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みにくいおひめさま  作者: れんじょう
番外編『さくらのはなのちるころに』
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第三話 対面

 ☆お妃さま、登場。

 

 それはツァーレンが二歳になったときのことでした。

 お妃さまが亡くなられてから暗雲が垂れこめたような陰気が充満して薄暗かった城が、一気に雲が晴れたように明るく、活気に溢れだしました。


 王さまが新しいお妃さまを迎えられたのです。


 お妃さまはツァーレンの母とは全く違う色をもった、美しい女性でした。

 艶光する豊かな黒髪に宝石のような輝きのある翡翠の瞳。鼻梁はすっと筋が通り、上唇は細く、下唇はぷっくりと(なま)めかしく豊かに膨らんで、それはそれは華やかで妖艶な雰囲気を持つ人でした。

 新しいお妃さまは、その華やかな外見の通りに、美しいものが大好きでした。

 お城に上がるとまずはじめにしたことは、陰気臭い城を自分に相応しいように美しく甦らせることでした。

 もう何十年も改装されなかった古臭い城の内装を一新し、白と金で飾り立て、光がどこでも届くようにあちこちに鏡を配しました。

 毎日違う花をふんだんに生け、城の中は一段と華やかに彩られました。 

 二年間、喪に服していたために執り行われなかった舞踏会も毎週末盛大に開かれるようにもなり、貴族たちもだんだんと衣装を凝らし趣向を凝らして登城するようになりました。


 スズーリエの城は、長い間蕾であった花が新しくお妃さまを迎え入れたことで一気に開花し、全てを魅了するように輝いていました。


 その一角に、閉ざされた部屋がありました。

 いわずもがな、疎まれた王女ツァーレンが住まう部屋でした。

 新しいお妃さまはその部屋に何があるのか知りませんでしたので、王さまから堅くお妃さまを通すなと言われていた女官たちが、必死になって止めるのも聞かず、どうしても知りたいと好奇心に押され部屋を訪れました。

 開け放たれた扉の向こうには、小さな赤子の後ろ姿が見えました。


 「なぜここに赤子がいるのか?」


 お妃さまは、そばに控えていた女官に尋ねました。

 すると女官は息を飲み、答えを模索しましたが、適当な言葉が浮かびません。

 仕方がなしに何度も言い淀みながら、目の前の赤子が前のお妃の忘れ形見であることを伝えました。

 お妃さまは、整えた眉を器用に片ほう上げながら、相変わらず後ろを向いている赤子に歩み寄りました。


 「そうか。そなたがツァーレンか。こちらを向きやれ」


 その言葉を理解したのか、赤子はくるんと振り向くと、確かな足取りでお妃さまの元までやってきます。

 指をいっぱいに開いて、抱っこをせがむように両手を突き出していましたが、お妃さまは赤子の顔を見たとたん、美しい顔をぐしゃりと顰めました。

 そうして叫んだのです。

 

 「なんだ、この赤子は!なぜこのように醜い?」


 ツァーレンのそばに付き添っていた乳母は、顔を真っ赤に染め上げました。

 握りしめた手が怒りで震えています。

 けれど乳母は乳母。それ以上でもそれ以下でもありません。

 乳母はツァーレンのあまりの不遇に叫びたくなりましたが、スズーリエ国で二番目に位が高いお妃さまにくってかかることなどできるはずがありませんでした。


 「なぜと聞いている!答えぬか!!」


 ツァーレンの顔は乳母が必死で清潔に保っているというのに、赤く爛れ、あちこちに黄色い膿が結晶のように固まって、元の皮膚がどこにあるのかわからないほどになっていました。

 それ以外でも、関節という関節がねっちょりと音を立て、動くたびに黄色い染みが清潔なドレスの上に浮き出ます。

 それは生後半年のころからどんなに乳母が頑張っても治るのとのない、御典医すらさじを投げたツァーレンの皮膚の病でした。

 乳母は怒りを隠すために、どんなにお妃さまに命令されようが答えることができませんでした。

 そんな乳母の葛藤などお構いなしに、お妃さまは自分に向かってまっしぐらに歩いていたツァーレンを、奇声を上げて退けます。


 「ああっ!妾のそばに寄るな!誰か、この赤子を妾に近づけるな。ドレスが汚れてしまうではないか!何をしておる!さっさと向こうに連れて行きやれ!……しかしまあ、このような(なり)では王さまが隠されてしまうというのもわかろうものよ。まったくもって王室に相応しくない、醜い赤子よの」


 美しいお妃さまは、美しい扇子を広げて口元を隠しながら、乳母に抱かれたツァーレンを汚いものをみるように見下ろしました。

 そして来た時と同じように突然に踵を返して部屋を後にしたのです。

 お付きの女官たちはお妃さまのあまりのいいように口をつぐみ、そして王女でありながら蔑まれるツァーレンを憐れんで一礼すると、お妃さまを追いかけて、逃げるように部屋を出て行きました。

 後に残されたのは、怒りに震える乳母と、罵声など浴びせられたことがなかったためにきょとんとしている赤子のツァーレンだけでした。


 お妃さまとツァーレンの初めての対面は、双方、不愉快な思いしか残るものはありませんでした。


 そしてそれ以降、お妃さまがツァーレンの部屋に再び訪れることはなかったのです。





 お妃さま、赤子のツァーレンに対して酷過ぎです。

 次回はちょっとだけ明るく^^;

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