26th-ordeal
久々の投稿となります。
そして物語内での時間も一週間ほど進んでおりますのでご注意を。
〈王都〉
〈始まりの街〉の四方に存在する4つのフィールド、〈南の森〉〈西の草原〉〈東の海岸〉〈北の山脈〉のうち、どれか一つのフィールドを制覇する、すなわちボスを討伐することで開放される街である。
景観は〈始まりの街〉以上に混沌としていて、西洋の城や瓦屋根の武家屋敷だけでなく、モンゴル住居のゲルや縄文時代の高床倉庫など、国時代のごった煮のような様相である。
もちろん拠点としての質も〈始まりの街〉以上だ。
NPCショップ、生産設備、その他施設もろもろ…、どれをとっても〈始まりの街〉と比べれば量も質も上。当然物価も上がるが生産職にとっては是非とも〈始まりの街〉から歩を進めておきたい場所だ。
そしてボスを倒し、王都を開放したプレイヤーには、『任意のプレイヤーを2人まで王都に招待できる』という特典がつく。
トウガンはそれを世話になった生産職たちに分けようかと思っていたのだが、ヒグマの紹介で知り合った《錬金術師》サラ、《鍛冶師》イスル、そしてヒグマ自身も、β時代のツテで既に王都に入っているらしく、必要なかった。
一応と思いキキョウやシエル、スクードにも声をかけたが案の定自力で突破し終えたようだ。
結局トウガンが誘ったのは一人。
《盗賊》リースだった。
あのカーネ大量討伐以来メッセージの交換もまともにしてはいなかったのだが、そもそもトウガンのフレンドリストは未だ容量だけ持て余している状態なので、こういう時に声をかけられる相手は限られていた。
リースはリースで、声をかけられた時の反応は素っ頓狂としたもので。
「え!?わ、私でいいの?」
「ま、他に声かけるヤツもいなかったしな。それに、リースには色々世話になった訳だし、お礼ってやつだよ」
「そ、そう……ありがと。…アンタ、喋り方だけじゃなくて性格も男らしいのね」
「放っとけ」
と、最後はトウガンが複雑な心境を抱えたものの、無事2人で王都に入ることができたのだった。
✽ ✽ ✽
そしてトウガンがその〈王都〉に到着してから1週間ほど。
彼女は個人研究所を持つまでになっていた。
販売はしておらず、相変わらず《ヒグマ総合取扱店》の委託販売に任せている。
それ故、店でもない研究所に名前は必要ないだろうという考えで、しばらくは名無しの研究所になりそうだ。
設立のための資金は[活力水]や[火薬]から得た収益によるところが殆どだったが、それでも余りあるほどトウガンの懐は暖かい。
ついに入ってきた中高生の新規参加にも、無事[火薬]の開発が間に合い、ヒグマのセールス力にも助けられながらも順調に売り上げを伸ばしている。
[活力水]のチート効果は、上位層の〈王都〉でも健在で更に値上がりがあるかもしれないとのこと。
そんな中。
『レベルが30にアップしました』
『【合金精錬】を習得しました』
聞きなれたレベルアップのファンファーレのあとに、機械による合成音声が頭に響く。
「合金……?」
トウガンが頭の中を疑問符で満たしながら思わず呟くと、ほぼ同時にガチャりと扉を開ける音がした。
条件反射的に振り返ると、そこには白衣をまとった初老の男性が立っていた。
「あんたは…研究所の」
「ほう…あの時の若造が、そこそこに経験を積んだようじゃな」
個人用空間であるこの研究所に、なんの前触れもなく他のプレイヤーがこれを侵すことは有り得ない。つまり、この声の主は〈研究所〉に初めて入ったときに説明をこなした男性NPCだった。
「ならば、そろそろこの試練に挑めるかもしれん」
「ち、ちょっと待てよ。いきなり過ぎないか」
唐突の展開に思わず問いただすトウガンだったが、相手は定められた会話しかできないNPC。当然ながら彼女の言葉を無視して続ける。
「試練突破の条件は単純じゃ。ワシが指定する金属より、プライオリティの高い合金を作ればよい」
「……ふむ」
「合金を作るのは〈改造〉の手順に似ておる。竈や炉を使って複数の金属をそれぞれ素材とするのじゃ」
「……」
諦めて、取り敢えず老人が話し終わるのを待つことに決めた。
「合金の作り方や、プライオリティの説明は……面倒じゃな、少し待っとれ」
「……」
話半分でここまで聞いていたことを、トウガンは直後後悔した。いや、もし真剣に聞いていても心の準備が出来たかどうかの違いでしかないが。
『【合金知識】を習得しました』
機械音が頭に響くとともに、知識の波が襲ってきた。
「っあ~~~~~~~っ!!???」
トウガンの悲痛な叫びが研究室内にこだました。
一瞬だけ、彼の頭には知恵熱を酷くしたような、頭を割るような痛みが駆け回る。
それはmobからクリティカルヒットを受けたときのダメージと変わりないほど。
「っつ痛…。おいコラ、突然何してくれてんだじーさん」
相手がその言葉に反応するわけがないとは分かっていても、彼なりに精一杯凄んで怒りを伝えたくなるのも仕方がない。
たとえトウガンが女性アバターで、涙目の上目遣いで老人を見上げているようにしか見えなくても、仕方ない。
「今、合金に関する知識を粗方小僧の頭に突っ込んだ。好きに引っ張り出せばいいわ」
案の定、どこか噛み合わない老人の答えに、トウガンは溜息をついた。
「ワシは小僧が完成させた頃にまたここに来る。あぁ、指定する金属じゃがな…」
そう言って老人は白衣のポケットに手を入れると、こぶし大の金属インゴットを取り出した。
[銀]のインゴット。
混じり気の少ない、まさに純銀と言える美しい銀色。
「これ以上の合金を作ればいいんだな?」
「それでは、期待しておるぞ」
「ちょっとは会話しようぜクソジジイ!?」
トウガンが思わず罵声を浴びせた時には、既に老人は研究所の外へ向かっていた。
「……ホント、NPCって面倒だな」
独り残された研究所で、トウガンの小さな呟きは誰にも聞かれることなく消えていった。
若干短いですが、キリの良さで区切りました




