28th‐Priority
お待たせしました…寒くなったこともあり体調を崩してしまってました。
みなさんもお体にお気を付けてください
「…にしても、いくつか分からない金属があるんだが、どうやってこれを?」
暫くしてシエルは落ち着いたようだった。
そこでトウガンはこう切り出した。
「あぁ、それは〈北の山脈〉の採掘場のモノだろうな」
「と言っても採掘で取れるわけじゃないぜ?採掘場の奥にちょっとしたダンジョンがあってな、そこに出てくるモンスターが稀にドロップする」
返ってきた2人の答えはそんなものだった。
しかし、トウガンはそこに食ってかかる。
「いや待てよ、そりゃ可笑しいんじゃないか?〈北の山脈〉は適正レベルじゃないからって攻略対象から外されてるだろ」
トウガンの言も事実だ。
しかも一部のプレイヤーでの噂などではない。《最強》と名高いアルトリアでも匙を投げた、という悪い意味でのお墨付きもあった。
そんな地獄のようなフィールドでのうのうと狩りができるようなプレイヤーはいないはずであった。
そんな彼女の問いに、2人は同じように苦笑を漏らした。
「まぁ…そうなんだよな。実際俺もシエルも歯が立たない」
「特に採掘場奥のダンジョンに出てくるmob……あぁ、[ゴーレム]って言うのだが、そいつは物理耐久がべらぼうに高くてな、まともにダメージを入れられるのはキキョウとアルトリアくらいだよ」
「やっぱそんだけキツい相手なのか…」
トウガンはそう口に出しつつ、《最強》と肩を並べている妹に戦慄していた。
「じゃあ、やっぱ何でお前らがそのドロップアイテム持ってんだ?」
結局、話は戻る。
「まぁ簡単な話といえば簡単だな。ウチのギルマスが私たちを引っ張ってくんだよ」
「正直なところ、俺らじゃ手も足も出ないから止めてほしいモンだが……嬉々としてやってる節があるよな、アイツは」
恐らく同一の人物を思い浮かべているのだろう、2人は同時に苦笑を浮かべた。
「ま、ここまで話してなんだが、トウガンは行かないのが無難だな。ボスを単独で打倒したお前を軽く見ている訳じゃないが、そんな実力を差し引いても〈北〉は別格だ」
「肝に命じるよ」
そう締めくくったシエルに対して、納得したように頷くトウガンだったが、また別の疑問、疑惑が頭をかすめた。
彼女たちは、『〈北の山脈〉でダメージを入れられるのはキキョウとアルトリアくらいだ』と言った。
また、『ウチのギルマスが引っ張っていく』とも。
「……なぁ、もしかしてお前らのギルマスって」
嫌でも、その結論にたどり着くはずだ。まさかキキョウが彼らのギルドマスターを務めているとも思えない。
「ん?あぁ、言ってなかったか。そうだな、私たちが所属するギルドは『KoRT』。つまり、我らがギルマスはそのアルトリアだよ」
「……まじか」
「キキョウもその一員だな」
「…………まじか」
想像していたこととは言え、トウガンがようやく紡ぎ出した応答はそんな驚きと呆れの混じった声色だった。
「…いやいや待てよ。そういやお前ら、ゲーム始める前に『俺たちのいるパーティで一緒に狩りしないか』とか言ってきてたよな?それってまさか」
「ご推察の通りだな。ま、間接的な『KoRT』への勧誘だった訳だ」
「ご推察の通りだ、じゃねぇよ!なんで初心者をいきなりトップギルドに突っ込もうとか思った!?」
「いやぁ」
「褒めてねぇから!」
当時の勧誘の事の大きさを今になって知り、俄かに背筋が凍るような思いになったトウガン。それに対してシエルは涼しい顔で、
「βテストの時に、トウガンのことをアルトリアに話したんだ。前やってたゲームで私たちのギルマスを勤めていた、とな。そうしたら俄然興味を持ったようでな。何とかしてウチに組み込めないか、何とか誘ってきてくれないかと言って聞かなかったんだ。
挙句『彼を悩殺してでも味方に引き入れてくれないか』とまで言われていたくらいだしな」
「悩殺って……アホか」
げんなりした顔でそう呟くと、スクードは軽く笑う。
「ま、そんだけ期待されてたってこった。…それも全部拒否られちまったわけだけどな」
「悪いな……ただ、どこに入るかはもうちょっと考えさせてもらうわ。生産職の同盟も気になるところだし」
「何、一度断られてしまったんだ。気長に待ってるよ。…アルトリアがどう動くかは知らないけどな」
「なにそれ怖い……」
ぶるっ、と僅かに体を震わせるトウガンだった。
✽ ✽ ✽
場所は変わって、研究所。
シエル、スクードと別れてまずは合金の試作に入ろうとしていた。
その前準備として、頭の中に無理やり叩き込まれた【合金知識】を漁る。完全に脳内にインプットされている情報だというのに、全く知らない知識であるという感覚に気持ち悪さを覚えながらも、頭の中の辞書を1ページ1ページ捲っていくように知識を取り出してゆく。
最も必要な項目が、プライオリティについての説明だった。
プライオリティ。
日本語に訳せば『優先度』とか『優先性』とかに当たるが、ゲームな意味として、一言で言ってしまえば『金属の総合的な価値』ということになる。
硬さや金属としての展性・延性、融解温度や電導率などを数値化し、特殊な計算で1から100までの百段階で評価したものが、プライオリティなのである。
つまり、金属のプライオリティは、なにも武器としての使いやすさだけを示すものではないということだ。
更に、プライオリティを構成する要素には、もっと厄介なものがあった。
『魔導性』――魔力をどれだけ抵抗なく通すかを示す値である。
当然、現実世界の金属にはそんな要素は存在しないので、《WCO》の制作にあたって一つ一つに用意された数値だ。
「それが高いと、魔道具とか魔剣とかも作れたりするのか…?」
そう考えると、夢の広がるような要素ではあった。
ただし、ここで弊害が起きる。
「銀の魔導性が……高い」
唸るように、トウガンは声を絞り出した。
銀は、電気伝導率や熱伝導率は金属中最も高い。その分武器としての性能は鋼に劣るものの、プライオリティという意味では確かに大きな壁だった。
そこに加えて、魔導性まで高い。
銀は時に月の象徴としてなぞらえられることもある。『魔性の月』というようなイメージでそう設定されたのかは定かではないが、厄介なことに変わりはなかった。
「さてどうするかな……」
トウガンはそう呟いて、考える。
実験に使う素材となる金属は、シエルとスクード、ヒグマのおかげでたくさんある。
故に作る合金に選択の幅は広いのだが、その銀を超えるとなると生半可なものでは厳しいだろう。
「取り敢えず、オーソドックスに鋼あたりからやってみるか…」
鋼の精錬には、炉も必要になる。どうやら研究所の設備の竈は炉の役割も兼ねてくれるようなので、設備投資に出費は必要無さそうだった。
トウガンは今後の方策に考えを巡らしながら、鉄と炭を準備していった。




