22 腐敗
こっちだ、ついてきたまえ」
彼に案内され向かった先は、武器庫に改造された修道士の食堂であった。まぁよくもこんなに集められたものだと感動してると、あることに気が付いた。それは鎧に錆がついいることである。ちゃんとさび止めを塗るか、磨かないからそうなるのだ。僕は騎士団の基地の武器庫を思い出した。きちんと整頓されて大小問わずすべてが完璧に配置され、傷はあっても錆などどこにも見当たることはなかった。そしてグングニールも、塵一つついていないものだった。それに比べここの武器庫は滑稽だ。思わずふっと息が漏れる。
「おいおい、ここは品質管理ってもんがなってませんねぇ、ちゃんとしてくれませんといざって時に使えんぞ?」
皮肉交じりに言った言葉にパートリックはむせ笑いをした。
「本気で言っているのかね?それはさびをモチーフにした偽装だよ、俺だって騎士の前は従騎士だった。手入れのやり方ぐらいはわかる、ごもっとも、この学校にさえ入ればパラディンである俺は騎士として受勲されるのだがね、趣味のようなものだ」
偽装?なぜ鎧を錆びさせる必要なんかあるんだ?何か、こいつらが良からぬことをしているようにしか思えないんだが、でも、それならホルガーが黙っていないだろう。彼はあんなに純粋な男だ。剣技だって未熟ではあるがそれを補うパラディンの能力を持っている。もし不正を働いているとわかったらこんなところ出ていくことが出来るだろう。ともなれば、なんのためにこんなことを?
「もうすぐ警らの時間だ、君はそのために必要な装備に着替えてほしい、基本的には、君は乗馬する私の馬を引く係をしてもらうつもりだ、何か質問は?」
「何で僕が引かなきゃなんないんだ?とは言わないよ、これはお試しだからね、身近にいることが出来るだけで大満足さ」
大げさに手を振り、僕は最高だと意思表示をした。
「完璧だ、俺は君をがその気ならすぐに幹部にしてやるつもりだ、だからよく俺の行動を見て、学んでくれたまえ」
僕に指をさし。不適の笑みを浮かべる。彼はマントを広げ反転し、ドアのある方へと足をすすめて言った。
「「何とも不気味な人ですね、それにこの鎧も一体どんな意味が?」」
「知るか、ただのナルシストだろ?僕はそれより、ホルガーにはこういうところは似合わないと思っている、あの子は純粋な子だ、どうにかして脱出させてやらないと」
僕がそう言ったとたん、ユッタは絶句したように思えた。静かになり、そのあと突拍子もなく会話が継続される。
「「ひょっとしてあなたは男色を好むような嗜好が?確かに彼は男というよりは女の顔に近い作りではありますが・・・」」
「ねぇよ、そういうつもりじゃない・・・似ているんだ。君たち姉妹に」
なんといえばいいかわからないが、もし、もし、幼少期のこどもの国を作っていたアマーリアやユッタが、こういうところに連れてこられたら、きっと彼のようになんの警戒もなく入ることになるだろう、そうして騙されるだけ騙されて自身で気付くこともできずぼろ雑巾のように捨てられる。そんな気がしてならないんだ。世間知らずな子供を学校に入れるのは、この世界では仕方のないことかもしれない。それでも、近くにいる人が清き者を庇い、代わりに汚泥にまみれて守ることは一回ぐらいしたっていいはずだ。
「「はぁ、変な人ですね、一度は剣を交えた者にそんなことを考えるなんて」」
「今日の敵は明日の友というじゃないか、それだけだよ、無駄話はよそう、さっさと着替えないと、でも、錆のある鎧は嫌だな・・・黒いさび止め油ならあるか」
「どうだね?彼の見どころは?」
懺悔室を改造した秘密の部屋の教壇でパートリックはそういいながらベルダに吸い付くように抱き寄せながら彼女の耳元で質問する。ベルガーは顔色一つ変えることなく彼の話を真摯に聞いていた。
「間違いなく本物かと、私が思うにこの青年騎士同盟の用心棒としても、名声集めとしても何ら問題なくできることでしょう」
「それを聞いて安心したよ。俺の部下に無能な奴はいらないからね、例えば、ホルガーとか、まさに彼はそろそろ捨て頃だろ?いい加減な理由をつけて捨て去りなさい」
その言葉を聞いたベルダは眉をよせ、何とも悲しい顔をした。それは晴馬が見たあの顔である。なんと悲しい顔なのだろうか、必死で涙を抑え、表情を悟られまいと冷酷な人間の真似をする。それでも抑えきれない悲しみがにじみ出て、今の彼女の雰囲気を作り出しているのだろう。それを知らずに晴馬は装備へと着替えようと武器庫でいそいそ、ハルガーは警ら用の馬を準備するために厩へ行っていた。
「なぜです?ホルガーはまさに理想的な騎士ではないですか?幼くしてパラディンのわが校に入学、成績優秀でおまけに四回生学徒防衛隊では中隊長を務めるような男です。彼を逃すのは非常に惜しいことに思いますが?」
その言葉を聞いてパートリックは鼻で笑った。何が惜しいだと言わんばかりに顔を上げ、ベルガーの顔へ一層近づける。手つきは余計にまとわりつき、ベルガーの尻に胸に意識を集中させる。
「だが負けた、初見で負けるような男に価値はない、もし俺が襲われるようなことがあったとき敵が初対面だから負けるようでは守れない、この青年騎士同盟には必要ないんだよ、それに比べ彼はどうだ?何もかもが優秀、名誉も家柄も武功も度胸もだ、ただ忠誠に欠けることがあるのは否めないがそこは今後教育することにしよう」
はは、そうパートリックは笑い、静かに踊るようなしぐさを始める。ベルガーもつられて踊るように動いた。
ああ、また一人この男によって捨てられた、いったいいつからだろうか、純白と称えられた青年騎士同盟がここまで腐敗したのは、私が一番意義を見出し、必死に守ろうとしたのに、結局は守り切れず、この男の毒牙にかかってしまった。今できることは、少しでも長くこの男の機嫌を取り、青年騎士同盟を長く存続させることだけ。だけど、もう、それも限界だ、私は耐えられそうにない。去っていった多くの学徒防衛隊の指揮官が引き返してくれるように一生懸命守ってきたけど。それももう無理だ。
「おや?涙なんて君には似合わない、だが、君のそういった思慮深い考えは俺を余計に君の虜にする、愛しているよ、ベルダ」
「はい・・・ありがとうございます」
誰にも届くことのない悲鳴をベルダは鳴き続けた。
用意を済ませた晴馬はパートリックの元へと向かった。パートリックはまたらせん階段のところで教会を見渡しており、わざわざ階段を上らなくてはいけないのかとため息がこぼれた。無論、そんなことをするつもりのない晴馬は大声で呼びかけることにした。
「おい!準備ができたぞ!」
晴馬が怒鳴り込むとそれを聞いたパートリックはさも耳障りなような仕草をし、階段を下りて一瞥する。
「ここで大声は必要ない、そうだろ?」
「すまない、早く警らに行こうか」
パートリックの後をついていき教会の門を開いた。教会出口は馬が一匹、そして従者として同行するのであろうベルガーがそこにいた。今度は剣を携帯し、ホルガーと話をしていた。
「なぜです!新参のハルマさんを連れていく事は出来て、僕は連れていけないのですか!」
「貴方も私の目から見れば新参よ、まだあなたには早いと思うの、それに、たとえついて行ったとしても貴方にできることは、とにかく、また今度、その時は私と一緒に行きましょう?」
そう問いかけながらベルダは笑った、悲しい笑いだったことを晴馬は理解する。しかし、幼いベルダにそれを伝えることは難しく、彼は正論を武器に反論する。
「それは前にも聞きました!一体いつになったらついていけるのですか!指揮官としても、能力だって僕はベルガーの先を言っているはずなのに、なぜここまでついていくことが許されないのかはたはた不思議でなりません!」
ホルガーは納得できずなおも吠える、それを聞いて困り果てたベルダの元にパートリックが代弁するように現れ、ホルガーを諭すように語り掛けた。パートリックの手には、例の偽装した甲冑があった。
「ホルガー、見たまえ、君が磨いたと主張する鎧は既に錆をつけているではないか、こんな整備係も満足にできない男を警らに任せるなんて、すでに警らに回っている者たちへの示しがつかないだろ?今日は残って、錆がなくなったらまた報告しなさい」
「でも、これはいくら磨いたところで錆は取れない・・・」
「いいからやりなさい、君のおかげでハルマは黒いさび止めを塗る羽目になった。見ろ、どこから見てもあれでは騎士とは言えない。傭兵のような面立ちになってしまっているではないか、後輩に泥を塗る先輩なぞ、聞いたことがないぞ?」
そういいながらこちらにパートリックは指をさす。確かに、錆を隠すために黒いさび止めを塗ったのは認めよう、そのおかげで騎士というより黒騎士だ。しかし、錆を偽装して作ったのは間違いなくお前だろう?なぜこんなボルガーを陥れるような無意味な真似をする?余計にこの男のやることに疑問を感じるようになってきた。そもそも、ホルガーの話が合っているのであれば、なぜこんな少人数しかこのクラブにはいないのはおかしい。もっといろんな人がいるように聞いたがここには僕を入れても4人しか、いや5人しかいないじゃないか。パートリックの言う通り警らに出ているというのなら納得できなくもないがそれにしても少なすぎる。
「・・・わかりました。今回は言われた通り整備をしましょう、その代わり、錆をしっかりととったら今度こそ僕を連れて行ってくださいね?」
渋々同意したホルガーに僕は同情をした、それと同時に胡散臭いこいつにいかんせん腹が立つ、どうやら彼と僕は生理的に仲が良くなる可能性が皆無らしい。せめてホルガーを勇気づけようと近寄り、膝を折って話をした。
「ホルガー先輩、そんなに落ち込まないで、自分、ミューシュタットの一つ、甲冑師の町スタンワージの甲冑師、マキの甲冑をもらい受けることになったんですけど、もし錆一つない鎧であったら、先輩に譲りましょう」
「ええ!?甲冑師の町のをですか?!そ、そんな、晴馬には甲冑さえないのですから遠慮せずあなたがもらってください!」
「僕が持ったところで宝の持ち腐れ、ここはあなたが持つことで甲冑も本望というものでしょう、遠慮せず楽しみに待ってください」
僕はそういうと強制的に話を終了させ、パートリックの騎乗した馬の方へと足を運ぶ。ホルガーはまだ何か言いたげだったようだが、それでも貰い物はうれしいようで、にこにこと笑顔を取り戻した。
「「たまにはいいことをするじゃないですか」」
ユッタも少ない僕の徳に対し、素直に褒めた。
「では、行ってくる」
パートリックの掛け声と共にスタートした。警らはまず、街の方へと足を運んだ。僕はまず何を警戒すべきだろう。三人もいるパラディン団体に対し。誰が襲ってくるというのだろうか、それを考えたらこの警らもなかなか効果的なものがあるのではないか、そう思いつつ、気がかりであったことがまだ胸の中をぐるぐると駆け回っていた。それを聞かずにはいられない。パートリックに視線を送り、にらみつけた。
「なぜあんなことをした?錆なぞあの鎧にはなかったのだろうが、ホルガーに恨みでもあるのか?」
パートリックはそれを聞き流すように僕に視線を送ろうとはしない。しかし、返事をしないわけじゃい。あくまで聞いていることは変わらないようだ。
「それはむしろ、君の願いのようにも思えるがね、君は見抜いていたのだろ?俺の本質というものを、それからホルガーを取り外したかった。そう聞こえるような気がしたんだがね」
そんなに話したわけでもないのになぜそれを知っているのか、まさかその手の能力を有したパラディンというわけか?もともと信用のおけないやつだとは思っていたが、余計に警戒する必要があるな。僕はとりあえず、この行軍にはいついかなる時も気を抜いてはいけない。そう理解し、黙って歩いた。
「貴方は、どこから来たの?」
ベルダは僕に質問をする、黙っておきたいが美人を無視できるほど僕は意志の強い人間ではない、ごまかしつつも少しづつ、口が緩んでくる。
「それはどういう意味で?」
「そのままよ、この学校に入るには騎士団の推薦書が必要でしょ?どこの騎士団から来たの?」
まずいな、それは一番言いたくないやつだ。適当にごまかしていうしかない。
「別に、どこでもいいだろ?そこらへんの片田舎の領主の騎士団さ、ベルガーは?見たところこの国の騎士団には見られない紋章をしているようだけど」
「私はマーズという騎士団から来たわ、マーズ王立騎士団というの、つまり親衛隊ね」
聞いたことねー、僕みたいに領主じゃなく王様の警護をしているってことか?それはなかなかすごいことだ。僕より偉いんじゃないか?
「そう、敵同士になったら僕だけは狙わないでね」
「ふふ、騎士がそんなに弱腰でどうするのよ、でも、そうね、貴方少しかわいいし、考えておくわ」
そう微笑し、ベルダは談笑をつづける。そうしていると、街の方へ入っていった。正直これで警らの効果があるのか今度は疑問を持つようになって言った。ただしゃべって巡回、それだけしかやることがない。そういえば先に出たという警らの連中に合ったことがない事に気づいた。これは完全に僕はホルガーとともに騙されたことを理解した。許せないがそれを聞こうとしようとしていたら何やら前方から多数の人影が押し寄せてくるのが見えた。
「なんだ?こっちに向かってくるぞ?」
思わず剣に手が触れる。
「抜くな、あれは違う」
パートリックがそういうと、押し寄せてみたのは大量の町娘だった。波のように来られみるみるあたりを占拠されてしまい、身動きが取れなくなった。右も左も若いおっぱいでぎゅうぎゅうとなり、体温が二度三度はあがったんじゃないか?そう感じるようになって言った。
「パートリック様!パートリック様よ!」
「青年騎士同盟の方よね?どうして黒い装備なんかしているのですか?」
「いや、これには理由が・・・」
「キャー!パートリック様ー!」
たかられる少女たちの胸に沈められ、危うく二度三度昇天しそうになるが、パートリックは顔色変えることなく、集る少女たちの顔に接吻をした。その行為をする度に一回一回奇声が上がる。この慣れ、間違いなく一回どころじゃない、何度もやってるな!?待ったくふざけやがって!やっぱり「女の子のパンツ見廻り隊」で合っているじゃないか。僕も混ぜろこの野郎!
「・・・」
偶然、ベルダと目が合った。彼女もこの波に飲み込まれているはずなのに、誰も彼女にあたっていないかのように。一回もベルガーの身体が揺れていない、どういうマジックだろう?彼女のまっすぐな瞳が、一回も僕から外れない。少し怖くなった。あの紅い目が訴えるものを、僕は理解できなかったからだ。
「べ、ベルダ。すごい人気ぶりだね、やはりそれだけ青年騎士同盟はすごい組織のようだね」
僕はニコッと笑いながら話しかけた。すると向こうもから笑いを送り返す。
「ええ、何度だってこの都市を守ってきたもの、皆それだけ感謝している、といったところかしら」
「そうか、ほかの警らの連中もこんな感じかな?、あ」
しまった。思わず僕は口を滑らせてしまった。彼女にとってはそれは皮肉にも取られられるからだ。それを聞いてベルダは悟った。この男はすべてを悟っている。嘘をこれ以上いうことはできない。ただ無言でお互い顔を見あいながら彼女は、静かに目を閉じ、そして口を両手で隠しながらも笑った。僕は怖くなかった。彼女の本性を見た気がしたからだ。こんな短時間でそれを見ることが出来たのは、おそらく彼女の中の何かが限界を見せている証拠であった。それが何なのか、こんなに幸福な環境に置かれているのに、僕は彼女と一緒で、ただ突っ立って棒のようにお互いに対峙した。
「はは、かわいらしい娘たちだ、今晩は君を連れて帰りたいものだよ」
「ええ!?パートリック様それってプロポーズ?私を妾に?それとも正妻?」
「君の望むとおりに」
「キャー!」
彼女たちの笑い声が少しずつ聞こえなくなっていった。そして一人の少女の掠れた笑い声が聞こえてくる。精神をすまし。じっと見つめる。ベルダはそれをただ受け入れ。泣くに泣けない実情を笑い声に乗せながら僕に詠う、紅い目は潤むにつれ、純粋なまでに赤くなっていく。
「ふっふふ、ふふふ」
「「何やら訳ありのクラブに入ってしまったようですね」」
「ああ、だけど不思議なことに逃げ出したくないのは、どうしてだろうか?」
「「それが騎士というものですから」」
僕はこのクラブの実情を知らない。この集られ方からしてもさぞ栄誉あるクラブであったことは間違いない。それがどうしてここまで少人数になってしまったのか。そんな組織の指導者を務める彼女をあそこまで悲しませる理由になったのか。謎は深まるばかりだ。おそらく解決できるのは、ほんの一部分だけだろう。それでも僕はあきらめない。ホルガーとベルダ、二人を同時に助け出そう。そう覚悟した。それには真の黒幕を探す必要がある。それが誰かわからないが。少なくとも、少なくともそう遠くにはいないだろう。
「ふふふ、ふふふふふ」
彼女たちがはけて来たのを確認し、僕たちは再び警らへと移行した。馬の上、パートリックは生娘を同行させ、馬上で甘い言葉を語りながら娘をかわいがった。それに照れる娘も、決してブスではない。あの集団から選り好みしていたのだろうか?僕もできることなら混ざりたかったけれど、あの光景を見てしまってはそうもできない。
「いいものだっただろうハルマ?ああいうものを、ホルガーにやらせるのは少し若すぎるとは思わないかね?」
ニタニタと笑いながら銀髪を撫で、僕に問いかける。僕は馬を引いているため、上を向いて話す必要があるが、それを拒否し、進行方向を向いたまま話すことにした。
「そうだな、尚更ホルガーをここから脱出させないといけない気がしてきた」
「脱出?どうしてだね?」
「このクラブはあまりにも軟派すぎる、本来の目的を果たすことは難しいのではないか?」
それを聞いたベルダはビクッと体を震わした。押し寄せる罪悪感から身震いしたことは言うまでもない。
「大体先行している警らの連中と会わない時点でおかしいとは思ったよ、普通警らのルートは決まっているものだろう?それなのに、近くから女の嬌声が聞こえてこないんじゃ、そもそも、教会の厩にお前の馬以外鳴き声が聞こえなかった時点でおかしい話だ。そんなにみんな警らに向かっているのか?誰も教会に常駐させず?破綻しているよそんな言い訳、ホルガーが純粋でよかったな?」
そういいながら歩いていると馬が止まった。娘を優しくおろし、パートリックはハルマを見る。フーとため息を放ち再び馬を動かす。
「君は、本来の目的を果たすのは難しい、そういったね?」
諭すようにパートリックは問いかける。
「ああ、そういった、ベルダ」
「何かしら?」
「青年騎士同盟で体験した事を話してほしい、嫌なことじゃなくていい、一番楽しかったことを話してほしいんだ」
それを聞いたベルガーは顎に手を当て、少し真剣に考える。
「そうね、やはり皆で守り抜いた達成感かしら、あれは、学院の認知を振り切った盗賊が街に入り込んだという情報が入ったときのことね、私たちは数少ない情報を頼りに捜査をし、その盗賊の棲み処を特定して検挙にまでこぎつけたわ、ああ、そうそう、確か私はあの時はまだ一回生で、まともに動けなかったっけ、それでも一生懸命に動いて、張り込み、聞き込み、なんでもやったわ、思いっきり下っ端のやることだったけどそれでも楽しかったわね」
思い出し笑いを浮かべながらベルダは語りだす。うれしいのかなんだか話すことももどんどん増えた。
「皆一生懸命だった。組織の名誉にかけ、高い志と能力を必要とするようになった、そうすることで、多くの人を救えたから・・・でも」
でも?でもなんだ?僕は気になりベルガーの方へ視線を向ける。彼女は口を閉じ、考えた。そしてこちらに視線を向けると、少し笑った。
「シー、これ以上は秘密よ」
人差し指で自身の口を覆う。悩ましいしぐさに晴馬は思わず息をのんだ。
「ふ、何を語るかと思えば、昔の役立たずのことかベルダ、あれらは必要ないと説明したじゃないか?俺と君と、そして従者が少しいれば、この青年騎士同盟は維持できる」
パートリックは嗤う、何と卑しい笑い方だろうと晴馬は唾を吐いた。騎士としてそれはどうかとユッタは心の中で思ったが。パートリックに対する嫌悪感は同意だったので伏せることにした。
「あの役立たずたちは口では好きなように言って実際に行動するのは下っ端にまかせっきり、それではだめなのだよ、本丸が重い腰では意味がない、私が総帥になったときに説明したじゃないか?」
「・・・そうでしたね、私も、それには同意しました」
「ハルマ、君にも見せてあげよう、この新しく生まれ変わった青年騎士同盟の本懐というものを」
パートリックはそういって馬を走らせた。僕はそれについていかなければならない。それが真実の解明につながると思ったからだ。だが、馬についていくとはどれほど無理のある事かは理解していた。訓練でもそれは行ったことがある。10キロ馬について行くだけでその日の訓練は終了というものであった。だが、それでついていけたのは150人のうちわずか5人ほどであった。馬は全速力で走ったわけではない。駆け足での移動だった。それでも、馬の体力と人間では到底ついてゆくことはできない。おまけにこっちは戦闘用の18~25キロほどある鎧を装備しての移動だったのだ。5人に対し教官は「今年は大漁だな」といったほどである。それをパートリックは全速力で走らせる。
「まぁ、息を切らせずついていけたのは、五人の中でも僕だけだけどね」
ユッタの身体がなければ到底不可能な話である。かける馬はこちらを見て驚いた。同じ境遇で息を切らせ、ジョギングでもしているような顔でついていく人間がいたからだ。だが、その男でも、さらに驚いていることがあった。同じ境遇で、腕も使わず、呼吸も乱れず、風に任せてブランと腕を後ろになびかせている紅い目をした女がいたからだ。目を丸くしているハルマに、ユッタは補足するように語る。
「「あれはおそらくパラディンの能力でしょう、韋駄天のパラディンといったものでしょうか、ああいうパラディンは呼吸を必要としないため、肺が存在しないといいます、戦闘の際は無呼吸での戦闘が可能なため連撃が止まることがなく、非常に厄介です」」
「まじかよ!?じゃあHするとき喘がないの?!」
「「・・・なんだこの男は、おそらくですが、本能でスるのではないでしょうか?パラディンはあくまで魔法ですから、人間の本能とは違うものがあります、あと、これ以上貴方へのの失望ポイントを加算するような行為はやめてください」」
許してくれユッタ!走っていて考えが集中できないからどうしても考えたことを口で出してしまうことがあるんだ!許してくれ!
「ほぉ、案外ばてないものだな、ベルダの読み通りだ、用心棒として、離すわけにはいかないな」
疾走する青年騎士同盟はやがて市場へと向かう。簡素なたたずまい?そんなことはない、僕はローレの教育実習でいかなかったことを少し悔やんだ。何とも大きな店が所せましと並んでいる。レストラン、カジノ、服、そして行商人たち、大道芸人のパフォーマンス、どれを見ても、舌の肥えた地球人をうならせる一流の内容であった。その光景に圧倒されていると、パートリックはある店へと足を踏み入れる。それは見たところレストランで間違いない。
「青年騎士同盟の者だ。ここのオーナーに話がある」
「は、はい!オーナー、青年騎士同盟の方たちです!」
パートリックが言うや否や、直ぐに店の奥から男が現れ、へこへことした態度で話に応じようとしていた。
「こ、これはこれは、ようこそいらっしゃいました、ところで、今日はどういったご用件で?」
「いや、これと言って理由はないが、最近の街での問題は何かないかと思ってな」
「そんな、何の問題もなく日日過ごすことが出来ております、これもすべて、あなた方青年騎士同盟のおかげです!先日も強盗を退治していただいたばかりですし、そうだ、これはちょっとしたお礼です」
そういうと男はパートリックに何やら小さな袋を渡した。まさか報酬か何かだろうか?
「「報酬で守る、忠誠もへったくれもない、騎士ではなく傭兵の方が彼には向いているような気がしますがね」」
「それより、これがパートリックの言っていた新しい青年騎士同盟とかいうやつなのか?」
僕にはどこが変化しているところなのかわからない、確かに、以前の青年騎士同盟がどのようなものであるか、それを見たわけではなく人から聞いただけの自分ではわからない変化があるのかもしれない。しかしながら、それ程度の変化ではたして「新しい」などどパートリックが言うだろうか?
「次だ、行くぞハルマ」
パートリックはそういうと次は床屋に足を踏み入れた。床屋はそのままやってくるパートリックに何も言わずまた袋を渡す、ただの集金かと思うような光景に思わずあくびが出たが。ユッタに対しては騎士への冒涜だとはらわたが煮えくり返るような感情を感じた。僕は彼女に質問した。
「騎士だって自分の領土で何らかの収入を得ているんだから、自警団として活躍している彼らには当然の報酬だと思うけどね」
「「そう考えるのは地球育ちだからでしょう、本来、騎士には忠誠を誓うものがいます、その者への奉仕の賜物として領土を一部いただけるのです、これには人間の絆が存在します、しかし彼らにそれがあると思いますか?彼らは報酬を君主として働いているのですよ、無機物と絆を抱き、それに奉仕する、騎士の風格も感じられませんね、もし、それが廃れるような時代であるならば、私は一向にかまわないと思っています、自身の中でのみ守り通せばいい話です、しかし彼らは違う、騎士の学校で騎士を目指しているのですよ?そんな中、このような蛮行をただ見ているだけとは・・・自分が情けなく感じます」
「あ、ああごめん、そうだよね」
「「いいえ、貴方を責めたいわけではありませんのでお気になさらず」」
「次だハルマ」
パートリックは集金をやめない、治安活動は形だけのように思い始めた、そこで疑問が生まれる、果たして僕たちはそれほど治安業務と呼べることをしているのだろうか?カツアゲ・けつもち、こういった方がいいのではないか?やがて、何とも古い、嫌ぼろい店にまで足を踏み入れた。そこには、ただ衰えしか残っていないような老人が店を構えている青果の店、パートリックはそこに足を踏み入れると、大きな声で老人を呼びつける。
「来たぞ!早く出ないか!」
「あ、青年騎士同盟の方々」
老人の店主は杖を使い、何ともおぼつかない足取りでこちらによって来る、その顔は苦笑いをしていて明らかに金銭要求を嫌がっている事は明白だ、確かに、この廃れようでは羽振りがいいようにも思えない。当然の考えだ。
「申し訳ありません、私には協力できるようなお金は・・・どうかお引き取りを」
「なんだと?青年騎士同盟の活動を遅延させる気か?」
「そのようことは・・・」
何とも、松で借金の取り立てではないか、ここらでやめさせるべきか?
「いいかな店主、俺の努力は街の維持のために無償で奉仕しているのだよ、これはまごうことなき事実だし、それによって実績を得ている、だが、なぜ君はそれを助長る程度の能力も割いてはくれないのだね?ん?献身の精神というものが欠如しているのか?」
「は、はぁ、しかし、いままで多くの助力をしたつもりなのですが、それでも、ですか?」
「俺は継続を望んでいる、あまり、同じ言葉を繰り返させるな」
「し、しかし本当にお金が」
するとパートリックは勢いよく近くにあった棚をけり上げる。僕は驚いたが、ベルダが驚かないところを見ると、これも日常風景なのか?しかしこれはやり過ぎでは?
「あるなしにかかわらず、協力することが奉仕というものではないのか?それを実践している我々に、なぜ同じ行為で返そうとしない?意味が分からない」
「ふ、ふざけるな!あんたらなんだ!?治安がどうだとか何とか言っておきながらただやることはカツアゲじゃないか!こっちは断っているのに、何度も押し寄せてきて迷惑なんだ!出てってくれ、早く出てけ!」
そういったとたん、老人は卒倒した。いや、瞬間的に蹴り上げられ、蹴り降ろされていたのだ。
「ふ、やれやれ、そこまで言うのならば仕方ないな・・・ハルマ、出番だ、こいつを痛めつけてやれ、殺すなよ」
「は?」
理解不能か言葉に条件反射で返答する。パートリックへの疑心と怒りが込みあがる。それは表情に出たようで、パートリックは意外と言わんばかりに目を開けた。
「だから、こいつを痛めつけろ、といったんだが」
「何で痛めつける理由がある?この店主の言う通りカツアゲだろ?何やってんだ?それが新しい青年騎士同盟なのか?」
「そうだが?」
さも当たり前という風な言い分に、思わず声も出せなかった。ベルダはそれを聞いてうつむき、ひたすらに押し黙る。
「言っただろう?これが新しい組織だ、以前の奴らは当然のように賄賂をもらい活動してきた。それはそれで良い、しかしそれにも限界があるだろう?我々は貴族だ、平民を搾取する権利がある。それ以上を望むならば。それを行使するのは当然の権利だろう?」
僕は不当を感じた、あまりにも身勝手すぎる破たんした理論にどれほど指摘できるかはわからなかったし、心頭怒っていたから冷静に話せなかったため思い思いにパートリックに指をさしながら語り、軽蔑した。
「何を言っているんだ!?それでは組織の目的を大きく踏み外しているじゃないか!?治安維持を自主的に行うことが本来のあるべき姿じゃないのか?」
「はぁ~」
大きなパートリックのため息が店内に響き渡る。
「それは過去だ、俺は新しい騎士道を貫くのさ、金の無新もしかり、常に搾取!そして自身をもっと強くする!これが俺の騎士道!理解できないものは必要ない!そんな者は追い出してやった、いるのは、理解者であるベルダだけでいい」
そういいながらパートリックは流れ目でベルダに視線を送る。晴馬は信じられないような顔をしていた。こんな男の狂った騎士道に同調するものがいるとは思わなかったからだ。
「ふ、ふっふふふ」
また、あの笑い声が聞こえてくる。ひしゃげた支柱が出す悲鳴のような音、それは支える必要があるものがあるほど、良く響くものだ、だが、その音は決まって不快だ。
「理解できるわけ・・・ないじゃないですか、私はてっきり、組織を多少軽くして、もっと実践的に活動するものだと思っていたのに、こんな、こんな狡猾なものになるなんて・・・わかるわけないじゃなしですか!」
彼女は顔を上げて叫んだ、その瞳には涙すら浮かべている。タガが外れたように泣きながら彼女はなおも続けた。
「貴方について行った自分が愚かしい、そのために、私に見切りをつけた同僚に気づけなかった、こんなことになるなら組織を潰すべきだった、皆が帰る場所をとバカなことを考えていたらここまで被害が及んだ、愚かしい、愚かしい愚かしい」
そうぶつぶつとつぶやきながら、瞳が漆黒に染まるのを見た。深淵の赤、とでもいうのだろうか、それは妄動に近い症状だ、ただ意識を一つに集中させ、他のことに関心を抱かないような心理状態だ。今の彼女には、たとえ目の前で誰かが死んでも、何の関心も抱かないだろう、そう思うほど放心していた。本来ならば戦場で発揮すべきことなのであろうが、日常でそれを発動するほど追い詰められた彼女を見て。僕はまるで人形だとしか思えなかった。同情も、何も今の彼女には通じない、そしてやっと黒幕を理解した。パートリック、お前だけは許さない!
「あぁ、ベルダ、君は本当は理解しているのだ、だが、その他者への慈愛の心が、いつしか自身を苦しめいていることを知らない、もっと本能に従順になれ、さすれば今の俺たちに与えられた真の世界が見えてくる」
「「何という軟弱者!斬る!お前だけは何としても斬ってやる!何をしているのですハルマ!早く抜刀をしなさい!」
ユッタの激昂は晴馬にも分かっていたし、晴馬はゲラルドを殺したときに見た、あの赤い世界に突入していて、いつでも殺せた、しかし、ハルマはその自信あふれる感情を押さえつけ、剣と鎧を脱ぎ捨てた。
「俺は抜ける。こんな組織に俺の棲むところはない」
晴馬はそういって鎧を捨て、パートリックに唾を吐いた。パートリックはそれを嫌悪の表れだと理解し、敵対心を沸かすかと思ったが、意外な行動に出た。
「そうか、ハルマはてっきり、俺の本心を理解していたと思ったんだが、理解できないようで残念だよ、これは少ないが持っていけ、せめてもの礼だ」
そういってパートリックは貨幣の詰まった、今までカツアゲしてきた袋をこちらに投げた。地面に落ちた袋からはたくさんの銀貨や金貨が乱れ落ち、光沢を放ちながら威厳を見せる。それが多くの商業努力の結晶だと考えたが、添えを我が物顔で渡すパートリックに理解をすることが出来ず。晴馬はついに憤激した。
「どこまで馬鹿にすれば気が済むんだゴミがぁ!」
渾身の蹴りで吹っ飛ばした鎧がパートリックを直撃した。しかし、それは突如広がったパーチリックのマントに覆われ、果たして命中したかは定かではない。マントを瞬時に掴み、ハルマは引きはがすようにして確認した。だがそこにはあの男の姿がなかった。すると、店先から足元にリンゴが転がってきた。それを確認すると、ハルマは振り返る。そこには、買い物に出ているようだったフェリシーの姿があった。
「騎士様?そのようなところで何を?」
「てめぇ、何逃げてんだ?」
「へ!?も、もしかして朝食の件でしょうか!?それとも・・・」
困惑するフェリシーは眼中になく、むしろその後ろにいる男に、晴馬は興味と殺意を持っていた。
「奇襲とは、あまりフェアではないように思えてね」
フェリシーはその声を聴いて肩を震わせた、そして、恐る恐る振り返る。それは一見晴馬の時と同じように思えるが、実際は、彼を恐れていたから常に声をかけられることを恐れるようになっていたのだ。彼とは言わずもなが、パートリックである。
「い、嫌・・・」
「フェリシー、君は相変わらず美しい肢体と金髪を兼ね備えた完璧な存在だ、撫でるほどに絹のように優しく落ちる髪には感涙すら覚えるよ」
そういいながらパートリックは鼻をフェリシーの髪に押し付け、抱き寄せながらかぎつけていた。心底気持ち悪い光景だが、フェリシー本人には恐怖しか存在しなかった。
「君は俺の物、俺に見定められた限りはすべてをゆだねなければ、さ、馬に」
しかし、それをするには不相応な格好になってしまった。パートリックは得体のしれない果実の汁に服を汚されたのである。もちろん原因は晴馬が投げた果実だった。しかしその異臭たるや、たとえどれほどその果実が美味だったとしても長くは味わうことは不可能なほどである。
「早くいけよ、くせーんだよバーカ」
鼻をつまみながら半笑いで晴馬は言った。
「「はははっは!騎士には不相応な男だと思いましたが、今はまさに相応の格好をしていて安心しましたよ!いいコーディネートしてます」」
ユッタもご満悦である。
「ふぅ、君は俺に殺されなければ気が済まないのか?」
パートリックは青筋のついた額で答えた。初めて行われた妨害に、その羞恥に怒りを覚えたのである。
「俺は、どちらかというと正義のヒーローに扮してお前を倒したいだけだ、いや、殺したいのさ」
「つまり俺は悪だと?力あるものが悪であるはずがないだろう?」
「僕が、君を倒して力ある正義になるからだ」
そういったとたん、フェリシーをつかむ腕の力が強まる。フェリシーは「あうっ」といって悶えたが、普通、そんな力がわくことはない、フェリシーは瞬時に思った、捕まる。そう思うと恐怖がまし、涙があふれてきた。
「助けて騎士様・・・ハルマ!ハルマ様ー!」
場が緊張し、やがて人が集まってきた。まさに戦隊ものの悪と正義、しかし正義は丸腰だ。
「なぜだね?弱者救済などと馬鹿なことをまさかいうつもりじゃないだろうね?そんな、ふふ、まさか伝説に聞く英雄、ユッタでも気取る気かね!ははは!ならばこの際はっきり言おう黒騎士よ!そんな時代じゃないんだよ、役立たずは良いように使われ、有能な者のみが生活する、情けなど無用、弱者は這いずり回るしかない、なぜか?それは英雄は死んだからだ!ユッタはもういない!皆、残った強者たちにいい食い物となり、養分となり死んでいくのだ!それが人生!人というものだ!」
大きく高笑いしながらも馬を呼び戻し、パートリックは掛けていた剣を抜刀する。
「そうだな、英雄は死んだ、復活はあり得ない、多くの奴が憧れても、本人と同等になれる奴なんてどれほどいるか、いないと考える方が利口だ」
「わかっているじゃないか、利口な奴ほどうまく生きていけるぞ?俺のようにな」
「馬鹿野郎、お前は利口じゃねぇ、むしろ大馬鹿だ」
その言葉に、パートリックは眉をひそめた。
「何?」
「皆がなれない本人に、伝説の英雄に、ヒーローに、救済者にたった一人一番近い人間がいる。その男は決して望んでなったわけじゃない、だが、もし誰かが再び英雄を望んでいるというならば!そいつは、いや、僕は英雄になるしかないんだ!」
地面に捨てた剣を抜刀し、対峙する。あたりの歓声がとどろく、戦いが、始まる。




