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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
27/63

25 要件

「どうぞこっちです~」


「いや、お構いなく」


僕は少女に家にお招きいただいた。ダイニングで彼女は僕を椅子に座らせ、彼女はその反対側に座った。僕はさっきの話が気がかりでならなかった。彼女はそれを知らずに来訪者を歓迎した。先ほどまで僕を不信に思っていたのだがやはり長い間一人でいたのは堪えたらしく、初めは帰ろうとした僕の袖を掴み、離そうとはしなかった。


「お兄さんはどこから来たの~?」


少女はそう問いかけてきた。


「僕はマティネスから来たんだ、君の親御さんの話をしてくれるかな?」


「どうして~?」


「どうしてか、それは君の親御さんの行った森に僕は用事があるんだ、だけど、あそこはモンスターのテリトリーではいることが出来ない、なのに、君の親御さんは入ることが出来た、親御さんは毎日あの森に通っているのかい?」


「そうだよ~、樵や狩りは決まってあそこでやってるの~」


それはつまりモンスターからの攻撃を受けないことが最低必須条件だ、抜け道か、モンスターが襲ってこないような何か秘策を持っているということだろうか、なんとしてもそれを聞きださなければ。


「君のお父さんは何をやっている人なんだい?」


「お父さんは木を切っている樵なの~、あの森の木は誰もこの村の人以外は誰も来ないからとても立派に育っているんだって~」


「ん?この村以外」


つまりそれって・・・。


「他にこの村で誰かあの森へと行っている者はいるか?」


「えっとねー、男の人だったら皆行っているかもー」


「皆!?君の親御さんだけでなく皆!?あの森は危ないと思ったことはないの?」


「ないよー、最近になって入っちゃダメってことになったけど、それまでは誰でも入っていたよ」


なんだそれ!モンスターのテリトリーって危ないんじゃないのかよ!?そこまで安全ならそりゃ武装勢力も住み着くわ!ともなればモンスターへの脅威を考える必要はなさそうだな、すぐにこれをホルガーに連絡して中隊の偵察任務を活発にしなければならない。もしかしたら僕たちはとんでもない落とし穴を見落としているのかもしれない。


「それってつまり僕たちが森へ行っても襲われる心配はないってことかい?」


「多分、でも、最近になって森の皆が狂暴になっちゃって、今ではお父さんもあまり行かないの、悪い人が住み着いたんだって」


「そ、そうなんだ」


やはりガーディナルの存在は黒なのか、安全だと思ったのに、でも、それまでは共存体制が作られていたのだからもしかしたらそこから糸口が見つかることもあるかもしれない。これだけでもいい収穫だ。あとは、どうやってその関係が作られたかを知ることが出来れば、ガーディナルの戦いにも有利になるかもしれないじゃないか。そうと決まれば他にもここの村人に聞いてみる必要があるな。それと同時に新たな疑問も生まれた、ガーディナルに支配された森になぜこの子の親御さんは向かっていたのか、この子のことを考えれば普通はそんな危険な行為はしないはずだ。知りたい、知りたいことだらけだ。


「ありがとう、僕はお暇するよ、君の情報は大変有意義だった、これは少ないけど貰ってほしい」


晴馬は懐から貨幣を数枚出して少女に渡した。擦ると彼女はそれを見て目を丸くし、パクパクと金魚のように口を開けている。


「えー!こんなにもらっていいのー!?うちで金貨なんて見たこともないよー?!」


「え?そうなの、僕は仕送りとかでよく見るんだけど・・・」


なんだかすごい嫌な奴みたいなことをやってしまったようだ、そうか、やはり騎士といえどもそれ相応の給料というか収入があるんだな、そう考えると恥ずかしくなる、まるで世間知らずの坊ちゃんみたいじゃないか。しかしまぁ、貴重な情報だったし、これくらいは良いんじゃないか?よく知らないけど。


「ほら、僕貴族だし、礼だと思ってもらっておいてよ」


「じゃ、じゃあ遠慮なく」


恐る恐る彼女は僕から金貨を貰い、机の上に置いていた。初めて見る金貨と、僕より知っているその価値に身が震えているようにも思えた。僕はこの村とモンスターとの間にある不可思議な関係を調査するにはこの子、さらにこの子の親御さんが娘を置いてまで森に向かった理由を知る必要があると判断し、彼女が金貨に夢中になる間に失礼ながら家の中を物色することにした。もしかしたら少女の親御さんが何か手がかりを残しているかもれないからだ。


「本はない、すると何か記録に残っている物が残っている可能性は低い、それならば他にあるだろうか?」


今度は部屋の探索に映る、各部屋は決して大きくなくこの家には二階はない、見渡せば家の全体像が分かるほどだ、数歩歩いてあたりを触ってみるが、どこにも異常は見当たらなかった。となると今度は歩く音に注目する。すると。


「この床だけ、それもこの繋ぎ目のところだけ音が変わった、ビンゴ、どうやら地下があるようだな」


普通地下室は貯蔵庫になっているのが常識だ。保存食であるベーコンやピクルス、酒、そういったものが入っていることが多い、しかしこういう時に限って何か良からぬものが入っていたりする。さてはて、今回はどうかな?とりあえず屈んでそれが自力で中に入れるか調べてみた。どうやら一枚板がかかっているだけで簡単に入ることが出来そうだ。


「ねぇ、この地下室は入っていいの?」


「わかんない、お父さんは入っちゃダメっていったり、良いっていったりするんだ~」


それならば中はとりあえず安全と考えるべきだろうか?いや、季節によっては危険なのかも。それとも外から何か入れたくないものがあるとか?そういえばチーズを作るときは他の細菌を入れないために無菌室で行うと聞いたことがある。すると作業所である可能性が高いな、見て見ぬことにはわからんということか。


「お、開いた」


地下室はかなり広く薄暗かったが部屋の光が差し込んでおり中はただの貯蔵庫で間違いなかった。なぜ少女が入ることを制限されるかといえば恐らく急で登ろうにも降りるにも少女に難しい階段から目の届かない時に地下室に落ちないようにだろう。とんだ勘違いだ。


「おーい、ミーラちゃん」


「あ、メロおばさんだー」


玄関に不意な来客に襲われる。僕は慌てて立ち上がり、少女、いやミーラが不用意にドアを開けることで僕が不審者として最高の雰囲気を醸し出すことを防いだ。しかし現時点でも少女しかいない家に入り込んだ不審者であるがそれはどう説明しようか、考える間もなく彼女が威勢よくドアを開け、メロと呼ばれる人が中に入ってきた。大きな麦わら帽をかぶったこの世界特有の中世の西洋の服装といえる服を着ている。帽子で顔はよく見えなかったが、彼女からは僕がよく見えたようで、一瞬びくついて、身をそるようなそぶりを見せた。


「え、ど、どちら様?鎧を着ているようだしまさか騎士様!?なぜこのようなところに、ま、まさか誘拐!?」


「違います、僕は学徒防衛隊の任務でマティネスからここに来た者です、貴方はどうしてここに?」


「え、わ私はこの子の親御さんが遅いからこうやってこの子の世話に来たんだけど・・・」


「じゃあ話が速い、貴方は親御さんがなぜこれほどまで遅いか、知っていますか?モンスターの森に行ったんですよ、それもいつもは安全だそうじゃないですか、これは一体どういうわけで?」


「うえ!?」


それを聞いたメストは大層驚き、自分が漏らしたのかと口を手で覆った。僕はそれを見て知っていることを確信し、ミーラを指で刺した。しまった。彼女は肩を落とし、家のドアを閉める。僕は彼女にダイニングの席に座るように指示し僕は座った。彼女はミーレに夕食の料理を渡して食べさせた、部屋だというのに彼女は全く帽子を外そうとはせず、彼女の表情を確認することはできない。知りたいことでもあるが僕は其れよりも知りたいことがある。今は聞かないで本題に入ることにした。


「それで、なぜここの村人はここまでモンスターとの共存を図れているんだ?」


「それは、その・・・」


メロは下を向きながら歯切れの悪い返答をした。やはり何か人には言えない事情でもあるのだろう、とはいえ黙らせておくわけにはいかない。僕だって今回の任務では命がかかっているんだ。ここは脅す必要もありそうか?それとも・・・


「「私は尋問は得意じゃないですよ?話を聞くだけならできますが」」


雰囲気と間を感じ取ったユッタが言った。やはりだめか、仕方ない、ここは僕だけで乗り切るしかないのか。


「困ったな、実はもし我々が、特にこの村に駐屯する中隊が甚大な被害が出る可能性がある場合、傭兵団を派遣する可能性があるんだ」


メロの麦わら帽子がぐらつく、動揺しているようだ。


「え!?そんな、まさかこの村に?」


「僕たちは軍勢が少ない、決して万全を期すとは言えないんだよ、でももしそんなことをすれば傭兵団が武装勢力討伐までここに常駐する可能性がある、そんなことをすればこの村の娘は外に出すことはできないだろうなぁ」


メロは青ざめた、ように見えた。彼女がなぜそこまで怯えるかには理由があった。傭兵という存在だ、傭兵は依頼さえあれば従軍するような存在だが、それ以外の時は略奪から誘拐までなんでもやる者たちなのだ、そんな奴らがもし村に常駐したら、その村の食料や生活物資、さらにはその命さえ危ない目に合う危険性がある。それを理解しているのだ。治安悪化がどれほどのことか、メロは悩み、頭を抱えた。


「一つ、お伺いしてもいいでしょうか?」


「なんだい?」


暗いトーンの声でメロは言った。観念したのか、それともヤケになったのか、顔を見せないメロに思わずベルトの剣に手が触れる。緊張した瞬間が長く続いた。


「貴方は悪と正義、それがかなずしもくっきりと決別したものだとお思いですか?」


全く関係のない話を振られ、呆気にとられるが、メロは真剣な口調で言ってきたことから、僕も真剣に考えた。悩むまでもないことだが声に出すのには勇気がいる。


「僕は初め、貴族なんて屑のなる者だと思っていた、しかしながら今はみんながそうだと思わない、僕もご覧の通り騎士だ、準貴族とはいえ貴族には変わりはない、正義も同じだと思う、気付かないうちに都合のいいことを正義だと思い、多くの人が当たり前にやってることも悪だと捉えることもある。一概には言えないが、必要悪は存在する、それが僕の考えかな」


「そうですか、なら、貴方なら私たちのことも、一概に悪とは言いませんよね?」


静に彼女は帽子を脱いだ、晴馬は少し、その事実の真意を理解できなかった、彼が見たのはメロの素顔であることには間違いない、しかしながらそれを知ったところでメロが言う悪とはいったい何なのか、彼には理解できないのである。不思議そうに見つめていると。メロは赤面し、帽子で顔を隠そうとする。


「あまり、まじまじと見ないでください、人に見られるのは好きじゃないんです」


「そうなの?僕は面食いだから、美人の顔を見るのは好きだけどね」


「もう、そういう冗談はやめてください、この目、獣目はそんなにいいものではありません」


彼女がほかの人と違うところ、それはだった。メロの目はまるで猫のように鋭い黒目をしており、ほかの、人間とは異なったものだとわかる。ただ、それがメロの言う悪とどう関係しているのかについてはまだわからない。メロはそれを隠すために帽子をしているのだろうか?この目にはそれほど忌まわしい何かが秘めているとでもいうのだろうか?晴馬はまじまじと見つめ、彼女の顔がより高揚し、目を合わせられないことも無視してなおもみ続けた。しかし、なぜ忌まわしいのか究明することは、やはりできなかった。


「ユッタ、君はわかるかい?」


「「そうですね、私の推理が正しいとすれば、恐らくリリイと関係がある可能性が高いです」」


「リリイ?メロはサキュバスなのか?」


「ち、違います!」


メロは机を叩き、大声で怒鳴った。そして後悔した。自身が騎士、貴族に対して怒鳴るなどというような行為がどれほど罪深く、そして畏れ多いことなのかを思い出したからだ、ただ、晴馬は顔色一つ変えはしなかった。それどころかただそれを聞いて「ごめん」と素直に謝罪したのである。彼女は混乱した、平民が行った無礼な行為に対し謝罪する貴族なぞ聞いたこともなかったからだ。


「ご、ご無礼を働きましたこと、大変申し訳なく・・・」


「どこが?僕が失礼なことを言っただけじゃないの?」


「へ、いや、そうなんですけどそうじゃなくて」


まただ、ハルマは不思議な男だった。仰け反ることが取り柄だといった貴族を屑だといったと思うと、気付けばその屑になった自分を大笑いする、まったく不思議、変、今までにない新しい人だった。考えてみればミーアへの家へ足を運び入れた時点で変だったのかもしれない。ああもう、この人に常識というものは存在するのだろうか?でも、嫌じゃないかも。初めて、村人以外の人に平等な目で見られれた気がする。


「メロおばさんはねー、これでももう40なんだよ~」


「まじか!?見た目20代なのに!?」


「あ、はい、歳を取らないという意味ではなく、歳をとっても老化しないんです、ただ、寿命は人並みなのですが」


それを聞いた晴馬ははぁ~と感心するような不思議な声を出した。やはりここは異世界、自分では理解できないものを何でも持っているんだなぁと関心するとともに侮れないと思ったのである。


「僕は何も知らない赤子のようなもんだな~、君、いや貴方と言い、この村の不思議といい、僕には何が悪で、何が善なのか図る物差しすら持ちあわせていないよ」


それを聞いたメロはまっすぐにハルマを見つめた。晴馬は何かいけないことを話したのかと心配したが、どうも様子がおかしい、それはとても真摯で、僕に対して何か深い興味のようなものを持っているように感じられた。彼女は急いで帽子を身に着けると、ハルマの手を引いて席から立たせようとした。晴馬はわけがわからず、思わず抵抗する.


「ご、ごめん、何も知らない僕が、なにか悪いことを言ったかな?」


「いいえ、騎士様、どうか、一度来ていただきたいところがあるのです」


「来てほしいところ?」


どこなのか見当もつかない晴馬に、メロはなおも手を引こうと必死になり、状況を理解できない晴馬はとりあえず一人にしてはいけないとミーアの手を引っ張り、メロに連れられて外へ出た。


「お散歩ー?」


ミーアの質問にメロは答えなかった。深く帽子をかぶり、一直線に歩き出した。僕はただそれを従うがままについて行ったが、彼女はミーアの動きについていけず、半ば引きずられるようについて行った。


「おい、どこに行きたいのかは知らないが少しペースを落とせ!ミーアが引きずられている」


「貴方が赤霧教徒であれば必ず一度は訪れるはずです!」


「なんだそれ!?ぼくはパラディンだが教団騎士クルセイダーではない!僕は教徒とは無関係だ」


「「そうはいかないんですよ,我々パラディンの剣礼、叙勲式、それらすべてを取り仕切るのは赤霧教なのです、それ故にあなたが信仰せずともしなくともほかの人からは赤霧教徒であると思われるのは当然です、そうでなくともパラディンの中で信徒は多いのですから」」


ユッタはそういいながらも、自身が信徒であるとは言わなかった。僕はローレの社会実習で一度宗教の説明を受けたことがある。赤霧の教会はこの大陸でもっとも信仰されている宗教で、我々パラディンとも深く関わっているそうで彼らは多神教で多くの神が存在するのだという。それぞれの神は何かしらの物質に入っていると進行するたり、日本の八百万の神、付喪神に最も近いと感じられる。ただ違うのは、どの物質にどの神が宿っているかは分かっておらず、それを理解するのが、現在のグリーフラント王族だと、ローレは語っていた。そしてこの宗教の特徴的なところは、天使に酷似したものが存在することだ。僕はそれらに地球の存在するエンジェル(キューピットではない)の名前か、階級を付け記憶した。


「無宗教?それなら一層好都合です、貴方がもし教徒であれば私たちを平等には見てはこれなかったでしょうから」


そう言って連れてこられたのは、どうやら先の説明した赤霧の教会のようだ、しかしながら赤霧教のシンボルである赤い瓶が存在しない。そこにあるべきところには潰されていた。いったいこんな所に何の用があるというのだろうか多少の疑問は残りつつもメロにつられて教会の内部に入っていった。中の礼拝堂には一人の神父が幼い子供の石像を一つ一つ湯浴みさせ、きれいにふき取ると服を着せていた。異質な光景だったが晴馬はそれを人形の着せ替えのようなものだろうと判断し、あえて反応しなかった。


「父さん、今帰ったよ」


メロの声に反応し神父は振り返る。初めは微笑んでいたが、僕の鎧を見るや否や、すぐに無表情に変わりため息交じりにこちらに向かってきた。メロとミーアを自身の背中の方へ隠し晴馬から身代わりをするような構図となる。


「シンボルを見ていただければわかる通り、この教会は私含め教えをそむき破門された異端の身です、しかしながら私には愛すべき人々がいる。どうか、私から愛すべき人たちを奪わないでください、私の命であればすぐにでも差し出しますから」


「待って父さん、この人は味方よ、騎士でありながら赤霧教の方ではないの」


「なんだって?」


メロと神父は話し合いをして、神妙な顔で神父は晴馬と顔を合わせる。


「貴方は、私たちのやっていることをどう思っているのですか?それは教えに背いた異端か、それとも?」


「それを知りたくて来たわけではありません、僕はただ、この村とモンスターの共存を図れた理由を調べに来たのです、それがもしかしたらこの戦いの早期解決をできるかもしれませんから」


僕の価値観はどうやらここでは受け入れられないらしく、大層驚いているようであったが、神父は決して嫌悪感を感じることはなかったように見えた。


「なるほど、貴方はどうやら只者ではなさそうですね、メロ、君は夕食の準備を手伝ってやってください、私はこの人と話がある」


神父はそういうと僕を招き、例の石像を僕に見せてくれた。愛おしそうに見ながら僕に赤子の石像を渡す。


「美しいでしょう?私もこの子たちに合えて幸福です」


「はぁ、普通彫刻を醜く彫る彫刻家はいないでしょう」


「はは、確かにその通りだ、でもね、これは生きているんですよ」


「生きている?」


僕は赤子の石像の胸に耳を押し付けて、心臓の音が聞こえないことを確認した。するとそれを見た神父は豪快に笑った。


「ははは!今は心臓が動かないけど数年後この子たちは皆生き返るように動くのさ」


「バカな、ありえないそんなこと・・・」


「私もそうやって生まれてきたのよ?」


メロは得意げにそう語った。晴馬はいまだ半信半疑であったが、とりあえず信じることにした。


「疑うのであればここの修道士に合うといい、皆、メロのように獣の目をしていてこうやって生まれてきたと説明するだろう」


「いや、信じるよ、で、この子達がこの村の共存の秘密かい?」


「そうさ、この子たちはカンビオン、リリスの子供、リリンと言われるインキュバスやサキュバスの集めた精が人に宿ったとき、この子たちは生まれる」


「つまり・・・その母親となる人は見ず知らずの子供を産ことになると?」


僕は無意識に渋い顔をした。


「そう、カンビオンは父を持たないからね、夫婦の間でも、独身でも、発達した体であれば生まれる可能性がある、しかし私たちはこの子たちを祝福の子だと呼んでいる」


「なぜ?」


「この子たちは皆優秀で美しく、誰にでも笑ってくれるような子供になるからだ」


そういうと神父は本棚から本を取り出し、こちらに持ってきた。


「記録によれば、カンビオンは容姿端麗で非常に多彩である一方狂暴な性格な所がある。しかしながらそれは産みの親、代理母とでも言っておこうか、彼女やその家族の育児放棄が原因であることが私の調べで分かっている」


「それは、まぁ、意見しずらいところではあるけど、自分の子供ではないからなぁとしか、そもそも人間ですらないだろうし、こういってはなんだが当然な一面もあるのでは?」


「そうです、カンビオンは人と魔物のハイブリット、貴方の言う通り彼らは望まれぬ存在となりましょう、でも、カンビオンだって望んで生まれていないのです、いいえ普通の人間の赤子でさえ望んでは生まれはしないでしょう、皆生まれて成長し、自身で生きる意味を確立することが生まれた本質だと私は考えています」


「わかったわかった」


牧師の説明は少しずつ熱を帯び始め本来の目的である話にたどり着君に余計な時間がかかりそうだった。仕方なしに晴馬は牧師をなだめ、彼の話をできるだけ感情の入らないようにお願いをしてから話を再開した。


「この村の近くには数十年前からリリイとの関係を取り持つことが出来ていた。それにはこのカンビオンとの関係があるんです、カンビオンはリリイの子供であり、又、我々が我が子だと受け入れ、一生懸命育てた結果、たとえ言葉が通じなくても、リリイは感謝と尊敬の念を思い、森に入っても襲ってはこなくなったんです」


晴馬は眉を寄せる。


「それはつまり・・・カンビオンが生まれ、それを我が子のように育てたことがリリイとの関係を良くしたと?」


「その通り!カンビオンは何を隠そうリリイの子のサキュバスやインキュバスの与えた命が半分はいっているのです!それを異種族が異種族の中で育て、カンビオンと人間の間を隔てなくつなげることで、彼らもこちらに歩み寄ろうとする、その関係が今の友好関係へと発展したのです!」


またもや神父は熱弁が入るが、晴馬は理解が追い付かず何を言っているのかよくわからなかった。価値観の相違はもちろんのこと、それ以上にそれが本当にリリイとの関係を取り持っていると思うその神父の考えも理解できなかったのである。カンビオンはリリンであるサキュバスやインキュバスの行う行為によって女性に妊娠し、彼女の拒否権もなく行われる極めて残虐極まりない行為であるとしか思えない。


「しかし、それは赤霧教の教えを背く結果となりました、おかげで教会は破門され、以後教会の名をかたることも禁じられた次第です」


語りつかれた神父に対し、カンビオンの修道士はコップに入れた水を差しだした。晴馬ももらうが飲む気にはならなかった。


「ふう、ここまでで何か質問は?」


「そうだね、貴方はさっきカンピオンを一生懸命育てるといったが、カンピオンが生まれた女性は本当に我が子のように育ててくれたのか気になるね」


それを聞いた神父は目を細め、どこか遠くを見るような目で語りだした。


「それにつきましては苦難の数十年でした。私がこの教会に派遣された当時のここはリリイの脅威に侵され怯えている村でしかありませんでした。さらに、リリンによる受胎も呪われていると忌み嫌われ、カンビオンは人としても扱われず、皆が皆、その日の生活さえ脅かされて暮らしていたのです」


晴馬と神父は歩き食堂の席で座って話を続けた。破門されても教会は教会で多くの人が礼拝堂へと足を運ぶため離しやすい環境ではなかったからだ。


「カンビオンは村に十数人、皆瘦せ枯れており人を警戒するように村の中を徘徊していました。私は教えに従えばカンビオンは不浄の象徴で決してかかわってはならないと教えられてきましたが、その光景を見た瞬間、助けずにはいられなかったのです、初めは蹴られ噛みつかれ、罵倒され、コケにされたこともありました。はは、今となってはいい思い出です」


そう笑いながら神父は白いひげをいじった。


「今の修道士は皆その時のカンビオンを住まわせたのです、神を信じるも信じないも勝手にして、出たくなったら出ればいいと言ったのに、今もまだそばでいてくれるので助かりますよ」


「なんだって?だってあなたの説明だともう修道士たちはおばさんぐらいの歳なのに、皆20ぐらいに見えていたけど、あ!そうか、カンビオンは体の歳は取らないんだ!」


「そう、正確には、途中で成長が止まるのです」


カンビオンは体の歳が取らない事はメロが教えてくれた。ここの修道士たちも皆と若く見れるが、実際の年齢はそれぐらいなのだろう。


「メロは、私が一番初めに連れてきたカンビオンですよ、あの娘は本当に気性の荒い子でね、よく仲間内でケンカもしたし、家出もしましたが、それはあの環境で長期間生活して心が荒んでいただけと知っていたので時間をかけて生活に慣れさせたんです、するとメロ含めカンビオンは知性豊かに多くのことを学び、そして表情の豊かな人になったんですよ」


神父は目を輝かせて語る。それは若かりし頃をほうふつとさせるように生き生きとしていた。


「その時私は気づいたんだ、カンビオンも人も変わらない人のように笑うし泣く普通の人々なんだと、生まれが、生まれがあまりにも特殊で忌み嫌われているがそれが彼女たちに牙をむくのはおかしいと、だから私は活動した。理解を広げ誤解を解き、カンビオンの生存権を作らなければならない、時間をかけ、時には迫害に会い、時には身分を捨て、信仰も奪われてもかまわなかった」


「「なかなか苦労なされている御仁ですね感服します」」


ユッタは感銘打たれたような震え声をあげ、怒りとは違う感情を表面に出した。


「なんだか、この牧師がやっていることが正しいのか、間違っているのかわからなくなってきた」


晴馬も話を聞く過程で自身の考えていることが本当に正しいのかどうかはたはたわからなくなったいた。


「決死の覚悟で挑んだ数十年で手に入れたのはリリイのテリトリーに最も近いこの村の一帯の理解のみでしたが、おかげでこの村で徘徊しているカンビオンを見ることはなくなりました。そうしたら、ある日のこと私の教会で不思議なことがおきましてね、花束が置かれるようになり、カンビオン達に聞いても誰も知らないというのですよ」


「それは?誰がやったことで?」


興味津々の晴馬は顔をぐいっと牧師に近づけ、その話の続きを聞きたがっていた。


「それが深夜に外に出た時見たのですがリリンであるサキュバスだったのですよ、不思議はそれだけではありません、それから村の人たちが森で伐採をされているときもなぜか我々は襲われることがなくなったのです」


「そんな、まさか・・・」


本当にカンビオンを育てただけでそのようなことが?いや、端から聞いてみればどう考えたって【だけ】などという言葉で片付くような芸当ではない。それが種族を超えた理解につながったというのなら非常に喜ばしい限りじゃないか。希望的観測だと思っていたが、それは意外と本筋に沿った出来事なのかもしれない。もう一つ疑問が浮かんだ。


「カンビオンとリリン又はリリスとは友好関係があるかどうか、牧師あなたはどう思いますか?」


それを聞いた牧師は悩んで、絞り出すような声で言った。


「それは私にとっても非常に興味深いものです。しかし、カンビオンがあの森で薬草を拾ったり魚をとっても襲われることはなかったので種族的には認められているのではないかと思います。思いますというのもリリンとリリスが直接接触したという事象はおきていないんですよ」


「なぜ?」


「単純に人と関わるときは人に精を宿すときとテリトリーに入ったときだけですから、人ではない、かといってモンスターでもないカンビオンは精を宿すことはなくそのうえテリトリーでの接触もないといった感じです」


その後も話はすすめられいろんなことを話した。これからの展開、理解の壁、牧師の後継者の選抜、しかしその中でリリンとの友好関係を築いた理由で濃厚なのはやはりカンビオンの存在であると位置づけた。目的を達成した僕は、教会から出ようとすると牧師から警告があった。


「どうか、このことはほかの騎士様には話さないでください、赤霧教を破門されたこの教会は多くの赤霧教の信徒からの迫害や批判があったのです、騎士には多くの赤霧教徒がいるそんな時に教えに叛逆するような行為をしたとなれば私のみならずカンビオン達にも被害が出ます、どうか」


晴馬は頷きミーラを預けてを出た。初めは偵察隊がで払っている間の暇つぶし程度にしか考えていなかったが、今回の調査は大変有意義に思えた。後はその情報をもとにどうやって武装勢力を打ち破り、リリイから敵対しないようにするかを考えなければならない、早くミーラの親御さの行方も探さなければならない。彼女の親御さんはおそらくいつも通り伐採をしに森へと足を踏み入れたに違いない、その結果武装勢力によって誘拐された。といったところではないだろうか、できることなら殺されたなどという最悪な事態だけは避けたいものだが。


「小隊長!ハルマ小隊長ー!」


目の前から馬に乗った騎士がこちらに声をかけながら駆けてきた。よく見ると僕の小隊の部下であることに気づき足を止める。騎士は肩で呼吸していて急いでいたことがわかる、その顔には何か悲痛なものを感じ、決してめでたい報告を聞くことは難しそうだ。


「偵察隊が戻りました!負傷者も出ており指示を必要としております!」


「負傷者!?わかった、馬を取ってき次第すぐに基地に急行する、ベルダは?」


「それが・・・行方不明です、指揮下の偵察隊の兵によればモンスターとの戦闘の際に馬をやられ落馬したとか、その後小隊副隊長指揮下の分隊副隊長がベルダ小隊副隊長の指揮を執り撤退したそうです」


立ちくらみに近い感覚だ。まさかそんな、こんな時になんでいないんだ、考えていなかったわけではなかったがそれでも万に一つだと思っていたのに、現実は非常だ。信じたくない現実から背くように晴馬は大声で叫んだ。


「ベルダ!」

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