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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

許されざるヒーロー

作者: しづ

私にはヒーローがいる。

いや、『いた』の間違いだ。

ヒーローの名は徳重誠。

通称マコちゃん。

お隣に住んでいた男のことである。


幼い時から一緒にいた幼馴染。

幼稚園の頃の夢は『大きくなったら戦隊ヒーローになる!』そう言い切る、風呂敷マントをたなびかせて走るご近所中の笑いを勝ち取る男の子であった。

当然、正義の味方に憧れる子供なので、悪を嫌いイジメられている子を見れば後先考えず立ち向かっていった。

お隣に住む私も例にもれず、見事に守られ対象認定されたのは当然の成り行きだったのかもしれない。

他の子よりも一緒にいる時間が多く、しかも女の子の私。女の子には優しくしろと親に言われ続けた自称ヒーローもどきにしたら、私は格好の守られ対象だ。


幼稚園バスのお迎え指定場所までのわずかな距離での、犬との遭遇時の庇われて歩くときや・・・(歩きづらくて邪魔の何物でもなかったが)・・・幼稚園での理不尽な難癖もどきの喧嘩の時や・・・(文句ひとつ言わせてもらえずに、喧嘩を自称ヒーローにとられ怒りの発散が不発に終わりストレスが溜まるが)色々と自称ヒーローが私を守ってくれた。

小学校に通うようになって、小学3年生には風呂敷マントは卒業したが、相変わらず自称ヒーローごっこは続いた。

もちろん、一番の守られ対象は私だったが。


小学生になると行動範囲、人間関係の幅が幼稚園の頃よりも広がる。

もちろん、自称ヒーローの活動範囲、敵認定者も広がっていくのは当然だろう。

小学校低学年で中学生の男の子達がコンビニでたむろしていたとき、たまたまふざけてバランスを崩し私にぶつかってきた。

たまたまぶつかっただけで、相手も悪気があったわけではなかったので『わりー。大丈夫か?』の一言に対し、私も『大丈夫です。』の一言でお互い終わる場面に・・・そう、自称ヒーローは口出しをした。

コンビニに入って、お母さんから頼まれた『コンビニ払いの支払い書』とお金をレジの人に出すだけの簡単な(当時の私にしたら重大な使命な)用事を終わらせた達成感に浸っていた私を、お使いの内容を知って、後から駆け付けたであろう自称ヒーローが外で待っていた。

外に出て目があい、立ち止まってしまったためによろけた中学生に対し反応が遅れぶつかったとも言う。

それだけの出来事なのに、ヤツは目をキラリンと光らせ、中学生にくってかかった。

『本当に心から謝っていないぞ』とか『女の子は守るんだ。怪我させたらダメなんだぞ。』とか『人の迷惑考えないで、こんなところでしゃべっているな!』等々。

風呂敷マントをたなびかせたガキが口出すなである。

当事者達のやりとりは終わった。なのに、関係がない第三者がうるさいにも程があるってもんだ。

結果、自称ヒーローは中学生たちにこづかれる羽目になる。

私はそっと店内に戻り、レジの人に助けを求めた。


またあるときは、小学校からの帰り道に道がわからないと新しく引っ越してきた近所のおじいさん(息子さんと同居することになったと家にも挨拶に来た)が、たまたま顔を覚えていた私とちょうど会い、目的となるお店の場所を教えてくれと声をかけてきた。

が、これまたお約束のごとく自称ヒーローは口出してきた。

何メートル後か、私の後ろを歩いていたらしい自称ヒーローはおじいさんが声をかけてきたのを見てダッシュして私のもとに駆けつけたらしく、息をゼーハーしながらビシリと指さし『誘拐は犯罪なんだぞ。』とのたまった。

道を教え、『ありがとう。助かったよ。』とおじいさんが言い、私も『いえいえ。ではまた』と笑顔でお互いに別れようとしたところである。

訳がわからない。

その後も意味不明な、まったくこちらの言うことを聞かない自称ヒーローがわめきちらし手におえず、周りに野次馬が集まりだしてこのままだとおじいさんがあらぬ誤解をされると思い、無理やり自称ヒーローを引きずって家に帰った。

その後も自称ヒーローのしでかすことに困り、親に相談。

親から隣家にそれとなく言い、ヤツは自分の親からヒーローごっこの禁止令を受ける。

一応、親に言われて小学3年生にて風呂敷マントは卒業した。

でも、ヒーロー根性は治らなかった。


そんなこんなで自称ヒーローの後始末係としてご近所でも名をはせるまでになるが、その後もさんざん私に迷惑をかけまくり義務教育の中学を卒業。

やっと高校は別になると喜んでいたが、どこから聞きつけたのかヤツは同じ高校を受験した。

ヤツはまだ私を守っているつもりでいるが、迷惑である。

高校でも後始末係として有名になった。

青春?彼氏?・・・なにそれ状態だった。

せっかく彼氏ができても、ヤツが『悪い虫は悪だ!高校生の分際で不純異性行為はダメなんだぞ!悪人は去れ!』って言ってつきまとい、ことごとくデートの邪魔をしたため振られ、部活で運動部に入るも『女の子は大和撫子を目指せ!』と部活の邪魔をしたため退部せざる得なかった。

私が何をした!うざいし私をほっといてくれと訴えるも聞き入れてもらえず、さんざんな高校生活だった。

親にも自称ヒーローに迷惑していると訴え、大学はヤツが受からない有名大学に行くことを告げ、セキュリティーのしっかりしたところでの一人暮らしを許してもらう。

あまりにも私の人生に悪影響を及ぼしていることを親もわかっていたらしく、わりと簡単にお許しが出た。

お隣は息子の後始末をしてくれる私を重宝しているらしく、将来は嫁に来てくれと言ってくるらしい。

冗談ではない!

親もお隣はイヤだったらしく、何年も前から転勤できるように会社に訴えていたらしい。

やっと転勤の辞令が出そうだと喜んでいた。

家は売るときっぱりと言っていた。


やっと我が家族はお隣から解放されたと思ったら・・・奴が私の大学に現れる。

同じ大学に通っているわけではない。

私がこの大学にいると探し当て、大学前で待ち伏せされたのである。

『今まで俺が守ってきたのに、なぜ何も言わず消えたんだ。』とか『お前を守れるのは俺しかいない。』等々。

『一生守ってやるから大学をやめて嫁に来い!』と訳のわからないことを言ってきた。

一人暮らしのマンションにも現れるようになり、変な手紙もポストに入れられる。

気持ちが悪い。これはもうストーカーであろう。

親にも相談し、大学にも相談。警察にも相談した。

もちろん、奴の親にも迷惑しているから引取りに来いと親から電話で言ってもらうが、奴の親も嫁に来てくれと言ってくる始末。

キモチワルイ・きもちわるい・気持ち悪い!

コワイ・こわい・怖い!

そのうち携帯に電話やメールも来るようになり、内容も脅迫まがいなことを言い嫁に来いと訴えてくるようになる。

さらに、『いままで守ってきてやったのに、お前は俺の言うことを聞いておけばいいんだ!逆らうならば罰を与えるぞ。』と内容が変化していった。

これはヤバイ。

のんきに大学に行っている場合ではない。

はじめに警察に相談した時にストーカー手続きはしていて、本人にもつきまとい禁止等は警察から勧告しているし、マンションも巡回してもらっていたが、これはヤバイ。

奴が現れてから母親にマンションに来てもっていたが、父親も駆けつけ再度警察に相談することにした。

安全を優先するために、マンションに玄関横づけで来てもらうようタクシーを呼ぶ。

タクシー会社から到着したと電話をもらい、家族みんなでマンションの入り口に行く。

タクシー運転手が外に出てドアを開けて待ってくれていた。

名前を確認してくるので、みんなして注意が運転手にむいていた。

その一瞬の油断をまっていたかのように、事件が起きる。

タクシーの運転手が危ないと叫ぶ。

私の横を歩いていた母親が叫び、私にぶつかる。

父親がとっさに私を庇う。

何がおきたの!見てわかるが、わかりたくなかった。

頭が真っ白になり、どうしていいかわからなくなる。

逃げなければ殺されると思うが、震えて動くこともできない。

奴が建物の陰からナイフ持って襲いかかってきたのだ。

私たちは運転手を見ていて、奴が来るのが気づかなかったが、タクシーの運転手は私たちを見ていたから、視界の隅に奴が建物の陰からナイフ持って襲いかかってきたのが見えたので叫ぶことができたらしい。

その為、ヤツに一番近くにいた母親はとっさに逃げることができたが無傷とはいかなかった。

急所は外れていたが刺されてしまい、血を出している。

叫び声でマンションの管理人が来る。

タクシーの運転手も父親も奴を取り押さえようとするが、ナイフをめちゃくちゃに振り回すためうまくいかない。

逆に切り傷ができていく始末である。

なにこれ。こんな現実認めたくない。

地獄の光景が目に映る。

早く逃げろと父親が言う。

マンション入り口近くに立ち尽くす私を管理人が私をマンションの中に連れて行く。

そして、タクシーの運転手や親達に建物の中に避難しろと声をかけると警察に通報。

母親を助け起こしながら避難しようとするが、奴が邪魔をする。

なんでこうなるの!

赤い血が流れていく。

私の大切な人たちが傷ついていく。

何も考えられない。

助けなきゃと思う。助けたいと思う。

でも、震えるだけの足が動かない。動かないの。


どのくらいの時間がたったのだろう。とても長かった気がするし、短い時間だったかもしれない。

警察が来た。

警察官が奴を取り押さえる。

周りが騒がしくなり、誰かが何かを言った気がするがわからない。

ただわかるのは、私の動かなかった足が動くようになった。

震える足で一歩を踏み出すが、なかなか思うように動いてくれない足がもどかしく感じる。

お父さん!お母さん!

視界が涙でぬれてよく見えない。

なんでこんなことに。

救急車が到着し、母親が担架に乗せられる。

誰かが私を支えてくれるおかげで、父親と母親と一緒の救急車に乗ることができた。

救急車の中では、ただ震えるだけの私。救急隊員の呼びかけにも答えられずいるだけだった。


病院に着いて、気が付けば私は声が出なくなっていた。

事件によるショックだそうだ。

母親は急所が外れたが、以外に傷が深かったらしく一時あぶなかったが、持ち直して意識が回復した。

父親やタクシーの運転手は切り傷が多く、中には傷が深い個所もあるし検査もあり入院となる。

私も精神的ショックが強く、検査もあり入院することとなる。

夜も眠れなくなり睡眠薬を処方してもらう程になっている。

奴は殺人未遂で逮捕されたそうだ。

入院中、動ける父親と私は母親の病室にいることがほとんどで、時間が許す限り母親の病室にいた。

そんな入院生活を数日過ごしたある日、奴の親が病室に訪ねてきた。

はっきり言って顔も見たくなかったが、謝罪のために来たのだろうと入室を許可する。

でも・・・許可するべきではなかった。


第一声が謝罪ではなかった。

『何かの間違えだから息子を助けてくれ!息子は正義のヒーローに憧れるぐらい正義感が強いのに、殺人未遂なんて間違っている。』

そう訴えてきた。

逮捕された直後から報道陣が押しかけてきて困っているとも言う。

私が昔から奴の後始末係だったんだから、今度も助けてくれと言う。

お互いちょっとした行き違いでのことだし、警察沙汰になるなんて行き過ぎていると言う。

お嫁に来てくれるんでしょ?旦那さんが警察のお世話になっても良いのかとも言う。

こいつらはなんなんだろう?

何を言っているんだろう。

嫁に行くなんて言っていない。私は奴が大っ嫌いだ!

入院している私達を見て何を言っているんだ?

まず、自分たちの息子がしでかしたことに対して謝罪するのが筋だろうに。

自分たちの息子がしでかしたことなのに、自分たちで後始末もしない。

昔から他人任せの人達だった。

この親にしてこの子あり。

自分たちで育てられないなら産まなきゃいいのに。

そうしたら、私たちの家族はこんなことにはならなかった。

昔から迷惑をこうむることもなかった。

なんて人達だ。

私の父親と母親が怒りで怒鳴り帰ってくれと言うが、出て行かない。

私もこの人達に言ってやりたいことが山ほどあるが、あいにくと声が出ない。

それなのに、なぜ一言も言ってくれないんだと言う。

私たちの息子を助けると言ってくれと言う。

私達こそ言いたい。

あなた達親子から、私達親子を助けてくれと。

一生かかわらないでほしい。

本当のヒーローがいるなら救ってほしい。

この悪夢しかよこさない自称ヒーロー親子から。





















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