18 入学式
僕は今、とある町の大学の門の前に立っている、今頃アマーリアたちはユーダンカーク占拠のために挙兵していることは間違いない。あの地域を支配したのち、力を蓄え王都まで進行する事が、アマーリアの目的だからだ。そんな激動のさなか、僕はローレと一緒にここで暇をもてはやしているという状態に疑問を持つ、鈴谷さんにも早く元の世界に返す約束をした手前、今はこんなことをやっているわけにはいかないと、僕はローレに行ったのだが、それを聞きつけたアマーリアが。
「ちょうどよかった、君の身分を偽れる隠れ蓑がほしかったんだ、君はローレの家の養子として、ウーダンカーク攻略の間学校生活を送ってくれ、そうすれば、安全と判断したときに君を呼び出せる。今の私たちにとっては、君は一番死んでもらっては困る」
と言われ、従軍さえも禁止されてしまった。これではまるで蚊帳の外、できるだけ情報がほしいと思っても。今の僕には早くて5遅れで届くこととなろう、ああ、情報がほしい。
「ぼうっとしないで、ハルマ、貴方は私の家の養子なのよ?もっときびきび動きなさい」
僕が立ち止まればローレから一喝が入りまた行進する。僕はこの要塞都市とでもいうような学校、マティネス大学でしばらく身を隠すことになった。道行く壁には要塞の厚いブロック、心なしか通り過ぎる生娘さえもたくましく見える。空には竜騎士と呼ばれる警備部隊、下にはトカゲを大きくしたような奴が荷運び、そして見行く人は筋骨隆々な戦士ばかり、こんなところで生活する羽目になるのか、なんだか現時点でお先真っ暗だ。大学ってもっとこうキラキラしていたはずなのに。ひどく濁って見える。というかこの学園広すぎない?城でしょ最早。
「はぁ、憧れのキャンパスライフは遠い」
漏れるように口から出たが、ローレには何を言いたいのかわかっていなかったようでムッと眉を寄せる。
「なによ、ちゃんと用意したでしょ?ここマティネス学院は各国の貴族や聖職者、さらにはパラディンの騎士候補生までもが来る名門よ?あのユッタ団長だってここを卒業したんだから、12歳の時に」
12歳、いったいどういった教育をすればそんな小さい子供を入学・卒業なんかさせようと思うんだ?この世界やっぱり少しおかしいぞ、そうこう考えて歩いていくうちに、何やら多くの人が列をなしているところについた、どうやら大学前の名簿確認のようで、教授なのか教官なのかわからない人が確認をしている。
「それじゃ、私は騎士団に戻るから、貴方はとりあえず入学式を済ませて潜伏してなさい」
そういってローレは反転し帰ろうとする、おい、ここで置いて行かれても困るぞ、お前ここに連れてきたんだからせめて最低限のことしろよと、ローレの手を掴みつなぎとめる。その時彼女は条件反射というような速さで舌打ちをした。何でだ!?連れてきたのお前だろ!?せめて帰る前にここについて少しぐらい教えてくれたっていいだろう、というか、ここに連れてきたくせに、まったく何も教えてくれないとかどういう神経しているんだよ。
「おい、あまりにも淡白すぎるぞ、もっとこう、僕に対してサポートしてくれるんじゃないの?正直かなり困るんだけど、僕はなんの知識もなしにここに叩き込まれてすごい困っているんだけど、君僕の教育係任されたとか言っていなかった?せめてそれくらいの責務は果たしてよ、ユッタが泣くぞ?」
ぼくの必死の抗議が聞いたのか、彼女は振り向く、はぁ、とため息をついて説明を始めた。何でだ、どこにもため息をつかれるようなところないだろ。
「そう、なら簡単に言うわね、貴方はしばらくの間、私たちの方の騎士団に入るため、騎士団の推薦書を手にする、その推薦書は実はこのパラディン養成の学院に入学する必須条件だった、かくして、ハルマはちゃんと卒出来るのか!?次回、卒業、じゃ」
彼女はまた反転しようとしたので今度は腕をむりやり引き寄せる。全然わかっていないぞこの女。
「いや、筋書きが知りたいんじゃないんだよ、ここはどういうところなのとか、君は主に何を教育してくれるのとか、そういうことが聞きたいんだよ、そりゃ時期が時期だ。君も騎士団やアマーリアの領土で大変なことになっていて、忙しいだろうけど、もっとこう、もう少し親切にしてよ?教育係さん」
「・・・わかったわよ、そうね、今までの貴方を考えると、まだ気持ちがって、なっちゃうからあんまり話さないようにしていたけど、そうこう言っていられないものね、まず一つずつ説明するわ、ここはどういうところなのか、ここは四年かけてパラディンを養成し、各国の騎士団へ一流の騎士として返還するところよ」
あまりにも長い話であったが、要点だけを述べると以下のとおりである。
マティネス学院はパララディン養成の学院で、パラディンを養成するために作られた。集まるパラディンは皆、各国から入ったエリートの青年たちだ。
ここは四年で以下の通りのことを学ぶ。
一年:自身の魔法能力はどの属性かを調べる
二年:主に騎士としての訓練を受ける
三年:騎士の礼儀と規律を学ぶ
四年:パラディンとして学んだことの集大成として、馬上槍試合の訓練を受け、多くの武器を使ってトーナメントを行う。
「どうかしら?わかっていただけたかしら?次は私が何を教育するか、私はあなたにこの世界の常識をたたき込もうと思っているわ、それには実際にあなたをこの世界のあちこちに連れて行ってここの人たちの価値観と感情、そういったものを理解してもらおうと思っているの、貴方、自分勝手でしょ?」
ローレは僕に指をさして得意げに言う、なんだかわからないがすごい劣等感に駆られ。ローレはその反対に優越感を感じたようで満足そうにうなずいていた。いや、きっと「よし、いってやった」と思っているに違いない。この程度で済ませてくれるところを見ると彼女なりに折り合いをつけている事がわかる、昨日も彼女は僕を殺さないと言っていたし、どうやら前の彼女とは変わっているようだ、それを肌で感じることが出来て僕はすごくうれしい気持ちになった、が。そのしぐさはむかつく。
「ま、そうでやんすね」
彼女の真似をして、身長差を利用しておでこを指でつつく。彼女は眉間にしわを寄せ、すぐさま指を突き出した。
「あ、あれ?」
彼女は後れを取るまいとフェンシングのように僕についてくるが。身長差でどうしてもデコに指すことが出来ない。僕は何とも言えない優越感に駆られ、口元が緩む。
「ぐぬう、と、とにかく、貴方は週に一度、私が迎えに行くから。その時は無条件に予定を開けておくこと、わかった!?」
吠えるようにわめいてくるのでからかいもここまでに切り上げ、素直に同意した。彼女もそれ以上はキャンキャンいわず、本当に帰ろうと準備する。なんだかんだ言っても、ここまでうまで来るに時間がかかり、それ相応の用意をしていたのだ。待ちゆく人たちもそれは同じ、ここに来るためみな旅の様相をしている。荷物を納め、生活のために持ってきたものを運ぶ、服、家具、そして本、それを見るとなんだか、大学合格後にアパートに荷物を運んだ記憶を思い出す。なんて懐かしい光景だろう。ああ、なんだが大学っぽい。
「そうだわ、貴方に渡そうとしていたものがあるのよ」
そういうとローレはまた荷物を広げ、探し物に没頭する。なにやらガラクタや食料が出てきて、本人のお目当てのものが見当たらない。リュックのランタンがカラカラと音を立てて、ローレをせかすように鳴り響く。
「ひょっとしてグングニール?」
特に理由はないがそう思い問うてみると、彼女は慌てて返答した。
「ちょ!あんたあんなもの持ってこれるわけないでしょ?!あれは騎士団所有の物なの!たとえあんたがゆった、おっと、彼女の弟子だからってそうやすやすとはもってこれないわよ!心配しなくてもちゃんと供給されるからそれ使いなさい!」
あまりにすごい形相で返答されて、周りの目を引いてしまい。お互い咳払いして場を沈める。あたりがばらけたところで、彼女は会話を再開した。
「私が探していたのはこれよ、これ、わが家に昔からあった魔法道具、以心伝心のイヤリングと呼ばれているわ」
彼女がそう言ってこちらにリュックから出したイヤリングをこちらに見せてきた。見たところ、金の装飾品をされた特別とは思えない細筒のものだった。銀と金のコントラストはさぞ高貴な貴族の財産といえよう。それに魔力的な力があるかどうかは別だが。
「それは本来は本人の声を聴くための物なの、この場合の本人は心の、つまり本心ね、だけど、貴方の場合ならあなたの心の中になるユッタ団長の声を聞くことが出来るんじゃないかって思って、安心して、それは本人しか聞こえないからほかの人に多重人格を疑われる心配はないわ」
「でも僕は耳に穴をあけていないからこれが入るとは思えないんだけど」
「つければ勝手にやってくれるから」
彼女に言われ、試しに耳たぶに近づけてみる、これと言って変化がないが気づけば耳から離れなくなっていた。どういうわけかとイヤリングの輪郭をなぞってみると、確かに耳に貫通しているのがわかる。なるほど、確かに勝手にやってくれたな。だが、さっきから耳元でノイズのようなものが走っていてユッタの声が聞こえない。これ壊れているんじゃないか?そう思いイヤリングの位置を少しずらしてみた。
「「何やらローレは変わったものを持っているようですね」」
ノイズが晴れ、鮮明にユッタの声が聞こえてきた。
「うわ!その声、ユッタか?本当に聞こえる!」
「でしょ?外せば聞こえなくなるわ、やり方はさっきの逆に耳から遠ざけようとすれば外れるわ」
なかなか便利なものをくれた。これで寝ていなくてもユッタに話しかけることが出来る。彼女に礼を言おうと思い彼女の顔を見ると、何やらそわそわとした様相だった。トイレか?
「何でそんなに慌てているの?」
ローレに問いかける。その間も彼女は周りを見て少し不安げだ。よく見ると視線の主な先は列の先頭の教官の方に向けられているのがわかった。もしかしたら誰か知り合いがいるのか、それならば別に僕に気にせず話しかけてくればいいのに、意外とそういうところはしっかりしているんだな、よし、それなら僕が呼んで来よう。別に恩返しってわけではないけどそれぐらいお安い御用だ。
「そんなに気になるなら呼んでこようか?」
「ちょ、余計なことしなくていいって!」
僕を逃がさないよう強く裾をつかんだ、その間もあたりへの警戒はやめない。どうやら会いたい人がいるわけではなく、むしろその逆に会いたくない人がいるようだ。
「実は私もここの卒業生なんだけど、ここの教官ったら私にすごいしごいてきたのよ、だからあんまり会いたく、あ」
「おー、ローレか?久しぶりじゃないか、君の家の名前があって・・・」
何やら緑色の鎧を着た向こう傷の男がこちらに近づいてきた、先ほどから名簿を確認していた一人だ。ローレはそれを見るや否や、脱皮のごとく荷物をまとめ、馬を止めいていた方へと走り出した。
「じゃ、じゃあ私これで帰るから!いい?絶対に予定は開けるのよ!後その男をこっちに近づけないで!それが貴方の最初の任務よ!絶対だからね!」
「え?お、おいちょっと!」
「あれ?いっちまったよ、まったくせっかくあったっていうのによ。ところでお前さんは?見たところユッタの連れてきた養子か?」
「あ、はいそうです、名前は晴馬といいます」
「ハルマな、俺はここの教官をやっているザカライア・ブレンドン・コリアーだ、ようこそパラディンの学院へ、ここは多くの国から騎士やその候補生がやってきてる、いろいろな奴がいるからきっと楽しいと思うぞ?ただ、そいつらといつ敵になるかはわからない、だから、ここにいる間は仲良くするんだぞ?いいな?」
そういって握手を求めてきた。僕はそれを受け入れ握手を交わす、よく見るとこの手、すごい固く大きい、まるで岩のようだ、さすがに騎士の教官とだけあって歴戦の戦士といった様相だ。
「よろしく」
「おう、さて、そろそろ入学式だ、早くいった方がいいぞ?ついてこい、案内してやる」
ザカライアについていき、大きな学校の校舎へと足を踏み入れる。様式美にこだわった中庭へと行ってみるともうすでに多くの人が集まっていた。しばらくして、教壇の方から髭を生やした貫禄のある人が演説を始める。きっと歓迎の挨拶に違いないと聞いていると、今度はユッタが話しかけてきた。
「「ああ、懐かしい、ここでの生活は本当に有意義なものでした」」
「君はここを12歳で卒業したんだろ?どんなところなんだ?」
「「ここは軍隊での生活に早く適応するためのところです、幹部候補である騎士を育てるにはうってつけですね」」
「へぇ、そうだ、君はなぜローレとの再会の時、僕に味方してくれたんだい?君はてっきり僕を嫌っている者だと思ってた」
「「事実嫌っているので心配いりませんよ、でも、そうですね、しいていうなればお姉さまと話、一度冷静になったら彼女たちにも落ち度があったと思っただけです、それを天秤にかけて、もしゲラルドが死んでしまっていたら、あなたの罪が、生きていたら彼女の罪がおもくなっただけです、そう思うことにした
んですよ。、長い付き合いになりそうだし、いろいろ歩幅を考えないと」」
その声には諦観の口調が混ざっているのを晴馬は見逃さなかった、彼女に心に刻まれた傷はひどく化膿しているようだ。どう反応していいのかわからずただ笑ってみることしか、晴馬にはできなかった。
「君は大人だな、どうも頭が上がらないよ」
「「一様同い年なんですが、まぁ、貴方のそういうところはしっかりと育てていくので安心してください、そろそろ話をやめないと、教官に・・・」」
「おい!総長の話しているときに何を無駄話している!こっちへ来い!」
うわぁ、ユッタと話をしていたら思いっきり目を向けられちゃったよ、列の中をぐいぐいと進み、一直線にこっちに向かってくる、間違いなくこっちに怒号を浴びるつもりだ。しかもさっきのザガライアじゃないか、しまった完全にやってしまった。
「なんだお前か?!よくいるんだよなぁ、自分の騎士団や国の誇りを履き違えて自意識過剰になるやつが、今回はお前だったわけだ、よし、ついてこい」
言われるがままについていくと、そこは教壇の前の列の先頭であった。多くの生徒の視線を集める中、ザカライアは総長の説明を待つ。総長はいかにも優しそうなお爺さんといった様相で黒いロープに身をまとったお爺さんだった。白く長い髪と髭、そしていつもにっこりとしている。
「君、名前は?」
「高野晴馬といいます」
「そうか、毎年君みたいに入学式で話す人がいるんだが、私としては一向にかまわないと思っている。それ同等の実力さえ兼ね備えていれば、人の話すのは二の次、まずは自身の成長を優先すべきというのが、わしの教育方針じゃ、言ってることわかるかね?」
なるほどわからん、とは言えなかった。老人が怒っているとは思えないし、おそらく自身を僕と同等の存在と思って話しかけているようで、むしろ話をしっかりと聞かなかった自分がばつが悪いように感じていた。少し情けなく思い反省していると、それを察した老人が自分で話をつづけ始めた。
「ここで賭けをせぬか?なに、命に係わるようなものではない、君がこれからここの4年生と試合をし、勝った人数だけ教育課程をすっ飛ばそう、例えば、一人勝てば、二年生から、二人勝てば3年生、というようなものじゃ、試合形式はこちらで指示するものをやってくれればいい、どうじゃ?なかなか魅力的なものじゃろう?」
途端に周囲の生徒たちがざわめき始める。おいおいまじかよ、いきなり何てこといっちゃうんだこのおじいちゃんは、それは僕が進級しても悪者、勝っても悪者のシステムが組み込まれているようにしか聞こえないぞ、そんなのできるはずがないだろう、ここは断ろう。しかし、断っても何が待ち受けているか、それは老人にとっては同等だと思っていた存在がそれ以下だと自己アピールしているようなものじゃないか。それはそれで話していた僕が情けない。しかし勝ってもいいことはない。うーん、さすが軍隊の学校だ。ちゃんと罰を与えるんだなぁ。老人も腹黒とはまた違うものを持っている、この学校を上に立つ人なだけあって抜かりのない人だ。学校のこと全然知らないけど。
「「すいません、話しかければこうなることを知っていたのについつい話しちゃいました」」
まったくだよアマーリア、あまり目立つとウーダンカークに行きずらくなるんだから気をつけてもらはないと。皆に知らされないようひそひそと話をする。
「どうする?この場合どっちみち僕が悪者になっちゃうんだけど」
「「あの総長は優しいようで教育者ですからね、こういうのはたけているんですよ、でもいい人なのであまり面倒なことにはしたくないですね、ここは提案に乗って、とりあえず挑戦しましょう」」
「まじで?正直君がいるからぼろ勝ちしそうで不安なんだけど、それって余計悪くない?」
「「あえて手加減したらそれはそれで問題ですよ、とりあえず行けるところまで行きましょう、ここの学生はみな強者ぞろいですから心配しなくてもぼろ負けしますよ」」
え?ユッタてめちゃんこ強い印象あったけどそれ以上に強い人っているの?マイったな、また痛い思いするのか、というか、今度はパラディン同士の戦いになるんだろ?戦ったことがないから余計不安でしょうがないんだけど。でも、死にはしないというし、やはりここはしっかりと罰を受けるべきなのかも知れないな
死んだことも激痛もある程度経験あるし、それに比べればと思って折り合いをつけるしかないのかな、ああ、腹が痛くなってきた。
「受けます」
苦渋の顔でそう答えると、周りから、教官からも唸るような歓声が聞こえた。それを聞いた老人はさぞ驚いた様子だったが、すぐに話しかけてきた。
「本当かね?まぁ私は君が何を言おうとそれを認めるつもりじゃったがまさかそれを受けるとは、正直感動したぞ、まだそういう騎士がおったとはなぁ、感服じゃ、ぜひ君に試合を受けてもらいたい」
その言葉を火ぶたにさらに一段と大きな歓声と拍手が周りを覆った。予想を反してあまりの轟音に目を疑い周りを確認すると、皆僕を悪者としてみるようなことはなく、純粋に尊敬するような目つきで見ていた。黒色の肌をした青年も。赤毛の少年も、真っ白なシルクの肌をした少女さえ、ぼくの返答に強く感動しているように見えた。それは教官も同じ、隣にいたザカライアは笑顔で拍手を繰り出し、深い関心を向けていた。
「たとえ勢いでそう受けごたえしたとしても十分におまえは勇気のあるやつだ、さすがはディックハウトの家の子だ、ローレもさぞ鼻が高いに違いない、たとえお前が負けても誰も笑ったりはしないから。戦士として騎士として、しっかりと戦ってこい」
そういって思いっきり背中を押され、激痛でしばらく動けなくなってしまったが。それ以上に収束を見せないあたりの惨状に思わず目がくらんだ。そういうつもりで僕は言ったはずではないのだが、こうなってしまえば後の祭り、もはやどう転ぼうと僕は自分の中だけで罪悪感を感じて生きることになりそうだ。ああ、なんか漏れそう。こんな経験は初めてだ。なんていうか憂鬱だ。でもそれだと対戦する上級生にも申し訳ない。ここは腹を決めて正々堂々戦わなくては。
「「なんか、余計悪い方向へ行ったような気がしますね」」
「誰の判断だよ、誰の」
「「はう・・・仕方ない、こうなれば全力で戦って、悔いのない戦いをして、後で反省するとしましょう」」
「ああ、何でこんなことに、素直に謝るべきだった、なんだかんだ変に考えるよりは、しっかりと正攻法を責めるのが無難だよなぁ」
高まる歓声を指揮するように総長は例のスピーカーのような魔法を使い、大きな声で高鳴る興奮を表現する。一種のオーケストラが演奏しているようで、昔に読んだ何かの英雄伝説を思い出した。こんな形で確か続いていたはずだ。
「皆の者、今日一番の英雄をしかとみるのじゃ、男に続きアリーナへと足を進めよ!今日は久しぶりの英雄の戦いを見ることが出来るひになる、目に焼き付け、勝っても負けてもほめたたえよ!」
ああやめてくれ、そういわれたら余計に困るだろう。どうせ一回戦負けとかで終わるだろうし。勝っても負けても僕に何の有益なものはない、教育課程すっ飛ばしって飛び級かなんかか?どのみちいい迷惑だ。やっぱり人の話はしっかり聞かないと。その人だけでなく周りにも迷惑をかけていしまうんだなぁ、ごめんよ僕の同級生、静粛な入学式になるはずが、成人式のバカ騒ぎみたいになってしまった。こんなはずではなかったのにユッタのバカ野郎。
「こっちだハルマ、ついてこい」
言われるがままついていった先には何とも優雅で巨大な円形コロシアム、数万人は入りそうな大理石のその神々しさと長き歴史を思わせた。こんなバカ騒ぎに使うところではないと思いながらも、結果的に自分が悪いのだからと結論ずいてしまって余計に困ったものだ。中の様式も、アマーリアの屋敷のような精密な美を感じない素朴さがありながらも、騎士たちが刻んだ落書き、血、そして記録と思わしき票が何人たりとも寄せ付けない軍事施設の影を見せる。血や汚れを拭いとるための円形の水槽、闘技の練習にでも使うような藁人形、武具、影絵の落書き。ああ、なんてことをしてしまったんだ。
「「ふむ、ここはどうやらシャルフレナンの時に使ったことがある気がします。今は誰もいませんでしたけど、皆闘志で沸いていた悶々とした雰囲気が支配していましたよ」」
「しゃる、なんだって?」
「「馬上槍試合のことです、まさか四年生の時にしか入ることが出来なかった場所をもう使うなんて・・・ああ、学校の威厳と名誉棄損で訴えられないでしょうか?」」
「知らないよ、ともかく用意してさっさと進もう、なんだかゲラルドの時を思い出してきてあまりいい思い出がしないんだ」
「「そうですね、さっさと用意しましょうまずは教官の指示が来るのを待つべきです、そこのベンチで腰かけて待っていましょう」
アマーリアに言われ、ベンチに腰掛けただじっと待つ、緊張はしないいが退屈はできないこの心境下で、僕はもじもじと教官が来るのを待っていた。あたりを支配するのは、水槽にたまる噴水から出る水の音のみである。遅い、いや、極端に僕が待っていられないだけか。
「「話をしてもいいですか?」」
アマーリアはイアリングをした途端よくしゃべるような印象を受ける、僕は彼女に嫌われていることを自己申告される前から分かっていたけど、やはり、彼女の生存圏から考えても話し相手が僕しかいないからこうやって話しているのかと思うとどうしようもなく切なく、彼女も被害者の一人だと再認識する。でも、こうなる前は口もきけなかったことを考えれば、どちらかといえば今の方がましなのだろうか?
「なんだいユッタ」
「「私が思うに、血をつけれた相手が私の姿を見えてしまうのはこのアリーナでは非常にまずいと思うんです、ユッタもお姉さまもどうやらあなたの身体そのものがすり替えられたように私が見えていたようですし、だからやはり迷惑を考えたら勝つか無血で負けるしかないんじゃないかと思うんです」」
「そりゃできれば苦労はないけど、勝てるかわからないって言ったのはユッタじゃないか、何か策でも?」
「「鎧です、この学院は多種多様の国家から騎士やその候補が集まってくるので多くの鎧をそろえているんです、その中から装甲が厚いか、血が飛び散らないで滴り落ちるようなものを選べば何とかなるんじゃないかと思いまして」」
「なるほど、さっそく見に行くか」
武具の部屋へ足を運ぶ、そこにはユッタの言う通りの装備が所せまし、しかもすべての装備の付け方、さらには特性もわたることが出来たので、ユッタからの説明は必要なかった。一つ一つ確認していきながらどれがいいか吟味していった。鎧とは板金の歴史だ。その当時の金属加工の集大成と言っても過言ではない、騎士団で見たときはどれもさび止めの黒い油を塗っていたためどんな金属か想像もつかなかったけどここはさすがに学校なだけあってしっかりと手入れをされ光り輝いている。塗装があるからどんな金属か探すことはできないが。
「うーん、チェンメイルにプレートアーマー、これが無難かな?」
「「いえ、それよりもフットコンバットアーマーの方が無難です、こちらの方が重くないし、何より動きやすいですよ。」」
「血が飛び散らないか心配だなぁ、もっとこう、ほかにはないの?」
「「そうですねぇ」」
なんだか服を買いに来た気分であるが、どう考えてもそれよりは物騒だ。二人で物議を交わした結果、結局は柔軟に対応できる物よりも、装甲を重視した全身を覆う一体型のプレートアーマーにすることが決定された。ゲラルドもローレも皆そんな装備で戦っていた、よく動けるなと関心はしていたが、今度は自分がつける番になるとは思わなかった。まったく、世の中はわからん。
「おお、やる気満々じゃないか、それでこそ男というものだ」
遅れてやっと教官のザカライアが礼装のようなふるまいでやってきた。見た限り古代ローマの服装に近い、一枚布を服の上からまとった様相だ。
「一回目だが、今回は盛り上がっていることと、入学式が本目的であるので、馬上槍試合の個人戦(ジョスト、おそらフランス語)、団体戦(トゥルネイ、おそらくフランス語)、そして演習戦(メレ、間違いなくフランス語)を行うところ、今回は省略して個人戦のみを行う、何か質問は?」
なんだ?この男が何を言っているのか全く分からなかったぞ、もしかして僕はユッタが体で覚えた経験だけを習得していて、知識方面が成熟していないのが原因なのかもしれない、ここはユタエモンの説明を聞くことにしよう。
「「すべて基本的には馬上槍試合で間違いありません、ただ、ジョストは個人戦の一騎打ち、メレは団体戦で、何回も折り返して突撃し、演習戦ではもはや戦場です、個人戦では落馬や槍が折れ、三本試合で負けるとおわりです」」
「なるほど」
「と、いうわけでだ、騎乗戦は非常に危険だ。そこで、君には特別な鎧をつけなければならない、なので今着ている鎧はすぐに脱ぐこと」
果たして僕が悩んだ時間は何だったのか、まったくもって無駄である。
「つけるのを手伝ってやる、しっかりつけろよ」
そういわれてつける装備は異常な重さだった。これでは倒れたら起き上がるのも一苦労だろう。主に、頭部下部と首の間に鋳物の板をつけるのだが、これは左肩まで届いており、胸当てでとどめてある。他にも盾のような飾りなどいくつかの装飾がついており、突けば落ちるような仕掛けになっている。ザラカイア曰くこういったターゲットをはずごとに相手の得点となり、それでも勝敗がつくようだ。
「いいか?どんなに危なくても突っ込め、その方がむしろ安全なこともあるしかっこいいじゃねぇか、そうやって威張り散らしている四年の奴らの鼻をへし折っちまえ、ははは!そうすれば期待の新星としても輝くぜ?」
「はは」
この試合で本当にへし折れないことを祈るしかない。外はどんな風になっているんだろう?小窓からちらっと見てみる。なんという喝采だろう。そこら中に紋章の小旗が乱立し垂れ下がっているしみんな活気づいてサッカー試合のようだ。もはや終息のめどはない。対戦相手の姿は見えないが、きっと相当着こんでいることは間違いないだろう。
「「あれ?あれはローレの家の紋章もありますよ?」」
「え?うそ」
「「ほら、あれ」」
僕にはわからないが確かにあるのだろう。まったく無許可でそんなことしていいと思っているのか?ああ、間違いなくこのことが知られたらローレに怒られることは間違いない。なんてことになってしまったんだ。
「「おお、盛り上がっていますねぇ」」
「なに他人みたいな言い方しているんだ、今度こそ本当に初めての合同作業になるんだからサポートしてよ」
「「任せてください!かなり期待していいですよ?」」
「期待するようなことをするのも困るんだよなぁ」
間違いなく目立てば謀反の際に困り果てる羽目になる。この子知っているんだろうか。
「そんじゃ。準備が出来たら乗馬、そのあとは闘技場へ出ること、それだけだ、期待しているぜ?」
そういってザガラライアは出て行った。残された僕たちにも時間がない。こうなれば行って華々しく散ろうではないか。
「よし、やってやる」
「「その意気です、ああ!久しぶりの騎乗、わくわくしますね!」」
「君今の状況わかって言ってるの?というか、あの人装備を着さしてくれたのは良いけど武器は何をもっていけば?」
「「基本的にはランスですがこの学校でそんなものをもっていく人はいませんね、なんせパラディンですからみんなその性質の沿ったものを自分で持ってます、しかも相手は四年生、そうとう卓越しているので何を持ってくるかわかりません、相手にとって不足はないです!覚悟していきましょう!」
「なんかテンション高いなぁ、まぁいいや、グングニールもないし僕はランスで」
そう思ってみてみるとなかなか長い、3メートルはあるのではないだろうか、このままでは持てないので併設している馬舎に行き、乗馬してから持って行った。さも当たり前のように乗馬したぞ、すごくね?誰か動画撮って。
「「そうだ、聞き忘れたことがあります。望むような形ではありませんでしたけど、騎士になってどうですか?」」
そういえば、彼女と初めて会ったとき、僕に騎士の称号をくれるみたいなことを言っていたっけ、彼女は殺すようなことは計画にはなく、僕の暴走により終止符を打ったけど、確かに騎士になったなぁ。まだなってないけど。
「特にこれと言っては、ユッタはどう?こんな騎士見たことある?」
「「正直不格好、貴方たちで言うところの七五三でやけに派手な着物着て目立つ子供みたいですね」




