9th-night hunter
時間は夜。もちろんゲームの中での話だ。フィールドに出ているプレイヤーはごく少数で、それも次々といなくなる。
夜はモンスターが強くなり、また視界も悪くなって狩りがしづらくなるのだから、当然とも言えるが。
逆に言えば、
夜のデメリットを回避できれば、夜のフィールドはほぼ貸切だ。
「はっ!」「ヴァゥ!?」
夜の暗さとひしめく木の陰で、一臣希梗‐キキョウは剣を振るっていた。彼女の目前には、巨大な熊。
見ただけで難敵とわかる相手な上、この暗さだ。普通ならば戦闘を諦めて街へ戻るだろう。
が、キキョウの目は【鷹目】によって暗さをなんともせずにはっきりと見えていた。
【鷹目】。
魔法や投擲などの遠距離攻撃の範囲を拡大したり、精度を上げたりできるスキルだが、それらの効果は微々たるもの。一番の使い道は、『暗がりでの暗視効果』だ。
「…こんなモンスター、昼間はいなかった…っ!」
キキョウは呟く。もちろん意識は大熊に向けたままだ。
彼女が向かったのは〈南の森〉。昼間は非好戦的mobの《ジンメンジュ》と、素早いが攻撃の軽い《ハザル》が出現する。今まで、この熊にこの森で遭遇したという情報はなかったはずだ。
「ガウッ!」
大熊は腕を大きく回す。キキョウは身をひねりながらそれを躱し、無防備になった熊の腹に斬撃を浴びせる。
しかし、それに熊は全く怯まない。伸ばした腕を彼女を抱え込むように、勢いよくキキョウを背中から殴りつけた。
「かっ…!」
キキョウは肺から一気に空気が抜けた感覚に襲われ、意識を失いそうになるが、ギリギリで踏みとどまり追撃を避けるためにバックステップで大熊と距離を取る。HPは既に2割もない。
「ホント…バカみたいに強いね。」
大熊を強く睨みつけながら呟く。
「でも…」
キキョウは大剣を前に構える。それは赤く輝いていた。
【火事場の馬鹿力】―体力が二割未満の時、その戦闘中に一度だけSTR値を2.5倍まで押し上げるレアスキル。
「こんなところで、立ち止まってはいられないんだ!!」
叫びながら、剣道の面打ちのように大剣を上段の構えから真下に振り下ろす。ただそれだけの単純な一撃。されど、《大剣使い》として高めてきたSTRが、【火事場の馬鹿力】で更に上乗せされ、爆発的な威力と凄まじい剣速を生む。
その攻撃は、大熊を倒すのには十分だった。
「グオォォォゥ…」
派手な呻き声と共に、アドベアーは地に倒れ伏して消えた。キキョウの目の前に、ドロップアイテムウィンドウが現れる。
――――――――――
ドンベアーの毛皮*3
ドンベアーの爪*5
ドンベアーの牙*2
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「《ドンベアー》か…。たしかに首領ぽかったなー」
思わず苦笑する。
「レベルも…うん、随分追いついたね。二次職まであと2つか…。よし、あとちょっと頑張ろう!」
そう自身を鼓舞し、再び夜のフィールドに繰り出す。
次の日、正式サービス開始後最初の《剛剣士》が誕生した。
すこし短いですがキリがいいので…
タイトルの「ナイトハンター」は訳すと「夜を狩る者」みたいになりますがイメージとしては「夜の狩人」です。正確に書くと『hunter of the night』ですかね?
3/10追記:前話に明日明後日と投稿すると言いましたが、どうも今日は時間が取れず、投稿できませんでした…明日には上げられるかと思います。