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World_Connection_Online  作者: 銭子
4章―TURNING―
42/44

41st-turning

遅くなり申し訳ありませんでしたァァ!(n回目)

「さて、そろそろ行こーか」


 アルトリアはニッと笑って立ち上がった。トウガンとしては彼女がシーロンを倒した時に何をしていたのかなど聞きたいことはまだあったのだが、どうにも話してもらえそうにないだろうことを悟って尋ねるのを諦めた。

 よって「そうだな」と軽く相槌を打って立ち上がる。向かう先は当初の予定通り森の奥の研究所である。


「ま、PK共さえいなけりゃ敵なんていないんだけどなぁ」

「それはそうかもしれないけど。私も研究所の中は気になるし、最後まで付き合わせてもらおーか」

「そりゃもうお願いします……。ホッとした帰り道に襲われたらもうトラウマもんだぜ」


ゲンナリしたように話すトウガンに、アルトリアは可笑しそうに微笑んだ。


「多分、私といれば襲われることはないと思うけど。シーロンはかなり頭にキてるはずだけど、対策もせずにまた襲いかかるほど頭が悪い訳じゃないし」

「あ、そうだな。てか、やっぱりシーロンが《PK》共のリーダーってことなのか?」

「んー……なんとも言えないよーな気がするし。このゲームのPKは旨みも少ないから、アイツがわざわざやる意味も分からないけど。……ただ、ホントにアイツがPKと手を組んでるなら、けっこーマズいかもね。組織的なPKってだけでも厄介なのに、アイツが纏めてるとなるとそう手も出せないし……」

「それだけ強いってことか……」

「元最強は、伊達じゃないし」

「現最強サマが言うと、含蓄あるな」

「茶化さないでほしいし」


 などと言葉を交わしているうちに、研究所の白亜の壁が目前に迫った。


「ここか……」

「もう少し進んだところに入口がある。そこを塞ぐように研究者みたいな老人がいるんだけど、そこで門前払いされたみたいだし」

「なるほどな……。ま、俺も門前払いされないように祈ってるよ」

「そーだね。もしトウガンがダメなよーなら、一旦諦める他ないし」


そう言って、アルトリアは大きく肩を竦めた。と同時に、件の老人も姿を現した。


白衣の老人と聞いて、時折トウガンの元を訪れていた元の研究所の主のことかと思っていたトウガンだったが、その予想は裏切られた。胸元にまで届くほどの豊かな白髭に、ピンと尖った耳。それに、鼻眼鏡を掛けた厳格そうな姿。

どれもトウガンの記憶にある科学者の老人とは異なっている。むしろその姿は、お伽話で見るある種族を彷彿とさせた。


「……エルフ?」


思わず口に出たトウガンの言葉に、アルトリアが小声で応じる。

「まぁ、そう見るのが妥当かもしれないけど。確証はまだ得られないし」

「……だな。じゃ、行くか」


言葉とともに、2人は老人の前に姿を見せた。それを視界に捉えた老人の眉がピクリと動く。


「何者だ」


低く、震えるような声。トウガンはその声が他のNPCよりも遥かに人間に近い抑揚をしていると気づいた。不思議に思いながらも、彼女は本来の要件を口にする。


「この中に入りたい」

「何の為に」


即座の応答。


「科学者としての自分を高めるヒントが、此処にあると感じた」

「……成る程」


納得したとも取れる返事。同時に、老人はその眼光鋭い目でトウガンの全身を無遠慮に、舐めるように見た。彼女はゾワッと得体の知れない不快感を感じたがそれも一瞬。

老人は何度かしきりに頷いた後、トウガンたちから背を向けた。


「ここに入る資格を有する者として認める。後に付いてくるがいい」


その言葉にトウガンとアルトリアは喜色を浮かべてハイタッチした。そして2人勇んで建物に入ろうとした時、


「……お前に入っていいと、誰が言った」


 前方から不機嫌そうな声がした。声の主は老人、視線はアルトリアを射抜いていた。


「付き添いだけど、ダメかな?」

「ダメだ。科学者として認めたのはこいつだけだ」

「……だそうだ、アルトリア」

「……仕方ないね、外で待ってるし。なるべく早く済ませてほしーな」


 アルトリアは困ったような笑顔で手を振って、トウガンと老人を見送る。老人はそれを一瞥すると、トウガンに先に進むよう無言で促した。



 取り残されたのは、アルトリア独り。渋々といった調子で見送ったものの、建物の中に入っていくトウガンを最後までもの惜しげに見送っていた。


 しかし、開き放たれたドアに消えていくトウガンの後ろ姿に、言い知れない違和感を感じた。装備も何も変わっていない。背丈も、体格も別段変化は見られない。だが、何かが違う。既にドアを潜ったことで別のフィールドに移され、姿の見えなくなったトウガンの後ろ姿を、脳裏で何度も反芻した。


 そして、なんとなく口をついて出た言葉。



「 ――――男?」




✽     ✽     ✽



(表情や会話パターンが豊富だな……。明らかに上級なAIで動いてる)


 老人に先導されながら、トウガンはそんなことを考えていた。トウガンが最初に出会った研究者の老人とは、受け答えに雲泥の差がある。

 ゲームの運営が情報をひた隠しにしようとしたからには、何かしらの理由があるはずである。その片鱗が、この上級AIにあるような気がした。


(しかし……広いな、この家は。外から見た限りじゃこんだけあったようには見えなかったが)


 トウガンの目に映るのは、延々と続く長い通路。壁には幾何学的な紋様があり、等間隔でトーチが壁について通路を照らしている。科学者の屋敷というには、あまり近代感が無い。むしろ錬金術師の屋敷と言われても納得してしまいそうな雰囲気だった。


 唐突に、扉が現れた。

 

 通路は、まだずっと続いているように思えたにも関わらず、気が付いた時にはその扉はトウガンの目の前にあった。先導する老人が足を止めなければ彼女は間違いなく扉に激突していただろう。


 その老人はというと、扉の前で跪いて臣下の礼を取っていた。


「――主様、客人を連れて参りました」

「――――、――――?」

「ええ。魔導の力には既に気づいている様子。ヒト族には珍しいことである故、主様の元へ連れて参ろうと考えた次第」

「……――――」

「有難き幸せ」


 老人が主様と呼ぶ相手の声は、トウガンの耳には届かなかった。いや、というよりも意味が理解できなかったというのが正しいか。まるで初めて聞く言語のように、まったく彼女には聞き取れなかった。

 扉の向こうの言葉が切れた後、老人は扉に向けて深々と礼をしてトウガンに向き直った。


「……赦しが出た。ワシが先導できるのはここまで。ここより先はヒト族のお主にとっては本来立ち入ることの許されぬ場所じゃ。……お主の科学への飽くなき探求心と、ヒト族の身にて魔導の神髄に近づいたその才覚を、主様がお認めになられたのだ」

「……主様ってのは?」

「我らが族長にして、科学を極めたる者。矮小なヒト族ごとき、小指一本で塵一つ残さず消し去ることもできるほどの力の持ち主じゃ。……その才能、粗相をして無駄にするような真似だけはするなよ」

「わ、分かった。……あともう一つだけ」

「なんじゃ?」

「この先にあるのは……何処だ?」

「……我らエルフ族の隠れ里。呼び名など無い。かつてヒト族によって我らの仲間が捕えられ、奴隷として売られたり殺されたりしておった頃に、世界中にいたエルフを皆ここに纏めて隠れた。……じゃから、ヒト族がここを訪ねるなど、里の歴史を見てもお主で2,3人目じゃ」


 そういう設定なのだろう、とトウガンは頭の中で冷静に考えた。しかし、老人の情緒豊かな語りに、思わず本当にそんな出来事があったのだとも考えさせられた。結果、彼女はかつてのヒト族の所業に憤り、エルフ族の境遇に同情した。

 一方で、冒険魂に火をつけられ、未開の地への憧れも、彼女の心の大きなウェイトを占めていた。


(いい展開だ。楽しくなってきた……!)


 エルフ族の登場に、歴史的なバックグラウンド。トウガンはゲームのストーリーに一気に引き込まれていくのを感じた。好奇心にはやる気持ちを抑え、老人の次の言葉を待った。


「……だが、心配もある」

「……?」

「先に話した通り、エルフ族のヒト族への恨みは根深い。エルフは長寿である故、当時から生きている者も多くはないが確かにいる。才能あるお主も、あくまでヒト族じゃ。主様は解ってくださったが、他の者はどう反応するか分からぬ。どうしたものか……」


 リスポーンするから平気だよ、とはとても言えない雰囲気である。トウガンとしては困った笑みを浮かべるしかない。


「そうじゃ、このフードを被れい」


 そう言って老人が差し出したのは、生地の薄いパーカーのような上掛け。直後システムメッセージで『[エルフ族のフード]を入手しました』と表示された。


「これを着てフードを被っている限り、お主がヒト族だと思われることは無いじゃろう。主様の屋敷につくまでは、絶対に外すな」

「……分かった」


 老人の神妙な雰囲気に呑まれ、緊張に喉を鳴らしながら応えた。



「では扉を開く。行ってくるがいい」

「……」


 ギィ、と音を立てながら、扉が開く。その隙間からは徐々に光が差し込みだし、しばらく後には通路一面がトーチが不要なほど明るく照らされていた。扉の先は、完全に光に呑まれて真っ白だった。


「……」


 一歩、また一歩と、扉に近づく。じとっ、と冷や汗がトウガンの首筋を流れる。手は既に汗が止まらない。

 高揚、期待、不安。様々な思いが彼女の中を駆け巡り、うまく纏まってくれない。


 ついに、扉の目の前に立つ。


「……っ!」


 一歩。

 確かに光に足を踏み入れた。



 だが、待ち受けるのは予想外の結末だった




ポーン、と甲高い音。



『エラーコード#4021

 予期せぬエラーが発生しました。身体への影響を防ぐ為、強制ログアウトします』





 一瞬。


 目の前に広がるはずの幻想的な光景も、今まで歩き続けてきた長い通路も、隣で真剣な表情で語りかけていた老人も、すべてが真っ白に溶けた。

 それはVR空間にダイブしたならば確実に一度は入る、何もない白い空間。壁も床も天井もない、色彩の明暗も陰陽ない、ただひたすらな白。



『身体への影響を防ぐ為、強制ログアウトしました。VRからダイブアウトし、一定期間ダイブインしないことを推奨します』



響くのは無機質な電子音声。




「――――なんだこれ?」

どうもお久しぶりです。まだ読んで下さるひとがいてくれたらうれしいのですが……


今回更新が遅くなったのは(今回に限らず毎度遅いのですが)、一度完成した内容を大きく書き改めたからなんですね。エタるつもりは当分ないのですが、どうにも話の続きが捻り出せずにいます……。なので次話以降も順調なペースとは言えない更新になるかと思いますが、よろしくお願いします。

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