが実際は違う、ヴィンセントやローレ、そういった仲間たちとその機関、組織にお互い持ちつもたれるですることになるだろうからそんなに気負いしなくていい」
「お、おっす」
「何でそんなにきょどっているんだ?ともかく、君には多くの能力がある、それは君が何にも縛られずに生きてこれたからだ、君が自由を知っているからだよ」
その言葉に晴馬は反応する、印象深かったからということもあるがそれよりもなぜそれりアマーリアは思いを抱いているのかが分からなかったからだ。
「自由?」
「そう、自由だ。君は勉強は好きかい?私は好きだ、勉強は多くのことを身に着け関心を空き果てさせることがない、身についたものは自分の武器になる。そしてそれは多くのことを学べば多くの考え方を知ることが出来る。それはなにも小難しい古書を読むことだけが勉強じゃない。隣に腰掛けた女の子に話しかけるのも、酒場で職人の愚痴を聞くのも勉強だ」
「は、はぁ」
彼女はおそらく幼少期の自分のことをいっているのだろう。彼女が猛勉強するとすればそのころだ。
「そう言ったことは簡単に学ぶことが出来るが、時には学べないこともある。誰かにとっては都合の悪いことや人が教えたくないこと、後ろめたい過去だってそうさ。例えば国の隠ぺいとかね?それだけじゃない、世界にはみんなが考え付かない理論や発想がある。でも、それを聞くことはもし誰かにとって都合が悪いとこの世界では誰にも届かないんだ。どんなに素晴らしい考えも、明日を変える理論も、誰もが知らないまま闇に葬られてきた。そうやってこの国は何も知らないまま数千年を過ごしてきたんだ」
彼女が言いたいことはなんとなくわかった。僕たちの世界でもそのような弾圧は当たり前のようにあったからだ。ガリレオ・ガリレイの地動説、ベサリウス・アンドレアスの解剖学が顕著な例だ、それらは宗教によるものだったがそれだけではなく20世紀に入ってもまだ存在した、美濃部達吉の天皇機関説だってそうだしソビエト科学者のアブラム・ヨッフェの電子素量の研究も同じだ。どれもが理にかなった素晴らしい物であったにもかかわらずすべてが悲しくも権力に弾圧された。
「だけど君は違う、君はこの世界にやってきた天啓を運ぶ使徒だ、アウタースレーブは誰もがそうだ。この世界に不思議を思わないものとは違い、すべてにおいて限りなく自由に平等に学んだことだろう、勿論君の世界だって払拭できない問題はあるだろう、それでも少なくとも君日本ではここより自由に暮らせた自覚はあるだろう?」
「まぁ、はい」
彼女が握る手の力が次第に強くなる、感じる温かさに夢中で半分聞いてなかったが適当に返答した。
「何も気負いしないでいい、ただ自分が何をやってきたのかをここで見せつけてくれればいいんだ」
アマーリアの手が離れる。彼女はにこやかに笑いながら僕の任命書にサインを施し、それを丸めて僕に手渡した。
「ともあれ、まずは皆が集まった今日を祝わないとな。夜に宴を催すつもりだから来てほしい。きっと周りからは悪党の宴にしか見えないだろうが人の目なんて別に気にならないだろう?」
「そうだね、これから、まずはこれからすべてを始めるんだ」
「はぁー、やることが多くて順風満帆とは言えない船出だけど、私が船長をしているんだ宝船に乗った気分で乗ってくれ、あ、そうだ、君はその役職のほかにやってほしいことがあるんだがいいかな?」
彼女は好奇心に駆られた目をしている。アウタースレーブに望む好奇心といえばあれで間違いないだろう、彼女の幼少期のようにもう一度学びたいのだ、それも、今度は一世のアウタースレーブに。
「私の家庭教師さ」
「いいとも、僕はこれでもそこそこの国立大学受験を目指していた男だから、5教科も工業の専門も好きだった飛行機の知識も知っているから楽しめると思うよ」
宴は夜通しされた。多くの新顔と面識を取り大いに語り合い、その中で親交を深め合った。そこら中に酒と食い物がおかれ上も下も関係なく語り合う素晴らしい宴だ、しかしそこにはある男の姿がなかった。僕はある男の姿を探していた。どこにいるか散策していると砦の城壁で一人月見酒を飲んでいるようだった。ぼくは彼のところまで行くと男と顔があった。
「おう、あっちで楽しまなくていいのかハルマ?」
「別にいいんだゲラルド、君にどうしても言いたかったことがあるんでね」
「なんだ?」
僕はできる限り深く頭を下げ、震えることなく言い切った。
「決闘の時、僕はユッタの力と体で君と戦たんだ。その状況で僕が絶対に無傷で勝てると知っていたにもかかわらず僕は奇異に手加減をしなかったんだ、本当にすまない」
「なんだそんなことかぁ」
何でもないように言ったゲラルドは酒瓶に口を着け豪快に飲みほす。そんなことか?本当にそうゲラルドは思っているのか?だって君は僕に平等で戦うことを望んだが僕は出し惜しみをしあまつさえ殺しかけたんだぞ?そんな相手にそんなことって、いったいどうしてそんな簡単にいえるんだ、もっと内で思ていることとかあるんじゃないのか?
ゲラルドは晴馬の顔を見て何を考えているのかすぐに読み取り、酒瓶を思いっきり晴馬の頭にたたきつけた。
「う?!」
その激痛に晴馬が頭を抑える。
「割れてねぇだろぉ?それでちゃらだ、俺はむしろあの時お前が本気を出していなかったら絶対に許さなかっただろう。俺はぁ生半可な覚悟の野郎が大っ嫌いだからだ、だけどおめぇは違かった、騎士として台頭に戦えたことは誇りに思っているよォ」
「そうなのか?騎士は不思議な生き物だな」
「おめぇマティネスで騎士道を学んだんじゃないのかよ」
その言葉を聞いてお互いに笑い、あんな惨事だったのに何もなかった過去のようになってしまった。ゲラルドという男は騎士道を猛進しているのだろう。だから戦いで不覚を取ることは自身の責任、相手がどんなに自信よりも優勢な存在でも不覚があれば自分が落ち度があるととらえているようだ。ぼくは一生かけてもこの男のようにはなりそうにないが、それでもその考え方には感銘を受けるところがある。
「そうだ、俺ぇは合いたい奴がいるんだが、合わせてくれねぇか?」
「ああユッタか、いいよ」
僕はナイフを取り出した。ゲラルドはまるでおとぎ話でも見る大人のように懐かしい顔で口が緩んでいた。
「「ゲラルド・・・」」
「はは、ローレ分隊長が言う通り、あの時見たのは間違いなかったようだな、久方ぶりですねぇ団長、てっきり死んでいる者だと思っていましたよ」
「「私は、自分の意思とは無関係だったとはいえ貴方を無条件に傷つけた、憎んでくれてもいいのですよ?」」
「憎む?何でですか?むしろ名誉じゃないですか。団長の攻撃を受けて起き上がった奴なんてぇのは誰もいなかった、俺はそれを耐えきった最初の一人ってぇわけですよ?憎む理由がないじゃないですか」
「「そんな、名誉なんて」」
「そうだ、渡そうとしていた物があるんですよ」
ゲラルドはそういって袋に包まれている棒状のものを僕に渡してきた。
「やっぱりこれは飾っているよりも本人が使っていた方が役に立つと思って」
「「グングニール・・・手入れがしてありますね」」
袋の中身は無刃槍であった、その光沢の輝きからはあの時のゲラルドを思い出すようなところはない。
「そりゃあ血まみれじゃあしょうがないですからね、ははは!」
ゲラルドは豪快に笑い、宴の中に向かっていった。
「夜はこれからだぜハルマ、お互い何も知らなかった俺たちが仲良くなるいいチャンスだ、今日は朝まで飲むぞ!」
「いや、僕は飲酒は遠慮しておくよ、ただ、君と話がしたいのは僕も同意見かな」
「あんたたちー!ないそこでしみったれた顔をしているのよ!」
酒瓶を抱えたローレがふへへと真っ赤な顔で笑いながらこちらに指をさしていた。ろれつも回っていないから相当飲んでいることには間違いない、絡むのは面倒くさいが、ローレの言う通りこんなところでいつまでもしみったれていても面白くない。今日はしっかりと楽しんで明日からに備えよう。まずは腹にありったけの食べ物を突っ込んでおこう。
「ほらほらー!そんな水ばっかり飲んでいないで酒も飲みなさい!今日はワインだってあるのよ?ワインは貴族様ぐらいじゃないと酔えるような代物飲めないんだからあんたも飲んでほら!」
「いや、僕は未成年だから」
宴のローレはやはり面倒くさかった。僕が食事をする間中もテーブル越しに絡んできて突っかかる。誰か払いのけてくれないものだろうか?案外こういう時に役人立ちそうなゲラルドは実は酔うと黙るタイプの男であった。彼は僕と話すだけ話すと酒をあおり一人の世界に入ってしまった。
「ローレ様、ワインのお代わりの方はいかがでしょう?」
「ん!貴方はフェリシー!さっそくいただくわ!んっん」
彼女はここでも給仕の役割を果たしていた。だが、彼女の勧めたワインを飲んだとたん、ローレは急に倒れ込んでしまった。
「ふにゃあ、なんだか強い酒ねぇ」
「何を飲ませたんだ?」
「まぁ、眠り薬を少々、昔からあの学園の方は酒癖の悪い方がいましたから自然と覚えまして、それよりも相席してもよろしいでしょうか?」
「ああどうぞ」
フェリシーのために席を引き出し、彼女は礼をして着席した。
「私、本当にハルマ様がこんなことをしているなんて考えもつきませんでした」
「だろうね、僕もまさか君がついてくるなんて考えもしなかったよ、というかなんでついてきたの?学院の使用人でいいじゃない」
「本当はハルマ様ともっとお話がしたかっただけでついてきたんです、それがこんなところに来るとは考えられませんでした、やっぱりハルマ様って変な人ですね、ここの人たちの言う民の議会を実現するってのもいまいちピンときませんし正直悪党は適語だと思います」
「それでも君はここにいる、良かったら帰る?」
「辞表出しましたし行く当てがありません」
「そこまでして何でここにこだわるの?」
フェリシーはそれを聞いて難しい顔になった。うーん、と唸りながら必死で答えを探そうとしている。
「私は、そんな奴らとハルマ様がつるむとは思えないからです、どういえばわかりませんがやり方はどうであれこの人たちも、アマーリア様もヴィンセント様もローレ様やマンフリート様みーんな、ハルマ様と同じ人間なんじゃないかと思うんです、だから好きで悪さをする盗賊ではない、こんな大きなことをするのはみんなの幸せを願ってやっているから、そんな気がするんです」
少し違うな、僕はアウタースレーブという人たちがどこを歩いても石を投げられないようにアマーリアに、ヴィンセントは復讐に、アマーリアだけがそれを望んでいる。彼女を信じているというよりは自分の信念のために集まっているんだ。シアワセは二の次だよフェリシー。
「だからここでどんなに残酷な光景を見ても、私だけはまともにすべてを見定めてやるんだって気持ちがあります。嫌だったら文句を言って悲しかったら泣き叫ぶ、変人に常人の考えを教えてあげますよ」
「アマーリアの話のやつか、お手柔らかに頼むよ」




