戦闘員D-23 :1~第2研究所~
完全な回想・設定語りの回です。
まともに話が進む(戻る?)のは明日投稿予定の次回。
最悪飛ばしちゃってください。
戦闘員D-23こと河田史宏が警備で常駐している第2研究所は、正式名称を旧ゾルダム第2研究所といった。
ゾルダムとは、ゾルジョッカーが成立以前にあった前身組織の1つ。その組織を築いた初代総帥は、超常的な能力と技術を有していて、自らを異世界を追放された魔導王と名乗っていたらしい。
彼の野望は、その魔導の業と称した超常的な力を地球の科学技術と融合、発展させること。それによって純粋な科学だけでは及ばぬ力を得てこの世界を征服。さらには征服したこの世界の総力を用いて、自らを追放した世界へ復讐することまで計画していた。
異世界だの魔導の業だの、眉唾もいいところだ。初めてその話を聞いた時には当然誰もがそう思ったが、生物融合や魔法銀といった実例を見せられれば、少なくとも常識ではありえない超技術を有していたことは信じざるを得なかった。
組織内の研究所では、総帥が有するそれらの超技術がこの世界の技術者によって研究される。分析されたそれらの技術を科学技術と置換・融合。総帥の魔導の力そのものはともかく、生物融合や魔法銀などの一部の技術はやがて擬似的な再現が可能となっていった。
そして、第2研究所は異世界を含む総帥の言を全て信じることにした者たちによって、ゾルダムの中でも特殊な研究が行われる施設であった。その研究とは、異世界へ通じる道を創り出すこと。
総帥の野望の最終段階では、自分を追放した世界への復讐をなすために、元の世界へ戻らなければならない。だが世界と世界の間を繋げる技術は、まだ未踏の領域だった。総帥の元いた世界においても、他の世界の存在そのものは確認されていたが、その数や座標などは不明。今いる世界の外という概念を得ることで作り出すことができたのは、どこか他の世界ではなく、ただ世界の外側に通じるという穴のみ。総帥はその穴によって元の世界から放逐され、地球に流れ着いたのは幸運な偶然に過ぎなかったと語っていたという。
総帥自身が指揮を執ったその研究は、長年の試行錯誤の末に世界の外に通じるという穴らしきものを生み出すところまでは漕ぎ着ける。大きさはハンドボール大、穴自体も10分ほどで消失。総帥が通った穴の完全な再現には程遠いが、消失の際に穴から小さな石が零れ落ちた。分析の結果、そこには地球上に存在しない未知の鉱物が微量だが含まれており、それが地球の外、別の世界に繋がった証左とされた。
あとは穴の拡大、維持できる時間の延長と工夫と改善を重ねていけば、ほぼ完全な再現もいずれは可能。そう考えられていたが、突如として事態は急変した。
総帥が志半ばにして病を得、この世を去ってしまったのだ。技術開発など当面の指針は残っていたものの、最高指導者の死は組織に大きな混乱をもたらした。
加えて、まだ再現に至っていなかった超金属の精錬などの超技術のいくつかは、必然的に総帥と共に失うことに。技術力の低下を恐れたゾルダムは、人体の強化改造技術を持ったジョッカーと合併。ゾルジョッカーの成立となった。
新組織・ゾルジョッカーの目的は、あくまでもこの世界の征服・支配。ゾルダム総帥の死と外部組織との合併によって、異世界の侵略などという夢物語のような野望を声高に主張するものは上層部にはいなくなった。
そこには、ゾルダムの生物融合技術と、ジョッカーの強化改造技術を併用することで実現した怪人という新戦力の誕生も影響していた。以降、ゾルジョッカーの主力研究は怪人の強化・開発の1本に絞られることとなる。
第2研究所は組織再編の中で施設自体の廃絶の声も上がっていたが、未知の鉱物を検出したわずかな成果を元に、旧ゾルダム内の総帥に近かった者たちによって放棄はまぬがれる。ただし、研究目的は異世界へ渡る手段の確立ではなく、逆に異世界に存在するかもしれない未知の資源や技術の断片を回収するものへと変えられることとなった。
予算・人材も怪人開発のためにその多くが削減され、それによって研究の進展も大きく減速。史宏が後に配属される頃には、現にそこで働く者と上層部を除けば、ゾルジョッカー内部でも知らぬ者の方が多いような部署となっていた。
◇
以上が、第2研究所の栄光と衰退の歴史。史宏がその話を聞いたのは、第2研究所に配属されてしばらくたった頃。組織内でも重要度は低く、実質的に左遷先の窓際職と言っていい配属先にやる気を失っていた時期。警備をおざなりに研究所に常駐するわずか3人の研究員と話をするうち、それなりに親しくなった彼らの口からだった。
彼ら自身が、話の中で第2研究所の存続を強く望んだ旧ゾルダムの一員。ずっとこの場所で研究を続けてきた、初代総帥の信奉者とも呼べる者たち。わずかな予算と人員で、いつか異世界へと通じる大きな成果を出して組織の方針を覆し、総帥の遺志を叶えるべく研鑽を積み続けていた。
研究員たちの尽力の結果、穴の直径を大きくしたり、その穴を維持できる時間を伸ばしたりといった改善は、ゆっくりとだが確実に進んでいった。しかし、それは彼らが望む未来のゾルジョッカーの姿に繋がるほどの大きな成果には程遠い。
穴の向こう側の調査も何度か試みられたが、全て失敗。無線調査機は穴に入ると同時に全ての信号が伝わらなくなってしまい、戻らなかった。調査機を有線に替えても映像には何も映らず、何の情報も得られないまま奥に進めていったところで、何か強い力で急に引かれてコードが引き千切られてしまった。
穴から時折出る採集物も、石やガラクタがほとんどで、他の部署の研究に大きく寄与できる物ではない。
期待ができるものが出たのは、半年ほど前に一度だけ。爬虫類のようなものとみられる未知の生物の身体の一部が採取されたのだ。生物の全身像を想定することもできないような肉片だったが、幸い腐敗などの劣化はしていなかったため、そこから抽出した因子による改造実験が行われた。
とはいえ、肉片から採取した不完全かつ未知の因子を用いた実験。怪人専用に育成されたエリートを用いることなどありえない。こうした場合に試作怪人として再改造することが可能なように、あえて戦闘員として完全調整することなく余地が残されているのが、D型の戦闘員だ。
第2研究所に所属していたD型戦闘員はただ1人。D-23こと史宏がその実験体として選ばれた。未知の因子の危険性を鑑みて、少量ずつ3回に分けての因子の投与を受けたが、結果は身体能力が2割ほど向上したのみ。やはり肉片から採取した因子では不完全で必要な要素が欠けていたか、因子がうまく史宏の身体に適合しなかったのか。戦闘員の姿から形態が変化することもなく、特殊な能力が発現することもなかった。
そのまま実験は失敗と判断され、姿の変わらなかったD-23は、引き続き戦闘員のまま第2研究所の警備の担当となった。
世間はもちろん、組織の内情からもほぼ隔離された第2研究所だったが、その頃には史宏自身ここで働くことに大きな不満はなくなっていた。
最初こそ、戦闘員の改造を受けて常人を大きく上回る身体能力を得たことに気を大きくして、その力を華々しく発揮する機会のまるでない第2研究所での生活に失望した。しかし、力を得たことによる興奮が収まってしまうと、第2研究所の任務は悪くなかった。
元々、史宏は生活のためにゾルジョッカーに属することになったようなもの。性格的には、荒事や犯罪行為めいた活動はどちらかと言えば苦手な部類に入る。中学・高校も学業はそこそこだが、運動能力は平均のやや下、所属の部活も図書部と、完全な文化系。
その点、第2研究所であれば、時々全体規模の戦闘訓練は課されはするが、施設の巡回警備が主な任務であり、血生臭さも犯罪臭もない。その警備にしても実態は、常駐の怪人もいない重要度の低さに加えて人の出入りも少ないため、形だけでむしろ人手不足の施設内の荷物搬入など力仕事の雑用係に近い。
◇
改造実験の少し後に行われた合同訓練の際に顔見知りの戦闘員に聞いた話では、ゾルジョッカーの技術の粋を集めた最高クラスの怪人が、あろうことか脱走したらしい。それによるちょっとした混乱で、合同訓練の実施も実は危ぶまれていたとか。だがそれも、第2研究所にとっては遠い話だ。
その次の訓練では、その新怪人は脱走の挙句に、正義の味方気取りで組織に反逆の牙を剥いたという話を聞いた。ゾルジョッカーのあちこちの前線基地で大きな被害を与えているそうだが、第2研究所には増員はおろか、注意を促す通達すら届いていない。
第2研究所や史宏にとっては、何の関係もないと言っていい。強いて言うなら、おかげでその時の訓練が普段よりきつく、いつもより余計に疲れるハメになったというくらいだ。
いずれはその裏切り者が粛清されたという話も、他所の戦闘員から何日も遅れて人づてに聞くことになるのだろう。史宏はそう考えていた。
説明が予定より長くなったので、分割→あえてさらに説明増量。
結果、会話ひとつないという有様に。
組織のイメージモデルは、言うまでもないですが某特撮ヒーローものです。
あくまでイメージ。好き勝手に設定しているのはご覧のとおりですが。