俺と馬鹿の話
悩みに悩んだ末、毛色の違う話になった気がします。
誤字を修正致しました。
ご指摘、ありがとうございます。
俺と、ある馬鹿の話をしよう。
俺は奴隷の子供として生まれた。
母は西方の国から買われた奴隷で、父は母を買った貴族の男だ。
貴族は母を手篭めにして、俺が生まれた。
西方の人間は特徴的な浅黒い肌の色を持っているが、俺の肌色が母よりも薄いのはこの国の人間の血も混じっているからだ。
ある意味、俺はこの国において高貴な人間となるのだろう。
奴隷の子供であるから、貴族の血を引いていても家督など継げるはずはなく、貴族の子供としての恩恵を受けられるわけでもなかったが。
それどころか俺は疎まれ、終いには母子共々奴隷商人へ売られる事となってしまった。
そして、奴隷商人の荷馬車に閉じ込められて、別の買取り手の所へ運ばれている時の事。
山道を進む馬車が山賊に襲われた。
馬車の外で何が起こっているのか、その時の俺には何もわからなかった。
窓の無い馬車の中、光の入り込まない闇の中で母の腕に抱かれながら俺は音を聞く。
金属と金属のぶつかる音、怒鳴り声、悲鳴、それらの喧騒だけをかすかに聞き、俺は怯え、震えていた。
やがて音が止む。
緊張と安堵、その狭間の感情を懐き、俺は馬車の闇の中でじっと身を縮こまらせていた。
馬車の入り口から、ガツンと何かを叩く音が聞こえる。
音は断続的に続き、その度に入り口のドアが揺れる。
それは鍵を壊そうとしている音だ。
何かがここをこじ開けて、入ってこようとしているのだ。
俺を抱き締める母の腕に力がこもる。
自分を閉じ込める扉。何度、それを開いて外に出たいと思ったか。
そう思っていたはずなのに、その時ばかりは開いてほしくないと強く思った。
だが無常にも、扉は開かれる。
「ガハハ、てこずらせやがるぜ」
笑い声を上げ、誰かが入って来た。
後ろからの光が眩しくて、そいつがどんな人間なのか俺にはよく見えなかった。
声からして男だ。
男は手に何かを持っている。恐らくそれは剣だろう。
「何だ、女とガキだけか? 金目の物はねぇんだな」
落胆した声。
男は近付いてくる。
殺されるのではないか、と俺は恐ろしく思った。
母もそう思ったのか、俺を背中へ庇うように身を捩る。
そんな母の顎を男は強引に掴んだ。
そうして、母の顔を眺める。
「おい、お前」
男は、馬車の入り口で待つもう一人の男へ声をかけた。
「頭、なんですかい?」
返事をして入って来たのは、がたいのいい男だった。
顔はイノシシに似ている。
「お前の家には女もガキもいなかったな?」
「まぁ、女より飯の方が好きですからねぇ」
「じゃあ、こいつらはお前にくれてやる。俺にはあいつがいるからな」
「え? まぁ、かまわねぇですけど。いいんですかい? そんな勝手に決めちまって」
「ガハハ! 頭の俺が言うからいいんだよ!」
怯える俺と母の前でそんなやり取りがあり、俺と母はその男の所有物になった。
母は安堵していた。そこに悲観はない。
俺にはまだ不安があった。けれど、母の思う事を理解する事はできた。
どうせ山賊の物とならなかった所で、誰かの所有物となる事には変わりがなかったのだ。
そういう諦観が、長く奴隷として扱われてきた母にはあった。
しかし、俺が懐いていた不安という物は、山賊の所有物になってから一週間も経たずに消し飛んだ。
不安を消し飛ばした物はいくつかある。
まず、俺と母を貰った男だが、最初の日に母を抱いて以来一向に手を出そうとしなかった。
母がさせられている事と言えば、食事の支度ぐらいだ。
掃除や洗濯などの家事も母は最近しているが、それは男の家の中があまりにも汚く、それでも掃除しようとしない男に「掃除してもよろしいですか?」と思わず申し出たからだ。
それくらいに汚かった。
前にいた奴隷用の部屋より汚かった。
衣類の山の下から、いつ作ったのかわからない煮込み料理が出てきた時にはつい家から逃げ出してしまった。
そんな最低の環境ではあったが、男は母におおよそ酷い行いというものをしなかった。
理不尽に暴力を振るう事もないし、食事を抜かれる事だってない。
作らせた料理を俺と母を交えて一緒に食べるのだ。
俺にも酷い事はしない。
そもそも、男は俺の扱いをどうするべきか悩んでいるようだった。
それから、数日後にどうするか決心したらしい。
「お前は俺の子供って事にするぜ。いいか?」
飯を食べた後にそう言われた。
母親を見る。
ゆっくりと頷いてくれた。
「……はい」
答えると、男は俺の頭を撫でた。
少し痛いくらいに、力強い手つきだった。
その時に思った。
ここに来てよかった。
どこに行っても変わらない。
そんな事を思っていたのが嘘のように、この場所は幸せに満ちていた。
だから俺は、感謝している。
俺を自分の子供にしてくれた親父と、親父と引き合わせてくれた頭領に……。
この恩を返したいと、俺は子供ながらに思い、今もその気持ちは変わっていない。
さて、俺のおいたちはここまでだ。
ここからは俺の話でもあるが、同時にある馬鹿の話でもある。
俺がその馬鹿と出会ったのは、親父に連れられて頭領の家へ挨拶に行った時だ。
家の外で頭領が一人の子供と木剣で打ち合いをしていた。
子供の方が必死になって剣を振るっているのに対して、頭領は明らかに手を抜きながら受け流している。
転んだ後に、不意打ち気味で足を狙った一撃も地面に剣を突き立てて防いだ。
すごい。と子供心に感心する。
頭領はそのまま子供の背中を軽く踏みつけた。
踏みつけられて立てなくなり「くそーっ!」と子供はじたばた暴れていた。
「頭。ボンの稽古ですかい?」
「おう、お前か。ただの遊びだぜ。ガハハ。で、どうした?」
「こいつを俺の子供って事にしたんで、その挨拶に」
頭領はじっと俺の顔を見た。緊張する。
「あの時のガキか。いいんじゃねぇか? ガハハ」
豪快に笑う頭領に、俺は安心した。
この笑い方が俺は好きだ。
力強くて、聞いているだけでとても頼りになる気がするのだ。
「よろしくお願いします」
「おう。じゃあ、俺のガキも紹介しておくか」
頭領は背を踏みつけていた足を上げる。
子供が立ち上がって、すぐに頭領へ切りかかった。
頭領はその剣を軽く自分の木剣で絡め取って落とさせた。
こいつ、さっきまでのやりとりを聞いてなかったんだろうか?
と俺は呆れた。
その時からこいつの馬鹿の片鱗は見えていたわけだ。
「後で遊んでやるから、今は挨拶しな」
「おう、わかったぜ」
面と向かって言われて、そいつはようやく俺の方を見た。
その子供は、確かに親子だなとわかるくらいに頭領と似ていた。
ただ違うのは、片目が潰れていない事とその馬鹿面ぐらいだ。
そいつは俺を見ると、ぽかんと口を開けた。
ぼんやりとこちらを見る目と相まって、なんとも馬鹿っぽい。
「イノシシのおっちゃん! こいつ誰?」
親父、やっぱり他の奴からもそういう認識をされてるんだな。
「俺の子供です。仲良くしてやってくださいよ」
「がはは、似てねぇな!」
うるせぇよ。
俺はこいつの言動にイラッとしたが、反論の言葉は飲み込んだ。
これでも大恩ある頭領の子供だ。無礼な事は言えない。
「見ての通り、同じぐらいの男同士だ。仲良くしてやるんだぜ! ガハハ!」
「え?」
思わず声が出た。
言いたい事はあったが、ぐっと口を噤む。
こいつと仲良くやれる自信が無い。
でも、頭領が言うのなら……。
俺がこいつを嫌って、親父の立場が悪くなるのも嫌だし……。
「おう、わかったぜ! 仲良くしようぜ! がはは!」
笑い方が同じなのに、どうしてかこいつの笑い声を聞くのは不安だった。
今思えば、それから先に待ち受ける苦労を感じ取っていたからなのかもしれないな。
挨拶した次の日から、あいつが毎日遊びの誘いにやってくるようになった。
正直面倒くさい。
こいつは馬鹿っぽいな、と最初に会った時思った。
だが、毎日会うようになって、こいつが馬鹿っぽいのではなく紛う事なき馬鹿である事に気付いた。
日を追うごとにこの馬鹿が如何に馬鹿であるか、という事を思い知らされた。
「今日はチャンバラしようぜ」
「それはいいけど、お前の持ってるのネギだぞ。それでどうするつもりだ」
「なんか、家のどこ探しても剣が見つからなかった。だから今日はこれでいい」
「多分折れるからやめとけ」
「丁度いい長さだから大丈夫だぜ」
「……お前が良いんならいいけどな」
案の定、一合で折れた。
それだけならまだ良かったのだが。
その折れたネギが奴の琴線に触れたらしく、「こいつはいいぜ」とか言って振り回し始めた。
程なくしてネギは千切れ、地面にポトリと落ちた。しかも奴はそれを踏んづけてしまった。
ぐちゃぐちゃになったネギを持って帰り、料理にネギを使おうと思っていたお袋さんに「食べ物で遊んではいけません」と注意されたらしい。
「もう二度とやらねぇぜ」とか言っていたのだが、その二日後に今度はすごく長いパンで同じ事をやってまた同じ末路を辿った。
懲りろよ。
ちなみに、木剣は奴の妹が悪戯で盗んでいた。
というような事が度々あった。
ハチの巣を見つけ、俺が止めるのも聞かずに「絶対大丈夫だぜ」とか根拠のない自信を持って蜜を取ろうとし、煙が噴き出すみたいに飛び出てきた蜂に追われて必死になって逃げた事もあった。あの時は俺も巻き込まれた。
森で犬を拾ってきたかと思えば、実は狼だったなんて事もあったな。
便所に行って下穿きを忘れて帰ってきた事なんてザラだ。
そんな奴はよくよく口にする言葉があった。
「俺、顔に火傷があるいい女を嫁にするんだ」
顔に火傷がある女は良い女か?
貴族の奴隷だった頃、貴族の戯れで顔を焼かれた女の奴隷がいた。
貴族は自分で焼いておきながら、その女を醜いという理由で売り払ったのだ。
顔を焼かれた女というのは醜く、醜いという事は疎まれる原因になる。
それが良い事だと、俺には思えなかった。
やっぱりこいつは馬鹿なんじゃないだろうか。そう思った。
まぁ、実際馬鹿なんだが。
でも、その事に関して言うなら、俺の方が馬鹿だったんだよ。
その日は奴の提案で森の中へ遊びに行き、雨に降られてしまった。
雨宿りに奴の家へ招待された。
その時に俺は初めて、奴のお袋さんと会った。
最初、俺は思わず悲鳴を上げそうになった。「ヒッ」と小さく声が漏れた。
お袋さんの顔の左側には、大きな火傷の痕が走っていたからだ。
きっと零れてしまった悲鳴は、お袋さんの耳にも届いただろう。
でも、お袋さんはそんな事を微塵も気にせず、濡れた俺の頭を拭いてくれた。
その後、俺達のために湯を沸かしてくれて、大桶の中で体を浸した。
冷えた体をじんわりと熱が染み込んでいく。
そんな中、お袋さんは森で遊んでいる時に破けた服の裾を縫ってくれていた。
体を拭って服を着る頃には雨も止んでいたので、俺達はまた外へ出た。
「なぁ、お前のお袋さん。優しい人だな」
「だろ? いい女だぜ」
こいつがどうしてあんな事を言ったのか、俺はその時に理解した。
自分を恥ずかしいとも思った。
人の価値観、その正しさや間違いは、自分の了見だけで判断できるものじゃないのだ。
きっと今回は、俺の方が間違っていたんだろう。
それでもやっぱり、こいつが馬鹿だっていう事には変わりないがな。
子供の頃からこいつは馬鹿だったが、大人になってもそれは変わらなかった。
奴の馬鹿さは今でも遺憾なく発揮されている。
むしろ大人になってさらにその馬鹿さに磨きがかかったのではないだろうか。
奴は頭領……いや、前頭領である親父さんの跡を継いで山賊団の頭領になっていた。
俺はその副頭領として奴の補佐をしている。
本当なら俺よりも奴の弟の方が相応しいと思うのだが、奴の弟はそれを丁寧に辞退して俺に押し付けた。
というか苦労が目に見えているので押し付けあったんだが、結局「お前でいいんじゃねぇか?」という奴の後押しもあって俺が副頭領となってしまった。
ちっくしょう……。
悔しいから副頭領権限を使い、「頭領補佐」という新しい役職を作って押し付けてやった。
さて、弟と言えば、俺にも弟ができた。
親父と母さんの子供だ。
自分の子供ができれば、血の繋がらない俺などいらなくなるのではないか? と当時は思っていたが、親父は弟が生まれても特に俺との接し方を変える事はなかった。
それが純粋に嬉しかった。
俺達は王都の裏町を二人で歩いていた。
赤レンガを多く使った鮮やかな街並みと比べ、石と土壁で形作られた裏町は影の中にあるような暗い雰囲気だった。
裏町は王都においてまさしく影の部分となる区画であり、裏社会の人間が住まう場所だ。
裏町の入り口。その道端では、多くの娼婦が客引きをしていた。
まだ昼間だというのにスケベな男がちらほらといて、娼婦と値段の交渉をしている。
そして俺の隣にも、そんなスケベが一人。
「おい、見ろ。あの胸! あんなの見たことないぜ! 俺のいい女かもしれねぇ!」
「かもしれないな。だが、後にしろ。今は仕事の途中だ」
「ガハハ! あっちも悪くねぇな! スリットからのぞく尻がたまらないぜ!」
「だから後にしろ!」
奴の馬鹿な所業は数知れないが、最近特に酷いのは女漁りだ。
盗賊稼業で色々な場所へ行くようになってから、奴はどこからともなく女を引っ掛け、連れ帰ってくるようになった。
あっちこっちとふらふら歩く奴の軌道を修正しながら、俺は目的の場所へ向けて歩く。
向かっている先は、裏町の奥にある酒場だ。
そこでこいつの弟と会う事になっていた。
目的は、依頼された仕事の打ち合わせだ。
気ままに人を襲う盗賊団が仕事を請けるというのもおかしな話だが、この盗賊団は他の盗賊団と少しばかり事情が違っていた。
普段は普通の盗賊稼業に従事するが、たまにある人物から依頼を請けて報酬を貰う事があった。
昔からいる仲間も依頼を受けている事を知っているが、その依頼主が誰なのかは誰も知らなかった。
その正体を知っているのは、親父さんぐらいのものらしい。
いや、奴と奴の弟も知っているのかもしれない。
その正体を少しだけ垣間見た事があった。
奴が面倒くさがって読ませた手紙に場所と時間が書かれていて、そこで現れる馬車を襲えという内容の物だった。
恐らくそれは指令書だったのだろう。
家紋のような印が封蝋に施されており、恐らく相手が貴族であろう事がうかがい知れた。
依頼料も割に合わないくらい多いので、間違いないはずだ。
「この手紙を送ってくるのは誰なんだ?」
手紙を読んだ後で、俺は気になって直接訊ねてみた。
「あー……そいつは言っちゃならねぇんだよな」
やはり知っていたようだ。
「何で?」
「下手に怒らせるとどうなるかわからない相手らしいからな。父ちゃんから誰にも言うなって言われてんだ」
親父さんが?
親父さんがひた隠しにしようとしている物を俺がほじくり返すわけにもいかないか。
そう思って、俺はそれ以上の詮索をしない事にした。
「特に大事な奴には言うなって話だ」
「ふぅん」
「ガハハ」
俺にどう反応しろと?
前にあった事を思い返し、一つ溜息を吐く。
ふと横を見ると、さっきまで隣を歩いていたはずの奴が消えていた。
辺りを見回して探す。
「なぁ、今夜一晩、俺に奪われてみねぇか?」
道端の娼婦を口説いていた。
お前って奴は……。
「おい! 後だって言っているだろうが!」
背後から首を絞めながら怒鳴る。
「があぁっ! じゃあ、後でぬぁぁぁ!」
それでも話しかけるのを止めない奴を強引に引き離した。
今まで口説いていた娼婦に目を向ける。
どこかオドオドとした印象のまだ少女と言ってもいい歳の娼婦だ。
立っている場所も人通りが少ない場所で、他の娼婦と比べて立場が弱いのだろう。
見える肌には多くの傷が見え、特に顔の半分には大きな青あざがあった。
奴が連れてくる女で多いのは、体のどこかに怪我や火傷の痕があるような女だ。
それだけ聞くとかなり危ない趣味の変態に思えるかもしれないが、奴の求めるものを知っている身としてはそうではない事がわかる。
奴はお袋さんのような「いい女」を自分の相手として捜しているのだ。
母親依存というのも十分危ないが……。
でも、事はそんな単純なものではない。
奴が求めているのは、自分だけの「いい女」だ。
親父さんはお袋さんと出会った時、こいつは「いい女」だと直感したらしい。
誰にも渡したくない、自分だけの女だと思ったらしい。
奴はそんな出会いに憧れていて、そんな出会いに恵まれない自分に焦っているのだ。
その出会いに早く巡り合えるように、奴は女を漁っているわけだ。
お袋さんと同じように、傷を持った女を目印にして。
そしていつも「俺のいい女じゃねぇな」と、連れ帰った女を身勝手にも帰らせてしまうわけだ。
俺はそんな奴のやり方が、少しばかり面白くないと思っていた。
本当に馬鹿な奴だ。
「リンドウはいるか?」
酒場に着くと、店主に弟の偽名を告げる。
すると、店の奥の個室へ案内された。
個室の中ではすでに、奴の弟が待っていた。
テーブル席に着き、両手を組み合わせている。
その両手の袖にはフリルが施されていた。
服装全体が上品な組み合わせのため、こんな場末の雰囲気がある酒場には大変似合っていない。
「お待ちしていました」
「久し振りだな」
「元気にしてたか? ガハハ」
「はい。二人も元気そうですね」
奴の弟は、こいつの弟とは思えない程に丁寧な物腰をしている。
身長は高いが、顔つきは女性的なので母親に似た結果なのかもしれない。
「それで?」
その短い問いだけで察し、奴の弟は仕事の話に入る。
こうなると奴は急に口を閉ざす。
面倒くさい仕事の話は全部俺に丸投げだ。
しかも一緒に話を聞いているのに全然内容を覚えようとしない。
わからない事はその都度俺に聞いてくるのだ。
面倒くさい。
俺の事を覚書きか何かと思っているんじゃないだろうか。この野郎。
「少し急ですが、今夜王都の外で標的と接触する事になりました」
「殺すのか?」
「捕縛です。正直、相手の全貌が全く掴めていません。それを知るため、尋問にかけたいと思っています」
「お前でも探れなかったのか?」
奴の弟は、依頼を受けた際の諸々を担当している。
依頼を請け取るのも彼であり、仕事のための情報収集も一手に引き受けていた。
「ええ。かなり、強固に情報が隠されていました。内容が内容なので、それも当然でしょうが……」
「わかった。それで? 馬車を襲えばいいのか?」
「いいえ、さっきも言ったように接触を図る事ができました。秘密裏に援助をしたいという申し出をし、相手は応じました」
「そこをだまし討ちするわけだな」
「はい。それで、少し問題があるのですが」
「何だ?」
「援助を申し出たのは、貴族夫人という事になっていまして……」
うかがうように奴の弟は俺を見る。
なるほどな。
その方が油断を誘えるという判断だろう。
「お前でいいんじゃないか?」
「え?」
「お前が女装すればいいだろう」
「そうだぜ。お前が一番女っぽい顔してるしな。ガハハ」
奴が口を挟む。
「ですが……」
「お前ならできるさ」
「……わかりました」
そういう事で話が纏まった。
それからしばらく細かな打ち合わせをしてから店を出た。
「今夜はあの娼婦を奪えないな」
「ぐぁっ、忘れてたぜ!」
その夜、王都の外。
崖の間際にある林中。
そこで、一台の馬車が停まっていた。
馬車にはランプがかけられていて、その煌々とした揺らめく灯りは林の外からでも良く見える事だろう。
それはこの林の中、こちらを見つけてもらうための目印でもあった。
その馬車の前には、女装した奴の弟が立っていた。
ほっそりとした体にドレスを纏う姿は、化粧を施した顔と相まって女性にしか見えなかった。
ここが密談のために選ばれた場所だった。
こんな辺鄙な場所を選ぶのは、人に見られないためだ。
もう一台、馬車が林の中へ乗りつける。
その馬車は、馬に騎乗した六人の護衛騎士を伴っていた。
一行は馬車の前で停まる。
俺と奴は地面に掘った穴の中にいた。その上に土色の布をかけて、そこから顔を出して様子をうかがっている。
他の仲間達も同じようにそこらで身を潜めている事だろう。
「あれか?」
「さぁな。合図を待て」
今にも飛び出しそうな奴を宥める。
相手の馬車から誰かが降りた。
その人物は何かを見せるように、奴の弟へ手を突き出した。
密会の符号か何かだろう。
奴の弟が一つ頷き返すと、左手で右腕の肘裏を掴んだ。
それは、目の前の馬車が標的の物であるという合図だった。
「行くぞ」
「おう」
声をかけ、穴から飛び出す。
同時に、口へ笛を咥えて吹き鳴らす。
甲高い笛のピューッという音が夜の闇の中へ響いた。
合図を聞き、辺りの仲間も同じように飛び出した。
「罠だ! 奇襲が来るぞ!」
騎士の一人が叫ぶ。
その騎士へ向けて走りこみ、剣を振るう。
一撃を凌がれる。が、返す剣の一閃を相手の首筋へ這わせた。
相手はまだ、凌いだままの体勢だった。次の行動へ移れていない。
遅すぎるんだ。
首から血を流して驚愕する騎士の脇を通り、周囲をざっと見回す。
奴が、防御に使われた剣ごと騎士の頭蓋を叩き割っていた。
相手の馬車へ目を向けようとする。
「頭領補佐!」
同時に、仲間の叫ぶ声が聞こえた。
そちらへ目を向ける。
奴の弟が、黒尽くめの男に脇腹を斬りつけられている場面がそこにあった。
そのままよろけ、崖の下へ落ちていく。
俺はそちらに向けて走った。
間に合うはずはない。
だが、それでも走らずにはいられなかった。
手を伸ばそうとせずにいられなかった。
無常にも、その姿が崖の下へ消えていく。
少しして、水しぶきの上がる音が聞こえた。
「おおおおぉぉっ!」
隣で叫び声が聞こえる。奴の声だ。
俺と同じように、走り出していたようだ。
走る目的が、目線の先にある男の始末に変わる。
奴が先行し、男に斬りかかる。
だが男はそれをひらりとかわし、次いで振るわれた俺の剣を自分の剣で受け止めた。
強引に押し返され、俺の体勢が崩される。
そこを狙って斬り込まれる。が、振り切られる前に、奴が男へ剣を振るった。
男はそれに気付いて回避し、俺達から距離を取った。
強い相手だ。
どうすればいい?
考えあぐねていると、男はあっさりと身を翻した。
何故か? そう思って奴の行き先を見る。
馬車が囲みを破って走り出そうとしていた。
どうやら、馬車を逃すために暴れただけらしい。
「待ちやがれ!」
叫び、追おうとする奴の肩を掴んで止める。
「やめろ。今の戦力じゃ追っても無駄だ」
仲間には少なくない死傷者が出ている。
馬はあるが、追いついた所で襲撃に成功するとは思えなかった。
「このままにしておけるか!」
「落ち着け! 今回は失敗だ。これ以上やっても、生き残った仲間まで死ぬだけだ」
「……くそ……わかった……。お前の言う事はいつも正しい」
お前の気持ちだってわかる。
弟をやられたんだからな。
「大丈夫さ」
奴の体を抱く。
子供にするように、ポンポンと背中を叩いてやった。
「奴は魔法が使える。崖から落ちたって簡単に死なない。案外、ひょっこりと帰ってくるかもしれないだろう」
自分自身、そんな都合の良い事になるとは思っていない。
それでも、安心させてやるために告げる。
「そうだな。そうかもしれねぇな。ガハハ……」
そう答える声は、奴に珍しくとても暗く沈んでいた。
それから王都へ戻った俺達は、やるせない思いで一日を過ごした。
その翌日、奴の弟は何食わぬ顔で帰ってきた。
奴の弟は川の下流で誰かに助けられたらしい。
その義理を返したいから、しばらく盗賊団に戻らないという話だった。
「依頼はどうするんだ?」
「もう同じ手は使えない。相手の正体もわからない以上、どうしようもないでしょう」
「そうだな」
とにかく、奴の弟が無事だった事で俺は安堵した。
王都へ滞在する時は、宿に宿泊している。
奴の弟が帰ってきた翌日、奴の部屋に行くとベッドの上では奴と娼婦が眠っていた。
先日声をかけていた、顔に痣のある若い娼婦だ。
んもう……。
お前は、弟が無事だとわかった途端にそれか。
「おい、起きろ」
「ん……? おう、起きたぜ」
眠そうな目を擦りつつ、奴が起きる。
隣の娼婦も俺の声で起こしてしまったみたいだ。
起き上がり、俺を見て身を縮こまらせた。小さく会釈する。
「今日は何するんだっけか?」
「何もない。俺を覚書きに使うな」
「そうか。なら、今はお前も暇だな」
娼婦を家まで送り届けるように頼まれた。
どうやら、この娼婦は奴にとっての「いい女」ではなかったらしい。
「すみません」
娼婦は小さな声で謝る。
「いいさ。いつもの事だ」
「……あの方は、優しい人ですね」
「そう思ってくれるなら、よかったよ」
「あの方は、私を抱かなかったんです。眠くなるまでずっと、話をしていたんです」
奴の目的は、いい女を探す事だ。
その成否を確かめるために、女と一夜を共にする。
共にした時間の内容は問わない。同じ時間を過ごせるのならば、抱かなくてもいいのだ。
抱く事の方が多いけどな。
「そばにいると安心できて、よく眠れました」
「そうか。……お前、何で娼婦なんかやってるんだ」
娼婦をやるには、少し幼すぎる。
「両親の残した借金があります、それを返す方法が、体を売るしかなかったんです。私には、それ以外に何もできないから……」
娼婦は顔を俯けた。
よくある話だな。
若い時分に親の庇護を放り出されれば、女はそういう仕事にしかありつけない。
理不尽だとは思うが、世の中にはそんな理不尽ばかりが転がっている。
「あの、私をあの方のそばに置いていただく事はできないでしょうか……?」
おずおずと、娼婦は訊ねてきた。
「どうしてそんな事を望む?」
「私はもう、こんな場所にいたくないのです。一生かかっても返せない借金のために、好きでもない方に抱かれ続けるのはとても辛いのです。そんな場所から私は、出て行きたいのです」
「……なら、あいつに抱かれるのはいいのか? 昨夜、奴がお前に手を出さなかったのは気紛れだ。今後は、結局の所抱かれる事になるぞ」
「あの方なら、私は……」
娼婦は顔を俯ける。その頬が少し緩んでいた。ほんのりと朱が差している。
好きでもない相手、というわけじゃないからか。
だが、連れて行った所であいつはこの娼婦を手元に置くだろうか。
ここで帰すという事は、あいつにとってこの娼婦は「いい女」ではなかったという事なのだから。
それに俺達は、この娼婦が思うほどに真っ当な人間でもない。
俺は娼婦に答えを返さず、家まで送っていった。
ここ数日、奴の弟からの頼みで掃除仕事などをしていたが、その日は新しい仕事の依頼が入った。
今度は前と違って、街道を通る予定の馬車を襲うだけの仕事だった。
これなら前よりも簡単だろう。慣れている事でもあるし。
街で色々と準備をし、出立の時間に合わせて宿屋へ奴を迎えに戻ったのだが、何故かそこに奴はいなかった。
「弟と飯を食いに行ってくるぜ」
代わりに、そんな伝言を書いた紙が残されていた。
んもう……。
多分、奴の弟を助けてくれた料理屋の娘を見に行ったのだろう。
俺は前もって聞いていたその料理屋へ奴を迎えに行った。
奴を迎えに行って向かった仕事は成功した。
買出しの途中、娼婦の家の前を通った。
娼婦の家は木造の集合住宅だった。
中には部屋の区切りがなく、二段ベッドがずらりと並ぶ建物だ。
個人的なスペースは、そのベッドの上だけ。
屋根と寝床だけを与えるような貧困層のための建物だ。
環境は劣悪だが、それでも道端で眠るより断然にマシ。という所か……。
もしかしたら、娼婦の元締めが貸し与えている家屋かもしれない。
まるで奴隷だ。
首輪も枷もないだけで、こんな場所に住まわされ、仕事へ駆り出される様は奴隷という他無い。奴隷と変わらない。
彼女が逃げ出したいという気持ちもわかった。
通り過ぎようとした時、入り口のドアが開いた。
あの娼婦が中から飛び出し、道端に倒れこんだ。
起き上がろうとする娼婦と目が合う。
助けを求めるような哀れな表情だった。
続いて一人の男が中から出てきた。
娼婦の胸を踏み押さえる。
「何でお前はそうなんだよ? こんなんで金を返しきれると思ってんのかよっ!」
男は娼婦の腹を蹴りつけた。
彼女の体に傷が多いのは、こいつのせいなのかもしれない。
「ごめんなさい!」
男は娼婦の襟首を掴んで、立ち上がらせた。
「次はもっと稼いで来いよ」
「は、はい。頑張ります……」
「おい」
俺は男に声をかけた。
男は今気付いたとばかりに、俺の方を睨みつける。
「何だよ?」
「少し度が過ぎるんじゃないか?」
「お前に関係あるか?」
「知り合いだからな」
「こいつの客か? 一晩抱いて、情でも湧いたか? 変態が」
「かもな。ところで、世の中は理不尽なものだと思わないか? 自分にはどうしようもない不幸が、思いがけない所から現れる」
「あ?」
男は不審な顔をする。
腰の剣を抜き、男の左胸を浅く刺した。すぐに抜く。
「ぐ? が?」
男は戸惑う。きっと痛みらしい痛みはなかったはずだ。
だが、その後には長い苦しみが残るだろう。
心臓に達した傷から血が少しずつ漏れ出し、肺腑に溜まる。
そうして死に至るよう、刃を突き入れたのだ。
男がその場で倒れ、のたうち始める。
声は出ない。代わりに、口からは血が吐き出される。
「世の中は理不尽だろう? 何せ、相手の気分を害しただけで殺される事があるんだからな」
男を見下ろして告げた。
もがき苦しむ男に背を向けて、娼婦を見る。
娼婦はかすかに震え、じっと男を見ていた。
「俺達はこういう人間だ。それでもいいと思うなら、連れて行ってやる」
手を差し出して問うと、娼婦は怯えながらも俺の手を取った。
俺は娼婦と一緒に宿へ戻り、二度寝していた奴をたたき起こした。
シーツを思い切り引かれ、シーツごと床に落ちた奴が「いてて」と言いながら起き上がる。
そんな奴に俺は告げた。
「おい、こいつを連れて帰るぞ。お前の女にしろ」
「あ? 何だ急に? でも、そいつは……」
「いい女じゃないと言いたいんだろう? それでもいいじゃねぇか」
「どういう事だよ?」
「前から言いたかった事だ。お前は、女をどう思っている?」
「女なんて穴さえありゃあいいんだよ」
俺は眉間を指で揉んだ。
奴の言う事は、親父さんが言っていた言葉だ。
「そう思うならそれでもいいさ。でもな、人間は物じゃないんだ。少しは扱い方を考えろ」
「物扱いなんざしてねぇよ」
「連れてきて、思っていたのと違うから捨てるっていうのは物を扱うのと一緒だ」
奴は言葉を飲み込んだ。
じっと俺の顔を見る。
「……わかった。お前の言う事はいつも正しいからな。ガハハ」
その言葉を引き出すと、娼婦は安堵の吐息を吐いた。
それから数日、まだ俺達は王都に滞在している。
あの娼婦はあいつと同じ部屋で寝泊りするようになり、甲斐甲斐しくあいつの世話をしている。
今まで同じ部屋にいた俺は、同じ宿で一人用の部屋を借りてそこで寝泊りしていた。
夜、街の空き地で剣の鍛錬をしていると、奴が現れた。
「珍しいな。お前がこっちで鍛錬しているなんて。いつもは、根城にいる時しかしねぇのに」
「また、あの黒服の野郎と戦わなくちゃならないかもしれないからな」
「ああ。弟を崖から落としやがった奴か。確かにそうだな。でもよ、それだけか?」
こいつは馬鹿な分、直感だけは働くんだよな。
「何だか調子が悪い。妙に落ち着かない。そういう時は、へとへとになるまで剣を振るのが一番だ」
「そうか。好きにすりゃいいぜ。ガハハ」
地面に置いていた俺の上着を奴が拾う。奴はそれを投げて寄越した。
上着を着て、剣を置いて座る。すると、奴も俺の隣に座った。
「お前だって、どうしてこんな所に来た?」
「お前を探しに来たんだろうが」
「話でもあるのか?」
「……よくわかるな。俺の事」
「付き合いが長いからな」
たまに何考えてんのかまったくわからない馬鹿をやらかす事もあるがな。
「それで、どんな話だ?」
「お前が言った事が気になってるんだ。人は物じゃないって」
「ああ……。あれか」
言うつもりもなかった言葉だ。
でも、口を衝いて出てしまった。
こいつのやり口が気に入らなくて。
面白くなくて……。
「気にしているつもりはなかったんだけどな。俺は、奴隷だった時の事を今でも引き摺っているのかもしれない。あの時の俺は、貴族の所有物だったからな」
「そうか。嫌な思い、させちまってたんだな」
「構わないさ。こっちだって、気にしているつもりはないと言ったろ」
会話が途切れる。
冬に鳴く虫はいない。
遠くの喧騒だけがかすかに聞こえる中、時間が過ぎていく。
先に口を開いたのは奴だった。
「……あいつを連れてきたのは、物扱いが許せなかったからか?」
あいつとは、あの娼婦の事だろう。
「それもあるな。でも、もう少し付き合ってみればいいとも思ったんだ」
「どうして?」
一息吐く。そうしてから俺は答えた。
「お前が親父さんとお袋さんの出会いに憧れているのは知ってる。俺だって、運命的な出会いって物は素敵だと思うさ。でも人の関係、それも人を好きになる事っていうのは運命的な一目惚れだけじゃないと思うんだ」
「どういう事だ?」
「人間の良し悪しは、付き合ってみなければわからない。だから長く一緒に居て、それでもずっと一緒に居たい人間を好きになるのもいいんじゃないのか?」
「そういう事か」
奴は深く息を吐き、俯いた。そのまま口を開く。
「お前が言うなら、それは正しいのかもしれないな。お前はいつも、正しいから」
「この話に関しちゃ、何が正しいかなんてわからんさ」
「……一緒に居たい奴を好きになる、か。……このまま探し続けても、俺は俺の「いい女」に出会えると思うか?」
「さぁな。でも、「いい女」ですら見つけるのは難しいんだ。まして自分だけの「いい女」なんてもっと難しいはずさ」
「そうだな……。一緒に居たい奴、か。……はぁ、お前が女だったらよかったのになぁ」
何言ってるんだよ、お前は。まったく。
「何言ってるんだよ。俺は女だぞ」
「は?」
「何だよ、その顔?」
「お前が冗談を言うのは珍しいな。ガハハ」
冗談じゃねぇよ。
「お前、子供の頃に何度か一緒に汗流したろうが」
ついてなかったろ?
「だってお前、たまに奴隷商人の馬車を襲ったら、取られちまった奴とかいるじゃねぇか。だからお前だって」
ああ、いるな。去勢された奴。
「じゃあ、こんなに胸のでかい男がいるか?」
一応、お前の妹よりはでかいんだぞ。
「いやだって、水球を胸に入れてる奴とかいるじゃねぇか」
スライム状の水球を魔法使いに頼んで胸に入れてもらう人間はたまにいる。
女性の豊胸目的が主流だが、確かに男でも入れている奴はいる。
裏町の奥地で女装して立っている野郎共だ。
だからといって、何故俺がそんな事をしていると思った?
「親父だってお前の事を男だって言ったぞ」
「いつの話だよ。あれは純粋に間違えられただけだ」
子供の時分なんて、いまいち性別がわかりにくいものだしな。
親父さん、結構適当だし。
奴は真剣に驚いていた。
そこに嘘を言っている様子は無い。
なら、こいつは冗談ではなく俺を男だと思っていたようだ。
「はぁ……お前は本当に……はぁ……」
そうだった。
こいつは馬鹿なんだった。
ありえないとも思うが、それはその馬鹿さが俺の予想を大幅に上回ったからというだけの話だ。
「お前、本当に女なのか?」
「そうだけど」
「そ、そうか、そうだったのか……」
奴は俯き、珍しく思慮深い顔で考え込む。
やがて、顔をあげてこちらを見た。
そして、一言。
「なぁお前、俺の嫁にならねぇか?」
おいおい、唐突だな。
「今まで散々男扱いしておいてそれか?」
「だってお前、一緒に居たい奴を好きになればいいって言ったじゃねぇか」
たしかに一緒に居たい奴とは言ったけど、そんなんで決めていいのか?
「一番一緒に居たい奴って言えば、それはお前だからよ。だから、お前を嫁にしてえんじゃねぇか」
……そんな事言われても嬉しくねぇよ。
将来の苦労しか見えねぇもん。
「はぁ……」
でもまぁ……。
「俺は、お前の言ういい女じゃないぞ?」
「俺がそばにいてほしいと思うからいいんだよ! ガハハ!」
お前が俺でいいって言うんなら、それでもいいか。
まぁ、こんな馬鹿の相手をしてやれるのは俺ぐらいなもんだしな。
仕方ない。
仕方ないから、これから先も面倒見てやるか。
次男は魔法使いです。
力と防御に全振りの魔法使いです。
治癒魔法が得意です。