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戦闘員D-23 :3~対 マスクドナイト~

 結論から言うと、史宏たちは侵入者の実験室への足止めはできなかった。力及ばず敗れ、倒されてしまったわけではない。

 彼らが追いついた時、すでに奴は実験室の扉を破り中に入り込んでしまっていた。

 途中の通路に配備されていた、奴の足を止めるはずの他の戦闘員たちは、全員ここに来るまでの通路の床で倒れ伏していた。カイザーレオンや史宏たちの想定をはるかに上回る速度で全てを打ち倒し、遅れて後を追った史宏たちにとうとう実験室に辿り着くまで、その影を踏ませなかったのだ。


「ウオオオオォォォッ!」


 史宏たちが見たのは、獅子の鬣を振り乱して巨大な鉄棒を振るうカイザーレオンと、その一撃を軽く下がって簡単にかわす金色の背中。昆虫の外骨格を模したオリハルコンの装甲は、後ろからは黄金の西洋甲冑のようにも見えていた。

 正面から挑んでどうにかできるような相手ではないことは、ここに着くまでに見てきた多数の戦闘員の姿でわかっている。ゆえに、追いついたばかりで奴が背を向けている、まだこちらに気がついていないであろう今は大きなチャンス。

 そう考えたのか、ニックはすぐさまサーベルを手に、奴の後ろに迫る。とはいえ、そんなサーベルで斬りつけたところで、オリハルコンの装甲には傷も付かないだろう。狙うは関節、装甲の隙間だ。


「ギイ゛――ッ!」


 だが、こちらを振り向くことすらせずに出された裏拳の一撃で、ニックは顔面を打たれて吹き飛ばされる。


「……なんだ、戦闘員の増援か」


 吹き飛ばされたニックが史宏の近くまで転がってきたところで、ようやく奴がこちらに顔を向ける。その顔を見て史宏は、ニックの奇襲が無意味だった理由がわかった。オリハルコンの外骨格装甲のように、数種の昆虫の因子を掛け合わせた怪人だとは以前に聞いていた。こちらを向いた顔の上半分に蒼い大きな複眼らしきものが。無論、複眼そのものではないのだろうが、おそらくそれがセンサーかレーダーのように働いて、背後のニックを捉えていたのだろう。


「まさか、大規模な人員の移動を捉えて追ってくれば、こんなところにもゾルジョッカーの研究所があったことには驚かされた。だが、今更戦闘員が数人増えたところで、このマスクドナイトを止めることはできん! その妙な装置を破壊し、貴様らの野望を打ち砕いてくれる!」


 マスクドナイトだとか自称したヒーロー気取りの裏切り者は、マスクドナイトと自称した。なるほど、複眼のセンサーが付いた顔は仮面のようにも見えるし、オリハルコンの外骨格装甲は西洋甲冑にも似ている。安直だがわかりやすい名前ではあった。


 そして、どうやらこの男、マスクドナイトは研究所に増援として派遣されたカイザーレオン隊が移動するのを察知してここに辿り着いたらしい。今日の実験に期待をかけた上層部の警戒は、完全に裏目に出ていた。


 しかも、カイザーレオンが通信で伝えてきた通り、室内ではまだ実験が継続中。実験室という名称だが、実際は研究所の大きな部分を占める、小さな学校の体育館くらいはある空間だ。カイザーレオンの背後には巨大な装置と、その上の空間にぽっかり空いた直径3メートル近い黒い穴。一度あの穴を作り出してしまうと、後は生成の際のエネルギーを消費して少しずつ小さくなって自然消滅を待つしかない。装置は今も稼動しているが、穴にエネルギーを送り込んでいるのではなく、穴を生成したエネルギーが暴発しないよう制御しているだけだ。今も装置の後ろで作業している研究員に以前聞かされた話では、そのエネルギーは膨大で、暴発などした際にはこの実験室はおろか、研究所全体にどんな大きな被害が出るか想像もつかないらしい。

 つまり、ただマスクドナイトを撃退すればいいという話ではなく、同時に穴を制御している装置と研究員たちをも護らねばならない。だというのに、ゾルジョッカー側でまだ残っているのは、カイザーレオンと実験室に残っていた3人の戦闘員。それに史宏たち6人が加わり計10人。ただし、ニックは先ほどマスクドナイトに殴られて、なんとか起き上がったもののまだふらついている。ここまで20人以上の戦闘員が奴1人に倒されていたことを考えると、これが十分な戦力であるとは言えないだろう。


「受けろ、正義の鉄槌!」


 装置が壊れて暴走すれば、奴といえども無事ですまないだろうが、そんなことは知らないマスクドナイトは、啖呵をきった勢いそのままに、カイザーレオンに殴りかかった。


「ぬおっ!」


 黄金の輝きを宿したオリハルコンの拳を、カイザーレオンは手にしていた太い棒で受け止める。そのまま棒を回して相手の頭を狙うが、マスクドナイトは再びすばやくさがってそれを逃れる。そこにカイザーレオンの合図。史宏たち戦闘員も、四方から一斉に襲い掛かった。


「「「イ゛――ッ!」」」


 手にした武器を振るい、突き出す。戦闘員同士の連携も加わる。

 マスクドナイトはその攻撃を次々とかわし、あるいはそうするまでもなく装甲で弾き返す。逆に交差の瞬間、拳や脚での反撃を繰り出す。


 わずか30秒ほどの交戦で、3人の戦闘員が脱落した。

 中でもゴローは、顔に拳を受けて突進を止められたところで腹に鋭い蹴りをくらい、遠く壁まで飛ばされ、ヒビが走るほどの勢いで叩きつけられた。

 残りの戦闘員も、全員が多かれ少なかれダメージを負った。


「がふっ、かはッ」


 史宏も鳩尾に拳を一発もらい、呼吸がまともにできなくなっていた。

 わかっていたことだったが、その一撃を受けたことでよりはっきりした。

 強い。強すぎる。出鱈目だ。

 元々、怪人は戦闘員より数段上の能力があるが、奴は史宏の知る怪人の、さらにその数段上。


 実験は1時間ほどの予定だったが、そこから逆算すると、穴が消えるまでまだ少なくともあと40分以上。どう考えても、倒すのはおろかそれまで絶対にもたない。

 史宏がなんとか呼吸を戻そうとする間に、さらに2人の戦闘員が倒されている。

 カイザーレオンも戦闘員の間から攻撃を繰り出していたが、有効打を与えられないまま逆に何度も奴の拳を受け止めたせいで、武器がへし折られてしまう。折れ飛んだ棒の破片は、制御装置のすぐ横をほとんどかすめるように過ぎていった。


「ま、待てッ! 待ってくれ!」


 折れ飛んだ武器の破片を見て、青くなったカイザーレオンは、慌ててマスクドナイトに呼びかけた。


「あ、あの装置にだけは手を出さないでくれ。今あれが壊れたら、暴走してオレも貴様も死ぬことになるかもしれんぞ!」


「ふん。武器を壊されて弱気になったか? 見え透いた嘘を。それで私の動きに枷を付けたつもりか?」


「違う! 本当だ! いかに貴様とて、最悪この研究所がクレーターに変わるようなことになれば、生き残るのは無理だろう? いいから言うことを聞け!」


「くどい! それとも、そんなに護りたいほどその装置はゾルジョッカーに重要な物なのか? ならばなおさら、このままにしておくことはできん!」


 カイザーレオンの訴えを、まるでマスクドナイトは取り合おうとはしない。逆に装置の破壊の意志を固めたようだ。


「ええいッ、このクソがぁ!」


 業を煮やしたカイザーレオンは、折れて半分になった棒を投げつける。簡単によけられてしまったが、構わず鋭い爪を伸ばした右手を続けて振り下ろす。


「なんとしても、この装置だけは壊されるわけにはいかん!」


 カイザーレオンの言葉に嘘はないが、マスクドナイトの認識も間違ってはいない。奴の働きでゾルジョッカーの戦力が低下している現在、この実験は戦力回復の鍵を握っているとも言えよう。そういう意味でもカイザーレオンは装置を壊されるわけにはいかなかった。


 しかし、その爪が相手の顔に届くより早く、迎え撃つように伸ばした奴の左手が、爪の下の掌を受け止める。

 右がダメなら左。

 右手を押さえられたままカイザーレオンは左手を振るうが、今度は手首の部分で捉えられる。


 一見、力比べの様相。カイザーレオンの方が身体は二回りは大きいが、マスクドナイトは力負けしていない。

 カイザーレオンの手は封じられたが、両手が塞がったのは相手も同じ。そして、ゾルジョッカーにはまだ何本もの戦闘員の手が残っていた。


「「「イ゛――ッ!」」」


 奇声を上げて、再び一斉に奴の背中を襲う。

 が、やはり複眼センサーで後ろが見えているのか。最小限の動きで攻撃をかわし、逆に片足で蹴りを返してもくる。

 やっと息を戻した史宏も、その攻撃に加わる。ただ、先ほどカイザーレオンが投げた半分に折れた棒を武器に拾っていたため、他の戦闘員より少し遅れることとなった。サブローの背中のすぐ後ろを追う形となったが、それが逆に相手の眼からも史宏の姿を隠しているはず。


「ギィ――ッ!」


 サブローが横に蹴り飛ばされて、オリハルコンの輝きが視界に映る。その時にはもう、奴の背中は目の前だった。

 棒の折れて鋭くなった方を槍の穂先のように思い切り突き出す。


「くッ!」


 それでも、まだ奴の能力に及ばない。腰の装甲の隙間を狙った一撃は、きわどいところでかわされてしまう。

 さらに奴はかわす動きをそのまま前蹴りに繋げて、カイザーレオンを振り解く。

 手の自由を取り戻したマスクドナイトは、身体を廻しながら右の肘打ちで折れた棒を叩き落とし、そのまま手刀で史宏も狙う。先に肘で棒を打ったことと、その間になんとか史宏が反応できたことで手刀はかろうじて逸れ、史宏がベルトに付けていた無線機を破壊するにとどまった。


 それでかわせたと思ったのが甘かった。


 奴の身体の回転は止まらず、そのまま強烈な廻し蹴りが腹に叩き込まれる。手刀をかわそうと体を引いていたため、踏ん張りがきかずに高く吹き飛ばされた。


「ぐぁッ!」


 それも、最悪の方向。

 高く飛ばされたことで装置に激突こそしなかったが、その上の2メートルほどに小さくなっていた黒い空間の穴に向かって、真っ直ぐ史宏の身体は飛んでいた。


 史宏が自分が飛ばされた方向に気づいた時には、すでに宙に浮いた穴に呑み込まれて目の前が真っ暗になった。カイザーレオンやサブローたち戦闘員が驚いている姿が、最後の一瞬見えたような気がした。

 穴の中に入ってしまった時点で、不思議なことに史宏を飛ばした蹴りの運動量はキャンセルされていた。ただ、別の力が史宏を引き寄せているのが感じられる。

 それに抗おうにも、何一つ見えない上に無重力のように身体が浮かんでいる状態。手足を動かしても空をかくだけでどうにもならなかった。


 穴の中はこれまでの実験では何も確認できなかった未知の空間。有線機械で探査した時は、カメラは真っ黒で何も映さないままコードが200メートルほど引き出されたところで断線し、機材は戻らなかったらしい。


 その200メートルまであとどれくらいなのか。

 恐怖に叫びを上げ、何でもいいから助けを求めようとしたが、闇の中には何の音も響かない。

 ますます焦って声を出そうとするが、口がぱくぱくと動くだけだ。それどころか、そうして聞こえない叫びを吐き出すたびに、だんだんと息が苦しくなっていく。


 空間内の空気に十分な酸素がなかったのか、気づいた時にはもう遅い。

 酸欠状態に陥った史宏の意識は、徐々に暗転していった。

3回に分けた回想・特撮風パートもこれで終了。

次々回あたりからはファンタジー色が着いてくる予定です。


あ、サブタイのヒーロー気取りの裏切り者のイメージは、説明も不要ということで。

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