23rd-Goblin[1]
「さてと…まずはまだ試してない符の研究からだな」
そう呟いて、トウガンは外に出る。
以前レベルアップした際に多くのスキルを得ていた彼女だが、そのスキルはまだ【術符】系など一部しか試していない。
弱体化系であろう【呪符・盲目】や、強化系だろう【与符・神速】、召喚系スキル【招来符・子鬼】【招来符・泥手】らがそれに当たる。
というのもトウガンはこれまで硫黄や火薬の研究改良に掛かりっきりであり、関係のなさそうなことは後回しにしていたからであった。
とはいえ、急な戦闘の際にでも、何か役には立つかもしれないと、呪符と与符の方はいくつか作ってあるのが、彼の抜け目のないところか。
「早速、招来符あたりから試してみるか」
そう呟いた。招来符はいままで一度も作っていない。というよりも、作れなかった。
最初、【術符・灯】を作ろうとした際に失敗したのと同じだろう、現れた模様はとてもなぞれたモノではないほど、ぐにゃりと褶曲していたからだ。
その後、さらにカーネを倒したりした今ならば、生成に十分なステータスになっているだろうと考えていた。
「【符生成】、対象は【招来符・子鬼】」
そう言うと、どこからともなく筆と札が現れる…かと思いきや、それは一向に現れずに、代わりに出てきたのは小さなメッセージウィンドウ。
『この符はまだ生成できません。子鬼と契約を交わしますか。』
YES/NO
「…契約?」
将来符の子鬼とは存外にキッチリとした性格なのか。
「仮にも鬼と名のつくクセに、なんというかみみっちい性格してるのな、子鬼って。
…ま、それが必要だって言うならするけど、ホントに必要な手続きか、これ…?」
頭に疑問符を浮かべながら、それでも躊躇いはなく『YES』を押す。
その瞬間、彼女の視界は白く染まった。
「…!?」
疑問符でいっぱいだった彼女の頭は、突然のことに咄嗟には反応できなかったものの、一気に警戒の色に変わっていく。
状況を把握するため、忙しなく脳を働かせた。
そうした中で見てみれば、視界が白く染まったのはこの場所のせいだと気がついた。
何のことはない、ただ真っ白い空間に、突然転移させられたというだけの事だった。そしてこの空間は、まだ《WCO》を始める前にVR空間のチュートリアルに使用したものと、見たところ同じ空間のようだった。
そしてその状況整理がひと通り済んだ頃、また変化が訪れた。
突然、何もない空間から3匹のゴブリンが姿を現したのだ。
トウガンとの距離は20メートルほど。
リーダーと思しき先頭のゴブリンは曲刀を手にし、その左右に位置する2匹のゴブリンはそれぞれ棍棒を構えている。
彼女に視線を向けるゴブリンたちは、下卑た笑みを浮かべている。
トウガンは無言でストレージから剣を出して構える。と同時に、3匹のゴブリンたちはその得物を振りかざしながら踊りかかってきた。
「やるか……っ!」
✽ ✽ ✽
ゴブリンはトウガンの振るい降ろした剣を自身の持つ曲刀で防ぐ。そのタイミングで後ろから2匹のゴブリンがほぼ同時に棍棒で殴りかかってくる。
「ちっ!」「キヒヒッ!」
トウガンはたまらず、殆ど転がるようにバックステップ、間一髪でそれを避けた。転がりながらも、自然な動作で罠を地面に仕込む。しかし、それにかかる様子も見せず、ゴブリンはトウガンを見据える。
「明らかにカーネとは知能が違うな……やりづらい」
呟きながら、剣を構え直す。
「まぁ、このまま負けるって訳にもいかないだろうに。……【与符・剛力】」
その言葉とともに現れたその符を、トウガンはノータイムで胸に当てる。そして体に力が充ちたのを感じてから一気に駆け出した。
「はぁっ!」「キヒッ!」
ゴブリンの上段から真っ直ぐ振り下ろされたトウガンの剣を、ゴブリンは棍棒を横に構えて受け止める。
戦闘の初撃では軽く受け止められたが、今は符によって攻撃力が増している。
それゆえ、ゴブリンはその圧力に押され始めた。
「キ、キヒ…ッ!?」
ここで初めて、あの下卑た笑いが引き攣り始める。トウガンはそれに対して僅かばかりの満足感を得るが、鍔競り合いを続けるトウガンの剣の耐久値も一気に削られている。ほかの2匹の事も有り、一度弾き飛ばして距離を置いた。
「手数が多いのは小賢しいが、速度はあのボスの方がよほど上だな。まだ随分やりやすい」
「「「キヒヒャァ!」」」
そう呟くトウガンの声は、3匹のゴブリンの奇声と突撃の勢いでかき消される。
「…【呪符・麻痺】!」
トウガンはそれに焦らず、真正面のゴブリンに符を当てる。動きを止めた直後に、右の1匹の棍棒を自分の剣で受け止め、左手に握っていた別の符を押し当てた。
「【術符・灯】!」
「ギヒャァァァァッ!!??」
突如発生した脇腹の炎に、そのゴブリンは混乱と痛みで転げ回った。
「っ痛」
それでも左から迫るゴブリンには対処しきれず、棍棒の打撃をもろに受ける。
更に追撃が来るのを横っ飛びで避け、再び距離を取った。
脇腹に炎を受けたゴブリンはHPが全損したらしく、いつの間にか姿を消していた。
「…まず1匹。」
そう言いながら、残った2匹に目を向けると、そこには笑みを消した怪物がいた。
「…」「…」
そこにはさっきまでの巫山戯た雰囲気はなく、張り詰めた空気が漂う。
「…ようやく本気、ってことか」
対してトウガンは、薄く引き攣った苦笑いで、頬に冷や汗を垂らす。
今の3匹の連携、結果を見れば軽々と最小被害で1匹を葬ったようだが、かなりギリギリのところを渡っていた。成功率が高そうな反撃が、偶然うまくいったというだけだったとも言える。
そもそも、彼が人型のmobと戦うのはこれが初めてのことで、カーネのような小型4足歩行mobとは大きく戦闘スタイルがことなるのだ。更に、相手は棍棒や曲刀といった武器を持っていて、リーチも殺傷能力もカーネのそれを大きく上回っていた。
タッ、と不意に1匹のゴブリンが駆け出す。
最早、今までのゴブリンと同列の実力に考えるべきではない、とトウガンはヒシヒシと感じていた。
「これは、第2ラウンドだ。……始めますか」
忙しい時期は終わりました(キリッ
みたいなこと言っておいて1ヶ月もお待たせしてすみませんでした…。
艦これを始めまして、熱中してましたね、えぇ…。
言い訳乙です。すみません




