17 再会
馬車はすさまじい勢いで屋敷へと帰っていく、本当は町の人からご馳走をもらう予定ではあったけど、僕は自らの事案を優先し早々と帰ってきた。使用人が明ける前にドアを開け、屋敷中を走り回り、迎賓室へと急ぐ。豪快に開けられたドアは中にいるアマーリアたちに僕の帰還を知らせ、二人はさて答えが出たかと議論を中断する。ヴィンセントに関しては疲れた様子であったが関係ない、僕は持論を展開した。
「答えが出たよアマーリア」
アマーリアはよくも悪くも朗報だったようで、どっしりと構えた姿勢を戻し、心待ちにうきうきと待っていた。
「やっと答えが出たか、それで君はどうするつもりなんだ?」
「はっきり言って僕は君には協力できない」
その言葉は想定済みか、よし、といったような表情でアマーリアは頷く、ヴィンセントはぐったりとはしているがそれを聞いて議論が終わるとホッと息を吐いた。ヴィンセントには悪いが、僕はそれだけで終わりではない。
「だけど、僕にはやらなければいけないことが出来た、それにはアウタースレーブが堂々と歩ける環境が必要だ。君にその土台づ作りをしてくれることを約束してくれるなら。僕は君の国家づくりに協力しよう」
「おいおい、さっき協力できないって・・・」
ヴィンセントは苦笑いする。言っていることが逆転しているからだ。僕にもそれはわかっている。だけど、これは必要なことなんだ。僕が生き、奪われた権利を取り戻すことで、彼女との約束がやっとかなうことが出来る。机にもたれかかり、持論を展開する。
「そう、僕は心から民主化を望んでいるわけじゃない、だから、君に協力しても、どこかで思い違いが発生するだろう、だけどさっき言った通り僕にはやらなければいけないことが出来た。それにはアマーリアの目的が一番の近道だと思う、だから協力する、できるところまで協力し。そのあとは僕のやりたいことをするんだ」
「そう、具体的に君は私に何をしてくれるんだ?アウタースレーブのできることは未知数でも、やれる時間は限られている、君は一体何ができる?」
「そうだね、僕は政治や社会はわからない、でも知識はある、だから君に教えることはできるはずだ、だから僕に代わって君が君の国造りをしてくれ、国は君が創るんだ」
僕はどんなに頑張ったってこの世界にあそこまで高等な民主義国家を作り出すことはできないだろう。そもそも、仮に導入できたとしてもこの世界には合わないはずだ、地域や価値観民族宗教、それらを総合してできるのが政治というもの、つまりその世界の習慣が政治を作るといっていいだろう。僕にはその能力はないしきっとアマーリアにもないだろう。僕たちができることはその爆誕、新しい考え方を生まれさせ世に広めさせることしかない。だが、それだけで彼女の目標としては十二分ではないだろうか?
「それだけじゃない、僕は僕でできることがあるはずだ、その能力を駆使して、君の新国家の樹立に協力する、僕は教育係ではないから自分でも君に協力するよ」
「アウタースレーブに協力してもらえれば、私はそれだけで十二分に感謝だよ、私にもう一度、栄光を見せてくれ」
その栄光は二世や三世の作ったものだから、アウタースレーブというより彼らの個人の努力の結晶といったほうが正確なんだよなぁ。にしても15年で都市を作るなんて、とんだ奴らもいたものだ。さて、それよりも多数決で敗れているヴィンセントの意見が今一番重要だな、彼は何を言うのか楽しみだ。
「はー、まさかこんなことになろうとはなぁ、俺も奴隷扱いされたときは底の底まで落ちたとは思ったけど、これほどの衝撃は受けなかった」
「君はどうする?どうにかして本国に帰るか?」
アマーリアが問う。
「冗談、むしろ帰る国がどこにあるっていうんだ、今はもう住むyところすら奪われているだろうよ、こういう時ってのはたいてい少数派はかなり置い込まれている可能性が高い。結局何言ったって発言力は乏しいし、拒否したってかえるところはなし、本意ではないが、協力するほかないだろう、ただ、本当に始めたらもう俺たちは皆路頭に迷うことになるのは知ってのことだよな?アマーリア」
「そうさ、どのみちいばらの道、それでも私はやる価値があると思う、というかやってみないとわからないんじゃなかな?こういうことって覚悟は必要だけどやってしまったらもう戻れないからね」
「あー、せっかく安泰した暮らしができると思ったのに、一週間もしないうちにこれかよ」
「実行は1週間後、私は個別に集めた傭兵でウーダンカークを襲う、そこから戦火を広げるつもりだ」
「なんだ?ここじゃだめなのか?」
「ここも悪くはないが、比較的内地に面しているからすぐにつぶされる、あっちは国境沿いだし何よりモンスターが多い分兵隊の数も期待できる、王党連中もそう簡単には襲ってこないだろう」
「なるほど、なら、もうここに残すものはないな?なんたって、今まで積み上げてきたものをすべてかなぐり捨てていくわけだもんな、領土も、領民も」
「見捨てる。そう言って構わないだろうな、なんたって彼らの生活はもう私が担うことはないから、無責任と言ってもいい、ウーダンカークの連中にとっては侵略者として迎えられることになる。だが、そうでもしなければ、謀反を起こさなければこの国は変わらない、私は自らの望む国ができるのならば、そのためためならばたとえ死後地獄の業火に焼かれようとも後悔しない」
本人たちがやる気を出したところで、騎士たちが帰ってきた。見たところ事情聴取は終わったようだ。マンフリートは意気揚々とした顔で出てくるが、ローレはどうも違う気がする。
「いやー、どうやらアウタースレーブの言っていた事は事実ではあったのですが、語弊を招いているようで、純粋にローレは彼の騎士団の入団を拒否しているわけではないとわかりました」
「それはどういうことですか?」
「つまり、彼女は彼に素質があるのならば、受けるべき教育を受け、一流の騎士になってから、ということですよ、なまじ兵法ケガのもと、すぐに騎士になっても身につかなければ宝の持ち腐れ、ならばまずは寝かしてみるべきだと」
「なるほど、それならば納得のいく考えですね、それでよろしいのですか?ローレ?」
ローレはうつむきつつもうなずいた。僕はわけがわからず彼女に詰め寄ろうとすると、彼女も察し、少しとがった口調で持論を展開する。もちろん、僕にしか聞こえないような小さい声で。
「勘違いしないで、あの時に言える雰囲気ではなかったしただ折衷案でいっただけ、でも、本当に入学の準備はしておいてね」
「本気で言っている?ねぇ本気で言っている?僕はちゃんと断った・・・は!」
断ってねぇぇぇえ!なんかあやふやにそん手の話をしただけでちゃんと断ってねぇぇぇぇ!なぜそれを気づかなかったのか、いたずらに生命の危機を自分で作り上げるなどこの高野晴馬一生の不覚、というかそんなこと忘れて暢気に馬車で町に遊びに行ってるなんて恥ずかしいにもほどがあるぞ!このままではいつまでたっても僕は死と隣り合わせ、いつも背中に気を付けなければいけないじゃないか。
「おおう、そ、そうだ、断ったんだよ」
ローレは目を合わせようとはしなかったが、横目で僕をじろじろ嘗め回すように見始めた、こいつ、さっきの一言でどんだけ食いついてんだよ、どんだけ嗅覚いいんだよ。ま、まぁいいさ、言わなきゃこっちのもんだし。
「貴方もう忘れたの?私は洗脳と読心のパラディン、今言うなら言いたくない恥ずかしい思い出まで根掘り葉掘り聞かないけど」
「言いませんでした、いい損ねました」
そうでしたぁぁぁ!ああああああんもうなんでわかっちゃうのぉぉぉぉ!?
ローレはあきれたような顔をして、なおも無関心にあろうとした。それは極端になれ合う気がないからだろう。僕としても距離を置きたいところ、これ以上かかわって殺されるのはごめんだからだ。
「いいわ、私も言えなかったしお互い様ってことにしましょ、どうせ、騎士団に入ったって入らなくたってすぐに・・・」
「ん?」
「なんでもない」
「ところで、貴方たちには前にも伺いましたが」
アマーリアはどことなく話を遮った。彼女はもともと僕たちの話に参加していないわけだし、聞こえていないから当然だ。
「どうです?あの後、騎士団で我々に参加したい人はいましたか?」
お、お前!市民のみならずあろうことか騎士団にまでその話を漏らしていたのか、むしろここまで来たらなんで外部にばれないのか不思議なくらいだ、奴は何か?自分で自分の首を締めようとしているのか?
「その話ですがアマーリア卿」
苦笑いを含みながらマンフリートは返答する、その顔から察するに、期待道理には行かなかったようだ。
「あの後、その手の話に興味がありそうな口の堅いものに何人か当たりましたが、結果は全部同じでした、やはり、準貴族の剥奪と所領の放棄をしてまでやりたいものはそうはいないようで・・・ただ、彼らは謀反の話を漏らすことはありません、必ずる理由があると分かれば、しゃべらない者たちですから」
「そうですか・・・、では、脱退するのは騎士団長代理の貴方、並びにほか8名といったところでいいですね?」
「なっ・・・」
まさか、アマーリアは本気で騎士団を取り込もうと考えていたのか?なんて無謀な、そんな封建制の垣根を越えてついてくるものなどいるはずがないだろう?!それでばらしたということか?!めちゃくちゃだ、この女めちゃくちゃすぎる!本当について行って大丈夫かなぁ・・・。
「ローレも、その後心の代わりはありませんか?」
「・・・ありません、アマーリア卿の提案とはいえ、私には、その・・・」
守るべきものがある、私には、守るべきものがあると、彼女は伝えたかったのだろう。彼女の騎士団への思いは、少しだがわかる。それをアマーリアは知ってか知らずか、それも受け入れたようだ。
「では、引き続き口外はしないでください」
「はい」
前途多難、それどころか僕たちは後ろ盾もお膳たても不十分なままこの危険極まりないいばらの道を歩む羽目になるとは、これはいつ失敗してもおかしくないぞ。もう、今のうちに逃げ出すか?だめだ、鈴谷さんとの約束もある。ここでやめても、自分で模索する時間が余計にかかるだけだ。そうだ、どのみちおぜん立てされてようとされてなかろうと危険なことには変わりない。失敗しない保証なんて、うまくいく確率なんてありはしないんだ。その部の悪い賭けをしようとしていることを自覚しなければならない。僕がやっと気づいたことを、彼らが黙認しているように、僕も覚悟しなくては。そうと考えたらさっそくやることがわかってきた。それは鈴谷さん。彼女をここにとどめることだ。でも待てよ?
「ねぇ、アマーリアがいなくなったこの領土は、誰が引き継ぐんだい?」
何とも単純なはなしだろう、でも聞かなくては。アマーリアもこれとなく答えてくれた。
「それはまず言ってブルクスラー家は取り潰しになるだろうからほかの貴族のものになるだろうな、分割統治も考えられるが、おそらく有力貴族の独り占めになる可能性が高い、領土事態は比較的狭いし、資源もあまりないからな」
となれば、鈴谷さんはkの領土にとどまってもらって、かくまってもらった方が安全か、きっとあの婆さんなら投げ出すこともないだろうし、一度言いに行こう。
「もう一度、あの町に行ってくる、鈴谷さんに話したいことがあるんだ」
「そうか、彼女にもあったんだね、わかった言ってくるといいよ、おおかた彼女にここに残ってもらうかどうかの話だろ?私は君の意見に従うよ、どこに行っても危険は変わりないしね」
ああ、一度言いたかったんだ。アマーリアに言っておかなくては。
「それはごもっともだ!でもそうしたのは君なんだよ!?少しは自覚を持て!君は無責任すぎる!」
「?」
「馬車借りるよ、もう一度町に行きたいんだ」
「ああ、それなら俺も行こう、あの娘の経過を見なくては」
ヴィンセントは物申すとでもいうような顔であったが、おそらく一番ここに滞在していた彼のこと、アマーリアについて、ないか僕に教えておきたいことがあるのだろう。そのために馬車の相席をしようと伺っているのだろう。ともあれぼくたち屋敷から出ていくことで、この談合は終わりを迎えることになり、皆、解散することとなった。
「彼女、アマーリアはここの領主になってから領外に出たことがないらしい」
そっけなくヴィンセントは言った、足を組み、頭を抱えている。僕と考えていることが共通しているのかもしれない。
「おそらく、あのヘンテコな思考回路はそこから来ているのだと思う」
「どういうことだ?」
「領民から話は聞いたか?彼女の話だ、彼女は隔離されるようにこの領土を与えられ、後は実が熟しほかの貴族どもの餌になるまでここで置かれた、だが、実は熟す期間が速すぎた、食べごろを逃し、御覧の通り木になっちまったって話さ」
ああ、なるほどその話か、ともあれぼくは馬主に出発の合図を取る、今回は前の馬主とは別人なようだ。おかげで話がしやすくて助かる。
「木になった、結果から聞くと、教育が行き届いたおかげで一人前の領主になったとわかる。だが、現実は違う、彼女の頭は、変に偏っちまっただけなのさ、つまり、献身的な教育により、彼女の社公は限りなく減少したってことだ、もともと国から見れば彼女はガンみたいなものだったわけだし、好き好んで会いたがる貴族も、癒着を懸念されて会うことが出来ない本家のアマーリアの家族を除いていなかった」
事の深刻さを表現するように、彼の顔色は変わっていく、僕は、これから受け入れなければならない事実に息をのみ、かたずをのんで聞いた。
「それは彼女の精神を成熟察せるのに、やってはいけないことだったんだ、彼女はこの国に、こどもの国に君臨し続けるため、子供であり続けたのさ」
「それって、まさか!」
「社交的でない彼女も、みるみる歳を食う、彼女は20にもなろうとしているのに、伯爵家というおいしい地位に婿に入ろうとしない男がいると思うか?当然いたさ、だが、彼女のあの恐ろしい【子供】の部分を理解した途端、逃げ出したんだ。アマーリアは年を食っただけでまだ子供、俺たちの理解が届かないおかしなな言動もそれゆえだ」
そうだ、彼女とユッタは自分たちしかいなかった。しかも、自分の身を守ることを幼い時から強いられて生きてきたのだ。そんな彼女たちに、どうやって周りの意見を聞く機会が与えられよう、孤独の少女が作ったこどもの国は終わってない、続いているんだ!この時でも!
「きっと、この戦争だってそうだ、本当は幼いころに両親と引き離された怒りが原動力となって、王をうち滅ぼす綿密な言い訳を作り出した、彼女の知らないうちに、彼女の子供の性格がこの悪夢を作り出したんだ」
あまりの恐ろしさに身が震えた。ユッタは、僕の心のユッタはどう思っているんだ?怖い、なんて怖い時限爆弾を生んでしまったんだ!悪魔の片割れは今もこの胸で生きている!今も僕の話を聞いてただ夢の世界待っているのだ。
「くそ、なんてことだ・・・こんな秘密があったなんて、それでも、君は彼女に協力して戦うのかい?ヴィンセント」
それを聞いてヴィンセントは即座に頷いた。意外だった。彼にも一様戦う理由があるらしい。次第に顔色は戻り、今度は怒りをあらわにするように身体が震えだした。僕は少し動揺し、彼の発言を待つ間、ただ表情を読み取ろうと努めた。
「許せねぇんだよ」
静に、だが重い言葉だった。
「許せねぇよ、俺は、こうしちまったこの国の王が、許せねぇ!俺の国を奪い、アマーリアたちに与えるべきものを奪ったこの国の王が許せねぇぇ!l」
地鳴りのような声で悶え怒る、その形相は、パラディンとして戦場を駆け回った時を彷彿とさせるものだった。そして、その時僕は自分を恥じた。恐れるべきものを見誤っていたからだ。本当に怖いのは彼女たちじゃない、そんな風にした、僕の人生を奪いセカンドライフの意義となった者たちだ。
「当然、俺たちはこのことを聞いた限り、俺たちには何としてでも彼女を暴走させない義務がある、だが恐れるな!彼女達は被害者だ!俺たちと何一つ変わりねぇ!彼女たちがやっと手に入れた平穏を投げ捨ててまで戦うというならば、たとえその真意が歪んでいようとも俺は戦おうと、そう決めたんだ!俺には民のみの政治がまかり通るとは思えない!きっとその結果多くの死者を出すことになるだろう、きっと国が亡ぶ!だが!それで復讐が果たせるなら俺は戦う、間違いを起こし、幾万の死体が山を作ってでも戦ってやる!」
「だ、だけどさっき本意でないと」
「そう、間違ったことをしていることはわかっているからな、明らかに俺たちは正義ではない、だが、正義でないならこのうっぷん、どうやって晴らそうっていうんだ?悪であるならこの屈辱、どうやって果たそうというんだ、そんなときにやるといわれたこの戦、ここを逃して果たす機会はもうない、お前はどうなんだ?何で戦おうと思ったんだ?」
「いや、僕は目的があって、復讐としてはそれほど」
「ならはっきりいっておくぜ、俺たちがもし謀反に成功してもしなくても、犠牲は大きいものだ、それに見合うかどうか、しっかり考えておくんだ、いいな?」
真剣に検討しろ、そう付け加えているようだった、もちろん僕だって真剣だ。でも、その方面の考えはできるだけしないように努めている、犠牲とか、代償とか、まだ現実味がないだけでアマーリアが謀反を起こせばそれは間違いなく襲い掛かる、それをどうとらえるかは別にしても無視はできない、だから考えないようにして先のばしにするか、適当に理由をつけて自分の中で正当化する、このどちらかを取るつもりだ。
時間がたったものも、僕はカミラの家に着き。彼女とカミラに事情を説明した。
「そんな、あたしたち、新しい領主になっても保護される保証はある?」
不安そうに鈴谷さんは尋ねる。
「問題ないよ、アマーリアのたくらみは領民は知っているだろうからその後のことも覚悟していると思う。だから君をきっとかくまってくれるはずだ。そうでしょう?カミラさん」
カミラは少し眠たそうだったが、優しい笑顔でいた。時折暖炉の薪をいじって客が寒くないようにしていて返答がないが、その表情は肯定と捉えて間違いないだろう。
「私が高野くんについていくのは?」
「だめだよ、余計危険になる、何より君がこれから僕がすることに、はたして嫌悪感を抱かず生活できるとは思えない」
それを聞いて鈴谷さんはたじろく、何が言いたいか少しわかるようだ。
「そうだよね、戦争だもんね」
「そう、戦争だよ」
僕たちが一番早く権利を勝ち取るには、残念ながら戦争以外に思いつかない。手っ取り早く、わかりやすいものだからだ。
「1週間後にはウーダンカークという国境沿いの都市を攻撃して占拠、アマーリアは無血降伏のために8000匹のモンスターを引きつれるつもりだ。ヴィンセント、本当にそれで僕らは勝てるの?」
ヴィンセントは彼女の様態を見ており、顔をこちらには向けなかったが、僕たちの会話を聞いていたようで、何一つ問題なく返答した。
「ああ、どんな戦争でも一回の戦いで参加するモンスターは多くて1000、もちろん全能のガーディナル同様の能力を得るために人海戦術でガーディナルを集めるのなら話は別になるがそれも現実的じゃない、一つの山にいるモンスターは平均40種、総数1200、つまり一つの山を支配するのにも40人のガーディナルが必要だ。アマーリアは指なり一つで多くの従属させた氏族のモンスターの長を呼び寄せることが出来る、おそらく支配している山も少なくはないのだろう、そこまでモンスターを送られたら、さすがに都市も降伏する」
「だ、そうだ。でも、そのあとに僕たちがどうなるか、生きてる保障すらないんだ、だから君はここに残って安全になるまで耐えしのいで、必ず迎えに来るから」
「そうでなくても定期的に来てほしいんだけど」
きょとんとした態度で鈴谷さんは言う。ごもっとだ。だけど地図で見た限り、そうやすやすとこれるような場所ではない。もしそれでも行けるなら、何か重要なことを言う時ぐらいだろう。奇跡の再開も時間がここまでないとなんだが夢物語を見ている気分だ。
「それができれば苦労はないよ、僕だって鈴谷さんと離れるのは困る、でもそうしないと僕たちが元の世界に帰る方法を探せないよ」
「それはわかってるけど、せっかく再会できたのに、もう離れるなんて・・・」
「だけどこれで帰れれば僕たちは日常との再会だ。それまでの辛抱だよ鈴谷さん」
「うん、でも、たまには遊びに来て,約束しろよ?」
「わかった、約束するよ、鈴谷さん元気でね」
「高野君も無茶はしないで?」
「うん」
僕はそれを言い残し、再び屋敷へと馬車を走らせたた。彼女のことは気がかりだが、せめて、早く彼女に安住の地を提供しなくてはと、意気込んでいた。馬車の中でも僕は今後の予定を考える。どうすれば早くアマーリアの目標にたどり着けるか、それは目的を民主化などとあいまいなものにはせず、もっと具体的に何をするかに目標を絞った。
「そもそも、ウーダンカークを占拠することと民主化することに、いったい何が関係しているんだ?」
馬車の中、僕は無性に気がかりだった。なぜわざわざそれに街を襲う理由になるのか、いまいち理解できないからだ。ヴィンセントに尋ねてみる。
「決まっているだろ?国境地帯は常に国家の緊張と因果関係がある。ウーダンカークは国境沿いの都市、占拠できれば国家間の緊張を誘発し、軍を出せば爆発する。つまり、戦争の火種になりかねない。だから簡単には軍を出しては来ないと踏んでいるのさ、そこで武装勢力を温め、現政府を打倒するってところか?」
ヴィンセントは意気揚々と答える。少し不安な面もあるという、それは国境沿いで武装勢力ができれば、他国の安全保障にかかわるため、軍も出さないが貿易も期待できなくなるというものだ。それはつまり都市機能の衰退を起こす危険性があるということだ。経済能力を奪った都市は廃墟同然、そうすれば簡単に少数の軍で陥落してしまうのだそうだ。
「領土、これはあいまいなものだ、何か線があってここからここまでっていう風にはなってない、しいて言いうならこの町から、この川から、この山からっていう風になっている、お前の世界ではどうかかは知らんが、こっちの世界ではそうなっているのさ、つまり何が言いたいかっていうと、そういうところは決まって盗賊や犯罪者の温床になる、そこを行商人は安全なルートを模索してどうにか来ているってわけだな、それなのに商売する相手がまた盗賊の親戚みたいなやつだったら、お前どうする?」
「そりゃあ、断るけど、でも、商売相手はなにも国外だけじゃないでしょ、国内にを向ければ」
「いない、仮にいたとしても悪徳商売を生業としている連中だ、そういうやつらは決して大きな買い物はできないし、数が少ない、それで都市の機能が満たされるのならば苦労はない、でも、まぁ都市は決まって衛星の町や村が多数存在しているからそれらで地産地消を繰り返せば数年はもつんじゃねぇか?」
なるほど、確かに地球ほどの交通の発達がないこの世界では、輸送量よりも地元で消費する量の方が多いはずだ。地元で機能するうちは、何とかやっていけるというわけだ。だけど、それって。
「つまり、王党の軍が出動するタイムリミットと同時に、僕たちは自滅のリミットを持っているってことか」
「そういうこと。アマーリアはお前にその打開策を望んでいるのさ、妄信的とは思うが、お前が解決しねぇとこの戦争は勝利には導けない、まったくもって困ったことだ」
まったくだ。というかそれはつまり、問題を丸投げしただけじゃないのか?そういうところからも、やっぱりヴィンセントの言う通り、子供っぽいというか、まったく考えていないんだな。僕らの指導者は、他力本願のようで自分勝手、バカのような秀才といった感じなんだろうか。もし元の地球に帰ることが出来たら絶対そんな奴の下で働きたくはないな。
「おい、誰か橋で泣いているぜ、あれはここの騎士じゃないか?」
馬車を橋の手前に止め、降りて誰が泣いているのか少し見て見る、確かに、誰かが泣いているし、どうやら鎧を着ているのも見て取れる。問題は、いったい誰がそんなことをしているかだ。よく見てみると、どうやらローレのようだ、ローレは一人橋でたたずんで、泣いていた。理由はわからないけど、僕たちが馬車に乗るときにはもう解散していたことから彼女はずっとそれから一人でいた可能性が高い、この橋は屋敷へと続く道にかかっている橋だからだ。
「ひっく、ヒック」
どうすればいいか右往左往していると、僕を置いて馬車が勝手に進んだ。びっくりして飛び乗ろうと近寄るとヴィンセントが真顔でこちらを覗いていた。
「お前、彼女に理由を聞いてこい、仲直りとかそういうのじゃなくて、接触を試みるんだ、そうすればもしかしたら、許してくれるかもしれないぜ?とりあえず聞くだけ聞いてみろ」
「ちょ、急に何を言い出すんだ、僕が彼女にしたことわかって」
「それは彼女も同じ、だからせめてお互いの状況を理解することが解決の糸口になる、お前の顔から察するに、彼女に命を狙われているんだろ?これもってけ。短剣だが役に立つ、いざという時は其れで身を守れ」
そう言い残すと馬車は急加速し、橋の向こうへと消えていった。
「無茶な・・・」
あまりにも無謀であった、そんなことをしたら間違いなく殺されるに決まってる、だが、馬車が行ってしまった以上は歩いていくしかない、仕方ない、僕は歩いて素通りするしかないな。ヴィンセントには適当に言っておいておこう。僕はそう思い歩き始めたのだが。
「ヒック、ヒック」
彼女の後ろを通りすぎるあたりで歩幅が極端に小さくなり、やがて止まってしまった。まさかここでおしゃべりをしろとでもいうのだろうか?僕には何もできないと言い聞かせているのに。体は正直だ。
「そんなところで何をしているんだ?」
やってしまった。話しかけた途端彼女はピクッと反応し、目をこするりながらこちらを見る。少し目が充血していて、まだ悲しそうにしている。本人は平静を保とうと必死で努力しているのに、涙が止まらなくあふれている。こんな状況になるまで追い込まれている。やはり、ゲラルドを討った僕についてそんなに怒っているのだろうか、僕が騎士団に入ることを否定できなかったことを恥じているのかもしれない。ここではっきり言っておこう。僕が何があっても入らないと。もう、鬼畜のふりもやめよう。誰も救われないから。
「あのさ、僕は何があっても騎士団には入らないから、君にもさんざん迷惑かけたし、本意じゃないから」
ローレから反応はない、呆然と僕を見ているだけだった。その間も彼女は泣いていたが、何かしゃべるようなことはなかった。僕は焦った。これが何を意味しているのか全く分からない。ただ、彼女の反応を待とうと決め、静に隣で待っていた。
「別に、貴方のことで泣いているわけじゃない、騎士団が崩壊したのよ」
15分ほどして、彼女から返答があった。
「崩壊したって、僕のせい?」
疑うような顔をした。だが、彼女は無表情で。明後日の方向を向いたままだった。それがとにかく異様で、不気味だった。
「貴方が入ろうとなかろうと、崩壊は避けられなかったのよ、アマーリア卿の発言はそれだけ影響力があった、ユッタ団長という絶対的な力を失った騎士団は、強固のように見えて脆弱だったの、本当は、アマーリア卿の起こす戦争について前に話が合ったの、参加するかどうか、アマーリア卿は特定の騎士に聞いて回った。それで是非がわかれ、ユッタ団長の作った騎士団に残るか、彼女が守ろうとしたアマーリア卿についていくかで別れ、騎士団は崩れ始めていた」
ゆっくりと座り、体育座りを始める。僕はつられて座れるが、壊れたラジオの音声を聞くような無機質の声に恐怖した。でも、言っていることはわかる。だからこそ、その話の続きを聞きたい、ユッタの後の騎士団のことは、騎士団の団長であるユッタが知りたい情報だと思ったからだ。なぜ彼女の知りたい情報を僕が聞こうと思ったか、それは、僕がローレに仲直りをしない代わりにしたいことがあったから。それが僕に何の意味があるのかわからないけど、それを今の彼女にはするべきだと。僕は思っていた。
「私は尽力した、壊れる前にせめて崩壊する時間を遅らせようと努力した。ユッタ団長が築き上げたものを守ろうと奮闘したの、そのためだったら、汚泥を舐め、醜い豚の足に踏まれてでも、私は守ろうとした。どっかのタイミングでもしかしたら元の騎士団に戻ると思ってたの、でも、あっけないものね、今日の話でそれももうおしまい。これで完全にもとの騎士団には戻れない、1週間後にはみんなバラバラ」
から笑いをしながら彼女はうつむく。酷くむなしい雰囲気が漂い、何を言えばいいのか迷った。
「騎士団はきっと残るでしょう、新しい領主が防衛のために維持する必要があるから、でもそうなったらユッタ団長の面影はなくなってしまう、それだけは嫌、それだけは、何としても残そうと思ったの」
「なんで、そこまで君はユッタを執着するんだ?」
彼女は口を閉じた。言いたくなかったのか、それともなぜこの男に言わねばならないのかと思っているのだろう。そっぽを向いて、話し相手にならないように努めていた。そのすきをついて僕は指をナイフで切り、一滴彼女にこすりつけた。果たしてユッタが何を言いたいかはわからないけど、今度は僕がユッタのなすがままに操られようと思い、とにかく神経を集中した。僕には彼女の声が聞こえない、だから、自分勝手に行動するわけにはいかないのだ。
「「ローレ、こっちを向いてください」」
ローレは振り向けなかった。それは今起きていることが予想をはるかに超えていたからだ。脳は理解できないことが起きたとき、いつも自身が理解できるわかりやすい判断を取ろうとする。これはきっと、自分が参っているから隣の屑にそんな幻想を抱いているんだと、その時思った。これは二度目だ。彼女声が、無刃槍を持ったあの男から聞こえた。なぜこの男から聞こえるのかわからなかった。
「ふん、私を誑かそうなんて良い趣味してるわね、振り向いたりなんかしないわよ、どうせ幻想でしょ?」
「「さぁ?それはこっちを見ればわかると思いますよ?」」
「絶対振り返ってやるもんですか、どうせ貴方は偽物、本物の団長は、もうすでに・・・」
強く体を抱き、顔をうずめる、また泣き出してしまうことを恐れたのだ。騎士が簡単に泣いてしまうなど、また団長に笑われる。笑われる?あの人は、もう虫の息・・・。ああ、そうか、もう、死んでいるんだったか。それを信じないように取り付くって、槍を磨いて、帰ってくると信じて、バカみたい。
「「ふー、困りましたね、じゃあ、そのままでいいから、私とお話をしませんか?」」
「アウタースレーブと話すことなんてないわ」
「「私は騎士団長なのですが・・・、それに、彼も騎士になる資格がある以上、同等と認めないといけませんよ?」」
「誰があんな奴!あんな、自分勝手に生きて人の生きがいを滅茶苦茶にするような屑誰が認めるか!」
「「屑に関しては同意しざるを得ませんが、騎士の決闘をしたのは彼でなくあなた方では?」」
「何にも思わないの団長!?奴は死にたがってた!そのために基地を襲おうとしたのよ!?それなのにいざ生きるチャンスを与えたら今度は騎士を簡単に倒し、挙句の果てには身柄すら保護された!遊んでいたのよ!奴は私たちで遊んでいた!こんな時に限って、ううう」
「「その時点であなた方負けですよ、人を遊ばせたのはあなた方、処刑さえすれば問題はなかった。そもそも、決闘などというような行為をもって殺そうとする時点で、騎士道不覚悟、言語道断です。私も感情的ではあったけど、そのような行為をしたことはありません」」
「だって!こんなことになるなんてわからなか」
「「いい加減にしなさい!」」
その怒声は彼女から聞いたためしがなかった。彼女は怒るとき、常に冷静であったからだ、こんな感情的な奴、ユッタ団長じゃない、この屑よくもだましたなと振り返ってやった。むきになって子供っぽいことを言った。それでも、こいつを黙らせてやると、本気で思った。だが、実際に彼女の姿を見たとき、本当に心を疑った。騙されているのか、実物なのか、もう私にはわからなかった。
「「騎士たるもの軍の模範とあるべきと教えたにもかかわらずこの体たらく!さらには自身に対する言い訳!私が馬に乗っていたころの貴方とはずいぶん違うのではないですか!?」」
「え?え?」
「「あの頃の貴方はまだセージであった、研究所の盗賊立てこもり事件の際、貴方は私に言ったはずです、一生を捧げる、貴方だけを信じると、では、なぜ私の信じた騎士道を理解していないのですか?!あなたには、一番教えたつもりだったのに!」」
「あ、ああ」
「「どうして、だって、貴方は、私の一番の理解者だと・・・なのに、なのにどうして!私に刃を向けたのですか!」」
「あ、え、あ」
声にならない声、まとまらない考え、人生で初めての状況だった。死んだと思っていた人が目の前に、いや、それよりも、刃を向けた?な、何を言っているんだ、刃を向けたことなんか一回もないじゃないか、何を。だって、あの時からずっと、ついていくだけで精いっぱいで、いや違う。、なんていうかええと。
「「彼が私であり、私が彼である、忘れないでくさい、貴方の憎んでいた人は、ユッタのからだでできているのです」」
その言葉はセージであったローレにその言葉はつじつまを合わせ、彼女が何を言っていたのかわかりやすくする一言だった。
「まさか!転生、団長は素材に!?」
「「私が望んだことです、誰も不幸にはなっていない、今のところは、ローレ、もしあなたにまだ私への忠義の心があるのなら、どうか、どうか彼をこれ以上間違った方向に導かないよう、貴方が支えてください、恨むのなら、代わりに私を恨んで、どうか」」
まるで魔法が解けるように、ユッタの声は細く、姿は歪んでいった。ローレは混乱の中、ただその言葉だけを反芻するように覚え、放心状態となった。
「びっくりしたよね、こんなこと誰も起こそうと思って起こせるものじゃない」
彼女は今だ放心状態だった。でも、どうにか起こすことはできないかと、とりあえず体をゆすってみた、そのうち、目が合うようになって、僕だけを見るようになっていた。彼女にはもう涙はなかった。怒りも感じられない。ありのままを受け入れ、冷静に分析し始めたのだ。
「本当なの?これは一体だれがやったの?アマーリア卿?」
「ああ、僕が炭みたいな体だった時、腐れ病のユッタを器に転生したんだ、目的は例の戦争さ」
それを聞いて、彼女は予想道理だったらしい、彼女は其れよりも、そこから推測することの一部始終を考え、少し身を震わした。想像するだけでも、どれほど恐ろしいことか、彼女にはわかったようだ。彼女は豹変したようだった。あんなに騎士団について思い悩んでいたはずなのに、ユッタから何か言われたら、急に吹っ切れたように態度や表情を改めた。
「狂ってる、でも、信じるしかないみたいね、貴方、私に血を塗りつけたりしたでしょう?」
「え?う、うん」
「でしょうね、伝説では、そうすることでうちなる魂と会話ができるって書物で呼んだことがあるわ、まさか本当だったなんて、これはすぐに対策を取らないと」
「た、対策?」
「あなたにはきっとユッタ団長の声が聞こえることはなかったはず、それを聞こえるようにして、どうにか意思の疎通を試みてみる」
夢の中でだったら。きこえるんだけどねぇ。
「ず、ずいぶんノリノリだね、ローレ、さっきとは大違いだ」
「ええ、団長からあなたの教育を任されたの、貴方の身勝手さと力の制御には、本当に学校に入ってもらうから、それ以外は私が教えるわ、久しぶりにもらった団長からの命令、抜け殻の騎士団なんてもう価値はない、こうなったらせいぜい隠れ蓑程度に使ってやる!」
なんだがあんなに落ち込んでいたのに、こんなに、しらふに戻るのが速いとは、ローレにとってユッタは一体何者だったんだよ。
「でも、その前に、もう一滴、垂らして」
彼女はそういって切れた指を包み、僕の指を強く握った。
「「え?え?ローレ、どうかしましたか?」」
「団長、貴方が守った騎士団、今日まで守ってきました」
ローレは一律不動の姿勢になり、座っているぼくに話しかけてきた。その表情は、とても真剣だ。
「「は、はい」」
「一兵も欠けることなく、今日まで戦いました」
「「はい」」
「ほめて」
心なしかローレに犬の尻尾が生えたような気がする。幻覚だろうか。
「「は、はぁ」」
「アウタースレーブに、騎士として間違ったことをしたのは認めます、でも、その前まで行たことをほめてください」
彼女はなにかを心待ちにしているようだ。なんだ、自状況が一変しすぎて理解が落ち着かない。ユッタの声が聞こえないため、会話が変わらないのだ。
「ほ!め!て!団長!」
「「は、はい!えらかったですよ!大儀ですよ!よくやってくれました!」」
とりあえず、ほめろと言われたので頭を撫でておいた。普段のユッタがこんなことをするのか疑問だが、とりあえず犬の耳まで見えるようになってきたし。こうするのが妥当だろうと思う。
「う、ううう」
しかし手法がダメだったのか、今度はぐずりはじめてしまった。やばい!こんな幼女みたいな人に泣かれては世が世ならTAIHO間違いなしではないか!まったくユッタもユッタでフォローをまちがえたんじゃないのか?なんだかゲラルドとの決闘前みたいな展開じゃないか、まるで学んでない。僕も彼女も。
「「あ、あれ?違いました?間違えました?正しい褒め方ってなんでしたっけ?ああ!難しい!まったくわからない!」」
「団長!」
ローレは生き良いよく僕の体に飛び込んできた。そのとっしんの威力と鎧の堅さが、僕のみぞおちを刺激し、思わずその場に倒れ込んだ。まるで組み伏せられるかのような態勢になり、どうすればいいのかわからない。
「「ちょ、ちょっとローレ、これは」」
「だんじょー!ごんながだぢでも、また会えてよかったよーうわーん!」
まるで憑き物が取れたかのように、彼女は思いのたけをぶちまけた。言いたかったこと、不安だったこと、騎士団のこと、僕のこと、何でもユッタに話した。彼女はそれをどうとらえたか知らないが。あたたかい感情に支配されたような気がして。彼女も再開を喜んでいるような気がした。ともあれそれが夜明け前の中で繰り広げられたため、人知れずねむってしまったようだ。
「起きなさい」
ローレに起こされる頃には日が昇っていた。なんだか、だるい気がする、貧血を起こしているようだった。よく見れば手が黒く色ずんで血まみれになっており、まさか眠っている間中に追加で出していたのではないだろうなと焦った。
「アウタースレーブ、私は騎士団をつづけるわ隠れ蓑としてね、貴方の教育係として、貴方を騎士として強くするの、ゲラルドも回復次第合流していくから、覚悟しなさいよ」
「え、あ、うん」
「あなたはウーダンカーク近くの大学であるマティネス大学のパラディンの学院に入学しなさい、手筈は私がそろえておくわ、いい?返事は!?」
「は、はい」
寝起きに何やら悪魔の住処に送られそうになったが、僕はアマーリアのとの約束を思い出し、すぐさま訂正する。
「ま、待ってくれ。僕にだってやることはある、アマーリアのために僕もしなきゃならないことがあるんだ!そんなすぐには無理だよ!」
「なら、その合間を縫ってやりなさい、一様私の家の養子ってことで出してあげるから、絶対に身バレしないように注意して執り行うのよ?詳しいことは1週間後、ウーダンカークで話すわ」
「いや、だから」
「あ、あと言い忘れていたことがあったわ」
ローレは振り向き、こちらを凝視する、僕の話の途中だったけど、あまりにも真剣な顔でこちらを向くものだから、話をやめて聞く側へと回った。彼女は少しもじもじした後、深呼吸をした。
「ごめんさない!もうあなたを殺そうとしたりなんてしないわ!」
「え?」
「昨日、ユッタ団長から聞いたわ、貴方も決して楽ではなかったのよね、配慮なんてできなかったし、聞く耳も持たなかったわ、これからは、しっかりとわからないことは聞くから、どうか許してね?」
ユッタ、僕のことを話したのか、しかもそんな都合のいいように話すなんて、もしかして、許してくれたのか?あの大惨事を?
「あ、うん、わかったよ、それと僕からも、あ~、ごめんね、今まで迷惑をかけちゃって、迷惑の枠を超えているけど」
「ええ、貴方が屑なのはわかっているからそこは問題ないわ」
「おおう、評価は変わってないのね」
「当たり前でしょう?あなたの良かったところなんて私にユッタ団長を再開させてくれただけじゃない、評価はここから上げていくのね」
「しょ、精進します」




