29 潜入
「ハルマ起きてくれ、もうすぐ出発の時間だ」
寝ていたはずなのに寝ていないような錯覚にさいなまれながらテントの外に出るとすでに偵察隊は皆整列を完了し、これから出発できる状態までになっていた。
「「ぐすん、ぐすん」」
夜通しで泣き止ませたはずなのに、エリヤを見たことでユッタは再び凍てつく恐怖に駆られる、今の彼女は幼児退行の域まで出ているため、繊細なサポートをしなければならない。
「怖くない大丈夫、ユッタちゃんは強いもんね?」
「「当たり前ですぅ、ユッタ強いもん、ぐすん」」
「そうだよね、だから泣くくらいのことは我慢できるでしょう?がんばれがんばれユッタ」
「「うん、頑張る、そうしたらお姉さまも褒めてくれるよね?」」
ここまでの精神破壊をするとは、一体このエリヤという女はどんだけ恐ろしい奴なのかとある種恐怖がわく、こんな事なら後ろおっぱい30分コースなんてやらなければよかった。虚ろな視線を向けながら晴馬は偵察隊の列に加わった。
「ハルマ、今回は大隊長から激励の言葉があるそうだ。これから仮拠点として設営された大隊本部に行くぞ」
僕はそれを聞くとそのまま言われるがままに大隊本部へと足を踏み入れた。そこは中隊が徴発した家の隣にあるテントで増援に来た中隊の隊長と話しているレナクスを見た。
「レナクス大隊長、第二次偵察隊、総員準備完了しました」
「ん、もうそんな時間か、よく来てくれたな、諸君らは非常に優秀に働いてくれると聞いている、今回の任務は総攻撃の効果を発揮するにあたって非常に重要度の高い任務だ、昨日の今日ということもあって敵も相当警戒していることだろうが、パラディンの戦いの前には無意味だということを教えてやれ、諸君らの戦いに期待する」
そんな定型詩みたいな言葉を言うために僕たちを呼んだのか?ああ、なんだか体から力が抜けていく、こちとら敵の総本山を特定するためにそれ相応の用意をしてきたんだ、出来るなら声はもうかけないでくれ。そんなことを考えていたら僕だけ敬礼を忘れており、すかさず掲げ剣を繰り出して事なきを得た。さてはて僕たちはこれから森へと足を進める、誰しもがぐったりとした疲れた顔をしていた。無理もない、昨日は夜襲を受け、今日は偵察とか疲れないわけがないのだ、それなのに増援に来た中隊は偵察隊を出さないのか?明らかにあの大隊長役立たずだろ?
「やっとだ、やっと彼女を探し出せる」
嬉々とした顔でエリヤは語る、間違いなくベルダのことだろう。
「生きている、よな?」
「当たり前だろう?彼女は韋駄天のパラディン、馬なんかそもそも必要がない彼女が馬を失ったぐらいで撤退ができないとは思えん、恐らく何か理由があってとどまったのだろうと私は考える」
僕もそうあってほしいと思ってる、きっと、囮に使われた民間人を庇うために彼女はわざと落馬し、雑兵を蹴散らして行方をくらませたとか、そういった話だろう?そうであってくれ、冷汗のたまった手を握りしめ、晴馬は彼女の運命を願った。
「そうだ、エリヤ。民間人もこれに巻き込まれている、とある子供の親御さんだ、こいつも探してくれないか?」
「ほう、いいだろう、こうなれば一人や二人変わらん、皆見つけて基地に戻る」
「そうだ、親御さんも、ベルダも必ず見つけ出そう」
「え?副隊長を探すのですか?」
僕の分隊の隊員から声が漏れる。しまった、声を絞らなかったためばれてしまった。軍旗違反で命令に従わないとなると困る。
「ぜひ、我々も手伝わせてください、ほかの分隊も捜索には賛成です、ベルダさんを見つけ、基地に帰りましょう!」
「おお!士気の高い奴らだ!」
エリヤは歓喜の声を上げた。確かに、今回の騎兵は士気が高いなぁ。分隊に関係なく皆頷いて捜索に協力してくれるそうだ。
「ベルタさんのおっぱい、必ず助けましょう」
下心隠す気もねぇのかよ。
「何はともあれ探さなくては意味がない、偵察はそのあとだ」
エリヤはそういって鼻を鳴らす、僕たちの戦いが始まる合図だった。偵察隊は皆緑のポンチョを装備してカモフラージュをし、森を、モンスターを、誰にも気づかれないように潜り抜けた。だが、その中でとある異変に我々は気づいた。
「隊長、誰かがついてきています」
「言わなくても分かってる、エリヤ、一度どこかに隠れて正体を暴こう」
エリヤもうなずき、皆一斉に四散して地形に沿うように伏せる。それぞれが木となり草となり、息を殺して追手の正体を探る。やがて足音が聞こえてきた。これは二本足、リリンやも知れない、こんな時に出くわしたら我々の数では一たまりもない。落ち着け、通過すればいいんだ、奴が通過すれば事なきを得る。それは皆同じ、ただただ近づいてくる足音に集中し、自身が自然の一部であることを意識する。
「おかしいなー、確かにここだったはずなんだけど皆どこに行ったのかなー」
人の声?!誰だいったい、それも女だぞ?!武装勢力に女は一人だけだったから声でわかる、こいつは別の女だ!
「誰だ貴様!」
部下がしびれを切らし、女の前に出る。そうなればばれようがばれまいが関係ない、我々も出なければ。
「抵抗するなおとなしくしろ!」
晴馬は起き上がって女へと剣を向けるも、身に覚えのある服、そして深々と被った帽子を見てふと気が付いた。メロではないだろうか?
「わ!ストップストップ!怪しいものじゃないよ、私はメロだよ」
そういって帽子を脱いで顔を明かす。や予想通りカンビオンに見られる特徴的な目を持っている。だがそれを僕以外の人に見せるのが悪かった。エリヤを除き部隊は抜刀し凝視しながら忍び足で近づいていく。
「貴様リリンに我々を報告しようとするスパイだな?!」
一人の騎兵が叫んだ。期待はしていなかったが、それでもあんまりな見解だと僕は思う、彼女はそれを否定するように首を横に振り、必死に説得を試みる。
「違うよ!もしもの時に私がいたらリリイ達も攻撃してこないかと思ってここまで来たの!」
「ふざけるな!お前のような素人が参加しても敵に場所を教えているようなもの、むしろ来ない方がまだ・・・」
「ちょい待ち、メロ、本当に来るのかい?」
部下を制した晴馬が確認を取る。余り部下からの印象は良くないようで、疑念の顔をしていた。
「あんたが私たちを拘束したときはとんでもない悪魔が来たと思っていたけど、でも、そのあとすぐに解放されて見せしめじゃないって気づいたの、仲間からもあんたのこと聞いたわ、理由があってやっているんでしょ?なら私も手伝う、村を救われた恩があるしリリイは二人目の母さんみたいなもの、これ以上は苦しめたくない」
メロは真摯なまなざしで晴馬を見つめ、ハルマもその有用性に考えが傾いた。
「そうか・・・」
晴馬は一人考えた。それは連れていくかどうかということではなくいかにして行動すれば彼女を安全にできるかということだ、晴馬はカンビオンとリリイの間の関係が本物だということを理解した。それから考えても連れていくことでモンスターからの脅威がなくなることは言うまでもないのだ、しかしもしわれわれが拉致して連れてきてると思われたら?間違いなく襲われるではないか。
「隊長何を言っているんですか。まさかついて行かせる気じゃ?」
肩を叩かれ、確認の意思を部下が取る、僕は彼と向き直り頷いたのち、今度はエリヤに目を向ける。
「私は構わんよ?危害を加えてきそうにないしな」
「エリヤ隊長まで!?」
「決定だな、危険が伴うが、それでもついてくるというのなら僕のポンチョを貸そう」
「ありがたく受け取るわ」
「ありえない、この女が神の名をけがしたのをご存知でしょう?!」
怒号のように響き渡る部下の説得に晴馬は眉一つ動かさず、平然とメロと対話する、メロもメロでもう慣れっこなのか、何も反応することなく平然とその行動を無視、結果一人寂しく駄々をこねる子供の声が、あたりに散漫するだけだった。
部下は皆カンビオンを薄情な目で見ていたが粗暴には扱わなかった、なぜならカンビオンは晴馬の隣で従軍するようで、石でも投げようものなら晴馬にあたる危険性があるからだ。なぜ晴馬がそこまでカンビオンにやさしいというか寛大なのか理解できず、ただひたすらエリヤ含めた三人組についていくことしか今の騎兵たちにできることはなかった。
「近い、近いぞハルマ、もうすぐエリヤさんの手掛かりに近づくはずだ」
「本当か!?」
「ああ間違いない、ここに、ここら辺に何か落ちていないか?」
その言葉を音頭に偵察隊が地面を見つめた大捜索が行われた。今の僕にとってはたとえベルタの髪の毛一本であっても見つけられる自信がある。なんでもいい、何か手掛かりを!
「あった!ありました隊長!」
「本当か?!」
皆が集合する、その物は一体どんなものなのだろうか?生存していると考えられれば体の一部であるとは考えにくい、それ以外の名にg¥かであってほしい、頼む!
「この、この鎧は間違いなくベルダ副隊長で間違いない」
震える声で見せたその鎧は、無残に大きなヒビの入った血まみれの鎧だった。よく見れば髪の毛もまとめて残っていることから取っ組み合いになった可能性が高い、しかし、この血の量では・・・・。
「まさか、そんな」
「嫌でもこれでは・・・」
一人一人が暗い影におびえるように声を上げた。吐き気を催す悪臭も、ちぎれた髪も全てがマイナスの思考回路を働かせる。
「待て!まだ死んでしまったとは限らないだろう!?もっとよく探せばきっとほかの手がかりがあるはず」
エリヤだけはそういうことを考えず、周りを明るくさせようと勇気づける。
「墓に入れてやっていないんだ、最悪アンデットになったって可能性も・・・」
一人がぽつりと言った。しかしそれはエリヤにとっては禁句であった。否応を言わせず騎兵の胸倉を掴み、渾身の一発をお見舞いする。
「ぐはッ!」
「もう一度言ってみろ!今度はこんなものでは済まさないぞ!」
「落ち着けエリヤ!何もかれだって悪気があったわけではない!」
「離せハルマ!こいつは敗北主義者だ!常に暗闇を好む陰湿野郎だ!そんな奴を正さず誰を正すというんだ?!」
晴馬は押さえつけようと躍起になるもエリヤはなおも罵詈雑言をいいチラシ、暗かった偵察隊の雰囲気を最悪にする。皆が下を向き、ベルダの末路を想像せずにはいられなかった。
「あのう」
メロが声をかける、彼女は我々より少し離れているところに膝をついて何かを指さしていた。
「これ、手がかりになりそう?」
ひとまずエリヤを解放し、僕はメロの元へと向かう、そこにあったのは服だった。女ものの服で血まみれだ、何ということか、これは第一次偵察隊の時にエリヤが来ていたものと酷似しているではないか。
「待て、上しかないのはおかしいだろう」
エリヤの冷静な突っ込みが来る。そういえばそうだ、というか上が脱がれているとはどういうことだ?まさか!敵に囲まれて・・・そんな無残な?!我々はその想像がより具体性を見せるものをまた発見してしまう、それはメロが座っているところから後尾ほど離れた木の枝に、かあの所が履いていた乗馬用のズボンが発見されたからだ。ああ、しかもご丁寧に靴下までかけてあるではないか!
「つまり、素っ裸にされて・・・おえ!」
一人が想像で嘔吐してしまった。僕も気を失いそうな感覚に陥る、立ちくらみのような態勢で身動きが取れず、ただ下を向くだけだった。ほかの者も、座り惚けるものや木にもたれるもので、誰も動けなくなってしまった。
「バカな・・・バカな」
エリヤは放心状態なのだろうか?同じ言葉を繰り返し目が虚ろだ。誰もが信じたくないが、それが起きた可能性は非常に大きい、ああ、何という悲劇だ、ならば話は早い、恐らく敵に拠点に向かえば、彼女はまだ生きているのかもしれない、しかしそれが生きているといえるのかについてはここにいる者たちは誰もが答えられる自信がなかった。あの血から考えても、生きているのかアンデットなのか剥製なのか、想像は無限大だ。こんな時にふざけるなんて、僕もどうかしている。
「気持ち悪い・・・エリヤ、すまないが近くの水場に連れてってくれ」
「あ、ああ」
ヨロリと不安定な足取りで動いた。本来ならば彼女を一人にするべきであっただろう、彼女にとっては初恋の人、この事実を知った中で一番衝撃を食らったのは彼女で間違いないのだ。きっと思うこともその絶望感も誰よりもエリヤは感じている、しかしながら僕は弱い人間だ、今の僕は、たとえユッタという存在がいたとしてもまだ心細い、傷心した彼女を引きつれ、水場へと足を運んだ。
「なんだ?」
水の音が聞こえるあたりでエリヤが何かを発見する。僕もそれを見ると、木に引っかかったパンツだった。
「パンツか?」
「パンツだな」
「女物か?」
「そりゃあそうだろう」
なぜにこんなところにパンツがあるんだ?持ち主は誰であれ人間であることには間違いない、すると武装勢力の可能性も出てくる、こんな時に出てくるなんて空気の読めないやつらだ。というかなんでここに置いておくんだよ。
「わかったぞハルマ、恐らく目の前の湖で水浴びをしているに違いない、それならば奴は一人、こっちが有利だ」
「しかし女ならガーディナルの可能性もある、ここは一度撤退して、もっと人数を増やさしてから出ないとモンスターに襲われたときに」
「あら?誰かそこにいるの?」
湖の茂みから声が聞こえた。それを聞いた二人はすぐに身構え戦闘態勢に入る、ガーディナルなら間違いなく不利だ、最悪どちらかが犠牲になるどころか部隊にも影響が出る、どうにか仲間の元へ伝えなくては。
「エリヤ、ここは僕が何とか耐えしのぐ、君はどうにか仲間にこのことを伝えるんだ」
「待てハルマ、お前の言う通りガーディナルなら一人になった方が余計不利な可能性もある、共闘して、ゆっくり撤退しよう」
「なになに?ひょっとして戦おうとしているの?ならせめてそこにあるパンツを取ってくれないかしら、それ私のなのよ」
パンツ?今それどころではないだろうまったく暢気な奴だ。こんなに人を小ばかにする奴はベルダ以来だ、戦う気力すら失せるわ。
「パンツなどどうでもいいだろう!姿を見せ、正々堂々と勝負しろ!」
エリヤの紳士たる戦いへの要求に向こうは反応せず、ただただ茂みにこもるばかりだ。もしかしたら彼女は囮で、我々をまた雑兵が囲もうという魂胆か?それともあそこには本当は誰もいなくてすでに後ろに回られているとか?
「あたりを警戒した方がいいかもしれないよエリヤ、向こうは姿を見せない分、ほかのところにいる可能性もある」
「そうだな、お互いに背中を合わせて全方向からの攻撃に対処できるようにしよう」
僕たちはお互いにくっつきあたりを警戒する。木の陰や枝のこすれる音に全意識を集中し、どこから来てもいいようにした。
「待ちなさいよ、私はまだ裸なの、あなた方がよくたってこっちがよくないわ」
茂みの声は少し荒めの声を出し、僕たちをけん制する、こっちの行動は筒抜けか、気配で確認するとは手練れで間違いない。
「なら姿を見せろ、そうすれば戦う準備ぐらいさせてやる」
湖の茂みから聞こえるの声に、警戒するようにエリヤは言う。
「そう、なら待ってて、すぐに行くわ、あら?隊長さんじゃない」
茂みから出てきた裸の女は懐かしそうにつぶやいた、彼女はよく発達した張りのある胸を持ち長身な紅い目をした人だった。そう、それはまるで。
「ベルダァッァァ!」
「べるださああああん!」
「はぁ~い」
先ほどの枯れ木のようだった姿から一変、僕たちはまるで平原を走る虎のような雄姿で湖を駆け、彼女にエリヤが一番に、その次に僕が抱き着いて歓喜の雄たけびの如く彼女の名前をを叫んだ。僕もエリヤも考えていることは同じ、生きていた。生きていてくれた、僕が潰しかけた命を、彼女は自身の手でちゃんと守り抜いていたのだ!
「べるださあああん、好きなんだ!愛しているんだ結婚してくれ!」
「ごめん。それは難しいわね、友達から始めましょう?」
「あああああ!振られたはずなのになぜかうれしいいい!」
エリヤは歓喜からなのか悲壮かわからないような潔さと勇敢さで告白し、砕け散ったのにもかかわらず満面の笑みを崩さない、しかもここぞとばかりに谷間に顔をうずめ、犬張りのクンカクンカを発揮してベルダを困らせた。いや、よく見ると若干引いているようにも思える。
「ベルダ!なぜ帰隊しなかったんだ!君ならそれぐらい簡単だろう?」
「そうなんだけど、民間人を連れてモンスターの森を抜けるのは難しいと思ってしばらく様子を見ていたのよ、あらあらそんなに甘えちゃって、本当にかわいくて手の掛かるしょうがない人ね」
「なでなで?ハルマだけなでなで!?なんでハルマばっかりいいいい!ずるい!ズルいぞおおお!」
「ごめんなさいエリヤさん、できればあなたは少しわきまえてくれないかしら?手つきがいやらしくなってきて怖いのだけど?私裸なのだけど?」
「ごめんなさいいいい!」
ベルダは抱き着く二人を母親のように二人が落ち着くまであやし続けた。しばらくして晴馬が落ち着きを取り戻し、裸であるベルダにくっついていたことを思い出して反射的に離れベルダの裸を見ないよう真反対の方向に体の向きを変える。にリヤはなおもべったりと離れようとはしなかったが、平静さを取り戻したようでいつもの自信あふれる顔に戻っていった。
「そういえばベルダは民間人がとか言ってたけど、それって落馬したときに?」
晴馬は振り向かずに向こうの方を見る。
「ええ、武装勢力の囮に使われていた民間人で夫婦だったのだけど弓矢に殺されそうだった、だからそれを守りながら撤退していたら馬にあたってしまって、馬はそのままどこかに行くし、偵察隊は壊滅を避けてばらけるしで私は敵を倒しながらどうにか逃げたの、返り血が臭くてたまらなかったわ」
ああ、あの血はそういう。
「じゃあ民間人は今どこに?」
「ここの先にある洞窟で野営しているわ」
多分、それがあの子の親で間違いないだろう、これで探す手間も省けた。あとは部隊をうごかすだけか。
「しかし心配したんだよ?なんだかの形で生きていることや場所を教えてくれればよかったのに」
「そうね、でも狼煙を上げようものなら武装勢力に気づかれるし、それに隠れようと必死でそれどころじゃなかったのよ」
「今は説教は良いじゃないかハルマ!それよりもこうして生きて再会できた喜びを分かち合おう!そうだ、偵察隊の人たちも後で呼ぼう、きっとみんな喜ぶぞ」
「ぐぬぬ、でも確かにそうだな、とりあえずベルダは着替えて皆と合流、その後民間人とベルダを村に送る班と任務を遂行する班に分かれる、それでいいね?」
予想通り部下たちはベルダの姿を見て大喜びした、皆がベルダを褒め、崇め、生きていることに涙を禁じ得なかった、部隊を分けるときも予想通り片方が多くなったがそこは分隊で命令することにより回避した。エリヤがエリヤとヤコフの分隊でベルダと洞窟の民間人を連れて行くことになり僕の分隊が任務を継続する事が決定しエリヤの能力はないが森に詳しいメロを連れていくことで野営に使えそうなポイントを探すことで特定するつもりだ。
「じゃあベルダ、君はしっかりと休んで英気を養ってくれ」
「そうするわ、隊長もあまり無茶しないでね?」
エリヤの部隊が森から洞窟に向かい、僕たちはそれを目で見送り無事に帰還する事を祈願した。ベルダは僕に手を振っていたが、それを返す手は僕だけでなく分隊全員であった。
「良かったですね隊長、ベルダ副隊長を見つけることが出来て」
「ああ、本当に良かった。おかげで我々の士気も上がったことだしいよいよ悪を打ち倒す時が来たようだ、皆気を引き締めて戦おう」
「「「おう!」」」
「「ハルマ」」
ユッタが久方ぶりに声をかけてきた。彼女の声も怯えてなくいつも通りだし、昨日の傷はだいぶ言えたのだろう。
「なんだユッタ」
「「なんだか昨日の記憶がまったくないんですけど何か心当たりありませんか?」」
訂正、余計深刻化していたようだ。
偵察隊はいくつかの野営地の候補を探り、崖したについに敵の本心を見つけることに成功した。いくつものテントがひしめきあい鎧を着た者たちや包帯を巻く者たちが行きかっている。
その中には、例のガーディナルであるアマレアとその眷属リリイの姿がある、僕たちはそれだけで任務は成功だが、その中で一つ気がかりなことがあった。
「おかしいぞ、何で奴らリリンと一緒じゃないんだ?奴らは今どこに?」
「テリトリーの中にいるようなこともなかったし、どこにいるんでしょうね?」
部下も分からない様子だ。
「誰か、知っているやつはいるか?」
分隊は誰もそれに対して答えを出せそうにない。そりゃあそうだ、僕だって見当のつくようなことがない、せめてその足取りがわかれば状況は違うのだろうが、そのためにまた大隊本部が偵察任務を出す危険性がある。くそ、このままじゃまた犠牲が増える、こうなりゃ適当に嘘ついてごまかそうか?
「多分、人の精を集めているんじゃない?」
分隊では出せなかった答えはメロが持っていたらしい。
「それは本当か?」
「ふん、さすがに穢れた胎児は言うことも腐りきっているな、隊長、こいつの話を鵜呑みにする必要はないですよ、数日ここにとどまりいつ戻ってくるか確認して、それが周期的ならそれでよし、ないならないで報告すればいいじゃないですか」
「何とでもいって、いいかしら騎士様、リリンはそれ自体に生殖能力がないの、だから代わりに人間に集めた精を宿してカンビオンを生ませるという習性をもっているの、で、精を宿させるのは夜なのだけど、集めるのは昼だと言われているわ、私はさすがにそんなころの記憶はないけど、それでもこの状況を説明するには持ってこいの話だと思うの」
「もしそれなら日没までは奴らは戻ってこないか?」
「恐らくわね、本当は悪魔が来た時にリリンはリリイへの道案内をしなくてはならないのだけど、そうなると、悪魔がいない今はリリイが妊娠している可能性が高い、ガーディナルを討ち取るチャンスと考えていいはずよ」
「そうか・・・」
「隊長!なんでいつもカンビオンの顔を立てるんですか?こいつらがどれ程神を冒涜した存在なのか、隊長自身が一番よく知っているはずでしょう?」
「いいか、それが事実だろうとなかろうと僕の日常生活に影響がない限りは関与しないのが僕のスタンスだ、なにか意見でも?」
「なんて人だ!」
その言葉に部下は激昂する、ハルマの肩を掴み正面から唾を散らしながらのその姿は悪を正す裁判官のようだった。
「我々赤霧の教会の信徒は神に生かされ、神に守られえてその生活を享受しているのです!ゆえにわれらは神へ崇拝することによって忠誠を誓い決められた生活送ることで神の存続を守るのです、神のガーディナル、グリーフラント国王の言葉ですよ?そう告げた神がいるならば、神を崇拝するものがその制約を守り、神の身のままい行動すべきでしょう!?」
「それが君の意見ならば、僕の意見も主張させてもらおうか」
晴馬は肩の手を払い、絵画の人物像のようなポーズをとった。
「神は死んだBYニーチェ」
「はぁ?」
「僕の世界の話だ、気にしないでいい、それより君たちの言い分はわかった、確かに信じられないものを無理に信じろというのは拷問のようなものだし、この状況でそれは恐怖以外の何物でもないだろう」
「やっとわかってくれましたか」
「そこで僕も考えた、メロの話を信じる僕はこれからガーディナルを捕らえる」
「わかってくれました?!」
けっしてふざけているわけではない、彼の言うことには一理あると思ったしそれは分隊全員がおもっていることに違いない。ならばそう思っていない僕だけが行動すればいいのだ。
「まずメロ、君はここまででいい、村に帰ってくれ、それから部下諸君、君たちはここで待機し、ありのままのことを報告してくれ、危険ならば撤退してくれていい」
「おっしゃる意味が分からないんですが・・・」
「君の意見を採用し、君たちは経過を観察、リリンがやって来るのを待ってきてくれればいい、僕はリリイのいない今に隙をついてガーディナルをとらえ本部の手見上げにする」
崖を下るのは比較的簡単だった、茂みに入り晴馬は敵の動向をうかがいつつガーディナルの居場所の特定に躍起になった。崖を下りているころにはすっかり夕方になっており、そのためすでアマレアもすでに崖の上で見た場所にはいなかったからだ。
「このままでは夜になる、そうしたら僕だけでは歯が立たない」
よく目を凝らし、一人一人の顔を拝んでアマレアを探すが、どこにもいなかった。しかしその中で見つけた一つのテントが赤い布で作られており、またテント群の中で一番中央にあったことからまずあの中で間違いないと理解した。
「どうやってあそこへ行くか・・・」
「へー、しょんベン」
男はテントから離れて茂みの近くで用を足そうとする。
「まったく、昨日の惨敗でアマレア様は大層お怒りだし、こっちの人間もだいぶ死んだ、何でこんなことになったのかねぇここは安全じゃなかったのかよ?確かにリリンは役に立つ、何十人と向こうを葬ったが、こっちもやられっぱなしじゃなぁ」
「なら引けばいいものを」
「だ!だれ・・・」
男は茂みに引き込まれ、首を絞められ気絶する。
「殺すにも叫ばれては面倒だし鎧や服に血が付く、これが一番の正攻法だな、さて、変装変装」
晴馬はいそいそと着替えをすまし、さっそくテント群の中へと足を進めた。
「中に入るのは簡単だったがこれからが面倒くさい、どうやって入ってくれよう?」
雑兵がボスの部屋に入るのは至難の業だ、まず言ってはいる理由がないこと、そして入ることが出来ないことだ。普通は部隊長などがそれを行うのが世の常で、伝令でもないような奴に入る権利はない。
「そこの奴、ちょっとこい」
後ろから呼びかけられる、焦るなビクルナ、平静に、平静に。
「なんだ?」
話しかけてきたやつは前歯の抜けたおっさんだった。貫禄もなさそうだしこの男も雑兵の一人だろう。
「負傷者を運ぶのを手伝ってくれ、人手不足なんだ」
「ああ、それなら構わないけど」
僕はよびとめられ、おっさんについていき何やら飯炊き場のような場所に赴いた。そこには地面に何も引かず多くの負傷者がマグロの卸売場のように並んで寝かされ、うなる声と悪臭で地獄絵図であった。これはまるでそう、ルッツの研究施設で焼き尽くされた体を寝かされたあの養豚場のような場所にそっくりだ。
「ひどい匂いだな」
「ああまったくだ。化膿したところから蛆がわいている奴もいる。薬も何もかもがないここじゃあ、ただ待って死ぬか、自力で回復するしかないからな、よし、やるぞ」
作業は簡単だ、死んだ奴からあらかじめ彫っておいた穴に入れ溜まったら火葬する、それだけだ、こんな死に方だけはごめんだと思う。しかし多すぎはしないか?見たところ60人はころがっているじゃないか、まだあの平原い転がっている死骸のいるし、かなりの損害を食らているとみて間違いない。
「ここいらじゃ野ネズミが死体をかじってついでに俺たちの食料も食べやがるからな、念入りに焼かないと」
「何ともひどい話だな」
「だろう?俺たち大昔の敗残軍の盗賊集団【平野王国スカルア】の奴らと共闘できるって聞いて安心して戦えたのによ、いざふたを開けてみればこのざまだもんな」
燃える炎を見ながらおっさんはため息をついた。
「おっさんはどこの所属だったんだよ」
「俺か?ここいらの盗賊さ、数が少ないから稼ぎも少なかったが、奴らが例の貴族様の混乱でここに流れ着いた時に合流した、さすがは元王国軍だよ200人はいたね」
「はん、もう作業は終わりか?」
「ああ、手伝ってくれてありがとうよ」
僕も有力な情報を聞けて助かった、なるほど、つまりはこの兵隊どもの大多数は亡国の敗残兵の子孫といったところなわけだ。悲しい運命だが、こちらも殺されてはしょうがない、しっかりと報告しなければ。
「おい待てよ!」
「いっ!」
急に呼ばれて驚き跳ねた晴馬はゆっくりと振り向く。
「な、なんだ?」
「お前はどこの奴なんだ?なんか見ない顔だなと思ったんだよ」
なに?!ここまでホイホイとうまく行っていたのにここにきてそれかよ?!まずいな、下手な嘘をついたらバレル、ここはうまくごまかさなければ!
「い、いやぁ実をいうと僕は流れ着いた盗賊でね、珍しさついでにアマレア様に目を向けられてスカウトされたんだ」
「なるほどな、つまり新入りってわけか?その鎧も王国軍だし間違いなさそうだな」
「そういうこと、それじゃ」
良かった、ばれずに済んだ。




