19 コロシアムツアー
「「いいですか?私が言うことは絶対に聞いてください?命にかかわりますよ?」」
「わかってるよ」
馬の蹄がこんなにもいい音なのかと感心していたら、ユッタに注意勧告を受けた。闘技場はあの基地とは比べ物にならないぐらい大きな建設物だ。多くの観客席からは嬉々とした拍手喝采がそこら中から聞こえ、試合の審判はどうにも見つけることが出来ない。対戦相手はもう出てきていて僕と同じかそれ以上の重装備をしていた。近づいて止まり、指示を待つ。すると、相手はいきなり兜を脱ぎ捨てた。
「よう一回生!俺はな!お前みたいな調子に乗ったやつが大っ嫌いなんだよ!一回で蹴りをつけえてやっからよ!学校の威厳に泥を塗るようなまねしやがって覚悟しとけ!」
その声に呼応して歓声が上がる。模範解答のような怒りを食らい、何も言えなかった。そうだろう、上級生にとっては間違いなく怒りの対象以外にはとらえられない。どうしたものかこうなればもう土下座して降伏した方が、ないな、余計に怒りを買う危険性がある。素直に戦おう。そしてぼろ負けしよう。それが一番道理にかなったやり方だ。今度こそ償おう。
「「なんですか?!こっちが素人みたいな言い方、許せない!こっちも兜を脱ぎましょう!」」
お前はお前で何を言っているんだ。そんなことをすれば余計に怒りを買って・・・。
「「脱いで!そして私がこれから言うことを復唱するんです!早く!」」
「いやだよ、それに実際素人なのは事実だろう、ここはケガを考慮してしっかり装備しようよ、それにこの防具、胴の装甲に兜が後ろでネジでついている奴だから取れないよ」
「「なら引きちぎってください!今ならできます!」」
できないよ、何言ってるんだこの子は。なんか感情とは裏腹に騎士の誇りを気づつけられて激怒している感情が入ってくるぞ。ユッタで間違いないがこれは相当怒っているなぁ。我慢我慢。
「なんだ?!怖くて返答もできないか?!きっと女の前でも同じようそうで誰も振り向かないんだろうこの童貞が!」
「誰が童貞だこらぁ!」
気づけば兜を引きちぎり、脱ぎ捨ててしまった。あまりにもすごい変形と音に、上級生も思わずひるんだ。が、客は別である。呼吸のように金属音で止まった歓声が反比例するように大喝采へと変貌した。いま客は明らかに僕についていることを理解する。それと同時に冷静になりまたもや後悔の波が押し寄せる。これはまるでそう、津軽海峡のような荒波だ。余計にたきつけてどうするんだ。おかげで収拾がつかないじゃないか。片手で顔を覆い反省する。
「「そうですその意気です!やればできるじゃないですか!」」
「うるさい」
「へ、そんなことやって威張ったつもりか!本番は試合だ!」
試合、そういえば彼の武器は何であろう。そう思ってよく凝視してみる。どうやら短剣のようだ。馬にまたがっているのに短剣とはこれいかに、接近戦でもするのだろうか。いや、そんな予想できることで勝とうとは思えない。これは何といってもパラディン同士の試合、何が出てくるかわかったもんじゃない。僕の能力も子のランスでは熱膨張による変形しか期待できそうにないし、これは相当難しいぞ。
「ようし、そろったな!いい感じに観客も盛り上がってるしこれは見ものだぞ!いい試合してくれよな!」
試合に入ってきたザラガイアですらこのありさま、まったくのぼせている。こんなことで大丈夫なのか?
「いいか?落馬か、相手の武器を折れ、今回は盛り上がりと人数から一本勝負だ。予備のランスもないからそれで全部戦え、すごいぜお前、上級生みんなお前の試合に申し立てたからな、うまくいきゃお前卒業間違いなしだ、いや、もしかしたらここの客員教授ってことも」
あってどうするんですか、ああ、もう自分のバカさ加減に腹が立つ。どうしてこんなことに。
「良いか皆の者、総長であるわしから話がある」
老人の声が高く鳴り響く。それにより歓声はやみ、皆老人の話に集中する。さっきまで怒っていた対戦相手も、いったんは総長の方へ顔を向けた。皆が静かになったところを見計らい、総長は話し始める。
「この学校は多くの国から多くのものが足を運んできておる。それゆえ、階級、知識、そして種族も違う、だがこの学校の生徒に一回でもなったならばみな同等じゃ、それ故に、この一回生も同じ、たとえ上級生を相手にしてもひるまない勇気と武勇があれば同等とみなす必要があるはずじゃ、負けたとしても、その勇気に賛美するくらいはしてやろう、だから、正々堂々と勝負するんじゃ騎士たちよ!」
「はい!」
上級生が言う。
「hai」
僕が言った。
その声がDJのような効果を発揮して余計に観客をうるさくした。耳をつんざく叫び声、中にはよく聞き取れるものもあっただろう。よく言った!すごいぞ!がんばれ!やひっこめ!消えろ!雑魚!後半は僕のことで間違いないだろう。
「それでは試合はじめ!」
途端、向こうと僕は緊張の渦へと変貌する。観客の声がどんどん細くなり、静かな環境へと変貌する。まさにここにいるのは僕とあいつ。他の物は消えてなくなった。相手の顔がよく見れる。勝負の顔だ。静かで獰猛。冷静でいて熱血。一触即発だ。お互いににらみ合い。またもや、僕は興奮する。それは抑制のきいたもので、一回も退かない。
「「落ち着いて、相手は柵の手前にいるでしょう?あれはこちらも同じ、あそこから突進してまっすぐにこちらに向かってきます。その際に、どんな攻撃をするか、それがパラディンの試合です、余計なやり方では焼き付け場、正攻法で攻めるのが良策です」」
ゲラルドの時とは違う。彼女はこうやって戦ってきたのかと思うと同時に、あの時の自分は純粋な狂暴だったことに恐怖した。ここでは武器を使っている、しかし先端は棒でできているため殺傷はない、と思いたい。出が猶予がない。間違いなくあと数秒で突進が始まる。今だ。
「あああ!」
先にいたのは上級生だった。首を振り荒れ狂う馬を制御しこちらに向かってきている。負けじとこちらも攻め立てる。
「やぁ!」
「「なんですかそのへっっぽこな声は」」
日本ではこうだったんだよ!時代劇とかそうじゃん!
「「落ち着いて、まずは姿勢ですね、前かがみになって、そして対峙する直前で立ち上がるんです、そうすることで正確に相手にランスを向けられ、金属片から自身の顔を守れます。兜があれば」」
言われた通りの姿勢になる。やり方は知っているが、言われて自分のムラを確認できる。やはり自分の経験ではないので生兵法といったところか。兜を脱いで正解だった。あれではこの説明道理に行けばあの細い穴から相手を確認し、対峙するときは何も見えなくなってしまう。そして残るのは轟音と衝撃だけでは困る。こうでなくては素人では扱えない。
「来たぞもうすぐだ!っはぁ!」
後そこでという時、事件は起きた、前方から多くの無数の短剣がこちらにやてきたのだ。思わず屈み、よけて通過する。まったく予想できなかった。なんだあれは!?
「「どうやら複製のパラディンで間違いないでしょう、今の判断は正しかったと思います」」
褒められても困る。全身の汗が止まらない。なんという規格外、これがパラディンの試合なのか、反転し、再び突進する。
「どうした一回生!よけてばかりじゃ試合にならないぜ!」
再び対峙の時、僕は走り抜けるその瞬間にダメ元で胴を立たせる、向こうはそれをぎりぎりでかわし、風の切れる音が通過の相対速度の速さを物語る。これじゃ話にならない。何か、ほかに策は。
「「まずは体の確認!どこか異常は?!正面から言ったんですからどこか傷ついています!」」
「どこだ、っは!装飾品が一つない」
余計な歓声が今度は上級生を味方した。強いアウェーを感じるが、まったく恐怖はない。どうやら、奴に得点が回ったようだ。
「へへ、やるじゃねぇか、本当だったら落馬してるはずが、その判断に救われたな」
相手は経験がある。それを見落とすわけにはいかない。どうやってやったかは知らないが、精密に当てやがった。しかも音もなく行う、手癖も分からない。全く歯が立たない!
「なんだ奴は?どうやって」
「「いったんは防御、それから向こうの手口を探しましょう、この場合、攻撃が最大の防御、すなわちひっかけです、相手に闘うふりをして、そのあとに通過する。いいですね?」」
「OK」
再び突進が始まった。速度を早く、そして低姿勢に、立つのはほんの一瞬でいい。そして屈む!行くぞ!
「通過した!」
新幹線の通過した音が聞こえた。その後の余韻、そして次の瞬間無数の短剣が通過する。今回は無数の短剣を見ずに、できるだけ顔も伏せた。これなら当たるまい。
「当たってる」
またも装飾が外れていた。まったくわからない。どうして当たっているんだ。焦るな焦るな。悪い方向に行ってるぞ。
「次で最後だ、せめて華々しく、な」
向こうの準備とこっちの準備に差ができた。余裕の表れが生んだ結果だ。なぜ?闘志の差が生まれているのか。ふざけやがって!こっちをからかってるのか!上等だ。言葉だけだけならこっちにも理がある。
「それ、雑魚の言うセリフでしょ?そうやって倒れるのはあんただよ」
盛り返す歓声、それはもう、僕を引き立て一人の勇者を生んだように思えた。だが、それは上級生にとっては負け犬の遠吠えに近い意味合いしか持たず。鼻で笑われる。くそ、グングニールがあれば。
「「・・・」」
「どうしたユッタ」
「「いえ、もしかすると、必勝法がわかったかもしれません、次の試合、多分こっちが勝ちますよ」」
「なに!?どうやって?」」
「「説明は道中で、そうですね、とりあえず観客を盛り上げましょう」」
「なぜ?」
「「それが幾万の軍勢に思えるようになるからです。完全にこっちにもっていきましょうそして、相手の手元が狂うその瞬間を打つ」」
「わかった」
とにかく歓声をもっていくのか、とにかく出まかせを言って何とかするしかないな。よし、セオリーは組んだ。まずは宣伝から。
「一年諸君!この試合僕がもらった!これからは僕が勝ち誇る勇士をしかと見よ!拍手なんか相手への称賛につながる。統一しろ!騎士の戦いを見せてやる!」
強烈な騒音でしかなかった音が、やがて二分化する。一部はブーイングと無視、そして一部は拍手を取りやめ、パン、パンと音を統一して鼓動する。心臓のような高鳴りだ。
「まずは馬を歩かせる、馬はいつも走るのがベストとは限らない、ぎりぎりの接近の時の瞬発力の方が早いこともある。さぁ、手を叩くペースを上げろ!もうすぐ駆け足だ!」
パン、パンパンどんどんペースが上がる。やがて体をたたいたり、どこからか板をもってきて大きく音を立てるものもいた。それは確かに軍隊の鼓舞に似ている。異様な雰囲気があたりを包んだ。新入生の歓迎のはずが、気づけば一回生の洗礼へと姿を変えたのだ。まだお互いの顔も知らない彼らが、すでに共通の目的のために国や能力を超え、協力し合っているのだ。
「個人戦では無意味だが騎士は皆団体で動く事を忘れるな!いきなり突進したら足並みが崩れる!音を聞いて速度を合わせるんだ!次は・・・突進!」
パンパパン!パンパンパン!ペースが上がり、指揮官のように僕に走れと命令する。上級生は遅れて突進した。準備に差ができた。逆転、闘志に違いが生まれた。僕は常に一定だった。ともなれば、向こうが下がった!彼には見えている!騎士隊の突進が!僕以外の幾千もの騎士が見えている!
「「いいですか?チャンスは一回、盛り上げているときに言ったことを実行すれば勝てます、が、失敗すれば観客も向こうへ行き、相手の勝ちです、もう勝機は回ってきません一発で決めてください!」」
「よし」
馬の腹を思いっきり蹴り上げる、高い力で突進が続く、地平線が見える。これはまさに刹那の所業、力と闘技の集大成といえるものがこの一瞬で決まる。相手が地平線より見える。僕はどう思っただろうか、その見た目、明らかに弱者のようだ。一騎と宙を舞うゴマ粒の貧相な兵士たち。ああ、歓声とはこんなにも心地よくっ力強いものなのか、なんだか変に血が入ってしまった。このままではまた制御が聞かない感覚に、やばい、鼻血が出てきた。あの感覚が血潮となって起き上がる。
「「落ち着いて!それでは死ぬ!こっちに戻って!」」
ふっと我に返る。この速度ではすべてが一瞬、すぐに近付いてきた敵を視認、打つ!
ド、鈍い音が聞こえる。とともに、腕の血管の血がすべて止まった感覚に陥る。これはまるで油圧、大きなショベルカーが土を掘り返すときの踏ん張りが確かに感じることが出来た。
「う、うおおおおお!」
思いっきり右腕を右に振る、そして見えた。上級生が宙に舞う姿が、落馬した。彼は、落馬した。
「と、ったとったぞおお!」
途端観客は味方でなくなった。まずい、もしかして殺したか?また、ゲラルドの時のように、一瞬自分を制御できなかった。やったか?静かだ。とにかく静かだ。
「あ、アアアアアア!」
吹き返す声は、またもや統一性を兼ね備える。だが、僕の管理下の元から旅立った。怪物が、怪物の鳴き声と化したのだ。地獄から這い出てきた奴が、刹那の一本を見てにやけた。それだけでこの声なのか、もし負けていれば、これで圧巻され、完全に敗走していただろう。客を味方にして助かった。
「「危なかった!何やっているんですか!あれはやりすぎです!」」
「はぁ、はぁ、でもナイスアシスタント、まったく気づかなかったよ、まさか、あいつが複製のパラディンじゃな無くて、幻惑のパラディンなんて、無数の短剣に目が行って奴の手元の一本に気が付かなかった」
そう、本当に僕に攻撃していたのは本人が持っている短剣のみだった。おかしいところはいくつもあった。まず一つは剣の通過時の音のなさ、通過するときの音は馬のすれ違う音しか聞こえなかった、まったく、なんてざまだ。他にもある。外れた装飾は一回の突撃につき、一個しか壊れなかった。完全な見落としだ。あの上級生が運がいいとだましてさえいなければ、一回で気づいたはずだ。言葉巧みなのかもしれない。幻惑では覆えないところを、言葉で隠す。時には怒らせ判断力を鈍らせる時には褒めて状況判断を遅らせる。最初から演技だったのだ。やはり一流だ。
「勝者!一回生、ハルマ・ディックハウト!」
だくだくと流れる汗は、その余力を物語っている。まだやれる。やっと体があったまったところじゃないか。そう笑顔を見せると、乗り出した観客や教官たちが笑いあった。やがて、垂れさがっていたディックハウトの紋章と思わしき旗を振り始めるものが現れた。まるで軍勢の生末を支持するようにグゥワン、グワンと回る。誰がやったのか。怪獣の手足となっている自身に気づかず。怪獣の思い通りに暴れた。
「次の相手は、誰だ?」
誰も来ない、闘技場は倒れた上級生と、僕を除いて。まだ、誰も来ない。しかしながら妙な違和感を感じる。まるでそれは疎外感に近いものだった。僕はここには来るべきではなかったと、そう彷彿とさせるような気配がむんむんと漂ってくるのだ。僕はまず、倒れた上級生の方へ足を向けた。馬から降りることは鎧の性質上困難なため、失礼ながら馬上からの挨拶となった。
「生きていますか?」
するとかすかに上級生の手が上がった。どうやら衝撃で脳震盪を起こしているのかもしれない。心配になり、もう一度問いかける。
「人を呼びますか?」
「大丈夫だ、ただ、あまりにも強い衝撃で、体を打ち付けちまった。なに、奇跡か必然か、どこも壊れてねぇ、鎧が重くて立てないだけだ、じきに次の対戦相手が来る、お前は俺を超えている。がんばれよ二回生」
彼は僕に負けた途端、何かを悟ったように口調が優しくなった。やはり、初めから戦術だったようだ。さも簡単に勝ってしまったように思えるが、僕一人であったならば、相手の能力を見抜けず、完敗であっただろう。ユッタも、きっと僕が体を支配していることに少し恐怖しているに違いない、危なっかしくて体を預けられないと考えていることだろう。
「お次の対戦相手、な、なんと!小粒だが侮れない、グノーラス騎士団幹部候補生、つまり現役だぁ!これは見ものだぁ!」
アナウンスが呼びかける言葉の意味は分からないでもないが、その武勇はアナウンスの声がする前からわかりきっていた、どこからともなく黄色い声がとびかいながら、演技ではなく容姿の影響を理解して兜を脱いでいる騎士が現れたのだ。何ということはない、男でも唸るような美少年がこちらにやってきただけじゃないか、というか、純粋無垢な感じが相当出ていて果たして大丈夫かと思うほどだ。垢ぬけな笑顔でやってくるこの男、僕より若く15程度にしか見えないのは気のせいではないはずだ。なんて奴がいたものだ。ユッタが在籍しているだけのことはあって、ここでは実量は年齢をも凌駕するらしい。
「なんというか、秀才、嫌、飛び級ってああいう人がやるんだね」
「「ごもっとも、そんな人はめったにいませんでしたけどね、私が最年少でしたから」」
「自慢をサラッというのは騎士道的にどうなのか、疑問が残りますねぇ、ところで、グノーラス騎士団ってどこ?」
「「うーん、確かここから東に行ったところにある国家の騎士団だったはずですよ、有名かどうかは知りえませんが、幹部候補生をあの歳で獲得するのならずば抜けて優秀と捉えていいんじゃないですか?私は12歳で初代騎士団長に襲名しましたが」」
「それはアマーリアの七光りでしょ、自慢じゃないきがするんだけど」
「「家臣筆頭が騎士団長を行うって結構身分的には低いんですけどねぇ、普通なら王国軍の連隊や海軍なら艦長をしていることもあります、他にも政府の役職だって与えられるだろうし、なんたって私これでも子爵ですから、貴族が兼任してではなく単独で準貴族の役職を受けていたんですよ」」
「なるほど、子供の国ってのもあながちまちがいないな・・・」
「「?」」
「何でもない、どのみち貴族はあまりいいものではないな、そう思うと、あの男の小奇麗な顔に糞を塗りたくってやりたくなった」
「「そういう趣味が・・・」」
「あのう、試合、始めてもよろしいでしょうか?」
美少年は微笑みながら問いかけ、所定の場所にとどまっていた。さてはて、こいつはどういう魔法を使うのか、楽しみでしょうがない。どうにかして沈めてやらないと気が落ち着かないからな。
「それでは試合はじめ!」
とにかく、彼女のことは二の次だ、まずはここを 切り抜けること、それが一番の目標なのだ。しかし、また僕は考え始めてしまう。悶々として、一歩も体を動かすことができない。先ほどの戦いからも分かるとは思うが、先手必勝なのは間違いないのに、集中できず、その場から動かない。その煮え切らない状態から、やがてブーイングが巻き起こる。怪物も姿を見せず、やがて委縮して野次が飛び交うだけになった。
「「何をやっているのです!向こうは動いていない今がチャンスです、こちらから打って出ましょう!」」
「ああ、だが、まだ考えがまとまらないんだ、君は、ああ、糞なんでもない、そうだね、動こうか」
思いっきり腹をけりあげ、馬をあるかせる。向こうも同時に歩き始めた。どうも違和感をぬぐい切れない、先ほどから感じていたものだ。部外者、そう捉えたのは良い選択だっただろう。なぜかそう思う。
駆け足、姿勢を低くする。向こうも同時に低くした。なんだ、まねっこか?まったく味のない奴だ。これなら一発で終わらせられるんじゃないか?試しに首を振る。向こうも振っていた。何とも腹立たしい。僕を怒らせる戦術か?
突進僕は考えた、あえて落馬するふりをしたら彼は落馬するのだろうか?それほどバカではないだろう、ともなれば、どうするつもりなのだろうか、ここはひとつ試してみよう。
「はぁ!」
体を起こし手綱を引き、馬を急に減速して見せた。これでは僕は攻撃する前に馬が停止してしまい。真似をしている美少年も停止しざるを負えない、それではお互い顔を見せる、バレーで言うところのお見合いの状態になってしまう。そうすれば向こうの勝機、勝機?しまった!考え事をしていて相手の武器を確認することを忘れていた!この距離では確認しなければよけきれない!ぐう、やってしまった。
「くそ、見余ったかか」
「くそ、見余ったか」
あ?僕より早く僕の言葉を言ったやつがいる。それも、僕と対峙して停止している馬の方からだ、誰だいったい、まさか!美少年!
「と思うじゃん?僕がそんなわけないのにさ」
観客が困惑してくれて助かった。状況説明をしてくれるからだ。そして、僕がなぜ先ほどから部外者という意識を持ち始めたのか、やっとわかった。そこには僕がもう一人いたからだ。顔、仕草、体格、身長、甲冑、そしてイヤリングさえ、彼は身に着けていた。ドッペルゲンガー、彼は本物になろうと試合を申し込んだのだ。
「「落ち着いて、彼は模造のパラディン、貴方の真似をするだけでなく、それを生かして一歩上で勝つ、それが彼のやり方です、ここは慎重に行きましょう」」
あえて無言で同意する。向こうに僕のどこまでをまねできるのか気になったからだ。怒らしてみよう。
「ひょっとして、さっきの美少年の顔も誰かの真似?」
「最初からこの顔なんだけど、偽物だからって焦っているの?」
やはり、ただまねるだけの小細工ではないらしい、対局するお互いの馬は周回し、やがて少しずつ離れていく。こうなればどっちが本物かわかったものじゃない。
「問題はどこまでそっくりなのか、心までは読まれてなさそうだが」
奴が言う、あまりにもそっくりな口調に舌を巻いた。気づけば手綱を強く握っており、向こうもそれは同じだった。心境まで同じなら、まったく勝てないじゃないか。
「双子でも同じ心はもつまい、ただ似ているだけだろ」
僕が言う、ぐるぐると離れた馬は、やがて元の柵の手前まで戻っていったが、そこはさっきまで奴がいたところだと気づく、観客は黙り、奇怪な減少に頭を悩ませていたが、教官たちは腕を組んだり、なんだか日常風景を見ているようだった。ザカライアもそれは同じ、僕だけを見て、しっかりと見抜いている。
「「手ごわいですね、こうなればダメもとで」」
「それはさっきやっただろ、向こうも馬鹿じゃない、おそらく、前者の先輩同様、あれはパラディンの能力でカバーできないところを自身でカバーしているんだ。肉体の真似は出来ても、仕草は難しい、あれはきっと試合を見て短時間でまねできるようにしたんだ。あんなに少ない過程で、ここまで完全ということは、彼は何かしらのカテゴライズを持っていて、そこに入ったものはそういう仕草を取る、そういうシステムというかコンピューターが脳内にあるのだろう、まったく計算高い」
「「なるほど、そしてそこから疲労のピークを算出し、最後は自分の手で止めを刺す、人をまねて温存した体力は、そうやって使うのかもしれないですね」」
ん?温存?体力?そこに疑問を持った僕は、少し考える。体は一般的に成長とともに能力が向上するのはよくある話だ。ユッタやトップアスリートという一部例外を除いて、18歳の陸上選手と16歳の陸上選手では雲泥の差だということだ。ともなれば、彼は僕より体力が少ない可能性が高い。それゆえの体力の温存、そして真似だとは思はないだろうか。
「ユッタ、演武ってやったことある?」
「「ありません、しかし、どうして?」」
「ふん!」
途端、3メートルもあるランスで大車輪を繰り出す。1回転、2回転、速度を徐々に上げて、腕に力を込めて飛ばないようにする、向こうはどうなっただろうか、正直僕はかなりつらい、息切れが始まっている。相手もそれは同じ、しかしここからだ。
「疲れてないよ」
「疲れたか!?」
糞、的が外れた。
「つかれるわけないだろ?当たり前だろう?」
「んあわけねぇだろ!」
「そうなの?じゃ、とどめさすね」
ここが、ぼくの失敗だった、さっき聞いたじゃないか、体力を温存して止めを刺す、彼は僕のぼろができるのを待っていたのは明白なのに、僕は簡単に値を上げてしまった。何が当たり前なものか、一回戦からの疲労もさることながら、今度は心理戦、まったくもって疲れたわ、こんなんじゃこっちが負けるわ!いや、これが実力って奴か?このまま負けるのは極端に実力から来るもの、そう捉えて何が悪い。もし嫌なら替え玉でもよこして・・・、替え玉?
「ふふ、ふははははは!はーっはっはは!お前の負けだバーカ!」
少年はそれを音頭に突撃をする。急に笑う彼を観客はどう思っただろう。明らかに気が狂った、いや、気が狂う理由はない、彼はすでに二回生から始められている、素晴らしい名誉ではないか、ともなれば、あれは本当に勝つ勝算があるとでも?そもそもあいつはどっちだ偽物か?
本物で間違いないが、彼はこの最重要機密をユッタに話す。
「ユッタ、君は以前、僕に感情の同化をしたことがあったね?」
「「え?ええ、でも、その時は暴走して、何も伝わらなかったじゃないですか」」
「今度は違う、もう失敗済みだから。今度は僕に代わって、君が戦うんだ、感情の同化を利用してね、そうすれば、間違いなく奴はまねできない!僕は僕であってユッタではないから、それに何より、奴はまだ僕を恐れる理由がある、それは今まで僕がパラディンの能力を使わなかったことだ。それが何かわからない以上、奴は僕が失敗しても深追いはしてこないはずだ」
「「なるほど!今度は私が出ます!あなたは危なっかしいから引っ込んでてください!本当の騎士の手本、ここで見せます!」」
彼女は上機嫌だ、それが血管の血となって、感情の高鳴りとともに聞こえてくる。めまいがし、体を脱力する。傾いた顔からのぞいた斜めに近づいてくる馬、あれは、あの美少年で間違いないだろう、どうした?さっきまで変装をしていたのに、もう解いているじゃないか、だめだよ人の話を鵜呑みしちゃ、そんなんじゃ、立派な騎士になれませんよ?
「なんだ?!様子がおかしい、こんな事例、頭の辞書にはインプットされてない!」
美少年は跳ねるように上半身をそり上げ手綱で思いっきり引いて停止、その後、距離を置いた。
「そうですか?言葉遣いを買えただけかもしれませんよ?貴方は真似っこですから、表情を変えただけかも」
いや、男の様相は異変というべき事態だった。仕草も、語り口も、発音も、そして目、あんなに血走っていたはずなのに、気づけば、彼は薄く目を開けて、独特の笑みを含んでいた。何という落ち着きだろう。だらんとした体は、一回おこされただけで、骨格レベルで違うのではないだろうかというほどしなやかで華奢にふるまっていた。もちろん骨格や肉体が変わることはあり得ない。おそらくは力を抜いた、今まで力み過ぎていたのを、こうやって本来の力配分にしただけである。
「どうしたんです?打ってこないんですか?なら、特異の僕を真似をして見るといいかもしれませんよ?そうすればまだ勝機がある、気づいてくださいよ、あたりの、このコロシアムの雰囲気を、今ならまだ、貴方に顔を向けると思いますよ?」
言われてあたりを拝見してみた。静かだ。静かに狂気が蔓延している。何でだ?今までの戦いで何かおかしなところはなかったはずだ。不思議な高揚感が、あたりをこんなに静かにしているんだ。まるで、そう、僕は部外者化のようでそうでないような、今日一番の目玉が、目の前に・・・。
「初めてなんじゃないですか、このコロシアムはあくまで訓練施設、そんなところでまさか、猛獣と剣闘士の戦いを見られるなんて思ってもみないでしょうから」
「な、何を言っているんだ、騎士である自覚はあっても、剣闘士になった自覚はない」
「そうですか、なら、騎士としての戦いを、知る必要はないですね?」
自覚した、それ故に猛獣、ここにいるのは騎士であったはずの怪物、皆には見えるのだろう。この男の後ろにいる。強大な一角獣が、もう、彼にはきしの模範的な戦い、それは難しいのかもしれない。ああ、これはまるで古代の剣闘士と猛獣の戦い。残酷で、そして英雄の闘い、勝てば、英雄、何という響きだろう。この感情を言い表すことは難しい、だから皆黙っていたんだ。黙って。ただ言い表せない感情に狂気の火をつけてみることだけが、外にいる奴らの限界、だが、その中で一人、その相手と対峙することが出来る奴がいる。聞くも恐ろしい血塗られた戦闘描写に書き入れられる人物が、ああ、どんなに想像しても、その顔は白くぼやけている。
「そうか、真似をしているだけでは、顔を白くつぶされても文句は言えないな」
とはいえ、それでのし上がってきた、上等戦術だ。それをはねのけてまで、これをする必要があるだろうか?
「いつまでかんがえているんですか?獣は待ってはくれませんよ?」
「え?」
なんで?もうすぐそこにいる、あ、だめだ、やられ、る。
「実と見せて虚、そして熱血には冷血、たいていあなたみたいな人は、熱中しすぎてものごとが見えないんですよね、だから、予想外の出来事に弱い、やり投げとかね」
一人の騎士が地面に落ちた音だけが聞こえ、それを合図に、爆発音のような声が遠くから聞こた。だが、それは風の音に近い。ひゅーと流れ、そして爆発音はやがていくつもの足音だと理解した。そうしていくうちに、僕はしらふに戻った。何というか、今度はゲラルドの時とはわけが違って。普通、いや、今まで僕は何もしていなかったのだから、これで正解なのかもしれないが、まったく感情の起伏を感じなかった。周囲を見てみる。何も変化がない。しいて言えば、客の数が減っていることだけだろう。だが、そんなことはどうでもいい、次だ。次はドイツが相手だ?
「かかってきやがれ!」
途端、ゲートより一騎の兵士が直線でこちらに突進しているのがわかる。礼帽をかぶり、向こう傷を・・・。
「ザラガイア教官?」
「試合を中止しろ!」
「へ?」
何を言っているんだ?挑戦者がいる限り、騎士は引くことはない、あれ?まだユッタの感情が、余韻かな?というか、ザラガイア先生、何で息を切らしてる?なんですべてのゲートが閉じたんンだ?ん?どんどんわからないことが起きてるぞ?
「まずいことになった、お前の試合を見て感化した四年以外の奴らがみんな申し出をしている、素人の一年もだこれじゃ乱闘騒ぎになる、試合は即刻中止だ!」
「あ、はい」
そうか、中止か、なんだかよくわからないけど静かに終わったなあ、客はいないし、敵もいない、ああ、一人になった気分。初めは嫌々だったけど、やってみて熱中してしまった。あ。
「しまったああああああああ!ついついやりすぎたぁぁぁぁ!」
「「いいえ!やり過ぎとことなんてありません!あなたは感情をコントロールしてしっかり私のアシスタントを成功してくれました!大成功ですよ!」」
「うるせぇぇぇぇ!」
「はは、興奮が冷めないかハルマ?ともあれ今日は祝宴がある、入学式と君の進級祝いだ。よく食って、明日からに備えろ」
「ほげぇぇぇぇぇぇ!」
プツン、急激なストレスに脳は停止し、ふらりと僕は落馬した。どうやら白目をむいていたと後で聞いた。ああ、何ということだ。僕はパラディンの能力を使わず、四回生を倒して、果たしてどういう学校生活を送るだろう。もう、眠たい。ここで寝てしまおうか?だが、ここはどこだろう。自分の姿勢がはいつくばっていることしか、今はわからない。
「お疲れ様です!今日は見ものでしたね!私も騎士の風格を久しぶりに魅せられて大満足です!」
見上げるまでもなくその声はユッタ、ここはどうやら夢の中、そして。また闘技場か。まだ戦うのか、夢ぐらい休ましてくれよ。
「さぁ乗馬して、早く早く!」
ユッタは完全武装で乗馬しており、もう一匹馬がそこにはおかれている。
「えぇ?なんにするの?」
「決まってるでしょ?!今日のおさらいです!私がいかに相手にダメージを負わせ無傷で勝利したかを再現します。これはあなたへのパラディン学校での特訓に影響するでしょう。さぁさぁ!今日は寝ても起きても馬上槍試合です!」
ふんすふんすと鼻息がが荒い、どうやらまだ興奮が冷めてないのか、それともさっきの姓でかかってしまったのか、困ったものだ。
「本当はやりたいだけじゃないの?」
「むむ?!そ、そんなことはないいですよ!?ただあなたの向上を願って、あと、嫌っているのでこの隙にボコって、おおっと何でもないです、さぁ乗らないなら接近戦を始めちゃいますよ!?」
「勘弁してぇ」
と言いながら、しっかり乗ってしまうところ、やはり僕は断れない人間らしい。総長の提案も自分の意思でやったのかも。
「にしても・・」
手綱を握りながらユッタは考えていた。
「ん?」
「あれ?何でこんなにみんな弱いんですかね?12歳の時はかなわなかったのに、どうやったって届かなかったのに」
届かなかった?その時僕はローレを思い出した。身長差によるおでこ攻撃だ。そう身長差だ。
「それは小さかったから届かなかっただけだろ!」




