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決戦!! メイドVS次兄

 かつて書くだけ書いてボツにした話です。

 短いです。


 誤字を修正致しました。

 ご指摘、ありがとうございます。

 彼女と中庭を歩いていた時の話をしよう。


 時折、私は彼女を連れ立って中庭を巡る事があった。

 彼女と歩いていると、とても気分が良いのだ。


「貴様、何をしている!」


 そんな時、次兄が怒声をあげて私達の方へ歩いてきていた。

 私の前で立ち止まる。

 彼女は一歩下がり、取り澄ました。

 メイドへの擬態だ。


「何の事でしょう?」

「貴様は鍛錬もせず、勉学に励む事も止め、芸術に逃げた。ついには女遊びか!」

「そのような事は……」

「言い訳はいらぬ! 軟弱者め!」


 どうやら、私と彼女を見て勘違いしたようだ。

 私と彼女の見え様が、兄には気に障ったらしい。


「彼女はただのメイドです。私達はそのような関係ではありません」

「言い訳はいらぬと言った。何故お前はいつも逃げる? 何故努力しようとしない?」

「それは……」


 咄嗟に言い返す事はできなかった。

 努力を怠った事はないが、逃げているという自覚が私にはあったからだ。


「だから、お前は軟弱者だと言っているのだ!」

「……はい。申し訳ありません」

「王族とはあらゆる面で強くあらねばならん。兄上を見ろ。武において俺と互角であり、知においては俺の遥か上を行く方だ。王族とは本来あのように振舞わねばならんのだ」

「そうですね。私も、そう思います」

「それがお前はどうだ? お前には何があるというのだ。強さの欠片もないではないか。臆病者の軟弱者だ。悔しいと、恥ずかしいと思わんのか? それでは兄上が言うように、本当に価値のない人間ではないか!」


 声の大きさ以上に、言葉の内容は痛烈だった。

 兄の言う事はもっともに思え、私は納得してしまっていた。

 本当に、私には何もないのだ。


 知らず、顔が俯いていった。

 上げようとしても上げられなかった。

 次第に、音が遠くなる。


 本当に私は、なんて価値のない人間だろうか。


 代わりに、心の中で私の声がそう囁き、私を苛んだ。


「ちょっといいですかー?」


 そんな時だ。

 彼女の声が、心の声を打ち消した。

 顔を上げる。彼女に振り返った。

 振り返る途中、私の横を通る彼女の姿が過ぎった。

 目で追った先、彼女は次兄と対峙していた。


「何だ? メイド風情が口を出すな」


 そうだ。

 もし何か無礼な事を言えば、彼女が処罰されるかもしれない。

 そうなれば、私では庇いきれない。


「やめろ。控えているんだ」


 私の言葉に、彼女は一度振り返る。

 自信に満ちた不敵な笑顔をこちらに向けた。そして、すぐに次兄へと顔を戻す。


「強さってそんなに大事なんですかー?」

「当たり前の事を聞くな。メイド風情にはわからんだろうが、王族としては最も持っていなければならない素養だ!」

「だったらー、もちろん殿下は私よりも強いんですよねー?」

「何だと?」

「王族は誰よりも強いんのでしょー? でも殿下、私より強く見えないんですけどー」


 何を口走っている。

 本当に止めるんだ。


 私は彼女の前に立ち、背に庇った。


「お許しください。まだ入って日の浅いメイドなのです。実家で甘やかされ、高位の人間へ対する敬意を修めていないのです」

「そのようだな。ならばなおの事、たしなめねばならんだろう」


 次兄は彼女に向く。


「おい、メイド。さっきの問いに答えてやる。当然だ。俺はお前よりも強いぞ。その身を以って、味合わせてやろう」

「ニョホホ、よろしくお願いしまーす」


 次兄が指の骨を鳴らした。

 彼女は私の胸を押して、後ろに下がらせる。


「お待ちください。私が言って聞かせます。だから、この場は……」

「本来なら王族への不敬で処罰される所を私刑で済ませようと言うのだ。感謝してもらおう」


 こうなったら、兄は何を言っても聞かないだろう。

 もう、私には止められない。

 せめて、彼女の無事を祈る事しかできない。


「メイド、後悔するなよ。お前の蒔いた種だ」

「さっさと来ればー?」


 彼女が答えるのと同時に、次兄が彼女を殴りつけた。


 彼女は身をかすかに動かしてかわし、次兄の顎先を横合いから殴りつけた。

 次いで、体勢を崩しつつ反撃する次兄の顔に直突き。

 次兄の膝がガクリと落ちる。

 それでもなんとか踏ん張り、低い体勢から強引に押し倒そうと突進する次兄。

 彼女は一歩引くと、その顔に膝蹴りをめり込ませた。


 一瞬の出来事だった。

 流れるような動作での三連撃だ。

 次兄はそのままうつ伏せに倒れ、動かなくなった。


 彼女はあっさりと勝利した。

 まったく相手になっていない。

 だが、私は先程よりも胆を冷やす思いだった。


「死んではいないだろうな?」


 もし、次兄が死んでいたら、私では彼女を助けられない。


「大丈夫だと思うよー。多分」


 大変不安である。


 すると、次兄がガバリと起き上がった。

 その場で座り込む。


「どうなったんだ? 何があったんだ?」

「ニョホホ、私の勝ちでーす」

「メイド? そうか、クソッ! もう一度勝負しろ!」

「嫌でーす」

「だったら、俺の所へ嫁に来い!」


 ハァッ?


「兄上、何を?」

「稀な女だ。手元に置いておきたい。貴様にも悪い話ではないと思うが?」


 次兄は彼女に話を向ける。


「え、無理」

「何だと!」


 いつも笑顔の彼女が表情を強張らせて答えた。

 たいへん嫌そうな顔だ。


「弟よりも良い待遇で迎えてやる」

「兄上、私達はそういう関係ではありません」

「嘘を吐くな!」


 嘘じゃないのですが。


「何をしている?」


 そんな時、私達に声がかかった。

 見ると、長兄が呆れた顔で私達を見ていた。

 長兄は彼女を見ると、眉根を寄せた。

 その目が次に、次兄一人へと向けられる。


「その女に手を出すのは止めろ。それから今の事は他言無用だ。特に母上の耳には入らぬようにしろ。それも女の存在自体を伏せた方がいいだろうな」

「何故だ、兄上」

「詳しくは言えん。確証もない事だが、知られぬ方が良いだろう」


 何故彼女の存在を母上に隠さねばならないのだろうか?

 私も不思議でならなかった。


「兄上がそう言うのなら……」

「では、行け」

「わかった。いつでも嫁に来いよ」

「さっさと行け。お前の正室に言うぞ」

「すぐに行く」


 渋々ながら、次兄は去って行った。


「さて……」


 長兄は彼女に向き直る。


「ニャフフ」

「何故貴様がこの城にいる?」

「遊びにきたー」

「確かに、そなたならば立ち入る資格もあるのだろうがな……。はぁ、まあ良い」


 兄上は溜息を吐く。


「お前も、その女に無体な真似はせぬ事だ。身を滅ぼすかもしれんぞ」

「そのような事はいたしません」


 彼女を傷つけるなど、私には考えられない。

 いや、次兄とのやり取りを見る限り、無体を働いて酷い目に合うのは私だろう。


「ならば良い」


 そう言って、兄上はその場から去って行った。


「兄上と知り合いなのか?」

「ちょっと伝える事があったから、その時に会っただけだよー。ニャフフ」


 それ以上、彼女は何も言わなかった。

 本当に彼女は謎の多い女である。

「ニャフえもーん!」

「どうしたのー、殿下ー」

「また兄上に虐められたよぅ」

「仕方ないなー殿下は。はい、三連カウンタ~」

「やったー! いじめっ子の兄上をやっつけたぞ。ありがとう、ニャフえもん」

「ニャ~フ~フ~」 


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