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星空のクリスマス

作者: タケちゃい



                (0)

 冬の、しかも夜の校舎は酷く冷える。

 私は震える膝を摩り、かじかむ手を体温で温めながら、部屋の隅でひとり、ワープロを打ち続けていた。

「なんだ、やっぱりここにいたの。もうプレゼントタイムが始まる時間だよ。そんな作業いいから、里美も早く、会場来な」

 サンタの扮装をした生徒会長の原田先輩が、生徒会室のドアから顔だけ出して言った。

「はい!すぐ行きます」

 私がそう答えると、先輩は軽く頷いて、早足に去っていった。

 今日はクリスマスイブ。体育館では本女学園生徒会主催のクリスマスパーティーが開かれている。

 でも私は、ずっとこのままここにいて、仕事を続けていようと考えていたのだ。だって、三学期に向けた作業は、まだ沢山残っているのだし。

 でも、そうもいかないようだ。先輩が、わざわざ呼びに来てくれたのだから。

 原田先輩は素敵な女性だ。

 綺麗だし、優しいし、人望もある。こんな私にすら気を使ってくれる。多分、沢山の夢を持っているのだろう。

 でも、私には夢がない。多分、夢を持つには能力が足らないのだ。

 私が出来ることなんて、ほとんどない。

 だから、ちゃんと雑用くらいはこなさないと、存在価値すら失ってしまう。


 体育館への連絡通路へ出ると、星空が見えた。日本のクリスマスに雪なんて滅多に降らない。

 そう、あの日も、こんな透き通るように澄んだ、綺麗な星空だった。

               (1)

 まだ幼かったあの頃、仲良しの三人で、お泊りのクリスマスパーティーをした。

 夜中に美紀ちゃんが、私たちを無理やり起して、こう言った。

「ねえ、サンタさんを探そうよ。今日、すごーく天気いいから、サンタさんがお空を通るの、きっと見えるよ」

 私たちは窓辺に三人並んで、じっと星空を見上げていた。私は酷く眠くて、もう、目を開けているのがやっとだった。

 でもその時、真帆ちゃんが叫んだ。

「あっ、サンタさん!サンタさんのそりだっ!」

「えっ、どこどこ!」

「ほら、あれだよ、あれ」

「あっ、ほんとだっ!」

 真帆ちゃんも、そして美紀ちゃんも、サンタを見た。星空を駆け抜けていく、サンタのそりを。

 私も、一生懸命探した。

 眠気なんて一瞬で吹っ飛んで、

 本当に真剣に、真帆ちゃんたちの指先を必死で辿った、・・・のに、


 翌朝、美紀ちゃんの家からの帰り道、真帆ちゃんが私に言った。

 何気ない調子で。

 さも、当たり前のように。

「残念だけど、夢のない人には、サンタさんは見えないんだって、・・・」

 胸に冷たい塊が突き刺さった。

 そのとき、私は泣いたかも知れない。

 でも、反論は出来なかった。

 ・・・だって、『ズボシ』だったから、

               (2)

 暗い校庭を照らして、体育館の窓が、明るく光っていた。中からは楽しげな、大勢の人の声が聞こえてくる。

 どうしてか私は、その中へ、足を踏み入れることをためらっていた。

 すると体育館脇の暗陰から、真っ赤な衣装でもくもくの白髭を湛えたサンタが、ひょこっり姿を現した。

「あっ、原田先輩」

 一瞬驚いたが、すぐに私は挨拶した。すると先輩はゆっくりと手を掲げ、そして『おいでおいで』をした。

 私は微笑んで、足早にそこへ向った。

 でも、何故か?逃げるように、スーッと、サンタは暗闇の奥に姿を消した。

 ようやく私がそこへ辿り着いたとき、周囲には、もう誰もいなかった。けれど、ふと足元に、リボンの付いた小箱が置かれていることに気づいた。


 体育館に入ると、ちょうどプレゼントタイムが終わったところだった。

 皆、わいわい言いながら、プレゼントを開けていた。

 サンタ役の原田先輩が私に近づいてきて、リボンの付いた紙袋を差し出した。私が「もう貰ってますよ」と言って笑うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。

 私も包み紙を剥がし、自分の箱を開いてみた。

「えっ?」

 ・・・・・・どういうして?

 箱の中は、からっぽだった。

 私はあまりのことに体が硬直した。

 でも、そのとき、どこからか優しい老人の声が、聞こえてきた。

「・・・・・・大丈夫。

 ・・・・・・その中は、からっぽなんかじゃないよ。

 私があげたのは、君の夢だ。

 今は確かに、目には見えないものなのかもしれない。でも、いつかきっと、君にも見えてくるよ。

 だって君の心は、いつも、いっぱいの夢で詰まっているのだから。

 ・・・・・見えなくても、いつも側で見守っているよ。

 だって私は、君達の夢のカケラだから、」


 私の手元を覗き込んだ原田先輩が叫んだ。

「だれっ!こんな悪戯したの、早く、里美ちゃんに謝んなさいよっ!」

 私は先輩に、「違う」って、言いたかった。でも、胸が熱くて、声が出なかった。


 ・・・もう、涙が溢れ出てきて、止まらなかった。




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