11th-Chance
夜が明けた頃、トウガンは再びログインしていた。その直後にメニューから時間を見ると、6:30を示していた。窓から外を見ると太陽が昇り始めており、うっすらと白んでいた。
「じゃあ、早速コイツを試していきますか」
トウガンは火薬を手に取り、呟く。そして足早に研究所の外へ出た。
✽ ✽ ✽
彼女は、街に足を踏み入れた瞬間、なんとなく違和感を持った。
通る人通る人、皆浮き足立っているというか、落ち着きがないように感じたのだ。
「なんだ…?誰かに聞いてみるか」
そう呟いて、彼女はすれ違ったプレイヤーを呼び止めた。
「…え?なんで盛り上がってるのかって?アンタ、情報遅いな」
「生憎と、部屋から一歩も出ずに生産作業に勤しんでたもんでな」
「…わざわざゲームの中でまでヒキニートするって変わってんな」
「ほっとけ」
ずれかけてきた話題を一言入れて軌道修正。
「あぁそれで、盛り上がってる理由だったか。何でも、ついにボスが1体倒されたんだと」
「…へぇ、早いな」
「だろう?まぁ、βテストでは最強プレイヤーだったアルトリアの率いるパーティだからな。やってくれるとは思ってたぜ!」
「そういうことか、ありがとな」
段々と語り口調に熱を帯びてきたプレイヤーAのもとから離れ、進路を街の南側へ定める。
―――好機だ。
トウガンは直感していた。
ボスを倒したプレイヤーが現れたのなら、そのパーティメンバーによってボス戦の『How to』がwikiなどを通じて他のプレイヤーに伝わるのも時間の問題だ。
そして、その情報を頼りに、ボス戦に向けていくつものパーティが装備を整えるのも、然り。
目に見えている。
「なら、コイツの需要もある程度は期待できるかな」
右手に握った[火薬]に、トウガンは目を向けた。
「性能試験を、急ぐか」
呟いて、未だ訪れたことのなかった〈南の森〉へ駆け出した。
✽ ✽ ✽
「……見つけた」
〈南の森〉を歩くトウガンの目の前には、非好戦的mobの〈ジンメンジュ〉がいた。
プレイヤーから攻撃をしなければ戦闘にならないこのタイプのmob、プレイヤーの初撃をノーガードで受けてくれるので、今のトウガンにとっては格好の獲物だった。
トウガンはすっと火薬を構える。投擲の心得などないので、構えは素人のそれだ。だが、どんな投げ方でもかなり近い位置での投擲だ。外す方が難しい。
ドン!
小爆発、と呼ぶにふさわしいであろう程度の音が響き、ジンメンジュの幹が大きくえぐれた。
「!!!!????」
声とも音とも取れない響きがジンメンジュの口(に見える辺り)から溢れ出た。HPゲージは1回の爆発で半分と少しだけ削れていた。怒り出して攻撃を繰り出そうとするジンメンジュの先手をとり、もう一発の火薬を投げると、ジンメンジュは沈黙と共にポリゴンと化した。
「ふむ…試作品としては及第点、か?」
トウガンは結果を元に考察する。ジンメンジュが、初期の雑魚mobの中では破格の防御力を持つことは聞いていたので、一応満足いく結果を得られた、と思っていた。
だが、ここで浮上するのが魔法の存在だ。
消費型の攻撃アイテムとの比較は、過去の様々なゲームでなされてきたが、たいていの場合魔法に軍配が上がっていたと思われる。
射程は、明らかに魔法の方が上。魔法にMPという上限があるのと同様に、こちらにも個数という限度がある。そして、MPは回復できるが、個数の回復にはお金がかかるのだ。
「やっぱこのゲームでもアイテム攻撃は敬遠される、のかな」
一抹の寂しさから、トウガンは無意識に呟いた。
しかし、攻撃アイテムにはそれの良さがある。
固定ダメージである、という点だ。
〈陰陽師〉や〈盗賊〉のように、常に攻撃力不足に悩ませられるジョブは一定数存在する。そういった攻撃力の低さに影響されない『固定ダメージ』には、魅力を感じる。
「そういえば、高校生の夏休みも近いな。……新規プレイヤーも増えるし、初心者に少し安めに売ればうまく稼げる気もする」
時折、独り呟きながら、トウガンは更に考察を加えていく。




