5th-Encount-
タイトルのEncountはモンスターとの遭遇、ではなく単純に「出会い」という意味です。
安全地帯を出たトウガンは、再びカーネに遭遇した。先程との違いといえば、数が3倍なことくらいか。
「先手必勝っ!」
トウガンは勢いよく駆け出し、先頭のカーネに一閃を浴びせる。攻撃を受けたカーネはひるんだが、ほかの2匹が突撃しようと身構える。
「させるかよ、【呪符・麻痺】!」
トウガンの発したスキル名に反応し、彼の手元にいかにも、といった形の札が現れる。
「はっ!」
右で身構えるカーネに向けて投げると、システムのサポートにより現実では考えられないほど直線的に札が飛んでいき、数瞬後に命中した。
「キャゥ!?」
バチッ、と音がして、カーネの全身がビクリと震える。軽い《スタン》状態だ。
それにより生まれた隙に、トウガンはバックステップで数歩分距離を取る。そして突撃してきたカーネに向けて冷静にそれを切りつけて確実にダメージを稼ぐ。
「麻痺自体はホント短いが…攻撃の予備動作をキャンセルできるのは大きいな…っと!」
3匹の連続攻撃が加わるが、それを紙一重で躱し続ける。
1匹の攻撃なら、避けるのは造作もない。
2匹の攻撃は、1匹を麻痺にしもう片方を回避、3匹同時の時は剣で攻撃をいなして別の1匹にぶつける。
「3匹くらいなら、慣れれば流れ作業だな」
トウガンは独り言を漏らす。その間に1匹のHPがなくなり、青いポリゴンになって消える。他の2匹が消えるのにも、それほど時間がかからなかった。
「…アシストで勝手に飛んでいくのはいいんだが、麻痺が短すぎるんだよな…。ヘイトも溜まるから不意打ちにも向かないし。」
ドロップアイテムウィンドウを確認しながら、呟いた。
「お、レベルも上がったみたいだな。これでLv.7・・・あいつらはどれくらいレベル上げてんだろ・・・?」
『【術符・灯】を獲得しました』
『【与符・堅守】を獲得しました』
✽ ✽ ✽
「さて、いくつか実験してみますか。」
戦闘の中で、持ち前の悪知恵を働かせたトウガンは、それが実現できるかを試そうと思った。
「まず一つ目。」
"符を罠のように設置できるか"
まずトウガンが思ったのはそれだった。先に準備する必要があるものの、戦っている最中にコンマ数秒の麻痺のために取り出すよりは効率がいいのではないか、ということだ。
「ここら辺でいいか。・・・【呪符・麻痺】」
手元に現れた符を足元に置く。すると、小さく魔法陣のようなものが符を中心に描かれ、やがて消えた。同時に符も姿を消し、代わりに赤いポイントが見える。
「思いっきりシステムに承認されてるっぽいな。なら、有効活用させてもらうとしますか。」
「・・・で、こういう時に何で敵が出てこないかな・・・?」
相当数のプレイヤーがこのフィールドで狩りをしているのだろう。全くカーネがPOPしない。
「せっかく設置したのにな・・・。ま、勿体無いがレベル上げも急がないとだし、別のところでも探すか。」
トウガンが罠に背をむけ、その場を離れようとした時、
「きゃっ!?」
小さな悲鳴。反射的に振り返ったトウガンの目の前にいたのは、うつ伏せで倒れる少女だった。
茶髪を肩甲骨くらいまで伸ばし、黒めの迷彩柄のコートを着ている。手に持つナイフは淡く光っていたが、すぐに消えてしまった。
「・・・大丈夫か?」
トウガンは控えめに声をかける。状況から見て、罠にかかったと考えるのが妥当だし、その罠を仕掛けた当人であるトウガンとしては、後ろめたさを感じたからだ。
とはいえ所詮最弱クラスの麻痺だし、ダメージは入っていないだろう。それを示すように少女はピクリと体を震わせ、むくりと起き上がった。
「痛っつつ・・・」
「悪い、狩りのために仕掛けた罠が動いたみたいだ」
「なんだ、罠かぁ・・・って罠!?てことはアンタ《罠師》なの!?」
目を大きく見開き、トウガンに詰め寄る。
「《罠師》って言ったら《盗賊》の二次職でしょ?もしかして、もう二次職まで進めたの?」
「・・・違うぞ?」
「いやでも今自分で罠仕掛けたって言ったじゃない」
「・・・《陰陽師》で符を地面に仕掛けただけなんだけどな」
そのトウガンの言葉に、少女は若干呆れ顔をしながら答える。
「・・・多分、βプレイヤーでもいないわよ?そんなことしたの。初期スキルだからこれくらいで済んだけど・・・【招来符】を仕掛けて、それを踏んだらリンチとかシャレにならないわ」
「そうなのか・・・?ま、《陰陽師》自体がマイナージョブなのも原因だろうし、すぐ誰かが見つけるだろ」
「・・・アンタのその口調って、ロールプレイか何か?確かに声もアバターもボーイッシュで合ってるからいいけど」
その少女の言葉にトウガンはハッとした。
「・・・しまった、アバターが女性なこと忘れてた」
「何か言った?」
「いや、なんでもない。・・・・・・まぁ、そんなもんだと思ってくれ」
少女は訝しげな目を向ける。
「ふーん・・・ま、いいわ。・・・ねぇ、このあと、一緒に狩りしない?アンタも相当レベルは高そうだけど、私も一応《盗賊》のLv.7だから足手まといにはならないわ」
「即興パーティか。いいぜ、面白そうだし。俺はトウガン、よろしく」
「決まりね。私はリース、よろしくね」
少女―リースは屈託のない笑みを浮かべた。
「じゃあもっと奥の方に行きましょう。ここよりは遥かに沸きがいいし、いい経験値稼ぎになるわ。」
「ならそうするか。…共闘ってのは初めてだから、お手柔らかに頼むよ」
トウガンはそれに苦笑で返した。
追記(1/20)本日次話を投稿しようとしていたのですが、投稿目前で痛恨の操作ミス…
内容が全飛び、おまけにデータ上でのバックアップなしという心折られる展開となったので、今日の投稿はできません。
お気に入り登録100件オーバーのお礼をその時したかったのですが…この場を借りて。
ありがとうございます。今後もお楽しみいただける話作りをしていきたいと思います。よろしくお願いします。