18th‐mining
トウガンが〈始まりの街〉に戻ると、そこはアルトリア一行の凱旋ムード一色だった。
ボス部屋前で例の女性の最期の言葉を聞いたトウガンとしては、彼女と出会う可能性のあるこの場所は一刻も早く離れたかったし、そもそもこういった雰囲気がそれほど好きではないので、そそくさといつもの研究所に入り込む。
「つーか、いつも俺ひとりでこの場所使ってるけど他のプレイヤーは使わないのか?」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
トウガンの読みは、残念ながら違っている。
この《WCO》における、[研究所]などの施設については、生産職のレシピ秘匿のため、プレイヤー一人一人に個室のように施設が使えるようになっている。いわば、出入り口は一つだが、部屋は無数に存在しているということだ。
しかしそのシステムが採用された理由である「秘匿性」については、一定以上の資金が確保できたプレイヤーは自分でプライベートな生産施設を手に入れるうえ、wikiには次々とアイテムの生産方法が載せられているのを見れば、運営側の杞憂だったと言える。
しかし、そんな本来的な理由を除いても、一人集中できる空間を持てることはプレイヤーに高評価で、結果的には成功だった訳だが。
話を戻す。
まぁ、こういった訳で、過去のプレイヤーから見ても、また運営サイドから見ても破天荒なトウガンの実験は、誰からも見咎められることなく進行していく―――。
✽ ✽ ✽
「やっぱ外は疲れるな…。」
日中起こった出来事を思い出しながら、トウガンは呟いた。
「よし、必要なスキルは手に入った…と思うが、まだ足りないな」
あくまで今の目的は純度の高い硫黄の採掘だ。
「あとは場所と機材かな…」
場所についてはあたりがついていた。街の北のはずれにある、鉱山だ。鉄も採掘できるが、それには【採掘】スキルが必要になってくる。硫黄や銅は下級素材なのでスキルは必要ない。
「どうせ機材に関しては取っ掛りもないし、先に素で掘ってみますか」
効率よく硫黄を採取するために、基本の採取速度を知る必要があると感じたトウガンは、そのまま鉱山に足を向けた。
途中、やはり人でごった返す大通りに辟易したのは、どうでもいいことか。
「さて、一丁いくか」
鉱山へ着き、近くにいたプレイヤーにレクチャーを受けたトウガンは、そう呟いて採掘を始めた。
手順は以下のとおり
①壁に向かってウィンドウを開く
②[採掘]のコマンドを選択
③待つ
「…ぶっ殺していいかこのシステム」
やるせない思いに沸々とした怒りを覚えたトウガンだったが、なんとか堪えて③を実行し続ける。
そして10分ほどたっただろうか。
[硫黄]のアイテムがインゴットになって出てきた。
“掘り出した”訳ではない。本当に突然“出てきた”のだ。
「採掘とは、一体…」
呆然とした苦笑いで思わず口に出す。
そして[硫黄塊]のアイテム詳細を開く。
『硫黄の塊。素材アイテム(純度40%)』
「説明雑!?」
一人ツッコミを入れ、周囲から若干冷ややかな目を向けられて、恥ずかしさで縮こまる。
その後もトウガンは何度か検証を重ね、ある程度の法則を見つけ出した。
1個の[硫黄塊]インゴットを採掘するのにかかるのは8~12分。時間がかかるほど純度の高い硫黄になるようで、その幅は40~70%ほど。
つまり、彼がすべきことは、
「8分より早く」、「70%より高純度」の硫黄を採掘すること。
純度に関しては、現実世界で彼の考える方法を使えば95%の純度の硫黄を採掘できるので、そこまで心配はしていないが、速度には不安が残る。
そしてもう一点、機材の動力に使おうとしている符、すなわちそこに篭るMPだが、当然永久に残るものではない。
符を作るときにMPを消費するが、それは符にMPが篭っているのと同じである。それは符の効果を発動させたり、もしくは罠として一定時間設置していると、篭っているMPを消費していく。
実際、罠として仕掛けていた符を数分放置したら、消えてなくなってしまった。
「贅沢なたらればだが…ずっと符に残ってくれればいいのになぁ」
一定時間で符のMPが切れるなら、結局採掘場に居座らなければならない。最終的にはプレイヤーがいない中でも稼働する完全自動化を目指すトウガンにとって、いつかは超えなければならない問題だった。
「ま、今の時点でそれを望むのは高望みしすぎってもんか。試作なんだし、まずは形にするところから始めなきゃな」
そう独り言をもらして、トウガンは鉱山を立ち去った。
そして本日三度目の大通りの人並みを見て、「学習しろよ俺…」と小さく呟いていたのは……やはりどうでもいい話だった。




