19th-Blacksmith
「一応定型句としていらっしゃい、って言っておくけどさ、事あるごとに僕に頼るってのもどうかと思うよ?」
「う、うるさいな!俺だってなんかいつもお前のところに来るのもなんだかなって負い目も無いわけじゃないんだよ!でも俺の知り合いには脳筋連中しかいなくて…」
「まぁいいんだけどさー。その代わり、今度トウガンちゃんの知り合いにも僕の店のこと宣伝しといてよ」
ところは《ヒグマ総合取扱店石碑前支店》。
つまり、あいも変わらず飄々と話すこの男はヒグマだ。採掘のための機材を用意するのに、やはり他の生産職の必要性を感じたトウガンは、彼の人脈を頼ることにした。
「それにしても、鍛冶師ねぇ…。じゃあ、この男のところに行くといいかもね。僕が知る中じゃ、一番腕は確かだよ」
そう言って、ヒグマは鍛冶師のいる場所を教える。話によれば、それは大通りからは外れた、〈始まりの街〉でもかなり東側に位置する場所だった。
「サンキュー。…しかしこんなところに店構えて、人なんて来るのか?」
「いや、彼はまだ店持ちじゃないんじゃないかな。βテストから見てて、腕はあるんだけど、リアルの方の都合で始めるのが遅くなったって言ってたし」
「だとすると、この場所は?」
「君も使ってるよね?全員が使うことができる共通施設の鍛冶師バージョン、〈工房〉だよ」
✽ ✽ ✽
錬金術師は、金属の質を高める。そして鍛冶師は、金属を形にする。
大した知識はないが、そういうジョブであることは分かる。
しかし、トウガンは自分の求めているものが果たして形にできるものなのか、というのが一番の不安だった。どう考えても、武器の範疇を超えているし、鍛冶師にどうにかできるものなのかというのも分からない。
だが、今はそこに賭けるしかなかった。
「いらっしゃい」
そう言って工房の前で立っていたのは、柔らかい物腰の男だった。髪は銀色に近く、ツンツンと尖ったような髪型。丸眼鏡をかけて常に微笑む姿は、なんとなくの安心感を生んでいた。
「ヒグマさんからお話は伺っています。どうぞ中へ」
言いながら、工房のドアを開く。トウガンは男に導かれるまま中に入った。
「それで、なにか依頼でも?」
「ああ、これから言うものを作って欲しいんだが、頼めるか?」
そう言いだして、トウガンは説明を始めた。細かい説明も身振り手振りを交えながら説明していくが、段々と相手の男の表情が険しくなっていく。
トウガンが一通り話し終え、男は顎に手を当てて考え込むような仕草をした。
「…難しいね。聞いたところ、武器ジャンルとは違いそうだし」
そして、その重い口を開いて出た言葉は、それだった。
(やっぱダメか…)
トウガンは心の中で舌打ちした。それならばどうやってこれを作るかと、考えを巡らせ始めた時、
「…いや、いけるかもしれない」
男は、そういってニヤリと口端を吊り上げた。
「は?今何て…」
「ちょっと見ててください」
そう言いながら、男は工房の奥の方、つまり炉のある方へトウガンを誘導する。
まだ彼の言葉に理解が追いついていないトウガンは、言われるままに男のあとに続く。
炉の目の前までくると、男はストレージから剣と槍を取り出して、まとめて炉に放り込んだ。炉からはオレンジ色の光が飛び出し、部屋の熱気も一気に増した。
「な!?」
トウガンは目を見開いて驚く。ただ、その中でも何が起こるのかということには、何となく予想ができていた。
数分後、炉から取り出した赤く光る金属を、男は慣れた手つきで槌でたたく。すると、光っていた金属のただの塊が、形をひとつの武器の形に変えた。
「一丁上がり。こんな感じで、剣と槍を一緒に炉に入れると、[薙刀]ができるようになるんです」
満面の笑みを浮かべて、男はそう言った。
「その名も【武器合成】!これを習得したのはごく最近だから、あなたが最初のお客さんですよ」
「…へぇ、凄いな」
「ふふ、予想できていたって顔してますね。まぁ合成や変形なんてのはゲームじゃありふれた設定ですからね」
「いや確かに予想通りなことではあったけどさ、そういう機能って終盤で手に入るもんじゃないのか?」
「ええ、RPGとかでは特にそうなることも多いですけど、《WCO》としては序盤から多様な武器を登場させようとしたんでしょうね」
「なるほどなぁ…」
トウガンがそう言って、完成した薙刀を眺めていると、
「あ、自己紹介がまだでした。僕はイスル、鍛冶工房を開く予定なので、その時にはぜひ来てくださいね」
「ああ。俺はトウガン、科学者だ。…というか、結構技術もあるみたいなのに、まだ自分の工房は持ってないんだな。ヒグマからの話じゃリアルの都合でどうこうってことだったか」
「そうなんです。それで初日からログインしていた先発組ではないので」
照れくさそうに苦笑しながら、イスルは答えた。
「WCOは発売初日に買ったのですが、少々海外に用事がありまして。スタートしたのは昨日からなんですよ」
「早くねぇ!?」
ゲーム開始二日目といえば、カーネとたわむれていたトウガンとしては、イスルの進行速度は異常に感じられた。
「ずっと公共工房に閉じこもってレベリングしてましたから。その分戦闘はからきしですので」
「いやそれでも凄いだろ…」
トウガンの呆れ声に、再びイスルは苦笑を漏らす。
「まぁ僕の話は置いておきましょう。それで、お求めの道具ですが、努力はさせていただきます。そうですね…ゲーム内時間で5日ほど時間をください。リアルタイムで2日半ほどですかね。それくらいには結果を出します」
「…なんとか、なりそうか?」
「断言はしかねますね。ですが、骨のある仕事にはテンションも上がるので」
「そう言ってくれるとありがたいな」
そして、イスルは満面の笑みを浮かべる。
「では早速作業にはいらせてもらうので。邪魔なのでさっさと帰った帰った」
「すげぇ笑顔で毒吐くのな!?」
トウガンはイスルに対する認識を改めながら工房を後にした。




