14 迎賓
「起きなさいナナシ、屋敷についたわ」
言葉とは裏腹にげんこつでたたき起こされ、僕は少しずれた姿勢を正して馬車の窓から外の光景を見た。どうやら門の前で停止しているらしく、進もうとはしない。ということは、正面にいる付き添い役のローレとしばらくいなければならない、ほかにも前方の馬車に行けば団長代理の方へ行けるが出ていくところを逃亡か何かだと勘違いされても困るため、しばらくは残ることにした。
「屋敷なんて見えないんだけど、どこにあるっていうんだ」
「ここは伯爵家なのよ?ここから見えるわけないでしょ庶民の家じゃあるまいし、この屋敷の庭はとっても大きいんだから、貴方本当に逃げてきたの?」
疑問を投げかけられても答えようがない、あの時は夜だったし、あたりが暗すぎてどこをどう逃げたかなんて覚えてないし、できれば自身がした行いを今は思い出したくもない。過ぎてしまったことはしょうがないにしても同じことを繰り返してはならない。そんなことは身に染みてわかっているのだが、後悔先に立たずとはよく言ったもので、それ以外のことが考えられないほど、僕は反芻して考えていた。
「ゲラルドは今どこに?」
ローレはひどく驚いた顔をした。何で今それを言うのか、なぜ僕がそれを気にするのか、言いたいことはいろいろあったに違いない。
「今は治療団に引き渡しているわ、容態についてはよくわからないけど、血が出過ぎたみたい、このままじゃ死ぬわね」
ああ、何度悔いたところで意味がないことはわかっている。だがどうして悔やまないでいられるというのか、その場で両手で顔を覆い人知れず悟られぬように努めた。今からなにかできるとか、こうしたいとか、あの時こうすればとかどうでもいい妄想がさっきから頭に思い浮かんでは消えてゆく、こんなことを考えているよりはさっさと踏ん切りをつけて悪党だか、極悪人にでも身を染められれば苦しまずに済むのに、そう思い始めた。騎士団を皆殺しにしたいと考えていたが、仮に行うことが可能でも、それを行うのは本人次第だということを僕は悟る。
「何でゲラルドのことなんて聞いたの?まさか今更になって心配し始めたとかふざけたこと言うんじゃないでしょうね?」
「別に、僕が殺したからかな?」
ギロッと睨むローレに、何と答えればいいか、自身への嫌悪感と罪悪感の中できるだけ気に障らなそうな言葉を選んだ。でも、先ほどから本心と行動がかみ合っていないことに気づき、ひどくむかむかする。まったく気にしていないような鬼畜な男を演じ、すぐにでも土下座をして謝罪したい思いを隠すこの行為に何のいみがあろうか?まったく自分でおわからないやつだ僕は。
「そう、これが初めて?」
腕を組み、舌を鳴らしてそっぽを向く、よほど嫌われてるのか。憎まれているのか。
ともあれ門が開いた途端馬車は動き出す、僕はこの時あることに気づいた、それはグングニールの行方だ。自身が持ってないことは非常に困る。もしも、というか前に座っている者が僕に暗殺予告を出すような奴のみじゃ武器がないと不安でしょうがないじゃないか、どうにかできないものか。
「グングニールは?」
「今は基地のか中に保管しているわ、貴方が血で汚してしまったせいできれいにするのにすごい時間かけているのよ、他の奴を選んでいればこんな手間かけなくてもよかったのに」
「・・・そうか」
再び沈黙が支配するが、それは決して長くは持たなかった。
「なにを!?」
ローレはこのあまりにも小さい馬車の中で見事にバスターソードを抜刀し、僕ののど元に書き付けてきたのだ。やばい!やるとは言っていたがもう来たのか?!こうなったらパラディンの能力で、
「動くな、下手な真似をしても殺すし、これからの話を聞かなくても殺すわ、わかった?わかるなら返事をして」
否応にも首を縦に振るほかなかった。それを確認すると彼女は話をつづける。
「提案があるの、それはあなたと私の今後を決める重要なことよ、いいわね?あなたは騎士の称号をこれから手に入れる、そうしたら、間違いなく貴方はうちの騎士団に入ることになるわ、だから、称号を受け取ることを断ってほしいの」
「な、なんで?」
「ひょっとしてそれも言わないとわからないほどお馬鹿さんなの?」
言わなくても分かっているが、やはりそういうことか、まぁ僕からしても願い下げだったし、むしろ了解したというべきか。でも、奴隷のままではいたくない。
「それが提案ってことは、何か僕にもみかえりがあるってことかい?」
「ええもちろん、あるにきまってるでしょう?貴方を私の領土の住民として迎え入れるわ」
ローレは少し笑みをこぼす、なんだそれ?領土とはつまり地主か何かということか?
「領土?君は支配している土地があるのか?」
「当たり前でしょ?本当に何もわかっていないのね、いいかしら?騎士っていうのはね、領主から一部の土地を貸し出してもらって、そこからの収入のみで暮らしているの、だからアマーリア卿には忠誠を尽くすし、飢えずに済むのよ、いつも戦闘訓練ばっかしているやつが何で働かずに食べれるかっていうのにはそういうシステムがあるのよ」
何とも封建制を象徴するようなシステムだろう、要は日本でいう御恩と奉公というやつではないだろうか、まさに彼らは世界が違うだけで立派な武士というわけだ。
「でもさ、それって僕も騎士になればその領土の割譲にあやかれるわけだし、できることなら僕もそれに準じた利益を生み出せるものがほしいんだけど、ただの住民じゃそれは無理でしょう?そこはどうするの?まさか独占権の一部割譲とかそういうことじゃないうよね?僕は酒屋も宿の運営も全く興味ないんだけど」
彼女はまた舌打ちをする、それは図星なのか、はたまためんどくさい知識を披露したからなのかは知らない。めんどくさい知識、それはまさに酒屋や宿屋についてのことだ、これは利益のため、一部の特権階級の権利を貸与されることが前提条件だ。何で僕がそのようなことをしっているのかは言わずもがな彼女の知識である。僕は何も知らないわけじゃない。だから彼女の交渉が騎士の称号を授与されることと等価交換なのかそうでないのかは品定めできる。
「そういうと思ったわ、アウタースレーブは博識なことで有名だものね、だから私も考えたの、私の実家の養子として迎え入れてあげるわ、あなたは騎士ではないけど騎士を輩出した名門の家の養子になるわけ、で、大学に行かせてあげる、夢だったんでしょ?尋問の際、あなたは大学進学の途中だったって要ってわよね?それなら大学に進学して商業をきわめて行商人をやるもよし、聖職者としてエリート街道を進むもよし、どんなふうになっても失敗しないわ、騎士は一見いいように見られるかもしれないけど実際は一代限りの準貴族、戦場で戦わない限りお荷物だし転職も難しい。それよりも卒業した後の将来は安定しているわ、どう?」
「工学部は?あるの?」
「何それ?学部は魔法学、哲学、数学、法学、だったと思うわ」
彼女は後悔した。彼女は嘘でもあるというべきであったろう。なぜならば彼はその学部に入学することをのぞんでいる、そういう質問であったからだ。彼女がそれに気づくのは、自身が発言した後だった。すぐに訂正しようと思ったが時すでに遅し、彼は関心のまなざしを閉じてしまった。もちろん彼は大学進学に興味がないわけではない、むしろ騎士に何の関心も持っていなかった彼にとってはそちらの方が有意義に感じられただろう。そう、すべては自身の計画の甘さから来る亀裂が此度の結果を招いたのだ。学びたいものがなければそこに行くはずがないではないか。
「ッチ」
額に手を当て、舌打ちをする。せっかくの計画が水の泡だ、こいつをほかの方法で辞退できないものだろうかと、ローレはしばらく考えていた。だが、やはり考えがまとまらず、むしろこんがらがる。
「ローレ、僕から提案がある、提案を飲めば騎士にはならない、どう?」
目をまん丸として大きな口で「本当!?」と叫ぶ、近いので耳鳴りがして迷惑だし反応するローレに僕は少し引いた。食いつくとは思ったが、まさかここまで食いつくとは思わなかったからだ。たぶん今の彼女なら、どんな凌辱であろうと羞恥なものであろうと簡単に受けれてしまいそうだ。まぁ、そんなことしないけど。
その反応は想定してなかった。まさか今度はナナシから提案をもちこまれたのだ。消えていなかった希望の灯、ここで消してなるものか。彼がどんなことを言うのかわからないけど、どんなに恥ずかしい要望だって、騎士団のためならなんだってするんだから!
「いいわ!どんなことでも言ってちょうだい!あなたが入らないで騎士団の純潔性が保たれるならなんだってするわ!」
「ひどい良いようだな、まぁ簡単なことだよ、君はこれから僕の命を狙わないこと、そして君から、アマーリアに嘆願すること、この二つだけでいいんだ」
「・・・なんだ、簡単じゃない、それぐらいだったらお安い御用よ!他にはないの?」
「他にはないとは?」
ナナシは想定していたかのような言い回しで言った。彼は、この世界の文明レベルと地球での歴史についての共通性から、階級社会の常識を体得していたのである。彼はローレの発言が一時止まったことを確認し、不適の笑みをこぼす。
やはり、アウタースレーブは侮れない、この発言だけですぐにかぎつけるなんてどんな嗅覚しているのよ!?そう、この提案は全く簡単じゃない、むしろ自身の今後について大いに影響することだ。寄りのもよって準貴族が貴族のさらに上の階級に嘆願すること自体恐れ多いのによりによって称号授与という命令の拒否を提言するなどありえない話、良くて降格、悪くて騎士団追放、すべてはアマーリア卿の気持ち次第、そんな賭けにこの男は出ろと言っている、だけど一番も問題は、自分がその提案に乗るか乗らないかだ。
「何でもないわ、いいでしょう、その提案乗ったわ」
この男は私を試そうと思っていたようだが当てが外れたな、当然受ける、それで騎士団の純潔性、あのユッタ騎士団長の守ってきた鉄の規律と領土を守るために鍛えた精鋭たちやかわいい部下たちを、ゲラルドの決闘のように気分でこの男に殺されるくらいなら安いものだ。私の犠牲でみんなが笑って過ごせるなら、なんだってやってやる。あんたみたいなくずとは違うんだ。
「でも忘れてない?この提案を飲んだからにはあなたは絶対に騎士になる要求を拒否するのよ?どうするの?」
「簡単だよ、君の隣でとにかく騎士になりたくない、『彼女』もそれを望んでいるっていえばいいさ」
「私が望んでいるのは当然じゃない、問題は、それだけでアマーリア卿が同意するかでしょう?何か考えがあるかと思えば、そんなでたらめで通用すると思っているなんて、やっぱり奴隷は奴隷ね」
「残念ながら現時点では君と同様騎士なんだよなぁ、ところでそろそろ剣を納めていただきたいんですが」
「ええ、どうせアマーリア卿に合わせるまで殺すつもりはないからいいけど」
彼女、もちろんローレのことではない、間違いなくユッタである。彼女のことをアマーリア卿が知らないわけがない、だからそれを理由に騎士を断り、僕は彼女になぜユッタを転生の器にしたのかを聞くことが目的の一つだ。一番の不思議はなぜそうまでして僕を生き返らせたかということだ。実の妹を使ってまでそうしたのだからただならない理由があるに違いない。それを知り、アマーリアを知ることで僕は自身の方向性を決めるつもりだ。まずはアマーリアに合わないと・・・。
「なぁ?ところでアマーリア卿ってみんな言うけど、誰?」
「は、はぁぁぁあ!!!!?あ、あんたこの屋敷から逃げてきたくせにその館の主すら知らないのぉぉお?!」
「声は聴いたが他はよく知らん、どこのドイツでどんな人なのかなんてわかんないよ」
すると糸が切れたようにローレは脱力し、背もたれにかかりながらでかい溜息を吐く。
「クーニクンデ・アマーリア・シビレ・ブルクスラーよ、伯爵家当主にして全能のガーディナルとして有名・・・って言っても分からないわよね、とにかくここら辺一帯を治めてる領主、わかった?」
「ガーディナルって何だい?」
「えぇ、貴方ガーディナルすら知らないの?貴方の身元といい、腐った性格といい、何でそんな常識はずなのかしら?」
「アウタースレーブは地球の知識以外はないからね、代わりに君たちより贅沢の種類を知ってるよ、生活水準が違うからね」
「ふーん、まぁいいわ、ガーディナルっていうのはセージやパラディンとは一線を介した魔導士よ、簡単に言えば魔法の使える貴族、でも、この魔法を使える人は本当にごく少数なの、簡単に言えば、彼らは一人一言語のモンスターの言葉をしゃべることができて、それでいてその種族には対等的存在として確立しているわ、これは魔力が大きければ大きいほど、強いモンスターや妖精と交渉や従属をさせることができるわ、過去にはドラゴンであるワイバーンを飼いならしたパラディンもいたわ」
「へー、なんだか異世界っぽいな、パラディンって言葉を操れるんでしょ?ならほかの人にも文字に起こして伝えればいいのに、モンスターの言葉辞典とか作ってさ」
すると、またもやローレは深い溜息をつく。
「それができれば苦労はないわよ、過去にも多くのセージが辞書作成のために巨額の費用と年月をかけたけど一行に解決しなかったのよ?私たちに一番近い種族とされるエルフですら300年近い研究を行っているにも関わらず、彼らの言語も文字も全く解読できてないんだから、だからガーディナルは特別な人なのよ、彼らがいなといつも戦争を起こす羽目になるわ」
なるほど、簡単に言えば通訳ってところか、でもそれでアマーリアが全能って一体どういうことだ?
「それで不思議に思うでしょ?アマーリア卿だけなぜ全能って言われているか、それはその言葉通りほとんどの言葉を話せるのよ、もちろんさっき言った通り、普通のガーディナルは一人一言語、でも、彼女はほとんどのモンスターや妖精、亜人、動物、さらにはアンデットの言葉さえ聞き取れるといわれているわ、だから異例の大出世で本家と分家して王から伯爵家の授与を受けたってわけ、普通ガーディナルってだけで昇格なんてできないのよ?」
「へー、それはすごい人だなぁ、でも全種類は話せないのか?さっきからほぼすべてって言っているし、むしろ話せないのはどういうやつなんだ?」
ローレは口を閉じた。それはいえない話だったのか、顔は先ほどの得意げな顔から真剣なものへとかわった。それは警告に近い表情、危険な物言いへと変化した。
「それは、神よ、でもあまりこの話はしたくないの、これだけいったら質問は終わり、いいわね?」
「あ、ああ」
「それを話せるガーディナルは、現王族の本家のみよ、魔導士は遺伝性、アマーリア卿は特異変質だけど家柄は魔導士よ、だから神の言葉を話すために多くの公爵家や辺境伯はみな王族に求婚やらなんやら必死なの」
それからは深刻な雰囲気は解消し、抜刀しない彼女はいたって安全だった。あとはただ、この馬車で屋敷に向かうだけであった。僕はただ馬車の窓から見える木々や庭園の中に、どこか日本らしいものはないかと探したが、残念ながらそのようなものは確認できず、ただ時間を無駄に過ごしていくのだった。
「さてついたわね、荷物は使用人が運ぶからあなたはしばらくそこで待ってなさい」
やっとこさついた屋敷は、僕の想像を遥かに超えるものだった。庭先の噴水、橋、そしてドーム状の休憩所のようなところから、大理石で整備された道、その先に続くのは総理官邸よりも大きな屋敷だった。その壮観さは優雅な細部の彫刻から始まり三階建ての白い壁、ドーム状の屋根の玄関、品のある彫刻の数々、タイルの均一な施工が織りなしている。こんなところからよくあの基地に行くことができたと自分でも不思議でしょうがない。まったくもってとんでもないところに来たものである。
「ようこそおいでくださいました、執事のネーポムクと申します、貴方との再会をアマーリア卿が望んでおられますので、どうぞ屋敷の方へ、来賓の方への食事もご用意してございます」
やがてやけに紳士臭い爺がやってきた。こいつと会うのは初めてだが、すごく影の薄い印象を受ける。それよりも前の方から駆け寄てくるおっさんのマンフリートの方がよっぽど印象深い。だって彼、すごい緊張した顔なんだもの、さっきから髪や髭の手入れに抜かりないし気づけば礼装だ。こちとら決闘でぼろ雑巾と化した服しか持ってないんだぞ。
「いやぁすまないアウタースレーブ、君の服までは考えが回らなかった、でもアマーリア卿はそんなこと気にしないと思うから問題ないと思う、どうだ?数日ぶりの古巣の感想は?」
何とも難しい質問を涼しい顔で言うもんだ。それは複雑としか言いようがない。できることなら朝までアマーリアと話し合いをしたいし、それと同時に長い移動でさっさと帰りたい気持ちもある。しかしながらその中でも一番に思うことは・・・。
「ここ便所どこ?」
「はっは、残念ながら便所は貴族専用、アウタースレーブ兼騎士の君はそこらへんでするんだ」
「それは衛生環境上どうなんですかねぇ」
「汚いに決まってるじゃないか、周りの茂みはそこら中この屋敷の使用人の糞尿まみれなんだぞ?下水道完備もしていないし最悪としか言いようがない、いつ伝染病や寄生虫が繁殖してもおかしくない」
「うわぁ、なんて所に着ちゃったんだろう」
そういわれると、この豪華な屋敷も糞まみれってことか、どうせ維持するのに金が要るんだったらそういうところにも金を回せよと感じるのは俺だけだろうか。ともあれ中に入らなければならなそうだ。さすがに室内まで糞まみれってことはあるまいな。
「どうぞ、好きな席にお座りください、奥にはアマーリア卿がおいでです」
迎賓室はさすが外装が豪華なだけあって、こちらも相当な手の込んだ作りであった。やわらかいカーペット、アンティーク調の家具の数々、鎧、そして中央にある直線の木目の長机、シルクのテーブルクロス、どれもこれも一級品で間違いないだろう。そして何より部屋の広さが100人は入れるのではないかという大きさだ。心なしか部屋の端に立っている使用人達が遠くに見えるようだ。
「ようこそ来てくださいました、長い移動はさぞ疲れたでしょう、どうぞこちらへ騎士団の方たち、そして、アウタースレーブも」
その印象的な声は間違いなくアマーリアで間違いない。しかしながら顔を見るのは初めてだ、絹のような美しい紅い長髪、黒い大きな目、そして潤った唇、なるほど、かなりの美人で間違いない、出るところはしっかり出てるし、そういえばユッタもなかなかなおっぱいを持っていたが、そのさらに上をいくおっぱいの持ち主だ。なんてこのあたりの人は発育のいい人たちなんだろう。ローレもその恩恵を受ければよかったのにかわいそうな奴だ。
「心なしか馬鹿にされたような気が」
何でここの人たちって人の心読みやすいの?エスパーなの?
「さぁさぁ、皆さん座ってください、食事にしましょう、まずは魚料理からにしましょうか、シェフ、今回の料理は?」
アマーリアの掛け声に反応し、端にいたネーボムクが反応し、こちらに向きなおしたのち、説明を始めた。
「は、魚料理は今が絶品と噂の淡水マグロの塩漬け、肉料理は先ほど仕留めたばかりの山うさぎのロースト、野菜は季節の野菜サラダ、並びにシェフが最近発明した無色透明の野菜スープ、甘味は生クリームを詰め込んだ果物タルト、奇想天外料理は不死鳥の卵で作ったサンドイッチとなっております」
聞いた限りではそこまで贅沢でもない気がするんだがどうだろう?ひょっとして贅沢だったんだろうか?生クリームは贅沢なのか?なんなら元の世界に帰ったら作ってやるぞ?野菜スープ?コンソメちゃんと入ってるんだろうな、ウサギのローストってお前・・・せめて中になんか詰め込むとか工夫をしてくださいよ。マグロに関してはどうせなら刺身で食べたらおいしいと思うんだがどうだろう?みんなもそう思わないか?
「ふんふん♪」
「いつになく絶品だ、ここのシェフの料理は非常にうまい」
「やはり、季節の旬はしっかりとらえておいて正解でしたね、市場の丸ごと買いはこういう時に便利です」
ええ、いや自分何もまずいとは思っていないけどさ、まぁいいや食べてしまおう。ん?あれ?フォークは?
「すいません、使用人さん、フォークはありますか?」
一斉に食事は中断、皆、僕をじろじろと見始める。それは何というか驚嘆と信じられないといった目でこちらを見ている。ん?何か変なことを言っただろうか?というか今気づいたが何を手づかみで食べているんだ?なんだお前ら寿司じゃねぇんだぞ?それ油ついてるだろ?めっちゃ垂れるからな?服につくからな?染み抜き大変だぞ?
「え、ええ一様ありはしますが・・・使用人のものでよろしければ」
「全然かまいませんけど?」
「あ、貴方、フォーク使うの?まぁ、平民以下だし別にいいけど、マジで言ってんの?両手があるのに?信じられないわ・・・」
ローレ、僕には使わないという選択が一番信じられないよ。なに手づかみで食ってんの?汚いにもほどがあるでしょう?
「ま、まぁ彼は異世界から来たものであるし、そういうものを使うのは風習であったのだろう。いいかい君、ここでは両手が普通だからな?郷に入ればなんとやらっていうだろ?もし手で食べたくなったらそこのボールで手を清めてから食べなさい」
一生ねーよ、と口では言わないで心にとどめておく、なるほど、文化の違いか、確かに切り分けのナイフはあるし、スープは出てないけどスプーンも入ってるようだ。それだけが存在しないのか?それともまだ普及していないかのどちらかだな。どのみちっこは僕の知っている関跡は随分違う世界だと何回でも確認してしまう。それ故に、何度となく文化の壁に衝突し、こんな感じで総スカンをくらうんだろうな。
「さ、さてそれはともかく、今回の騎士の称号授与についてなのですが・・・」
来た、ローレに目で合図する、ローレもそれを見て返事をした。これはどうやら僕の思惑を理解しているようだ。さっそく行動に移さなくては。
「ええっと、あの、アマーリア卿、その件なのですが、その・・・」
「どうしましたローレ?」
「そのですね、その・・・うう」
押しが弱いぞローレ!君が言わなくてはことが始まらないぞローレ!がんばれがばれローレ!いけるぞいけるぞローレ!その調子でぼくの代わりに代弁してくれローレ!なんだか自分がかなりの屑に思えてきたぞ。やはりあの提案は彼女には荷が重すぎたか?彼女にも同じ土俵に立ってもらおうと思って提案したのだが・・・・仕方ない、もともと騎士なんて御免だし、ここは彼女の提案にのって大学進学と決め込みますか。そうと決まれば僕から説明することにしよう。
「すいません、あま、ご主人様、彼女が言いたいことはつまりですね「あ、あー!ちょちょちょ」なんですよ」
「はい?すいませんもう一度お願いできますか?」
「だから、むぐぐっぐ!」
「ほら?!これでしょ?!これがほしかったのよね!?すいませんアマーリア卿!こいつ一昨日から何も食べていなくておかげで人の物でも食べたがる卑しい性格になってしまったのですよ、だからアマーリア卿が食べていなかった料理をほしがっちゃって・・・えへへ」
ローレ、僕はそんなことを望んでいないしさっさと例のことを話したいからその料理皿をどけてはくれないだろうか?というか食べさせようとしてなぜ料理皿を顔に押し付けるなんて発想に行きつくんだ?!まるっきり罰ゲームみたいじゃないか。
「まぁ!それは大変!すぐに追加の料理を頼んでおきましょう、なにせ私のところから逃げ出してしまったときも何も食べさせなかったものですから、ひょっとしてそれがいけなかったのかもしれないですね」
んあわけねぇだろ、くそ、完全にいうタイミングを逃した。何てことだ。なぜ邪魔なんかしたんだ?これじゃあ君の望まない騎士団入団が決まるんだぞ?ローレ、君はそれでいいのか?
「そ、そうですね、ぜひお願いします・・・はは」
全くダメか、考えることをやめて心なしか全身が灰色に染まっている気がする。やはり彼女には荷が重すぎることだったか、僕の認識が甘かったな。仕方ない、こうなったらほかの聞きたかった方を聞くとするか。
「やぁ、ご主人様、すいません逃げたりなんかして、なんせ勤務数時間で嫌になったものですから、気晴らしにと思いまして」
「気晴らしに騎士と決闘を?どうやら、あなたは根本的に教育しなおす必要があるみたいですね、此度は私がゲラルドの治療を担当したのですから感謝してくださいね?」
「え!?ゲラルドは助かったんですか!?」
「それは本当ですかなアマーリア卿?」
二人はしおらしくなったと思ったら、寝耳に水だったのか急に活きがよくなった、ゲラルドは食事をやめ、ローレに至っては飲んだ紅茶でせき込んでいた。僕としてもうれしいことこの上ない、にもかかわらずそれを表情に出せない状況に、苛立ちを覚える。なぜ謝ることの一つもできないのだ。
「でも、治療団は治療は難しいって言っていたのにどうして・・・」
「簡単ですよ、彼らがさじを投げてこちらに来たものですから、連絡もなしに門前に来るとは無礼千万!と言いたかったのですがなんでもわが領内の騎士団の騎士が負傷したと聞いて、すぐさま近隣のエルフの集落からポーションの手配を要請したってことです」
「なるほど、確かにエルフの魔法に関する知識は人類のそれを遥かに超えているのとは聞くが・・・わざわざわが騎士団のためにそこまでしてくださったこと、感激の極みにございます」
マンフリートは起立したのち深いお辞儀をして感謝を表明した。その後、ローレもあわてて続き、感謝の言葉を述べる。
「此度の決闘は私の責任です、ただの侵入者だと思いゲラルドに処刑を負かしたのですが、まさかアマーリア卿の部下と戦うとは思っていなかったので・・・よりによってアマーリア卿の私物を破損させるところでした、それどころか負傷した部下まで助けていただいたとわかると、本当にどう感謝していいやら、面目次第もございません」
「お二人とも、顔を上げてください、そもそもの話、今回は私の監督不届きから来るものだったのです、お二人が気に病むことはありません、むしろ私が悪いのです、しっかり管理していればこんな被害には・・・どうか、不出来な私の領土を今後も守ってくださいね?それから、これはぶしつけがましい話なのですが、どうか彼を許してやってください、実をいうと彼がここに来る前は、前の主人に厳しい拷問をされる日々だったので、少し、気が安定しないときがあるのです」
「ほう、彼にそんな過去が・・・そうなのか?アウタースレーブ」
マンフリートは何に関心を抱いているのか、僕に説明を促している。どうだろう、果たしてルッツの施設のことなど説明していいものなのだろうか?アマーリアの話ではむしろあまり話さない方がいいような感じがした気がする。ここはオブラートに話すしかないな。
「え、ええまぁ、趣味の悪いおじいさんに飼われたものですから、火炙りとか」
「火炙り!?何で無傷?!」
「と、とにかく、決して彼の犯した行為は許されざるものであるのは間違いありませんが、ここはひとつ、私の顔に免じて、認めていただけませんか?」
「騎士を助けていただいた時点で私は許そうと思っていましたし、そいでなくても決闘を行うことを許したのは私です。アマーリア卿には何一つ過失はありませんよ?もちろん彼のことは許しましょう、基地放火のことは、未遂であったので無効、とは言えませんが?君、反省してるかね?」
「え、ええ!反省してます!本当に、僕、勢いでやってしまって、それでこんなことになってしまって、本当に、何といえばいいか、わからないんですけど」
「よし、そこまで考えているのなら、反省はいているのだろう、いいかね?二度とそんなこと考えるんじゃない、わかったかね?」
「は、はい!」
先ほどからローレの反応がない、何か考えているようだが、どうも腑に落ちない顔をしている。時折、こちらに視線をやるも、ため息と苛立ちの顔をうかがわせる。
「ローレもどうか許してはもらえないでしょうか?」
「…はい、わかりました」
「まぁ!良かった!これで騎士の問題は解決ね」
一件落着とでもいうような感じだ、どう考えても解決してねぇだろ、よくそんなこと言えたもんだな。するとローレは僕の裾を引っ張り、耳を貸せと言わんばかりに顔を近づける。
「アマーリア卿の手前あんなこと言ったけど、絶対にあんたなんか許さない、さっきの謝罪、よくあんな猿芝居できたわね?見てて吐き気がしたわ、あんたは本当はもっとどす黒くて気持ちの悪いもんだってあたし知ってるんだから、提案は飲むけど、あんたが絶対に拒否してくれなきゃ、命の保証ないこと、忘れないでね」




