26 突破口
帰る前と今とでは基地の慌ただしさは全く違うものになっていた。道行くものは走って包帯や薬をもってきて、そうでないものはベットの上でもだえ苦しんでいる。そんな中晴馬は聞き込みと小隊の負傷者を運んでいた。
「負傷者を荷車に乗せろ、中隊にセージはいるのか?」
「問題なく。従軍医者のセージが治療を、仕出し女が看護を行っていますから」
「よし、では我が分隊の損害の報告をもらおうか」
「分隊12名、負傷者5名、死者0名、行方不明者1名となっています」
「動けるのは6名か、彼らから報告が聞きたい、後で僕のテントに来るように言ってくれ、僕は現状の情報を中隊長に報告してくる」
負傷者を運び報告を済ませた後、晴馬は自身のテントへとたどり着きベットに腰掛けた。疲れた体なのに寝ることが出来ず、自身に対する強い自責の念を感じていた。ため息とも呼吸ともとれるような仕草を取って顔に手を当てようとしたのだが、負傷者の血が手についているのを見てやめた。
「「自分を責めないでください、誰も予想できない事じゃないですか」」
ユッタは優しく晴馬に声をかけた、だが、それに晴馬は反応できず、ずっと無表情である。
「僕があの時、なんてそんな甘いことは言わないよ、ただそれを受け止めるのがこんなにつらいなんて思わなかったんだ」
「「それは誰だってそうです、難しくても真剣に受け止めようとしている時点で立派ではないですか」」
ユッタはなおも優しくフォローの声をかける、しかし晴馬はそれを受け入れられなかった。自分の管理の甘さから来ることではないことは知っている。純粋に戦いだからだ。犠牲がなければ戦いとは言わない、だが、それを避けて逃げてこいと僕は初めに命令したじゃないか、それを守り分隊副隊長は逃げた、さらに指揮を執って犠牲者の軽減にまで務めたのに、なぜ彼女だけ逃げられなかったのだろうか。理由が知りたい。後で偵察隊の分隊へと足を運び、そこで何があったのか聞いてこないと。
「中隊長のボルガーにも報告しなくちゃならない、直ぐに行かないと」
「「晴馬」」」
僕が立ち上がろうとしてユッタが僕を呼んだ、ユッタが僕の名前を呼ぶなんて非常に珍しいように思えた。再び座り耳を傾ける。
「「今のあなたは戦場で混乱する一兵士です、冷静な判断は取れず、すぐそこまで敵兵がせまっています、そんな時、あなたならどうしますか?」」
「なぜ今そんなことを聞くんだ?」
「「いいから、答えてください」」
質問の意味が分からなかったが、とりあえず考えてみた。昔、とある将校が言った言葉がある「塹壕に残る人間は二種類いる、一つは死んだ人間、もう一種類はこれから死ぬ人間だ」つまり、敵が攻めてきたのであれば迎え撃つしかないという意味だ。たとえ混乱していても、塹壕から出ることが危険であっても身体が無事である限り戦う必要がある。だから僕の答えは。
「戦うために迎え撃つ準備をする。混乱している頭でも敵味方ぐらいわかるだろう」
「「そうですか、まぁ答えなんてどうでもいいですけどね」」
「え?」
その答えに晴馬は拍子抜けする。こっちは急いでいるのに質問の時間を割いたんだぞと少し腹が立った。
「「極端に別の話題にして貴方を落ち着かせようとしただけです、どうですか?少しは落ち着きましたか?」」
「あ、そういえば」
さっきまで根を詰めて考えていたようで気分が軽くなった気がする、もちろんそれほど重要なことを考えていたことは違いないがそれでも指揮官として客観的に見なければならない事を忘れていた。というか部下に報告をこのテントで行うように言ったばっかじゃないか、それなしにどうやってホルガーに報告するつもりだったのだろう。ユッタのおかげで我に返った気分だ。
「騎士様、お体が汚れていたようなのでタオルをお持ちに・・・」
仕出し女がテントに入ってきた。声をかけられ顔が合う、するとその仕出し女はフェリシーだった。
「フェルシー!?なぜこんな所に?」
「は、ハルマ様?ひょっとしてこの小隊の小隊長ってハルマ様だったんですか?」
フェリシーはきょとんとして対応する、学院にいる彼女とは違いメイド服ではなく、動きやすいブーツを履いた私服といったものだった。
「とりあえずお拭きになりますか?」
フェリシーはタオルをこちらに出し僕はそれをもらって手を拭いた。しかし驚いた、まさかフェリシーがこっちに来ているなんて、全く想像できなかった。
「どうして君が、あの学院の使用人は仕出し女も兼任するのかい?大変な職業だな」
「いえ、私は志願して従軍しただけで、新人で大変ですけど皆さんの役に立てればと毎日頑張っています」
そういってフェリシーは笑った。なかなか肝の据わった奴だと感心する、騎士みたいな戦闘員ならとにかく民間人がそのようなことをするなんてとても感慨深いものがあるじゃないか、フェリシーはよくできた人だ。
「ハルマ様、負傷者の手当でもしてらしたんですか?その手、スゴイ血ですけど」
「いやぁ、部下に指揮するより前に自分で動いちゃって、その結果このざまだよまったく実戦てのは学校の模擬試合とはわけが違うね、予期せぬトラブルばっかだよ、」
「私も、生まれて初めて戦いを目の当たりにしました。こんなに残酷なことだったんだと驚きました」
目を閉じて、悲痛の顔をするフェリシーに晴馬は何かを感じ取った。
「残酷な、ところか」
フェリシ-から言われたその言葉でここがどういうところ再確認できた。ここは戦場、誰が命を落としても誰にも文句は言えない、ここで起きたことは全て自分が責任を持たなければならないところなのだ。兵士であれば自分の命を、指揮官であれば部下への命令も。僕はその指揮官、残酷な行為は決まって僕のようなものが命令して行われる、それならば僕は責任を取りながら命令をしながら自分を責め続けなければならないというのか?冗談ではない。僕だって上がやれといわれてやっている、上の連中だって国や未来のために行っているんだ。それに文句を言うのであれば潰してやる。文句の言わない兵士諸君には言ってやる。戦いに加担した以上僕のために死ね、そうだ、その意気込みもなく指揮官など務まらない。考えを間違えてた。ベルダだってそうだ、僕の部下であれば、味方のために死ぬのは当然のことだろう。
「ぼくだって、味方のために死ぬんだからなぁ」
にやけるような怒っているような顔で晴馬は独り言をつぶやく。
「ハルマ、様?」
フェリシーは不安そうな細い声で晴馬に語り掛けた。晴馬ははっと我に返り、フェリシーへいつも通りの表情に戻り話を聞く。
「いえ、その、怒らないで聞いていただけますか?」
「うん?」
怒らないでと言われてはおこりにくいところがある。きっと腹を割った話であろう。ならば笑顔で迎え少しでも言いにくさを軽減させなければ。
「ハルマ様って変な人ですよね」
「うんんんん?」
晴馬は自分のできる精一杯の笑顔で待ち構えたが、その結果とんでもない鋭利な発言で笑顔が瓦解し、ひょっとこのような顔になった。
「ハルマ様ってよく変わっているとか言われますか?いで、決して悪い意味ではないんですよ?本当ですよ?いで、痛いですよハルマ様」
僕としたことが無意識デコピンを繰り出してしまった。なぜだ?なぜ僕は今けなされたんだどういった経緯でフェリシーからそんなことを言われることになったんだ?彼女がそう思うようなことをしただろうか。非常識とか一番かけ離れた存在だっただろう。それを言うのなら僕から見ればこの世界は相当な非常識であふれているだろう。は!もしかして元いた世界が仇となっている可能性があるといいうことか?
「い、いいや?そんなことは言われたためしがないけどなぁ、ちなみにどんなところがおかしいのかわかるかい?」
「そうですね、えっと、まずはやることなすこと、平民のやることを自分でもやるし騎士の階級なのに文字の読み書きができる。食事には誰がなんといおうとナイフとフォーク、それ以外の時は2本の棒を使って器用に食事をする、どんな階級の騎士とも話し方を変えない。」
おかしくなくない!?やっぱり当たり前のことじゃないですかやだー、やっぱお前らじゃん。おかしいのはお前らだよもー。
「マティネス近郊の大学の教授達と肩を並べて議論をし、数学は四則演算じゃ飽き足らず、思想?主義?とかいうものを多く知っているとか、最近だと市場の商品の富豪買い!学院で噂になっていましたよハルマ様」
「あ、ふーん」
さもうんちくを説明するかのように語るフェルシーに対し、晴馬はただ座って聞いていたがその一つ一つの事象が自分の日常であることに気づき、その監視体制に舌を巻いた。フェリシーがなぜそこまで知っているのか少し恐怖を感じたぐらいである。それからも続く私情の数々が発表されるたびに晴のは顔はぐにゃありと変わっていった。
「でも、優しい人でもありますよね、誰にでも気軽に話すし、年配には敬語を使うし私は使用人の仕事を手伝っていただきました、あの、パートリックの時だって助けていただきましたし」
「君、僕のことよく知ってるね」
げっそりとした顔で晴馬は言った。
「ふえ!?」
晴馬に意表を突かれたようにフェリシーは跳ねあがり。赤面した顔で目を泳がせた。
「えっと、その、変な人だから、よく目に付いたというか目で追ったというか、あといろんな人からも聞くしそれでよく見るようになったというかごにょごにょ」
「ま、いいけどねどうでも、変わっているというより、僕はほかの人と決別したいのさ」
「決別?」
フェリシーは言葉の意味が分からず聞き返した。
「そう、決別、僕は普通の貴族の出ではない、知っての通りディックハウト家の養子として取り組まれたんだけど、それ以前はひと様には言えないようなものをやっていた。失ったものも大きかった、それを奪っていたのは決まって貴族たちだった」
晴馬は淡々と話しながら立ち上がり、汚れたタオルをフェリシーに渡して外から報告の兵が来ないか確認する。この話を口外されてはまずいからだ。
「僕は許せなかった、生活を奪い仲間を潰し僕の全てを破壊した奴らがいまだに生きていることを、だから、仮に僕も貴族になったら、準貴族だけど、なったら奴らとは違う方法で平民に触れようと思ったのさ、それが不快ならやめるけどね」
「ハルマ様、いったい何の話をしているのか私にはわからないのですがどういうことでしょう?」
フェリシーは混乱してちんぷんかんぷんな顔をしている、晴馬は二回は言うつもりはなかったので話を切りやめ今度はしゃべらないようにした。彼の口調がきつくなっていたのもありフェリシーは「あ、う」と何か言いたげだったが晴馬は反応しない。しかし晴馬には弱点がある。それは美人には弱いところだ。もしフェリシーが何か質問をしようものなら晴馬は抵抗の限りを見せるも、恐らくは20秒で瓦解しなんでも答えてしまうだろう。だから晴馬は願った、頼むから黙って出て行ってくれ。
「そ、それでは私は失礼します、あのハルマ様、怒っていませんか?」
「怒ってない」
「怒っているじゃないですか・・・そんなに変な人って言ったのが悪かったですか?それでこんな難しい話をしたんですよね?」
「怒ってないよ」
なんだ?なんか変なコンボにはまったようだぞ?フェリシーはあうあうと口を動かしながらはたはたとどうすればいいのかわからずあっちこっち動いていた。ああ、めんどくさい。
「用が済んだなら負傷者の看護にいった方がいいんじゃない?」
「あわわわわ・・・仲良くなれると思ったのに」
「問題なく仲良くなれてるよ、さぁ行った行った」
「ううう、そんなぁ、もっとお話ししましょうよ」
フェリシーは食い下がらない、なおも晴馬に笑顔を作り懇願する、しかし晴馬は下を向いていたためフェリシーの策略に引っかかることなく冷静であった。
「ところがこの後機密報告を受けることになっていてね、君がいると困るんだよ、さぁでてったでてった」
晴馬は指示するような口調でそう言った。貴族にそういわれた以上は平民であるフェリシーは従わなければならないのが、なぜか動こうとしない。本人の中で何か煮え切らないことでもあるのだろうか。彼女は動こうとせず、我慢の限界を感じ晴馬はついに聞いた。
「なにかほかにも言いたいことがあるの?」
「あ、その・・・こんなことばっかいっちゃったけど私のことを嫌いに思わないでください、それじゃあ失礼します」
最後の最後まで意味不明であった。結局彼女も僕も何が言いたかったかわからない会話で終わった
「ふう、彼女は何が言いたかったんだ?」
「「さぁ?そんなことよりももうすぐ報告の兵がやってきますし、ここは威厳の見せ所ですから顔色を変えたり顔芸をしたりはしないでくださいよ」」
「いつやったよいつ、僕はいつだってまじめに取り組んでいたじゃないか」
ひょっとこの顔をするような奴がまじめなのかと駆る種関心を見せたユッタはそれ以上は言わなかった。やがてテントの外に人影が見えた。恐らく先ほどから話している報告の兵で間違いないだろう。晴馬はそれを確認すると兵を中に招いた。
「よし、入れ」
「失礼します」
報告の兵は偵察隊に参加したものだった、彼は以下の通りの話をした。
初めに彼は行動中に何があったのか、偵察隊はモンスターのテリトリーをできるだけそるように行動しており付近で何か異常は見当たらないか捜索していると、武装勢力の斥候らしき男と接触、一人だけであったので直ぐに捕まえ、拠点がどこか聞き出そうとしたところ、それは囮の民間人だった。直ぐに武装勢力とモンスターに取り囲まれ、ベルダ小隊副隊長が偵察隊の中で最も最高階級であったので彼女の指揮で撤退を試みるも、取り囲まれ弓兵の矢を食らい馬から落馬。各分隊が四散することにより、何とか逃げ出したが、ベルダ副隊長のみ、帰ることはなかった。これにより敵勢にガーディナルがいることは間違いない事が分かった。
「モンスターはどんな奴だ?」
リリンで間違いない、空を舞い我我を魔法によって攻撃した。逃げることは難しく、位置がばれるため包囲していた武装勢力に長く追い回される羽目になった。こちらも攻撃し、リリンを少なくとも8体は殺した。
「敵の人数は一体いくらだ」
囲んでいたのは少なくとも100、モンスターと人間の混成ではあるが連携がとれていたように見えた。武装は統一性がないことからいくつかの合同の軍だと思われるが黒いさび止めを塗っているところを見ると、正規軍であるようには思えない。恐らく盗賊と化した先のグリーフラントの平野統一戦争での敗残兵と考え間違いないだろう。軍旗を持っていたが、酷く損傷しており、また、平野にあった国家の物に酷似しているところがある。
「亡国の兵士いうわけか、しかし100が全兵力なのか違うのかはわからずじまいだな、問題は、なぜそこまで巨大化しているかということだ、ほかに何か特記すべきことはあるか?ないな、ならば僕は中隊長にこのことを伝えに行く」
僕はそれをそれを報告しに中隊本部に赴いた。だが、それを聞いたボルガーは苦笑した。犠牲の上に得た情報としてはあまりにも情報が少ない、ホルガーはそういっている。他の分隊からも聞いたが、これ以上の情報が聞き出せなかったという、ホルガーはため息をつきながらとりあえず書記の者に記録を取らせ、今後の展開をどうするか考えようと、再び各小隊の指揮官を招集した。もちろん、僕の小隊の副隊長の席は存在しなかった。彼女のいない長机での緊急会議は事の重大性を物語っている気がした。
「これだけでも相当な情報量だと思いますが」
僕は言った。初回でこれだけの情報を手に入れることが出来たのだからむしろ優秀というところだろうといったつもりだった。それはほかの者には鋭利な刃物のように突き刺さっていたに違いない、なぜなら、初めての実践で、多くの負傷者を出し、やっと自分たちで手に入れたものにしてはあまりにも、これほどまでに情報というものは価値がない物かと悲しくなったのだ。
「確かに、それは言えていますが・・・」
ホルガーはその中で一番冷静な人物であったに違いない私情をできるだけ初めのうちに感じ最後は完封する、指揮官として彼ほど優秀な人はいないだろう、髪を手で髪を鋤きながら彼は不満げに口をとがらせている。
「大隊は、そうは考えていないようなんですよ、調査は今後も継続、逐次報告せよ、いまだに総攻撃をするには判断材料に欠けるということらしいですよ」
「そんな!こちらはすでに多数の負傷者を抱えているんですよまだやれというのですか?」
エリヤが女性特有の甲高い声でわめいた、だけど、それは全小隊の総意でもあった。こちらは犠牲を払ってまで情報を集めたのに大隊にとっては少ない情報量だといったのだ。それならばお前たちがやれとわめき散らしたくなったが、冷静でない自分を理解していたためそんなことをやる気力も沸かなかった。ともかくそれならばもう一度偵察を行わなくてはならない、それがいつなのかを決めなければ大隊の与えた任務を全うできないからだ。
「次の偵察は明日の早朝に行います、こんどはより高度な情報を求めるため今回のような大人数ではなく、少人数での偵察隊の編成で奇襲のあったポイント付近から算出した敵の拠点ポイントへと急行します」
「少人数?どうしてですか?」
後で知った三番目の小隊長、ヤコフが言った。この男はつねに無口なのっぽでこれといった評価もないため名前を聞くのに時間がかかったのだ。
「今回の偵察は敵の兵力がどれほどかを確認する意味もあり、威力偵察を敢行するために多めの兵力を出しましたが今回からは潜入に特化するために人数を大きく減らします、各小隊は五人ずつ、計15人での偵察となりますので注意してください、それから、より広範囲の捜索を行います、各班は必ず分隊長を配置し、分散しても指揮系統に問題がないようにお願いします」
ホルガーの言い方は作業に近い、感情を出さず業務上の通過点としか捉えていないように聞こえるその声は、誰もが不快に思っていた。それをいうものがいなかったのは階級が故というものだろうか、あまりに居心地悪いこの環境にいらだちが募る。無意識にベルダを思い出した。あれは最初の偵察の会議の際、僕をちゃかして遊んでいた時のことだ、あの時は羞恥心で何も見えてはいなかったが彼女は本当に遊んでいたわけではなかったように思えた。きっと、こういう嫌な雰囲気を解消し、新しい風、あの時ならば僕の比較的明るい提案を受け入れさせることで、自分たちを前に進ませようとしていたに違いない。
「今回の偵察でどれほど犠牲が出たとおもっているんですか!?21名ですよ、中には学校の休学か、最悪自主退学に追い込まれている者だっているんです!重傷者が出ているのはこちらの準備が足らないからだ、それならばしばらく作戦の練り直し、さらには武装面や人員の増強など考えてからやってもおかしくはないのではないでしょうか?」
エリヤの意見に増長して「そうだそうだ!」と各副隊長も声を上げた。
「そうしているうちに犠牲者が増える。我々の任務はここでだべって保身を維持する事ではなく偵察することで情報を手に入れることにあるのです!これはひいてはこの基地の安全を維持するためにも必要なことなのです、敵だってバカじゃない、時間が開けば、こちらの拠点を特定するのもわけなくできるでしょう、いや、隠れていないぶんもう見つかっていると考えるべきだと思います」
なおもホルガーは語る。皆好き勝手言いやがってというような私怨がうかがえるようであった。あたりの静寂さもあってその声はとてもよく聞こえた。
「それならばこちらもできるだけ多くの情報を収集し敵と同等に近づける必要があります。それを連隊は望んでいる、それが認められない限り連隊は動かない、だから一刻も早く情報を収集しないと、我々は余計な犠牲者をなおも出す羽目になるんですよ」
ホルガーはこの現状を誰よりも冷静に見ている。だからこんな状況下でも適切な判断を取ろうとしているのだ、この偵察の意味合いをようやく理解した小隊長たちはもはやいう言葉もなく惰性で偵察任務を行うほかに無いと考えるようになっていった。しかし、今回の偵察からも分かるように、この部隊にもう出撃前のお花畑のような思考を持った連中はいない、皆、上の命令に不満をもってやっている。少しづつ荒んでいるのがわかる。
「また部下からきつい眼差しを向けられるのか、俺だって、好きで命令しているわけではないのに」
どこかの副隊長が言った。
「ベルダ・・・」
小声で僕はつぶやいた。あたりを見ても彼女の姿はない、代わりに吹き溜まりのような雰囲気がここには鎮座していた。これから僕たちは大隊がほしい情報を犠牲を出し続けながらも手に入れなければならないのか、そう思うと、部下も、自分も、この中隊は見捨てられたような気分になる。もしここにレナクス大隊長がいたら思いっきりぶん殴ってやるつもりだ。それぐらい、こんな部隊嫌になってきた。
「何か質問は?」
ホルガーはそう呼びかける。誰も反応しない普通であればここで解散が一番適切な判断だろう。しかし、ホルガーはそれを確認した後、秘密ごとを話すかのように体を机に乗り出し、皆に顔を寄せるように説明した。なぜそのようなことをするのか理解できなかったがホルガーは足りない身長のせいで腹が机の淵でいい感じに圧迫されており大変苦しそうな顔であったので速めに済ませようと皆顔を寄せた。
「いいですか、現時点では我々は何も言えませんが。他の中隊や大隊は攻撃すらできていないのが現状です、そこで、二回目の偵察ののち、その情報量に問わず僕は大隊の、いや、頭の中がまだお花畑な総軍連隊の重い腰を動かせるつもりです」
世迷言を、そう考える人間はこの会議にはいなかった。もはやわらにもすがりたい思いだったのだ。このただただ一方的にやられる状況から打開できる方法があるならば、たとえ嘘でも妄信するだろう。
「どうやって?現時点でほかの部隊が動かいのは我々の中隊の情報収集が不十分だからですよ?」
「ハルマ、そこですよ、我々しか情報収集にあたっていないのであれば情報操作すればいいんです、連隊に都合のいい情報を与えてやれば、都合よく連隊も動く算段です」
無邪気な幼い顔でホルガーは言った。その話を聞いて震撼しなかった者はいない。皆、ホルガーが正気かどうか疑ったほどだ。少なくともまともな判断とは言えない、なぜならそれが自軍の勝利につながるか、長期的な戦略から考えてそれが有効であるかどうか少し考えれば一目同然だ。そもそもそれは軍規違反だ。もしそんなことがばれたら我々の処罰は死刑しか考えられないほどだ。皆がそう批判しようと準備していると、ホルガーは口を開き、嬉々とした表情で説明する。
「もちろん。下手な嘘をつけばすぐにばれてしまいます、では、その反対である上手な嘘とはいったい何なのか、それは事実の中に少ないウソを織り交ぜ、あたかも大事のような有益な情報に仕上げることです」
「「本当に恐ろしい娘、じゃなく恐ろしい子ですね」」
「まじで言ってんのかね?」
僕たち二人は唖然として何も言えなかったが、お互いの感じていることが間違っていないかお互いに確認した。
「なにもすべてを嘘で塗り固めるわけではないと?」
冷汗をかきながらエリヤはホルガーに問うた、おいおい、まさかやるつもりか?
「そうです、そして、嘘の情報が必ずほかの中隊や大隊にとって出撃するのを競うほど魅力的なものにすればいいのです、つまりは、我々の中隊だけで武装勢力を制圧できる、手柄を独り占めできるように考えられるようにできれば、必ず応援が来ます」
「そんな都合よくできますかね?どんなに優勢な情報でも犠牲が出ることは間違いないでしょう?現に我々の部隊は初回の偵察で偵察隊69人のうち、負傷者20名行方不明者1名を出しているんですよ?それに教官が各中隊や大隊本部に常駐している、こんな状況もしっかりと把握しているにきまっているじゃないですか」
ヤコフが反論するもホルガーは態度を変えない。
「教官たちは傍観を決めている状況です、所詮は教師ギルドにやとわれた存在、都市の危惧よりも明日の食い扶持を優先しているんですよ、現に今回の騒動で教官たちは連隊本部の方へ移動したのを知らないのですか?この中隊で生徒と雇った使用人以外見たことがあるのですか?」
「まさか、誰か見ているよな?」
ヤコフが問う、しかし、誰もそれに対しイエスとは言わなかった、その時、我々はいよいよ見捨てられたのかと憤慨した。
「クソ!デルフリヤ屈指の名門貴族の私を馬鹿にしやがって!これでは何のために来たのかわからなくなるッ!パラディンを学べると聞いてここに入学したのにここで心中するつもりはないぞ!」
エリヤは机をたたいて怒りを鎮めようとした、だが、それでも抑えきれず、ただ心の中で処理せざるを得なかった。再びに席に着き、腕を組んで目を閉じた。彼女が懸命に怒りを抑えているうちに、話を進めた方が得策というものだろう。
「今回の偵察は嘘のベースとなる情報が必要です、それ故に、地理的にも、勢力、生態、武装、どんな情報も欠けることなく手に入れる必要があります。すでに収集しなければならない情報はリストに起こしていますから、これを実行できる読み書きの可能な騎士を偵察隊の隊長にします」
それは僕だろうか?それとも、騎士を兼任している貴族がやるのだろうか、皆が顔を見合わせ、とりあえずできる者は手を挙げてみた。すると、ここにいる6名のうち二人が話せることが発覚した、エリヤと僕だった。
「私はこれでも公爵家の外戚、それ相応の教育は受けている、どうだ?中隊内で読み書きができる者がこれで全員ならば君と私が隊長と副隊長を行い、どちらが死亡しても任務を遂行できるようにすべきだと思うが」
彼女は怒りを鎮め私情を挟まない意見を言った。僕もそれには賛成だが、ほかの者はどうだろうか?
「まぁ賛成だな」
ヤコフが言う。
「仕方ないですね」
ホルガーが言った。そうすると各小隊副隊長も同意見だとし、今回の会議で決定した。しかしこれは非常にリスクを伴う、もしこの任務で偵察隊の隊長、副隊長が戦死すれば小隊はがたがた、小隊副隊長がいるエリヤの部隊はまだいいかもしれないがベルダのいない僕の小隊は間違いなく指揮系統の混乱に襲われることになるだろう。初動に受けた衝撃が、我々に背水の陣を作らせたのだ。
「では、予定通り偵察は明日の早朝に行うことにします、各自解散」
僕はそれを聞いて立ち上がる。明日は速そうなため、すぐにでも準備をして寝る必要があるからだ。皆も中隊本部から出てゆき会議は終焉の流れに乗っていた。
「ちょっとまてハルマ、明日の偵察で話がある、あとで私のテントまで来てくれ」
「うお、エリヤが僕に話があるなんて、今まで一度もなかったのに」
晴馬はエリヤとの初の絡みに新鮮さを感じて驚嘆の顔を見せるが、エリヤにとっては鼻につく行為だったようで少し不機嫌な顔になった。
「それはお前が今まで学徒防衛隊の集会や祭儀に参加しなかっただけだろ、私はヤコフや中隊長とは面談があってお前だけなかったことに疑問すら覚えたことがあったぞ、とにかく、私のテントには必ず寄るんだ、いいな?」
「あ、ああ」
エリヤは副隊長を一緒に連れ部屋から去っていった。そうか、こうなるまで何の興味も無かったが学徒防衛隊はそういうイベントを経て仲を深めることもできるんだな、あまりに興味がなくて全然知らなかったわ。
「「一つ忠告というか、気を付けた方がいいことがあるにですが」」
テントへの帰り道、ユッタは唐突に僕にそう言ってきた。今回の会議のことであろうか、とにかく聞いてみないことにはどうしようもないので止まって聞くことにした。
「何が?今回の作戦についてかなにか?」
「「いえ、恐らく今日は夜襲を受ける危険性があると思いますのでそれに備え自身の小隊を重装備で警備させる必要があるかと」」
「夜襲を?こちらにはまとまった数のパラディンがいるんだぞ?いくらなんだってここを襲う程の数を向こうがそろえられるとは思えないんだけど・・・」
「「だからこそです、彼らは我々がパラディンであることを知った限り、正面からは必ず戦おうとはしないでしょう、そうとなれば先手必勝、闇に紛れてここへと攻撃をかけてきます、ガーディナルがいるとなるとそこにリリイやリリンが入ってくる可能性もあります、向こうにとってはこちらに大損害を与える好機と考えるべきでしょう」」
なるほど、歴戦の騎士の言うことは違うなぁ、それならば、エリヤに会う前に一度小隊に装備の変更と警備の増強をやっておくか。




