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悪党のすすめ  作者: と
奴隷編
14/63

12 狂騒

昔、騎士には崇拝とでもいうような、妄信していた人物がいた。いや、もう騎士団の人間だったらみなそうであろう、それは女ではあったが「国崩しのユッタ」と呼ばれるほどの猛将だ。才色兼備、文武両道、おまけに家柄はやんごとなき伯爵家、こんな奴をどう捉えたって普通じゃない。伯爵家の令嬢にも関わらず、婿を取らないで武器を取る。とても不思議な話ではあるが。そんな人が団長として準貴族の俺たちのもとに現れたのは、ある意味、必然だったのかもしれない。


ただ、彼女は持病もちであった。それゆえに、子を授かることは難しく、嫁にいけない原因と家の汚点を作ったと、自身をひどく恥じていた。だが、騎士である俺たちにそんなことは関係ない。ただこの領地を守るのにふさわしいかどうかだけ、それさえ満たし、騎士として厳格で淑女な女だったら。もう最高だ。おまけに彼女は騎士としての才能に向いていた。パラディンだったのだ。今日からこんな人と一緒に戦えると思うと、胸が高まる思いだった。病が悪化し、しゃべる屍となるあの日までは。


「だ、団長」


見える、この目には、先ほどまでアウタースレーブがいたところに、明らかに団長の姿が見える。いつもと変わらぬ態度、身のこなし、ただ一番不思議だったのは、彼女はもう崩れた顔だったのに、気づけば完治しているところだった。金髪碧眼な容姿だったのは、いったいいつからだっただろう。もう数年前の彼女は、包帯で全身を覆っていたから。でも、なんで?こんなところにいるんだ?だってアマーリア卿の話では、1年前死んでしまったと。


「「久しぶりですねゲラルド、まさかこんな形であなたと会うことになろうとは思いませんでした」」


少し思い出深いような笑顔だった。戦で笑うことは彼女にはよくあった。狂戦士のような戦いをするからだ。だが、それはあくまで敵兵にしか向けない笑顔だった。これは俺を敵だと認識しているのか?なぜ?俺たちはいつも共闘していたのに。どんな時だっていっよに戦ってきたじゃねぇか?


「し、審判!こ、こいつ団長だ!団長がここにいますよ分隊長ォ!」


「へ?ん?何を言ってるのゲラルド?貴方の対戦相手はアウタースレーブよ?決闘中に阻喪は禁物、集中しなさい、いいわね?」


「け、決闘、そうか、決闘の中か」


彼女は俺と決闘をしている。アウタースレーブに代わって決闘をしているんだ!それで俺に敵意を向けているというのか?それでは、和解のしようがないじゃないか!嫌だ!どんな機会かは知らないが、こんな形でも会えたのに、何で殺し合いなんかしなくてはいけないんだ!?


「「ゲラルド、何やら弱気ですね、ではこちらからいかせてらいます」」


先ほどの無作法な突きではない!計画と経験による精度の高い突きが、容赦なくこちらに向けられる。悲しきかな、こうなってしまえば、俺も戦士だ。血が騒ぎ、無条件に応戦、そして制圧まで何も考えなくなってしまう。


身体をそらさず、応戦、力だ、こいつも体なら俺に劣る!左へ振り、右に振る、振られた奴の体をピックで刺しかねる。速度を上げ追い詰める。腰を振り、重心を置く、俺の得意とする攻撃、それを容赦なくたたき込む。だが、それらすべてがあの槍によって避けられる。簡単にはじかれる。これでは戦にならんこざかしい、


「うおおお!」


振り回し、距離を置く、だが、その選択は甘かった。彼女はそのすきを見計らって腹に潜り混んできたのだ。モリのように槍の先を持ち、片手を固定し、全身で攻寄る。


ズド、軽い音なぞしなかった。捨て身には捨て身の攻撃、武器を放り出し、俺は彼女の頭部にげんこつ、その体重差で抑え込んだ。要は馬乗りの姿勢になる。だが、勝つにはどう殺したもんか、首絞めしかない。


「「やれやれ、やっとそのきになりましたか、こうするのに時間がかからないところ、さすがはゲラルドですね」」


「ふ、案外あっけないもんだなぁ、こんなことだったらさっさと殺しちまうんだったぜ、お前にはいい夢見させてもらったよアウタースレーブ、最後に団長に勝つ夢とは、これは良いゆめだぁー」


「「面白いです、やはりこれこそ戦いというもの、でも、あまりにも貴方は甘い」」


「な!?」


してやられた、鎧の可動域を甘く見ていた。わずかな隙間から脱出、無防備な頭部に渾身の蹴りをもらう。視界不良に聴覚の低下、判断能力に難が出たようで。しばらく動けない。くそ!あとちょっとなんだが。油断した!


「ふ・・・」


途端に腹部に激痛走る。これは、明らかに殺傷力のあるものによる攻撃だ、が、防御を取ることができない。まさか一瞬の隙間が、このような結果を招くなどだれが想像しただろうか?そんなもの、誰も予想できまい。これは明らかにアウタースレーブできる所業ではない。これは明らかに戦闘にたけたものによる攻撃、鈍痛へと変わりながらも、自らの認識の甘さに恥を覚え、悔やむにも悔やみきれない思いになる。


「ぐぅぅ、がぁ・・・ああ」


シワをどんなに寄せても回避できないこの苦痛、明らかに現実のものだと、感じ取ることになる。


「一瞬、一瞬油断しただけでこの逆転、そして瞬殺、やはり戦いとはどんな時でもォ、わからないもの・・・だ」


「「いいえ?あなたは油断したわけではありません、油断するまでもなく極端に私があなたより強かった、ただそれだけのことですよ、これはむしろ当然、貴方は何ら恥じることはありません、決闘が終わるまで、そこで静にしていなさい」」




「そ、そこまで!」


ローレの声が響き渡る。これは勝負ありと判断したか、急に声を張り上げるも、その顔には半信半疑な面持ちを感じられる。彼女は少し嫌悪感に近いものを感じていたのだ。すぐさまゲラルドのもとに訪れ、彼の状態を見る。帯だたしい血が、闘技場に広がっていく光景は、騎士の最後にしてはずいぶんと寂しいものだった。いや、まだ息を引き取ったわけじゃあないんだけどね?


「ひどい傷、臓物まで届いてる・・・セージ!ここにセージを!彼を医務室に!医療団に負傷者の治療要請に行って!」


仲間も駆け寄り、担架を使って運ばれる。多くの者が彼に呼びかけたが、ゲラルドは一度も返答できず、ただもがき、うなることしかできなかった。それほどの深い傷、なぜこの男がそんなものを食らわせることができるのか?そこが一番気になるところだったようだ。それはつまり、よく訓練された兵士、素性を旨く隠して拷問をすり抜け、ここまで誘導したのち自由の身になれば本国に帰って報告する。そういった任務に就く斥候なのではないかと、考え始めたのだ。


「勝者、アウタースレーブ改め、騎士、ナナシノゴンベエ」


でもそれにしたっておかしい戦い方だ、何度も言うが精鋭の部隊の副分隊長を務める彼が、こんなにあっさりとしかも3分ほどで負けるとはどういうことだ?いや、そもそも負ける可能性は審判である私から見てもかなり低いものだった。前半戦にしては、アウタースレーブはとても幼稚な基礎的な戦いしかできず、この時点で技量の差を見るようになったし、槍の使い方も構えも足のとり方も何もなっていなかった。それなのになぜ急に、後半三分ほどで豹変するように変わった。まさかこんな簡単に順応したのか?それはあり得ない。ならば元からあの妙技を覚えてた?そう考えるのが順当というものだろう。しかし私が尋問した限り、彼は明らかにアウタースレーブで、まだ18の男に過ぎない、ほかに考えられることいえばそれは彼が昔軍役経験を積んでいたとか?それならば話はかなりややこしくなる。もしそうなれば考えが一変するだろう。騎士にするなどとんでもない、この場で殺すことさえありえる話だ。


「でも待って、彼に尋問したとき、彼はアウタースレーブであるとは言ったけど軍人であるかどうかなんて聞いた?そうよ、聞いたわ、基地放火未遂はただの自殺願望だと結論が出た、私の魔法は絶対、ともなればいったいなにが彼をあそこまで強いものに変貌させたの?」


ナナシノゴンベイはなおも沈黙したままその場にただ突っ立っていた。その表情はうつむいていてよくはわからないが、ないかぶつぶつとつぶやいているように見える。何とも不気味な奴だ。


「ふふ、まさか、勝ってしまうとはねぇ、これはさすがに驚きだ、マンに一つとは思っていたが,ゲラルド相手にねぇ」


どこからともなく代理が現れ、意表を突かれるが、彼もまた、あの男の出来事から目を離せないようで、私には気づいてすらいなさそうだった。


「代理、彼は危険すぎます、すぐに殺しましょう」


警告を着入れるかどうかは別に、代理は髭を弄りながら思案にふける。どうやら代理はいくつかの問題に直面しているようだ。しわの寄った顔も余計に曲がっていた。


「まて、それは騎士としてどうなのかね、というかそもそもの話、我々に彼を殺すことができるのかなんて保障はどこにもないんだぞ?」


何を、仲間が討たれたのに冷静になっているの?!これは緊急事態じゃない?!そんな悠長なことを言っている場合じゃないでしょう!?今ならやれる、彼は疲労している。今なら絶対に討てる!


「できます、絶対に殺せます」


「ふう、いいかね?私はゲラルドが憎くてこんなに冷静なのではない、いやむしろゲラルドに関してはどちらが勝とうとそれが当たり前だと思っていた、だからありのままに受け入れられているのだよ、君は部下を討たれて頭にきているのかもしれないが、冷静でないものは戦場では長生きできない、今行けば無駄死にだ、それに、我々は約束をしてしまった。貴族の約束は平民のそれとはわけが違うのだよ、言質ともいうが、我我はそれを行う義務がある」


「貴族って言ったって準貴族じゃないですか!大体我々には騎士の称号を与える権利なんてない、王立騎士団でもないただの平騎士が一体何ができるっていうんですか!?貴方もそれを理解して今回の決闘を受け入れたんでしょう!?」


「ん?わしは勝つなら本当に騎士にするつもりだったぞ?現に昨晩報告次いでにアマーリア卿にもそれを伝えに言ったしな」


「ええええ!!!!!!」


この男は何を言っているのかわたしの理解力ではわからないが、とんでもないことを言っていることだけはうかがえる、そもそも、貴族に我々騎士が嘆願すること自体ありあえない話だろう!?何が一体この男を突き動かしてるのか、まったく理解できない話だ。こっちは同胞を討たれているんだぞ?その自覚はないのか?!


「一様聞いておきますけど、アマーリア卿は何と返事をしたのですか?」


どうせわかりきったことではあるが念には念をという言葉もあることだし、ここは聞いてみよう。


「いいってさ、むしろアウタースレーブの話をした途端、目の色変えて丁重にもてなせという始末よ、なんでも、騎士の称号授与は今晩屋敷で執り行うとか」


「えええええ!!」


条件反射で奏でるその音色は、あまり心地のいいものではなかったらしく耳を塞いだ。、


「ああもう、そんなに、ぎゃーすか言わなくても分かっている、そう、あの男は決闘で勝ったら騎士として迎え入れてもよいという話になったのだよ」


「でもでもでも!あれは元アウタースレーブですよ!?そんなことがあるはずないじゃないですか!前例がないじゃないですか!彼は訓練も何も受けていないのに・・・」


「うけていないのに数分で一流の騎士に勝ち、戦いに慣れてないはずなのに武器を扱うことができ、そして、何より団長の武器「無刃槍」と名高いグングニールを扱うことができる?・・・そんな都合いい話があるわけないだろう?大体、騎士の称号を与えることをアマーリア卿から快諾された時点で彼は特別なのだよ、アマーリア卿は、無刃槍の使える男の奴隷を見たら報告せよとおっしゃられてた、それは現在逃走中だとか・・・彼しかいないだろうな」


「そんな、じゃあ彼は逃亡奴隷だというの?私の尋問ではそんなこと言っていませんでしたよ?」


「おそらく本人に自覚がないのだろう、彼はまだ前回の人狩りで連れてこられたひよっこだし、アマーリア卿も奴隷として迎え入れたわけではないとおっしゃられてた。おそらく、アマーリア卿が行おうとしている何か特別なことに関係しているかもしれん、隠密活動などという摩訶不思議な訓練を行っている我々のように、彼も今回の件に一枚かんでいるのだろう」


「特別なことって、まさか例の謀反・・」


「シ、今はそれを言うな、ともかくアマーリア卿がただの奴隷に対してあそこまで驚くはずがない、これはきっと何かわけがある。おそらくあの奴隷、嫌、あの騎士もそのための訓練・教育を受けた者ではないかとわしはにらんでいる、ならばここで手放すのは愚策というもの、すぐさまこちらで引き取り、アマーリア卿の屋敷に連れていく」


いつにおなく真剣な顔をしている団長代理にローレは息をのんだ。ふざけてなどいない。こんなことは代理だって納得はしないはずだ。何か、何か重要なことに我々は巻き込まれているのではいか?彼がここに来たのはないか意味があって、それで来たんではと、我々は少し思うようになった。考えてみれば当然だ、特別でない証拠がこれまでの彼から見て一つでも証拠があるというのか?少しだけ理解が進んできた。


「そうよ、いまゲラルドは重傷を負ってる、試合が始まってまだ数分しかたたない時に重傷を素人に負わされた、おかしいにもほどがあるでしょう?仮にナナシが元の世界で格闘家でも、あの体格の相手を簡単に討つことなんて簡単じゃない、なんで疑問に思わなかったの?今の試合は一貫して普通なんかじゃない、それどころか、あの武器を選んだ時点でおかしかったのよ!刃のない槍なんか何の価値もないのになぜ彼はそれを好き好んで選び、それで刺すことができたの?!あの武器は灼熱の太陽にでも放り込まない限り刃が変形しない、それができるのは騎士団長と同じ烈火のパラディンか能力者だけ、じゃあ彼はもともとパラディンか同等の能力を持っていたってこと!?もう、わけがわからないわよ!」


恐怖に近いものを感じて足がすくむ、我々はひょっとして自分たちが想像していない何か異質な怪物をまねきいれてしまったのではないか?それどころか、彼は私たちを何か良くない方向にもっていくような気さえする。これは一体何なんだ?我々の身になにが起こっているというのだ?!


「それだけ君の見たものは現実性がなかったということだ」


代理はそういうと兜越しに私の頭を撫でた、気持ちよくはないしむしろ不快だったが、代理は落ち着けと言いたかったのだろう。


「しかし、おそろしいねぇ、まさか奴隷が急に騎士になるんだからこの世っていうのはわからない、もしかすると、わしらは何か世界の転機に立ち会わせているのかもしれないな・・・アマーリア卿のわしら騎士の特別訓練も、アウタースレーブの報告したときの反応も、なにか、すべてが大きな理の中にあるようなきがしてならない、ともかく、君は彼に今後のことを説明しに行くんだ、そして、どんなことをしてでも、アマーリア卿のもとへ連れていけ、それをアマーリア卿は望んでいる」


「はい、わかりました」


特別な男、逃亡?勘弁してほしいわね、その逃亡者は自殺するためにここに来たってのにこっちはそれが原因で損害を出した。しかも本人は死なずにぴんぴんしているって、これは笑いの種としか思えないわね。そんな奴に、この基地は遊ばれたってこと尚更腹立たしい。あいつにとって、戦いはおもちゃでしかないってことね。それは勝手だけど、なんでそのために部下が死ななければいけないの?


「本当、なんであんな屑がこの基地に入ってきたのかしら?」





酷く身体がほてっていたのに、少しずつ汗とともに体内から放出される。少し息を整え、身体のベタツキを意識し始めようとしていった。今の僕はまた独りで、僕はこの感覚になつかしさを感じていたが、現実性のない現実に少し酔ったおかげで夢見心地だった。が、決闘は僕が行ったことは、まごうことなき事実だった。冷静になる途端、強烈な鉄臭さ、闘技場の吸血、そして、槍の紅さは炎のようではなく、独特の粘度を兼ね備えた粘液のようなものが、焦げ臭さを交えて引っ付いていた。


「おえ、気持ちのいいものではないな、でもやっぱりここでも彼女の経験が生きているのか動じないんだな」


ごもっとも、僕には経験のないことなのは当然であるため先ほど頭の中は核爆発のような混乱を見せているし、心臓の音は耳鳴りのように感じるほどうるさい、でもこうでもしないと、僕は生き残れなかったということは自分の中でわかっていた。だからこれでゲラルトが仮に死んだとしても、僕は何の後悔もしないつもりだ。これは彼の望んだことであるし、それを受け入れた僕も、元の世界との決別を込めて戦うことにした。そう、この戦いの最中に決断したのだ。ぼくばたとえどんな困難が待っていても、暗闇に望まれるがまな生きていこうと、死は、そのあとでも間に合う。いや、戦いをしたものとして。命を奪うものとして、相手の遺志を引き継ぐことを生きるといい。放棄することを死と呼ぶのだろう。僕は勝者となった以上、放棄することは許されないと思う。だから僕は生きることにしたんだ。


「ごもっとも、戦ったのは僕より彼女の感情が上回ったからだけど、はぁ、今回もまた彼女に救われたってわけか、感謝しないとな」


こう考えると、いつも彼女に助けられている気がする、まったくもって情けない、自分で選択することができないなど、責任を放棄していると同等ではないか、そう思えてくるほどだ。


「誰に感謝するの?」


不機嫌な顔で問いかけるローレに気づき向いてみると、多くの武装兵がこちら弩を向けていた。どうやら僕の勝利は決して祝福されそうにはないようだ。


「うわ!?約束が違うだろう!?」


グングニールを彼らに向けては視たが、これだけのゆみを払いのける自身などない。さてはて困ったものだ。


「!、無刃槍であるグングニールに刃がついてるわね、貴方、どうやってそんなことをしているの?」


「お、おっしゃる意味が分かりませんが」


「手を見せてみなさい、そういってるの」


手?手に何かついるのか?しかしもし彼女の口車に乗っているうちに槍を奪われてはかなわない、ここはちらっと見るしかないな。


「お?なんだ?皮膚ができている?いや、まるでグングニールと同じ炎の色が・・・ふおー!」


信じられないことだ、僕の手は、今無数のひび割れに襲われている!先ほど皮膚を失ったのに、今度は真っ黒なひび割れだ!そんなに乾燥しているのだろうか?痛覚を感じなかったからか、まったく感じられなかった。しかしながらよく見ると、まるでグングニールと同じ色をしている。もしかするとこれはただのひび割れではない?そういえば、こいつのおかげで出血を抑えられているのか、止血もしてないのに血が止まっている。これは一体何なのか。


「それはあなたがパラディンの資格がある証拠よ、しかも、団長と同じ烈火のパラディン・・・やはりあなたは生かすべきじゃなかったわね、ゲラルドではなく、私が処分を決めるべきだった」


途端に力が入るが、どうやら敵対心を感じられないので、本位では・・・ないのかもしれない?


「え、ええぇ、それってひょっとして、僕はどのみちここで殺すってこと?騎士の話は?」


なんだか雲行き怪しくなってきたが、それもローレのため息で、すべて吹き飛ぶことになる。


「いいえ、貴方は生かされることになったし、騎士の称号も問題なく授与されることになったわ、ただ、あたしが反対だってだけ、でも気にしないで、何も部下が刺されたからあなたを嫌っているってわけではないの、ただ、貴方を過小評価して基地で生かし続けた自分が許せないってだけ、ともかく戦いは終わった、あなたは騎士として認められ、貴方はこれから授与式を執り行うアマーリア卿の屋敷に行くことになったわ」


「な、アマーリア卿だって!?」


絶句するが、同時にやはりなとも思った。実を言うと僕も来た道を戻り、もう一度彼女に会いたいと思っていた。それはもちろん聞きたいことがやまずみというのもあるのだが、彼女もまた、僕に妹の体を譲ったほどだから、絶対に逃がさないという意思があるに違いないと思ったからだ。ならばいっそのこと、自ら帰った方が潔いというものでもある。これまでに聞けなかったことを聞いて、すべてを明白にするんだ。


「よし、行こう」


「あら、案外抵抗すると思っていたけど、貴方逃亡奴隷だったんでしょ?帰ってただで済むかわからないわよ?なんなら辞退ってこともできるけど?」


「いや、どのみち決着をつけないといけないからさ、僕はもう逃げる必要もないし、多分生命に関しても保障されえていると思う、僕は特別だからね」


この男、何もわかってない。自分がこの基地でどういうことをしたのか、まったく気づいてない。


「そう、やはりあなたは特別な奴だったのね、それで、特別な男は一人で死にきれずこの基地へきて、我々の仲間を殺してとんずらってわけ?何であなたはここへ来たの?死ぬなら一人で死になさいよ、っていうかなんで生き残っているわけ?」


「お、おいおいまだ死んだと決まったわけでは」


「死ぬわよ、臓器に届いた傷で死なないわけないでしょう?言い方を変えれば内臓裂傷してるのよ?どうやって直せっていうの?医療団はそこまで優秀じゃない、あなたの気紛れが一人の命を奪おうとしているのよ?正直言って私はあなたを隙あらば殺そうと思っているわ、戦いで騎士が死ぬことは名誉なことだけど、その殺す相手がおもちゃ感覚で殺生しているんだったゲラルドが不名誉極まりないもの、覚悟していてね?」


「なんだよ、何が言いたいんだよさっきから、僕が気に入らないのはわかったけど、だからってそんなに嫌味を言うことないだろう」


その時、ローレの眉間に青筋が立つのが見えた。口をとがらせ、


「わからないの?はた迷惑だって言いたいのよ、貴方は死ぬためにここに来た、そういったわよね?私もそれを聞いてまぁ雑務だと思ってこなすことにしたわ、なのに決闘が始まってみれば状況は一変、貴方は虚弱にならず一瞬で相手の懐に入って討った、どういうこと?死ぬはずじゃなかったの?あれは本心から言っていたくせに本番には弱い体質なの?なら、本当は特別なあなたは誰か殺すために逃走して力試しでもしたかったの?その玩具としてゲラルドを?」


「おい、決闘は確かにゲラルドが提案したものだろう?僕がやりたくてやったわけじゃ」


「だから、決闘でも処刑でもあなたにとっては変わらなかったでしょう?死ぬのは貴方だったんだから、なのに何で改心なんてしようと思ったの?私が言いたいのはね!ここはあなたの玩具じゃないって言いたいの!そんな一新しただけで簡単に強者を殺せるような奴!ここじゃなくて竜の巣でもいって死んで来た方がまだ迷惑じゃなかったって言いたいのよ!なんでこんなことをしたの!?狂ってる!あなたくるってるわ!」



この時僕は自覚した、遺志を継ぐとは、こういうことだったのかと、それは本人のみならず、ほかの者の影響も背負っていくのかと、この時僕はかみしめた。頭痛に近い不快感が身体に流れてくるような気分だ。決して気持ちのいいものではない。だが生きると決めた以上、しっかりと踏みしめていこう。


「やっぱり、この男何か勘違いしてる、狂ってるわ」











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