メイドの怪
ニャフフと第三王子の小話です。
短いです。
彼女が遊びに来ていたある日の事。
ベッドに寝そべってパンを齧っていた彼女に、私は今まで思っていた事を言う事にした。
「少し良いか?」
「なーにー?」
「もう少し慎みある服装をしてもらいたいのだが」
今の彼女は胸元へ一枚の布を巻き、短いパンツを履いただけの姿だ。
部屋に入るまでは防寒着を着ているが、部屋に入るとすぐに脱ぎ捨てる。
露出が多くて目の毒だ。
「この部屋温いからさー」
「確かにその通りだ。ここは城で一番日当たりが良く、ガラスを通して日はさらに強くなる。だから冬でも暖かい。だが、夏は地獄だぞ」
「ニャフフ、夏は裸だねー」
「夏は窓の鍵を閉めておく」
締め切れば、びっくりするぐらい暑くなるだろうがな。
「じゃあ、鍵開けの道具を持ってこなくちゃね」
もう来るなという意味だったんだがな。
この部屋でこれ以上の露出は許さん。
私は、夏であろうと日中の間、最低限衣装を取り繕うように言われている。
王族としての示しのためだ。
一人だけ涼しげな格好をされると腹が立つ事だろう。
しかし……。
「いや、夏に限らず、もう来ぬ方がいいだろう」
「どーしてー?」
「衛兵に見つかるかもしれぬし、途中で綱が切れるかもしれない」
今の所は衛兵にも見つからずに済んでいるが、いつバレるとも知れない。
王族の部屋へ無断で侵入する女を私には庇い切れない。
どんな人間であれ、城外よりの侵入者は見せしめのためにも処罰される。
それは絶対の法律だ。
貴族ならまだ軽いだろうが、平民ならば命に関わるかもしれない。
それは嫌だ。
わけのわからん女だが、私は部屋でくつろぐ事を許す程度には好んでいる。
落ちて死ぬのも見たくない。
「だったら、今度からはちゃんと扉で入って来るかー」
もう来ないという選択肢はないのか?
そんなやり取りがあった数日後。
彼女は窓ではなく、入り口から入って来た。
「遊びに来ました、王子」
「何だその格好は?」
彼女はメイド服姿だった。
「ニャフ……殿下、王族たる者、あまり声を荒らげてはなりませんよ」
窘められた……。
「それに何だ、その言葉遣いは」
「それらしく振舞っております」
そう言って一礼する彼女の所作は、なかなか堂に入っていた。
貴族の令嬢特有の柔らかな物腰だ。
どう見ても付け焼刃ではない。長年、嗜んできた者の所作だ。
「もしかして、そなたはどこぞかの貴族令嬢なのか?」
「山賊令嬢でございます。かーちゃんより教わりましてございますー」
言葉遣いにボロが出始めてるぞ。
「それで、その格好は?」
「先ほど廊下で、背格好の似たメイドから頂戴いたし申しました」
盗んだのか。
……ちょっと待て。
「そのメイドは今どうしている?」
「気を失って、廊下で寝ておりますのー」
そのメイドは恐らく下着姿であろうな……。
その後、メイドは他のメイドに下着姿で気を失っている所を発見された。
そしてそれ以来、この城にはメイドの服を剥ぐ謎の怪物がいるという噂が囁かれ始めた。
私は彼女に注意したが、彼女はそれでも城内への侵入を止めるつもりがないようだった。
もしかしたら、次は騎士が甲冑を剥がされるかもしれないと危惧した私は、彼女へメイド服を提供する事にした。
それから、彼女はメイド服を着てしれっと城内を通って部屋まで来るようになった。
時折、誰も知らないメイドが一人増えているという怪談がメイド達の間でまことしやかに囁かれ始めた。