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World_Connection_Online  作者: 銭子
3章‐DEVELOPING
37/44

36th-enchant

「いらっしゃいませ…っと、久しぶりですねトウガンさん」


耳障りのいい、優しげな声。

鍛冶師イスルの声だった。


つまり、トウガンは今依頼のためイスルの鍛冶場を訪れていた。とはいえ、既に以前の共同鍛冶場ではなく〈王都〉の土地の一部を買い取った個人用の火事場兼武器屋である。

今は武器屋の休憩室のようなところで話している。


「ああ。ちょっと依頼があってな……」

続く言葉を発する前に、イスルは即座に反応した。

「絶対ヤですよ、また厄介なのは」


「いや今回は違うよ!普通に剣を打って欲しいだけだよ!」


どうやら前回の硫黄生成機への恨みは根強いようである。とはいえ声の調子は相変わらず柔らかなままなのでセリフだけなのかもしれないが。


トウガンのために弁明するなら、イスルが勝手に根性を出して、勝手に五日五晩(ゲーム内)働き詰め、勝手にその疲労で倒れただけである。トウガンはそこまで急げとは頼んでいないし、そもそもそんな事をしでかすとは思ってもいなかった。

ただし無事完成させたイスルには頭が上がらないので、文句の一つも言えないでいるというのが現状だ。



「あ、なるほどそうですか。じゃあ出来合いのものを購入しますか?それとも素材持ち込みで今打ちましょうか?」

「コイツ打ってくれ」


そう言って差し出したのは[妖力銅]。インゴットの見た目としては銅と変わらないからか、イスルは眉間に皺を寄せた。


「…銅ならこちらにも用意はあるのですが?」

「ウィンドウ開いてみれば分かるって」

ニヤリとトウガンが笑うのをまた訝しげに見ながら、ウィンドウを表示させる。


「……[妖力銅]ですか。初めて聞く金属ですが……性能は銅と差がありませんが」

「…待った、その返答は予想外だな。え、嘘だ、性能が同じ?」


既にしたり顔だったトウガンは慌ててアイテムウィンドウを覗き込む。イスルがそれに合わせて可視化すると、トウガンが見たものよりも随分と簡潔な説明が書かれていた。表示されているのは金属の名称とプライオリティ、それと『武器、防具、アクセサリーの素材にできる』という素材アイテム共通のテキスト。

何故だろう、と考えること数瞬、トウガンはひとつの可能性に思い至った。


「……成る程、【合金知識】の所為か」

「一人で納得してないで教えてくださいよ」

小さく頷くとイスルから不満の声。それに応えて説明をした。


「《科学者》のジョブスキルに【合金知識】ってのがあるんだよ。それを習得してから金属の詳細なステータスが分かるようになったから、きっとそれによって情報が補完されてるんだろうな」

「……つまり、《科学者》には金属の非表示ステータスが見えている、と?」

「ま、他のジョブからしたらそうなる」


トウガンの返事にイスルは黙って考え込んだ。


「……もしそうなら、科学者はもっと評価されていいジョブのはずです。行き当たりばったりの錬成ではなく、一定の根拠を持って錬成ができるので新しい金属の発見の効率は急上昇しますし。しかし何故そのスキルがβテストで発見できなかったのか…」

「…そりゃ多分、簡単な話じゃないか?」

「え?」

イスルが驚いた声を出すが、トウガンにしてみれば不自然でもなんでもない。


「時間が足らなかっただけだろ。《科学者》のジョブレベル30になってようやく見つかったジョブだし、俺は何だかんだ戦闘もこなしながらレベルアップしてる上に、生産品のレアリティも程々に高い。つまり、生産職の中じゃそれなりに成長のスピードも速いんだ。【実験】一辺倒でやってた科学者じゃ、βテストの期間じゃ見つからなくても仕方がないだろ」


長らく《科学者》をしていて分かったことだが、【実験】での経験値の入り方はその実験の難易度によって大きく左右される。厳密に言えば、『その実験の結果生成されるアイテムのレアリティ』による。

βテスト時に《科学者》がメインに作っていたものとされるのが[下級ポーション]。レアリティは1なので、それによって手に入る経験値は微々たるものだっただろう。

しかし、トウガンが今中心に生産しているのはトッププレイヤー垂涎の[活力水]だ。レアリティは10段階の5で、単純に5倍の経験値が入っていることになる。


「成る程……いい加減βの知識の価値も小さくなってきてるということですかね」

自嘲気味に笑うイスルを、トウガンは軽く笑った。


「テスターの強みは別に知識だけじゃないだろ。人脈とか経験とか、期待してるぜ先発組」

「嫌味か何かですかそれは……。全く、負けてられませんね」


温和な表情は崩さない。が、その瞳に獰猛なものが映ったのをトウガンは見逃さなかった。





✽     ✽     ✽





「そうだ、話が脱線してしまいましたね。結局この[妖力銅]は普通の銅と何が違うんですか?」

「あー、結論から言えば、『魔導性』っていう項目が抜きん出てる。魔力を通しやすいかどうかって性質だ」

「ほう、やはり初耳ですね。それが違うとどう影響か?」


「それについてだけどさ、ちょっとここで試してみたいんだ。だから、普通の銅とこの[妖力銅]で1本ずつ剣を打ってほしいんだ」

「そういうことですか、ではしばらくお待ちください。性能はそれほど求めなくていいんですよね?」

「ああ」

「それならお代は結構ですよ。大した損でもないですし、むしろ得になりそうな予感がします」

「そうなればいいんだが」


トウガンの返事を確認すると、イスルは彼女から渡された妖力銅と普通の銅を持って奥の鍛冶場に入っていった。


数分後。


鍛冶場から出てきたイスルは見た目全く同じ赤銅色の両刃剣を持ってきた。


「こんなもんですかね。こっちが只の[銅]の剣で、こちらが[妖力銅]を用いた剣になります」

そう言われてトウガンは早速アイテムウィンドウを開いて確認するが、性能に差異は全く無い。


「数値で見る分には、差は無いんだな」

「均質化する【複製】スキルで一気に作りましたからね。その方が、実験とやらにも役立ちそうですし」

「確かに」


小さく笑って、トウガンは最後の仕上げにとスキルを発動する。


「【術符・紅】―――もいっちょ、【術符・紅】!」

即座に、彼女の手元にぼうっと淡く赤く光る符が2枚現れた。その符を1枚ずつそれぞれの剣に押し当てた。

それを見たイスルは感心したように頷く。


「……あ、これが噂の属性付与ですか」

「そんな風に呼ばれてんの?ま、その事が出回ってるなら分かってると思うけど、工夫も無しに武器に付与しても碌に使い物にならないだろ?」


彼女がそう言う根拠は、何のこともない、実体験からだ。

以前武器に符の能力を付与させる実験は、見事に失敗に終わっている。


「それでも、現時点ではモンスタードロップ以外で属性付きの武器を手に入れる唯一の方法って認識なんですけどね……。まぁ確かに使い物にはならないです。属性攻撃は初撃のみですし、何より一回の攻撃であれほど武器が摩耗するのは、コスト的にもナンセンスです」


イスルが最後は呻くように答えた。


実用に耐えうる属性付き武器は、現状モンスタードロップに頼る他無いが、そのモンスタードロップでさえ〈北の山脈〉のドロップでしか確認されていないという、一部の最前線プレイヤーしか手に入らない状態でもある。だからと言って、使い物にならないながらも一応の属性武器である『《陰陽師》の符によって属性が付与された武器』の価値が上がったかといえば、そんなことはなかった。当然だが、使えないものは使えないのである。


「その通り。で、その『何の工夫もない属性付与』がこっち」


トウガンは【術符】によって炎属性が付与された[銅]の剣を振るった。その剣は半円に近い軌道を描きながら店の壁にぶつかった。


ボンッ!


小さな爆発。〈王都〉内部の建物は破壊不能なので傷一つ無かったが、属性攻撃をしたという事実だけが残る。


「………やるなら、ちゃんとはっきり予告してくださいよ。壁は壊れませんが、もしも調度品が近くにあったら壊れたかもしれないですから」

「す、すまん……」


呆れ顔のイスルの前に小さく縮こまるトウガン。勢いは完全に削がれてしまったようである。


「あー、ゴホン。それで、こっちが[妖力銅]に属性付与した方だ」

今度はしっかりイスルにサインを送り、(嫌々らしく見えたものの)GOサインが出たので、壁の同じ位置を再び切りつけた。


ダーンッ!!


当たった瞬間に起こった爆発は、一回目よりも僅かに大きなものだった。


「とりあえず実験は終わり。結果は……うん、予想通りだな」

ウィンドウを開いて頷いたあと、トウガンはイスルに剣を2本とも手渡した。


すぐにイスルもアイテムウィンドウを確認する。


「……成る程、確かに違いはあったようですね」

納得したような、それでいて思案げな表情で、イスルは小さく呟いた。




――――――――――――――――――――――――――――

銅剣

STR+76

Durability:17/100

――――――――――――――――――――――――――――


『Durability』とは耐久値のことである。つまり、剣を振るうたびに減っていき、0になればポッキリと折れるという数値だ。陰陽師というジョブでは常に剣の装備時に【儀礼剣】のデメリットパッシブスキルが作用するため、剣の耐久値の減りは早い。彼女自身、このデメリットには嫌な思い出があるように、オールマイティに活躍できる《陰陽師》にそれほど人気が集まらないのにはここに原因がある。


しかし、その耐久値の減りやすさを差し引いても、一撃でここまで耐久値がすり減らされるのは異常である。いかに実用性が低いかを、如実に物語っている。


それに対して[妖力銅]がどうかというと、



――――――――――――――――――――――――――――

魔銅剣

STR+76

Enchant:fire

Durability:58/100

――――――――――――――――――――――――――――



「耐久値の減りがかなり改善されている上、まだ属性を失ってない…?」

「属性が無くならないってのは、ちょっと嬉しい誤算だったけどな」


戸惑うイスルに、トウガンは笑った。


「まだまだ試作が必要だろうけど、間違いなく大きな前進だよな?」

「……ええ、確かにそうです。このアイデアを発展させていけば武器への属性付与だけじゃない……。いわば魔道具や蓄魔器のようなものだって…」


また俯いてぶつぶつと思考に耽りだすイスル。


「……恐らくですけど、トウガンさん。あなたはもしかすると、この[妖力銅]の使い道に考えがあるんじゃないですか?剣に属性付与させることなんて、その為の確認でしかないような感じを受けました」


暫くして、彼は突然顔を上げてトウガンを見て言った。彼女はそれに苦笑を漏らしながら答える。


「ご明察。実用化までには結構手順を踏まなきゃだと思うんだけどさ、回路を組みたいんだ」

「回路……魔力の回路ですか」

「そう。電池なんかの代わりに、さっき言ってた魔力を溜め込む機械を置いて、動かしたい装置に[妖力銅]を導線代わりに使う。そうすれば、装置の自動化も出来るんじゃないかってね」


そこまで運営が想定して『魔導性』という要素を入れたのかはトウガン自身何とも言えなかったが、これまでもトウガンの突飛な妄想にバッチリと応えてきた運営である。やってみる価値は十分にあるとトウガンは考えていた。


「自動化ですか…。こんなファンタジーな要素を見つけたというのに、随分と現実的な方向に持って行きましたね」


イスルは、若干の呆れ顔でそう感想を漏らした。それにはトウガンも苦笑するしかなかった。


「ま、しょうがないだろ。俺はリアリストで《科学者》なんだし」

「……そうでした、確かにあなたはそういう人だ」


諦めたような顔をしていたイスルが、突然吹き出した。合わせてトウガンも笑みをこぼす。

しばらく二人で、何ら意味なく笑い合っていた。





✽     ✽     ✽





「そうだ、もう一つ見せたいものがあったんだ」

「見せたいもの?……というと、依頼というわけではないんですね」

「ああ、まだ・・依頼じゃない」


含みを持たせた言い方で、トウガンは答えた。そして、アイテムストレージから[ミスリル]を取り出した。


「これは銀……ではないんでしょうね、この流れからすれば」

「ご明察」


イスルはトウガンのその返事を聞きながらウィンドウを開く。


「……ミスリル、ですか。こちらから見える性能としては銀と大差ないわけですが」

「これも、かなり高い魔導性を持ってる。妖力銅は量産のためにコストを抑えてるが、これは一点モノ。妖力銅とは3倍くらい開きがあるな」

「成る程……。こちらを加工しないのはなぜですか?」

「使い道は決まってるんだけどな……こんな感じで」


そう言いながら、トウガンはイスルに耳打ちした。次第にイスルの顔が綻んでいく。


「……面白いですね。それで、妖力銅ですか」

「ま、実験も兼ねてな。こっちである程度成果が出たら、ミスリルの加工も頼むよ」

「その時は是非。……しかし、同じ『魔導性』を利用するのに、リアルな方向に進んだり、ロマンある使い道をしたり、忙しいですねあなたも」


苦笑しながらのそのイスルの言葉に、トウガンはその通りだと笑った。


「なぁ、[活力水]の話聞いたか?」

「ええ。ご愁傷様です」

「確かにショックといえば間違いないんだけど、それは儲けが減るからとかじゃないんだよな」

「というと?」


一拍置いて、トウガンはそれに答える。


「地雷職だ何だ言われてる《科学者コレ》でしか出来ない、何かのオリジナリティがほしいんだよ。最初からそのつもりでコレを選んだわけじゃ無かったけどさ、今となってはコレの評価を覆したい。そのために、色々と挑戦しなきゃだよなーと思ってさ。それこそリアルにも、ロマンにも」


「……いいんじゃないですか。結局、《WCO》もゲームなんです。どんな楽しみ方をしてもいいし、逆に言えば楽しければ何してもいいんですから」


「……うん、その通りだ!よっし、何でもかんでも作ってやるかー!」


トウガンのそんな叫びが、イスルの工房内に木霊した。




「表には他の客も居るんですから静かにしてください」

「あ、ごめん……」

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