16 決意
馬車は夜道をごとごとと揺れながら進んでいく、目的地は町、それは僕が頼んだからだ、あの日と違って今日は月の明かりのない曇った空で、よりうっそうとしたように見える森を進む羽目になった。周りを見ても草ばかり、こんなところに本当に町などあるのかわからないが、道があるのだからどこかにつながっているのは間違いない。それを信じてぼうっとしていた。
「この先に町がありますぜ、伯爵様の作った町なんですが、これが豪華だなんのって」
馬車の男が語り掛けてくる、手綱を引きながらよく器用にできると関心したが、僕は興味がなく無視した。ただ、ずうっと森を見ていても面白くない。かといってこの男のために話の種があるわけでもない。仕方なしにまたぼおっとしている。聞こえてくるのは馬車の車輪が地面をこする音と、馬の呼吸のみだ。
「はぁ」
正直ショックだった。僕のセカンドライフとして生きる理由は、一人の独善的な思案によって成り立っていたからだ。神様だって人間をこんなに好き勝手させているんだ。そこまで極端な望みかけて生まれてきたらかわいそうだとは思わないのだろうか。ユッタはどう思っているのだろう?彼女のことだ、たとえアマーリアに言われたことならばすべて至福の喜びになるに違いない。でも僕はどうする。自分のためにもいきれない僕は?
「旦那、やけに物静かですね、そんなんで町に行っても何も楽しめないと思いますよ?」
馬主が後ろを向いて問いかけてきた。それよりもこののろまな馬車を速めろと言いたかったが、それも難しそうで、仕方なしに返答した。
「この町で楽しむ場所はどこになるんだ?良かったら案内してよ」
「へ?貴族様が遊べるところですかい?あっしみたいな平民にはどこへ行けば楽しめるかはちょっと・・・」
「どこの世界にぼろ雑巾を着た貴族がいるっていうんだ、僕はアウタースレーブだぞ」
馬の高い鳴き声が馬車を急停止させる。男が止めたのは間違いない、なぜ止めたのか?それが一番知りたいところだ。男は体をそってこちらを向いた。暗くて表情がわからないが、もしかしたら奴隷を馬車に入れたことを怒っているのかもしれない。どこに行ったって僕は敵対心を向けられ、基本的には拷問に近い苦痛を受け、いらない憎しみを生んできたような気がする。ならばこの男も彼らと同じ人間だったらそう思うだろう。
「それは、本当ですかい?ちなみにどこの出身で?」
思いのほか安定した声量だ。この森の湿度と相まって柔らかな印象を受ける。どうやら怒ってはいないのかもしれない。
「日本さ、ああ、体のことは気にしないで、確かに君たちと同じ肌の色だし目の色だ、体格だって比較的細いが骨格はまさに君たちそのものだ。だけど元々こうだったわけじゃない。生まれは田舎の方で工業高校を出ているんだ」
質問されそうなところをとにかく先に言っておいた。あとは返答を待つだけだ。
「そうでやんすか、どうすか?国の有様は、日本と違っているとこはありやすか?」
男は再び前をを向き馬を歩かせる。言葉遣いを変えないところから見ると珍しいことに軽蔑はしていなさそうだ。ただ、その質問はどう答えればいいんだ?外の景色を見ながら少し考えてみた。まず言って違うところを上げたところでわかるはずがないだろう。仮に男に対し「ここには自動車がない」なんていたところでさっそく自動車について教えなければならない。とするとこいつはもっとわかりやすい、いや、大きく違うところを聞きたいのかもしれない。それなら答えやすい、ただ気がかりなのは国の有様とはどういうことだろうか?その言葉はたいてい国の情勢や経済が落ち込んでいるときにいう言葉だ。
「そうだね、まず奴隷はいないかな?騎士もいない、貴族もいない、いるのは平民だけ、ここの奴は信じられないだろうけど、ルールさえあれば階級なんていらない社会だったよ、もちろんなんの問題もないわけじゃないけどね、でも豊かな国だった、できることなら大学に進んで技術者として生きたかったけど、それもかないそうにないな」
「そうでやんすか、聞く限り桃源郷のような場所でやんすね、昔聞いた通りだ」
「昔?昔とは、日本人がいたと?」
もしかすると、アマーリアが言っていた幼少期の教育係の話かもしれない。
「へぇ、今から15年前、ここには何人ものアウタースレーブがアマーリア卿によって集められました、それはアマーリア卿が分家し、王から頂戴した爵位で伯爵家一門を立てたころです、今が20歳だと聞きましたので、おそらく5歳のころですかね?」
「5歳?!そんな少女がどうやって伯爵家なんかおったてたんだ?!」
男は懐からパイプを取り出して、一服したのち、片手で手綱を操作しながら話をつづけた。
「それは当時、貴族の間で全能のガーディナルをブルクスラー家が輩出したことが原因でやした、魔導士の家とはいえ、あまりにも強力すぎるその能力に王はおそれをなしやしてねぇ、ブルクスラー家は過去には10代にわたりガーディナルを生んだことがあることもあり、その能力は魔法を使えない貴族の立ち位置や影響力を大きく揺るがす危険性があった、そこで分家というわけです」
なるほど、どこの世界でもそういうのはあるんだな、にしても5歳で伯爵家を襲名するとは、家族と離されさぞアマーリアも寂しかっただろう。
「周りは、と言っても貴族だけは名誉だなんだってもてはやしましてねぇ、確かに本家は子爵でしたし、魔法が使えれば昇格なんて優しい世界でない社会でしたから名誉なことだったんでしょうけど、食い物としてしか見ていなかった」
男はしみじみといった感じだが、ふっと我に返ったように正面を向き、少し笑った。
「話がそれやしたね、分家したアマーリア・シビレ・ブルクスラー家は妹のユッタ様を家臣筆頭としてこの地に領土を与えられ、文字通り子供の国を作り上げた、王は分家したのちに子供のままごとで疲弊した領土を評価して政治不十分とでもしてお家取り潰しを狙っていたんでしょう、だけどアマーリア卿は違かった、ただの子供じゃなかったんです」
「つまり話から察するに、その時集められたアウタースレーブの中に日本人が?」
「ええ、まぁ人狩りは百年前の時の奴ですから、連れてきたのは長距離移動しても過労で倒れない二、三世ですが、アマーリア卿は自身と家臣を守るため、ずうっと内政と勉学に励まれました、その際にのアウタースレーブ達は教育係として、父として母としてアマーリア卿を励ましていたときいてやす、中にはアマーリア卿に対し激しく叱咤した野郎もいたとか噂されたほど、親密になっていったんでさ、ただ、それが噂になっちまったのがいけなかった、それを聞いた他の貴族たちは、奴隷になめられるような貴族など資格として不十分だとか言っちまって、一気に領土狩り権威狩りが始まった」
すごいな貴族ってやつは、血も涙もない世界でお互いを蹴落とすことを至上としてる戦闘民族なんじゃないのか?そんな小さい子供を大人が寄ってたかって襲い掛かるとか日本だったら即TAIHOだぞ、なるほど、アマーリアが日本人というかアウタースレーブに執着しているのはそのためか、教育係はさぞ優秀な人だったに違いない。それを僕に思い描くなんて、期待外れな結果しか出せないような気がしてならないんだが。
「アマーリア卿はアウタースレーブの教育により、成人していたとはいえ非常に秀才でした、あの手この手で他の貴族を圧倒し、領土と家を守りきった、が、アウタースレーブを守る余裕はなかった。その結果、日本人を除くものは皆殺された、日本人は身分を偽装してどこかに隠れたとか」
成人っていうとこのせかいだと14歳ぐらいか?マジで?俺まだ鼻くそほじっていたぞ?そんな年頃でそんなことできるの?
「最後に残ったアウタースレーブは、仲間の分までしっかりと彼女に知識をたたき込み、今は別の人物として生きているとかなんとか、彼らのおかげで、この領地は発展し、王国有数の領土にまで成長したってわけですわ、だからほかの領土の奴と違って、ここの奴らはアウタースレーブに頭が上がらないってわけで」
そしてそのアウタースレーブがいない今僕に白羽の矢が立った?
「・・・待ってくれ、それだと僕は補充要員として呼ばれたとかいわないよね?」
「まさか!貴方がここに来たのは偶然ってもんで、アマーリア卿は先の一件で監督不十分として市場の奴隷の購入を禁止されやしたから、ほんとうにきせきみたいなもんですわ」
「ならいいけど」
「それだけアマーリア卿にはアウタースレーブっつうのは家族みたいに大切にしていやしたから、こういっては何すけど、貴方のような新参者が取って代わることができるほどじゃないですわ」
「そうでっか」
それに今の話を聞いて、仮に補充要員として呼ばれても、無理もないと思う。やっぱり、彼女は変わっている人なんだな。だけど、彼女の望む民主化はそうまでして守ってきた領土を捨てることになることを知らないのか?きっと知っているはずだ、そうまでしてやることに果たして本当に独善でやっているのかわからない、なにかほかに理由が?想像がいくつもの明かりになっては増えてゆく、まるで目の前の景色のよう、景色?
「見えてきやした、この領土最大の都,【パーヴァパラ】ですぜ、あそこはアウタースレーブの作った町、幼少期のアマーリア卿を知るにはピッタリっすわ、あそこに行けば、この世界を変えたくもなりますわな」
「なぜそれを!?」
思わず飛び起き起きて天井に頭をぶつけてしまった。痛みにもがいている傍ら、男はそれを見て笑っている。冗談じゃない、それはまさにアマーリアの言っていた民主化の話ではないか、こんな奴にまで聞こえてくるとか、あいつ防諜という言葉を知らないのか?もしこれが領外の奴にまで知れ渡ったら・・。
「安心してくださいや、ここの住民でそれをばらすほど恥知らずな奴はいないっすわ、それにこれ実は集会でみんなに説明していたぐらいで、面白い領主もいたもんだとみんな笑って聞いていねぇ、まるでおとぎ話みたいな話で、本気で言っているのかわからないぐらいっすわ、だから住民で知らないやつはいないんですわ」
「あ、ああ」
脱力してまた座る、あまりに大胆なことをしてくれたもんだと肝を冷やし、度胸に感服した。さてはてとんでもない女がいたものだ。
町の入口まで来てみたが、王都に比べやはり見劣りする部分もあり、そこまで発展しているとは思えない、比較的整備された道路はともかくとして、建物は全部新しさを感じない古風な都といった感じだ。それは道行く人も皆同じ、古臭い異国情緒のあふれた服装をしている、貴族のように煌びやかとは言えないが、それでも僕には大いに興味を持たせるものばかりだ。ただ、アウタースレーブの足跡が見当たらないことは気がかりだが。
「見当たらないな、どこにアウタースレーブの作った町があるのかな?」
皮肉を込めて言うつもりはないが、とがったことを言ってしまった。
「この町でさぁ、この規模の町を十数年で作り上げるって考えたら、どれだけすごいかわかりやす?一度おりやしょうか?案外探索も楽しいかもしれないですぜ?」
馬車は停止し、男はドアを開けた。気づけば貴族用の馬車に乗っていたこともあり、少し人だかりができていた。皆々降りてくるぼろ雑巾を見るなり、ざわめきが増した。
「あれ?領主様じゃないの?」
「ああ、間違いない、あれは奴隷だろうな」
「でもあの金髪碧眼、私たちと同じユーギリアの民でしょう?なんで奴隷なんかになっているの?」
「それより、なんであの馬車にそんな奴が乗っているかの方が不思議だろ?」
その言葉を聞いた男はピクリと体を震わせた。一呼吸おいて息を吸い、顔が赤くなるまでの大声を出した。
「おいおいおい!そんな奴とはどういう了見でぇ!このお方はぁ!この町の創設に携わった伝説の奴隷、アウタースレーブだぞぉ!お前たち図が高い!控えおろお!」
うるさい、どうだっていいだろうそんなこと、とはいかなかった。群衆のざわめきは増し、疑問の声はいつしか歓喜の声に代わっていったのだ。男の大声より、こっちの方がびっくりした。
「おおお!アウタースレーブだって!?もう来ないと思っていたのに、神は我らを見捨てなかった!」
「希望の使徒だ!みな歓迎しろ!久しぶりのお客さんだぁ!酪農家は乳を!肉屋は肉だ!肉を持ってこい!そして肉屋飛脚の威厳にかけて皆に知らせるんだぁ!聞くやつも一言一句聞き逃すなぁ!お帰りだ!アウタースレーブのお帰りだぞ友よ!」
この世界にきて初めての歓迎を受け困惑する。何が何やらわからないが皆にもみくちゃにされて身動きが取れない。多くの人が僕に問いかける、出身はどこだ、どうやって来たんだ、なぜ肌の色が同じなんだ、そんなこと一度にこたえられるわけがない、ひとまず群衆をどけなければならない。このままでは押しつぶされてしまう!
「わかったわかった!聞きたいことがあれば後で答える!ひとまず僕を自由にしてくれ!」
逆効果だった。芸能人じゃあるまいしとは思ったけど、しゃべっただけでまたも歓声人が集まる。こんな小さい町ではすぐに広まってしまう。緊急事態だ!もう息ができる余裕もない、誰か助けてくれー!
「おう!どけどけ!お前ら離れろ!このお方はこの町のアウタースレーブの痕跡を探しに来たのよ!あっしらの歓迎はそのあとだ!さぁ!散った散った!」
男は仕切り屋のようにあたりの人たちを払いのけた、おかげで自由になり彼に感謝、そしてすぐさま馬車に逃げる、このまま出て歩いても同じことを繰り返すだけと察したからだ。
「馬車を出せ!早く!」
「合点招致!」
「字が違うぞ!?」
男は勢いよく馬車に乗り込み、手綱を操り馬車は発進した。それは心なしか速度が速い気がする。彼らは皆その馬車をみて喜んで歩み寄る。もう話が広まっているようだ。あまりの臨場感に口をあけながらぼーっと見ていると。なぜか笑えてきた。
「あははは!、はっはっはは!、は~!」
うれしくてしょうがない。初めての歓迎だから無理もないが、それでも思う、歓迎なんて今までなかった。人に喜ばれるのってこんなにうれしいものだったっけ?なんていい気分なんだ。思わず涙までこぼれてきた。
「旦那!まずはどちらへ?もしよろしければ案内しますぜ?」
「そうだな、頼むよ」
男の合図で馬車は走り出す。行くy区スピードは上がり群衆を置いてゆく、変わる景色は流線形へと変化し、一周のうちに通り過ぎるようになってきた。車輪ががたがた言い始める。これはどちらかというときしんでいる音だ。
「早い!速すぎないか!?いくらなんでも飛ばし過ぎだ!スピードを落とせ!」
男は返事せず、こちらを向くこともなく、ひたすら叫び続ける、甲高い声で、笑いながら叫び続けた。
「お帰りだ!アウタースレーブのお帰りだ!」
街並みはやがてある建物に止まる、みたところ大きい建物だが、これは一体何だろうか?
「ここは図書館、もちろん非公式なものですがね」
「非公式とは?」
「旦那方の方ではどうか知りませんが、こっちの世界では本の出版ってのは厳しくてねぇ、好き勝手書くことはできないし、売ることは論外だから誰もかれもが読みたいものを読めないんですよぉ、だからアウタースレーブは図書館を非公式に作り、みんなが読みたいものを読めるよう密造の出版を請け負う組織を結集したんです」
どう考えても地下組織にしか思えないんだが、つまり出版社を作ったってことでいいかな?なるほど、よくわからんがすごいことだ、アンチ王党の精神を後世まで引き継ぐには効果的なんじゃないか?ただ、一つ思おうことがあるとすれば他には?具体的にはここに来たものが残した発明品とか、後はそう、何か技術的なものを探したいんだが。
「次頼むよ、馬車出して」
再び馬車は走り出し、男は笑う、今回は当てが外れたが、まだいくつかあるそうだ、気を落とさず、次に期待しよう。
「ここですぜ旦那」
「ここ、ただの宿じゃね?」
どう見ても宿屋だ。これと言って何の変哲もない。いったいここに何があるというのか。
「ここには名簿があるんすわ、この町を創設した15人のアウタースレーブの名簿でっせ」
思わずずっこけてしまった。いや、確かに僕は言った。アウタースレーブの史跡が見たいと、それは一種の記録と考えてもおかしくないだろうが、僕が言いたいのは地球の文化らしさがどこかに残っていないのか、それを見れるところはどこかと聞いているのだ。正直言って名簿など見たところでこれといった価値はないし、100年前に知人はいない。もっと具体的に言っておくか。
「地球の文化が残ってるところ、つまり異国情緒のある区域を見たいんだけど」
すると驚いたことに男は困惑した顔を見せた。頭を抱え本人なりに必死で考えていることがわかる。眉間にしわを寄せ、ただやみくもに考えるその姿勢は静だ。
「すいやせん、やっぱりわかりませんわ、そういうのはここいらにはないんじゃないですかね?」
「待ってくれ、本当にアウタースレーブはここにいたのか?せめて地球の文字が見たいんだけど、本とかで残っていないの?」
「残念ながら、ないっすかねぇ、あったとしても、あの騒動の際に焼いてしまった可能性が」
こうなるとアウタースレーブの過去の存在そのものが怪しく感じてくる。せめて決定的証拠である文字があれば、すぐに判明するのに。そう思い聞いてみたが、石碑も何もないこの町に、どうやって彼らは使えない言葉を記すかを考え消沈した。モニュメント以外であれば紙に記すとかあったと思うが、それすらないのであればもう窮地に立たされたようなものだ。
「あ、でも待てよ?旦那、もしかしたらあるかも」
「どこだ?!」
叫んだおかげで、男は大層驚く。
「へ!?、えっと集会所って呼ばれている建物です。もしかしたらそこにあるかもしれないかと・・・」
「馬車」
馬車は走る。行く先はどうやら教会のようなところであった。やはリ見た目にないか特徴があるようには見えない。
「ここはかつて、アウタースレーブの集会所でした。アウタースレーブはアマーリア卿に何を教え、何を伝えるかを決めるためにここに集まったとされているんでさぁ、今は誰も使っていないんで、多分当時のままだとおもいますぜ?」
ドアはかたい、どうやらカギがかかっていて開くことはできなさそうだ。できることならすぐに開けたい。彼らは僕のようにここに連れてこられ、何を感じていたのかすごく興味がある。まさに同じ境遇ではないか、彼らは僕と同じに迫られたはず、アマーリアに協力するか否か、それを見るにはうってつけではないか。そこから分析し、ぼくの答えを出す。
「ここは開けられないの?」
男は頭を掻き、少し残念そうな顔をする。
「ええ、どうにか開けることはできないか皆試したんですが、どうもできなくて、この建物は窓がなくこのドアを除いてほかに侵入できないんすわ」
残念だが何も手がかりがここだけにあるとは思えない、壁だ。たいてい、壁には落書きが残っていることがある、人の集まる集会所ならなおさらだ、それを探すことができればと思い一周することにした。
「あった!」
ビンゴだ、確かにあった。かなり風化していて読めないところもあるが、彫ってあるおかげで多くの文字が残っている。だが、これは英語、しかも行書体だ。他にもフランス語、中国語、あちこちにいっぱい書いてあるじゃないか!
「日本語だ、日本語を見つけられれば・・・」
「日本語ですか?それならこいつじゃないすかねぇ?これをみんなそう呼んでいるんで」
男の指す方向に目を向ける、風化しているが確かに日本語だ!
「こいつだ!なんて書いてあるんだ?」
ここに僕と同じ境遇者がいる。彼らが何を思い、何を知ろうとしたのか、そしてなぜアマーリアに従おうと決めたのかがわかる。セカンドライフはここからだ!ここに意義が詰まっているんだ!これが僕の、生きる理由だ!これでアマーリアにも返答ができる!
<i>ここに死ぬことを覚悟はしていたが、まさかアウタースレーブの三世に知恵を求めるなどだれが考えようか、博識で有名だとは言うが、三代も過ぎれば知識などほとんどない、まったく困ったお姫様だ、外から来た血があればみな知識があると思っている。しかし期待外れなことをすれば命はない、彼女は貴族だ、まだ幼いとはいえアウタースレーブを殺すことなど造作もない。何とかしなければ、何とか・・・。せめてじいさんの学びをしっかり聞いておくんだった。今はただ、残った過去の記憶を頼りに彼女に教えるしかない。見たこともない故郷の光景と、その社会を。 </i><
一瞬時間が止まった。が、感情は時間すら操るのか、今度は早く感じた。
「くそお!糞糞糞!」
壁をできる限り蹴り破り、文字を消そうとする。怒りが有頂天になるのは湯沸かし器顔負けであった。舞い上がっていた自分が余計腹が立つ、さっき馬車の男も言っていただろう、100年前、継承記念の際にとらえられたアウタースレーブではない、二、三世のものが集められたんだと。そんな簡単なことも見落としていたのか!
「楽しいか!ああ!?楽しいかよ糞神様!人を上げて落とすのはそんなに楽しいか!糞野郎!道理でだよ、道理でこの町に思い出深いものがないと思ったよ!そうだな!その通りだ!屑が!奴らは何にも知りやしなかったんだ!」
アウタースレーブに知識をあやかろうと幼いアマーリアは思ったのだろう。それで集めたのはわかっている。だが、年を取り過ぎた。いや、年寄りを連れてくるべきだったんだ!それなのに、何でこんなことに。これじゃ無駄だ。わかるわけがない、彼らと僕は別物だったんだ。僕と違い、嫌でもやらされただけで、選ぶ権利すら与えられていなかったんだ。しかも僕に関してはそれが生まれてきた理由、セカンドライフの意義だったのに。この世界での存在理由だったのに!
「同胞なんかじゃ・・・なかった」
「なんです旦那、そんなに困った顔をされても、こっちでは何が何だかわからないんでさぁ」
「ああ・・・問題ない、あと、ほかの史跡に行く必要もないよ、彼らは、アウタースレーブは、もういないからね、そもそもここには、本当のアウタースレーブはいやしなかった、これで本当に一人だ」
「それは生きているやつがってことですかい?」
変な質問をするやつだと思った。どう考えたってそういう意味ではないだろう。もっと意味深な方だよ。比喩表現だよ。
「生きているやつだったら、もう一人、旦那と同時期かその前ぐらいにきやしたぜ?」
「なに!?それは本当か!」
「へぇ、女のアウタースレーブで、刻印があったんで逃亡奴隷かと・・・。酷いけがをしていたからヴィンセント様の治療ののち、今はこの近くの役場で療養中ですわ、かなり回復しているらしいから、ってうわ!」
胸倉を掴み、男を宙に浮かす。
「なぜだ!?なぜそれを一番最初に言わなかったんだ!」
「だ、だって言えって言ってなかったじゃないですか」
「案内してくれ、すぐに!」
馬車は先ほどと一転した動きを見せる。まるで戦車、荒れ狂うチャリオットのようだった。その運転する男の顔たるや、喜びなど感じない、血相を変えて必死に操作している顔だった。ただひたすらに動くその乱暴さに多くの住民は何があったと慌てていた。
「こ、ここです旦那、まちがいなくここ」
息を切らし、肩で呼吸しながら男は言った。僕は彼女に何を求めていたのだろうか。彼女が僕の救いになるだろうか?嫌きっとならない。だが、それでも逢いたい。会って話がしたいと思った。孤独感と果てしない絶望を感じていた僕には。同じ境遇のものがほしかった。いや、彼女もそれは同じ、まだあったこともないけどこれは奴隷でなければわからない。彼女も仲間に会いたがっている。
「見たところただの一軒家のようにしか見れないんだが」
そこには森の入り口に置かれた二階建てのレンガの家があった。煙突から煙がでていることから人がいることは間違いない、男は馬車のかたずけ、馬の休憩の措置をとっていた。しばらく時間がかかりそうなので待つこともないと思い、ドアをノックした。
「ごめんください、そちらで療養中のアウタースレーブに会いたくて来たのですが」
しばらくして中から優しい顔のした背の低い老婆がやってきた。どうやら腰が曲がっているようだ。
「あら、貴方はどちら様?」
微笑みながらこちらに問いかけてくる。見たところエプロンや頭に三角巾のようなものをかぶっていることから、この人が世話をしている可能性が高い。
「急にすいません、アマーリア卿に仕えているアウタースレーブです、ここに同胞がいると聞いて、ここまで来ました」
それを聞いた老婆は目を細め、うんうんとうなずいた。
「どうやらそのようですね、ようこそいらっしゃいました、ここは夜だから寒いし、どうぞ中へ、いろいろ話したいことがあるのでしょう?アウタースレーブがこの町に来るときは多くの人が歓迎でお祭り騒ぎになってしまう、早く入らないと誰かが見つけてまた騒ぎますよ」
老婆の言うこともごもっともだったので僕はいわれた通り中に入り、鍋を煮ている暖炉に近づいていった。あたたかい。気づけば老婆の計らいで椅子を用意してもらい、ブランケットを膝に乗せただ座って待つことにした。もちろん老婆が彼女を呼んでくるのをだ。だが、先に老婆が返ってきた。
「いやぁ、せっかく来ていただいたんですけど、時間が悪く湯浴みをしている時だったものですから、彼女はまだ体が完全に治っておりませんので、ヴィンセント様のご指導を承った、この老婆が洗っていたんですよ」
「そんなに様態が?」
「いえ、一時的なものですよ、この婆やの腰に比べればまだましです、へっへっへ」
「はは、どうやら、出直した方がよさそうですね、また来ることにします」
「いいえ、すぐに終わりますからお待ちなさいな、はるばる王都から来たのでしょう?自由の身として会うことができるのですかから、お互い積もる話もあるだろうし、彼女にも伝えておきますよ」
「いや、そんな迷惑なこと・・・」
「友人の友人が来たのに迷惑なわけないじゃないですか、いいから待っていて」
そういって老婆は鍋を開け、大量の湯気のでたぐつぐつと煮た湯を鍋ごともって奥の部屋の方へ行った。湯気が部屋から漏れているところを見る限りあれは入浴のために使っていたのか。決して軽くないだろうし、老婆にいらぬ世話をさせるのもどうかと思い、せめて邪魔にならないようにまた出直そうかと立ち上がった。ただ願わくば、そのアウタースレーブに話がしたかった。でもいまだ重症のようであるし、無理は禁物だよな。
「キャーッ!カミラさん!カミラさん!」
「後ろにお下がり!大丈夫!指一本触れさせません!」
突如女の甲高い悲鳴が浴場から聞こえてきた。どうしたんだ!?まさかローレが暗殺に!?俺の周りにアマーリアたちがいないことをいいことに!糞!このままじゃばあさんたちも危ない!助けなきゃ!大丈夫だ僕には騎士の能力、烈火のパラディンがある。最悪丸焦げにしてでも・・・これ以上余計な犠牲を生むのはごめんだ!
「この!暴れなさんな!」
勢いよく浴場に走り出し、ドアをこじ開ける。
「二人とも下がって!ローレはきけん・・だ」
湯気で湿度の高いこの部屋では、よく視界が見えないが、明らかに見覚えのある男が寝そべっていた。
「この、覗き魔め!恥を!知りなさい!恥を!」
老婆は容赦なく山高帽子をかぶった男を鍋で攻撃している。とんでもない怪力だ。むしろ心配して損した。
「ひい!すいやせんすいやせん!たまたま!たまたま見かけたらいい女がいたものだから、グフ」
「まったく、とんでもない人がいたものですね、後で木にでも縛り付けてこきましょう」
「カミラさん!こっちもだよ!」
湯気で見えなくても、心の目で察することができた。この惨状から来る次の事象は。
「あなたもかー!」
強烈な鍋の硬度と特有の固有振動が脳を揺らし、僕はそこで意識を失った。ただ、その消えゆく意識と倒れ込む角度から、何とも表明ただしがたい肌色の双頭の山脈を見ることができたのは、幸運であったに違いない。
「んー、D」
「キャーッ!」
すさまじい張り手がさく裂し、完全にそのあとは覚えていない。
起きたらそこは見知らぬ天井だった。失礼、レンガ造りの暖かい部屋のベットの上で、隣に例の男とともに寝かされていた。あたりに老婆と例の彼女の姿はなく、探すためために起き上がる。しかしすぐに見つかった。寝室の隣の居間であった。彼女はケガをしていたため、包帯と薬?ポーションと考えるべきであろう
謎の光輝く薬を飲んでいた。先ほどの衝撃で視界がぼやけているが。彼女の顔には印象深いものがあった。それは日本人独特の童顔であったことだ。彼女は独特な顔もさることながら、なじみ深い顔つきでもあった。あどけない顔つき、ボーイッシュな短髪の黒髪、そして声も、聴いたことのある声が、聞こえる。
「はい、できましたよ」
老婆はそういうとぬるま湯できれいに彼女の肌を拭き、包帯を巻いていた。
「ありがとうカミラさん、アレ?あ!さっきの覗き魔二号!」
その強気な態度もよく知っている。
「鈴谷・・・さん」
間違いなかった。あの時、奴隷市場で伯爵の男に買われたときに別れたはずの鈴谷さんで間違いない。もう二度と会えないと思っていたが、まさか逃亡奴隷となっていたなんて、でもどうやって?刻印がある以上、どこまで逃げても権利は剥奪される。誓約書が記されたその刻印は、それこそ一生持っている者だ。もし逃げている時に誰かに見つかったらすぐに連絡がいくはずだ。でも、それでもとにかく。
「鈴谷さん!鈴谷さんじゃないか!ああ!よかった!生きていたんだね!どうやって逃げた知らないけど本当に良かった!ここなら安全だ!」
「ふぎゅう!痛い痛い!おい!やめろこら!」
彼女に抱き着き、涙を流しながら喜んだ。ヴィンセントに続きまた再開だ。それも日本人と!こんなにうれしいことはないだろう。ついつい彼女のケガのことを忘れ、強く抱きしめて彼女を困らせてしまった。我に返り、手をほどく。お互いに向かい合いになり、カミラに微笑まれた。
「それじゃ、私は先に休みますのであとはよろしく」
鈴谷さんはえ?!と言ってカミラを制止しようと思ったが、カミラは耳が遠いしぐさをして寝室へと向かった。それを見て観念した鈴谷さんは、僕と対峙することを決意したらしく、ムッとした顔になる。
「なんだ手の掛かる子供じゃあるまいし、男ならシャキッとしろ」
「そんなこと言ったって涙は止まらないんだよ、できることなら力の限り泣き叫んでおきたいぐらいだよ」
彼女はため息を一つ、方眉を動かして覗き見るようにこちらを見る。
「ところで、あんた誰?っていうか鈴谷って?」
「え?あ」
そうか、名前はなくなるから覚えていないだろうし、僕は転生しているから顔が少し違うんだった。髪の色も目の色も違うし、こんな見ず知らず男が抱き着いてきたら普通怪しむよなぁ、なのに、鈴谷さんはさすがだな、まず説教から入るっていうスタンスは初めて会ったときと変わってないし、初めて会ったときは敬語調のしゃべり方だったけど、きっと初対面だったからで、こっちの方が自然だなぁ、いつもこんな感じで話しているんだろか。
「ああ、僕は君が奴隷市場にいたときに、担いだ男だよ」
「は?嘘コケ、あいつは日本人だぞ?あんた見たところここの人じゃないか、またはヨーロッパ人でしょ、何より、あんなのみんなに見られてるんだからあそこにいたら知ってるだろ」
「まぁ、そうなんだけど、でも、どことなく似ている顔だろ?それに僕は鈴谷さんの姓を知っていたでしょ?まぁ覚えていないだろうから信じられないだろうけど」
「んん?知らないことを言われても困る、何か証明になるような、例えば何をいつ話したとかそういうのは?」
頭をかいて考える。彼女に何か自分を証明できる方法はないか。どうにかして本人だと・・・うーん。
「そうだ、ねぇ鈴谷さん、これはテレビなんかじゃないでしょ?現実だったでしょ?」
「ん?まぁ、確かに・・・」
「違うよ鈴谷さん、これは僕と鈴谷さんが初めに交わした話題だったんだ、僕はこういったよ、わからないってね、まだ5.6日前のことだから、よく覚えてるでしょ?」
「え、あ」
一度はポカーンと動かなかったが、カチカチと記憶の歯車が僕の形を形成していったようで、唾をのんだ。そして、僕と同じように強く抱擁した。身体の感触を確かめ、これが現実かどうか確かめる。
鈴谷さんは途端に口がパクパクと動き始めた。何か言いたかったが声がしゃくりあげてうまくしゃべれなそうだった。両手を震わせ、目を潤ませる。ようやく理解したようだ。まぁ、体のことは半信半疑だとおもうけど。何もかもがそろったとき、彼女は豪快に泣いた。滂沱と表記した方が正しいかもしれない。のどがかれるかという大声で、脆弱な体でできる力の限り、彼女は泣いた。もちろん僕も泣いていたが、彼女の声に少しほっとして、泣き止んでいた。
「あ、あたし・・」
すすりあげる合間に聞こえる声に、僕は集中した。
「うん」
「名前は・・・なんていうの?」
それをどれだけのアウタースレーブが望んでいるだろう。皆、知りたいにきまっている。自分の証であり、家族の絆であるものだから、自分が地球から持ってきた無二唯一のものなのだから。
「麗奈、君は麗奈というんだよ」
「そうなんだ・・・うええええええん!」
また大きな声が響き渡る。今の僕には多くの罪があり、犯した過ちがある、だけど、それが今は帳消しになるほど、そう思えるほど僕は感動していた。この瞬間、いったい誰が邪魔できるというのだろう、誰も邪魔しない、今はただ、このままでいい。
「僕ば?僕はなんていうの?氏名で教えてよ」
彼女は責務を果たすべく、何度も咳払いをし、平静になろうと努める。何度失敗したって絶対にあきらめようとせず、僕と顔を対峙して、大きく鼻をすすり、深呼吸した。
「あんたはね、高野晴馬、高野晴馬っていうんだよ?」
その瞬間、僕の記憶のすべてに名指しされた、すべての記憶の呼び出しに辻褄があった。どこ記憶の会話も成立し、後ろから呼ばれた声、教師から呼ばれた声、親から呼ばれた声、親友から呼ばれた声、日常から聞いていた声のすべてから、僕は返答することができた。名前が分かった。僕は名前を取り戻すことができた。もちろん実感はない。これが本当に僕の名前なのかはわからない、たとえ聞いたところで証明もできないし、それを知っているのは鈴谷さんだけだ。でも彼女がどうしてうそをつくだろうか?そんな無意味なことをこの状況で擦るほど彼女は馬鹿ではない。
「そうか、そうか・・・ありがとう鈴谷さん、おかげでしっくりきたよ」
「うん・・・」
しばらくお互いにしゃべることはなく、ただひたすら再会できたことを喜びながら過ごしていった。これからの予定とか、どうやって生きていくとか、それより、お互いはどうやってここまで生きてきたのかを知りたくなったのは数時間立ったころだった。僕はどこまで話していいものか悩んだ。赤裸々にすべてを話せばどんな人間も嫌悪感を示すことは明白だったからだ。だが、すべてを話さないのもどうだろう、そうやって偽っていたところでどこかでぼろが出る。とはいうものの、転生なんて説明してだれが信じよう。そう考えた僕は、転生した後は語らず、身体をルッツの実験で失い身体を魔法で入れ替えたと説明した。
「そうだったんだ、だから体が違うんだね、どうりでわからなかった」
暖炉のところで二人、ソファーに座りながら話した、薪の燃える音と彼女の声のみが、部屋を支配する。とても、静かだ。
「うん、僕はそれからアマーリアにお世話になっている、でも不思議だね、その間、お互いのことを知らなかったなんて」
そういうとお互いに笑った。確かにおかしな話だと鈴谷さんも感じていたらしい。
「あたしは三日前くらいにここに逃げてきたの、その時はもう捕まってもいい、助けてもらおうと思って町に来たら、こんな感じでみんな介抱してくれて、たまたまセージのカミラさんが町医者をやっていたから、そこでケガを治療してもらったの」
「セージ?!あの人セージなのか!?」
「あ、でも君の話に出てくるような人ではないよ、あの人は今はどこの研究所にも務めてないし、もう60年もここで町医者をやっているって言ってた」
「そ、そう、どうもセージってのにはあまりいい思い出がないものだから、なんかセージとパラディンの違いもいまいちわからないし」
「なんかあたしもよくわかってないけど、ポーションとか作っているのがセージで戦うのがパラディンなんだってカミラさんが言ってた」
ともあれあの人がルッツのような人でなくて良かった、おかげですべてのセージに憎しみを向けることはなさそうだ。しかし、60年か、長生きなこともさることながら、ならば15年前に町が創設される前からすでにここにいたことになる、そのころと今はどう違うのか聞き込むのに非常に興味があるな、ぜひとも後で聞いておこう。もしかしたら、あの集会所についても詳しく知っているかもしれない。あの施設内部にある、3世達の物について何かしっているかも。
「ところで、鈴谷さんはどうやってここまで逃げてきたの?刻印もあるし、逃げても直ぐにつかまったら」
彼女は鋭い目つきでこちらを見る、そして目を閉じ、声を震わせて話してくれた。興奮しているのか、息が荒い。
「思い出すのも嫌になる、あたしは奴隷市場の時高野君と離れた後、あのデブに買われた、刻印はその時に、全身を油で揚げられたような感覚だったのを今でも覚えてる、そのあとはあの男の屋敷で働くことになった。あたしはてっきり農場とかに働くものだと思っていたし、現にそこの使用人からも奇怪な目で見られてた。今思えばあの男はそれを楽しんでいたんだ、そうやって奇怪の目で見られて苦しむ詩型を見て喜んでいた、そうしていくうちに、あの男にムチを打たれるようになった、使用人はそれを止めることもできず、ただ見ながら日常を過ごしていく、そんな環境が続いて、長かったら絶対に発狂してたと思う」
やはり、予想はしていたけどかなりひどい状況だったんだな、この世界に流れ着いたアウタースレーブで、どれほどの人が同じ状況に立たされているのだろう。考えるだけで煮えたぎる感情がわく、ほかの人と面識があるわけではないが、一種の仲間意識、部族意識に近いものを感じ、いったいどこにそれをぶつければいいのか考えていた。
「でも、鈴谷さんは逃げ出すことができた」
たまらず口を噛みしめていたが、その後の話を聞いた。そこからが一番重要だったからだ。逃げれたということは刻印が解除されることが条件だ。そうするには、主人が死ぬしかない。
「あれはすぐに起きた、あの男が奴隷市場で説教してた夫婦、あいつらが屋敷を襲った、50人は超えようかという兵隊を連れてきて、そいつらに火を放たれて、男に折檻されてたあたしは、それを気づいてどうにか隙をついて逃げてきたの、でも、あの男は逃げきれなくて、火だるまになったのを覚えているわ、結局体に残った刻印は消えることはなかったけど、誰の物でもない私は解放奴隷とかいう扱いになった、だから、奴隷狩りから逃げて生活していたの」
「そうか、短期間でもその内容、もしかしたら、ほかの人たちはもう・・・」
僕がうつむいて話すと、彼女も声のトーンが下がり、お互い最悪の事態を覚悟した。
「殺されているか、飼いならされているか、逃げ出したか、逃げれた奴なんて、そうはいないだろうけど」
また重い空気がおもくのしかかる、やはりここは僕たちが生きるにはあまりにも住みにくい世界だ。どうやって生きようとも、背後の刺青がいつだって人々から平等には視られない。どうしたって、僕は野毛れることはできない。この種族の呪いからは逃げるkとは出来ないのだろう。ならばどうすればいい?いったいどうすれば僕は良いんだ。
「帰りたい」
鈴谷さんは涙ながらにそういった。その時、心臓は急加速で高鳴った。言えない、言えるわけがない、帰ることなどできはしないことを。ひそかに知っていた僕は酷く困惑した、しかしあるはずのない希望を頼りしているほどむなしく無意味なことはない。もしいうのなら、今すぐ言った方がいい。それは間違いないのだから。何が正しい、何が一番適切だ?心の中で考え抜き、どうにかできぬかと考える。ただ唯一わかることは、希望は常に暗闇に歩くことを望んでいることだ。
「帰りたいよ、日本に」
「だ、大丈夫だよ」
何が大丈夫だというのか、理解しがたい。
「ぼ、僕の手を見て」
僕の手は例のマグマのヒビを持つ手になっており、彼女をおどかせた。動かないからだを仰け反らせ、思わずソファーから転げ落ちてしまったようで、片腕で抱き起し、元の場所に置く。
「い、意外と力があるんだね」
「あ、ま、まあね、でも見てよこれ、あるひ突然にこうなったんだ、人間わからないものでいつどんな時でもその世界に適用しようとする、そういう力があるんだ。鈴谷さんはそういう力はある?」
彼女は少し考えて、真剣な顔になる。
「ない、私手をそんな風にすることできないし、魔法も使えないし」
ですよねー。
「じゃあつまり、適応する必要がないと体は判断したんだよ、それは、いつか分からないけど。君は帰れるんだよ」
「何でそんなことを言えるの?極端に適応できなかっただけかもしれない」
しまった!そのことは考えていなかった。やはり、適当に言うもんじゃないな、必ず墓穴を掘る羽目になる。しかし掘ってしまったものはしょうがない。ここはでたらめでもいわなくては。何か気の聞く無責任ではないものを。
「その時は、僕が連れて帰るよ、約束する、実は帰る方法はないわけじゃないんだ、ただそれには王の亡骸を見つける必要があるんだけどね、必ず見つけて君を帰すよ」
墓穴があるなら入りたい。誰か後でうめてくれ。
「ほ、ほんとに?本当に返してくれるの?」
鈴谷さんは不安そうな顔でこちらを見る。それは、僕に本当にそんなことができるのかという考えと、喜びの両方を兼ね備えていた。
「エ、モモチロンサ、ナンタッテボクハパラディンダカラネ」
「信じるよ!嘘つかないでよ!?」
ええい、まどろっこしい。そこまで言うなラ僕だって本気でやってやる。できるできない関係なく、元背の世界へ帰る方法を模索する!
「当たり前だよ!嘘なんかで言うもんか!必ず、必ず日本へ帰るぞ!一緒に!」
鈴谷さんの肩を掴み。必死に言った手前、もう後戻りはできない。こうなればだれが無理と言おうと模索しなくては、そのためには僕が自由に闊歩できる世界が必要だ。どうやら、協力するしかないようだ。まさかこんな形で鈴谷さんから力をもらうとは思っていなかったけど、こうなればやるしかない。アマーリアに協力し、見返りとそて日本に帰る方法を協力して探る。彼女は万能のガーディナル、どこかの種族が何か知っているかもしれない。それを協力して探ることで希望を見出してやる。
一様これで奴隷編は完結となります、次回からは悪党→政党編となりますので、もしよろしきければまたみてください。
また、発明系・工業系の物語を期待していたみんな皆さま、大変お待たせしました。これからスタートです。
バトル系の皆さん、作者は勉強し、類語辞典を使ってどうにかバトルの質を上げることができそうなので少し期待してください。




