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World_Connection_Online  作者: 銭子
2章-FIGHTING-
21/44

21st-boss[1]

3/25 追記:ボスに関する説明を追加しました

目下の目標である火薬の高品質化に一区切りをつけたトウガンは、次はボス攻略だと息巻いていた。


始まりの街の四方に広がるフィールド、それぞれ[南の森][西の草原][東の海岸]そして[北の山脈]。攻略難易度は先に挙げた順に低く、[北の山脈]のみ飛び抜けて敵が強いらしいので、現時点で攻略されることは想定されておらず、今後のゲーム進行の途中で攻略していくフィールドだろう、というのが攻略組の見解だった。


そして現時点で、[南の森]、[西の草原]のボスは倒され、一通り攻略は完了した扱いだ。そのどちらも、最初にボスモンスターを倒したのは最強プレイヤー・アルトリア率いるパーティ、『KoRT』である。



当然ゲームの攻略Wikiにはボスの情報も上がってたが、トウガンは敢えてそれを見ずに挑もうとしていた。それが彼女なりの信条であり、ボスとして設定された敵への敬意でもあった。


「ま、ホントはこの間のレベル上げの時に挑んでみようと思ってたんだがな…」


そう呟きながら、[西の草原]を進む。[南の森]の方が攻略難度は低いが、戦い慣れたフィールドの方がクリアしやすいと考えて、こちらのフィールドを選んでいた。

もはや道中のカーネは群れであっても敵ではなかった。まもなく、例のブラックボックス―ボス部屋の前の場所にたどり着いた。



ちなみにトウガン、ソロである。

リースを誘うことも考えたが、ソロでも勝てるならばそれが一番だろう、一度試してみよう、という何とも軽い気持ちでソロ攻略を敢行することを決めていた。


 ボス攻略には、レイドというパーティを更に纏めたものを組んで挑むことができる。

 レイドの上限は4パーティまで。1パーティにつき8人まで参加できるので、最大で32人のプレイヤーで1体のボスを打倒することもできる。しかし、だからと言って1パーティやソロでは挑んではいけないなどという決まりもないため、どんな無茶だろうがルール上はオールOKだ。

 ここで大切なのが、参加プレイヤー数が増えるほどボスは強力な攻撃を仕掛けてくるし、最大HPも増加するということだ。つまり、数値の上ではボスのステータスはソロ攻略時が最も低く、32人フルメンバーで挑む時が最も高いということになる。だがそれはあくまで数値の上の話で、実際の戦闘になればソロならば手数の少なさに苦しめられることになり、フルメンバーのレイドならば様々なジョブを活用して有利に戦闘を進められるだろう。


 トウガンは、それを理解した上でソロでのボス攻略に挑もうとしていた。ただ勝つことを求めるのなら、かなり無謀な挑戦。それに敢えて挑むトウガンの目には、《科学者》とは別の戦闘狂(バトルジャンキー)な光が宿っていた。





✽     ✽     ✽





「あれ、結構人がいるって聞いてたが、今はほとんどいないな」


 ボスのことがWikiに書かれてからというもの、いくつものパーティが代わる代わるボスに挑んでいるため、大渋滞を起こしているという話を妹から聞かされていたトウガンとしては、ここまでこの場所がガランとしているのに拍子抜けしてしまった。

 それでも2、3パーティはいるらしく、順番待ちをしていたので、トウガンはその最後尾についた。




✽     ✽     ✽




「ん、順番か」


 アイテムウィンドウを弄って時間を潰していたトウガンだったが、いつの間にか先に待っていたパーティは全てボス戦を終えたらしい。


「よし、行くか」


 心なしか普段より固い声色で呟き、ボス部屋に入っていった。





「ウルアァァァァァァッッッッ!!!」

「…っ!」


 ヤツ(・・)は、ボス部屋の端の巨岩に立って、吠え猛った。

 毛並みの見事に整った銀狼。しかしその優美な外見とは裏腹に、その瞳は獰猛に、爛々と輝いていた。



 フッ……スタッ


 銀狼の切った風の音が微かに耳に届いた。ヤツは静かに、トウガンの構えるフィールドに降り立った。

 そして彼女をひと睨みし、深く息を吸い込み、



「ウオォォォォォォォン!!!」

「っかは……っ!?」


 放ったのはただの遠吠え。しかしその声には、強烈なプレッシャーが込められていた。それを真正面から受けたトウガンは、システム的な(・・・・・)硬直を強いられることになった。


(チッ、強制スタンかよ!?)


 マズイ、そう内心で毒突きながら、トウガンは懸命に横に跳ぼうとしていた。スタン効果のある攻撃、その後に直接的な必殺攻撃が無いはずがない。


 そして彼の予想したとおり、銀狼は凄まじい勢いでの突進を仕掛けてきた。ボス部屋の端と端に位置している二者だったが、銀狼の速度はトウガンの想像を遥かに超えていた。フィールドmobのカーネの火ではない。一気に距離が縮まっていく。


(動………けっ……!)


 そう念じても、スタン効果が切れるまでは動けない。そうだと頭ではわかっていても、目の前に迫る明確な脅威から一刻も早く逃れたいという生存本能が彼女の頭にパニックを起こさせていた。



 フッ、と一気に足が軽くなる。スタンが解けたのだ。

 しかしその瞬間、一気に世界が回った(・・・・・・)。銀狼の突進を避けられなかったのだろう、トウガンは10m近く弾き飛ばされた。


「ぐあ…ぁ」


 トウガンは肺から一気に空気が押し出されたような苦痛に顔を歪めるが、HPはまだ60%ほど残っていた。

 スタンが解けてから銀狼の突撃を受けるまでの一瞬、体を僅かにひねっていたことで直撃を避けていたのだ。


 彼はヨロヨロとしながらも起き上がって剣を構え直す。そして自前の[活力水]を一本煽り、銀狼を睨みつけた。


「初見殺しとは、やってくれるじゃねぇか…。次は、こっちの番だぜ!」



 今も高圧的にトウガンを睨む銀狼に向かって、トウガンは単騎走り出した。


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