修学旅行
ただいま、新幹線の中です。
今日から三泊四日の修学旅行です。
三人かけの座席を向かい合わせにして、進行方向の窓側に私が座り、横には彼がその隣には有美さんが陣取ってます。私の前には朋子が座ってて、その横二つの座席には、彼の親友が座ってる。
そんな中、絶不調な私です。
毎回の事ながら、彼と一緒に廻りたいという女子が殺到。私は、それを傍観(一緒に廻りたいとは、思ったけど)してました。
いやー。
だってさ。
あの中に入ろうなんて、思えなくて。
まぁ、誰と班になっても変わらないって思ったところもある。
……が。
「オレは、梓と一緒の班だ!」
って、彼が言うものだから、私と組みたい人が一気に雪崩れ込んでくる。
もう……。
困ってる私を助けてくれたのは。
「残念だったわね。梓と組むのは、あたしだから、諦めてね」
朋子が、横から口を出してくれた。
「そうだよね…。ごめんね……」
って、諦めてくれる子達。
その中には。
「わたくしは、いいですよね」
やっぱり、有美さんも居たわけで。
他の子達は、諦めてくれたのにこの人は絶対ないだろうって思った。
私は、顔をひきつらせながら、頷いた。
朋子が心配そうに私を見る。
「仕方ないよ」
ってな事で、班が決まった。
有美さんは、彼にベッタリとくっついている。
あー、もう勝手にしてて。
私は、二人のやり取りを見て見ぬ振りを決め込んだ。
「梓?」
向かいの席に座る朋子が声をかけてきた。
「何?」
「顔色悪いよ」
って、心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だよ。気にしないで…」
笑顔が、ひきつってるのがわかった。
しかし、朋子相変わらず鋭いな。
本の少し、熱っぽいんだよね。
ちょっと辛いけど、そのうちに良くなるって、思ったのが間違いだった。
うっ……。
ヤバイな。
体が冷えてきた。
ちょっと、デッキに出てこよう。
私は席を立った。
「梓。どこに行くんだ?」
彼が聞いてきた。
「…ん。お手洗いに…」
そう言って、通路に出れるように道を開けてもらった。
少しふらついたが、なんとかデッキに出ると壁に体を預けるように凭れる。
車内は、冷房が利きすぎていて寒すぎるくらいだった(私にとっては)。
こんな体調なら、休んだ方がよかったかな。
したら、迷惑かけずにすんだよね。
立ってるのも辛くて、壁に背を預けたままズルズルと座り込み、自分の腕を手で擦る。
寒い…。
「梓?」
声が、頭上から聞こえる。
ゆっくりと顔を上げると彼が、心配そうに私を見る。
「大丈夫か?」
「…う…うん…」
心配を掛けたくなくて、頷いたのだが、腕を掴まれた。
「梓…お前…」
そう言いながら、彼は私の前髪をかき上げて、顔を近付けてきた。そして、額を引っ付ける。
顔近いし、余計熱上がるって……。
「やっぱり…。熱あるだろう?だからここに来たんだろ?」
アハハ…。
バレちゃった。
「ちょっと待てろ」
彼はそう言って、客席に戻っていった。
暫くしてジャケットと湯気が立ち上る紙コップを持ってきた。
「これ、オレのだけど着とけ」
渡されて、彼の言う通りに袖を通す。
「それから、これを飲んで体を温めな」
紙コップに入ってたのは、ミルクティー。
「ありがとう」
私は、それを受け取って一口口に入れた。
ホンワカと温かくなる。
それでも、まだ背中が寒くて、身震いする。
彼が、背後から抱き締めてきた。
今の私、彼の足の間に座ってる状態。
「これなら、寒くないだろ」
耳元で言われて、余計な熱が……。
「それ飲み終わったら、席に戻るぞ。辛いなら着くまでオレに凭れて眠ればいいから」
どこまでも優しい彼。
「うん……。迷惑かけてごめんなさい」
シュンと落ち込む私に。
「気にするな。梓の事、ほっとけない」
って、彼が言う。
ありがとう。
って心の中で言う。
それしか浮かばない。
席に戻ると朋子が心配そうな顔をする。
有美さんは、迷惑そうな顔を私に向けてきた。
ハハハ……。
今は、何されても返す余裕なんて無い。
頭が、全く働いてない状態。
「ほら、梓。座って、オレの肩に頭預けていいから」
彼に促されるまま、彼の左肩に頭を預ける。
「ごめんね…」
「気にするな」
って、彼はそう言って、笑顔を見せてくれる。
「着くまで、寝てな」
その言葉に甘えて、瞼を閉じた。
「…さ。梓。もう少しで着くぞ。起きろ」
体を揺さぶられる。
「…んっ。…紫音……くん……」
目が開かない。
「ん。梓の荷物は、オレが持つからな」
彼は、そう言って私の鞄と自分の鞄を片手で持つ。
空いてる手で私の手を握る。
「まだ、少し熱いな」
彼が呟いた。
「流崎。梓を先に宿泊先で休ませたら。今日は、クラス移動だけだしさ」
朋子の声が聞こえる。
虚ろの私には、理解出来てないけど。
「そうだな。担任に話して、そうしよう。朋ちゃんが着いててあげて」
二人の声が、遠い。
「何言ってるの?着いていくのは、あんたでしょ。一番梓の事心配してるのも。だから、傍に居てあげて。梓もその方が、安心するでしょ」
彼と朋子のやり取りをボーッと見ていた。
「わかった」
彼の声が聞こえた。
私と彼、それと保健教諭の先生と三人で今日の宿泊先に移動。
「とりあえず、田口さんは他の生徒と別の部屋で休んでもらうことにしたから、その部屋に布団を敷いてもらってるから、そちらに行きましょ」
先生に促されて移動することに…。
「梓、大丈夫か?」
心配そうの彼の言葉に頷くことしか出来なかった。
その部屋に入ると直ぐに布団に寝かされた。
「寒くないか?」
彼が、私の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「…だい……じょうぶ…」
そう答えるので精一杯だった。
「流崎君。彼女の事宜しくね。私は戻るから…」
それだけ言って、部屋を出ていった。
「…ごめん…なさい……」
私は、そう呟いた。
「何が?オレは、嬉しいけど。梓が、体調崩しても、一緒に行こうと思ってくれたことに。オレは、嬉しく思う」
って、笑顔で言う彼。
「でも…。他の所、見れないよ。それでも?」
「うん。オレは、梓と居られればいいんだよ。それだけでも同じ思い出が共有できるって思うから…」
彼が、照れずに真顔で言う。
「……ありがとう…」
彼の気持ちが、嬉しかった。
「ほら、少し寝た方がいい。傍に居るから」
彼が、優しい笑顔で言う。
「…手、握っても……いい?」
戸惑いながら、訪ねた。
「あぁ。ほら」
彼が、ぶっきらぼうに手を出してきた。
私は、その手を握る。
それだけで、安心できた。
ここにいてくれるんだって。
「少し、寝ろ」
繋いでない方の手で、私の頭を撫でた。
「…うん」
私は、そのままゆっくりと瞼を閉じた。
ふと、目を覚ますと周りが暗くなっていた。
どれぐらい寝てたんだろう?
目線を動かして、時計を探す。
皆もう、戻ってきてる頃なんだろうけど……。
静かすぎて、不安になる。
何やってるんだろう?
あんなに楽しみにしてたのに…。
初日から、彼に迷惑掛けることになるとは……。
情けない……。
それに、彼には本当に申し訳なくて……。
いつしか、私の目元に涙が溜まり、寝てるから、そのま真横に流れ落ちていく。
「…ッ……クスン……」
声を殺しても静かな部屋に響く自分の声。
ガチャ…。
その時、入り口のドアが開く音がした。
私は、慌てて涙を拭う。
「…梓」
低く優しい声音。
入ってきたのは、彼だった。
涙の痕を見られたくなくて、寝返りを打って、彼に背を向けた。
「まだ、寝てるのか…」
彼の呟きが聞こえる。
「梓。オレが、無理させたか…。オレが、一緒に修学旅行に行きたいって言ってたから…。だから、無理して参加…したのか…」
切ない声音の彼。
「それは違うよ。私も…私も本当は、楽しみにしてたの。……だから…だから、紫音くんが負い目を感じることなんか無いんだよ!」
って、叫んでた。
「梓…。お前…」
彼が、驚いた顔をする。
「ごめん。紫音くんが入ってくる前に目が覚めていたの。自分が情けなくて、涙してたから、見られたくなくて、寝てる振りをしてた…」
私は、申し訳なくて…、彼を見ることができない。
「本当にごめんなさい」
私は、それだけ言って、布団に潜る。
彼、今頃、呆れてるよね。
「梓」
彼が、掛け布団を捲ってくる。
「梓も楽しみにしてたんだ。オレだけだと思ってた。なぁ、梓」
「……ん?」
「明日までに熱を下げろ。そして、自由時間にいろんな所に廻ろ。一杯、思い出を作るぞ」
って、満面な笑みを浮かべて言う。
「……うん」
その笑顔につられて、私も笑顔で答えた。
「何か欲しいものは?」
「…お水が欲しい」
「食欲は?」
「少し……」
「そっか。何か食べれるものを作ってもらってくるな」
そう言って、彼は出ていった。
彼が出て行ってから考えた。
今日は、修学旅行の初日。
まだ、三日あるんだ。
そう思ったら、初日に体調を崩して、よかったと思えばいい。
明日には治って、三日間を楽しめばいいのだから…。
そう心に決めたとき、一気に気が楽になった。
翌日。
テーマパークでの班行動。
二列乗りのモノに班で並ぶ。
「わたくし、流崎君と乗りたいですわ」
そう言って、彼の腕を我が物顔ですがり付く有美さん。
「どうぞどうぞ」
と譲ってる自分がいる。
病み上がりで乗る気しない。
私は、その場から離れる。
近くのベンチに腰を下ろす。
「梓」
顔を上げると彼が目の前に立っていた。
「どうしたの?紫音くんは乗らないの?」
私の質問に。
「いいんだ。病み上がりの梓の事が心配だ」
って、私の横に座る。
「なぁ、梓。何なら乗れそう?」
「絶叫系以外なら…」
って答えると。
「じゃあ、あれなら大丈夫かな」
って指差したのは、観覧車。
「他のメンバー、待ってなくていいの?」
「いいよ。向こうも結構並んでたから、今のうちに…な」
「…うん♪」
紫音くんが、手を差し伸べてくれるから、その手を取って観覧車のある方へ移動。
順番を待たずに乗れた。
「梓、大丈夫か?辛くなったら遠慮せずに言えよ」
「うん、ありがとう。紫音くんが居てくれてよかった」
私は、心の底からそう思ってた。
彼がいるから、楽しいって思える。
「ん?」
不思議な顔をする彼。
「心配させてごめんね。大好きだよ」
……チュ……。
彼の頬に軽く口付けた。
ほんの少しだけ顔を赤らめる彼。
それと同時に狼狽える彼。
「梓、オレも梓の事、大好きだよ」
そう言って、唇に彼のそれが重なった。
遅くなりました。
修学旅行編。
旅行って書いておきながら、何も出てこないって、可笑しいかなと思いつつ、梓を気遣う紫音を…。
って、思い書いてたら、こうなりました(〃∇〃)