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ある家族の話 裏

 続編って難しいですね。

 著者の実力では、キャラクター頼りの話になってしまいます。

 俺と、可愛いガキ共の話をしよう。




 俺は山賊の頭領をしている。

 そんな俺があいつと出会ったのは、山道を行く馬車を襲撃した時だ。

 馬車の中にいた女を見た時、一目でその女がいい女だとわかった。

 俺はどうしても女を手に入れたくなり、そのまま手篭めにして根城に連れ帰った。


 それから数年。


 好きな時に女を抱いていたら、可愛いガキが三人できていた。




 美味そうな肉の匂いで、俺は目を覚ました。

 起き上がって隣を見ると、誰もいなかった。


 最近はあいつがガキ共と寝るようになった。

 だから、最近の俺はいつも一人で寝ている。

 朝起きて誰も隣にいないのは、ちょっと寂しいぜ。

 ガハハ。


 あいつを抱く機会もあまり無ぇ。

 何年も一緒にいると、なんとなくあいつの気持ちもわかるようになってきた。

 表情は変わらねぇが、まんざらでもない時と嫌がっていている時の区別が着くようになった。

 だから、嫌がっていると思ったら何もしない事にしている。


 嫌われたくねぇからな! ガハハ!


 ガキがいようが俺は構わねぇと思うんだが、どうやらあいつはそういうのを嫌っている。

 そしてあいつはここ最近、次男にかかりきりだから一切機会が回ってこないという寸法だ。



 寝具から起き抜けると、俺は外に出て井戸に行く。

 水を汲んで頭からかぶる。


 あいつの妹に言われて、俺は朝に体を軽く水で流すようにしていた。

 正直面倒くさいが、あいつも体を綺麗にしていた方が嬉しいみたいだからな。

 ちなみに、冬場は湯と布で洗ってる。

 体を毎日流し始めた頃、寒くなり始めてきついと思っていたら、部屋の前に湯と布が置かれるようになった。

 あいつが置いてくれた物だ。

 まったく、あいつはいい女だぜ。ガハハ。



 居間に向かうと、次男を抱き上げたあいつがいた。


「ガハハ。今日のメシはなんだ?」

「鹿の焼肉と玉葱のスープです。あとは、根菜のサラダと果物をいくつか」


 テーブルには言った通りのメニューが五人分、並べられていた。


 焼肉が嬉しいぜ。

 こいつの焼いた焼肉はただ焼いた物と違って、香草とかで臭みを消して焼いてるから普通に焼いたやつよりも美味いんだよな。

 だから、待ち遠しくてつい手が出ちまう。


 と、出した手を軽く止められた。

 ダメ、というように首を振って見せられる。

 ダメって言うなら、仕方ねぇぜ。

 ガハハ……。


 それからすぐに、他のガキ共が起きてくる。


「がはは。母ちゃん、朝飯何?」

「にゃふふ。私、鶏肉食べたーい」


 これで全員揃ったわけだが、そうするとガキ共はみんなあいつの側に集まる。

 次男が膝の上で、両隣に長男と長女が座る。

 一人ぐらいこっちに来てもいいんだぜ?


「俺は肉とスープだけでいいぜ。お前、いるか? ガハハ」

「だったら俺、肉だけでいい。だから、野菜はやるぜ。がはは」

「にゃふふ、いらねぇー」

「好き嫌いはダメですよ」

「「わかったぜ」」「はーい」


 野菜は苦手だぜ。

 ちゃんと塩で味付けしていて、まずいわけじゃないのに苦手だぜ。

 というか、この家で野菜が好きなのはあいつと次男だけだ。

 いや、次男はよくわからねぇな。あいつの食べさせる物は何でも食うし。

 俺が食べさせても口を開かないんだぜ。

 開いても「ヤッ!」って言うだけだしな。


 いつも優しく守ってくれる母ちゃんが好きなのもわかるし、甘えるのもいいけどよ。

 いつかは、こっちが守ってやれるようになるんだぜ。


 ふと、あいつが何か悩んでいる素振りを見せる。

 特に表情が変わったわけじゃないが、そんな気がした。


「どうした? 何かあったか?」

「この子達にパンを食べさせてやりたいと思いまして。私自身、久し振りに食べたいというのもあるのですが……」


 パンか。

 隊商を襲った時に、荷にあったやつを何度か食った事があるな。

 カッチカチに固くて美味いと思わなかったが。

 でも、食いたいっていうのなら何とかしてみるか。


「そうか。わかったぜ。ガハハ」




 俺はあいつの妹へ頼む事にした。

 手紙を出す。


「パンですか……わかりました。用意しておきましょう。それから最近、お姉様のウエストが落ち着いてきたようですね。サイズの合った新しいドレスを作っていますから、後日取りに来てください」


 そういう内容の手紙が返ってきた。

 お前、何で俺も気付かなかったあいつの体型を把握してるんだ?



 後日、一台の馬車が山道に放置されていた。

 馬車には王家の印章を押された木札がかかっていた。

 多分、あの女の手配だ。

 この中に、パンがぎっしり詰まっているんだろうか?


 と思って車内を見てみると、体をグルグル巻きに縛られた肉付きの良い中年男がいた。口には猿轡を噛まされている。

 男は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていて、見ていられないぐらい可哀相な状態だった。

 ロープと猿轡を解いてやる。


「お願いします! 殺さないでぇ!」


 開口早々に命乞いされる。


「殺さねぇよ。それよりお前、何者だよ?」

「王都のパン屋です」

「何でこんな所にいるんだよ?」

「身に覚えのない不正をしたと言われ、兵士に捕まりまして。そのまま追放されました」

「で、お前の作るパンは美味いのか?」

「王都一美味いと評判です。そんじょそこらのパン屋には負けないと自負しております」


 それで選ばれたんだな。

 哀れ過ぎるぜ……。


 まぁ、これであいつに出来たてのパンを食わせてやれるからいいけどな。


 連れ帰った男は、根城でパン屋を開業した。

 開業祝いに配られたパンは、今まで俺が食ってきたパンが何だったのかわからなくなるほどに美味かった。

 あいつが食いたいというのもわかったぜ。




 俺の手には、一つの頭環が握られている。

 初めてあいつに会った時、あいつが頭に着けていた物だ。

 頭環から垂れた布で、あいつは自分の顔を半分隠していた。

 あの時はそのまま馬車に捨てちまった物だが、それが今ここにあるのはあいつの妹に渡されたからだ。

 馬車の残された場所で見つけて、持ってきたらしい。


「これがお父様からの贈り物だったなら、すぐにでも鋳潰してインゴットに変えてやるんですけどね。

 残念ながらこれには、お母様がお姉様に送ったなけなしの愛情が詰まっているんですよ。

 お母様は、お父様のように非情ではありませんでしたから。

 まぁ、愛情深いとは御世辞にも言えませんが。

 お姉様に返してあげてください。きっと、喜びますよ」


 あの女は胡散臭い笑顔でそんな事を言い、俺に頭環を渡した。

 でも俺は、それをあいつに渡さず、今も自分の部屋に隠している。


 何故かって?


 これを着けたら、あいつの顔がはっきり見えなくなるじゃねぇか。

 俺はしっかりとあいつの顔が見たいんだよ。




 家の中にいると、ガキの大きな泣き声が聞こえて来た。

 その部屋に行ってみると、次男が大泣きしていた。


 珍しい事だぜ。

 こいつは母ちゃんに似て、そうそうの事じゃ表情一つ変えないってのに。


 その前にいる長男を見る。

 手にはフリルの輪が握られていた。


 泣いている理由がわかったぜ。お気に入りの玩具を取られたからだ。


「何で泣いたのでしょうね?」

「わからねぇ。何もしてないのに泣いた。不思議だ!」


 あいつが長男に訊ね、長男はそれに答えた。

 すると、あいつの目がスッと細められた。


「本当ですか?」


 怖いんだよなぁ、あれ。


 俺は長男に少し同情した。


 追求する声はいつも通りだ。

 怒っても責めてもいない。

 だが、あの目を向けられるのは怖い。

 睨み付けているわけでもないのに、あの目で見られて言葉をかけられると妙に落ち着かないんだよな。


「すまねぇ。嘘吐いた。玩具とったら泣いた」


 長男はあっさりと謝った。

 同じ立場だったら、俺だってそうなるだろうな。


「返してあげなさい」

「おう。わかった」


 フリルを返すと、次男はすぐに泣き止んだ。

 そんな次男の目元から、あいつはハンカチで涙をふき取ってやる。

 壊れ物に触れるような、とても優しい手つきだ。


 いい女だなぁ……。


「ガハハ」


 思わず笑いが出た。

 あいつが気付いて、こちらを見る。


 あれ?

 何でだ?

 何か不機嫌そうだぞ?




「俺、母ちゃんと結婚する!」


 ある日、長男が何か言い出した。


 わかるぜ、気持ちだけならな。

 あいつはいい女だからな。


「ガハハ、そいつはダメだ」


 でも、やらねぇぜ。


「何でだよ? 父ちゃん」

「そいつは俺の穴だからだ! 他の穴を探せ!」

「うーん、……わかった。俺は俺だけの穴を探すよ!」


 素直なのは良い事だぜ。


 気付けば、あいつがジトッとした目で俺を見ていた。

 俺、何か悪い事言ったか?



「なぁ、父ちゃん。母ちゃんみたいな女って、どこで探したら見つかるんだ?」


 長男と長女を連れて、森にキノコを採りに行っていた時だ。

 長男がそんな事を聞いてきた。


「あ、それ私も聞きたーい」


 長女も興味を持って聞いてくる。


 答えに困るぜ。

 探して見つけたわけじゃねぇからな。

 ガハハ。


 あの時は、何で連れて帰ろうと思ったんだろうな?

 どうしようもなく、自分の物にしたいと思っちまったんだ。


「探すもんじゃねぇぜ。見たら思っちまうんだ。こいつはいい女だから、どうしても自分の物にしたい、ってな」

「見たらわかるって事か?」

「ああ。そいつがいい女なら、見れば一発でわかる」

「そうなのか」


 長男は難しい顔で、何やら考え込む。


「男の子だけなのー? 女の子にはわからないのー?」


 その間に、長女が訊ねてくる。


「父ちゃんは男だから詳しくわからないぜ。でも、男だろうが女だろうが、だいたいそんなもんじゃねぇか?」

「へー、そうなんだ。にゃふふ、楽しみだなぁ」


 そういう人間ができたら連れて来いよ。

 気に入らなかったらぶん殴ってやるからな。

 ガハハ!




 ある日、長女がしょんぼりしていた。


「どうした? 何かあったか?」

「かーちゃんに人の物を盗んじゃダメって言われた」


 まぁ、あいつはそういうの特に嫌がるよな。

 こいつは盗んでもちゃんと返してるから、可愛いもんだと思うんだけどな。

 俺だって、盗む事が悪い事だ。なんて考えは、あいつが来てから初めて知ったわけだしな。

 ここで育ってりゃ、こういう考えを持ってもおかしくない。


 必要な物は奪う。

 それは俺にとって、子供の頃から教えられてきた常識だ。

 山に生る物も、山道を通る人間が持っている物も、生きていくためなら奪わなけりゃならない。

 もちろん、仲間から奪うなんて事はしねぇ。

 大事な人間を傷つけたくはないからな。

 でも、山道を通る人間なんて俺はどんな奴か知らないからな。

 傷つけようがどうでもいい。

 これが親父から教わった山賊としての生き方だ。


 だから、こういう時、どう言ってやるのがいいかわからねぇ。


 俺はあいつが好きだし、長女も可愛い。

 できるなら、どっちも傷つかない方法を教えてやりてぇ。

 どうしたもんかなぁ。


 あいつは長女に盗ませたくないが、長女は盗みたい。

 要は、長女に盗ませず、盗ませればいいわけだ。

 だったら――


 無理じゃねぇか……。


 もういっそ、バレないように隠れてやったらどうだ?

 解決になんねぇし、バレたらあいつが悲しむだろうけど。


「とーちゃん?」


 黙りこんだ俺を不安そうな顔で見上げる長女。

 その不安を取り去ってやりたいぜ。


「ガハハ、形のない物でも盗んだらどうだ?」


 なんて思ってたら、咄嗟にそんな言葉が出たぜ。ガハハ。


「形のない物? 何それー? 盗めるのー?」

「わかんねぇ。そうだなぁ……人の、心、とかか? ガハハッ!」


 自分でも何言ってるのかわからねぇぜ。

 でも、よく考えてみると色々あるかもしれねぇな。


 命とか、暇とか、な。


 といろいろ話してみたが、結局長女の盗み癖は治らなかった。

 あいつの目を盗んで、色々と盗んでいるらしい。




 その日、俺はあいつと長女が話しているのを見かけた。

 いつも笑顔いっぱいの長女が、珍しく困惑顔だったので気になった。

 声をかける。


「ガハハ、どうした?」


 長女が俺に気付いて顔を綻ばせる。

 同時に、あいつも振り返って俺に顔を向けた。

 俺は思わず眉根を寄せちまった。


 あいつの頭には、例の頭環が着けられていた。

 顔の半分が布で覆われて見えない。


 やっぱり嫌だな。

 似合わない。


 俺はあいつの頭に手を回し、片方の手で頭環の布を引き千切った。

 隠れていた顔があらわになる。


 こっちがいいぜ。半分見えないなんて、もったいないからな。


「何をするのです?」

「お前にはこんなもんいらねぇんだよ」


 不満そうに訊ねられ、俺は答える。


 あんな邪魔なもん着けられてたら、お前の顔がちゃんと見えないだろうが。


 すると、何故かあいつは不機嫌になった。


 あれ? また何かまずい事言ったか?

 お前はそのままが良いって話だったはずなんだが……。


 言葉が足りなかったかな?

 俺はいつも、説明が足らないって母ちゃんにも昔から言われてたからな。


「うん! かーちゃんはそっちの方がかーちゃんだよ!」


 長女が嬉しそうな声で言う。


 おお、そうだよ。それだよ、俺が言いたかったのは。

 あれ? でも余計に落ち込んでいないか?


 こういう時、どう言やいいんだ?


「布なんか被せたら、お前の顔がちゃんと見えないじゃねぇか。だから、お前はそのままの方がいいんだよ。ガハハ!」


 わからないから、素直に思った事を口にする。

 ちょっと不安だったから、笑いも一緒に出たぜ。

 ガハハ。


「……そうですか。そう言うのなら、着けないようにしましょう」


 でも、伝わったみたいだな。


「頭環だけならいいぜ。顔が見えるからな」


 おう、これだけならむしろ似合う。

 初めからこうすりゃよかった。


「じゃあ、これだけは着けましょう。……そういえば、どうしてこれを持っていたのです?」

「ガハハ!」


 言いたくねぇぜ。

 説明するには、あの女の事も話さなくちゃならないからな。

 あの女もこいつと絶対に会わないって言ってるしな。

 こいつが会いたいなんて言い出したら、あの女も困るだろう。


 あいつはいい女じゃねぇが、姉想いのいい妹だからな。

 その気持ちは大事にしてやりたいぜ。

 ガハハ。


 しかし、あの女の言う通り、本当に喜んだな。

 母親からの贈り物だって言ってたな。

 そんなに気に入っていたのか?

 それとも、昔が懐かしいからか?


 そうだよな。

 ここには無理やり連れてきちまったからな。

 ここなんかより、貴族の家の方が良い暮らしはできるからな。

 心を許せる家族だっているわけだし。


「なぁ、それより一ついいか?」

「……何です?」

「お前、帰りたいと思うか? 元の場所に」


 気付けば俺は訊ねていた。


 俺自身、こいつをさらって来た事に後悔は無ぇ。

 そんな後悔なんかで諦めが尽くなら、初めからさらって来ちゃいないからな。


 でもな、俺はこいつに幸せでいてほしいんだよ。

 最近特に、強くそう思うんだ。

 本当は嫌だけど、こいつが望むんなら元の家に帰してやりたい。

 そう思うくらいには、強い気持ちだ。


 俺は答えを待つ。

 どう答えるのか、少し緊張する。


 だが、返ってきたのは答えじゃなくて溜息だった。

 どういう意味の溜息だ?


「なぁ、どうなんだ?」


 余計、不安になったのでもう一度訊ねる。


「さぁ? どうでしょうね」


 だが答えはくれず、はぐらかされた。


「大事に使ってくださるのでしたら、物も主人の手の中に長く在るものですよ」


 それどころか、妙な言い回しをされる。


 どういう意味だぜ?

 わざと分かりにくく言っただろう?


 要は、大事にしろって事か?


 まぁ、仕方ねぇな。

 今、こいつを幸せにしてやれるのは俺しかいねぇからな。

 俺ができる限り、幸せにしてやるしかねぇな。

 ガハハッ!

 アナちゃんの事を深く理解できるようになり、ガハハは彼女を好きなように扱えなくなりました。

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