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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
32/63

30 頂

いろいろ考えたがやはり強行突破しかないような気がする、なぜなら作業を行ったことによりすでに日没までの時間が迫っており時間がないからだ。そう思いテントの外にまできたものの・・・。


「雑兵のお前がボスに何の用だ?」


普通にテントの門番に足を止められた。くそ、こっちは時間がないってのに。まぁいいさ、こういう時の旨いウソってのがあるからな、ホルガー曰く、うまいウソは本当のことに少しのウソを混ぜることにあるってな。


「崖の上に何やら人影のようなものを見つけた、見に行ったらいなくなっていたが敵の斥候かもしれない。すぐに報告したいんだ!」


「なんだと!?仕方ない、俺も一緒に入ってやるからついてこい」


よし、一人なら簡単に始末できる。これでいけるな!


「失礼します!この男が崖の上に人影を見たと言っておるのですが!お前もか来い!」


テントの中はいかにも盗賊のボスといったようで、移動しやすいように家具などの数はすくないものの全てが一級品に見える貴族風のテントだ。なぜそう言い切れるか、僕のテントに酷似している。さて、お目当ての女は・・・。


「いない?」


「きゅぱ」


代わりにリリイがそこにいた、お前がいるのかよ?!くそ!こんなことならメロを連れて怪しい女を連れてきたとかの方が保険があったのに!


「仕方ない、一度探しに行ってくるからお前はここで待機だ」


門番は一人外へと駆け出て行った。今このテントにいるのは人間が一人とモンスターが一匹のみである。


「・・・」


「きゅぱ」


意思疎通ができない以上こいつに話が通じないことはわかっている、しかしながらほかに話す相手もいない、全裸の女の姿をしたモンスターと話す内容、ネタ・・・駄目だ思いつかない、というか失敗したか?時間がない以上ここにとどまることに意味はない。今僕がすべき行動はテントからさっさと出てガーディナルを捕獲、できなくては殺害することだ。


「お邪魔しました」


「きゅ」


リリイのフクロウの翼が僕を引き留める、皆さんは考えられるだろうか?フクロウに限らず鳥類の翼の体積は飛行に必要なだけの体積を持っている、結論から言うと非常に大きいのだ。それが人間の身体を浮かせるレベルともなれば掛布団のような大きさになる、僕は包まれ、鳥臭い臭いとリアル羽根布団の柔らかさを体感する。動けない、蛇にでも絡まれたような気分だ。


「キューきゅきゅ」


「なるほどわからん」


「きゅ!」


「きゅーきゅ?」


「ガブ」


今しがた頭をかじられたようだ、すごく痛いし若干血が出ているが、それどころではないほどの言語の違いが僕を悩ませる、もしかしたら先ほど僕が言った言葉は「僕はおいしいよ」だったのだろうか?糞、早いうちにここから脱出したい意思を伝えなきゃなのに。


「「このリリス、私の姿を見ても何の驚きを見せません」」


「え?ああ血が出ているんだっけか」


「きゅーきゅ!」


リリイは足がフクロウと同じ物を持つ生物で、リリスは鉤爪でカーペットをめくる、鉤爪は土に何かを書いた。それは深く帽子をかぶった修道士の姿だった。これはおそらく修道士はそうしたか質問しているのだろう。ということは、このリリス(村人曰くリリイ)は僕が誰でどういう存在か筒抜けだということだ、それなのに攻撃しないとはどういうことか?友好関係を築こうと考えているのだろうか?リリイの顔を見つめてもその答えはわからなかった。


「人質のことか、大丈夫だ解放してやったよ、ちゃんと効果があってよかったよまったくおかげで村に魔法攻撃が襲うことはなかった、だがな、お前のことを許したわけではないからな、必ず仲間の借りはきっちり返してやる、アマレアを無力化した暁にはリリスの焼き鳥でも作ってやろう」


「きゅう・・・」


「「気持ちは痛いほどわかりますが、リリス事態に襲気はなかったことも事実だということを忘れてはなりません、ガーディナルに操られただけなのですから。一度冷静に考えてから行動しては?」」


「それで恨みが払しょくできれば苦労はない」


「「お姉さまは言っていました、ガーディナルには二種類いると、一つは自身の魔力におぼれ欲望のままにモンスターを操る者、もう一つは対等に語り合い共同する者、すべてはあのアマレアというガーディナルの行った過ち、勿論それを行ったのはこのモンスターですが無理やりやらされたことは重々酌量の余地があってもいいのでは?」


「なんたってそんなにこいつの肩を・・・あ」


そうか、あの騎兵が思っていたのはなぜ敵を許すのかを今の僕のように理解できなかったのか、中立的な立場の人間からしたら今の僕は恨みつらみで行動し、冷静でないように見えるのだろう。神の敵と教えられたからカンビオンを敵対視するように、僕もまた仲間を傷つけたから殺そうとする、これは一件当然のようにとらえられるがその背景をくみ取ればほかの主張が発生する。もっと視野を広げろ、そうユッタは僕に言いたかったのか。


晴馬は頭を掻き、睨む眼差しをリリスに向ける。


「ぐ~、許しはしない、が、今僕は冷静でない事も事実だ、今は保留にするが、きっちり罰は受けるんぞ」


「きゅい?」


「安心したか、僕の言葉は通じるのか?なら頼む、僕にガーディナルの場所を教えてくれ」


「きゅ?」


「だよなぁ」


「「何気に通じているような気がしますがねぇ・・・ん?外から女の声が」」


「アマレアか?」


僕はテントの橋により声を聴こうと耳を当てる。すると確かに男と女の離す声が聞こえてきた。男の声は間違いなく門番ともなれば・・・。


「ええ、間違いなく知らない顔の男でした、あれは敵の斥候です」


「よく見分けてくれた、テント事焼いておしまい!」


ばれてた!?くそ、これは予想してなかった事だ、すぐに対策をしなくては。


「何か使えるものはないのか、それか脱出方法は・・・無い!正面から出て皆殺しにしてやろう!」


「「何と言うか騎士として同類と思われたくない発言ですね」」


テントの外に出てみると、そこには火矢を向ける弓兵と雑兵達に囲まれており、その中にあの門番とアマレアの姿があった。ニタニタと笑うアマレアには余裕の表情すらうかがえるほどだ、だが確かに、僕は果たして火に耐えられるかといえば無理だ、炎を見るとルッツの実験場を思い出して寒気がするほどの恐ろしさを感じるほど苦手までである。ならば矢を見極めて進むか?健全な体ならまだしもこの満身創痍の身体でそれは難しい。どうすればいいんだ!


この時。晴馬にとある人物の言葉が脳裏によぎる、それはホルガーのあの言葉、【旨いウソは本当のことに少しのウソを混ぜることだ】である。攻撃ができない以上口で解決するほかない、やってやる、やってやるぞ!


「ふ、ふふふそろいもそろって馬鹿どもが」


「馬鹿はどっちだろうねぇ、ええ?のこのこと一人でやってきたあんたに何ができるっていうんだい?」


アマレアは口をかくして上品い笑う、晴馬はそれを増長させたような笑い方をしてみせ、あたりに笑い声を響き渡らせた。腹の腹筋を使って全身を震わせて遠くに響かせられるように笑うその姿にあたりはどよめいた。そのあふれ出る自信は一体どこから湧いてくるのかと不思議そうに盗賊や敗残群は見ているが。アマレアは眉をぴくぴくしてその姿を見ていた。


「な、なにがおかしいんだい?」


「僕が何も考えずこんなところに来るはずがないだろう?ここに来たのはお前たちに警告に来たんだよ、僕が騎士学校の生徒であるのは借りの姿、本当はアマーリア卿の配下の幹部だ!アマーリア卿はマティネスを欲してる、退かなければお前らも街ごと潰す」


「はぁ!?」


盗賊たちはその名前に敏感だ。波のように伝達した情報が人々の予想を膨らませ起こりうるであろう敵対関係に強い恐怖を植え付ける、ざわざわと騒魏始めるもアマレアだけは冷静だった。


「苦しいウソだね、それじゃあその証拠か何かはあるのかい?あんたがアマーリア卿の手下である証拠がさ」


「おおあるとも、アマーリア卿以外の貴族様なら行わない禁忌の代物が僕には備わっている、見たければ近づくがいい」


晴馬はそういうと自らの腕を切り、血を滴らせる。ぽたぽたの流れる血に異常がないか多くの者が注目するが、これといったものはなく、沈黙した中アマレアの高笑いだけがよく響いた。なんてことはない、こいつは本気でこれで脅せていると思っているのだ。やれやれもっとまともな嘘なら信じてやったものをとアマレアは自身の思惑通りの環境に優越感を覚えた。


「おお、思ったより血が出たな、すごく不安なんだけど」


「それが我々を脅迫する代物なのかい?あははは!おっかしい、考えもなしにそんなことやるもんじゃないよ素人!」


「確認もしないで笑えるお前に言われたかない」


晴馬は血を剣に塗ってあたりに振った。血は散弾銃のように四方に飛び散り多くの兵やアマレアに付着、服が汚れたことに怒りを感じたアマレアは眉を寄せ弓矢の発射の命令をしようとするよう弓兵に顔を向ける。


「矢を放て!すぐにだ!」


「アマレア様、こ、これは規格外です」


まったく意味の分からないことを言っている弓兵に呆れ、仕方なしにその規格外とやらを拝見することにした。


「「いやですね晴馬、私何も聞かされてないのでどうしようもないんですけど」」


「誰だいあんた!?」


先ほどの騎士が全くの別人になってしまった。というか性別すら違うじゃないか。思うことは多々あれど、いったいどうしてそうなったのかがわからないアマレアはただただ混乱するのみであった。


「「誰だいとは失礼ですね、私はアマーリア・ブルクスラー家の家臣筆頭、ユッタ・シビレ・ブルクスラーです」」


「ユッタ・ブルクスラー!?死んだはずのグリーフラントの騎士団の奴が何でこんなところに!?」


「「へ?なんですか晴馬、拡声器になれと?はぁ、そうです!私がユッタ・ブルクスラー!精鋭無比の騎士団団長にしてパラディンである。お前たちに告げる、間もなく来るアマーリア反乱軍は誰にも容赦はしない!この手を見よ!烈火は私の象徴であり貴様たちの結末を創造するものなり!あのこれすごく恥ずかしんですけど!?」


誰もが烈火のパラディンの証であるマグマにひび割れた手に注目する、これがある以上嘘ではないと認めざるを得ないからだ。そして何よりその能力は間違いなくユッタが持っていたとされる能力、こいつを殺せば間もなく来るのであろうアマーリアの軍隊に一生追い回される羽目になる。一人、また一人と弓を下す弓兵、距離を置き、やがては逃げ出す盗賊。組織が瓦解し始めている。止めなければならないが。どうやって止めればいいのだとアマレアは唇を噛む。


「「私は帰ってきた。体は違えど身は同じのこの体で生き帰ったのだ!お前たちに選ばせてやろう、この体に宿る男に従い投降するか後に来る軍団に蹂躙させるか、さらにはここで組織を捨てて逃げ出すかだぁ!」


「ひいい!逃げろ!森を出て遠くにに逃げるんだぁ!」


決壊した。そう表現するのが最もこの環境を表すのに持ってこいの言葉であろう。次々に武器を捨て我先にと逃げ出していく者たちをアマレアは止められなかった。ただあたりを見回してその惨状を目で追う事しかできない彼女は無表情だ、やがて散っていく兵士の中に残る兵士が現れた。それらは皆同じ黄金の鎧を身にまとい、決して引かない大きな信条を彼らは見せつける。そこに残ったのはすべてで80名弱。300余りの組織がここまで小さくなると滑稽に思えるが。どうもこの80名は300の組織と同等の能力を兼ね備えているように晴馬は思えてならなかった。


「新参も、雑魚も、元より必要なかったんだよ」


アマレアが静かに語った。それは嵐の前の静けさと言っても過言ではない。


「ここにいるのは、私の先祖より仕えている者たち、幾千年前のグリーフラントによって滅ぼされた平野の王国の亡霊さ」


アマレアは捨てられた剣を手に取ると容赦なく部下の腹に突き刺す。しかし、部下は顔色一つ変えることはなくそこで直立不動に立つだけであった。


「あたしはガーディナル、先祖より受け継がれしアンデットのガーディナルさ、この者たちは亡国になったあの日に我が一族にアンデットにされた最強の軍団だよ」


「なんだと?じゃあリリスのガーディナルじゃないのか?現に意思の疎通がでいていたじゃないか」


「ふふ、あたり前さ、人とは話せなくてもモンスター同士は意思の疎通ができるからね、アンデットに通訳させればいいのさ、そして何より私はこれを持っている」


そう言って彼女が見せた物、それは金の鎖のネックレスであった。


「マジックアイテムの一つ【腐敗の時計】さ、こいつはね、一回でも誰かの首にかけると、その人と同じ血が流れる全ての者が苦しみ悶えて死ぬ、そう、リリイ達のことさ、だけどあたしは寛大だ。作動条件である鎖の輪の切断はまだ行っていない」


つまりは何か?こいつは自分勝手にもここにやってきて挙句の果てには自分が使えないモンスターを呪いのアイテムで無理やり従わせたというのか?悪党というより下郎、下種であることには間違いないな。


「これで森は安全。だから近くの村の略奪にと意気込んでいたのに、このままでは全能のガーディナルが来るとははねぇ、アンデットはさすがに渡せないからね」


「なら投降するか?」


晴馬はすでに抜刀を終えている。窮鼠を前にして無防備にできるほど晴馬は何も学んでいないわけではないのだ。アマレアがどう行動するかを逐一観察し、負傷した体でも十分に回避できるように態勢を整えながら、彼女の返答を待つ。


「馬鹿を言わないでくれるかい?ならアンデットをもっと増やして戦えばいいだけの話じゃないか、あんたたちが殺した奴らも襲った村人も今頃アンデットになっているころだろう?そしてあんたを屠ればもっと強いアンデットの完成さね!」


「どうやら戦い以外に選択はないみたいだな」


80名近いアンデット、見た目は普通なのに独特の異質を感じるのは呼吸をしてないが故なのか、規則正しく一列にこちらへ前進してくる。一糸乱れぬその動きはチェスの駒の如く単純で精緻なものだった。だが、敵の到着を待つほど僕は暇ではない。囲まれる前にこちらから地面を駆りまずは一振りで一体の首を跳ね飛ばす。


「駄目だ止まらないやはり地球のゾンビとはわけが違うのか!?」


「やっておしまい!」


アンデットは正確に僕に標準を合わせる。筋肉が腐っているわけえっではないアンデットは行動も素早かった。アンデットというからにはゾンビと似ているという想像はしない方がいい。ただ心臓が止まった無感情の人形と考えれば最も単純でなおかつ適当だ、マネキンだからどこをいじっても壊しても全く効果がないように思える。だって首が吹っ飛んでもまだ動くし。


「囲まれたら厄介だ、すぐにでも移動しなければ」



「「それは難しいですね、だってもうすでに囲まれていますし」」


「な!?」


走る音が聞こえたであろうか?!まったく気配すら感じさせず取り囲む奴らに身が震える。それよりも四面楚歌な自身の環境の方が余計に身が震える。全く気が付かなかった自分も悪いがこいつらも人が悪い!


「うおうおうおう!」


「よけない方が身が楽に済むよ!」


縦横無尽に繰り出される剣技をかすめながらよけ、ムーミングで攻撃を食らわす、しかし駄目だった。どんなに切り裂いても吹っ飛ばしても奴らは身を起こし直ぐにまた襲い掛かる。もはや物理攻撃が聞かないことを理解した晴馬はアンデット全員が剣を振りかざした時を見計らない、宙を舞って脱出する。だが、それが必ずしも賢い選択かというとそうでもなかった。


「ぐ!痛てぇ・・・」


前夜の戦いの傷は当然完治されてない、それが余計に痛みを増して襲い掛かる。これが擦り傷なら痛みを我慢すればいいが包帯から血が滲みでていることを考えると軽症であるのかないのかは言うまでもないだろう。これから考えるにこれ以上はもう回避行動も攻撃も何もかも制限を入れるほかない、つまり。もう背水の陣、一発で80人を仕留めるしかない。


「解決方法も分からないのに仕留めるとか異常すぎるだろ・・・」


「「アンデット、人間の身体なら普通に切るのは有効だと思うんですけど」」


「んな分けねぇだろ、見てみ?あの群雄を、首跳んだり両腕なかったり片足もげてたりいろいろしたけど皆立ってこっちにやってきてるからね?這いずっているやつ一人もいないからね?」


「「アンデットの動力源は魂、墓のない死体が魂が救済できないがゆえに動き出すのです。つまり魂の解放が彼らの弱点ともいえます、私には、魂が見えます」」


「なんだと?!」


即座に晴馬は感情の同化に入り、ユッタが見ている物を晴馬自身で見ようとした。ある、たしかに普段通り見えている映像にエネルギー反応のようなものが、あたかもサーモグラフィで映し出されたようなものが見えた。一匹一つの魂が煌々として見える、だがどうやって仕留めるというのだ、一度で80の魂を潰すなどという所業が果たして実現可能なのだろうか?


「斬っているうちに攻撃を食らうのは今の身体じゃ避けられない、どうすれば・・・」


「これで最後、行けしもべたち!奴を仲間にしてやりな!」


アンデットの全力疾走、ランナーとでも名づけたくなるような速度で迫ってきた。このままでは攻撃を当てること自体が難しい。剣を構え、せめて万全の態勢で攻撃しようと尽力する。前方から来るその群雄たちに対する備えにしては貧弱だが、要は一騎当千の騎士となればいいと案外楽観的に晴馬は考え始めた。いくら考えてもしょうがないこともあると晴馬は考えるようになったからだ。奴らが一撃で死ぬか、こっちが倒れるか。なかなか面白いじゃないか。


「ん?後ろから風が・・・」


風はおそらく晴馬の集中によってそれしか感じられなかっただけであろう。それを表すかのようにアマレアは崖上からやってくる者たちを目と音と振動で感じていた。沈む太陽に背を向けたその集団は怖がる馬を力ずくで崖から走らせる。馬の駆ける音、声を上げる音、鎧の接合部がこすれる音、すべてが交響曲のように旋律を奏で、簡単に言えばアマレアの周りに布陣するアンデットの兵員不足を物語った。


「ハルマー!助けに来てやったぞー!」


それは騎乗のエリヤであった。だがそれだけではない。ベルダ、ヤコフ、ホルガーにレナクス、中隊と応援に来た中隊、僕の小隊、全兵力の総攻撃が今行われようとされようとしていた。


「エリヤ!」


多くの騎兵が崖を落ちるように駆ける、一直線にこちらに走り込み、やがて晴馬にも伝わる振動、がくがくと揺れる中ヌーの群れの如く駆ける集団が僕を避けるように通過する。


「つかまって隊長!」


それはこちらに向かってくるベルダから言われた声だった。彼女が手を差し伸べて駆ける馬に飛び乗る。


「どうして単騎で戦おうとしたの?」


ベルダは少し心配したような不満げな顔であった。無茶がたたった僕の身体がきしむ音をベルダは見逃さなかったのだ。危険な行為をしたのはお前もだろと言いたかったが、そんな時間も無かったので「ごめん」とだけ言った。


「総員突撃ー!」


レナクス大隊長により出された命令で馬は駆け、騎兵は背を低くしてランスを構える。誰も兜をかぶっていなかったため視界が開け、馬上槍試合のように視界不能になることはなく、アンデット達を正確にとらえることが出来た。ランスは震え、容赦なくアンデットの行進を文字通り空中分解させた。アンデットはひとつどころではない複数のランスに突き刺され、肉片と化して宙を舞うまでランスで刺された。その衝撃たるや、刺さったランスが曲がって折れるほどだ。


「旋回しろ!」


言われた通り旋回するも、もうそこには魂を持つ屍などいない。肉片と鎧や武器だけがあたりに散乱しているだけで、ほかには何もなかった。すると騎兵大隊は次の目標に移行する。アマレアは窮鼠だが馬には勝てない。ただ身を震わせ迫りくる恐怖と戦うことしか彼女にはでき無かった。髪を乱して混乱するさなか、アマレアはぽつりとつぶやいた。


「あ、あたしのアンデット軍団が、先祖より受け継いだ最強軍団なのに・・・返せ、かえせよおおお!」


涙を浮かべ、口紅も口から広がっていく、そこにはもうこの武装勢力の首領で敗残軍最後の将であろうアマレアの姿はもうなかった。


「あんたも、僕と同じこの国の被害者だった、が、悪く思わないでくれ」


「総員突撃ー!」


この環境から聞こえる声以外に、晴馬はもう一つ聞こえるものがあった。それは軍鶏の鳴き声、それに近いものを聞くことが出来た。なんだろうか?自分自身の戦闘意欲がそうやって表に向きだそうとしている破裂音のようだった。僕はベルダのランスではアマレアは突けないことを知っていた。それは距離的にも、技術的にも難しいからだ。だからミームングを使い、アマレアの首をはねてやろうと思った。僕はなぜこんなに残酷になったのだろう。昔の自分ではないみたいだ。


「カエセカエセカエセカエセ!」


アマレアの首は空を飛んでも言葉を言い続けた。晴馬はそれを見たのち、アマレアの身体がどうなったのか見ることはなかった。それよりも晴馬にはテントから飛び立つリリスに注目が行く、誰も気づかないリリスの姿を見た晴馬は、こちらを見つめるリリスにあるものを見せつけた。


ただ泣き叫ぶアマレアは、アンデットと同じ結末を迎えた。ただ、その血煙の中に空へと舞ったマジックアイテム【腐敗の時計】は、晴馬が手にすることとなった。それをどうするか、晴馬は村に帰還する間に考えた。今中隊は森を抜け、夜の月明かりが照らす平原へと足を進めた。皆それぞれが帰還できることに喜びを感じ、あるものは武勇伝を仲間内に言いふらした。


「俺が一番初めにアンデットを刺したんだ!お前らが肉片だったのは俺が刺したからだぞ!」


「いいや、僕が宙に飛ばしたのを覚えている、僕が一番槍だ」


皆々自分の手柄にしようと語り合いは議論になることもあった。僕はマジックアイテムを見ながらその話を聞き、何でそこまで手柄をほしいのか不意義でならなかった。


「「それを持っていることで何か得がありますかね?」」


ユッタは心配そうに聞いた。つまるところ僕がこれを私情に流されて使わないか不安なのである。


「それは僕が決めることです、でも、多分僕が使おうとしたら間違いなくリリイは僕を殺すだろうね、森を抜けたのに空にまだリリン達が来ている」


空は滑空するサキュバスやインキュバスでごった返している。戦勝気分の隊内は目もくれていないが、指揮官や経験を積んだものはしっかりと離さずそれを監視していた。


「案外今日はハルマを襲いに来るかもしれないわね、勿論ベットの上で」


ベルダは冗談交じりに呟いた。


「果たしてどうかな?僕が襲う側かもよ?」


連中の本来の目的を知っている晴馬は笑い半分に言った。ベルダもつられて笑うが衰弱していたのか少し疲れているようにも見える。一日とは言えあのような過酷な環境で民間人を守りながら戦ったのだ。おそらくは不眠で監視をしていたに違いない。僕に何かできるとは思えないけど、せめて今の僕にできる事をやってやろうと頭を撫でた。


「ベルダ、よく生きててくれたね、今だから言えるけど、僕はてっきり死んでいる者だと思っていたよ」


「あら?隊長はあたしが死んだ方が都合がいいと?悲しいわ、やさぐれちゃうかも」


「そ、そういうつもりで言ったわけじゃないけど」


「聞こえないわ、ひどいわひどいわ」


ベルダは泣いたふりをして晴馬を困らせるも、あまりにも晴馬が思い通りに困り果てるので思わず笑ってしまった。それを見ている部下やほかの中隊の騎兵、さらにはエリヤはうらやましいような憎たらしいような顔でそのバカップルぶりを見ていた。


「ごめんさない、あまりも面白くってつい意地悪しちゃったのよ、かわいい上司を持つと部下は飽きないで済むわ」


「こっちは本気で心配したのに・・・」


「ご立腹なの?ちょっと意地悪過ぎたかしら」


「いいやベルダさん!ハルマに甲斐性がないだけだ!私だったら馬乗りにされても尻を調教用の鞭で叩かれても全く怒らないぞ!」


どこからともなくベルダの馬が近づき僕らと並行して来た。鼻息が荒いエリヤは自身の浮かび上がる妄想に思わず鼻血が出そうになっていた。


「ごめんなさいエリヤさん、私隊長と重要な話をしているから後で話しかけてくれるかしら?」


「おおう!放置プレイもまた、また・・・イイ!」


「こいつはひでぇや」




村に帰って晴馬が一番初めに向かったのは教会だった。教会の修道士にはあまりいい顔をされなかったが、牧師に対しては思いっきり不満がある顔をしていた。


「今度は何ですか、また人質を徴収しようとしているのですか?」


「いいや、僕は貴方に渡したいものがあってここに来たのです」


晴馬は例のネックレスを牧師に渡そうと手に持ち、牧師に見せつける。


「これは・・・誰がかけられたんですか?」


「話が速い、どうやら盗賊の首領がリリス、失礼リリイにかけたようです、首領は討ち取りましたがこれだけは残った、後はあなたの好きに使ってください」


「なぜ私に、貴方はモンスターとカンビオンの話を聞いて人質に利用するような極悪人でしょう?」


不思議そうに言った牧師に無理やり渡すと晴馬は教会を出ようと反転する。


「別に、僕はあなたの功績を評価しているだけですよ、貴方がそれを持つことでこの一帯の安全と共存が図れるのならばあなたが持つべき、そう判断したまでです」


「は、はぁ」


「それでは、僕は失礼します」


晴馬が教会の外に出て空を確認する。もうそこにはリリンの姿はなく、事の全てを知っているようにも思えた。馬を取りに厩へと向かう。


「ふふふ」


「うお!びっくりしたぁ」


そこには闇に紛れた一匹のリリン、サキュバスの姿があった。この村の人間を装った服装で、晴馬に近づいてくる。


「なんだ?闇討ちか?」


「「違うようですよ?彼女から敵対の感情が読み取れません」」


「ふふふ、ふふ」


「やめてくれあの時のベルダを思い出してトラウマになるだろ」


「ちゅ」


「!?」


サキュバスは消えた。闇に溶けていったといった方がいいのかもしれない。ただそこには呆けた晴馬が一人佇んでいるだけであった。しばらくして何が起きたか理解した晴馬はその意味が分からず大層不思議がった。なぜそのようなことをしたのか、何の意味があるのかなど聞かなければわからないことばかりであった。馬に乗りテントに戻る間中も晴馬は考え続けた。


「あれはいったいどういう意味があったのだろう?」


「「さぁ?あくまで推論ですが、恐らくあなたの評価の表れではなかったのでしょうか?あのサキュバス、恐らくあなたが合戦の際に足蹴にしたサキュバスですよ?」」


「評価?評価ってどういう意味だよ?」


「「火矢で燃やされそうになったリリイを助け、一人でアンデットと戦って守り、大隊にその存在を言わなかった。そして一番の適任の者にあのネックレスを渡した。そう思われているのではないでしょうか?」」


「はぁ、なるほどね」


こうしてテントについた僕はまさか本当いサキュバスがいるんではないだろうかとびくびくしながら覗いてみると、そこにはベルダとフェリシーの姿があった。


「何であなたがここにいるのかしら?使用人なら用事を済ませて出ていきなさい、ここは貴族のテントよ?」


「そ、その、どうしても晴馬さんに伝えたいことがあって、あの、持って行った刃物を片付けたことを報告に」


「なら私からしておくからもう寝なさい」


「わ、私から言います!ほ、本当はハルマ様ともっとお話がしたいんです!お話が!」


「なら明日にしなさい」


なんだか入りずらい環境だ、かといってここ以外には僕のベットはないし、うーん。困った。


「そうだ、エリヤに頼んで寝かせてもらおう」


晴馬は考えた。一滴血の混じった水を瓶に布を入れれば比較的衛生的にかつ長期間ユッタの姿が見れるのではないだろうか?そう思って作ったこの装置、さっそく試してみよう。


「「なんだか寒気が」」


結果から言えばそれは大成功であった。エリヤは晴馬が寝る際に瓶にある薬を定期的に塗ってくれと言われた通りに瓶の布を触り、エリヤが寝付くまでユッタの姿をエリヤは見た。晴馬も、エリヤたん120分コ-スを堪能し、作戦は大成功を遂げるようにも思えたが。夢の中でユッタに会い、あれをすっかり忘れていた自分の馬鹿さ加減に思わず泣いた。


「グス!はるまのばかー!」


「ごめ~~ん、こわかったよね?こわかったよね?」


こうしてユッタはしばらくトラウマに悩まされ、「お尻が・・・誰かがいやらしくおしりを触ってくる!」としばらくうなされるようになった。






村からマティネスに帰ることになり、多くの村人に見送られながら帰ることとなった。その中には例の幼女ミーラとそのご両親の姿もあり、ほっと安堵した。カンビオンも一応はをいう形で手を振っていたが、僕も誤解が解けようととけなかろうといいような気がする。


「何であなた昨日はテントに帰らなかったの?」


ベルダは目にクマを作っていた。思いっきり不満そうだ。でもあれを見てテントに入ろうとする人はいないだろう。


「い、いやぁ村人が酒をすすめてきてそれで寝てしまったものだから」


「ふうん、昨日は少し意地悪しちゃったからサービスしようかと思ったのに残念ね」


「お、おう残念だんなぁ」


「「何か寒気が、忘れていた記憶がよみがえりそうな気がします」」


するとフェリシーがやってきた。なにやら手紙をもってやって来たフェリシーも目にクマが出来ていた。


「ハルマ様、手紙がマティネスより届いております」


「なになに?」


晴馬は揺れる馬の背中でその手紙を見た。


「案外、今回一番の手柄を通った隊長になにかご褒美があるんじゃない?」


ベルダがそう言って茶化したが、ハルマの表情はあまりよくなかった。


「ハルマ殿へ、マティネス学院は貴方が騎士不相応と判断し、退学を命じることをここに宣言します、だと?」







これにて学園編は一端終わりです、長たらしくなってしまいすいません。本来の予定ではもっと短かったのですが変に時間がかかり、ここで区切りとします。


さて、次からはウーダンカーク編となります。ついに晴馬はアマーリアやヴィンセントと共に一から国造りを行います。果たして晴馬はどうやって発展させていくのか?こうご期待!

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