38th‐bodyguard
次の投稿は3~4日後と言ったな?あれは嘘だ
……一度言ってみたかった。
えー、本当のところ言いますと、実はその3,4日後は割と忙しくて投稿が難しそうだったので、ストックがそれなりにあることもあり前倒しで投稿することにしました
荒い息も落ち着いてきた頃、トウガンは冷静になって考える。
(十中八九、PK共の狙いは俺の[ミスリル]だろうな。[活力水]が《科学者》の専売特許でなくなったことはもう周知なんだし、俺を狙ってまで手に入れるモンじゃない。一応[火薬]はまだ他のジョブで作れたって話は聞かないが、アレもヒグマの店に卸してる上に、襲ってまで手に入れる価値があるかと言えば微妙だ)
デスドロップに、[ミスリル]は無かった。それもそのはず、ミスリルは自宅兼研究所の家に仕舞ってある。既に加工する予定はできているのだが、その前に魔導回路の設計をしなければいけない為、現状は倉庫の肥やしだ。
デスドロップしたのは[鉄の剣]ひと振り。トウガンは《陰陽師》というジョブの特性上、武器の消費が激しいので、予備の剣がアイテムスロットの多くを占めているので、相対的にドロップする確率が高いのだ。
よって、金銭的な意味ではダメージはごく小さいものだった。
だが、問題はそこではない。
問題となるのは、『なぜPKたちが、トウガンが[ミスリル]の開発に成功したことを知っているのか』ということだ。
ミスリルはトウガンの所持アイテムの中でも飛び抜けて価値の高いアイテムである。大量生産する体制が整っているのなら兎も角、現状では彼女は情報を広めるつもりは無かった。つまり、[ミスリル]の存在を知っているプレイヤーは、ごく限られているのだ。
(俺が[ミスリル]を見せたのはヒグマとイスルだけ。話をしたのはシエルとスクード、あとはキキョウくらいか。どれも、PKに情報をリークするような奴だとは思えない)
ヒグマとイスルに関しては店舗での会話だったこともあり、トウガンも他の客の存在には気を使っていた。イスルの店では確かに客がいたが、ミスリルの話をする際には声のトーンを落として気付かれないようにしていたし、ヒグマの店に至ってはプレイヤーは誰も居なかったはずだ。
(とすると、この5人のうち誰かが、PKに通じている……?)
その可能性は、低いだろうと彼女は信じていた。だが、あくまでそれは信頼であって根拠があるわけではない。そして、それ以外の可能性を模索しても、今の混乱した彼女の頭には良案は浮かんでこなかった。
(――――どうすりゃいいんだまったく!!)
まばらに歩く他のプレイヤーに白い目で見られるのも気にせず、トウガンは往来で派手に頭を抱えた。
✽ ✽ ✽
「僕がPKに?ハハ、トウガンちゃんがそんな冗談を言うようになったとはねぇ」
「冗談でもそんなタチの悪ぃコト言わねぇよ」
ケラケラと笑うヒグマを尻目に、ゲンナリと応じるトウガン。
結局直接問い詰めることにした。彼女は回りくどいことが苦手なのだ。
「……なにか、あったのかい?」
すぅっと目を細めたヒグマに、トウガンは訥々と今回の件を語った。彼が目を細めるのは、真剣に話を聞く合図なのだと、トウガンは漸く気がついた。しかし、商売に絡むこと以外で彼の目が細まったのを初めて見たのも事実である。
一通り話し終えたあと、ヒグマはふむ、と腕を組んで考える素振りを見せた。
「……なるほど、それで僕に容疑が向いたわけだ」
「いや、俺は信じてるんだぜ?ただ状況が状況なだけになぁ…」
「まぁその方向性は間違ってないと思うけどね。……トウガンちゃんが考えついてない可能性が、まだあるって言ったら聞く?」
「何?」
その言葉に、トウガンは疑問と期待の入り混じったような目を向けた。
だが、続くヒグマの言葉は、一見見当違いなものだった。
「僕って自慢じゃないけど、戦闘の腕はからきしなんだよね。VRでの戦闘センスがないってのもあるけど、そもそも戦闘向けのスキルを持ってないから、そりゃ戦えなくて当然ってことなんだけど」
「……それ、関係ある?」
「それでさ、トウガンちゃんもPKたちから奇襲をモロに受けたってことは、索敵スキルなんて持ってないんじゃない?」
「……あ」
ついにトウガンも思い当たった。
「普通の客なら見逃すなんてことまず無いけどさ、隠蔽スキルか何かで姿を隠してる客なんて、見つからなくて当然だと思うんだよね」
「……最初っから盗み聞き目的で潜んでたってことかよ」
「可能性は高いね。シエルちゃんやキキョウちゃんに疑いを向けるより余程ね」
ニヤっと笑ってヒグマはそう締めくくった。合わせてトウガンも困ったように笑う。
「……そうだな。いや、疑って悪かった」
「いやいや、トウガンちゃんに信じたいって言われたのは嬉しかったよ。状況的には疑われても無理はないし。……でもアレだね。犯人が身内じゃないと分かっただけで、根本的にPKの問題が解決したわけじゃないんだよね」
「まぁ……そうだよな。悔しいけど実力的にもあいつらは強い。というか、対人戦に手慣れすぎてる。南の森エリアにはまだ用事があるんだが……行けたもんじゃないな」
腕を組んでうーん、と唸るトウガン。それにクスリと笑ったヒグマは、突然手をポンと打ち鳴らした。
「じゃあこうしよう。僕が用心棒を斡旋してあげる」
「……用心棒?」
「そう。戦闘でPK連中に遅れをとるのが怖いのなら、強い味方を連れていけばいいんだよ。視野が広がって奇襲を受ける可能性も下がるし、単純に手数が増えればいろんなことに対応できるしさ」
名案とばかりに身振り手振りでアピールするヒグマ。それでもトウガンの気持ちは晴れない。
「そりゃ確かにいいことは多いけどさ……。そもそも、そんな用心棒がポンポンと雇えるもんか?自分で言うのもなんだけど、俺それなりに強いぞ?それでもPK共には勝てなかったんだし、半端な実力だと的が増えるだけなんじゃ……」
「心配ご無用!前も言ったじゃない?『商人は人脈と信頼が命だ』ってね。リアル時間で明日の夕方までには用意できるよ」
「そんなに言うなら……。しかし、そんな事言ってたっけ?」
「細かいことは気にしない方がモテるよ?」
「余計なお世話だ」
ヒグマの言葉を適当にあしらいながら、トウガンはその『用心棒』とやらに思いを巡らせていた。
✽ ✽ ✽
翌日。
ログインしたところヒグマからメッセージが届いていたため、そこで指定された場所に行くと、2人の人影が見えた。
一人は当然ヒグマ。もう一人は――――
「ア、アルトリア!?」
「やーやー。久しぶりだし、トウガン」
以前見た時と変わらないような―――いや、よく見れば前より更にゴテゴテとした装飾が増えているが――鎧を身にまとう、金髪の女戦士の姿。
不動の最強プレイヤー、アルトリアであった。彼女が微笑を浮かべながらトウガンに小さく手を振っている。
「どうしてお前がこんなとこにいるんだ?」
「そりゃー、ヒグマに頼まれたからね」
「何を?」
「用心棒」
「……」
絶句である。
それも束の間、グルッと首をヒグマに向けた。そしてガシッと肩を掴む。
「……なぜアルトリアなんだ?」
「え、トウガンちゃんより強いし、顔見知り。これ以上にいい物件は無いと思うけどなぁ」
「条件だけ見ればな!アレは連れてきちゃダメだろ!」
「なんでさ?」
「ギルマス様だぞ!絶対忙しいだろあの人!」
チラッとアルトリアの方を見ると、金髪を揺らしながら小首を傾げていた。
「あー、『KoRT』の心配してるなら大丈夫だし。ギルド運営はトリスに大概任せてるし、私はレベルアップのノルマもとっくにクリアしてるからねー。ボス攻略の時くらいしかすることなくて、暇なんだし」
「……だ、そうだよ?」
ニヤリと笑いながらヒグマはトウガンに向き直った。
もはや逃げ道は無かった。
「……じゃあ、お願いします」
「よしきた♪」
何故か最高潮にノリノリなアルトリアに、トウガンは若干引いていた。




