27 夜襲
「よし、総員負傷者を除き警備に従事せよ」
晴馬は小隊の騎士たちをたたき起こし、動ける兵には片手剣、さらに武器庫から出してきた大型の盾を装備させた。これではまるで機動隊であるがこれぐらいしないと不安を払拭するのは難しいとユッタは語る。しかし部下たちにはあまり受け入られていないようで不平不満を言う者が続出した。
「なぜ警備を厳重にするのです、こんなパラディンの巣窟に攻め込む馬鹿がいるわけないでしょう」
「僕もそう思いたいんだが敵は勝機のある戦いに賭けるものだ。むしろ攻めてくるなら今日じゃないか?我々は明日の偵察では前の偵察の情報をもとに装備や人員を選考するし、向こうもそれを知っている、ならば不意を衝いて今日夜襲を受ける可能性が高いというわけだ」
「それで?なんでほかの小隊はおねんねしているところ、我々だけは村全域を警備を総動員でやる必要があるんですか?」
「お前は同じ質問を何度繰り返せば気が済むんだ?ああ、そうだ、もし攻めてくるなら人だけでなくサキュバスやインキュバスが誘惑の術を使ってお前たちを骨抜きにするかもしれん、その時は【この村のカンビオンを人質にとっている】と唱えろ、すると奴らはおそらく去るだろう、では、僕は他の小隊の隊長と面談だ」
誰もが僕に対して快く思っていない、視線で十二分にわかる、だけど後数時間もしたら僕に感謝の言葉を投げかけるに違いない、そうだよねユッタ?これ本当に敵が夜襲に来るんだよね?もしこれで敵が来ないと皆の睡眠時間をただ潰しただけの無能な指揮官になってしまうんだけど、本当にちゃんとくるんだよね敵襲!
「「よし、敵が来るとしたら相当な数、その時にこれぐらいの装備をしておけばまず言って問題ないでしょう」」
ユッタはご満悦の声を上げる、僕としてはあまり信じられないような話だが、それでも本人がここまで自信を張っているということは長年の経験や勘というようなもので感じ取っているのだろう、それをただただ信じ、僕はエリヤの待つ小隊の隊長のテントへと向かうことにした。
「僕だ、晴馬だ。入ってもいいか?」
エリヤのテントにつき、彼女に入っていいか許可を問うが反応がない、仕方なく彼女の声が聞こえるまでテントの前で胡坐をかいて待つことにした。しかし、こうやって胡坐をかけば剣が邪魔になる、剣を立てて持ち、出入り口に座っていればもはや用心棒のような振る舞いなような気がして変な噂が立たないか不安になる。そんな不安を抱えながら待っていても、いつまでたっても反応がない。遅い、遅すぎる。
「ここは入るしかないのか?」
仕方なしに晴馬はテントの入口を少し開け、中の様子を見てみる、だが、外の暗さも相まってよく見えない、こうなれば入るしかないのだろうか?しかしこういう場合たいていろくでもない目にあわされるような気がしてならない、本当に入ってよいのだろうか?
「「武装勢力が来ることと考えれば、そんなに暢気にしている時間はあるんですかねぇ」」
「しかし、こういう時の不運はどの世の男にも憑き物で・・・」
「「時間がないって言っているんですよ、早く入ってください」」
ぐぬぅ、人の気も知らないで、しかたない、緊急性を持っているのであればこちらも腹をくくるしかない、こうなればやけだ入ってしまえ。
「失礼します!晴馬、イッキマース!」
豪快な声と共に入ってきたが、あたりは暗くよくわからない、しかし奥からないやら音が聞こえるためそれを頼りに進んでいくことにした、すると、何やらやわらかい感触がする、これは布、どうやらべットのマットレスのようなものに触れたようだ、そこまで来ると音もかなり正確に聞こえる、僕は耳を澄ませ音の聞こえる方へ顔を近づける。
「すぅー、すぅー」
寝息だ。
「起きろバカー!」
「ぬぅお!誰だ!?夜這いか?!夜這いなのか!?待ってくれ心の準備ができていないし声キモイし私にはベルダさんという心に決めた人がいるんだ今回は見逃してくれー!」
「なにねぼけているんだ?」
とりあえずベットの近くの机に蝋燭が見え、それに火をつけることにした。こういう時本当に烈火のパラディンでよかったと思う、手を近づけるだけで簡単に火が付く、とりあえずエリヤの方を見てみると彼女ははネクリジェを着ているのがわかるが、彼女の顔はまるで狼に食べられる直前のウサギみたいな顔をしていた。しかも僕の顔を見て大声を出そうとしているではないか。すかさず彼女の寝具を顔に押し当て、音が漏れないように善処したがその手際の良さが仇となり、彼女にさらなる恐怖を蔓延する羽目になった。
「むぐー!?むぐーむぐー!」
彼女の高貴そうな目が涙目になっているのがわかる、男と女がやる環境下でこれはとんでもない犯罪をしている気分になってきて罪悪感が半端ではない、ここは状況説明をしてしばらく落ち着かせよう。
「僕晴馬、君僕を呼んだ、だから来た、OK?」
「む、むぐぐむぐう」
「「あなた・・・女の敵ですね」」
僕は無意識にイヤリングを外した。
「呼ばれてきた、君寝てた、起こした、OK?」
「うむ」
意思の疎通とエリヤの平静を確認したところで彼女の口から枕を外した。彼女は少し荒い息をたてていたが騎士の風格をこれ以上損なわないよう、凛としたような多少酸欠でとろけているような表情で僕を見つめていた。僕に言わせればこれ以上失うものもないと思うが。
「ふう、めっちゃ怖かったぞハルマ、パートリックのような愚行はやめてくれ、この学院の女のトラウマだからな」
パートリックどんだけ嫌われてるんだよ、皆にこういうことやったのか?まあいい、今はそんなことはどうでもいい。
「ハルマ、なんですぐに来なかったんだ?普通呼ばれたらすぐについてくるだろうおかげで来ないものかと寝てしまったぞ」
「こちとら警戒心が強くてね、大半の部下に夜襲を想定した装備と配置を命令していたんだよ」
「いや、私も警備はさせてるがそんな大げさな・・・休憩を与えるのも指揮官の仕事だぞ?」
「僕の勘が夜襲を警戒しているのさ、恐らく今日中は危ない、君も兵を増員すべきだと思うよ?」
エリヤは悩むも気苦労に過ぎないだろうと一蹴した。まぁそれならいいけどと僕も話を進める、彼女がくしゃみをした。どうやらこの村付近の気候は夜になると寒くなるらしい、そういう時は決まって霜が降りて朝の寒さはあたかも極寒仕様になる。そうやって凍った土や草は足音を出させ、夜襲をやりにくくさせる、だが、それを知って朝方より早く来る可能性もあるが。
「とりあえず君の席を用意しなければなるまい、少し待っていろ」
「僕がやるからいいよ、それより僕に話があるんじゃないの?」
その時、彼女のアホ毛が反応した。どうやらさっきまで忘れていたらしく、通りでテントに呼んだわけだと一人納得していた。どうやらこの人は少し天然のケがあるらしい。途端に彼女はまたくしゃみをする。
「その前に何か羽織らせてくれ、このままでは寒い、上着上着、あ、寝起きを見るのは失礼だぞ、しばらく顔を伏せてろ」
そういえばいつもは短髪の金髪だと思っていたが、こうやって見ると肩まであるそこそこ長い髪の毛をしているのか、鋭い目といい、いつもは化粧をしているようだけどそうでなくても美人な人だなー。
「よし、それで話というのはだな、今回の偵察任務、ぜひ私情を挟ませてくれないかという相談だ」
「これまた難しい相談だなぁ」
「まぁまて、これは君にも利益が出る素晴らしいものだぞ」
なんであろうか、僕に利益の出るような条件なぞどうも考えにくいし想像もつかない。とりあえず頭ごなしに否定するののもどうかと思うので聞いてみることにした。
「君の小隊副隊長ベルダ・セーデルクヴィスト、彼女の捜索を行う」
エリヤは真剣な顔で言った。どうやら冗談で言っているわけではなさそうだ。
「生きている確証があるのか?」
「無い、そんなものがあれば君に話したりなんかしない」
「それじゃあどうやって探すんだ?仮に仏になっていたって、あそこで倒れているとは限らないんだぞ?」
するとエリヤは不適の笑みを浮かべる、どうやら考えなしで言っているようではなさそうだが、あのアホ毛が反応しているあたり非常に不安でしょうがない。
「そこはまさせろ、私にはとある能力があるからな、あと勝手にベルダさんを殺すな、まだ生きているかもしれないだろ」
「それで、その能力とは?」
彼女はその言葉を音頭にはなを鳴らした。僕はどんな秘策かと楽しみに聞いているが何も始まらない、するとまた彼女の鼻が鳴った。え?ちょっと待って、もしかしてこれは?
「え?冗談だよね名門貴族さん、そんな犬でも代用できそうな能力ですか?」
晴馬は笑いをこらえながらエリヤに顔を向ける、しかし彼女は決して表情を変えなかった。
「ふふふ、侮っているようだが私の能力は君が思っているような能力ではない、私は索道のパラディン、自身の望む道は必ず現れる、そういう能力だ、意味わかるか?」
「つまりベルダの場所も君が望めばすぐにわかるということ?」
「何も必要とせずな、たとえ私の五感がなくなったとしても問題なく探し当てることが出来るぞ?」
なるほど、彼女の能力はてっきりロープウェイのほうかと思ったがそうではないらしい、要は知らない建物で食堂や便所を目を閉じて探し当てる能力であるということか。いるといえばいる、いらないといえばいらない。でも今回のような場合には非常に役に立つ。冷淡に切り捨てようと考えておいてなんだけど、もしベルダが生きていたら絶対に連れて帰ろう、もし死んでいたら、それでも連れて帰ろう。
「どうだ、これで私はベルダさんを救い出せればそれで十分、君もそれで名誉挽回、なかなか悪くないんじゃないか?」
確かに、むしろ僕にとっては願ったりかなったりだ。僕の判断で失いそうになった者をもう一度取り戻せるのだから、しかしながらそれと同時に疑問が残る、なぜエリヤはそこまでベルダに肩入れをしているのだろうか?僕もベルダには相当な思い入れがあるがエリヤの興味はそれを上回っているように思える。何がそこまで彼女を動かしているのか謎である、
「どうしてエリヤはそこまでベルダに関心がわいているんだ?彼女と君はどういう仲なんだっけ?」
「え!?そ、そうだな」
ピンと立ったアホ毛が彼女が意表を突かれたことを教えてくれた。両手を合わせながら目を泳がせ、エリヤは口をパクパクと開ける。
「あ、あのその、ええいまどろっこしい!私にとってベルダさんは恋い焦がれる相手だ!いうなれば初恋の人だ何か文句あるかこらぁ!」
「え、いや別に・・・」
あまりの気迫に晴馬は言葉を失った。しかし女同士の、いや、言うまい。それを批判できる人などこの世にはいない。僕はそう思う。彼女がそれを望むのであればそれはそれでいいではないか。
「わ、私はだな、ずうっと好きだったんだ!大好きなんだ!それなのにパートリックの毒牙から救い出せず、苦しむだけの彼女を見てパートリックを暗殺しようと思っていた」
「お、おお」
何やら壮大な物語が始まってしまったようだ。ここはひとまず沈黙で聞くというのが道理というものではないだろうか。
「パートリックがいなくなって、これでせいせいとイチャイチャできると思ったら、ハルマに懐いているし、そうしているうちにどんどん思いを伝えられなくなって言って・・・うがー!なぜ私は君にそんなことを言わねばならんのだー!」
「さ、さーせん」
沈黙は罪だと理解した、とにかく何が悪いのかわからないがとりあえず謝っておいた。彼女も熱弁で顔を熱くゆでだこのようにし、動こうとしない。オーバーヒートだ。
「で、でもさエリヤ、今の状況わかって言っているのかい?もうそんなこと言っている場合じゃない気がするんだけど」
「馬鹿野郎!こんな時だから言うんだ!私は戦場というものを軽視してみていた。だが現実はどうだ、どんな成績優秀者だってこんなところでは何の意味もない、生き残る術は自分の能力と知恵だけだ。そんな不安定なところで自分の思いも告げられず死ぬのは嫌だから私は告白する!」
きょ、極端だなぁ。
「ふー、ふー、と、とにかく私は彼女に伝えられなかったこの切ない思いを、どうしても伝えたいんだ、そのためにも、この偵察任務では私情を挟んで彼女に思いを届ける、そのために私は参加するんだー!」
「完全に私情のためだけに参加してますやん・・・」
この人はついていけない、そうだ、しばらくイヤリングを外したままであったことを思い出した。ユッタもさすがにこの砕けた雰囲気を前に女の敵などというような言葉は言わないだろう。僕は外しておいたイヤリングをそっと耳に近づけ、取り付けた。きっと彼女はイヤリングを怒っているだろうからしばらくは様子見と称して言い分を聞かなくてはなラなそうだ。
「「テントを敵に囲まれてる!すぐに火を消して!」」
「ハルマ?どうして火を消したんだムグ・・・」
「しー」
僕は耳を澄ませた、遠くで金属がこすれる音がする、だが合戦の雄たけびが聞こえない、しばらくしてそのこすれる音はあちらこちらから聞こえるようになり、夜襲を感じさせるようになって言った、ユッタの言う通り、夜襲が行われたようだ。
「ユッタ、なぜここの人たちは声を出して戦わないんだ?」
「「風習ですよ、日本の合戦とはわけが違うんですから」」
「ハルマぁ、そんなに君の体の重心を押し込まれると、すごくドキドキするんだが・・・」
彼女はまたもや酸欠になったのかと晴馬はあきれた、都合よく月明かりがあたりを照らすようになりテントに敵影の影絵を映し出した。影絵はテントを取り囲み、皆剣を抜いている。エリヤもその存在に気づき、声を潜めて剣を取る。
「これは一体、まさか夜襲か?」
ひそひそと晴馬に伝える、晴馬はただ頷いた。
「ごもっとも、まだ襲われてそんなに時間は立っていないだろう。急がないと、大変な事になる」
「まずはこの窮地をってところか、任せておけ、私の能力はこういう時は絶好調だ」
彼女は鼻を鳴らし、すぐに移動した。
「私はここに、ハルマはそっちに、いいから移動する、勝機がなくなるだろ」
言われた通りにその場にとどまる。
「何が始まるんだ?」
ビリ、そう音が聞こえたときにはロングソードがあちらこちらからからテントの外から中へと飛んできた。家具が壊れ、羽根布団は白く吹き上がる、もしあそこにいたら間違いなく刺さってた。これがエリヤの能力か、未来予知も可能とか真のチートだな。おかげで潜り抜けた。ピンチが過ぎ去ったのならば好機、すかさずムーミングを抜刀し大きな蛇となってテントごと敵兵を切り裂いた、ムーミングを一回転させたころにはテントは崩壊し、外の光景が見ることが出来た。7人ほどの鎧をつけた男たちが囲っていたらしく、皆ムーミングで割かれたはらわたを抑えて悶えていた。
「敵襲!敵襲ううう!」
どこからか声が聞こえる。あたりは戦う者、テントから飛び出てくる者。とにかく、僕の部隊を除いて皆不意を突かれていた事は間違いない。僕の小隊は広範囲を防御するように配置したおかげで歯止めがかかっているが、少し押され気味だ、敵の総数がわからないが我が中隊を上回っている危険性がある、すぐに大隊に応援をもらわなければ。
「うう、ぷはー」
エリヤは切られた上半分のテントの布に押しつぶされ悶えていたが、剣を使ってどうにか脱出できたらしい。
「勝てるかユッタ?」
「「これでかのパラディンが厳重警戒をすればまず負けません、あたりを見てください、これでもかという人の屍の山が出来ていますよね?向こうが個人戦で戦うのに対し、こちらが集団戦で戦うからです。奇襲で核心を制圧するために向こうは早さで勝負しようとしたのでしょう。こちらが軽装備で普通の警備であったら勝機はありましたが、これでは勝負ありですね」」
確かに、我々二人のパラディンの隙を狙って戦ったのに逆に7人の損害を出している時点でお決まりのようなものか。それほど正面からの戦いでは常人とパラディンでは差が出来てしまうのだ。
「すでに鎮静化している、のか?」
エリヤはあたりの状況収取に励んでいたが、ハルマはもっと先を見ていた。次に襲ってくるのは何なのか。
「いや、ここからが本番というところだろう、エリヤ、明日また会おう」
「え、ちょっとハルマー!」
晴馬は走った。途中何人かの部下を連れ、一人は馬を使って大隊に伝令へ、ほかは一緒に赤霧の教会へと向かっていった。
「小隊長、いったい何をするんですか?」
部下が息を切らしながら質問する、
「これから襲ってくるモンスターに対抗するために人質を取る、ところで、お前たちは赤霧教か?」
「え、ええむしろ騎士である以上ほとんどがそうかと」
「そうか・・・」
勢いよくドアを開け中に入ると、牧師はすべてを察したような顔で僕たちを見ていた。それならば説明はいらないだろうと松明を探す、木箱をひっくり返しなながら物色していると誰かの足が見えた。それも一人分どころではない多くの足が礼拝堂を埋め尽くしていたのだ。顔を上げてみればその理由が分かった。ここは避難所として利用されており、村人や非戦闘要員の使用人たちまでもがここに集まっていたのだ。
「盗賊はどうなりましたか?」
牧師は静かに晴馬に尋ねた。
「鎮圧している、だがもしリリンやリリイが来るとしたらここは間違いなく中隊ごと殲滅することになる。ムレ村のようにな」
「ああ、そんな、ガーディナルとはそれほど強い権限をお持ちなのですか?我々とリリイ達の絆が崩壊するほど彼らは残忍なのですか?」
「間違いないだろう、現に我々は森で被害を食らっているしな。カンビオンを出せ、人質に徴収する」
あたりに動揺の声が充満した、村人含めカンビオンと人が同等と化したこの村ではいかに非人道的かよく理解できているのだろう、それは僕だって同じだ、こんなこと間違っているし過去に似たような体験をした者にとっては大変避けがたいことである、しかし他に方法がないのだ。牧師もそれには困り顔で対応するほかなかった。
「カンビオン、なるほど」
感心したように部下が頷く、これは妙案だとでも言いたいようだ。だが、それを見て血相を変えた牧師にとってはたまったものではないだろう。彼にとっては最悪の選択であろうから。
「何度も言いますように私にとっては天使」
「天使か悪魔かなンてこの際どうでもいい、問題は、貴方の言う通りカンビオンによってこの村とモンスターとの共存を図れているかどうかの方だ。早くしてください牧師、僕も手荒な真似はしたくない」
フードや帽子をかぶった修道服姿の人たちは皆こちらへ近づいてきた、牧師はそれを制止しようとするが彼女たちはやめない、そこには昼に合ったメロの姿も見受けることが出来た。彼女はにらむようにこちらを見つめており、僕の顔に唾を吐いた。
「お前小隊長になんてことをこの穢れし胎児が!」
部下の一人が抜刀しメロに振りかかる。
「今はそんなことをやっている時間はない!剣を納めろ!」
初めて晴馬は部下をけん制した。その気迫の効果はわからないが、その部下ふくめ騎士たちはとても不思議そうな顔をして晴馬を見た。だがここで質問をすればまた叱咤されるのは見るまでもないので部下は仕方なく剣を納める。
「やるか、やらないか、どうする?」
僕はメロと対峙し、彼女に問うてみた。もちろんこれは質問ではなくどちらかといえば命令に近いものであった。なぜなら拒否すれば牧師含めこの破門教会は村人の意見とは関係なく木っ端みじんになるかもしれない、最悪惨殺というシナリオだって彼女には見えていたからだ。舌打ちをしながらもメロは仲間内に確認しあい。皆で同意したことを確認する。
「わかったわよ、どこにでも連れて行ってむざむざに殺せばいいわ!」
「協力に感謝する、彼女たちを広場に連れていけ!」
部下の騎士たちは乱暴に拘束、緊縛して教会から連れて行こうとする、牧師は必死にそれを止めようと抵抗するも、強靭な体を持つ騎士には何の意味もない、彼らは聖職者である牧師に暴力はせずただ無視して連れて行った。だがここで問題が起きた、連れ着た部下は伝令を除きすべてで3人、一人で二人のカンビオンを連れて行ったがそれでもまだ二倍以上の修道士のカンビオンを外に出していない。人質はできるだけ多い方がいい、殺すのに残り数を数えなくていいからだ。殺したりはしないけど。
「村人も手伝ってくれるか?一人頭銀貨5枚で手を打とうじゃないか」
誰も反応しない、むしろ軽蔑の目が集中するのが見えた。仕方ない、それならば雇った非戦闘員を使うほかあるまいな。
「お待ちください騎士様!どうか、どうかこれ以上は・・・」
牧師が僕の足に絡みつき、必死の抵抗を見せる。そんなことをやっている場合ではないのにと焦り胸倉を掴んで無理やり起こした。牧師の苦しむその様は多くの修道士の憎悪をたきつけたに違いない、でも僕は後悔しない、だってこれが戦争だから。
「「晴馬!何をやっているのです!いくらなんだって目に余る非道の限り、騎士道不覚悟、いえ、畜生にでも堕ちるつもりですか!やはりあなたは初めから変わらなかった、最初から最後まで屑なんだ!」」
激昂したユッタの声が聞こえる、彼女には弁明しなくては生涯にかかわるので小声で語り掛ける。
「僕は悪党を演じることがあっても、最後まで屑になるもんか、君を失いたくないからね」
「「口では何とでも言える!行動で示してみてはいかがでしょう!?」」
「わかったよ、すぐにでも」
晴馬は胸倉をつかんだまま、誰にも見えないように牧師の胸元に食事用のナイフを入れた。これはどこでも手ではなくナイフとフォークで食べるために晴馬が常備携帯しているものである。牧師もそれに、気づき、ハルマの瞳孔を覗くように眺めた。晴馬はそれを確認した後小声で伝える、
「僕が離したら逃げるように広場へ駆け込んでください、きっと今彼女たちはロープで拘束されていますから、もし危険であればそれで逃してください、部下は僕が何とかします」
「き、騎士様・・・」
僕が胸倉を話すと牧師は数歩下がり、導かれるままに外へと駆け込んでいった。それが残ったカンビオン達にどう見えたであろう。皆信じられないとでも言いたそうな顔でその姿を目で追っていた。
「使用人諸君、特別手当を出すから連れて行ってくれ、貴族の願いだ」
本当は準貴族だが、そんなことは平民には関係ない、どちらも自分よりも上の階級で雇用主だ、もしこれを拒否しようものなら重罪に並びこの安全圏からの追放の危険性もある。皆渋々といった様相で従った、赤霧教の者もここにはいただろうが良心の呵責というものが存在するようでなかなかに作業が遅い。中にはそれが顔に顕著に出ている者もいた、フェリシーだ。彼女は目を閉じながら「ごめんなさい」と何度も言っており、連れて枯れているカンビオンの修道士の方が何か申し訳なさそうな顔をしているぐらいだ。
「フェリシー」
晴馬がひそひそ声で呼んだ、すると彼女はパートリックとの戦闘の時と同じ顔で僕を見つめた。信じられない、いやもっと複雑な表情だ。彼女はやはり恐怖しているようだ。
「ハルマ様、これが戦だから仕方ないことはわかっているつもりです、しかし、これで勝ってもなんの価値があるのでしょうか」
「そんなものは無い、だから僕は彼女たちを殺さない、フェリシー、僕が代わりにこの人を連れてゆくから彼女たちを拘束する縄を切れるような刃物をできるだけ多く持ってくるんだ、早く、いいね」
「!、はい」
「よし、では村人諸君!君たちは必ず僕たちが守るから安心してくれ!」
フェリシーは外へと駆け出して行った。それに続いてカンビオンを連れた晴馬と使用人一行が外へと駆け出てきた。さっきの話を聞いていたカンビオンは煮え切らないというか信じがたいといった思いを感じており、ハルマに質問した。
「貴方何が目的なの?正直迷惑だって気づかない?」
「痛いほど気づいているよ、でも、もう頼れるのが君たちしかいないんだ、周りをご覧、これで敵が引き下がると思うかい?」
カンビオンは言われた通りあたりを見渡す、慌てて口を押え吐き気と共に襲ってくるおぞましい光景に備えた、見る限りの人の屍ががあたりに散乱しており、異臭は放っていないが異様な存在感を出していた。暗闇がひどく怖く感じる。村の先の平原の松明の光がよく見えるからだ。森よりやってきた【奴ら】が、本腰を入れてこちらにやってきたのかと恐怖する。
「盗賊の夜襲を食らった・・・これじゃあムレ村と同じ結末に」
「ならないようにこうやって騎士がやってきたんだ。武装勢力の兵は大方退いたか倒した。あとはこの後の本丸をどう対処するかにかかっている、少しは協力してよ、ね?」
晴馬が村の広場についたころにはカンビオン達は後ろ手で縄で拘束され座らされていた。その隣には心配そうに牧師が寄り添いながら座っている。見たところ一部ほかの小隊の兵、部下たち、そして話し合っているエリヤとヤコフの姿も見えた。
「どうした晴馬、こんなにカンビオンを連れてきても何の解決にならんぞ?」
エリヤが不満そうに声をかけてきた。
「決まっていますよエリヤ小隊長殿こいつらには半分モンスターの血が混ざっている、見世物に殺してリリイやリリンが襲ってくるのを抑止するのが目的でしょう」
下卑た声で晴馬小隊の部下が言った。カンビオンの髪を乱暴につかんで起立させ苦痛そうな顔のカンビオンに「な~?」と同意を促すようなしぐさを取る。この手のことは100年たってもなくならないと晴馬は無視した。
「いや、人質だから、話すと長くなるからわけは言わないけど、それよりもボ、中隊長は?」
「中隊長は村の被害や敵の把握をするために本部にこもってるようだ、まったく攻められたというのに暢気なお人だよ、そうだ、君の部隊の夜警によってどうにか敵を追い出した。礼を言うぞ晴馬」
「・・・助かった」
エリヤとヤコフは僕に一礼し、三人で平原に灯る数百の火を眺めた。どうに多すぎる、はるかに中隊よりも数が勝っている気がする。
「敵の数はざっと300人、かなりの数だが敵の死者を数えていないからさらに増えることになる、問題はその大半が〈地面に足を着けていないこと〉だ、千里眼のパラディンがそう報告している」
やはり、リリンとリりイたちが押し寄せているということか、どうする、どのタイミングで発動すればこの交渉カードは有効に使えるんだ?今か?それとも後か?
「なぜ敵は動かない、第二波を食らわせておけばいいものを」
ヤコフは苛立つようにそう唱える。
「確かに妙だ、数からすればこちらを上回っているのに、なぜ襲ってこないんだ」
エリヤも不思議そうに考える。
「「こういった場合、二通りが考えられます、一つは増援を待っている、もう一つは仲間内で歩幅を合わせているかですよ、屑」」
「屑じゃないでしょ、強引なのは認めるけど、彼女たちは傷一つ負わせないって誓うから・・・」
「「評価を上げるよう、せいぜい頑張って武功を上げてください、屑」」
晴馬は深い溜息をし涙目を拭いた。
「それで?どうする晴馬、中隊長は事務処理により、現場での指揮は中隊副隊長が執り行うそうだが・・・」
「副隊長はいずこに?」
晴馬はあたりを見回すも、それらしき姿を見受けられず晴馬は質問した。
「下痢によりご退場なされた、まったく、この緊急時に考えられん話だ。ネクリジェで指揮を執る私同様、漏らしてでも指揮を執るというものではないか?誰が指揮を執るというんだ?」
「とにかく方面を分担して守るしかない、夜警のポイントごと、小隊で守るんだ、恐らく敵は歩幅を合わせ、総攻撃を仕掛けてくるに違いない、すぐにでも対策を」
晴馬は急加速する現場に対応すべく、自身にできることをまとめ上げ状況整理を始めた。
「なぁ晴馬・・・」
意外や意外、今度は無口なのっぽのヤコフから声がかかった。またも初がらみだと驚くも、自分が寄り添っていないだけかと一人納得する晴馬だった。
「どうしたヤコフ?」
「お前が中隊副隊長代理をしてくれないか?お前は学園でも有数の武功を立てているし、頭も回りそうだ、俺は晴馬の命令に純粋に従うぜ」
「名案だな、私もそれでかまわない、出来るなら自身で指揮を執りたいが御覧の服装で部下たちなら私を見てわかるだろうが、ほかの騎兵が私をとっさに判断できるかわからない、晴馬はしっかりと隊長の鎧を着ているし、どうだ?」
二人の期待の掛かった目がこちらに向かう、晴馬は悩んだが、平原の松明がゆっくり移動しているのを確認すると、目の色を変えた。向こうが準備できているのに、こっちは何にもできていない、このままじゃ全滅、いや、殲滅だ!
「ユッタ!」
叫べない声で、すがるように呼んだ。
「「・・・」」
「僕を許してくれと言っているんじゃない、どうか、みんなを助けて、今こそ感情の同化が必要なんだ」
「「・・・はぁ、許してないですからね、仕方なく!仕方なくですからね!」」
「ありがとう」
晴馬は例の昏倒した意識を経験し、できるだけ早く状況確認するようにあたりを見回した。
「わかりました、僕が中隊副隊長代理を務めましょう、まずは損害の確認と騎兵の配置を同時進行で行います、さらには武装の変更も必要です、敵は差し迫っている、急いで行いましょう」
「なぜに敬語なんだ晴馬?顔もなんだか別人みたいだしちょっと美人、なぜにだ?」
「・・そうか?晴馬は見た限り変わってない」
のっぽが鈍感で助かりましたがエリヤはアホ毛レーダーで異変を感知したようですね、非常にめんどくさい、これだから天然は。待てよ?天然だから。
「代理だから、中隊副隊長代理だから態度を改めただけです」
「なるほど!それならば当然だな」
天然って扱いやすいですねー。この人の未来が心配になってきましたよ。




