6th-United front-
United front=共闘
リースの戦闘は、言ってしまえば《盗賊》としてオーソドックス、基本に忠実なものだった。
高いAGIで敵に接近し、連続攻撃を加える。反撃されそうになれば距離をとる。いわゆるヒットアンドアウェイ戦法で並み居るカーネを翻弄していた。
対してトウガンは、基本的にリースのサポートに徹していた。
戦闘中に、隙を見ては罠を設置したり、リースに死角から接近するカーネに【呪符・麻痺】の符を飛ばしたり…といった調子だ。
「しかし如何せん火力がな…まぁ二人とも火力メインじゃないから仕方ないんだが…」
トウガンは迫ってきたカーネを切り払いながら呟く。
その時、
「あ、」
とトウガンは戦況に相応しからぬ頓狂な声を上げた。
そしてリースに呼びかける。
「おーい、リース!ちょっとここを持ちこたえてくれないか!?」
「はぁ!?ちょっと何言ってんの!」
「頼む、1分くらいでいい!」
「1分って…あーもうっ!ワタシはタンクでもなんでもないんだから、突破されても文句言わないでよね!」
そう投げやりに返した後、トウガンとカーネの群れの間に入るように移動し、武器を構える。
視界に入るだけで5匹。専門職でない者が同時に相手をするのは厳しい数だ。
「…やってやろうじゃないの!」
リースは、闘志剥き出しの目をカーネの群れに向けた。
「よし、【符生成】。対象は【与符・剛力】を2枚」
トウガンの言葉に反応し、彼の手元には一枚の札と如何にも、といった感じの筆が現れる。
符生成。《陰陽師》におけるアイデンティティ、「符」を作成するスキル。同時に出現する札には淡い光で模様が浮かび上がっていて、この通りに筆でなぞるようだ。
【与符・剛力】は初期スキルということもあり、かなり簡単な模様が浮かび上がっていた。
筆を走らせると、僅かづつMPが消費されている、文字に魔力が流れ込んでいくのが、トウガンは分かった。
「よし…!」
何とか2枚とも成功し、トウガンは集中を解く。同時に周囲のカーネへの警戒を強めた。
リースの支えていた前衛は、あと少しで崩れそうなところまで来ていた。
「……っ!!も、もう…」
リースが現在同時に相手取っているのはカーネ7体。不慣れな防衛戦でこれまで耐え抜いてきたのは高いプレイヤースキルを表しているようだ。
「リース受け取れ!【与符・剛力】」
トウガンの言葉とともに出現した、先ほど作られたばかりの符を、戦っているリースに投げつける。
一瞬後にリースに命中、同時に薄い赤のオーラが立ち上った。
「…って、え?」
当然、リース本人の感覚にも変化が現れた。手応えでも与ダメージが増えたのがわかるらしい。
リースが一気に攻勢に転じたのをみたトウガンは、自分の胸に【与符・剛力】を押し当てる。
すると、さっきと同様に薄い赤のオーラがトウガンを包む。
そして、群がり始めたカーネに向けて、払いの斬撃を放つ。その払いは3匹を巻き込み、その全てを弾き飛ばした。
その後も、今までのもどかしさが嘘のように敵を切り倒していった。
「…ははっ、こりゃ凄いな。手応えがまるで違う」
漏らしたつぶやきにも気づかないほど、トウガンは戦闘にのめり込んだ。剣を振るい、次々と切りつけていく。
そして、
『パキン』
「ん?」
トウガンは音の原因がわからなかった。
しかし、再び剣を振るおうとした時、その剣が真っ二つに折れていることに気が付いた。
そして、ようやく音の原因が自分の剣であることに思い至ったのだ。
そんなことを考えているあいだに、剣はその全身を黄色い光に変え、姿を消した。
「トウガン!?」
リースの叫び声に近い呼びかけに、ハッと意識を戻した時には、トウガンの目の前には相変わらず敵意むき出しのカーネの群れがいた。数はざっと15匹前後だろうか。
「…こりゃあ、流石に、むりだろ…」
トウガンは、引き攣った笑いを浮かべたまま、圧倒的な物量に押しつぶされ、HPを0にし姿を無数のポリゴンに変えた。
✽ ✽ ✽
「いやぁ、そういや【宝剣】って武器の耐久も下げるんだったっけか…忘れてた」
初の『死に戻り』を経験したトウガンは、〈始まりの街〉の東の外れ、〈石碑〉の前にいた。
2分程度、何をするでもなく佇んでいると、ほぼ同じような場所に黄色い光が集まり、1人の人間の形に形成された。
それは、トウガンと共に戦った少女―リースだった。
「痛っつつ…散々だったわ」
「悪い、ジョブの特徴を把握しきれてなかった」
「まぁあれだけ沢山のmobを相手にしてたんだから、遅かれ早かれだったと思う。むしろ十分レベル上がったから良かったと思うけど…どう?」
そう言われ、トウガンはステータスウィンドウを開く。
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トウガン Lv.10 /female
STR:11(-32)
INT:43
VIT:32
MEN30
AGI:44
DEX:49
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「…何かレベル10まで上がってるな」
「ま、そんなもんでしょうね。…空の具合からみて、ゲーム内時間は16時前後ってとこかしら。どうする、今日はもうやめておく?」
「そうだな。…今日はありがとな」
「ワタシもレベル随分上がったし、お互い様よ。…どう、ついでにフレンド交換でもしておく?」
「ん、よろしく」
「でもあの辺り湧き方が異常だったなぁ…経験値稼ぎにはいいけど、何かありそうね」
フレンド交換の手順を終えたあと、リースはそう呟いた。
「何か、か…。もしかしてボスとか?」
「かもしれないけど…フィールドの雑魚mobに手間取ってるようじゃまだまだね。もっと鍛えないと!じゃあ、今日はお疲れ」
言うやいなやリースは駆け出し、すぐにトウガンの視界から消えた。流石、《盗賊》の身のこなしか。
「じゃ、俺は実験漬けと行きますか。……と言いたいけど、まだアイテムがなぁ。」
ずっとカーネを狩り続けてきたトウガンは、カーネ関連の素材は数多いが、それ以外のモノは持っていないっても過言ではない。
そんな時、トウガンは二畳分くらいの赤い絨毯を見つけた。
「…露店?」
位置的に全貌が見えるわけではないが、大きな箱が乱雑に積み重なっていて、不思議な道具の影も見える。
その絨毯の中央に座る青年は、トウガンを視界に捉えた。
「ん?そこの嬢ちゃん、ココ見てくかい?」
「…一応確認するけど、露店ってことでいいんだよな?」
「はは、見てわかんないかい?ま、この時期に露店構えてる人間なんてそういないのはわかってるけどね」
ニヤ、と意地悪げに笑う。ともすれば人を不快にしかねない表情だが、語りの雰囲気でそれをうまい具合に中和させる。
「では改めて。《ヒグマ総合取扱店石碑前支店》へようこそ!」
芝居がかった、薄い笑いを浮かべながらその店主―ヒグマは声を上げた。
追記:
1/24 不自然な表現、ストーリー上の矛盾を修正
9/21 登場人物の名前の矛盾を修正