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World_Connection_Online  作者: 銭子
3章‐DEVELOPING
28/44

27th- friends

2/2追記 シリーズを通し、トウガンの三人称を「彼」→「彼女」に変更しました。TSものの三人称って悩みますね…

ともあれ、合金を作るには素材となる金属がなければ話にならない。

〈王都〉は商品の品揃えも〈始まりの街〉より良く、また名の売れた生産職たちも見つけやすい。そう言う意味では、トウガンは早めにボス討伐を達成して正解だった。



「やあいらっしゃい、トウガンちゃん。この間はごめんね、折角お誘いもらったのに」


いつも通り軽く語りかけるのは、ヒグマ。

最早トウガンの中では困ったら彼を頼るという構図が出来上がっている気がする。全ては彼女の人脈不足によるのだが。

しかしその一方でヒグマも[活力水]を独占して仕入れさせてもらっているところもあり、――そもそも彼がトウガンを好ましく思っているからというのが大きいのだが――頼られることをさして嫌がっている訳ではなかった。


「で、今日は誰を紹介して欲しいのかな?」

「いつも人に困ってるみたいな言い方止めてくれるかな!?」

「違うの?」

「うぐっ……。で、でも今回は違うんだって。商談だ」

「あ、久しぶりだね。それで、何をお求めで?」


そう言いながら暫く振りに見る木製そろばんを取り出す。商売モードに切り替えるには、この道具が必要なんだろうか。


「金属って扱ってるか?」

「んー…基本的な金属なら大概はあるね。さすがにレア鉱石みたいになかなか出ないヤツは置いてないけど」


サッとウィンドウで在庫を確認するヒグマ。そのリストには鉄や銅、アルミなどが載っていた。


「そうだな……。ま、金には困ってないし、置いてある種類全部買ってくよ」


トウガンがそう言うと、ヒグマは軽く口笛を吹いて答えた。


「さっすが、発明家サマは違うねぇ。こっちもその分あれだけ儲けさせてもらってるから万々歳だけどね。

……まぁ、どっかには転売屋なんてのもコソコソしてるみたいだけど」


スゥっと目を細めて言うヒグマに一瞬冷や汗が伝うが、次の瞬間には普段のどこか飄々とした雰囲気の彼に戻っていた。


「でもさ、僕は結構トウガンちゃんのこと心配してるんだよ」

「…?なんでだよ」

「[活力水]なんてもんを独占で買い取ってる僕も危ないっちゃあ危ないんだけどさ。PK(プレイヤーキラー)で無理やり所持品奪われたり、街中で付け回されたりとか厄介でしょ?」

「あー……そういうこともあるもんか」


トウガンは今まで想定していなかった指摘に、一気に表情を曇らせた。


《WCO》では、上位フィールドで戦うプレイヤーほどデスペナルティが重くなる。

〈始まりの街〉の層では『一定時間ステータス半減』だけだったのが、〈王都〉に進出すると『所持アイテムのうちからランダムで一つデスドロップする』が加わる。

当然、PK被害にあった場合でもそのペナルティは発生するので、運が悪ければ強力な装備を奪われる可能性もあるのだ。


「十分ありえると思うな。最悪GMコールすれば何とかなるだろうけど、街中での嫌がらせは兎も角フィールドでのPK被害は自己責任だからね」

「さんきゅ、気をつけとくわ」




商談は恙無く終了し、無事に研究所兼マイホームにたどり着くと、最近設置したばかりのベッドにうつ伏せで飛び込んだ。


(怖ぇええええ!え、俺PKに襲われるかもしれないの?マジか……怖ぇえええええええ!!)


ヒグマの前では平静を保っていたように振舞ったが、内心は焦りに焦っていた。愕然としていた。


どこまでが味方で誰が敵なのか。ヒグマの店まで行く途中ですれ違ったプレイヤーのうちどれだけが自分の命を狙っていたのか。ゲートの前で自分がフィールドに出ていこうとしているのを待ち構えているプレイヤーがいるのではないか。



完全に疑心暗鬼だった。



―――ここで惜しむらくは、彼女が自分の評判を知り得ていなかったことだ。

もしも彼女がマメに掲示板を確認するような性格だったら。

もしも彼女にいつも街で噂話を聞くほどの人脈があったら。


西のボスを単独討伐に成功したトウガンの噂は、掲示板を通じて《WCO》界隈で大いに広まっていた。それに加えて、本人に自覚はないが容姿もれっきとした美少女である。実はひっそりと狂信者まで現れる始末だった。


ゲーム内での「実力」と「容姿」。


それが揃えば、誰しもこれは迂闊に手を出せる相手ではないと考えるに違いない。

ボスの単独撃破など、《最強》と名高いアルトリアでさえ成し得ていない――尤も彼女の場合は無駄なパフォーマンスで必要ないからと切り捨てているだけだが――偉業だ。

対人での戦闘能力がどれほどかは兎も角、生産しか取り柄がないプレイヤーとは全く違う、トウガンという戦闘狂(バトルジャンキー)をPKしようという思いを持っているのは、極々僅かだった。



ついでに言ってしまえば、例の狂信者たちも幾度となくトウガンに接触を試みているのだが、妹キキョウと幼馴染シエルによって陰ながら暗殺、もとい殲滅されている。



―――ある意味、知らぬが仏なのかもしれない。





✽     ✽     ✽





「…ダメだ。せめて街にくらい出向かないと素材が集められない」


ベッドに顔をうずめて10分ほど。

ようやく少し心の整理がつき、トウガンは研究所を飛び出した。


同時にリアルの関係があるキキョウ、シエル、スクードに連絡をとった


 『【急募】何かいい感じの金属!』


シエルとスクードからはすぐさま返事があった。


 『それほど手持ちも無いが…中央広場の噴水前で良いか?』

 『募集が曖昧すぎねぇ?ま、適当に掴んで持ってくわ』

 

「妹さまは……晩飯作ってるのかな」

トウガンは噴水前に移動しながら、現在の希梗の様子を想像して呟いた。




「突然声かかってくるもんだから驚いたぜ」

「悪い悪い、思い立ったが吉日って言うだろ?」

「まぁこうやって三人が顔を揃えたのも久しぶりなんだ。少しくらい急なことでも良いじゃないか」


誰からともなく笑いがこぼれた。

幼馴染同士の、本人たちだけが分かる波長のようなものを感じる瞬間。



「あぁ、そうだ。金属だったか。適当に持ってきたぞ」

「ほら、こんなもんしかねーけどな」


シエルとスクードは、ストレージをリスト化してトウガンに見せる。それは殆どがヒグマの店で見たものだったが、チラホラと見たこともない金属が混じっていた。


「おぉ、さすが持つべきものは友だな。……じゃあこっちからなんだが」



「あぁ、私は要らない」



トレードの受け渡し分を決めようとしたとき、シエルは不意に、しかしキッパリと言った。

トウガンは訝しげに彼女を見る。彼女は、見たことがないほど顔色を青くしていた。


「いやいや、そりゃ悪いだろって…親しき仲にもなんとやらって言うだろ」

「……だからこそ、だよ。トウガンは……藤丸は私が犯した失敗で、やりたかったジョブを選べなかった。その分の埋め合わせは、今のジョブを精一杯楽しめるように支えることで成立すると、思ってな」

「夏苗……」


薄く、自嘲するように言葉を紡ぐ。普段の明朗とした表情とは全く違う、泣きださんばかりの渋面が広がっていた。


「一応私はβテスト経験者だ。オープンβだけじゃなく、クローズドβも参加した最古参の一人だ。だから、私が何から何まで手伝えば、藤丸はかなり楽にゲームを進められるかもしれなかったんだ。この〈王都〉に来るのだって、私が招待すればもっとすんなり来れたはずだった」

「……」

「でもさ、知ってるんだよ。藤丸は、それを良しとしない、ってことを。一人で出来ることを手伝われるのも、ヒントを与えられるのも」


「どこかで埋め合わせよう埋め合わせよう…、そう思っても、それは藤丸が嫌いなことにしかならないんじゃないか…ってね、ずっと思っていた」


「これも手を差し伸べられなかった言い訳でしかないさ。もしかしたら私の勘違いで、藤丸は助けを待っていたかもしれないのだからな」


「……なあ、教えてくれ。私は、藤丸に、どうやって埋め合わせればいい!何をしたらいいんだ!?」




シエルの長い独白が終わり、そこには重い静寂が残された。


中央広場はその名の通り〈王都〉の中心に位置するため、人通りもそれなりに多い。

だがその喧騒のなかで、3人の立つ場所はポッカリと穴があいたように静寂が支配していた。




ぽん、とトウガンはシエルの肩に手を乗せた。俯き泣き崩れているシエルはその感触に一瞬ビクっとしたものの、顔を上げることはなかった。


「…なぁ夏苗。俺が今、《科学者(サイエンティスト)》で後悔してるように見えるか?……なんだこの詰まらないゲームは、って嫌がってるように思えるか?」

「………いや」

「じゃあ、気にする必要ないんじゃねーの?」

「そ、それでも私は…っ!」


シエルはバッと顔を上げ、潤んだ目でトウガンを見上げた。

シエルが続きを口にする前に、トウガンは続ける。


「それに、いつまでもテスターが上位にいると思うなよ?お前が余計なこと考えてる間に、俺が先に進んでも知らねーぞ」


その言葉に、シエルはハッと表情を変えた。

今の言葉が、ただの慰めでないことは、それこそ長い付き合いであるシエルには分かった。だからこそ、トウガンの――藤丸の性格をまだ忘れていたことに気がついた。


「張り合いのあるライバルを求める」


そんな、別にトウガンだけが持つようなものではない、ありふれた性格。

以前プレイしていたゲームでも、トップギルドのギルドマスターになったあとでも、ライバルと言える相手を求めていた。


トウガンは、ライバルに成りうる相手が、変なことを気にして前に進めないことにを嫌がっていたのだ。



瞬間、シエルから重いものが降りたような気がした。

まだ目元には涙を貯めながら、それでも精一杯の笑顔で、トウガンに語りかける。


「ありがとう…!」





彼女に打ち込まれた罪の楔は、少しずつ消えていく。


トウガンとシエルは読者様のなかで納得がいく和解になったかはわかりません。しかし、一度こういう形で区切っておく必要があると思い、文章にすることに相成りました。

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