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World_Connection_Online  作者: 銭子
3章‐DEVELOPING
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34th-recession

遅くなりまして申し訳ありません!

しばらくの間、トウガンは手に持った[ミスリル]インゴットを眺めてはニヤけていた。相好を崩す、とはまさに今の彼女の様子のことを言うのであろう。とにかく喜びのあまり顔の骨格が変わるのではないかと心配になるほど笑っていた。笑い続けていた。おおよそ1時間ほど。


「いやぁ、ホント良かった。割と分が悪い賭けだったんだが、何とかなったみたいだな。……ここで失敗してたらとかは敢えて考えないようにしてたし」


そろそろ落ち着いてきたのか、まぁいつも通りと言えなくもない程度まで顔が戻った頃、苦笑混じりで小さく呟く。


言葉通り、結果はトウガンが思い描くのとほぼ同じように行ったが、彼女の構想の時点では実現できる見込みはかなり低いと感じていた。

それでも試行錯誤を重ね、可能性が五分五分以上にあると判断しての実験だったのだが。




まず、チタンの製造工程まではある程度目処が立っていた。

問題はその先、例の『青い炎』だ。



その元となった、炉に加えた一つのアイテム。

それは、[蘇生石]だった。


それこそがプライオリティを底上げした立役者であり、チタンに破格の魔導率を与えた功労者だったのだ。





✽     ✽     ✽




[ミスリル]製造の2日前。

その時はまだ[蘇生石]の使用は考えておらず、試行錯誤を重ねていた時だった。



その日、トウガンは[銅]インゴットの精錬に、[上級MPポーション]、[上級HPポーション]を蒸発させて取り出した回復成分の粉末を加える工程を織り込むという実験をしていた。

素材アイテム以外でも精錬に使用できるかの確認と、[銅]のプライオリティに変化が出るかの実験だ。


結果として、

[上級HPポーション]を加えた銅は[活力銅]に名称を変え、プライオリティは2増加した。

[上級MPポーション]を加えた銅は[妖力銅]に名称を変え、プライオリティは3増加した。


「おっ!?」


合金精錬のクエストが始まって以来、久方ぶりの前進に思わず声を漏らすトウガン。

これまではプライオリティがどのように増加するのかといった具体的なことは不明なままだった事も有り、この結果はかなり大きな前進であった。


このことから、回復アイテムを素材とすることでプライオリティが上昇することが分かった。更に、熱伝導性や展性延性などの細かい項目で調べると、魔導性が急上昇していることが判明した。尚、残念ながら複数のポーションを加えても効果は変わらなかった。


「なるほど、HPやMPを即座に回復出来るっていうのは、魔法に近いものがあるってことか…?」


と、今ひとつ信頼性に欠ける推論を挙げつつ、トウガンは今後の合金精錬について考察する。


「回復系アイテムが効果を上げられるなら、この間の[玉鋼]の精錬にポーションを加えてみるって手もあるが…上昇する数値が今確認されてるだけで3が最大だし、期待は薄いか。………いや、待てよ」


小さく呟きながら思考を纏めていたトウガンが、ハッと顔を上げた。

それと同時にアイテムストレージを開き、何かを探すように忙しく画面をスクロールさせた。


「…そうだ。『回復』でダメなら、『蘇生』なら…?」


その瞬間から、トウガンはこのクエスト突破のために[蘇生石]を用いること以外、考えなくなっていた。本来の研究であればいろいろな方面から多角的にアプローチするのが鉄則であるが、そこは彼女もかなり切羽詰まっていた。


「個数は……6個しかないのか。チッ、こんなことならもっとイベントにも挑んでおくんだった」


素材の絶対数が少ないこと、それはそのまま失敗できないことに繋がる。

トライアンドエラーを旨とする科学者としてはそれだけで重すぎる枷だった。



それから2日。

実験に使うその他諸々の準備を整え、[ミスリル]精錬実験に入ったのだ。





✽     ✽     ✽





蘇生石を使う基の金属に[チタン]を選んだのは、『ミスリル』という名前を思い浮かべてからだった。

勿論『ミスリル』は実在する金属ではなく、あるファンタジーに由来する空想上の金属鉱石だ。


ミスリル。

曰く「鋼より強く軽い」

曰く「銀のように美しく黒ずむことがない」

曰く「銅のように打ち伸ばせる」


このように金属としては破格の有用性を持つとされるミスリルだが、そのモデルとなった金属は『チタン』であるとする説がある。


上記した条件に完璧にではないが一致し、その伝説のことを除いても金属として非常に優秀であるので元となるプライオリティも高い水準であろうことから、[ミスリル]精錬の素材は[チタン]にすると決めたのだった。




それよりも気がかりは精錬終盤に起こった『炎の揺らぎ』についてだ。


「しかし最後の最後であんなイレギュラーが起こるとは思ってなかったが…やっぱあれは失敗の予兆って考え方でいいのか?つーかそもそも《科学者》における失敗って何なんだ?」


うーんと独り唸るトウガン。しかし実例が一件しか無いのでは考察にならないと諦める。


あの時トウガンが取った行動は、新たなアイテムを投げ入れるといった単純なものだ。しかし単純とは言え、原因も分からず咄嗟のことだった故に、その行動には何の確証もなかった。

現状、トウガンは『炎の揺らぎ』の原因は「魔力精錬をする場合の、魔力不足」にあるのではないかと予想していた。よって投げ入れたアイテムも[鳳雛の羽]という何となく魔力量の高そうな素材アイテムだった。


「……うまくいったから良かったものの、ありゃ余りにも考え無し過ぎたな。反省だ、反省」


苦笑を浮かべながら膝を叩いて立ち上がった。



「これ以上現状で考察することは……特にないかな。さて、誰に最初にお披露目しようか」


頭の中に数人の知人を思い浮かべていると、『ポーン』という軽快な電子音と共に『新着メッセージがあります』というメッセージウィンドウ。開くと、差出人はヒグマだった。


『ヒグマ:トウガンちゃん、余裕が出来たらでいい。このメッセージを見たら出来るだけ早くウチに顔出してくれないかな。待ってるよ』




「……嫌な予感がする」


サッと顔色を曇らせた。ただの直感でしかないが、何か不穏なことが起きそうな、そんな気がしたのだ。

だが、行かない訳にはいかない。トウガンは[ミスリル]インゴットをアイテムストレージに格納すると、小走りで研究所を飛び出した。





✽     ✽     ✽





「やぁ、早かったねトウガンちゃん」


出迎えたのは、いつもと同じ飄々とした笑みだった。最初から抜き差しならない逼迫したような顔で迎えられたら回れ右して帰ろうかとさえ考えていたくらいだった。


「ま、丁度研究が一段落したところだったからな。……それで、呼んだ理由ってのは?」


一刻も早くこのモヤモヤした心中を吐き出したいトウガンは早速核心に触れた。すると、ヒグマの顔は一気に苦々しげになった。


「あぁそうだね、じゃあ単刀直入に事実を伝えよう。………[活力水]の製造法が広まった」


「…え?」


「《調薬師》たちが、彼らで製造できるようなレシピを考案したんだ。……これで、[活力水]は《科学者》の専売特許では無くなった」


「……」


そこまで言い切ると、ヒグマはスッと瞑目した。その所作でいつもの冗談の類ではないことを悟った。



[活力水]の普及。

その事実は単純な言葉以上に《科学者》もといトウガンを追い込む。

独占的に市場に供給できなくなるので、利益は一気に減少する。そればかりか、そもそも[活力水]の価値も下がることになる。

更に、ようやく認識されてきた《科学者》に再び「下位互換」というレッテルが貼り直されるだろう。



「……ま、いつかそういう事もあるだろうとは思ってたがなぁ」


重く沈んだ空気を塗り替えるように努めて、トウガンは軽い調子で言った。


「そもそも、[活力水]だって偶然の産物だ。たまたま発想が上手くいって俺の手柄みたいになってただけで、他のジョブで十分に研究されたなら同じものが開発されたって不思議じゃないしな」


「……その意気だよ、トウガンちゃん。僕はホラ、こう見えて利益にがめついから[活力水]のレートが下がれば買取も値段を下げなきゃやってけないんだけどさ」


「こう見えて、じゃねぇよ。今更だよお前が利益にがめついのは」


呆れたように苦笑するトウガンに、ヒグマはいつものような飄々とした笑みで返す。


「だからさ、君と僕の仲でも特別扱いはできない。ポリシーに反するからね。でも、期待はしてる。またあっと驚くような発明品持ってきてよ」


「……あぁ、言われるまでもないさ。なんて言ったって、俺は《科学者》だからな」


トウガンはそう、満面の笑みで返した。言うまでもなく苦境であることなど、意にも介していないかの如く。

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