21 青年騎士同盟
「知ってますハルマさん!ミーシュタットの鉱山の揚水装置で大儲けした商人が爵位を買ったそうですよ!その際、騎士が手助けしたとか、その人は大層博識な御仁なのでしょうね」
すがすがしい朝の食事、そんな中聞こえる僕への声はとてもよく響いた。その天真爛漫な声の主はホルガー・アーデルベルト・ヒンメルというものから聞こえてきた。おそらく彼のことを知る読者はいないと思う、彼は何を隠そう四年生との賭け試合で見事に惨敗した若き美少年なのだ。おかしなもので闘えば友、学校で共同生活をして同じ釜の飯を食えば戦友となるものだ。特に都市防衛という任を受けるパラディンで、命の掛かっている境遇にいれば尚更のことである。
「はぁ、ホルガー先輩、それは良いですけど敬語はよしてください、ほかの人から変な目で見られますよ、自分、まだ3回生ですし」
「そんなことはいいではないですか!あなたは僕より年上、その上尊敬に値する人だ!僕の能力を見抜き完璧に別人になり替わるような人は初めてだったんですよ!そんな天才を敬わずして誰を敬えというんですか!」
現に天才に代行してもらっただけだけどね、でも、彼が尊敬すればするほど、周りにいる女の騎士は余計ににらまれる羽目になるから本当にやめていただきたい、見よあの一人の少女を、うらやましいのか憎ましいのかわからない顔でハンカチをかんでいるではないか。あまりあっちの方を向いていると闇に引き込まれそうだ。おかげで朝のスープを食べていても何味なのか分かったものではない。
「ホルガー様ったらまたハルマのところに、きー!うらやましいったらありゃしないわ!」
「ハルマ先輩、でしょ?こうなったら私たちで決闘しちゃう?複数相手だったらさすがにあの男もいちころよ。そうしてホルガー様から引き離すように説得するとか」
「だめよアーシャ、あの人は4回生を瞬殺した男よ?おそらく騎士団でも特殊部隊にいたのよ、私たちでは到底かなわないわ」
ああ、こうやって尾びれはつい行くのか、僕はこの学園の学生にどう思われているのだろう、あまり想像したくないが、せめて悪い方にだけは思われたくないな。
「はぁ、僕はどこへいっても嫌われ者なんだな」
「嫌われ者なものですか!あなたの倒した4回生含め、皆あなたに一目置いていますよ!あなたなら飛び級もおかしくないと、皆口をそろえて言っています!自分に自信をもって」
僕のネガティブ発言を受けホルガーは凄まじい勢いで反論する、一生懸命論に唱えるその幼い熱意は感服するしうれしいが、僕はそうやって考えていかないと先に進めない質だからそんなに気にしないでくれ。そう思いながらスープに口をつけると、何やら金髪でスレンダーの少女メイドがこちらにやってきた、手元にはしわのついた手紙、おそらく強く握ってしまったのが原因とみて間違いない、緊張する彼女に何を言えばいいのかわからないが、手紙が僕のであることは間違いなさそうだ。手汗で濡れてないといいんだけど。
「き、きき騎士様!手紙が来ておりましたのでおおもちし、しました!」
緊張で嚙みまくりじゃないか、そんなに恐れないでおくれよ。
「あ、ありがとうございます、あと、別に取って食おうってわけじゃないんだからそんなに怖がらなくても・・・」
「は!すいません騎士様!別に怖がっているわけじゃないんです、むしろあのその・・・か、かっこよかったですよ!魔法も使わないのに闘って、じゃあ!失礼しまひゅううう!」
そういってそそくさと行ってしまった、食堂の出入り口でメイドたちがこちらを見てキャッキャと笑っている。かっこいい?怖いではなく?うれしいじゃないの、そうだよそういうのを望んでいたんだよ僕は、いやぁ、ホルガーのいうことも間違いじゃないかもしれないな!いいぞいいぞもっとやれ!
「「何直ぐに喜んでいるんですか、顔に出ていますよ?騎士として常に冷静であるべきでは?」」
警告のようにユッタは僕に水を差す。いい気分だったのにこの戦闘狂は。
「試合が終わっても立て続けに試合を望んでいいるようなのぼせ屋さんから聞こえる声とは思えませんね、ん?そこはどう思うのかなユッタ?」
「「はう!な、なんのことですかね?まったく人間違いじゃないですか、貴方も歳ですね」」
まだ19だよ、まったくからかいがいのあるやつだ。そんなことでは軍の模範となる騎士としての気品に傷がつくよ?そうにやけながら手紙を見る、手紙は二通あった、一つはどうやら蒸気機関を献上した商人からの手紙だった。僕は独学中でまだ読み書きができないので、代わりにホルガーに頼むと「騎士に読み書きなど不要!そん物覚えていません!」と奇想天外なことを言われたので、仕方なくまた使用人を呼び戻し、代わりに彼女に読んでもらった。平民が出来てなぜ騎士ができないのかハタハタ疑問である。
「そ、それでは朗読させていただきます、えっと、拝啓ハルマ様へ、此度のお助け、まことにありがとうございます!おかげでわが商売もますます繁盛することとなりました、ひいてはあなたにお礼を渡したいと考えておるのですが、何を渡していいかわからず、貴方が望むものを渡そうと考えました、ひいてはほしいものを望むがままに書き、こちらに返信してください。以上です」
パクパクと口をあけながら読んだ彼女はもう放心状態に近かった、緊張のせいであろう余計に疲れたのだ。でもあの商人、手紙を出すほど喜んでくれたのか、きっと従業員の坑夫たちもさぞ喜んでいるに違いない。そう考えるとあそこでの時間は実に有意義であったものだと感じられる。マキの工房からも腕によりをかけて最高の鎧を作ってもらうと約束してくれたし、これは期待していいんじゃないか?いいぞいいぞ!なんか人に感謝されるっていい気分だな!
「メイドさん、貴方の名前は?」
「は、はい!フェリシー・セラフィーヌと申します!」
「フェリシー、君が代わりに好きな物を書いてくれ、それが僕からの朗読の礼だよ」
「そ、そんな!私、何もやっていないのに、騎士様の代筆であれば喜んでさせていただ来ます、別にこれぐらい気にかけ無くても」
「そういわないで、これも僕を助けると思って書いてよ、別に僕も恩義がましくするつもりはないからさ、さぁさ、ペンとインクを用意して、何ならメイドさん全員がほしいものを書くんだ、いいね?」
「で、でも」
「メイド、僕たちの言うことが聞けないのか?いいから書いてこい!ハルマさんがいいと言っているんだぞ!」
ホルガーはそういいながら払いのけるようなしぐさをし、メイドを払いのけた、フェリシーははじめは困惑しながらも、笑って礼をし、すたすたと仲間のところへと駆け寄っていった。僕はホルガーのやり方には少し不満を感じたが、それでも自分のやることを押しすすめてくれたので良しとし、朝食を追わらせた。もう一つの方の手紙を読むためである。
「送り主は、ローレか?なんだろうか」
「ハルマさん!読み書きできるんですか?意外ですね騎士なのに」
「おま、鎌倉武士だってちゃんと読み書き出来ましたよ、むしろそっちの方が意外っすね、えっと手紙の内容はと」
こればっかりは何を書いてあるのか人に読ませるわけにはいかない、いったい何が書いてあるかわからないからだ、機密情報だったらひとたまりもないだろう。ローレもしっかりと僕に配慮し、簡単に書いてあった。彼女はセージだったため、しっかりと読み書きができるようだ。内容は以下のとおりである。
ハルマへ、先日の機械は圧巻だった。こんなものをすぐ作り出せる人は見たことがない。おそらく、貴方も作る人を見たことがないだろう、だからこれは警告、あまりむやみに作るな、世界が変わってしまう。
「は?どういう意味だよ?あんな古い技術、教えたって何の問題もないわ、核兵器じゃあるまいし、とやかく言うほどなのか?」
とはいうものの、ホルガーはそれで一財産と爵位を買うほどの影響を及ぼしたと言っていた。そう考えれば僕は何かもったいないことをしたような気がする。もし僕がもっと効率的なワットの蒸気機関を教えていたら、彼は間違いなくさらに儲けたことだろう。じゃなきゃ、いくらなんでも好きなだけ書いてくれと手紙をわたすはずがない。僕は一様聞き分けは良い方だ。胸の中にしまっておこう。
「さすがハルマさん、下々にも配慮を忘れないなんてまるでユッタ騎士団長のようなお方ですね!おまけに自分のお手柄を人に与えるなんて・・・ぜひあなたに入ってもらいたいクラブがあるんです!」
「はい?クラブって?」
そういうとホルガーはおもむろにとあるネックレスをこちらに提示した。それは金の鎖に青い宝石をはめたものである。それを見た途端、先ほどからこちらを見て話していた少女たちが動揺したように言えた。これも魔法道具かなんかなんだろうか?しかしながらよく見ると何やら掘ってある剣とオリーブの木、なのだろうか?
「これは選ばれた学生のパラディンしか入ることが出来ないクラブ、青年騎士同盟の証のペンタゴンです!才色兼備の男女しか入れないのですが、貴方ならきっと入れますよ!」
へぇ、どうでもいい。いるいるそうやっていらないブランド立ち上げて自分たちで誇らしげにしているやつら、僕嫌いなんだよねそうやって誇らしくしているの、なんか虫唾が走っちゃう。どうせ入っても高飛車な人たちや階級や国家を自慢するような人に囲まれて生活するんでしょ?そういうの要らないから、むしろ余計生活を窮屈にするわ。ここは彼には悪いけど断るか
「ああ、申し訳ないですけど僕そういうのあまり興味ないんで」
「「いいではないですか、一回見てみましょうよ」」
どうでもいいところでユッタは食いつく、理由がわからないので聞いてみるとするか?
「どうして?どうせ自己主張の強い人たちに囲まれて生活するんだよ?何の意味があってそんなかなしいことをしなけりゃならんのだ」
「「こういうのってやる人たちはむしろまじめに取り組んでいる者ですよ?目的があって集まるわけですから方向性があるんです、私も在学中にそう言うクラブに入った経験がありますが、そこではひたすらに磨きをかけ、四回生の馬上槍試合での優勝者を出すことを目的としたクラブでしたが、お互いに協力し合い日常生活でもとても役立つものとなりました」」
「理由があれば、ね」
「そんなー、まじめなクラブですよー」
ホルガーの説明によると、青年騎士同盟は学校の学生によって自主的に街の治安維持、警らを行うことによって街の安全を守ることを目的とした組織だそうだ。そのため、入る人はそれ相応の能力を必要とされ、入ることは学生生活の誉として輝くことになるのだとか。そもそもここの学生は国際色豊かな編成となっており、いつ敵同士になってもおかしくない、しかし、学生の間は共に切磋琢磨していこう。そのために同士を募ろうという働きもこのクラブというかサークルの強化版みたいなものに進化したに違いない。
「そしていつかあの英雄でありこの学校の卒業生であるユッタ団長のような者を目指すのです!」
声高らかにほルガーは語る。またでたよ、どんだけ有名人なんだよ、僕はその人の身体で生かされながら本人のことをあまりにも知らない。彼女は騎士の中ではどういった存在なのか。今が聞くいい機会なのかもしれない。
「あの、ユッタって人はどんな人なんですか?」
それを聞いたホルガーは惚気るような呆れるような顔になり、少し頭を掻きながら説明した。
「ええ・・・ユッタといえばアマーリア・ブルクスラー家の家臣筆頭、グリーフラント王国で精鋭無比と呼ばれた騎士団の団長を務めたユッタ・シビレ・ブルクスラーですよ!?国崩しのユッタです!英雄ですよ英雄!」
「「エッヘン!それほどでもないです!」」
ユッタ冷静は?騎士たるもの常に冷静であるべきではないのか?軍の模範がうんたらかんたらいう割にはお前自分に甘すぎない?言ってることと違くない?とはいえ驚いたな、そこまですごい人だったのか、そんな奴でも傷を負えば、なんとも世知辛い世の中だな、盛者必衰の理を表すとは言うけど、姉のアマーリアと必死で生きてやっとつかんだ平穏の跡がこれだもんなー、まったく嫌になるよ。誰が盛者なのかわからなくなる。
嫌気の刺した顔をする晴馬を不ホルガーは不思議に思いながらも話をつづける。
「まぁ、知っての通り先の戦で負傷し帰らぬ人となりましたが、それでも私たち騎士の中では尊敬する存在として今も生き続いています」
「「いやぁ、そこまで言われるとうれしいですねぇ、当たり前のことをしたまでなのですが、尊敬、ふふ、うれしいなぁ」」
まだ浮かれているのかちょっと静かにしろ。
「それはそれとして、どうです?入るきになりました?ハルマさんは学徒防衛隊の小隊長でしたよね?中隊長や大隊長も所属してますし、仲良くできるチャンスですよ?」
「なにそれ?僕そんなのになってましたっけ?」
「そうですよ!どんだけ興味ないんですか!?」
学徒防衛隊、ああ、そういえば訓練の中で確かに都市防衛のためにパラディンは強制参加で学徒防衛隊に入る必要があると言ってたな、そうだ思い出した。なんか指揮官を挙手で選ぶことになってあたかも学校の委員会の委員長をやりたがらないように誰もやりたがらなそうだったから僕が渋々手を挙げた記憶があるぞ、まさかあのどうでもよさそうな指揮官はそんなに重要なものだったのか?とてもそうとは思えないものだったけど。
「あれそんなに重要なものだったの?僕はてっきりみんなやりたがらなそうだったから手を上げただけなんだけど、だれも反対しなかったし」
きょとんとした顔で晴馬は質問する。
「そりゃそうですよ!四回生ならまだわかりますが三回生で指揮官なんて普通誰も手を挙げませんって!仮に四回生でも出身や階級で不満が出るものなんですから!」
迫真の勢いで言われ少々押されるが、なるほど、と晴馬は感心した。
「じゃぁ、何で僕の時は皆何も言わなかったの?」
「そうですね、それはおそらくあなたのあの戦いぶりが大きく影響しているでしょう、四回生との試合、入学&進級、そして何よりあの騎士団の分隊長のいるディックハウト家の養子とすれば、まず誰も不満をいわないでしょうね、だから!ね?青年騎士同盟入りましょうよ~」
「またその話か」
正直うんざりした。こういうのは根で負けた方が悪いことはわかってはいるのだが、だんだんと流れる時間、迫る訓練開始、そんな中で晴馬は少しずつ冷静な判断が出来なくなっていた。そのうち彼の考えは傾いていくようになっていた。少しぐらいなら、ちょっと顔を見せるだけならば、いざとなったらドタキャンすればいい。そんな考えが彼を少しずつ参加の方向へと采配を上げるようになって言った。そしてついに。
「まぁ、ちょっとだけでいいなら、いいですけど」
「本当ですか!それなら訓練が終わり次第厩で待っていてください!すぐに僕も行きますから!」
そういってホルガーは意気揚々に食堂を出て行った。彼はよい手土産を手に入れたような顔であった。どう考えたってホルガーがその青年騎士同盟のメンバーであることは明白である。しかし僕を利用するような意図は見受けられなかった。となれば彼は僕をただ入れたかった、紹介したかっただけなのだろうか、何時はともあれ約束した以上はしっかりと顔ぐらいは見せなくてはならない、郷に入れば郷に従えともいうではないか。そう考えながらも時間が差し迫り。ホルガーを追うように僕も食堂を出て行った。
「「えへへ、尊敬かぁ」」
「黙れ」
僕は約束を忘れない、そういう男だ。僕は約束通り訓練が終わったら厩へ行くために向かった。訓練場と厩は直接いけるので余裕をもって歩いていた。すると、教官の屋敷へと進む道へと出た。そこでは何やら井戸の近くで洗濯物を運ぼうとしているメイドが見えた。フェリシーで間違いない。フェリシーは大変そうに洗濯籠を運んでおり、事実そのかごの内容量は相当なもので女が持ち運ぶには難があるものである。
「やぁフェリシー、大変そうだね、良かったら手伝おうか?」
僕がそう尋ねるとフェリシーはビクッと肩を震わせ恐る恐るこちらを振り向いた、しかし相手が僕だとわかると安堵して笑顔になり、ぺこりと礼をした。
「ああ、騎士様でしたか、いいえ、私だけで十分ですよ?お心遣いありがとうございます」
「僕は晴馬ね、遠慮しなくていいよ、さっきだってふらふらだったじゃないか、僕が手伝うよ」
「そんな無礼なこと、本当に大丈夫ですから!あっ」
「もう持っちゃったよ」
そういって僕は適当に歩きたい方向へと歩いた。これではフェリシーは指示をしないと洗濯物を持っていかれてしまう。まず何を言えばいいのかわからずフェリシーは混乱し、焦って冷静な判断開出来なくなっていた。
「そ、それならお屋敷の方に・・・は!」
しまったと彼女は口を手で覆うが、それを聞いた晴馬はニコッと笑い、頷いて返答した。
「そっちにもっていけばいいんだね?」
二人で洗濯籠をもっていき、フェリシーは困惑した。時折晴馬の方をちらちらとみて何か話したそうにうかがっていた、このままではらちが明かない、そう思った晴馬は自分から話をしようと考えた。
「そういえば、君はあの手紙の返答になんて書いたの?ほら、商人の手紙の回答だよ」
「あ、あれにはメイドみんなでほしいものを書きました。本当にありがとうございます」
「いや、別に大丈夫だよ」
「あ、あのなんでそんなに私たち平民に優しくしていただけるんですか?手紙の商人にしたって、あれは噂の商人ですよね?無条件でそんなことをしてくれる騎士様なんて聞いたことがありません」
彼女はこちらを向きながら不思議そうな顔をしている。
「別に、理由なんてないよ、僕の世界では大体平等だったから、だから平等に接しようと思っていただけだよ、習慣だよ習慣」
「はぁ、習慣」
フェリシーは余計不思議な顔をする。何でこの人はそんな風に考えるんだろうか、平等、それならわざわざパラディンなんて階級ではなく、もっと身近な人だったら。フェリシーはそう無意識に考えた。もちろん理由がないわけではない。晴馬は今まで経験した壮絶な記憶から、自身と貴族を大別しようと心掛けているのである。優しいかどうかは別にしてとにかく上だろうが、下だろうが礼儀はあっても平等に、そう考えて学校生活を送っているのだ。
「あ、ここまででいいです、ありがとうございました」
屋敷前にてフェリシーはそういった。それを聞いた晴馬は洗濯籠をおろした。
「そう、なら僕は行くよ」
僕は時間を忘れない男だが時間にルーズなところがある。なんとなく手伝ったら結構時間がたってしまった、このままじゃまずい。走って厩へと移動しよう。運んできた直後疾走していく晴馬を見ながら、フェリシーは一人思った。
「変な人」
厩ではすでにホルガーの姿があった、彼は待ち無沙汰にしていたが、ハルマの姿を見ると笑い、駆け寄ってくる。その顔には安心の表情がうかがえた。
「遅いですよ、逃げたかと思ったじゃないですか!」
「いや、逃げませんよ、ちょっと所要を思い出しただけです。それで、話は通したんですか?」
「もちろんです!むしろあなたに会いたがっていて、勧誘してこいとまで言われましたよ」
「なに?」
その言葉には何か嫌な印象を受けた、なにか、名声を得たいがためにやっているような行動にも思え、幼いホルガーならば理解できずに純粋に考えてしまうだろうというような安直な考えが浮かんでいるような、まさか先輩風を吹かせる嫌な先輩とか?あ~、高校のめんどくさいヤンキーを彷彿とさせるんじゃー。
「「とりあえず行くが吉、私はそう思いますがね」」
そうだろうか?まぁ、実際直ぐ帰ってもいいだろうしとりあえず行くだけ言ってみるか。
「とりあえず、行くか、案内してください」
ホルガーについていき、学園を離れ、都市部を離れ、やがて一つの村へと足を踏み入れた。どう考えても学園を離れた時点で怪しいこと限りないが、我慢してついてきた。そうすると、ホルガーはひとつの教会に足を踏み入れようと、門を叩く。
「紅き息吹が栄えるとき」
意味が分からんが合言葉だろう。
「我ら再び集わん!」
向こうから声が聞こえ、門が開き、一人の甲冑を着た紅い目をした女が、こちらに目を向けた。彼女の澄んだ瞳に僕がどう見えたかどうかはわからないが、僕はどちらかというと貴方のおっぱいから目が離せません。
「ようこそ、私は四回生学徒防衛隊小隊長であり、青年騎士同盟で親衛隊を指揮しているベルタ・セーデルクヴィスト、貴方はハルマでよかったかしら?」
「ああ、間違いないよ、三回生学徒防衛隊小隊長だ」
「そう、良かった、ホルガーもお疲れ様、大儀だったわ」
「いいえ!それよりも、例の警らの任務のメンバーに僕を混ぜる約束、果たしてくれますか?」
「んー、ごめんなさい、もう少し考えさせて」
彼女はそういうと一瞬悲しい顔になった。理由がわからず困惑するとすぐに笑顔に戻り、ニコッと笑いながら奥の方へ案内してくれた。
さすが貴族のボンボンといったところで、元の教会の面影は外面だけで内部はまったく別だった。多くの長椅子が平然と並んでいたであろう場所は高価な茶器や美術品の置き場に使われ、天井には大きなシャンデリア、壁には神話を物語るレリーフ、カラフルな色付きガラスは前に見た例のペンダント、神聖な教会を彼らの遊び場に改造され、さぞ村人も困り果てているだろうと同情した。
「「・・・なんだこのふざけた基地は?クラブってこんなナンパなものでしたっけ?」」
「敬語忘れてる、所詮こんなもんでしょ?僕は初めてきたからよく知らないけど」
やがて教壇の後ろのらせん階段に見える一人の男に目を向けられる。階段の上から僕を見ているその男は顔が陰に隠れていてよく見えなかったが無駄な演出は良いからはよ降りてこいと言いそうになり、口をできるだけ開けないよう尽力した。
「連れてきました、彼がハルマ・タカノで間違いありません」
「ご苦労ベルダ、ようこそハルマ、ここにきて一番の感想を聞きたい。どうだね?」
階段の手すりに両手をつけ、見下ろすように男はしゃべった、何を演じているつもりなのかわからないが、男の不気味さが引き立ち来たことを後悔する。
「名前を名乗らない礼儀知らずがいてむかつく」
「なっ!よしなさいハルマ!その人は!」
「いいんだベルダ、俺は純粋に彼の言葉を聞きたかっただけなんだ。気に入った、君に剣礼をしてやろう、叙勲式というやつだよ」
そういうと男は抜刀し、階段から飛び降りた。丸腰ではあったが僕は彼の空中での挙動を一つ一つコマドリするように見定めその剣先が僕に向けられたことを確認すると、真剣白羽どりを披露する。
「ふ、やはり、まぐれで勝ち取った勝利ではないようだな?」
男はそういいながらふっと笑みを浮かべる。顔の輪郭が長い銀髪でおおわれてわからないが、凛とした目と高い鼻、狩人の帽子を付けている男だった。男は僕が剣を話すと鞘に納め、マントを外した。
「君がつけたまえ、剣礼をするにあたって重要なことだ。そして跪き、俺が剣でお前の肩を両方叩いたら、お前は青年騎士同盟の仲間だ、名乗るのを忘れていたな、俺はパートリック・ポール・ラーゲルクヴィスト、青年騎士同盟の総帥だ」
そういいながら僕にマントを差し出す。周りいるベルダ、ホルガーは真剣な顔でこちらに視線を向ける。どうやら重要なフェイズらしい、が。そんなことは知ったことではない。
「それは僕が決めることだ、君のマントは返すよ、体験させてよ。このクラブが一体どういうものなのか」
そういってマントを返す、その瞬間、場の雰囲気が一気に緊張したことが分かった。気づけばホルガーは冷汗を流し、ベルダは息をのんだ、僕とパーオリックはお互い一回も視線をそらさず、表情を崩さずにお互いを見つめあう。もしこの場でどちらかが決闘を申し出れば、間違いなく勃発することだろう。だが、それもパートリックの笑みで和解する。彼はマントを受け取り、数歩引き下がった。
「いいだろう、君はこの学校にきて日が浅いにもかかわらず、四回生を倒し、三回生に昇進、さらには学徒防衛隊小隊長に史上最短で就任した男だ。ぜひわがクラブにほしい人材だ、ついてこい、案内しよう」
僕は決めた、もしここのボスにぼくがなったら、このクラブの名前は「女の子のパンツ見廻り隊」に改称して、この男のむかつく態度を改めさせてやる。




