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悪党のすすめ  作者: と
奴隷編
15/63

13 夢中

ここは僕が一番気に入っていた図書館だ。どんな心境模様でもここにさえ来れば僕は静かな平穏と集中を得ることができ、ここでいくつもの受験勉強をこなしてきた。勉強部屋は二階にあるがここの司書はどこで勉強しようと、興味を示さない。それがここの最大の売り込みだと僕は思っている。だが、そんなところがこの異世界にあるはずがない、そう、ここはまたしても夢の中である。屋敷への輸送馬車で居眠りをしてここに来たというわけだ。もちろん目的は彼女に会うために。


「ふう、日本語なんて、あなたの経験なしじゃ読めない希少なものでしょうねぇ、それもこんなにたくさんの文献を読み漁ることは、私の生涯ではきっとなかったでしょうから」


ユッタはあくびをしながらさも退屈そうに本を斜め読みしている。ひじに顔を押し付け、眠いというか、まったく興味がないことをしていることが見て取れる。


「そうかそうかちょうどよかった、僕としてはそんな君とお話がしたいんンだ、でも図書館というところは話し声は厳禁なんだ、ここはひとつ外に出てお話ししないか?」


ユッタはそれを聞くと少し姿勢を正しくし、少し面倒そうなそぶりを見せた。僕が先の戦闘について聞きたがっていたことを、彼女も見抜いているのだ。そして何より。ゲラルトへの仕打ちについて彼女は理解している。今回はそれをどう説明するかが彼女との会話でカギとなるであろう。そもそも、僕がやったこ途について考え直せば身勝手を通り過ぎて暴虐に近いといえる。ローレの意見ももっともだ、だが、生きるためには仕方なかった。それがあそこでの生存条件だったからだ。問題は、それらを踏まえてこれからどうやって生きていくのか、それを彼女にお答えいただきたいと思っている。さぁお答えいただこうか、これはどうすれば、僕は何をすればいいのか。


「むー、だから図書館を選んだんですが、しょうがないですね、少し外に出ましょうか」


図書館の中庭に出た僕たちは木陰のあるベンチに腰かけ、話すことにした。


「僕は君のおかげで生きることができた、それはまごうことなき事実だし、君のおかげで生きる選択を得ることができた,本当にありがとう、君が僕を生かしてくれなかったら、あの巨漢に一撃で殺されたか、10回に分けて殺されていただろう」


隣にいる彼女に語り掛ける。向こうは特にこちらを向こうとはしないし、興味も沸いていないようだが、それでも僕はまずこれを言おうと考えていた。まずは感謝の言葉をかけてみる、当然だ。彼女には感謝している。僕が一人であの場にいたら、間違いなく殺されているのだから。底移管しては彼女の采配によって救われたといっても過言ではない。これは感謝しなくては。


「いえいえ、当然のことをしたまでです、あのままではどのみち私も死んでしまいますから、死ぬ前に貴方になにか助けになればと思っただけです」


「ユッタ、君の技量は僕が一番知っている、それだからわかるんだがあれはどう考えても過剰防衛なんじゃないの?君ならばたとえ素手でも彼に勝つことはできただろう?」


「いいえ、私はあなたを止めることはできませんから、過剰防衛も何もあなたのしたことに責任をおしつけられても困ります」


その言葉に、どれほど衝撃を受けただろう、彼女は僕に此度の事案は自分が蒔いた種だと言ってきたのだ。僕は確かに彼の息の根を止めようと戦ったけど、それを後押しし、力を与えたのは君じゃないか。つまり、君が僕にそうするように指導したんじゃないのか?


「いや、君が行ったことだからね?あの体の動かし方も、槍の使い方も、そもそも戦い方そのものが君に倣ったものだからね?感情を共有した時点で僕は戦い方の基本を君に、最後の戦いも君の思うままに動かしたはずなんだけど」


話がかみ合っていないというか、彼女との認識の違いを感じられる。これは僕の戦いで逢って彼女の戦いだったことを僕は認識してるしそれがあの戦いに反映されたんじゃないのか?そう思う僕を彼女は少し理解しきれていないのか、ただ中庭の配置を気にしているように、そっぽを向いていた。


「私が行ったとあなたはもうしましたね?はっきり言いますがそれはあり得ません、何度でも言うつもりですがこの体の主導権はあなたにあります、あなたが行うことは総じてあなたが望んだことで間違いありません、あなたはきっと自分の行ったことに関して責任を持てず、誰かほかのものに委任したいからそのようなことを言っているようににしか私には思えません、あの基地に潜入したのも、あの男を殺したのも、間違いなくそれは貴方なのです、私は確かに貴方を生かそうとしましたし、その助言も私はしました、しかしながら最後はこういったはずです、選ぶのはあなただと、それを理解してこのような行為をしたのだと私は理解しましたが」


「その結果があの戦いだと?あれは・・・僕が行ったことだったのか?そんな、僕ば何も彼を殺すことなんて・・・一回も考えなかった、ただ生きることを、考える時間をもらうためには切り抜けるしかないとは思っていたけど、それであの戦闘を引き起こしたというのか?どうも信じられん」


「それはきっと私があなたの元に現れず、ずっとあの過去の記憶の中からひっそりとみていても変わらなかったことです、起きてしまったことはしょうがありません、くよくよするよりはむしろ受け入れてみるしかないですよ?」


「そんなことはない!受け入れるもないもどう考えたって僕があんな野蛮な行為をするはずがないだろういいかげんにしろ!」


僕は理解しがたい感情に突き動かされ、気づけば彼女の肩を強く握りながら揺らし始めてた。


「そうだ!君が僕に希望を与えるから!それで僕はこんなことをした!何てことだ・・・あの時死んでいればこんなことにはならなかったんだ!なぜだ!?アマーリアのためか!?そのために僕はこんなことをしなくてはいけなったのか、信じられない、頭がどうにかなりそうだよ」


「それ、絶対いうと思ってました」


「え・・・」


途端に体に脱力がかかり手を放した瞬間、今度は彼女が強く僕の胸倉を強くつかんで来た。一瞬だった、それは感情深く、言いたい放題言った僕に交代するかのようだった。初めて彼女がこちらに顔を向けた。怒りの形相はない、しかし冷酷な者を見るような冷たい視線に、僕は一瞬目を背けてしまった。


「グア!」


「たとえ私が出なくても、貴方は同じ行動をとるに違いないでしょう、貴方には私の身体がある、どこかのタイミングで必ず貴方は私の能力と戦闘能力に気づく、それは戦闘の開始時か、はたまた死を覚悟する最後の時か、それは私にはわからない、でも、その瞬間人間には闘志がわく、その時に、貴方は自分を制御できますか?こんな状態でもまだ優秀にふるまえたと私は思っていますよ、あなたは無自覚すぎる、そして阿呆だ、決闘の最初に気づけたのになぜ貴方はゲラルドの試合方式に準じたのですか?私はそれを回避するために貴方と感情を共有したのに、貴方はそれを気づけなかった。初めから自身が彼より有すると自覚していたはずですよ?ありましたよねそういった時が?万能感と長きにわたる歴戦で積み上げたものがあなたには感じられた。ならば、それを駆使して状況を一変することだって、いいえ、試合が始まる前に彼から剣を取り上げること自体、難しいことじゃないでしょう?」


理解が足らないのか、彼女の言っていることがわからない。彼女のチート張りの戦闘能力、それがどう影響するのかを彼女は説明しているの?ほかに言いたいことがあるのか?


「まさか私がゲラルドと戦うことを望んでいたと本気でそう思っているのですか?そのためにあなたの心に闘志がわいたと?違います、あれは貴方が行う選択に関係なく、自身が苦しまないように私が行ったものです、貴方はコントロールできず、それを私の意志だと考えることで、あの場をしのいでいたんですよ、そうです、たとえ貴方は私が出ていたとしてもこのよう制御できないんですよ、それが結末を生んだ、あれは誰でもないあなたが望んだ結末なんですよ、その後味の悪いほうだけほかの人に押し付けようとしてるだけ、はっきり言って最低です」


「う、嘘だ!そんなことない!そもそも闘志を送りこなきゃ戦闘なんかしなかった!その時点で結末は変わってたんだ!矛盾ばかりな話をしやがって!あんたの話はは破綻してる!」


「ほう、面白いことを言いますね、なら、ここで再現してみますか?もし私が貴方の前に現れずにゲラルドとの戦闘を行った場合、どういう結末になるか、貴方のみ意識が存在するの貴方だけの私の身体だった時、どうなるか」


彼女がそう言ったとたん世界は反転し場所は急に変わる、ここは闘技場、また、あの戦いに戻ってきたのだ。ゲラルドの容赦ない振りが、僕に襲い掛かろうとしていた。


「うおおお!」


走る電撃が意識を喪失させようとする、これは激痛、かれのピックが僕を刺し、その場にたたき伏せた。


「これで4回目、かすり傷だ、そうだろ?立ってみな、体を動かしてみろ?どれも痛みを伴うだけでできるぜ?」


言われて、もうろうとしながらも立とうとした。確かに立てる、だが、この痛みを継続して受けてきたのか、体はボロボロだ。当然だ、4回もこれに耐えたのだから、それ以上が望めるわけがない。ともなれば、ここが死に際といったところか。いしきがもうろうとする。


「足がお留守だぜ?!ほら!ここだ!」


またもや激痛、思わず靴ひもを結ぶ姿勢を取り、ピックで刺された足に駆け寄る。


「ぐあああああああ!」


「ふん!」


顔面への強烈な蹴りは、完全に感覚を喪失させ、体が、動こうとしないまま地面に伏せた。目が覚めたころにはゲラルドは一定の距離を取り仁王立ちでこちらを凝視しており、僕はいらぬ間に闘技場の中央にグングニールと一緒に寝かされていた。


何もかもが現実的なこの夢は、夢だと自覚している以上、僕に第三者としての思考を発達させ、こんなに痛む体があるにもかかわらず、ひどく冷静な側面を見せる。おかしい、まったく彼の動きに反応できなかった。なぜだ?今まで、現実では手を取るようにわかったのに、俊足過ぎて何も見えなかったぞ?


「これが、彼女の助け・・・だったな」


そう、彼女の助けがあってこその決闘だった。それならば、どうやって僕は彼女のいないこの状況からゲラルドを現実と同じ結果に導けるというのだ?どう考えたって無理だろ?


「7回目、行くぞ?」


彼の動きは、能動的なものから制的なものへと姿を変える、じりじりとゆっくりこちらに向けて進む彼は、立つのがやっとな僕に対し、かなり警戒的なようの見えた。これはおそらく僕が不意打ちを狙うようなことを想定して動いていると思われる。当然、そんなことは一度もやったこともないし彼自身できるとも思っていないだろう。これは、少しでも自身が緊張を解かないための工夫の一つなのであろう。


「あの斧にこの槍じゃ防ぎきれない、何か・・・何か打開策は」


奴を殺さず、彼女の力を借りず、決闘を解決する。待てよ?彼女はこの想定されたゲラルドとの闘いにとてつもない致命的なミスをしていないか?そうだ、僕は決闘でゲラルドを刺しているという経験がある、それ故にわざわざ自らで状況を改善しようという意思があるため彼女がいなくても結果として僕が決闘に勝った場合はゲラルドに致命傷を与える可能性が低いじゃないか。それはつまり戦わずして勝つ方法を模索するうえで、方法を限定することができるということだ。


「忘れてない、僕にはパラディンの能力がある」


戦わないようにするにはあいての戦意を喪失させることが必須条件。あの時、僕にあるといわれた能力は手の表面しか限定的に出ていなかった。ゲラルドは僕の能力をこの時点では知らない可能性がある。それならばこの烈火のなんたらを使って奴を降参させることもできるかもしれない。烈火をどう奴に食らわせるかなんてわからないけど、とりあえずやれることはやってみるつもりだ。


「ふうう」


意識を集中させ、手に熱を加えることをイメージする。それは初めは暖かく、やがて灼熱にまで上がるように、薪についた火が、山火事を起こすよう、めらめらと揺れ動く大きな炎をイメージする。


「熱くはないな・・・でも確かに手のひびが出てきた」


手には現実でも見たひびのようなところから、めらめらと溶岩のようなものがうごめくのを見た。それは槍の色を変化して、炎の紅さに躍動感を与えた。次第に槍が変化していくのが見える。こバターナイフのような先端が鋭角な刃物の両刃へと姿を変えていく。


「え?!ちょ、ちょっと!何でそれをあなたが使えるのよ?!」


ローレの声が聞こえる。ゲラルドの反応出ないのが惜しいが、この感じであればゲラルドの戦意にも影響するだろう。


「待て、なにかがおかしい」


急になにか引っかかるものが、僕の中で主張する、それは何かわからないが、おそらく現実の戦いの際に起きたことであることは間違いない。こん棒?それだ、グングニールは僕が見たときにはこん棒などではなかった、それはまさに槍、間違いなく槍の形をしていて、先端には刃物がついていたのを覚えている。ならば、なぜこの槍は先端が丸いのか・・・能力を使ったことで変形したことから考えられることは、この烈火の能力による温度が、金属に熱変形を与えるとともに、この槍の特性が形状記憶合金のようなものなのであれば、この形になるはずだ。


「つまり、僕ははじめから無意識に使っていた?ということはゲラルドははじめからそれを知っていて決闘をしていたってことか!」


とんでもない勘違いをしていた。彼にパラディンの能力を見せれば、戦意喪失を促せるなんて言うのは誤算、そもそも決闘直前、選んだ武器を驚いていたのは、極端に武器が騎士団長のものを選んだからではなく、槍の形状が変わっていたことに驚いていたんだ。あの笑いにそんな意味があったなんて、そんなことをすればむしろ彼は・・・。


「ほほぉ、面白いじゃねぇか、そんなもの隠し持ってたのかよ、なるほどね、道理でそんな役立たずな棒を選んだはずだ」


ゲラルドの驚愕した声が聞こえる、しかし、それは恐怖から来るものでは断じてない。それは興味、好奇心から来るまったく別のものだ。


「俄然、やる気が出てきた」


やってしまった。これは緊急事態だ、こんな簡単に打ち破られるなんて全く想定してなかった!しかしまたもや疑問が生まれる、遠目から目ていた大剣の騎士たちはともかく、なぜローレはこの槍が変形していることに気づかなかったんだ?もし気づいていればアクションを取るはずだが、それはかなり後になってのことだったのを、僕は覚えている。それはつまり、グングニールが常に形状を変化させてなかったことを意味する。つまり形状が見られる相手を限定して変化させていたということか?見られる角度、距離を配慮して?なぜ?そんなことはに何の意味があるというんだ?そもそもそれを無意識化にやるということに、意味を感じられない。


「彼女がやったのか?どうしてそんなことを?」


彼女がやったとしても、それで隠す理由がわかるわけではない。ローレと彼女の間に何か因果関係があれば話は別かと言われても、身体が僕なのだから彼女の存在を知られることは絶対ないだろうし隠す必要は全くない。ともなれば隠ぺいが目的で行ったわけではないのかもしれない。ともなれば、わざわざ刃を常時変化させ、刃が目に付く頻度を少なくした理由は、考えられるのはひとつしかない。


「殺傷能力、それを喪失させ、向こうに威嚇をするためだけに使っていた?」


それしかないだろう、彼女はあくまでゲラルドを殺す、刺す、そして制圧するのではなく、降伏させるために戦おうと考えていたはずだ。それを望んでいるのであればつじつまが合う。でも待て?彼女は体に支配権がないといっていた、にもかかわらずそのようなことができるのか?


「それが、感情の同化だったのか?」


本能的には彼女が何をやっていたのかはわかっていた。それが精神面的なものであったこともわかっていたのだ、だが、それがどう身体を動かしているのかを僕は完全には理解していなかった。その片鱗がこれなのだろう。僕は無意識でなく、意識的に彼女の能力を制御していたのだ。彼女の感情を意識的であるが無意識下で採用し、体で表現した、それで得間違いないだろう。つまり止めを刺したくなかった彼女の意見を無視し、彼女の物だと錯覚していた自身の闘志に身を任せた結果・・・ゲラルドを刺してしまったのだ。


「つまり、あれをやったのは・・・僕だった?本当に僕だったんだ!ああ、なんてこった、本当に僕だったんだ!」


「ゴタゴタうるせぇぞ!いつまで突っ立ってんだ!」


宙に舞った、それは理解できたが誰が、どうしてこうなったのかを理解するのには時間がかかった。痛みが遅れてやってきて、振り上げたこぶしを確認したとき、殴られんだと理解した。まさか人のこぶしがここまでの怪力を作り出せるなんて全く想定していなかった。


「グハ!」


ボクシングのようだ、なんどもたおされても、何とか起き上がる。それは倒れて状況が改善されないこと、そして倒れている際に何が起こるかわからない恐怖のあまりにやってしまうことだ。恐怖、現実の決闘では意識すらしなかったものが、ここでは当然のように感じられる。これが実戦かと、震えが止まらない。まるで現実とは違う本物の実践のようだった。まったくFPSだと思った自分が憎たらしい。


「ひっ」


何かが当たった。思わずたじろいてしまう。それはただの小石だった。その小石は投げられたものだった。当然ゲラルドのものである。それを確認すると、ゲラルドはクックと笑い、静かに告げた


「次の攻撃でお前は死ぬことになるが、何か言い残すことはないか?」


彼は斧を持ち替え、ピックから頭斧の部分を正面にした。これは最後を彷彿とさせるには十分で、僕の中の恐怖心はボルテージまで駆け上がる。


「う、うわああああ」


悪寒が走り出し思わず闘技場の端まで逃走してしまった。情けない声と逃げ腰の姿勢に、闘技場を囲む騎士たちは笑い、ゲラルドは失望の声を漏らした。


「はぁぁ、せっかく生きるチャンスを与えてやろうとこの決闘を用意してやったのに、わざわざ自分でそれを放棄するなんて信じられねぇ、お前はぁ、もう少し根性っていうかそういうものは持ち合わせていないのかぁ?」


「あ、あああ」


「おいおい、怖すぎて何もできないってか?ま、それを望んでこれをやったわけだがな、どうだ?少しは感じたんじゃないか?生への執着ってやつが、これがお前にアジ合わせたかったものだ、この感情はなぁ、人間最後の最後に噛みしめて、それで死んでいくんだぁ」


そんな馬鹿な!?僕は仮にユッタに合わずとも恐怖しているというのか?間違いなく彼女に合わなければ生への執着を感じることはありはしないはずだ!極端に痛みか?ゲラルドからの攻撃による痛みを回避することに無我夢中になり、このようなことになっているとでもいうのか?僕は一体何にそんなにおびえているんだ?


「一発で終わらせるぜ?」


途端、ゲラルドの最後の攻撃が始まった。彼女のいない僕は、いつも通り多くのことを考えてしまう、それがゆえに、あまりにも多くの時間をそれに費やしてしまうのだ。ああ、何たることか!今の僕は間違いなく生に執着している。迫りくるゲラルド、彼は突進し、まさに今、僕を仕留めんと走ってくる、上段の構えに移行し、完璧なまでに自分のペースに持っていてしまっている。


このままでは死ぬ、このままでは、死ぬ。


途端、水がかかったような錯覚に陥った。自分でも思わず失禁してしまったのかと思う、だが、それにしては発汗も何も感じない。どうやらこれは血管を流れる血液が影響しているのだと知る。血液が急冷したのか、氷を流しだそうと考え出したのか、酷く僕を興奮させる、静かに、あたりの時間が遅れて行くのを僕は感じた。それは突進するゲラルドの距離を精密に測ることができ、また、考え事を得意とする脳を単純化させ、気づけば槍を彼の方向に投げていた。いかに原始的なやり投げだろうか、これは彼女の経験から来るものではない。おそらく本能的な、この体に刻まれた本能がこうしろといったのだろう。槍は、今まで見せたことのない形になっていた。ひどく膨張するも、まるで氷山のような鋭角を持ち合わせている。それは、僕の投げたこぶしから理由が判明した。あまりにも、あまりにも真っ赤に染まった手は、まるで火山帯の火山内部とでもいようか、赤と黒の混在した禍々しい10本指となっていた。それはつまり、自身の能力に体が対応しきれず、ひびが完全に指を剪断したのだ。


「あ、投げた」


ゲラルドの上半身は焼失した。


「投げたでしょう?」


ユッタの言葉で、僕は図書館の中庭へと瞬間移動した。ような気がする、同じ夢だから移動などしていないのかも。


「いかがでしたか?少しは私の言いたいことが理解できたら幸いなのですが」


とげのある言葉ももっともだ。自分で自分が恥ずかしいどころじゃない、吐き気すらする。僕は自分の最後を確信した途端制御できない力によってまた同じ結果を招いてしまった。暴走した、僕は自分で自分をコントロールできなかった。笑うしかない。結局、ユッタの言いたいことを先延ばしにしただけで、自分の先の意見のバカバカしさと愚かさを再確認したところで、結果は同じなのだから。


「貴方が最後に感じた闘志、騎士であれば常に出せるよう訓練していますが、基本的には素人は窮地に立たされると心に現れます、しかしそれが芽生えたとしても生命の危機から脱することは難しいままでしょう、特に騎士との決闘をやる素人ならば、間違いなく殺されます」


け彼女はだるけな顔をする。なぜ自分はこんな説明をしているんだと感じているのかもしれない。


「ただ、僕のように素人の精神を持った豪傑の男が戦ったら・・・騎士は即死する」


「だから、私は制御できないかといろいろ模索したのですが、残念です」


落ち込むように鎮まる、その雰囲気はあまりにも重苦しく、口を開けることができなかった。おもえば彼女とはまだ2回しか会っていないのに、ずいぶんと親身にしてもらったものだから、少し僕は彼女に何でもかんでも押し付けすぎたのかもしれない、だが、今回は荷が重すぎた、彼女の仲間を殺した責務を彼女に押し付けるなど、人として論外なことだと深く思う。いくらなんでも酷なことだ。人を殺したんだぞ?人を・・・。


「う、うおおえええ!」


強烈な吐き気にその場で嘔吐した。状況整理が進んだことで現実味がわいてきたのだ。初めて人を殺した、何たることか、ただ自分の我儘ついでに殺すはずだった命は、本当はこうも重いものだったのかと強く思った。ローレのあの言い草も今ならわかる。責任をとれと、逃げるなと言いたいのだ。基地に侵入した男は、処刑方法を変えた途端に変貌した、あまりにも傍若無人な存在だったに違いない、それどころか悪魔が舞い込んだと思っただろう。短時間でたたき込まれるその情報量は、少ないにもかかわらずとても物語としては高品質なものだったに違いない。ローレからは僕がこう見えただろう。


「ある日突然現れた自殺志願者は、ある日突然豪傑の男に変貌し、さも当たり前に騎士団有数の騎士であり私の部下の男を決闘で殺して、私たちがいうことを聞くように上の者からの特権で私たちを黙らせた後、私たちの仲間になった、今日から仲良くしなくちゃ☆彡」


誰がこんなものを気に入ると思う?僕が恨まれるには十二分だろう。殺すとかんとか、当たり前だろう?何でそんなことに気づかなかったんだ?先を想像して、彼女の能力を駆使し、彼女のサポートを尊重していればこんなことにはならなかった。身体の赴くままに行動するなど、考えられないことだったのだ。でも、でもだよ?転生したばっかの身体でそれをこなせってそれは無理な話でしょう?誰がができるんだよそんなこと。


「なぜこの体を与えたんだ!それがそもそもの元凶だ!」


「それは、貴方がルッツの施設からの搬送の際に、あなたが望んだことでは?五体満足な体がほしいと、それを実現するにふさわしいものがこれだったわけです、お姉さまもそれを望みましたが、貴方もそれを望んでいると、私は説明を受けましたが」


「そんなことは・・・・望んでいたのか」


「そう、望んだではありませんか、それを今度はいらないと?体が違うだけでもう用済みだと?なら、初めから助からず死んでいた方がよかったかもしれないですね」


もはや自分のいいわけですら、まともに考えられなくなったか、もはや末期だな。もういいや、自分の言い訳を考えるのも飽きた、こうなったら、生きて、生きて好き放題にやってやる、あの槍とこの力があったら、僕は何でもできる、そうと決まればまず起きたら騎士団の奴らを皆殺しに・・・。


ベンチ周辺の空気は完全に一変した、もう朗らかなムードにはならないだろう。ほとんど初対面な彼女の顔も、もう笑顔などなく、ただ黙ってみているだけだった。まだ2回しか話していないが、もう信頼関係は存在しないだろう。それほどのことを、夢でも、現実でも、僕は行った。彼女がもし常人なら、こんな光景を二回も見せられたら普通に狂ってしまうだろう。僕がやることは強制的に彼女のやること、つまり彼女が殺したことにもなるのだから。


「私は」


彼女が口を開いた。だけど、僕にはもう聞く気力すら残っていなくて、ベンチでだれてただ聞き流すことしかできなかった。想像していなかったのだ。できるわけがない。二人で一つの体など。


「私は、どうやら身体の血が他の人に付着するとその人にも見れるようです、その人はゲラルド、彼に私は何と言って去ればよかったのですか?貴方の行動は手に取るようにわかる、だから私は・・・憎まれるしかなかった、そういう行動を取るしか、選択肢はありませんから」


小さい弱音がぽろぽろとはがれるように出てきた、彼女の顔は視なかったが、うなだれていたことからさぞ悲しいものだったのだろう。彼女もにも僕の行動のせいで傷つけてしまった。知っていたのに、僕には気遣う能力どころか口を閉じることすらできなかった。


「へ、知るかそんなこと、ゲラルドに助けでも求めて、僕の息の根を止めてもらえばよかったんじゃないか?隙を作らなければゲラルドも勝機があった、そうすればゲラルドは刺されることもなかった、それでお前はハッピーだろ?それとも、それじゃアマーリアからの勤めが果たせないと?なら僕の言うことを聞け、それが後者を優先したお前の役目だ、それが僕にとってハッピーになる」


「な・・・最低です、なぜお姉さまはあなたのような下種を助命したのか、まったくわかりません」


すごい剣幕を放っている、初めて彼女は怒った。憎しみのこもったその感情は、僕にはどれほど感じられただろう。無神経を通り越してサイコパスとしか思ない僕には、何も感じられないものだったのかもしれない。


「本当に、何でだろうな?僕がただの役立たずだと、なぜ気づかないのかハタハタ不思議だよ、ひょっとして施設にいたアマーリアは藁にも・・・いやぼろ雑巾にもすがる思いだったのかもしれないな」


「お姉さまがぼろ雑巾をつかむことはあっても、こんな薄汚いぼろ雑巾をつかむはずがありません、なにか、あなたの能力ではないものに興味を引いているのかもしれません、が、それがどれだけ無駄なことかを話さないと気がすみません、目が覚めたら一度彼女に血を一滴与えてください、いいですね?」


「ああ、わかったよ」


その後、お互いが話すことはなかった。どちらかが席をなはれれば、きっと夢から覚めそうだが、なぜか離れる気が起きない。すごくムカムカして、必死に考える。何か彼女に言い忘れていたことがあるのではないか?そう思い、とりあえず心に思っていることを言った。


「また、夢で逢えたら逢おう、それから、最後まで聞いてくれてありがとよ?」


「・・・?」



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