12th-scientist
トウガンは、中高生の夏休みに合わせて増えると思われる新規プレイヤーに向けて[火薬]の構想を練る。
「いっそのこと自分の店でも持つかな…。自分の研究成果を自分で売るってのも、なかなか魅力的だし。…っと、まずは本来の目的か」
広がる展望を押さえ込み、思考を現実に引き戻す。目下の稼ぎ時は、今だ。
「まずはヒグマのところで攻撃アイテムの相場でも聞いてみよう。投擲系だと投げナイフくらいしか売ってなかったと思うし…」
彼女は呟き、はぁ、と独り溜息をつく。
「アイツのトコは、心臓に悪いんだよ全く…」
✽ ✽ ✽
「…で、どうだ?」
「トウガンちゃんも、科学者が板についてきたねホント…。金になりそうな発明をポンポンと」
トウガンは、早くも見慣れたヒグマの呆れ顔を、小首をかしげて見つめる。
「現実世界なら、何百年も前の発明だぞ?」
「この《WCO》じゃあ、wikiに載ってないモノは全部、新発明だよ。それが現実世界で実在するかなんて関係ない」
「そんなもんか…。で、値段はどうなる?」
それかけた話題を、トウガンが修正する。
「うーん…アイデアとしては申し分ないんだけど、練度が足りない、かな?」
「練度?」
突然頓狂な声を上げたトウガンに苦笑を漏らしながら、ヒグマは答える。
「まず、使ってる素材の質が悪いせいで、本来の性能を引き出せてない感じがあるね。例えば素材になってる[硫黄塊]だけど、もっと純度を上げれば威力も高まるんじゃないかな?」
「なるほどな…純度を上げる、ってのはどうやって?」
「その作業は完全に《錬金術師》の領分だね。彼らに知り合いは?」
そう言われ、トウガンは軽く頭の中を浚う。
「…いないな」
「まぁ言ってもサービスは開始したばかりだしねぇ…。生産職は横のつながり大事だし、いろんなジョブの人と仲良くなっておいたほうがいいと思うよ」
「肝に銘じておく」
トウガンが微かな苦笑とともに応じると、ヒグマもニヒルに微笑んで返す。
「じゃあ、将来性も見込んで……このくらいかな?」
ヒグマは例の電卓もどきを勢いよく叩き、数字を表示させる。
750ディア
「まぁ、妥当かな」
制作にかかったのが400ディア前後なので、十分に儲けだろう。これより良質なものを作るとなれば、コストはもっとかかるだろうが買取値も上がるだろう。
「でも、ホントによく思いつくもんだねぇ…」
一通りの納品が終わったあと、ヒグマが不意に呟いた。
「まぁ確かに、こうやって実験とかしてる限りでは、《科学者》が地雷職だとは感じないな」
「それは君の考えが特殊っていうか…。……あぁ、もしかしてそういうことか」
何かに気がついたように、ヒグマが頷いた。
「どういうことだよ」
「いやさ、VRMMOに本気になる人ってのはさ、誰しも現実から逃避したい思いを持ってるわけだと思うんだよ。その思いの多寡は別としても。
…そう言ったことで、魔法とかスキルとか、派手なものに目が行く。現実でも目にできる科学なんて視界の外だ」
「…つまり?」
遠慮がちに促したトウガンの言葉にかぶせるように、ヒグマは言う。
「言うなら"食わず嫌い"ってヤツかな。地味なジョブだから、現実でも目にできるくらい成長が見えるから、"地雷職"だって決めつけた。」
「二次職が発見されていない、ってのもそれを助長したのかもね」
少し呆れたような、乾いた苦笑とともに、ヒグマはこう締めくくった。
「勿体無い限りだよ。こんなに大きなビジネスチャンスを今まで見つけられていなかったなんて」
それまで強ばった顔つきでヒグマの話を聞いていたトウガンは、最後の言葉で一気に顔を苦笑いに変える。
「お前…ククッ、ホントどこまでも商魂たくましいな…。」
「生憎とそれだけが取り柄だからね」
二人は笑って、また数分話して、別れた。
✽ ✽ ✽
リアルでの時間は、午後10時を回っていた。
トウガン―藤丸は、自分の当番の家事が残っていることに気がついて、その日はログアウトすることにした。
自室を出て、そっと妹の希梗の部屋に目を向ける。当然ドアが閉まっていて、中は分からないが、あまり活動的に動いている雰囲気ではなかった。
寝たか、まだ潜っているのか。
「…後者だな」
独り呟きながら苦笑し、階段を駆け降りた。
ユニーク総合10000人を突破しました!
こんな駄文に付き合っていただき本当に嬉しい限りです。
これからも読者様の応援、愛読を励みに執筆を続けていきたいと思います。よろしくお願いします!




