20 発明品投入!
「こんのお馬鹿!」
ローレのいかつい拳骨が頭に直撃し、思わず態勢が崩れそうになる。かれこれ朝から数十回目の拳骨、僕を眠らせないためのものだ。
「だ~れ~が~足を崩せって言った?」
この感覚、殺意!このままでは死、死、死!途端に僕は正座姿勢を維持した。あのコロシアムからしばらくいろいろなことがあった。多くの人たちから祝福され。ここいらの酒屋はすべて通った。授業の際にも話す人は多くなり、それをとがめる教官はいなかった。理由としてはあの試合の成績と、アマーリアが率先して僕を誘導した騎士の訓練や教養のおかげで、僕は優秀生として早期卒業を期待されているからだ。だが、それのすべてが必ずしも僕に優位に立つわけではない。この大学が自治的に発足したものであってもそれは変わらない。目立てば隠密に行動できなくなる。そんなことはわかっている、のだが。
「まぁ、すぐにここを卒業してウーダンカークに在住すればいいことだし、多少はね?」
「何が多少よ!そんな簡単に物事が進めば苦労はないわ!ここまで私の馬で5日かかるところを、軍団が動くならもっと遅くなるのよ!?おまけに隠密に動いているならなおさらよお馬鹿~!反省しなさ~い!」
「うう」
まったく、こうなることはわかっていたのに、僕のバカ、こんなのじゃこの先の生活すら危ぶまれるじゃないか。まったく自分の状況判断能力の欠如についてはいつまでたっても変わらないようだ。
「はぁ、今後は気をつけなさいよ、良くも悪くも、貴方は目立ってしまうことはあまりいいことではないの、それがわかるというのなら、立ってもいいわよ」
長きにわたる説教を聞き、僕はようやく解放された。初めは自室で寝ている訓練休みの早朝時に、急にドアを蹴り破り怒鳴り込んできたローレの形相を見て間違いなく暗殺に来たと絶叫したのに、気づけば日はすっかり上がってしまっている。同じ宿舎生活をしている者たちも、家庭の問題とあまり聞き耳を立てないでいてくれた。どうやら今年の三回生は、なかなかいい人たちがそろっているようだ。一回生の間違いじゃないかって?僕は二人に勝ったから三回生からのスタートなんだよ。
「いいかしら?今日は休日で、私が来たってことは、何を意味するか分かる?」
「つまり、君が教育実習を行うと考えていいのかな?」
「そういうこと、でも、絶対今の貴方がその服装で出たものなら隣にいる私は大恥をかく危険性があるわ、そこで、貴方は急きょ着替えてきなさい、これは任務よ、3分後宿舎出口で待っているから、解散」
そう告げて、ローレは部屋を出て直ぐの階段を下りて行った。嵐が過ぎた部屋に残っていたのはパンイチで座っている男ただ一人のみだった。他にあるのはベットと机、壊れたドア、ほかにはない。
「「ふう、強烈でしたね今回は」」
「そうか、ユッタもいたな、ばれたら怒られるのはわかっていたけど、こんなに怒られるなんてね、僕も自覚が足りないよ。こんなんじゃ、呼ばれてすぐに行くことは難しいかな?」
「「さぁ?私としてはある程度組織が巨大化したら皆に話してもいいぐらいに思ってますけどね、まぁその時はローレの家とは絶縁ですけど」」
「何をするにしても、犠牲犠牲、まったく、嫌になるよ、さてと着替えないとまた怒られる。」
着替えを早々に済ませ、宿舎出口に向かうと。ローレが待っていた。ここであることに気が付く、ローレは今回珍しく私服でやってきたのだ。残念ながら感想といえば古臭い、異文化、それぐらいしか思いつかないが、斬新さも相まってなかなか悪くない。ただ、僕の隣で歩いていると兄妹としか思えないのが玉に瑕である。
「貴方あまり失礼なことばっかりかんがえてるといつか埋めるわよ」
「何でそんなすぐにわかるんだよ、パラディンだから?」
「貴方が顔に出やすいからよ、行きましょう、今日はマティネスでいろいろ見ていくわ、馬は使わないから歩いていきましょう」
そういいながら彼女と僕は舗装された道になかを歩いていく、マティネスは要塞都市、そして、マティネス大学はそれを囲む大きな学校だ。訓練では、ここを自衛するのは、自治を維持するために生徒一人一人が参加せざるを得ない。そのためにはどこの国だろうが、民族だろうが階級だろうが、絶対に協力しなければならないと習った。つまり、ここはグリーフラントから独立した一種の形態なのだ。
「ここにきて一番の感想を当てましょうか?ズバリ、重苦しい、間違いないわね?」
彼女はニヤッと笑いながら問いかけてくる。僕は頷いていた。この町はどうも軍の側面を持っているためか閉塞的で、外部の人間を嫌う性質がある。軍隊なのだから当然といえばそれまでであるが、何か暇をつぶす時だけでもいいから、静に自由に過ごしたいものだ。空を見上げても高い壁が囲っているこの町には、少しも解放感を発揮できるところがない。
「だからまずは、貴方にこの町の魅力を教えておこうと思っているの、まずは市場からね」
そういいながら彼女は街の市場へと向かうべく足を速める、が、僕はまだ試合の疲労が取り切れていないため、速足で歩くにはきついものがあった。なかなか追いつけない。このままでは差ができてしまう。
「ま、待ってくれローレ、そんなに速足で動いてもついていけないよ」
「しょうがないわね、ほら、手だして」
彼女にどうにか手をつないでもらうことで速度を維持できた。待ちゆく人々をすり抜け、道を変え、やがて細い道の明かりに僕は目を向けた。赤光と表現すべきであろう強烈な光だ。あまりにも眩しくて目を手で隠す。なにか、あの路地にはあるのだろうか、見たところそこには行き止まりしかないがそれでこの可視光はおかしい、ともなれば、なにか光源となるものがあるとみて間違いない。ならばいったい何が?
「ちょちょ、動きなさいよ!何で止まっているのよ!」
気付けば僕はその路地で止まっており、ローレは力いっぱい僕を引っ張っていた。綱引きのように体を後退させても、僕はピクリとも動かなかったようだ。
「「なにか、ありましたか?」」
ユッタも不安そうに僕に尋ねてきた。
「君にはあの光が見えないのか?あのまぶしいばかりの光線が」
「「?、私に見えるのはただ単に暗い裏路地のみですが」」
そんなはずはない、確かに見えるはずだ。こんなに光っていて見えないはずがない。
「ローレ、この町で強烈な紅い光が見えたことってない?」
「え?それって!あなたラッキーじゃない!それは甲冑師の招待状よ!すごい奇跡よ!」
甲冑師の招待状?いったい何だそれは?
「どこ?どこに見えているの!」
「うわ!そんなに引っ張ったら転ぶよ!」
ローレはずかずかと狭い路地へと足を運んで行った。何かを探すようにあたりを見ている。壁、壺、窓、そして猫の目まで彼女はなにかを探していた。僕には光源に近づくにつれ余計眩しさを強調するその光に目がつぶれそうになり、たまらず動けなくなった。
「だめだローレ、こんなに眩しいと動くこともできない」
「なら教えて!どこから光っているの!それさえ突き止められたら大手柄!市場は中止よ!」
ローレに言われ目を細め、どこになるか凝視する。どうやら、波打っていることが分かった、それはまるで反射している。何か液体が反射しているように見える。其れしか言い表せない。
「どこか、どこかに水桶があるはずだ。それを探すことが出来るなら、きっとそこに何かある」
「水桶ね、となると・・・やっぱり。あのふたの空いた樽で間違いないわ!持ってくるからここで待ってなさい!」
彼女はそういって手を放し、深い光の霧の中へと姿を消した。僕は方向感覚を失い。どうすることもできない状態だったためユッタに助けを求めた。
「ユッタ、ここはどこなんだ?何も見えない」
「「先ほどから変わっていませんよ?そのまま待っていては?」」
これではらちが明かない、何か情報があるといいんだが。
「ユッタ、君に質問がある。甲冑師の招待状とはなんだ?」
「「それは甲冑師の町、この巨大な要塞都市のどこかの厚いブロックの中にあるというスタンワージのことではないでしょうか?この要塞都市は巨大さ故、古い建物の上に新しい建物を作り、それが廃墟になるとブロックで埋めて壁にするようにして作ってあるんです。その廃墟を人が間借りしたりまた住み着いたりするとその廃虚群街はミューシュタットと呼ばれるのですが、無数にあるそれらミューシュタットの入口は誰も知りません、なので、たまーにミューシュタットの住民の誰かが招待状を送り歓迎するというしきたりがあるんです」」
なんだその違法建築!?お前の家がばがばじゃねぇか!と近隣住民だったら間違いなく突っ込むとこだろうが、自分が住んでいるところだと思うとそうこう言っているわけにはいかない。そんなところがあるのならば、何としてもいき、その住居の構造上壁が安全なのか調べなければ僕の明日の安眠にかかわる!
「見つけたわ!この樽で間違いない、底にスタンワージの紋章が書いてあるもの!ハルマ!これに飛び込むの!」
「見えないんだってば!どこにあるんだよ!?絶対入ってやる、そんでもって違法建築並びに不法住居でみんな訴えてやる!」
「何でそんなに攻撃的なのよ?!あんまり彼らを怒らせるとその町と出禁になるじゃない!?いいから早く入りなさいよ!こんな機会めったにないんだから!さぁさぁ早く!」
ローレに押され僕は何かにはrで引っかかり、そのままバランスを崩して水の中に頭をつけてしまった。たまらず息が苦しくなり出ようともがく、しかし今度は出られない!何かにはまったように水面が吸い付く、たまらず水の中に全身を入れ、そこをけって出てやろうとしたら、底をける感触がない。何が起きているのかと目を開けたら僕は暗い物置の一角で突っ立っていた。
「は?」
状況が理解できず、あたりを見回す。外からはにぎやかな声が聞こえるが、暗いこの部屋からは何もわからない。
「「どうやら成功したらしいですね、とりあえず出ましょう、ローレもきっと待っています」」
「ここはどこよ?」
「「出ればわかりますって、ここは甲冑師の町、スタンワージです」」
言われても分からない、僕はとにかく町を拝見するためにドアを、開けようと努力したんだがぼろくてノブを触った途端壊れてしまった。出口から入ってくる風とそのドアの最後を見届けて、再び目を外へと向ける。
「これは・・・すごい」
それは人口の峡谷とでもいうような建造物のブロックが作り上げた深淵のような闇からポツポツと光を放つ町であった。全体的に煙り臭く、どこか危ない印象を受ける。煙だ、ここはすごい煙を放っている。おまけに天井付きのこれまた閉塞的な町に来たものだ。心なしか寒くはないが、それでもどこか寂しさを感じる町だ。一歩道の方へと出る。狭い道だ。二人並んで歩くことは難しそうだ。もしそんなことをしたら、この真っ暗な峡谷に身をゆだねる羽目になる。とはいえ歩いている道も無数の煙突に行く手を阻まれて安全とは言えないが。とはいえこの物置からの道は断崖絶壁のこの一本道しかない。
「うわ!」
一本道を歩いていくと壁と思っていた建物群の窓が思いっきり開き、中から見知らぬ人が出てきた。部屋からあふれる熱気でしばらく輪郭がぼやけていたが、晴れてくることにより、こちらが驚いたことを笑っていること言気付いた。
「紅茶はいかが?よそ者さん」
開いた窓から顔にススをつけたおねぇさんが煙と共に優しく問いかけてきた。皮のエプロンを着ていて髪は後ろで結っている人だった。鍛造で使うような厚い皮手袋をした手で金属製のコップに紅茶を注ぎ、僕に提案してきた。驚いた半面優しい人が出てきて思わず安堵したら、また笑われてしまった。
「できれば冷えている物がほしいけど、湯気が立っているのにそんなことを言うのは失礼だよね、いただくよ」
「ここではこの気温と湿度が普通よ?そういう時ははっかの入ったクッキーを食べながら過ごすのがスタンワージ流ね、でも、この紅茶だって冷感作用があるから問題ないと思うわ、それともやっぱりクッキーがほしい?私特製のクッキーは効くわよぉ~?」
「できることならクッキーもご馳走になりたいけど人を探しているんだ、遠慮しとくよ」
僕はそういって壁によりかかり、向こう岸のように見える峡谷の反対側の町を眺めながら茶をすすった。彼女も窓から向こう岸を見て、お互いしゃべらずにすすっていると、彼女は麻の袋のようなものを取り出して、中から刻んだ乾いた葉っぱを取り出し、それをパイプを詰め始める。その後あまりにも旨そうに吹いているので見ていると、こちらを見てくすっと笑った。
「なに?そんなにタバコをやっている女の人が珍しい?それともあなたも愛煙家?これはわたさないわよ~」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、すごく不思議な光景だなーと、僕の国では紙のたばこを吸っていたから、なんか、パイプを使っているのって貴族の人みたい、それに女の人がそんなもの吸うことも珍しいし」
「なにそれ、パイプは庶民の物よ~、これを取り上げたら戦争になるわ、貴方の国って意外と厳しいのね、休憩時間と言ったらこれをやるにきまっているわ、これもスタンワージ流ね、スタンワージの煙は黄色い煙なんて冗談もあるくらいよ、おかしいわよね、どう考えても金属を燃やすコークスの煙なのに」
そういいながらケラケラと笑っていると、奥の方から「親方~」と言ってくる声が聞こえた。親方とは彼女のことを言っているとみて間違いないだろう。
「はいは~い、今行くわ~、カップは窓に置いといて、後でとっていくから、それじゃ、いい滞在を願っているわ」
彼女がそう言って手を振り彼女が部屋の奥の方へいなくなった後、僕は飲み切ったカップを言いつけ通りに置き、先を急ぐことにした。
「上の方から人の声が聞こえる。町は上のほうか?」
「「いいえ、下に行っても上にいても町ですよ。好きな方を選んでみたらどうですか?」」
僕は階段を探し、上に行くことにした。だが、どこにもそんなものはなく、代わりに壁というか建物の壁面にボツボツとクライミングジムで見られるホールドと呼ばれる人口の石のようなものを先ほどから見つけていた。まさかここを上るのだろうか?覚悟し上ってみると、今度は街かどに遭遇した。多くの荷物袋を持った人々が人々が往来し、そこそこの店が軒を連ね、中からは金属をたたく高い音が聞こえる。道で歌う女の音楽が聞こえる。壁には影絵の広告、店前には煙草を吹かしている老人、そこら中にひもが張り巡らされランタンが輝いている。そんな完成された光景の中を、一人の少女が爆走をしてぶち壊してきた。
「ああいたいた!あんたどこからやってきたのよ?!探したじゃない!」
おおローレ、こんなところで大声は必要ないだろう?何で君は空気を読めないんだ?
「ヤァローレ、ボクモイマキタトコロダヨ」
「そう、とにかく合流できてよかったわ、さて、招待状を出した送り主を探しましょうか」
ローレと再び行動し、この町に来た目的を探す、でも、僕もローレもそれが主目的ではなかった。なんだかんだ理由をつけて僕たちはいろんなものを観光した。人の言葉を操る人物画の店、粘り気のあるアイスのようなものを販売する店主のパフォーマンス、路上でたむろしてやっていた職人たちのカードの賭けタバコや、ここでしか儲からなそうな鍛冶職人の必要な工具や服装を売っている専門店など、好きなように見て回った。やがて、とある店の看板を見て、ローレは止まった。
「ここ、招待状の紋章にそっくりね、ここの人が私たちを歓迎してくれるはずよ、店名は、諸行無常、なんだか身に響く名ね」
そこは鍛冶屋で間違いは無いが、何とも珍妙な名前になかなか入りずらい、店先に馬上槍試合のためのグレートヘルムと呼ばれる大きな兜があることから甲冑師の店で間違いない。
「というかセンスがないよ、とりあえず入ろう」
そういって中に入る、予想通り鍛冶場が隣接した受付のようなところで、天井には洗濯物、壁の立てかけには大小のハンマーやペンチが並べられている、そんな中、一人の男が鍛冶場で紅く焼けた金属を叩いていた。僕たちが入ってきても、熱中して気付かなかったが、しばらくしてこちらに気づき、近づいてきた。
「ようこそ兄ちゃん、あんたはどこから来た?」
タオルを頭につけ、ベルトのポーチにはトンカチや工具が詰まっているこの男は、見たところ僕を招待した男なのかもしれない。
「僕を呼んだのはあなたですか?」
鍛冶屋の男は笑う。
「そうよ、俺はここの甲冑の鍛冶職人のマキ、ここで店を構えているんだ、たまたま外出していたら、お前さんの雄姿を見てな、あの試合のことだよ、お前さんがあんまりにも強かったから、興味があってここに呼んだんだ、お前さん、どうしてあの時能力を使わなかった、なにか考えがあってのことか?」
「ああ、あれね、別に、使うほどの相手ではなかっただけさ」
「「そりゃあ、私がいたからでしょう・・・」」
ここ一番のドヤ顔を決める。初めは反省していたものの、自分でやっていることが騎士物語に出てくるレベルでかっこよすぎたので反芻していくうちに開き直り、むしろ良かったと考えるようになっていたのだ。それを聞いたマキは関心したように頷いたがローレは髪を逆立てて、笑顔で問いかけてくる。顔はわらっているが、目は笑ってない。
「ほう、ならこういうこともできなかったかしら?戦わずして勝つ!とかね?ねぇ?」
ローレのジトっとした睨みに耐えかね、僕は視線を逸らす。それを見たマキが豪快に笑った。
「はは、夫婦漫才か?やっぱり面白いわ、あんたはあの学校に通っているということは騎士か候補生で間違いないよな?あんただけ学校の備品で戦っていてびっくりしたぜ、普通貴族なんだからそういうのは自前購入が当たり前なんだからさ、良かったら俺が作ってやろうか?条件付きで」
甲冑か、僕はあまり興味がないが、確かに訓練の際も借りる必要があるので申し出ると、決まって周りの生徒から慈しみの目を向けられるという怪現象が起こるのを思い出した。別に嫌なわけではないのだがそのあと妙にみんな優しく接してきたり、食事の時も僕だけなぜが贅沢になったりする。食べきれないので他の物に渡そうとするとまたあの目を向けられるので卒業したいと思っていたんだ。
「本当ですか!?」
「ああ、だけどさっき言った通り条件付きだ、それをクリアしたらだったら思い通りに好きなものを作っていいぞ」
粋な計らいに感謝していると、ローレはしまったという顔で小切手を用意していた。
「ハルマ、別にそういう時は手紙を送ってくれれば買ってあげるのに」
「いや、君には顔も見せないで僕を養子に迎えるように家族に行ってくれたみたいだし、学費や仕送りも払ってもらってるからこれ以上は迷惑をかけられないよ、こんな時ぐらい恩返しをさせてよ」
「でも、一様は貴族だし、こういう時は」
僕たちの議論を聞いていたマキは少しいらついていたが、返答を速めたいだけだった。
「いいよねぇちゃん、俺も結構儲かってるから甲冑の一つや二つくれてやるって、こういう時は、男の顔を立ててやれって、あ、貴族に対する言葉遣いじゃなかったな、詫びとしてタダで鎧上げましょうか?」
嫌な冗談をかましてくるマキにローレはむっと怒り、とはいえ変に怒れず仕方なしに折衷案を考えることにした。
「いいわよ別にそういうのは、でもそうね、支払いはハルマに頼んじゃおうかしら?」
「わかった、じゃあ条件を聞こうかマキ、僕は何をすればいい?」
「そうこなくっちゃな、実はこの町は性質上湿気が高くてね、天井に水が出来てくるんで滴り落ちることがあるんだが、それが深い峡谷の方で溜まっていてよここからだと暗くて見えねぇんだがあそこは地下鉱山の坑道が所せましとあって排出できねぇんだ。なんとかため池みたいに深い直線状の穴に入れているが所詮焼き付け場、このままじゃあふれちまう、そうしたら坑夫の職があぶれ俺たちにも被害がくるってんで、どうにかできねぇもんかと、一様、外界への排水溝はもう作ってあるんだ、あとは引き出せるポンプを作れりゃぁ問題はないんだが」
「ハルマ小切手で買いましょう、どう考えても無茶があるわ」
冷静にローレは提言する。それを聞いたマキは焦るようにせがんだ。
「そこを何とか!俺たち鍛冶職人にできることがあったら何でもするからよぉ!なんならお前の鎧もすごい奴にしてやるから!何とかできねぇか?!」
足にに絡んできてうっとおしいが、困っているのならしょうがない、できることをやっておこう。
「なぜそれを騎士に頼むかわかりませんが、まぁやってみましょう」
「ハルマ!?」
ローレは叫んだ。
「ただし僕が言うものを用意していただきたい、ないなら作ってでも用意してください」
「あ、ありがてえ!さすが困ったら騎士様だ!待っててくれ、すぐに鉱山の責任者と掛け合ってくる!」
「はるまー?!」
なんと大きな廃墟迷宮であろう。こんなところは視たことない、しかもここには人が住んでいるというではないか、まったくどいつもこいつも所有権ばかり買いやがって、そんなに土地がほしいか!?僕はほしいぞ!
「ここの中です騎士様、ここに経営者の男、大商人のアルノーライナーが住んでいます、なんでも騎士様のことを言ったとたん目の色変えておもてなしをと言ってまして、もうすぐ使用人が来るはずです」
「まるで今のマキのように、簡単に変わっちゃったんだろうね、なんだその言葉づかい」
「え、いや、嫌ならやらねぇけど、それより、後ろの騎士様はどうした、さっきから口を開けてただただついてきてるだけで不気味なんだが」
ローレはどこか様子がおかしくなった、ずーっとぼうっとしてるし反応がない、目の前で手を振ってもだ。どうしようもないからしばらく様子を見ることにしている。
「ようこそおいでくださいました。御主人様がお待ちです。どうぞ」
メイドが明るく迎えてくれた。そのまま誘導され。応接間へと僕たちは足を運ぶ。
「ご主人様、お連れしました」
「おお、来たか、どうも、アルノー・ライナーと申します、なんでも坑道の排水設備について考えがあるとか、騎士様」
小太りの髭の立派な男だった。年齢は30ぐらいだがそれよりも寝ているのかと思うような細い目が特徴的だ。
「ああ、それで排水装置を作りたいんだが金がかかる、設備投資ということで何とかしてくれないだろうかと」
「まったく問題ありません!それどころか依頼料も求めないあなたを歓迎できず、大変もうしわけありません、ささ、そのプランをお見せください、なんでもそろえましょう」
「ではこの設計図を・・・」
「ほう、このような、何とも画期的だ!すごいぞこれは!」
「成功の暁にはあなたに権利を譲りましょう、もちろん条件付きでね、ここから先はウーダンカークの話なのですが・・・」
「ほほう、危険だが魅力的だ協力しましょう」
ああ、話が進んでいくなぁ。
「はっ!?」
峡谷の底を歩き、意外と明るいことに気が付いた。これなら作業にてこずる心配もないだろう。足場も悪いようで建設物の上を歩いているだけはあって結構問題はない。
「まったくぶつぶつ」
しかしながら機材運搬はどうしたものか、持ってくる物は皆大きなものばかり、エレベーターもないからやはり人力でしかないだろうな、道が狭いし、それ以外だと何かもっと大掛かりなものが必要なのかもしれない。
「ハルマは貴族の言質の効果を知らないんだわ、まったく教育係として先が思いやられるわ、もし出まかせで言ったなら噛みついちゃうんだから」
いや、もしかしたらモンスターを操る物が運んできてくれるかもしれない、動物のようなモンスターが荷運びするのをよく見たことがあるし、ガーディナルみたいに話さなくても飼いならせるのか、ならそれも頼んでおこう。
「聞いてるのハルマー!」
「聞いてるよ、そんなに心配しなくたって考えがあってやるんだよ」
「ならお聞かせ願おうかしら!魔法も使わずどうしてそんなことが出来るのか!」
「それは工業の力だよ、僕が工業高校で習った蒸気機関にまさにピッタリの物がある、それを作って井戸みたいに吸い上げるのさ、技術的にも問題はないだろう、ごもっとも、ここの鍛冶屋の技術やここの世界はグングニールみたいに未知の金属も存在するから検査でもしないと性能はわからないけし、空船なんてものも飛んでるから地球の物理で何とかなるかはわからないけど」
「やっぱり行き当たりばったりじゃない!がぶー!」
しびれを切らしたようにローレはハルマの腕にかぶりついく。ハルマは驚き取り払おうと振り回すが、猛獣のような噛みつきで離れない。
「痛ってぇ!何すんだ!行き当たりばったりなもんか!ローレも装置を操作すればわかる!」
「いい!?騎士たるもの絶対に言った事に責任を持つこと!これができないならお説教の専門基地を設けて貴方を拷問するんだからー!」
「怖っ!言われんでも訓練で知っとるわ黙って見とれや!」
ハルマはそういって書いてきたポンチ絵を広げる、ポンチ絵とは適当に書いた設計図と認識していただければ問題ない。そこにはいくつかの装置が厳密に書いてあった。クサリ、管、ピストン、シリンダ、両端に鎖のついたシーソーのような物、そして簡素的ないくつかの弁、ボイラだ。これがどうなるかは晴馬の脳みその中でしかわからない、しかし、あえてその機械を上げるならばニューメコン機関と言われている物だ。
しばらくして多くの資材とそれを組み立てる工事がここなわれた、ハルマはそれを指示し、何とか組みあがった。その装置は小屋一軒分ほどあり、その珍しい形に多くの物が見物に集まった。
「「何が始まるというのです?」」
ユッタもその装置の全容がよくわからず晴馬に問いかける。
「ほとんど人力、ちょっと機械な装置さ、あのシーソーのようなものの両端を見てみん、クサリの片方が装置、もう片方が坑道から出ているポンプ管にあるだろう?坑道の鎖にはポンプ管の可動部、つまり吸い上げ装置があってピストンと連動してる、ポンプ管の構造はもっと簡単だよ、ピストンを押せば弁が開く、そしたら水が入る、引けば弁が閉じ、水はピストンと共に上がって蛇口から出る、こうすることによって坑道の水を排水可能だ」
「「人力でやることを機械でやるだけのように見えますが」」
「それが機械というものだよ、おかげでその作業を人間がやらずに済むだろう?それにこれなら一定量を出せる」
「あのぉ、騎士様ぁ、言われた通りやってみましたが、本当にこれで水がなくなるんで?」
坑夫が不思議そうに眺めながらそう尋ねた。新しく、動いたこともない装置を見れば当然だ。僕だって果たして動くかどうかはわからない。鍛冶屋には錆びず、できるだけ水漏れしないように作れとしか頼んでいない。ここの金属を知っていない僕には、引っ張りや粘性、炭素などの金属の知識が通用しないからだ。
「ちゃんと水が溜まっているところにパイプが入っているならね、始めろ!」
僕はそういって自前の紅い手旗を上げた、これを合図に各作業者が応答をする。
「噴射用水僧問題なし!」
「噴射すい弁問題なし!」
「蒸気弁問題なし!」
「廃棄弁並びに廃棄槽問題なし!」
「ボイラー問題ないって、何で私もやらせるのよー!」
ローレががなる。
「人員が足りなかったから、作業はじめ!」
そういうとボイラ出口の蒸気弁が開いた。蒸気弁が開いたことにより、ボイラの蒸気がシリンダに入りピストンを押し、シーソを固め貸せる、その後、噴射弁が解放し蒸気弁閉鎖、シリンダの中が急冷、シリンダ内での萎縮でピストンは下降する。溜まった水を廃棄弁から流し閉鎖、以下繰り返しをすると、シーソーは右左とカタカタ動き、それによって鎖でつながれているポンプ管から水がとめどなく出てきた。それらはみんな排水溝へと流れ、壁の外へと出てっていく。
「やった!成功だ!」
ここで着て初めての地球産の機械が発明された、ありがとうt・ニューメコン(1663-1779)、ありがとう教科書、僕がいつも成績優秀でよかった!実験は成功だ。あちこちの見物客であった坑夫が喜び合う。これで仕事が楽になる!そういったのち、こちらにやってきて、汚い服を恥ずかしそうにしながらも、一律不動の態勢になる。
「ありがとうございます騎士様!」
感謝を述べ、首を下げる坑夫たち、僕としては威張り散らしたいところだが、ここまで笑顔を向けられると満更でもないのでうなずくだけにした。
「例には及ばないよ、もらうものをもらうからね、それよりも、ボイラに使うコークス(石炭の一種のような物)の費用を考えた方がいいんじゃない?あれすごい使うよ?」
「心配はいりませんだ、わしらがその分もっと働けば、必ず経営者にもわかっていただける、それほどこの水は憎いものなんです」
なるほど、ともあれぼくは一件落着させたわけだし、後はマキの工房に戻って好き放題鎧を作ってもらおう。




