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悪党のすすめ  作者: と
奴隷編
17/63

15 惰性

「すいませんアマーリア卿、おかげてすっかり夜になってしまいました」


「いいえ、気になさらないでくださいマンフリート、おかげで私も楽しい食事をすることができましたから」


そのようだ、結局、この食事で騎士称号の授与についての話題は二度と起こらなかった。原因は酒である。ワインが出てきてからどんどん話はまじめなものから脱線し、下世話な話、そして悲しい貴族の恋の話など、かなりどうでもいいことまで話すようになったからだ。これに対して僕とローレは一喜一憂しいつから実行しようかとすきを探していたのだが、どれも水を差すようなタイミングしかなく、そのうちローレもワインに手を出し始めて・・・。


「えへ、えへへ」


御覧のようにへべれけになりながらにこにこする人形のようになってしまった。果たして今の彼女にあんな重要なことをできる余裕などありはするのだろうか?最悪の場合、僕だけが騎士の授与を断るようにしておかなければならなそうだ。空も暗くなり始めて、いよいよその手の話や式を行うにはちょうどいいころ合いになっている。ここを逃せば僕に命の保証はない。こうなれば、自分から言ってやるか。


「すいませんアマ、ご主人様、騎士の称号授与についてお話が・・・」


「何かしら?何か不都合でもあるのですか?」


「実を言いますと、それにつきましては辞退したいと思うのですがふごぉ!」


なにかが豪速球で飛んできて完全に視界を失う。あまりの痛みにその場から立ち上がることすらできずにうごめいていると、大きな怒号が飛んできた。


「き、貴様ー!よりにもよってアマーリア卿から逃げ出してきて、先ほど主人から許されただけでも感謝するべきであるのに、よりにもよって騎士辞退をするとはいったい誰様のつもりなんだー!」


マンフリートは大きな怒号を飽き足らすことなく浴びせてくる。あまりにもすごみの利いたその形相に少し漏らしそうになるが、命がかかっている以上こちらもひるんではいられない。何とか認めてもらわなければ。


「正直に申し上げます、私のようなものが騎士になるなど道理が付きませんし、そう思っている者が少なからずいることは明白な事実です、仮に私が騎士になり、この領内の騎士団に所属すればたちまち不満を持った騎士たちの反感を買うことになります」


「ほう、面白いことを言うではないかアウタースレーブ、異例の大出世を目の前にして臆したか?貴様の言うことなど、このアマーリア卿の発言の前には何の価値もないことを理解しろ、たとえお前がどんなに拒否したところで、アマーリア卿がよしというまでは騎士はやめられん、第一誰が反対しているというのだ?わしはお前が行ったことは、放火未遂、決闘、この二つであると理解している。放火については畏れ多くもアマーリア卿の言質のもと、恩赦が出たし、決闘についてはこちらの責任で間違いない、たとえ市民であろうと騎士が約束したことは貴族の誇りにかけて守るもの。それでとやかく言うものはもはや騎士とはいいがたい、問おう、いったい誰が反対しているのだ?」


マンフリートは怒りをあらわにしている。間違いなく下手なことを言えば殺されそうだ。しかしながら、これで騎士になったところでローレに殺される。四面楚歌とはこのことか!まったくなんてめんどくさい局面にきてしまったんだ!こんあときどうすればいい?いったいどうすっれえば切り抜けられる?無二唯一の協力者(?)のローレは泥酔、これではどうやったって助け舟は来ないじゃないか!どうする?考えろ、考えろ・・・。仕方ない、協力者は文字通り協力者、覚悟して引き受けたのならば酔っていても被害をもらうと覚悟しろ。


「ローレ、彼女が反対しています」


「な、なんだと!?それは本当か!?おい、起きろローレ!いったいどういうことなんだ?!先ほどこの男を許したばかりではないか!?ちゃんとした理由があってのことなんだろうな?!騎士の言質を何だと思っている!?」


「ふえ?」


マンフリートは錯乱し、彼女を揺らして事情徴収に入った。覚醒した彼女はあたりを見回すと、急いで情報収取にあたり、マンフリートはしらふでいない彼女にあれやこれやと質問攻めにするも、まともな返答は帰ってこない、ただ聞こえてくるのは、騎士団の意義とその規律についての持論のみで、場の混乱を一層極めるものとなった。たまらずマンフリートは頬を叩き、正気にはやく戻らないかと一生懸命だ。


「待ちなさいマンフリート、彼女に今聞いたところで愚の骨頂、ここは彼の意見をはじめに聞きましょう」


アマーリアはこの一部始終を見てもなお冷静に、そして興味深くとらえていた。知らぬ間に彼女の使用人たちが食器をかたずけはじめ、今度は話し合いにちょうどいいように迎賓室は使用人が出て行った。それを見定めて、彼女は続いて行った。


「そもそも、決闘に勝てば騎士になる権利が与えられるだけで、私としてはなろうとならないであろうとどちらでもいいの思っていました。彼はどちらにしろこちらで引き取ろうと考えていましたから、騎士団への入団はあり得ませんでしたからね、ただ、彼はただの使用人ではありません、それゆえアウタースレーブ、という階級はあまり適切ではないと思ったので、授与しようと考えていたのです、では、なぜあなたは騎士になりたくないのか、教えていただけませんか?」


来た、ここで真相を探ろう。


「それは先ほど言った理由もそうなのですが、一番はとある方も、決してそれに賛成ではないのです、それは例の彼女ですよ、アマーリア殿もよく知っている例の」


「殿!?言葉遣いも満足に知らな・・・」


「お待ちなさい、そうですか彼女に会ったのですね、それならば、いろいろと話さなければならないこともありそうです、マンフリート、貴方はローレを覚ますために別室を与えます、そこで彼女に事の真相を、私は彼に個人的に話したいことがあるので、しばらく二人っきりになります」


「え?しかしこの男は」


「二度は言わない、早く立ち去れ」


「は、はいー!」


なんだこのおっさん!?さっきまでの顔芸はどこへ行ったのかと思わせるような身のこなしである。あんなに怒り心頭していたはずの彼の言動は突如中止され、すぐさま別室にローレを担ぎ出し、その場から竜巻のごとく騒乱に出て行った。さて、こうなれば二人っきりとなるわけだが、聞きたいことがありすぎてまず何から聞けばいいのかわからないところである。ここはひとつ、一番聞きたかったことからにしよう。


「なぜ、彼女を生贄にしたんだ?」


凛とした態度で聞いているアマーリアは、少し真剣に考えた後、返答する。


「貴族でなければ転生の材料にはならん、特に、魔導士の家のものであればそれが一番良いというもの、だから彼女を使ったんだ」


公私をわきまえているようで、先ほどの言葉遣いは感じられない。どうやら向こうも僕と話があるようだ。


「なら自分でなればよかったじゃないか、何でよりよって妹を選んだんだ、彼女に同情はしなかったのか?」


「多少は、だけど私は彼女の遺志を優先したつもりでやったんだ、君が知っているかはわからないが、彼女は腐れ病でね、あらゆる手を尽くしてやってはみたんだが、結局は治らなかった。そんな彼女に疑似的とはいえ、動く体を与えようと提案したところ、やらせてくれと懇願したものだから、適任かと思って行ったつもりなんだが・・・、何か不平不満を言っていたか?」


なんでそんなに他人みたいな言い方ができるのかよくわからなかったが、これだけは言える、この姉あってあの妹ありだ。普通じゃない。


「いや、まったく、あんたについては何も悪口は言っていなかったし、むしろ名前を間違えたらすごい形相で訂正してきたくらいのシスコンだったよ、何でそんな献身的なことができるのか、僕には理解できないけどね」


「そうか、恨んではいなかったか、それはよかった・・・正直後悔していなかったわけじゃないんだ、こんなこと、普通は誰も体験しないだろうし、私だったら拒否していただろうから、でも、その話を聞けて安心したよ、できることなら、一度ユッタに再開したかったんだけどね」


なんだ、後悔はしていたのか。だけど自分は嫌なことを人にやらせようとするところはあまり感心できないがな。というか、こんなことやらせようという時点でおかしい気もするが。


「ああ、それなら、理由はわからないけど僕の血を触れば彼女に会えるよ、そういえばユッタも合わせてくれって言ってたしなぁ、ユッタに会ってみる?」


「ほ、本当かい!?それならすぐにでもあうよ!誰か!ナイフをここに!おーいだれか!」


アマーリアは声高く呼ぶも使用人は来ない、先ほど人払いをしたせいで、皆遠い部屋に言っているのかもしれない、ぶっちゃけ決闘の時に手を負傷しているのでそこを触ればいいのではないかと思うのだが、包帯と軟膏を塗っているためそれも難しい。さてはてどうしたものか。


「こ、こうなったら、噛みついてでも・・・」


「え、ちょ、ちょっとそれは野蛮ではっていうか痛い痛い!噛みつかないでよ!」


アマーリアはじりじりと野獣のように近づき、僕を死と面とばかりに部屋の隅に追いやっていく。


「我慢してくれ、ちょっと、ちょっとでいいから血を・・・いいじゃないか!久しぶりに姉妹の親睦を深めたって!おとなしく嚙みつかせろ!」


「噛みつくのはよせー!さっきまでの冷静さはどこ行ったー!」


「待てよ?逃がさないぞ!?本当ににがさないからな!?」


「何でそこまで必死なんだ!?なんなら僕が刃物を探してくるから!待ってくれればいいから!」


「いや待てないよ!今すぐだよ!」


やっぱり思ったとおりだ!この姉妹はどこかおかしいぞ!?誰か、誰か助けてくれー!


「そこまでだアマーリア卿、ナイフを持ってきてやったぞ、ありがたくいただいてくれ、それと久しぶりだなアウタースレーブ、元気にしていたか?なんだ、てっきり顔まで変わっち待ったと思ったが、面影が残っているんだな」


その声はと思い、ふっと声のする方向に顔を向ける。そこには威風堂々と立った久しい顔立ちの男が懐かしむように笑っていた。あれは間違いない、あの無精髭、金髪、服こそ変わっているが堂々とした物腰、間違いなくヴィンセントじゃないか!久しぶりだな!


「ヴィンセント!久しく見ていないうちに様変わりして貴族らしくなったじゃないか!僕のことがわかるのか!」


「おうよ、後俺は言われるまでもなく元貴族だからな?お前とは話したいことがいっぱいあるが、とにかくはアマーリア卿の望みをかなえてからにしよう、彼女、月夜の銀狼みたいな顔立ちで今にも襲い掛かってきそうだからな」


「がるるる」


ヴィンセントの言う通り、マテを食らった犬のような顔つきで見ている彼女に恐怖した僕は、ヴィンセントの持ってきたナイフで腕をかすめ、一滴出てきた血を彼女にこすりつけておいた。さすがになめさせるのは衛生上よくないし危険なことしかない。彼女もそんなことは望んではいないだろうし。


「お、おおおお、ユッタ、お前はユッタで間違いないのか?ユッタァァァ!逢いたかったぞ!ああ、しっかり顔も元に戻って、またその顔を見ることが叶おうとは!今日はいない神にも感謝を惜しまない日になるだろう!なんて幸福なんだ!」


彼女が急に僕に抱き着いてきたおかげで、僕はそのまま倒れ込んでしまった。ユッタユッタと僕にいてきてもいまいちピンとこないし、大粒の涙やぐちゃぐちゃな顔もあまり感動しない、まったく蚊帳の外なのに身体だけは貸さなければならないとはこれいかにといったところである。しかしながら姉妹の再開に水を差すのもどうかと思うので、先ほどからなでなでされたりほおずりを食らったりされてもいいようにさせているが、いかんせん圧迫感あるボリューミーな胸は、僕の下半身に非常に悪いし目のやり場に困る。


「はは、アウタースレーブ、俺もアマーリアから決闘や放火のことは聞いたよ、あまり許されたことではないが、身の上、同情せざるを得ないとだけ言っておこう、お前のやったことは間違っちゃいないと、無理にでも思い込むことだ」


ヴィンセントは最中の中僕に話しかけてくれた。僕はまさか同情されるとは思っていなかったので少し泣きそうになったが、自身の罪悪感が襲い掛かり、喜びはできなかった。そうだろう、僕はやってはいけないことをやってしまった。その身勝手の結果、多くの人々を傷つけ、あるものは命さえも。、


「だけど、僕は・・・自身の都合で人の命を奪おうとしてしまった。放火だって今考えればどんなに恐ろしいことか、なぜそんなことを考えてしまったのか、自分でも情けないよ」


「それは認めざるを得ない、だけど、お前は『顔をそっちへむけるなー!ユッタの顔が見れないだろー!?』・・・、ともかくすべてが未遂で終わったことに感謝して、残りの日々を使って償うしかない、そんなことを言っては俺も戦場であまりにも多くの人生を壊してきた。戦争とはいえ、それをどうでもいいとは言えないからな、その事実を抱えて生きることが償いだと、今は思っている」


「ああ、ありがとうヴィンセント」


率直に味方になってくれることはうれしい。それで自分の罪が消えるわけではないが、少し楽になるのは事実だ。ヴィンセントのねぎらいの言葉はきっと、自分にも同じ経験があるから言ったに違いない。なんというか経験者ゆえに言葉を選んで勇気づけるといったような感じの言葉遣いを感じ。暖かい気持ち任意なることができた。


「ふむ、まぁユッタから聞いたところによると、確かにアウタースレーブ君はかなりやんちゃをしたらしいな、それで傷ついた人の傷は癒せても、心までは癒せないこと、しっかりと理解しておいてくれ、君の身上に何があろうとも、被害者は気にかけてはくれないだろうし感情的に君を批判するだろうからな」


「わかっているよ、昨日今日でそれについては痛いほど覚えさせられたからね、ところでユッタとの話はどうしたの?」


「血が乾いたら見えなくなった時間制限があるようだな、彼女との奇跡の再会で短時間とはいえ思わず失禁しかかった、また頼むぞ・・・さあて、君に転生の責任を押し付けるような形にはなってしまっけど、どう?まだ生きたいと考えてる?」


彼女はついさっき僕に変態の烙印を押された変態伯爵は総括でもしようとしているのだろうか、転生させた本人がそんなことを言うとは思いもしなかったけど、それに対しての返答はすでに決まっている。


「ああ、僕はこの世界で生きていくよ」


悩もうが、まだ生死を決められなかろうが、死ぬことはいつでもできる。とにかく今は生きる。そう決めたんだ。スタート地点としてはあまりにも泥沼からのスタートかもしれない。人間関係は最悪だし、わからないことばっかりだ。それでもこの意思表示は絶対的なものであると心に決め、生きていこうと思う。


「そうか、ならば生きるからには教えなければならないな、なぜ私が君を生き返らそうとしたのかを、多分知りたいだろう君は」


「ああ、ここに来た一番の理由はそれだよ、本人志望とはいえ、妹を犠牲にしてまでなぜ僕を生き返らせたのか、いったい何でそんなことを?」


これがひょっとして僕が転生した意味、もっと言えば生まれた意味になって来る非常に重要なものになるだろう。そう考えると緊張する。鼓動が早くなる。一体全体彼女から何を言われるのか見当もつかない。もししょうもない返答をもらった際にはいったいどうすればいいのか全くわからない。生きる意味をなくすといえばいいのか、文字通りのセカンドライフを自分勝手に遅れると考えるべきなのか。


「それはな、君にこのグリーフラントを民主化してほしいんだ」


何言ってんだこのアマは。とりあえず僕の上からどいてもらい、無言のまま着席した。


「は~」


ヴィンセントからのため息が聞こえる。どう考えても落胆から来るもので間違いない。え?ひょっとしてマジでこの女は言っているのだろうか。それが僕の生きる意味であるならばさぞ壮大だが、その無謀な理由ために何で『転生』させてまで僕を生き返したんだ?他にも適任な奴は探せばいるだろう?


「何度も言うがアマーリア、俺は過ぎたことを何度も言うのは好きじゃない、がだ、それでも言わせてくれ、それだけのために禁忌を破ってまでアウタースレーブを生き返らせたのか?正直言って変わりはいくらでもいるぞ?彼がこの呪われた道を歩く理由には、あまりにも乏しく曖昧な理由と思うんだが、第一現実味がないじゃないか、民主化とは民の政治というもの、この歴史の中で、いったいいつ王以外のものが行った政治でうまくいった試しがあるというのだ?」


「それを彼が見せてくれるのだよ、私たちのような見たことのないものが創る民主政治は混乱と偏見を呼ぶだけだ、日本、そこで見たものをこの世界でいかんなく発揮すれば、間違いなく世界は変わる」


やばいぞこいつ、僕が日本生まれというだけでできると本気で思っているのか?その理論ならフランス人権宣言をした国フランスの人間とか、アメリカ独立宣言をした国アメリカ人が行った方がよっぽどてきにんになるんじゃないですかねぇ。そもそも日本が本格的な民主化に成功したのは敗戦が原因でして・・・。


「ま、まってくれ!いくらなんでも無謀すぎるだろ!?第一何で日本なんだ?!そんなに思い入れがある国なのか?!まったく理屈が存在していないと感じるのは僕だけではないはずだぁ!」


あまりも無理難題を押し付けられてしまい、考えよりも口を動かすことが先だと理解した僕は言えることを言った、何もかもが無謀、もし僕が社会学者ならばまだワンチャンあったかもしれない、しかしぼくはそうでもないし、仮にそうであってもこの国家でそこまで高度なシステムを組み込むのにどれだけ時間がかかると思っているんだ?無茶難題にもほどがあるとは思わないんだろうか。それを行うのなら望まれぬ子どもとして生きた方が僕は幸せだ。


「私が何も知らない子供だと思って話をしているつもりか?何を隠そう私の幼少期の教育係は日本に住んでいたアウタースレーブだぞ?彼から私はありとあらゆる日本の話を聞いた。そして感動したんだ、その経済、思想、そして高い技術に、そして気づいたんだ、それを叶えるには国民の能力を高め、向上心をあおるしかない!それには民主政治しかない!必要なんだよ私には!この世界にもその理想郷を作るには、どうしたってその世界を知っている者にしか作り出せない!」


「生きているだけじゃ意味ないだろう!それを作り上げた人がいて初めて成立するんだよ!?大体昨日今日で来たわけじゃない、それには多くの犠牲があるんだ、はじめから完璧だったわけじゃない!」

なんて意味不明なことを言う人なんだと心から思った、彼女はその曖昧なことをするだけでいったいどれだけの戦争が起こるかまるで分っていない。それでは、まるで僕じゃないか、自分勝手に行動したおかげで人を傷つけ、多くの人の心をえぐった。それを踏まえてなおそんな世迷言を言うつもりなのか?何が彼女をそこまで狂った拍車に乗せようとしているのか全く持って理解できない。何とかいったらどうなんだアマーリア。はっきり言って君は間違っている。いかれている。狂っている!


「犠牲、それはたとえ何もしなくても現に起きている、それは間違いないこと」


口数少なく彼女は言った。どこかばつの悪い顔をしている。それは自分い思い当たる節があるのか、少なくともあまり話したがらない様子だった。


「国破れて山河在り、みんなそう言っているが現実は違う、敗れてもまた別の国家が誕生し、そこに新たな王が君臨する。王は一人だ、そいつが言ったことは、国内中どこまで行っても皆が聞き入れ、残虐な悪法をも賛美の声で迎え入れる、それがこの世界の習わしだ、だがその中で最も犠牲になっているのが民なんだ」


「ゆえに国が亡びるのではないか?あたりまえのことじゃないか」


ヴィンセントがきょとんとする。その後腕を組み、諭すような口でかたりだす。


「我らユーギリアの民が生まれて5000年、多くの国が興りそして滅んでいった、それは戦争だけではない、内紛、飢饉、貧困、それらが間違えた国を正してきたんじゃない民の権利というならば、これらの中で生き抜き、そしてより豊かな国で栄えることがまさにそうであると俺は思うがな」


「それを権利と考える時点で私たちは理解することができない、本当の権利とは、自身が保障されることにあるんだ。大きな権益を持ったものに揺り動かされず、自身の権利と能力で人生を動かす、そこに必要なものは自由だ、自由なくして人は生きているとは言えない、皆気づいていないんだよ、自分がどれだけ可能性を秘めている者なのか、それを知っているのは、アウタースレーブ、君だけなんだ」


「は、はぁ・・・」


正直何を言っているのか全く分からないが、とりあえず相槌ぐらいは打っておこう。


「私も習ったことを口で言うだけでそれがどういうものなのか全くわからない、でも、見る価値はあると思う、その先ににある人の自由は、いったいどういうものなのだろうか、何を得て、何にヨロコビ、そして苦しむのか気にならないか?私が思うに、それを見るチャンスは今しかないと思う、そのような発想を得ることができる人間は、決して多くないだろうから」


「また始まったよ、アマーリア卿の熱病だ」


首を振りながらヴィンセントは困惑する。一度呼吸を入れ、席について長話の用意をする


「その話では、僕たち貴族は一体どうなるんだったかわすれたか?特権階級はなくなり、皆が平等にとか何とか言っているが、それで政治がうまくいくわけないだろう、上に立つものが特別でなければ求心力は出てこないし、従うものもいない、それでなにがが平和だ、ただ混沌としているだけじゃないか」


「人が上に立つからそのような結果ができるだけだ、上に法を置き、そこから民を統制すれば民主政治といえるだろう」


「だから、結局それだって王の代わりに法が上にあるだけで何も変わらないだろう、支配するものが、人から文字に置き換わっただけだ」


「違う!文字は暴走などしない!常に一定の権利を維持するだけだ!」


「書くのは人間なんだぜ?」


気づけば僕は蚊帳の外に置かれてしまった。彼らはその後も議論を繰り返し、理解できない価値観に困惑して話が進まないだけであった。仕方ないから僕はただ椅子を一本足でバランスを取って退屈を消費していた。どうにも親近感のわかない議題は、僕にあくびしか生まないからだ。


「なんでわかってくれないんだ!民主化は多くの人々を苦しみから脱却させる方法として非常に有効なんだぞ!」


「だが現時点でだれも望んでいないだろう?!望まれていないことをしたって意味がないって言っているんだよ!」


ああ、少しイラついてきた。どうやら、また現実味のない夢見心地のようなものを感じているに違いない、こういう時は決まって思考が安定しないんだ。席を立ち、しばらく独りになろう。


「アウタースレーブ!どこに行くんだ!せめて参加するかどうかだけでもいってから外に出てくれ」


アマーリアからの制止の言葉をいただいたが、無視して席を立ち、ドアを開けた。二人はなおも議論を続けるつもりだったらしいが、僕にはうンざりするようなものでしかない。


「馬車を借りるよ、しばらく一人になりたい、帰るころには返答するから」

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