ばあちゃんと蚊
掲載日:2026/06/05
子どもの頃、夏になると不思議なことがあった。
ばあちゃんと一緒にいても、蚊に刺されるのはいつも私だった。
「かゆい〜」
そう言って腕を掻き始めると、ばあちゃんは決まって言った。
「ふーちゃん、掻いたらいかんよ。跡が残るけん」
そして水道へ連れて行かれた。
「水で洗い流したら毒がなくなるけん、かゆくなくなる」
本当に毒がなくなったのかはわからない。
毒があったのかもわからない。
でも、冷たい水で洗うと少しだけかゆみが和らいだ気がした。
そんな私を見ながら、ばあちゃんはいつも笑っていた。
「ふーちゃんと一緒におると、蚊は私を刺さんけん助かる」
そして、
「蚊も年寄りより若い血の方が美味しかと知っとるとだろうねぇ」
と続けるのだった。
その頃の私は理解できなかった。
あれから何十年。
今では私もめっきり蚊に刺されなくなった。
代わりに、隣にいる孫が刺されまくっている。
「かゆい〜」
そう言う孫を水道へ連れて行き、
「掻いたらいかんよ。跡が残るけん」
と言いながら、刺されたところを洗い流す。
気づけば、昔ばあちゃんにしてもらったことを、そのまま孫にしていた。
ふと、ばあちゃんの言葉を思い出す。
「蚊も年寄りより若い血の方が美味しかと知っとるとだろうねぇ」
どうやら、あれは本当だったらしい。




